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2018 August SMBCマネジメント+ 24 SMBCマネジメント+ 2018 August 25 上の写真/柚木裕司 取材・文/福田三郎 IR200005 使2 2005EV「車載用電池向けセパレータを普及させ、医療分野にも進出 し、分離膜分野のトップメーカーを目指す」と語る崔元根代表 取締役社長 Corporate Profile 代表取締役社長 崔 元根 本社 東京都品川区大崎5-1-11 設立 2005年10月 売上高 95億円 (連結、2017年12月期) 従業員数 502人 (連結、2017年12月現在) 事業内容 プラスチックフィルム及び シートの製造及び販売業 http://w-scope.co.jp/ 韓国の子会社W-SCOPE KOREAが運営する主力工場 独自の延伸技術で製造するリチウムイオン二次電池用のセパレータ。市場シェアで大手化学メーカーを猛追している ダブル ɾ スコープ株式会社 二次電池用セパレータで急成長 分離膜で世界トップ目指す 電子機器や電気自動車(EV)に欠かせないリチウムイオン二次 電池の主要材料「セパレータ」で世界シェアを急拡大中。設立10 年余りながら大手企業を猛追している。“百年企業”を目指し、 EV市場拡大を好機に更なる業容拡大を狙う。

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Page 1: Corporate Profile ブル・スコープ株式会社は、リチ …25 SMBCマネジメント+ 上の写真/柚木裕司2018 August 取材・文/福田三郎 2018 August SMBCマネジメント+

2018 August SMBCマネジメント+ 24SMBCマネジメント+ 2018 August25 上の写真/柚木裕司 取材・文/福田三郎

ン電子の出身。日本で起業し、工場は韓国

に持ち、世界を相手にビジネスを展開して

いる異色の経営者だ。

「小さい頃から世界に通用するビジネスを

やりたいと思い描いていた。サムスンに

入ったのは、経営を学ぶには最高の企業だ

と考えたからだ」と崔社長は言う。大学で

は電子工学を専攻し、研究部門に配属され

たが、その後、製品開発部門へ異動。その

後はIRや人事、財務など管理セクショ

ンを歴任。さまざまな経験を積み、社内外

の人脈を広げて課長に昇格した後、

2000年、当初の計画通りに同社を〝卒

業〟した。

その年、まずは少額投資で始められるビ

ジネスとして、医療機器や飛行機のコク

ピット向けの特殊な液晶ディスプレイを製

造する会社を知人と共に設立した。

そこで事業を軌道に乗せた後、いよいよ

サムスン在籍時から温めていた事業構想、

リチウムイオン二次電池のセパレータの製

造を手がけるダブル・スコープを05年に設

立した。サムスンで液晶ディスプレイの製

品企画を手掛けていた当時、使用する偏光

フィルムの技術でディスプレイの性能が左

右されるという経験から、「デジタル技術

を制するカギはアナログな材料技術にあ

る」と感じたことが事業構想のヒントに

なった。

セパレータを開発し、設備投資資金を集

めるために製品のサンプルを持って奔走し、

事業の成功を熱心に韓国内で説いて回った。

しかし、当時は日本の大手化学メーカー2

社が市場の大半を握っていたセパレータを、

無名のベンチャー企業が作れるはずがない

と韓国の金融機関からは門前払いを受けた。

そこで崔社長は、セパレータのトップ

メーカーを擁する日本市場なら、技術力を

正しく評価してくれるだろうと思い立った。

早速日本に渡った崔社長が、大手電機メー

カー系の研究所に出向いて製品を提案した

ダブル・スコープ株式会社は、リチウム

イオン二次電池の主要材料であるセパレー

タ(分離膜)の製造・販売を主な事業にして

いる。2005年の創業後、スマートフォ

ンなど電子機器向けで急成長し、最近では

電気自動車(EV)など、車載用電池へ市

場を広げている。

 

代表取締役社長の崔元根氏は韓国サムス

「車載用電池向けセパレータを普及させ、医療分野にも進出し、分離膜分野のトップメーカーを目指す」と語る崔元根代表取締役社長

Corporate Profile代表取締役社長 崔 元根本社 東京都品川区大崎5-1-11設立 2005年10月売上高 95億円

(連結、2017年12月期)従業員数 502人

(連結、2017年12月現在)事業内容 プラスチックフィルム及び

シートの製造及び販売業http://w-scope.co.jp/

韓国の子会社W-SCOPE KOREAが運営する主力工場 独自の延伸技術で製造するリチウムイオン二次電池用のセパレータ。市場シェアで大手化学メーカーを猛追している

ダブル・スコープ株式会社

二次電池用セパレータで急成長分離膜で世界トップ目指す電子機器や電気自動車(EV)に欠かせないリチウムイオン二次電池の主要材料「セパレータ」で世界シェアを急拡大中。設立10年余りながら大手企業を猛追している。“百年企業”を目指し、EV市場拡大を好機に更なる業容拡大を狙う。

Page 2: Corporate Profile ブル・スコープ株式会社は、リチ …25 SMBCマネジメント+ 上の写真/柚木裕司2018 August 取材・文/福田三郎 2018 August SMBCマネジメント+

百万円 百万円

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10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

2019201820172016年12月期

売上高

40,000

700売上高

営業利益2,370

9,048

9,51714,000

274

5,600

2020予測

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000営業利益

28,000

10,000

2018 August SMBCマネジメント+ 26SMBCマネジメント+ 2018 August27

電子機器からEVにシフト

設備投資にも積極的

 「今はまさに、次のステージへの過渡期に

ある」と崔社長は言う。次のステージとは、

電気自動車(EV)に代表される、車載用

電池市場の拡大だ。

 

同じセパレータであっても、車載用電池

向けは電子機器向けよりも長いテスト期間

が必要になる。電子機器の場合、開発から

正式に採用に至るまでが1年程度とすれば、

車載用電池は約3年かかる。その間は、新

たな生産ラインをつくっても売り上げに結

びつかないばかりか、たびたび実際の生産

ラインを使った量産テストも必要。現在、

複数のメーカーの車載用電池向けに多品種

ところ高い評価を受け、ベンチャーキャピ

タルからの投資を受けることに成功。こう

して韓国に工場を建設したのである。

 

工場を韓国に建てたのは、土地代など生

産コストが日本と比べて安く済むことと、

日本企業として韓国に工場を設けることで

外資系企業に対する税制優遇制度を活用で

きることがその決め手になった。

PC発火事故、工場火災、

取引先破たんを越えて

 

同社が生産するセパレータは、日本の大

手化学メーカーとは異なる、独自の延伸技

術による製法をとる。生産効率が良く、価

のセパレータの試作、テストを並行して進

めているという。

 

17年には、車載用電池向けに新たに韓国

で4つの生産ラインの増設を決めた。建屋

を含めた設備投資額は約200億円。従来

比で3倍の生産能力を持つことを目指して

いる。車載用電池市場では、電池部材の安

定供給を確保するため自動車メーカーが二

次部材メーカーとも直接交渉する機運が生

まれている。こうした追い風もあり、同社

は欧州向けに積極的な事業展開を目論んで

いる。

 「来年からは、電子機器向けが35%、車載

用電池向けが65%と、売上比率が従来比で

逆転する見込みだ」。崔社長は、社運を賭

けた車載用シフトに大きな期待を寄せる。

将来は医療分野に進出

百年存続する企業へ

 「セパレータに留まらず、あらゆる分離膜

のトッププロバイダーを目指す」と崔社長

は話す。

 

リチウムイオン二次電池向けセパレータ

では、世界シェアを急拡大中であり、車載

用電池へのシフトでさらに上位を目指す。

 

その次に挑戦する事業領域は「イオン交

換膜」だ。次世代EVと目される水素自動

車や、医薬品製造に用いられる水処理フィ

ルターなどイオン交換膜のニーズは高く、

セパレータに比べても付加価値があり製品

単価が高いのが魅力。また、高い技術力が

必要なため参入企業が少ない。第2の主力

事業として開発に注力しており、今年度中

には商品化する計画だ。

 

とりわけ、医療関連分野では同社が誇る

分離膜フィルムの技術が生かされる用途が

多く、人工透析や人工皮膚など、医療分野

で同社の持つ技術を活用した製品を今後も

積極的に開発していく計画だ。

 「参入障壁の高いビジネスほどやりがいが

ある。社会生活や産業界に欠かせない製品

を供給できる、数少ない企業になることで、

百年続く企業をつくるのが私の夢だ」と、

崔社長は目標を掲げる。

格競争力に優れている点が強みだ。

 

しかし設立後3年間の売り上げはゼロ。

実績がないため、日本国内での取引先開拓

はなかなか進まなかった。そこで電子機器

向けリチウムイオン電池の製造が活発化し

てきた中国、次いで米国で販売実績を積み

上げ、その実績を土台に韓国や日本で勝負

する戦略に転換した。しかし、その道のり

は決して順風満帆なものではなかった。

 

06年にパソコンの世界的なメーカーでリ

チウムイオン電池が原因と見られる発火事

故が起き、電池の安全基準が引き上げられ

た。このためダブル・スコープも生産工程

の見直しを余儀なくされ、製品の安全性を

高める設計の見直しが必要になった。

 

08年には同社の韓国工場で火災が発生し

た。「米国の電池メーカーから大型契約を

取り付けた時期と重なり、大きなピンチ

だった。しかし、工場再建に必要な部材を

火災のあった工場とは別の場所に保管して

危機管理をしていたおかげで、2カ月後に

はなんとか生産を再開できた」(崔社長)

 

その後業績を伸ばし、11年には東証マ

ザーズに上場。しかし、売り上げの4割を

占めていた前述の米電池メーカーが12年に

経営破たん。この危機を販売努力で乗り越

え、14年には従来以上の売り上げを計上。

15年には東証1部に指定替えとなった。

リチウムイオン二次電池の構造。電極版とセパレータが交互に何層にも重なっている

セパレータ製品(上)と、顕微鏡写真(左上)。目には見えない微細な孔が空いた極薄のフィルムだ

車載用電池向けセパレータの本格生産に向けて、建設が進む新工場。子会社であるW-SCOPE CHUNGJU PLANTが運営する

2018年12月期後半から車載用セパレータの本格生産が始まり、急成長を見込んでいる(2017年8月同社公表資料より)

挑戦する企業

負極板

正極板

セパレーター(分離膜)

ダブル・スコープ株式会社の中期計画

電池の仕組み