concept - aij.or.jpその視覚化したサインはすばらし...

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全国講評 表現印象的作品あるここで表現されている建築 生態系えか たは60 年代のヒッピームーブメ ントのまいにじるものがあ るが環境要素としてかとらえ ていない現代住宅にはけて いるものである腐葉土でシェルターを構築する 手法日本気候にあった空間 出来るのかは未知だが実験 してみてもよいテーマではなか ろうかそれには生物学昆虫生態研究との親密共同作業 必要であろうが建築構法性能提示するだけではな 異分野との交流めるきっ かけにもなるこの構法レベルまでに展開 するにはさらにきなハードルが あるだろうががここ20 くらいにった電子技術のサ ポートで可能かもしれないこの作品けているものがあ るとすれば人工的生態系いかに建築へつなげていくかの 展望であろう しいビジュアル 表現現実腐葉土のギャップ をうめるには感傷的のイメージだけではしいしか 生態系人間生活びつけ 屋上植栽CO 2 吸収対策だけをえる環境 主義決別するきっかけにもな ろう その意味でこの作品のテーマである自然呼応建築にふさわしいとえるこ とができる高間委員25 19 24 佳作 松浦眞也 大室真悟 須藤裕介 大沼慈佳 日本大学大学院 CONCEPT 自然から刺激情報 けて生活しているしかしらの住処確保する ために自然破壊自然との関係していと れないものになってし まった自然現象築内んだ提案である堆積へと ることで となり 屋根となっ ていく 変化していく自然積極的 れることで 自然建築とのかな関係性支部講評 となった既存住宅のフ レームをそこにその堆積した年月腐植土となり 50 年後には土屋根住宅ができる提案 である自然生態系建築行為れるという大胆発想であり また長期的視点設定されて いるかに提案されているよう 土壁には効果があるしかし一方では臭気昆虫発生などの諸種課題想定されるがそうした課題 への対応明示されていないまた50 という期間設定れるのであればそのある いは50 年後のまちの様子やラ イフスタイルの想定など 現在的 解釈ではない長期的視野によ 解釈しかった野中勝利2010 年度版 設計競技 ‐2010 年度版 設計競技 10/10/20 13:07 ページ 24

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全 国 講 評

落ち葉の表現が印象的な作品である。ここで表現されている建築を生態系の中に引き込む考えかたは60年代のヒッピームーブメントの住まいに通じるものがあるが、環境を要素としてかとらえていない現代の住宅には欠けているものである。腐葉土でシェルターを構築する手法で日本の気候にあった空間が出来るのかは未知だが、実験してみてもよいテーマではなかろうか。それには生物学や昆虫など生態研究との親密な共同作業が必要であろうが、建築が単に構法性能を提示するだけではなく異分野との交流を進めるきっかけにもなる。この構法を町レベルまでに展開するにはさらに大きなハードルがあるだろうが、我々がここ20年間くらいに培った電子技術のサポートで可能かもしれない。この作品に欠けているものがあるとすれば、人工的な生態系をいかに建築へつなげていくかの展望であろう。美しいビジュアル表現と現実の腐葉土のギャップをうめるには、感傷的な落ち葉のイメージだけでは難しい。しかし生態系と人間生活を結びつける考え方は、単に屋上植栽でCO2吸収対策だけを考える環境主義に決別するきっかけにもなろう。その意味でこの作品は、今回のテーマである自然に呼応する建築にふさわしいと考えることができる。

(高間委員)

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佳作

松浦眞也大室真悟須藤裕介大沼慈佳日本大学大学院

C O N C E P T

人は自然から様々な刺激や情報を受けて生活している。しかし、自らの住処を確保するために自然を破壊し続け、人と自然との関係は、決して良いとは言い切れないものになってしまった。「落ち葉の器」は、自然現象を建築内に取り込んだ提案である。落ち葉が堆積し、除々に土へと還ることで、壁となり屋根となっていく。日々変化していく自然を積極的に受け入れることで、人と自然と建築との間に、豊かな関係性を生み出す。

支 部 講 評

空き家となった既存住宅のフレームを残し、そこに器を取り付け、その器の内に落ち葉を溜める。堆積した落ち葉が年月を経て腐植土となり、50年後には土壁、土屋根の住宅ができる提案である。自然生態系の中に建築行為を取り入れるという大胆な発想であり、また長期的な視点が設定されている。確かに提案に示されているように土壁には様々な効果がある。しかし一方では臭気、昆虫や植物の発生などの諸種の課題も容易に想定されるが、そうした課題への対応は明示されていない。また50年という期間が設定されるのであれば、その間、あるいは50年後のまちの様子やライフスタイルの想定など、現在的な解釈ではない長期的視野による解釈も欲しかった。

(野中勝利)

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全 国 講 評

今回の課題に対して、自然を操作しようとするのではなく、自然を感じるために仰々しい構築物をつくるのではなく、日常の建築の中にひと工夫凝らすことで、いまそこにある自然を感じる、そういう肩の力の抜けた提案があるとよいと思っていた。この幼稚園の提案はその一つとしてあげられる。透明度の異なる屋根が折り重なることによって出来る影が領域をつくり、その濃淡を楽しむ。屋根の隙間から垂れる雨によって空間を仕切り、流れる水を眺める。日差しを浴び、風を受けるという。今は台風が来ても建物が揺れることも少なく、窓が割れることもない。それもよいがもうちょっとだけ、自然に近づいてもよいのではないかと思う、そんな提案として受け止められた。水の処理が難しいのではないか、気温のコントロールができるのか、と疑問はいくつもあげられるから本当にこんな環境で暮らせるのか、検証は必要かもしれない。それでも、日常の気候の変化を何気なく味わえる環境を生み出す提案として可能性が感じられた。疑問のいくつかはすぐに検証できる。簡易な実験でよい。影の濃淡がどの程度になるか、屋外で色ガラスをかざしてみればよい。雨が垂れて壁をつくるというなら、板を掲げてシャワーを浴びせてみればよい。そういう検証をしてみようという発想を思いつくことが、現実の建築をつくるときにも大切なことを知ってほしい。

(佐藤委員)

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佳作加藤伸康内堀佑紀林和秀信州大学大学院

C O N C E P T

自然には変化がある。自然の変化に連動することで、そのものの本質を成り立たせること。それが「自然と呼応する」ことであると考える。今回、自然の変化の中で、天気の変化に着目する。私たちの生活は、無意識のうちに天気の変化に呼応しているのである。天気の変化に連動して空間が変化する建築。それが、私たちの暮らしに溶け込む、自然と呼応した新たな建築なのではないか。そんな建築を、幼稚園として提案する。

支 部 講 評

人間の生活が天気によって大きく左右されることに注目し天気の変化を直接、間接に感じ取れる建築を目指そうとした案である。天気の変動が空間内に影を落としたり、雨による水幕を垂らしたりする。それらが空間内に柔らかな分節を生み出すシステムを提案している。対象とする建築は幼稚園。小さい子供だからこそ素直に受け入れられる感性があるはずである。そこに照準を定めたことはこの計画のリアリティを高めている。またプレゼンテーションは水、影、光などが交錯する詩的な雰囲気が十二分に表現された美しいものである。

(坂牛卓)

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全 国 講 評

雨樋をというあまり省みられることのない建築の部分を、自然と建築を媒介する装置を見出している、その繊細な眼差しを評価したい。また、市場につらなる商店を分類し、雨樋の奏でる7つの音色をそれに割り当て、店舗のファサードの長さによって異なる小節が割り当てられるというストーリーの組み立てもうまく、音符とともに描かれた一つ一つの店舗のファサードには、そうしたもの向けられた愛着が感じとれる。しかし、一方で、そうしたささやかな自然の奏でる音を単に記号に変換するだけでなく(擬音語とその視覚化したサインはすばらしい)、そのささやかな音に耳を傾けるための建築的な提案があってよかったように思う。日本の伝統的な庭園にある水琴窟も、水滴の奏でる音を聞く装置であるが、そこにはそれに耳を傾ける空間的な設えがある。日本庭園とはまったく異なった市場という空間だからこそ意味ある提案だと思うが、その喧騒や人々 の日々の慌しい生活の中で、雨音にふと立ち止まらせる仕掛けがサインだけなのはやはり弱い気がする。建築設計のコンペなのだから、こうした繊細な感性をもってなお、形になることを前向きに引き受けてほしい。

(篠原委員)

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佳作タジマ奨励賞 真田匠

九州工業大学

C O N C E P T

本提案では機能としては十分に役割を果たしてきた雨樋に、自然との関係を私たちに示してくれるような付加価値を与える。その付加価値とは「音楽」である。日本の建物は、それぞれの形態や用途に応じて多様な種類の雨樋を有している。そのためそれぞれの建物が独自のメロディーを奏でることができ、今までは個々の建物が干渉し合うことなく乱立していた町全体が、ハーモニーを生み出す。

支 部 講 評

本年度は音を題材とした作品が多かった。そこで音を題材とした作品相互で比較されることになるのだが、本作品は音を題材とした作品の中では、ロジックがもっともしっかりしていたと考えられる。イメージに頼らず、具体的に異なる音を奏でる樋のシステムを実現可能な技術で提示した点が評価できると考える。その音源を並べることによって音のエレベーションが形成されるという点も興味深い。あえて批評すると、そういった装置性の高い仕組みが建築的なデザインの完成度に多少なりとも反映されていてほしかったと考える。

(赤川貴雄)

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全 国 講 評

農地の一部が宅地化され、やがてまちとも田園ともつかない中途半端な風景に変わっていく。私たちはこれまで、誰も良いとは思えない、そんな無責任な風景を全国いたるところでつくってきた。農家の共同建替えによってまず生活の場を整備し、その建築が田園(大きな自然)に呼応するものとしての役割を果たそうという提案だ。田園の風景に建築で責任をもつ、今回の課題に対して建築で正攻法に立ち向かった態度は好感がもてる。生活へのサービス施設を内包する囲み型の建築、同時に急斜面を克服する道としての建築は、まちとも建築ともつかない不思議なまとまりをもっている。やや大振りだが愛らしい外観は、広い田園のなかの点景として悪くないだろう。これまでいつも田園と拮抗してつくられてきた建築とは違った身振りの建築は、親しみやすい田園の新しい風景を期待させる。この提案のもう一つの魅力は歩行斜路のネットワークをつくることにある。それは田園を浸食しないで、生活のネットワークを地域全体にかけてしまうものだ。様々な施設をめぐって人は地域全体で生活する。ただ風景を享受するというのではなく、生活のなかに田園が取り込まれていく仕掛けだ。単なる建築と景観にとどまらず、新しい生活の提案と結びついていることがこのプロジェクトが期待できるところだ。

(元倉委員)

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選外佳作中山佳子横浜国立大学大学院

C O N C E P T

2019年、市街化調整区域の横浜市羽沢町に新駅設置が予定されている。広大な農地が美しく残る街に駅ができるとき、乱開発ではなく農風景の持続と地域の公共整備を同時に導く計画を考える。「ひだリング」と名づけた形式をもつ建築が地形のルールに基づき点在し、中庭と農地の外部空間を領域化することで地域全体が人の居場所になり建築は町の新しいインフラとして存在していく。農地と都市が共存する新しい田園都市の提案である。

支 部 講 評

「広大な農地の景観を守りたいと思った」というこの提案は、市街化調整区域である横浜の羽沢新駅予定地が計画対象地域。新駅ができることによって無秩序に開発され、どこにでもある都市近郊の住宅開発地域の風景ができることが予想される。これに対して、傾斜地になじませるように「ひだリング」を挿入し、都市近郊の農地と建築との新しい関係性を提案している。1~8戸の共同立て替えによって一つの1リングを構成し、その中に、農家・下宿賃貸アパート・パブリックスペースなどをコンパクトに容れたものである。残念なことはリングの中の生活像が見えてこないことであり、もう少し説明があるともっと説得力を増した提案になったのではないだろうか。

(渡辺富雄)

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全 国 講 評

これは一つの創作された物語としてとらえられるだろう。作者は課題の「大きな自然」を時間の経緯によりものが変化することと定義し、その変化をそこに住んできた人の「もの」の集合体によって可視化するという物語を創作した。一種の団地再生のプロジェクトを装っているが、再生というよりも、団地全体を巨大な住人のアーカイブにしてしまうというものだ。巨大なお墓と言い換えてもよいかもしれない。「昔住んでいた人は懐かしみながらここを訪れる」と提案者がいっているように。提案の態度はいたって真摯で、アイロニーやパロディをねらったものではない。それ故にどこかSF的な恐ろしさを感じさせてしまう。この物語の主題は「人が生きることの意味」への問いだろう。生きることとは、何かを所有し続けること、そして消費し続けること、それを証明しようとしているかのようである。描かれた絵はその証明であろう。自分の実生活を考えたとき、この絵はリアリティをもっている。もっと単純に提案者の意図に沿って、団地の建物が「もの」の賑やかなコラージュの風景に変化することの楽しみを味わうべきなのかもしれないが、そうだとしても、外側に排出物のように全ての「もの」をおっぽり出して、「もの」から解放され自由になった新生の生活をどこかに示してほしかった。それがあれば、この賑やかなコラージュの団地をアートのように楽しむことができたと思う。人の解放に向かう提案があってはじめてこの物語は完結したのではないだろうか。

(元倉委員)

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選外佳作 寺門慶政吉井勇樹*和歌山大学大学院 和歌山大学*

C O N C E P T

私たちの考える大きな自然とは、時間が流れることですべてのものが変化すること。呼応するとは、私たちの考える建築と、時間の流れという自然が、共に受け答えを行い、歩んでいくこと。計画敷地は和歌山市鳴滝団地。入居が引き起こす大きな変化として、モノの入れ替えに着目する。モノは、設計者の個性を具体的に表す鏡だと考える。モノを用いて外部と内部環境に変化をもたらし、大きな自然との呼応を生み出す。

支 部 講 評

植物等の「自然」ではなく、人間社会を含む「大きな自然」を前提に、生態系としての人間社会を対象としたところに好感をもった。日常生活用品を代謝物質とみなし、既存団地のダブルスキン化によってつくられた堆積物質置き場が代謝するファサードとなり、住まいはいずれ巨大な「開架倉庫」となっていくという物語が面白い。ただ、その代謝システムをもう少し柔軟に提案し、蓄積による終焉はその一例としたほうが、提案すべき「大きな自然」に近づけたのではないか?描かれている生活用品には「引っ越し」よりも「ガレージセール」のような短いタイムスパンで代謝されそうなモノも多い。また、南側バルコニーの扱いは論理的に矛盾している。

(長坂大)

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全 国 講 評

本設計競技にあっては「大きな自然」をいかに定義するかが重きを有する。提案者は、水や緑といった「nature」以外の、都市において私たちの身近に存在する「大きな自然」を探索する。そして、人々 が行動の中で無意識のうちにつくり出す「流れ」や「密度」を「大きな自然」ととらえることから提案を展開する。人々 の「流れ」や「密度」という「大きな自然」が「空間」と呼応する時、無意識下につくり出している「流れ」や「密度」が顕在化し、私たちは「大きな自然」の相の下にいることを知ることとなる。1日に240万人が通行する梅田の地下街。均質で人工的な空間が、東西、南北ともに約1キロに渡り続いている。駅や百貨店とも連結されていることもあり、時間や曜日による「流れ」や「密度」の分布が大きく異なる場所でもある。この地下空間を、可変性ある地形として設計しようというのが本提案である。床は低反発弾性フォームからなる。人々 の流れの多いところでは床の凹凸がならされ、さらに人々の流れを誘い、壁や天井にポリ塩化ビニルを吊ることで、人々 の動きやそれに伴う空気の流れが顕在化され、それにより「自然」が立ち現れる。地下空間を扱った提案は散見されたが、多くが光や風の導入や均質的な空間の変容を図るものであった。リアリティにはやや欠けるものの、「大きな自然」の定義から空間的操作まで、その徹底性が地下空間を扱った他提案を凌駕するものとなっている。

(末包委員)

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選外佳作一瀬健人川東大我野口理沙子神戸大学大学院

C O N C E P T

都市において、私たちが無意識のうちに作り出す、人の“流れ”や“密度の分布”。この不特定多数のものが集まることによって獲得できる環境を「大きな自然」と定義する。大阪・梅田の地下空間を変化を受け容れる地形として計画することにより、「大きな自然」を顕在化させる。私たちが普段気にも留めず、そして身近にある「大きな自然」が、均質であった地下空間を、時間とともに様々な表情を見せる空間へと変容させていく。

支 部 講 評

無意識の多くの人々 がつくり出す密度や流れを大きな自然ととらえ、この動きを写しとって呼応する建築の提案。計画地は、世界有数の、ある種乱脈な発達を遂げた大阪キタの地下街。3つのターミナルと4つの地下鉄駅に囲まれた約1km四方のエリアは、そのすべての街路と建築の地下空間が一体化されていて、1日200万人を超える人々 が縦横に動きまわり、立ち止まる。その人の動きにあわせて床、壁、天井が形を変え、空間が変化する。変化した空間が人々 の動きを変えてゆく。地下街というきわめて人工的な空間には大空も大地も水も緑も風もない。それがかえって、人々 の動きを際立たせ、エネルギーを感じさるドローイングとなった。

(児玉謙)

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全 国 講 評

時間のリズムだけで動くと感じずにはいられないように変化してしまった大都市に、様々な自然現象が感じとれるような装置を計画し、人々 に本来の自然の本質を知らせることを目指している。具体的な場所として、今や日本文化の中心の一つとなった感のある秋葉原のまちを選定し、4つの提案を行っている。小動物のアパート、風媒化ビル、人間のための余暇部屋、そして電話ボックスを利用した植栽である。確かに光や風等を通して、自然現象を感じることは可能であろう。都市での四季を感じさせる豊富な緑の計画も大切である。空を見上げ、ゆるやかに動く雲や太陽から、あるいは夜の星空からは、地球規模での大自然も感じることができるであろう。個々のアイディアは実に楽しげであり、まだまだ数多く発見できるはずだ。また、図面表現も美しく密度も高い。しかし、計画の詳細に入ると少し疑問がある。例をあげれば、人間と共存することで生存が可能なペットを含む小動物達に、それぞれに相応のボックスを与えることだけで都市に順応が可能であろうか。また、遺物となった電話ボックスを植木鉢に再利用することの良し悪しは別として、表記のような立派な樹木の生育が可能であろうか、その植物の根は……等である。いずれにしても相互の関連性や相乗効果が発揮できるレベルまで昇華させ、イメージに留まらず、技術的にもう少し踏み込んで具体的な提案の建築やまちとしてほしかった。

(村上委員)

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タジマ奨励賞 戸井達弥

渡邉宏道前橋工科大学

C O N C E P T

今のわたしたちが「時」を認識するとき、それはたいてい時計を見るという行ためで片づけられてしまう。人間以外のすべての生き物はこの「時」を数字に求めることなく流れを感じることで生きている。求める先は太陽であり、風であり、身体であり、様々な自然の現象である。制約されたリズムで動くこの都市の中心に、そういった自然の現象によってゆるやかに時の移ろいを感じることができる場を提案する。

支 部 講 評

都市での生活を均質、無機質なものとしてとらえ、違和感のある4つの手法を都市に埋め込むことによって、様々な自然現象から「時」の移ろいを感じることができる場が提案されている。装置の埋め込みや都市空間の利用により、外部環境としての「時」を印象づける自然現象を感じ取ることを示している。一つ一つの手法とその問題意識は明確である。しかし一方では、均質化された都市生活も、安定的な時を刻むリズムを有するのではないだろうか。対象地を都心に設定しているのであれば、逆にこうした都市生活者との相互関係から「時」を感受する手法もある。また提案されている4つの手法間の相互の関連が希薄であり、総体としての主張が乏しい印象は否めない。

(野中勝利)

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全 国 講 評

人間と野鳥の共棲を目指した集合住宅を、自然地形の崖の様な形態として提案している。描かれた図面からは、現在の都市に建つ一般的な建築、すなわち、水平なスラブと垂直な柱や壁によりグリットプランなどで構成されている近代建築からは、極力遠く離れたところで、独特の自由なプランを示しながら、量塊のあるものを目指している。その色彩も現在の都市ではあまり使われない自然色で、造形的には個性があり面白い。また、緻密に描かれた図面からは魅力的な室内外の空間も充分に感じとれ、初源的な住空間である洞窟住居を彷彿とさせてくれる。特にここではヨーロッパの地中海周辺のものと異なり、上下に立体化しているところは新しい。ただ、ここで野鳥とともに暮らすことで、住人が本当に野性味を取り戻せるのか少し疑問である。チョウゲンボウというハヤブサの一種の、小鳥や小動物を食すような強い野鳥が、人間とともに暮らすことで、野性味を失ってしまうのではないのか。野鳥との互いの物理的な距離があまりにも近すぎるのではないかと感じる。野鳥から発想を初めた計画ではあるが、一度野鳥から離れて、純粋に人間だけの集合住宅として大きな自然としての提案ができたかもしれない。また、配置図で示されているような一般的な建築が建ち並ぶ既製のまちにはめ込むのではなく、もっとこの計画に相応しい場所を探したほうが、この提案に発展性や説得力があったのではと惜しまれる。

(村上委員)

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タジマ奨励賞

安藤裕介九州大学

C O N C E P T

長野県中野市郊外のチョウゲンボウ集団繁殖地『十三崖』では近年、狩場の減少等の理由から繁殖数が激減し、チョウゲンボウは市街地の人口構築物へ営巣習性を移しつつある。中野市市街に、鳥と人が共存する崖を模した躯体の集合住宅を提案する。鳥とお互いの距離をはかりながら暮らすことにより人の生活が変わる。鳥が崖の凹凸からねぐらを見出すように、人は場所に対する野生の感覚を取り戻す。

支 部 講 評

本計画は鳥の集団繁殖地として有名な長野県中野市の「十三崖」と呼ばれる崖を敷地として想定し、その崖をくりぬき集合住宅を提案している。この計画の狙いは、この崖地での鳥の繁殖の減少をくいとめ、そして鳥と人間の共生を生み出そうということにあるのだろう。いささか直截的で夢物語のような感が否めないが、ファンシーなドローイングと相俟って楽しい世界の予兆も感じさせる。

(坂牛卓)

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全 国 講 評

詩的な作品である。「大きな」自然をテーマとした設計競技の中で、小さな住宅に、小さなスリットを入れるという小さな所作で、そこに降り注ぐ雨と光を顕在化しようとする、静かな情感にあふれた空間が提案されている。そのシンプルさと繊細な感性に、審査員の票が入ったのであろう。2枚の図面には、様々な表情の水滴が描かれ、提案者の雨だれへの繊細な気持ちがよく伝わる。そこに見える現象は小さなものかもしれないが、この家に暮らす人の意識を、天空、あるいは大気の動きといった大きなスケールの自然につなげるきっかけとなるかもしれない。雨は日本の風情である。日本ほど、季節ごとの雨模様を表現する言語の多い文化もないといわれる。雨の提案が松山からされているのは嬉しい。日本の建築と庭は、様々なかたちで雨仕舞いに備え、またデザインしてきた。深い軒と縁の空間も、雨の季節を心地よく過ごし、また雨模様を鑑賞するための空間的設えである。それをさらに深く学べば、この提案もさらに奥の深いデザインができたのではないだろうか。日本の建築と庭の接点では、開口と地面の扱いに細心の注意が払われている。提案でも、濡れによるガラスの仕切りの透過性の変化など、細かな思慮も払われているが、一方、引き戸のディテールなどがつめられていないと、ただの建具になってしまうであろう。また、降雨時の排水の仕舞い、雨だれの音など、地面の表情にも配慮があれば、小さな隙間とはいえ、立派な庭になりえたであろう。

(三谷委員)

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タジマ奨励賞

木村愛実広島大学

C O N C E P T

現代社会において避けられつつある雨。その存在を見直すきっかけをつくるため、住宅の壁を2枚のすりガラスによる隙間に置き換える。その隙間に降ってくる雨の楽しみ方は自由だ。雨音に耳を傾けたり、隙間にコップを並べ雨の音楽を楽しんだり、隣室の照明によりライトアップされた雨粒を眺めたり……。人間の生活において最も身近な空間に雨が入ってきた時、人々 は雨の存在の大きさに気付くだろう。そして今日もまた、次の雨を待つ。

支 部 講 評

バルセロナパビリオン建物中央付近に、明るく輝く、乳白ガラスの1枚の壁が在る。それは実は、1枚のガラスではなく、トップライトをもつ2枚のガラスで出来ている。提案の住宅も間仕切壁の幾つかを、2枚のスリガラスで構成し、ここでは「光」ではなく「雨」を体感する住まいとしている。効果が具体的に語られ、素直な発想による、好感のもてる作品だと思った。しかし、このコンペの主旨からいえば、雨に限定するのでなく、通常のプランに適用するのでなく、この考え方の延長にある新しい住まいの形式が提案されるべきだったのではないか。さらなる展開を試みてほしいと思った。

(宮森洋一郎)

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全 国 講 評

大いなる自然に呼応する建築という問いに対して、天体の運行に呼応する建築をもって答えるというのは、まさしく王道のように思われる。しかし、逆にあまりにストレートすぎるためか、応募作には本作品の他には数えるほどしか見られなかったのである。今や肉眼で夜空を見上げてわかる程度の星空のありようは完全にコンピュータでシミュレートされうるものとなり、それほどロマンティックではなくなっているのかもしれない。また、宇宙の構造の進化を描き出そうとする4D2U(国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)や、100万の銀河の三次元地図をつくるSloan Digital Sky Surveyの実践は、あまりに気宇壮大であるがために、かえってミクロコスモスたる我が身とマクロコスモスたる天空とのギャップを感じさせてしまうのかもしれない。そのような時代にあって、だからこそ素直に、夜空を見上げるきっかけとなる空間はいかがでしょうか、という本作品の直球の提案は新鮮に映った。暗く高い筒を通して光害を遮断するという仕掛けもわかりやすい。ただ、筒の形と配列が恣意的に見えてしまうのが弱い。18世紀につくられたインド・ジャイプールのジャンタル・マンタル天文台は、天空の運行を支配する幾何学を、砂岩の構築物によって地上に映しとろうという切実な形であるからこそ、たとえ昼間であっても、人々 のまなざしを空に向ける力があるのだ。

(本江委員)

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タジマ奨励賞

後藤雅和小林規矩也枇榔博史中村宗樹岡山理科大学

C O N C E P T

星や星空は永く人々 の暮らしと寄り添っていたが、今では都市の溢れる光に隠れてしまい、遠い存在になってしまった。「大きな自然に呼応する建築」とは、空中に延びる88本の塔内を街の光から遮断することで、光溢れる都市にいながら夜空を星空に変えることができる建築を考えた。この宇宙の図書館では、刻 と々変化する天体の動きに呼応して地上に描かれる軌跡の先で、利用者は新たな自然や本、人に出会うことができる。

支 部 講 評

天体に向かい計画された図書館の提案であるが、林立した複数の斜めの筒状の構造体はそれぞれが、星座の輝く星空に向かう天体望遠鏡のような装置として88の夜空の星座に向いている。この中では季節ごとに特定の星座を中心とした星空の万華鏡を見ることができるという構想である。現実的というより詩的な意味あいをもった宇宙と人工空間の関係をつくり出しているという意味で、現代人が近代以降、人工の電灯による光に満ちた夜を獲得することで失われた宇宙的感覚における自然と人間の関係を回復しようとする建築的提案である。星空と人間を結びつける建築空間の提案としての大胆な造形的試行の一つとして評価した。

(岡河貢)

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全 国 講 評

松林に、上部が透明なボックスを墓として埋め込むという提案。ボックス内には故人をしのぶよすがとなるものを収納する。タイトルの「敬」は故人を敬う気持ちを表している。人々 は箱が埋もれてしまわないように落ち葉をかく。松林は、本来は土壌が貧栄養なところに成立する。人間が林内の落ち葉や枝を集め、肥料や燃料に使っていると、栄養分の持ち出しによって貧栄養な状態が保たれる。しかし、そうして維持されてきた松林は、人間の生活スタイルの変化にともなって人手が入らなくなると、しだいに広葉樹林へと遷移していく。この提案は、防風林・防砂林として400年にわたって人々 の暮らしを守ってきた松林を人々 の敬いの対象の場とすることで、人々がかかわる「情景」と松林の「風景」とを維持しようとするものである。提案者の狙いは、墓を敬うことがおのずと人と自然との関り、自然と呼応する関係を生むことである。しかし、また別の関り方も考えられる。個々のボックスが樹木で定義される不定形の座標に位置づけられるため、訪れる人はおのずと木から木へと辿ることになる。何年も通ううちに、木々の変化にも気付くだろう。管理だけでなく、巡り歩くこともまた自然との関り合いの一つのあり方だ。

(竹中委員)

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タジマ奨励賞

江口克成泉竜斗上村恵理大塚一翼佐賀大学

C O N C E P T

佐賀県唐津市は、人々 の生活や農地を守るために植林された松原により自然と人間の関係が保たれてきたが、堆積してしまった松葉が原因で松が枯れ、この関係が崩れようとしている。故人に対する想いを詰めた墓を埋めることによって松葉かきを誘発させ、松の再生を目指す。故人を敬う建築から松葉かきをする情景。松が再生された風景。この2つの「景」が生まれた時、それは大きな自然に呼応したといえるだろう。

支 部 講 評

松原を守るための壮大な構想である。だが、大掛かりなことをするのではなく、誰でもできそうな小さなことを積み重ねてオペレーションしようとしていること、またそのもの自身である松林の大枠を壊していないこと、そして、現在あるもの(松葉)を別のもの(思い出の墓)に変えて、新しい魅力的な風景をつくり出そうとしていることがよい。問題提起、手法、結果が上手くリンクしていると思う。海辺の松林の場の設定として、思い出を散策するような少しノスタルジックなイメージがうまく重なったところもよい。

(末廣宣子)

2010年度版‐設計競技‐̲2010年度版‐設計競技 10/10/20 13:08 ページ 44

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全 国 講 評

上水を全て地下水でまかなう都市、熊本。こうした豊かな地下水をもたらすのが、阿蘇山の噴火などによりもたらされた地盤の水分を吸収する能力(浸透能)である。それにより熊本では、年間の降水量の1/3が地下水となる。しかし都市部の開発により、地下水脈層への水の浸透に問題も生じてきており、熊本が優位性を誇る水循環のシステムの持続性が強く望まれている。本提案は、細沿い管を主たる構造部材とする「スポンジ」のような建築をつくり、地下水脈層への水の浸透を促進させ、管による毛細管現象を利用し、大樹が果たすのと同様の水の循環システムを構築するとともに、雨水の浄化等も行おうとする意欲的な提案である。「スポンジ」内の、水が循環する多数の管によりつくり出される空間は、管そのものの密度と、水そのものの循環による密度に応じ、光の進入もあいまって、刻 と々その様相を変える。さらにこの「スポンジ」は、浄水場から住宅そして下水処理場というサイクルを無効化し、浄水場・下水処理場・生活空間が一体となったものでもある。「スポンジ」は、生命や都市の源である水に囲まれた、作者のいう「都市の大樹」に抱かれる魅力的で根源的な空間となっている。雨や地下水の循環に着目した提案は数多くみられた。しかし本提案は、熊本という都市の特性を重視し総合的なシステムとして提案するだけでなく、なにより魅力的な空間を創出しようとする点で他を凌駕したものと考える。

(末包委員)

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タジマ奨励賞

今林寛晃  山中理沙井田真広  宮崎由佳子筒井麻子柴田陽平  坂口織福岡大学

C O N C E P T

地下水を水道水の100%水源とする熊本市に、大樹のような建築を提案する。長い年月をかけて完成された地下水脈循環を継承していけるように、水浸透を助けるスポンジのような建築をつくる。樹木が担う自然の水循環と同じ働きを建築にもたせ、その循環の中に生活空間を設けることによって都市における新しい空間を創出する。水インフラや自然の水などの循環や均衡に応じながら空間はゆるやかに変化し、それぞれの空間に新たな関係性を生む。

支 部 講 評

阿蘇の湧き水は有名で、豊かな水源をもつ熊本のまちを考える概念はよさそうである。ただ、細かな重要なところの描写が足りない。都市化によってどのように循環作用に問題がおこっているのか、またこの建築が保水しながら水を浸透させる機構をもたせようとしていることはなんとなくわかるが、具体的にどのような構造で、この建物自身がどのような空間構造をしているのかなどがまったく見えてこない。そこをプレゼンテーションしなければ、掲げた目的をまっとうしているのかどうかもわからない。イメージだけで終わらない努力が必要だ。

(末廣宣子)

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全 国 講 評

都市の建築物の上にさらに屋根をかける、すると建築物の屋上階は第2の地盤面のようになる。そこに、都市化によって、失われた緑や耕地や、自然と人間の間の様々な行為が、再現される。この提案では、屋根は、フレキシブルスキンとよばれ、日よけになって、屋上階やその下の空間の温度をコントロールし、雨水の蒸発を防ぎ、植物のための地盤になる。しかも、それは、人の手によって、フレキシブルに機能を可変することができる。大架構のアイディアなのだが、人の日常的なアクティビティと関連して提案がなされ、部分的にみれば、夏になるともち出す日よけの簾のようであるし、農家にある温室でもあり、大きな屋根の下に出現する空間に、ヒューマンなスケールと想像可能な日常を感じさせるところに共感がもてる。緻密さはややかけるが、フレキシブルスキンというダブルルーフのアイディアには、いろいろな可能性があると、思わせるプレゼンテーションである。フレキシブルスキンの形状に何か、もう少し、必然から導きだされたものがあるとさらに説得力を増すように思う。

(篠原委員)

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タジマ奨励賞

Baudry Margaux Laurene九州大学

C O N C E P T

The project’s idea was to combinemen’s activities and nature into onespace in Morocco. It inspires fromthe greenhouse shape,effect and atthe same time tries to regulate thiseffect in summer. The result is asmooth construction made of a selfmade skin. The inhabitants controlthemselves the temperature insidethis space, according to their needsbut also to nature’s need.The skin isself made, modulate. It protects all ofthem in summer while giving themthe warmth they need in winter. Menfinally can enjoy the beauty to liveoutside through various unit builtunder the new roof (Market, Fields,Restaurants, Water sources, Leisureactivities). The inhabitants no longerlive behind blind walls but can finallybe united, share memories aroundvarious activities while no longerfearing the sun. The new roof andnature gives them the fresh air theyneed while creating a communityspace by making the house’s roofpublic. Finally, the greenhouse effect is con-trolled and used through the use ofcheap materials for the skin (straw,recycled plactic). Agriculture inMorocco can now survive in sum-mer, nature finds a place to live inwhile the deserted lands regeneratesfar from man’s intense activities.

支 部 講 評

地中海沿岸の低層高密度住宅群の屋上に、連続したグリーンハウスを設置するという提案。提案そのものに斬新さはないが、地中海沿岸の低層高密度住宅群に新たな立体的空間、農作物や樹木栽培、新たなコミュニティ空間をもたらす可能性は大である。複雑な低層高密度住宅群にある種の空間的秩序や連続性も予感され、かつローコストで実現可能性もある。場面場面の描写があれば、さらに説得力を増したと思われる。

(田上健一)

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全 国 講 評

人は洞穴に出会い、それが人の身を守ってくれるシェルターであることをイメージし、そこに住み着いた。洞穴はすまいのそして建築の原初である。一方、建築は人が想像しそれを実現するものである。それはすべて説明可能なものでなければならない。そのために建築家は努力をし続けているといってもいいだろう。説明することはとても大変だ。時に逃れたくなることがある。逃れた先にいたのが自然という偉大な造形家。自然がつくる造型はその時間の長さ、スケールの雄大さ、思いがけない偶然性によっている。誰がつくったかは問われない。提案者は、「大きな自然に呼応する建築」の問いに対して、説明が必要ないわゆる建築と自然の営みがつくる建築の2つで答えようとしたのだろう。六角柱の杭を打つこととそこに空隙を設ける人の建築としての行為と、海の浸食作用による自然の営みによる建築を組み合わせたものだ。「砂浜の再生」という主題は、この新しい自然との合作の建築をつくるために必要なストーリーであることは理解できる。しかし、建築が最終的に崩壊し地形に還元されるという最終章は、「砂浜が再生されるプロセスに何故建築が必要だったのか」という矛盾を孕んでいるように思える。もっと建築そのものを信じて、自然との合作としての建築の必要性を提示することができたのではなかったか。

(元倉委員)

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タジマ奨励賞

濱谷洋次九州大学

C O N C E P T

波力による浸食と堆積を利用した建築。海岸浸食は無情である。自然は人間の力の及ぶ所ではなく、人生の何倍もの時間でゆるやかに変動していく。だが、それが突発(人工)的に起これば、砂浜と共に生きる人々 は住処を奪われ、生態系は乱れる。建築によって波力の強さと方向を変え、砂浜を取り戻す。同時に、押し寄せる波の浸食によって生態系を乱すことなく、人々 のコミュニティの場を創造する。

支 部 講 評

一見してわかりやすい明解なコンセプトをもつ提案である。60年に渡る長期的プロセスを展望し、「人々 の砂浜を建築の浸食と土砂の堆積によって再生する」考え方は、2枚目上部の模型写真によってイメージが喚起されている。それだけに他の図面表現はもの足りないばかりか、建築平面図などは提案の印象を逆に弱めていて残念である。「生態系と共にゆるやかに進化する」という自然との呼応関係を、きめ細やかに検討し、表情豊かな建築空間として表現してほしかった。壮大な大自然の輪廻にも通じる海岸線の変化に向き合うことは、未来の生活の場、交流の場を考えていくうえでの打開策を秘めているように思えるからである。

(徳永哲)

2010年度版‐設計競技‐̲2010年度版‐設計競技 10/10/20 13:08 ページ 50

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支 部 入 選 作 品 ・ 講 評

2010年度版‐設計競技‐̲2010年度版‐設計競技 10/10/20 13:08 ページ 52

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支部入選

城市滋村松秀美花岡竜樹*武田健太郎*東京理科大学大学院 東京理科大学*

C O N C E P T

(釧路)湿原の崩壊が著しい川沿いを計画敷地に、子供たちが自然を学ぶための環境教育学校を設計する。その建築の姿は簡素で光を放つのみである。その光は、湿原維持にとって余分な養分を分解し、得たエネルギーを使う。また、その輝きは養分量に比例し、子供たちは光を頼りにここで2泊3日の自然体験をする。輝きの大きさは人間が犯してしまった過ちを表し、皮肉にもその輝きは私たちに感動すら憶えさせてしまう。

支 部 講 評

恵まれた自然環境をもつ湿原の只中に、なぜこのような教育施設を建設するのか疑問を感じながら案を読み進む と、実は近年、周辺開発の影響による生態バランスの変化から、土地が乾燥し様々なエリアで湿原が失われているという。この案は湿原崩壊の著しい場所に、子供達が滞在できる簡素な建築をプロットしていくというものであるが、この小さな建築、実は湿原の乾燥化を防ぐ機能が隠されている。その技術的リアリティがどの程度のものなのか評者には理解できなかったが、建築をつくること、それ自体が自然破壊であるという重い命題に、清々しく軽やかな発想で答えようとする姿勢に好感をもった。

(赤坂真一郎)

支部入選高橋幸宏永島健児山田健介北海道大学大学院

C O N C E P T

縮退する新たな都市像として湿原、都市、人を再編する広義のコーポラティブスタイルを提案する。人工コンクリートを剥がし、地下水から湿地を創り、人が護ることで人の居場所が生まれる。人の手が加わった都市は人の手を加えることで自然へと還るのである。自然再生が進む中で建築は這って進み、湿原の中には新しい意味を持つ場所だけが残されていく。湿原を這って泳ぐ crawlingmarsh

支 部 講 評

この提案は、釧路湿原とそれと近接する都市の隣接性に着目し、人口減少時代のコンパクトな都市像への転換と、それによって可能となる湿原と人々 の新たな関係づくりを試みる提案である。人口のコンクリートをはがし、現に資源としてある地下水を利用し、地上を湿原へと転換する。その上で、都市が強い境界で湿原と接するのではなく、葉脈のような木道上に形成された住宅群によって緩やかな湿原と都市の関係をとっている。まちをコンパクトにすることと、葉脈上に伸びる周縁部において、自然への環境の連続性が、独特のパターンで検討されており、人工環境を自然環境へといかにスムーズに接続していくかという点での示唆が感じられる提案である。

(那須聖)

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支部入選

米本健山谷学長谷部久人斉藤裕貴北海道大学大学院

C O N C E P T

都市は自然を侵略することで生まれた。挙げ句にエコ、緑地といった自然も“人工の”自然である。では、人工に支配されない自然が都市の中で人間と共存することは可能か?私たちは空地や建替え跡地を壁で囲うことで、この場所の光や風、鳥の運ぶ木々の種子を育むような建築を提案する。建築の力によって成長の限界を迎えた都市の部分を自然に還していく試みだ。自然が自生していくための不可侵域をつくること、人間のためにつくられるはずの建築がそれ以外のためにつくられることで、人々 は自然のうちに振る舞わなければならないことを感じるはずである。再生した自然は点在し、やがて繋がり都市を地球のうちに包み込む様な新たな関係性をつくる。都市の中に内包された自然が実は都市を囲んでいる。つまり、大きな自然の中に都市があることに気付くだろう。

支 部 講 評

北海道開拓の歴史は、自然と人工の闘いだった。約100年前のことだ。北海道開拓史の官吏旧永山武四郎邸の近くに点在する敷地群が選ばれたのは偶然の符合だろうか。提案は、札幌市の中心市街地にある駐車場や空地を壁で囲い、都市に侵略された自然を解放する不可侵領域をつくる。そこでは樹木が自生し、鳥が木の実をついばみ種子を運びまちの中に緑のネットワークをつくることになる。そして、四角い幾何学的な開口部がうがたれた建築的な壁が、都市生活者の舞台装置のように空地を取り囲む。きわめて人工的な壁を媒体に、かつてのような闘いでなく、光や風を感受する多様性ゆえに自然を受けいれる、

支部入選福田俊東北工業大学

C O N C E P T

今現在、雨はほとんど地面に浸透していない。これは都市部を中心に開発が進められ、利便性を重視するあまり広大な大地をコンクリートなどによって覆い隠してしまったからである。今や多くの都市に存在するアーケードもその一例と言えるだろう。そんなアーケードという空間に雨の循環回路を取り入れ、今までの「雨の当たらない場所」から「雨の受け止める場所」にする事で都市の中に新たな環境や場所性が生まれるのではないだろうか。

支 部 講 評

本作品は、仙台駅前のアーケードに、雨を感じるための仕掛けを挿入していくというものである。様々な大きさをもった店舗の屋上部分に、透水性のある多孔質素材を載せ、そこで受け止められた雨が下部に滲んでくる。多孔質素材の大きさによって下に落ちる水滴の大きさや落下時間、密度などが異なるため、質の違う「雨空間」が出現するというストーリーだ。雨があたらないようにするためのアーケードに、何でわざわざ雨を降らせる必要があるのか?という至極真っ当な疑問は残るが、都市の中で日常的に体験する自然− 雨− に着目し、そこに一捻り加えることで都市のスケールを感じさせようという試みは評価できる。衰退している中心市街地を楽しく蘇らせたいという、学生ならではの切実かつ詩的な提案といえよう。

(櫻井一弥)

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真の自然の大切さへの気付きを鋭く提起している。

(山之内裕一)3行オーバー

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