絵本とふれあい遊びが育む こどもの個性 こどもの脳 本田恵子 ... ·...

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11 調調A対人 人の気持ちや意見を 理解したり、協働する力 身体 運動 運動したり 手指を使って 作業したりする力 論理 数学 数字や算数を 効果的に使う力。 因果関係、 予測などをする力 視覚 空間 平面から立体を 構成したり、 色・形などを 見分ける力 内省 道徳心、思いやり。 抽象概念 (見えないもの)を 捉える力 音楽 リズム 音程、リズム、 声の抑揚から 感情を読み取る力 自然 博物学 探索や観察を通し、 「なぜ」を追究し、情報を 収集・整理・分類する力 言語 語学 思考や対話の手段として 言語を使いこなす力 8 つの 脳力 本田恵子先生 [ほんだ けいこ] 早稲田大学 教育・総合科学学術院教授 脳科学を活かして幼児から大人 まで、一人一人の個性に合わ せた学習方法やソーシャルスキ ル教育を実施している。 米コロ ンビア大 学 院でカウンセリング 心理学博士号を取得。 Profile

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Page 1: 絵本とふれあい遊びが育む こどもの個性 こどもの脳 本田恵子 ... · 2019-10-17 · と思います。な」と絵本の読み聞かせに入ってもよいこの人はどういうお話にしたかったのか

 

こどもの脳は「自律神経系」「情動」「体

性感覚(五感)」「運動・行動」「言語」「思

考」「創造性」と段階を追って発達して

いき、11歳程度でほぼ完成します。特に

3歳から5歳は「情動」から「思考」ま

でが育つ大切な時期ですので、この時期

にどのような体験をし、どのような知識

を獲得し、様々な課題にどのように取り

組むかが、その後の「自主性」や「協調

性」「課題解決力」などに影響します。

ひとつのことにじっくり取り組み納得い

くまで試行錯誤を繰り返し、失敗したり

立ち直ったりして「できた!」「わかっ

た!」という達成感を味わえると、安定

した情緒や集中力、思考力を育てること

につながります。

 

絵本とワークブックを活用して子ども

の脳の力(8つの脳力)を育てていくコ

ノコテラスの試みは、このように子ども

の脳に日常の自然な環境で刺激を与える

だけでなく、保護者が読み聞かせや一緒

にワークを楽しむことで子どもの個性を

理解しやすくなり、「子どもをありのま

ま」に認め、個性を育てることにつなが

り、子どもの自尊心が育っていきます。

  

自尊心(自分らしさを大切にする気持

ち)や自己効力感(できそうと思える

力)は、自分が好きなことや得意なこと

にじっくり取り組むことで育っていきま

す。一方、言葉の発達が遅いからと単語

を繰り返して覚えさせたり、運動が苦手

だからとトレーニングさせたりすると

「学び」と「苦痛体験」が同時に記憶に

残るので「勉強は苦しいもの」、「どうせ

やっても無理」というあきらめを起こし

やすくなります。そのため、絵本選びを

するときは、まず、子どもが好きなタイ

プの絵本を選びます。例えば、視覚・空

間の高い子には絵が多く空想の世界に入

りやすい絵本、論理・数学の高い子には

考えながら読める、自然・博物学の高い

子には調べながら図鑑感覚でいろいろな

ことが分かる絵本、内省の高い子には主

人公になりきって物語を体験できる絵本

などです。子どもが気持ちを表現したり、

解決策を探したりしているときは、子ど

もが自分を投影しやすい主人公の絵本を

選びます。子どもによっては、現実的な

絵の世界の方がよい場合もあれば、動物

やファンタジーなどちょっと距離をおい

た世界の方がよい場合もあります。

 

来年度以降リリースを予定しているコ

ノコテラス定期購読プランでは、最初は

こどもの個性(8つの脳力)に

合わせた関わり方・

絵本選びの大事さ

絵本から、

関連付ける力を育む

絵本とふれあい遊びが育む

 こどもの脳

絵本は子どもの成長において

どのような意味をもつのでしょうか。

コノコテラスをご監修いただいている、

本田恵子先生にお話を伺いました。

お子さんの脳の力に合う絵本から選びま

すが、次第に苦手な部分も含めて様々な

刺激が得られるように絵本のラインナッ

プを組み立てています。

 

関連付ける力とは、目の前で見ている

ことを過去の自分のできごとや聞いたこ

と、学んだことなどの知識、これから起

こりそうなことにつなげて考える力のこ

とで、思考力の第一段階です。関連付け

の前に出来事や物事を分ける、加える、

引くという「操作」ができるようになり

ます。例えば、一つのお菓子を二人で分

ける。分けられない玩具のときは、順番

を決めて分かち合う、一人が遊んでいる

道具に何かを加えて一緒に遊ぶなどです。

操作ができるようになると、様々な出来

事を関連付けて考えることができるよう

になり、自分で考えたがるようになりま

す。「自我」が芽生える3歳ごろからこ

の力が育ち始めます。

 

例えば、「スイミー」の読み聞かせを

した後に、「野菜スタンプ」遊びをした

ときのことです。Aさんは、丸いサツマ

イモの切り口に真っ黒い絵の具をしっか

りつけて「ドンッ」と目のところに押し

対人人の気持ちや意見を理解したり、協働する力

身体・運動運動したり手指を使って作業したりする力

論理・数学数字や算数を

効果的に使う力。因果関係、

予測などをする力

視覚・空間平面から立体を構成したり、色・形などを見分ける力

内省道徳心、思いやり。

抽象概念(見えないもの)を

捉える力

音楽・リズム音程、リズム、声の抑揚から感情を読み取る力

自然・博物学探索や観察を通し、

「なぜ」を追究し、情報を収集・整理・分類する力

言語・語学思考や対話の手段として

言語を使いこなす力

8つの脳力

本田恵子先生[ほんだ けいこ]

早稲田大学教育・総合科学学術院教授

脳科学を活かして幼児から大人まで、一人一人の個性に合わせた学習方法やソーシャルスキル教育を実施している。米コロンビア大学院でカウンセリング心理学博士号を取得。

Prof i le

Page 2: 絵本とふれあい遊びが育む こどもの個性 こどもの脳 本田恵子 ... · 2019-10-17 · と思います。な」と絵本の読み聞かせに入ってもよいこの人はどういうお話にしたかったのか

この人はどういうお話にしたかったのか

な」と絵本の読み聞かせに入ってもよい

と思います。

 

8つの脳力を活用して関連付ける力に

は、「体験(身体・運動)」を「ことば

(言語・語学)」にする、「感じたこと(音

楽)」を「ことば(言語・語学)」にする、

「行動(身体・運動)(対人)」で表現する、

「絵(視覚・空間)」にするなど別の力で

表現する方法があります。また、「体験」

を「分類(自然・博物学)」して自分が

操作しやすいようにしたり、「体験」を

「公式(論理・数学)」に当てはめてなぜ

そうなったか原因を考えたり、「これか

らどうなるのか(論理・数学)」を予測

することもできるようになります。

 

様々なタイプの絵本に触れることが大

切なのは、視覚的に場面の予測力をつけ

たり、内省的に気持ちを味わったり、論

理的に判断したり、相手や場面に適した

言葉遣いを選んだりするときに、さまざ

まな引き出しを作っておくためです。

 

さらに、関連付ける力は、粘り抜く力

を育むことにもつながります。初めての

場面でも物おじしない子は、うまくいか

なくても楽しめています。あれこれ試行

錯誤をして原因をさぐったり、違う方法

を試したり、わからないことを調べたり、

聞いたり、イライラしたり落ち込んだり

もしますが、少し休むとまた復活するこ

とができています。

 

一方、一度うまくいかないと「やらな

い」と避けたり、「どうせ無理」とあき

らめたりしがちな子もいます。できない

と不安になるしイライラも出ますが、こ

の子たちが一番気にするのは「周囲の評

価」のようです。できないことを叱られ

たり、人と比較されたり、親ががっかり

したりするのを体験しているので、失敗

は「はずかしいこと」「能力の低さを露

呈すること」しいては、「自分はダメな

子」というレッテルを貼られることにな

ってしまうので、途中を見せたり、人に

質問したりしなくなります。子どもの自

尊心を低くする声掛けには「否定的に伝

える(ダメ、違う、~しないなら~させ

ないよなど)」「命令する(~しなさい、

~してほしいなど)」「自分の気持ちの代

わりに『なんで?』と言う(なんで、た

たくの?なんでぐずぐずするの?)」「相

手の話を聞かずに決めつける(~したん

でしょ?)」「解答をすぐに出す、子ども

の代わりに解決する(それは、~すれば

いいんだよ)」などがあります。

  

子どもたちの粘り強さや自尊心を育て

るヒントは3つあります。一つ目は、で

きていることを言葉にしてあげること。

二つ目は、自分の気持ちを私メッセージ

で伝えること。三つ目は、肯定的な言葉

がけをすることです。子どもが何かに取

り組んでいるけれどうまくいかない場面

を思い浮かべて下さい。まず、子どもが

やろうとしていることに注目します。「お

ました。「僕が目になろう!」が気持ち

に残ったからだそうです(言語・語学、

身体・運動タイプ)。Bさんはピーマン

の切り口を小さい魚に見立てて、重なら

ないようにいろいろな色のスタンプにし、

輪郭をキレイにつくりました。「みんな

で大きな魚になろう」を表現したかった

そうです(視覚・空間タイプ)。Cさんは、

いろいろな形の野菜にべったり絵の具を

つけて、次々重ねてスタンプしていきま

した。「みんな集まるんだ」を伝えたか

ったからです(身体・運動、対人タイ

プ)。Dさんは、じーっと画用紙を見た

ままでした。絵本の世界を頭の中で反芻

していたからのようです(内省タイプ)。

このように、子どもは同じ体験をしても、

その後の関連付けが異なります。子ども

の脳力を活かした読み聞かせをしていく

ためには、子どもが自由に想像力を膨ら

ませていける余裕を持つことが大切です。

そのため、「この本では、この部分を理

解させる」とか「ここが感動の場面」と

いう大人目線ではなく、子どもが自由に

自分の脳力に合わせて自主的に本の世界

に入っていけるように読み方や見せ方を

工夫してみましょう。ストーリーよりも

絵に興味のあるお子さんなら、まずお子

さんのペースで絵をじっくり見てもらっ

てから、お子さんにストーリーを作って

もらうこともできます。その後、「じゃあ、

片付けしようとしてるんだね」「ママに

お話ししようとしてるの?」そして、で

きたところを言葉にしてゆきます。おも

ちゃが散らかっていたとしたら「広がっ

ちゃったおもちゃたち、どれからお家に

返してあげたい?」、お料理中にいきな

り後ろから飛びついた場合には「ママに

こっち向いてもらおうとしたんだね」な

どです。次に、自分の気持ちを私メッセ

ージにします。「ママは、おもちゃふん

じゃって、ちょっと痛かった」とか「急

に飛びついたから、ママびっくりしちゃ

ったよ」などです。親の気持ちが分かる

と、子どもたちは「大丈夫?痛い?」と

か「ごめんね」と素直に自分の気持ちを

表現しやすくなります。最後に、どうし

てほしいかを肯定的に伝えます。「お買

いものにいきたいから、5分でお片付け

しよう」と具体的な見通しをつけたり、

「抱き着きたいときは、先に声かけてく

れたら、ママもギューってできるよ」と

いったようなプラスの声掛けです。

 

3歳から5歳は、まだ考える力が育ち

始めた段階です。不安になると考える力

や言葉は停止します。肯定的な声掛けが

大切なのは、自分が落ち着いて話すこと

ができる効果があるのと同時に、自分が

どうしたいのか欲求が相手に伝わりやす

くなるので、子どもが自主的に判断した

り行動したりしやすくなるからです。

粘り抜く力を育む

心の持ち方

(「やりそこなう」ことも楽しむ)

肯定的な

声掛けの大切さ

「脳科学を活かした 授業をつくる ―子どもが生き生きと

学ぶために」

「インクルーシブ教育で  個性を育てる

 脳科学を活かした 授業改善の ポイントと実践例」

本田先生の

著作本田 恵子[著]・日能研/C.S.L.学習評価研究所

本田 恵子・荒川信行・遠田将大・鴨川 光・塚原 望[著]/梧桐書院