県内におけるiot活用の 現状と導入のポイント ·...

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新潟経済社会リサーチセンター センター月報 2017.06 07 はじめに 今後IoTが普及し、これまでインターネットにつながっていなかった機械・器具等がつな がることで、IoT導入が企業の競争力の差につながる可能性が高まっている。こうしたなか、 先行して導入を進める企業や、IoT端末の開発やソフトウエアサービスに注力する企業も出 てきている。 そこで、先行してIoTを導入・活用している県内企業を紹介し、現状とポイントをまとめた。 1. IoTの現状 (1)IoTとは 総務省「情報通信白書」を参考にすると、IoT (Internet of Things:モノのインターネット)とは、 あらゆる「モノ」がインターネットにつながり、情報 のやり取りをすることで、「モノ」のデータ化やそれ に基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出 すことをいう。 県内におけるIoT活用の 現状と導入のポイント ─「つなぐ」 「つながり」で付加価値を創造─ (2)IoTの全体像 従来のインターネット上の情報は、人間がパソコン や携帯端末に入力した情報を基本としていた。しか し、IoTでは「モノ」の情報がセンサー等で自動的に 収集され、インターネットにより、情報を発信するよ うになった(図表 1 )。つまり、IoTが設置されてい る端末(機械)は、原則としてセンサー機能を有する。 その後、蓄積されたデータは人間もしくはコン ピューターが分析し、IoT利用者に通知され情報とし 図表1 IoTの全体像 (資料)総務省「平成28年版 情報通信白書」

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Page 1: 県内におけるIoT活用の 現状と導入のポイント · IoTの取り組み状況(実証含む) 県内では、IoTという言葉が使われ始めた段階であ るが、最近、実証的にIoTを開発、導入する事例がみ

新潟経済社会リサーチセンター センター月報 2017.06

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はじめに今後IoTが普及し、これまでインターネットにつながっていなかった機械・器具等がつながることで、IoT導入が企業の競争力の差につながる可能性が高まっている。こうしたなか、先行して導入を進める企業や、IoT端末の開発やソフトウエアサービスに注力する企業も出てきている。そこで、先行してIoTを導入・活用している県内企業を紹介し、現状とポイントをまとめた。

07

1.IoTの現状(1)IoTとは

総務省「情報通信白書」を参考にすると、IoT

(Internet of Things:モノのインターネット)とは、

あらゆる「モノ」がインターネットにつながり、情報

のやり取りをすることで、「モノ」のデータ化やそれ

に基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出

すことをいう。

県内におけるIoT活用の現状と導入のポイント

─「つなぐ」「つながり」で付加価値を創造─

(2)IoTの全体像従来のインターネット上の情報は、人間がパソコン

や携帯端末に入力した情報を基本としていた。しか

し、IoTでは「モノ」の情報がセンサー等で自動的に

収集され、インターネットにより、情報を発信するよ

うになった(図表 1 )。つまり、IoTが設置されてい

る端末(機械)は、原則としてセンサー機能を有する。

その後、蓄積されたデータは人間もしくはコン

ピューターが分析し、IoT利用者に通知され情報とし

図表1 IoTの全体像

(資料)総務省「平成28年版 情報通信白書」

Page 2: 県内におけるIoT活用の 現状と導入のポイント · IoTの取り組み状況(実証含む) 県内では、IoTという言葉が使われ始めた段階であ るが、最近、実証的にIoTを開発、導入する事例がみ

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調査県内におけるIoT活用の現状と導入のポイント

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て活用される。また、必要に応じてIoTが設置されて

いる端末にも情報がフィードバックされ、結果に応じ

たとるべき行動が指示される場合もある。

(3)IoTで収集する情報「モノ」に付帯したセンサーで収集する主な情報は、

「地図上の位置(GPS)」「存在の有無」「対象との距離」

などの位置情報、「温度」「湿度」「気圧」などの環境

情報、「衝撃」「振動」「傾斜」などの動きの情報があ

る(図表 2 )。なお、IoTは「モノ」に直接センサー

が組み込まれている場合と、外付けで設置される場合

とがある。

(4)IoTの適用分野IoTが社会インフラとして定着することで様々な変

化が想定される。現時点でも、施設分野では「施設内

設備管理の高度化(自動監視・制御等)」、家庭・個人

分野では「宅内向け安心・安全等サービスの高度化」、

小売分野では「顧客・製品情報の収集」や「在庫管理

の改善」など、我々の生活や仕事にあらゆる分野で関

わることが見込まれる(図表 3 )。また、今後は人工

知能(AI)の発達等により適用分野が一層拡大する

可能性が高くなっている。

(5)国内企業によるデータの利活用状況総務省「情報通信白書」によれば、IoTの基礎とな

る「データの収集・蓄積」をしている企業は全体の

51.5%となっており、半数以上の企業が取り組み始め

ていることがうかがえる。一方、「データ分析の結果

に基づく新たなビジネスモデルによる付加価値の拡

大」を実現している企業の割合は13.4%にとどまって

いる(図表 4 )。そのため、国内のIoT利活用の現状

としては使われ始めたばかりの段階であるといえる。

図表2 センサーで収集する主な情報

分 野 収集する主な情報

位 置地図上の位置(GPS)、存在の有無、対象との距離、通過状況、引き出しの位置など

環 境 温度、湿度、気圧、照度、騒音、気圧、加速度、水量、色など

動 き衝撃、振動、傾斜、転倒、落下、移動、扉の開閉状況など(※人間、動物、IoT端末、機械等の動き)

(資料)総務省「情報通信白書」を参考に当センターで作成

分 野 適用イメージ例

施 設 ・�施設内設備管理の高度化(自動監視・制御等)

エネルギー・�需給関係設備の管理を通じた電力需給管理

・資源採掘や運搬等に係る管理の高度化

家庭・個人・宅内基盤設備管理の高度化・�宅内向け安心・安全等サービスの高度化

ヘルスケア・生命科学

・医療機関/診察管理の高度化・患者や高齢者のバイタル管理・治療オプションの最適化・創薬や診断支援等の研究活動の高度化

産 業

・�工場プロセスの広範囲に適用可能な産業用設備の管理・追跡の高度化

・�鉱業・灌漑・農林業等における資源の自動化

運輸・物流・�車両テレマティクス・追跡システムや非車両を対象とした輸送管理の高度化

・交通システム管理の高度化

小 売

・サプライチェーンに係る高度な可視化・顧客・製品情報の収集・在庫管理の改善・エネルギー消費の低減

セキュリティ・公衆安全

・�緊急機関、公共インフラ(環境モニタリング等)、追跡・監視システム等の高度化

IT・ネットワーク

・�オフィス関連機器の監視・管理の高度化

・通信インフラの監視・管理の高度化

(資料)総務省「平成27年版 情報通信白書」

図表3 IoTの適用分野の例

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調査県内におけるIoT活用の現状と導入のポイント

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(6)�県内における�IoTの取り組み状況(実証含む)

県内では、IoTという言葉が使われ始めた段階であ

るが、最近、実証的にIoTを開発、導入する事例がみ

られるようになってきた(図表 5 )。対象分野は製造

業、建設業、農業と幅広い産業の現場でIoTの実証実

験が行われている様子がうかがえる。

2.県内における事例紹介本章では既に先行してIoTを活用している県内企業

を紹介する。

(1)IoTを導入した背景エヌ・エス・エス株式会社は工作機械に取り付けて

切削工具を回転させる「スピンドル」が主力商品となっ

ている。

同社は多品種少量生産に対応していくなかで、作業

員のスキルにより、加工機のプログラミング設定や工

具付け替えなど段取りの時間に差がでて、機械の稼働

率が約28%にとどまっていた。そのため、短納期を求

める顧客が増えるなか、平均製造期間が同業他社に比

べて長くなっていることが課題となっていた。

(2)IoT導入の内容IoTを活用した新しい生産管理システムでは、受注

時に専任の担当者がプログラミングをし、その後、作

成したプログラムをネット経由で各機械に配信するな

どし、作業を標準化した。一度作ったプログラムは自

動で保存されるため、同様の部品を再受注した際もす

ぐに利用できるようになっている。

さらに、加工機内に計測装置を取り付け、得られた

データを品質保証部門と共有する仕組みを構築した。

図表5 県内での主なIoT開発、導入状況導入・開発企業名 導入・開発内容

イーアールエス㈱東洋電子工業㈱三桂精機㈱

ものづくり中小企業向け「IoTリアルタイム生産情報システム」の開発

㈱福田組新発田建設㈱㈱小野組

現場作業員のヘルメットを利用した体調管理システムの開発

㈱植木組 ドローンの活用で道路や大型物件の進捗状況を管理

小柳建設㈱日本マイクロソフト㈱

3Dホログラムを現実世界に映し出す端末で作業工程の遠隔管理ができるシステムを開発

新潟市㈱NTTドコモ

センサーによる水田管理システムの開発

㈱BSNアイネット㈱第一印刷所

Beacon※を活用した情報一元化基盤システムの開発

※�スマートフォンのBluetooth受信機能と連携することで、位置情報サービスやプッシュ型のコンテンツ配信などができる小型の発信機

(資料)各社ホームページなどを参考に当センターが作成

図表4 我が国企業におけるデータの利活用状況

分からない

いずれも行っていない

データ分析の結果に基づく新たなビジネスモデルによる付加価値の拡大

データ分析の結果を活用した対応の迅速化やオペレーション等業務効率の向上

データ分析による予測 (業績・実績・在庫管理等)

データ分析による現状把握

データの収集・蓄積

(資料)総務省「平成28年版 情報通信白書」(%)

(N=620)

0 10 20 30 40 50 60

51.5

43.5

33.5

22.4

13.4

9.4

30.8

【事例1】エヌ・エス・エス株式会社[生産管理にIoTを導入]

【会社概要】・所 在 地:小千谷市・資 本 金:1,000万円・従業員数:126名・事業内容:スピンドルの製造他

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調査県内におけるIoT活用の現状と導入のポイント

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(3)IoT導入の効果IoTを活用した新しい生産管理システムを導入した

ことにより、作業の標準化が進み、誰でも簡単に過去

に作成したプログラムを利用し、短時間で生産ができ

るようになったことなどから生産効率が改善し、機械

の稼働率は従来より50%ほど高まるとみている。そう

なることにより、今まで納品まで 3 カ月ほどかかって

いた期間が 2 カ月まで短縮できるようになり、これら

の生産性向上から生産コストは10%削減できる見込み

となっている。

さらに、加工機内のデータを品質保証部門と共有す

ることにより、中間検査にかかる時間が短縮できる見

込みとなっている。

(4)今後の展望IoTの導入効果を高めていき、生産性の向上や効率化

を進め、納期やコストに高いレベルを求められる自動車

関連の工作機械メーカーからの受注増加を目指している。

(1)IoTを導入した背景株式会社トラステックはソフトウエア開発および販

売などを行っている。

リーマン・ショック後、売上高が急減し、苦しい時

期が続いたため、抜本的に経営改革を進める必要が

あった。そのため、経営課題に直結するあらゆる情報

をクラウドサーバに整理、保存し、全社員で情報を共

有して活用できる仕組みをつくった。

これにより、「開発納期の短縮」「財務内容の改善」

などの経営課題を社員全員が共有できるようになっ

た。すると、社員 1 人ひとりが各担当業務を通してで

きる業績向上に向けて「営業ルートの効率化」「開発

状況を踏まえた効率的な受注交渉」「開発納期短縮」「財

務内容の改善」など具体的な提案を自発的に行うよう

になった。その結果、その後の同社の業績は政府の経

済対策や企業のソフトウエア投資などもありV字回復

を遂げた。

こうした経緯から、社内情報を誰でも使えるように

標準化し、その情報を共有できるようにして、それら

を生かした製品開発を目指した。

(2)IoT導入の内容経営課題として捉えたなかに、営業の効率化などが

あったため、移動時間などのムダをいかに減らすかが

全社員共通の課題として認識された。

▲同社の製造現場に導入したIoTの仕組み

【事例2】株式会社 トラステック[経営課題の解決にIoTを導入]

【会社概要】・所 在 地:見附市・資 本 金:1,400万円・従業員数:50名・事業内容:ソフトウエア開発および販売他

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調査県内におけるIoT活用の現状と導入のポイント

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そのため、営業担当者が持っているスマホのGPS機

能を利用して、行動を自動的に記録する仕組みを構築

した。そうすることにより、営業担当者が「いつ」「ど

こに」いたのかの行動記録をクラウドサーバに保存し、

営業担当者が移動記録を活用できるようにした。その

結果、移動時間のムダなどが削減された。

(3)IoT導入の効果蓄積されたデータを活用することにより、営業担当

者自身が客観的に移動時間をみられるようになり、お

客様との面談時間が増え売上高アップにつながった。

また、今まで日報作成は営業活動終了後の作業と

なっていたが、スマホを身に着けていれば自動的に営

業経路が記録されるため、スマホで 1 日の活動を記録

し、それをもとに報告書を簡単に作成できるようにな

り、事務作業時間が削減できるようになった。

(4)今後の展望営業部門だけでなく、開発部門や経理部門なども含

めた行動を記録し、その情報を客観的に活用できるよ

うにして、一人ひとりが経営課題を実感し、解決策を

考えられるような仕組みをさらに進めていく予定で

ある。

▲経営課題解決のためのIoTの活用事例

〜県内のIoT活用はこれから〜

ITC新潟※の幹事を務める株式会社トラステッ

クの島淳一社長に県内のIoTの現状についてお伺

いした。

ドイツでは2013年からIoTについて国を挙げて

取り組み始めている。一方、日本では16年から

ようやくIoTという言葉が使われ始められている

状況である。

そのため、県内企業ではIoTの活用は、実証的

な段階を除くとほとんどみられないのが実態と

なっている。

ただし、当団体が各地で実施するセミナーでは

地域に関係なくIoTへの関心が高くなっている。

日本では機械の自動化は進んでいるが、ひと

つひとつの「モノ」が連動するような仕組みと

なっていない。今後、IoTが進み、様々な「モノ」

が連動しやすい状況になれば、まさに自動化さ

れた工場が業種を超えてネットワーク化され、

今まで想像できなかったような新たな産業や、

新商品が生まれる可能性があるだろう。

▲県内のIoT活用はこれからと語る島淳一幹事

※�ITC新潟とは県およびにいがた産業創造機構との連携をとりながら、本県産業界の戦略的情報化投資を活性化させ、産業振興に寄与することを目的に設立された団体。

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調査県内におけるIoT活用の現状と導入のポイント

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(3)新たな付加価値の創出IoTを活用して大量のデータを蓄積し、そのデータ

を今後さらに進化するであろう人工知能で分析するこ

とにより、新たな付加価値を生み出す情報として加工

することが求められる。ただし、人工知能も人間と同

じく、多くの情報で勉強をさせることにより精度が高

まるため、データの活用により改善した情報を蓄積す

ることにより、高い付加価値に繋げることが重要で

ある。

4.おわりに県内企業によるIoT導入は、ようやく実証実験がさ

れ始めた段階となっている。

IoTというと難解かつ抽象的で大手企業のみ関係が

あるものと捉えがちであるが、実は経営課題を解決す

るための一つの手段である。

IoTは既に多くの中小企業でも導入されているクラ

ウドサーバやアプリケーションを用いて低コストで導

入しやすい環境となっている。そのため、中小企業こ

そIoTを利用し、経営課題の解決や、ビジネスを広げ

るチャンスとして積極的に導入していただきたい。

また、IoTを導入したいと思っていても具体的にど

うすれば良いかわからない時には、経営とITに関す

る諸問題を専門的に研究、実践することを通じて、新

潟県内の企業、自治体における経営課題解決のための

戦略的情報化投資を推進している前掲の「ITC新潟」

などに相談されるのも一考である。

(2017年 5 月 江口 大暁)

3.IoT活用のポイントIoTを活用するうえで有効なポイントをヒアリング

調査結果などから以下にまとめた。

(1)�IoTを活用して解決したい�経営課題を明確にする

IoTについて明確なイメージを持つことが必要とな

る。IoTはあらゆる「モノ」がインターネットにつな

がることを意味するため、概念を理解するのは難し

い。そのため、流行っているからといって、IoTを導

入しても、必ずしも経営課題に対応できるとは限らな

い。自社の経営課題について考え、具体的にIoTの活

用によって解決したい課題を明確にして、どのような

データの収集、蓄積が必要であるかをしっかりと考え

る必要がある。

(2)�社内情報の標準化、�共有化を進めて活用をする

インターネットの環境が整ったことや、センサー価

格が安くなったことなどから、IoTは中小企業でも導

入しやすい環境となっている。そのため、IoTを導入

して必要なデータを収集し、活用できる情報として標

準化、共有化を進めることにより、異なる分野がつな

がり、経営課題を解決するための新しい情報として有

効に活用できるようになってきている。そのため、で

きるだけ早くIoTを導入して、現場の改善に生かし、

IoT導入のメリットを具体的に描けるようになること

により、IoTをさらに進め、さらなる経営改善へと繋

がる好循環が生まれる可能性がある。