cvd法によりtib2/tin二層被覆 したskd61鋼の溶融alにおける耐浸食性
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640 表面技術
CVD法 によ りTiB2/TiN二 層被覆 したSKD61鋼 の
溶融Alに おける耐浸食性
佐藤 忠夫*,堀 米 毅*,上 田 幹人**
Improvement of Corrosion Resistivity for a Melted Aluminum Alloy of SKD 61
Steel by a TiB2/TiN Bilayered Coating Formed by Chemical Vapor Deposition
Tadao SATO*, Takeshi HORIGOME* and Mikito UEDA**
TiB2 and TiN films were coated by chemical vapor deposition on SKD 61 steel to improve the corrosion
resistivity of a diecasting machine in a melted aluminum alloy. The protectivity of the film in the melted
aluminum alloy was examined by an immersion test at 900•Ž and a thermal cycle test between room temperature
and 900•Ž. TiN film, which serves as a binder, greatly improves the adhesion of TiB2 film on the steel substrate.
The thermal cycle test indicated that the optimum thickness of TiB2 and TiN layers is at 4 and 6ƒÊm, respectively.
Compared to ion-nitrized steel, steel coated by TiB2/TiN exhibits significantly higher degree of corrosion resis-
tivity.
Key Words : TiB2/TiN, CVD Coating, Corrosion Resistivity, in Melted Aluminum
1.緒 言
アル ミニ ウムダイ カス ト用の押出工具 お よび金型 に は,
合金 工具鋼 で あるSKD鋼 が用 い られてい るが,溶 融 ア
ル ミニ ウム に よって浸食 され る問題が あ る。一般 に,寿
命 の原因の大部分 は熱亀裂 や高温度 での強度低下 や摩 耗
に起 因す る変形変 寸で あ り,極 少 ない原 因 として溶 損が
あげ られ て いる1)。しか し,現 在 のアル ミニ ウムの 高圧
鋳造 の条件 は過酷 で あ り,ダ イ カス トの製品 の大型 化,
注湯温 度の上昇 に ともなって,ダ イカス ト機 の溶湯 注入
部 分 の溶損 によ る寿命低 下 が増 えて い る。現 在,SKD
材 に耐食 性,耐 疲 労性 を もたせ る目的 でイオ ン窒化 な ど
の処 理 を施 してい るが,さ らな る耐食性 の向上が求 め ら
れてい る。溶融 アル ミニ ウム に対す る耐食 性 に優 れて い
る物質 と してTiB22)・3)が 知 られ て い る。純粋 で ち密 な
TiB2皮 膜 は化学 気相析 出(CVD)法 によ り比較 的容 易 に
生 成 す る こ とが で き る4)。また,著 者 らは ち密 なTiB,
皮膜 を(1)式のCVD反 応 によ り軟鋼 板上 へ生成 す る こと
に成功 している5)。
TiCl4十2BC13十5H2=・TiB2十10HCI(1)
そ こで,本 研 究 で は,CVD法 に よ りSKD61鋼 材 表
面 へTiB2を 被覆 し,ア ル ミニ ウム溶湯 浸漬試 験 と繰 り
返 し加熱冷 却試験 に よ り寿命延長 の可能性 を検 討 した。
2.実 験 方 法
2.1cvD法 に よるTiB、/TiN皮 膜 の形成
TiB2皮 膜 をSKD基 材 上 に直 接形 成す る と熱 膨 張係
数の違 い に よ り皮膜 が は く離 して しま う。TiB2皮 膜 と
基材 との密着性 を高 め るた めに,そ の 中間皮膜 として,
熱膨 張係 数 がTiB2とSKD61の 中間 程 度 の値 を もつ
TiN6)層 を(2)式のCVD反 応 に よ り形成 した。
2TiC14十N2十4H2=2TiN十8HCI(2)
また,TiB2層 は(1)式のCVD反 応 によ り形 成 した。
被 コーテ ィング材 はSKD61合 金工 具鋼で その化学組
成(JIS値,mass%)はC:0.32~0.42,Si:
0.80~1.20,Mn:0.5以 下,P:0.03以 下,S:0.03
*室 蘭工業大学 工学部(〒050-8585北 海道室 蘭市水元町27-1)
Fac. of Eng., Muroran Inst. of Tech. (27-1, Mizumoto-cho, Muroran-shi, Hokkaido 050-8585)
**北 海道大学大学 院 工 学研究科(〒060-8623北 海道札 幌市
北区北13条 西8丁 目)
Graduate School of Eng., Hokkaido Univ. (Kita-13, Nishi-8, Kita-ku, Sapporo-shi, Hokkaido 060-8628) Fig. 1 Shape of cylindrical steel sample for CVD.
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Vol.51,No.6,2000CVD法 によ りTiB2/TiN二 層被覆 したSKD61鋼 の
溶融A1に お ける耐浸食性 641
以 下,Cr:4.50~5.50,Mo:1.00~1.50,V:
0.80~1.20,Fe:balで ある。 また,試 料 の形状 は図1
に示 す ように,本 研 究で はダイカ ス ト機 のプ ランジ ャス
リーブ を模 して 円筒状 と した。 反応 原 料 はTiC1、(キ シ
ダ 化 学,99.9%),BC13(キ シ ダ 化 学,99.999%),H、
(99.9999%)お よびN2(99.9999%)で あ る。不 活性 ガス
としてAr(99.9999%)を 使用 した。
CVD装 置 の 概 略 図 を 図2に 示 す。TiCl、(沸 点:
136℃)は シ リン ジポ ンプ に よ り速度 制御 しなが らボ イ
ラーに注入 し,140℃ 以上 に加 熱 され て いる ボイラー内
で気体 とな る。 その後,リ ボ ンヒー ターに よ り140℃ 以
上 に加 熱 され てい る送給経路 をキャ リアガ ス とともに反
応 管 へ送 給 した。 ボ ンベ に充 填 して い るBC13(沸 点:
12.5℃)は,ボ ンベ の 外 側 か ら ラ バ ー ヒーター に よ り
20℃ 以上 に加 熱 し気化 後,反 応 管へ 送給 した。反応 管
には透 明石 英ガ ラス管(外 径63mm,内 径56.5mm,長
さ1000mm)を 使 用 した。 ま た,補 助 的 に リボ ン ヒー
ターに よ り上部 と下部 を加熱 した。
試料 表面 は耐 水研磨 紙(#1000)で 研磨 し,ア セ トン脱
脂 した。反応管 への取 り付 け は,試 料上部 の4点 穴 に ス
テン レス鋼 ワイヤー ロー プを2本 使用 して反応管 内中央
部 に吊 した。 次 に,反 応ガ ス経路 内 をAr置 換 した後,
反 応管 内 にH、 あ るい はH,とN、 を流 しなが ら,高 周
波誘 導加 熱 によ り加熱 を開始 し,試 料 表面 温度 が900。C
(高周 波 コイル の隙間 を通 して放射温度計 を用 いて測 定)
に達 した時 にTiCi、 の注入 を開始 した。TiB,皮 膜 析 出
の際 に は,同 時 にBCI3の 送 給 も開始 した。予備 実験 に
よ り定 めた基準 とな る成膜 の反 応ガ ス流量 と温度 は次の
通 りであ る。
TiN皮 膜 生成
試料表 面温度;900℃
TiC1、 流量;0.0024mol/min
H2流 量;0.0480mo1/min
N、流量;0.0060mol/min
TiB、 皮膜生成
試料 表面温度;9000C
TiCl、流量;0.0065mol/min
BC13流 量;0.0024mo1/min
H2流 量;0.0480mo1/min
所定の時 間処 理後,H2の み を10分 間送 給 し,次 に,
Arを0.04mo1/minに て送給 を開 始 し,H,の 送 給 と高
周 波 誘 導 加 熱 を 停 止 し,自 然 冷 却 し た。SKD61は
900~950。Cか ら 冷 却 す る と焼 き が 入 る た め,550~
6500Cま で再 加熱 し焼 き戻 しを行 った。焼 き戻 し終 了後,
Arを 送給 しなが ら試料 を冷 却 した。
2.2ア ル ミニ ウム合 金溶湯浸漬試験
浸漬試験 用の試料 は,図1に 示 した形 状の試料 に第1
層 にTiNを6μm,第2層 にTiB2を4μm被 覆(後 述
のNo.3の 条 件で作 製)し た もの を,8等 分 に切 断 して
用いた。 これ を図3に 示 す(切 断面 には被覆膜 はない)。
また,比 較 のため に焼 き入れ,焼 き戻 しを行 った同一寸
法のSKD材 お よびイオ ン窒化処 理 を施 した試 料 も準 備
Fig. 2 Schematic diagram of the CVD apparatus.
Fig. 3 Schematic diagram of specimen for immersion test.
99
642 研 究 論 文 表面技術
した。Al溶 湯温 度 は800℃ で あ る。 用 いた合 金 は鋳 造
用のAC4CHで あ り,そ の化 学 組成(mass%)はSi:
7.1,Mg:0.37,Zn:0.01,Fe:0.15,Mn:0.01,
Ni:0.01,Ti:0.11,Al:balで あ る。 試 験 手 順 は,
まず,Al溶 湯 中 に ワイヤーで 吊 る した試 料 を各 種3本
ずつ浸漬 させ,所 定の時 間(2,4,8h)で 引 き揚 げ,
次に,試 料 にアル ミニ ウム合 金が付着 した ままの状 態で,
樹 脂埋 め し,試 料 下部 よ り10mmの 箇所 にお け る試 料
の肉厚 を光学顕微 鏡 にて測 定 した。耐食性 は肉厚減 で評
価 した。
2.3繰 り返 し加熱冷却試験
試料 は後述 の試料No.3の 条件 で作製 した もので,図
1に 示 した ものをその ま ま用いた。使用 す るアル ミニ ウ
ム合金 は,溶 湯浸 漬試 験 と同様 にAC4CHで ある。試
験 装置の概略 を図4に 示 す。試験法 は,試 料 の下 降時間
1分,ア ル ミニウム合金溶湯 浸漬時間5分,引 上 げ時間
1分,送 風 機 に よる空 冷時間8分 の計15分 間 を要 す る
1連 の動作(以 後,こ れ を1サ イクル と呼ぶ)を 目的の回
数 まで繰 り返 す もので ある。 この時 の試 料表面 の温 度変
化 を図5に 示 す。100回 サイ クル毎 に試料 を装 置 か らは
ず し,表 面 に付 着 したAlを1%硝 酸 アル コール溶 液中
で溶 解後,質 量 を測定 し,外 観の変化 を観察 した。 その
後,再 度装置 に取 り付 け,同 様 の操作 を所定 のサイ クル
数 まで繰 り返 した。 また,300サ イ クル毎 にアル ミニ ウ
ム合金溶湯 を交換 した。
3.実 験 結 果 お よ び 考 察
3.1sKD61鋼 材上 へのTi1B,/TiN皮 膜 形成 の最 適
条件
形 成 され た皮膜 の外観観察 による評価 を以下 の3段 階
で評 価 し,表1に 示 した。
Fig. 4 Schematic diagram of an apparatus for thermal
cycle test.
Fig. 5 Temperature change of specimen during thermal
cycle test.
Table 1 Evaluation of the films formed in various CVD conditions.
A: smooth surface and no flaking off
B: flaked in small spots
C: flaked in some spots
100
Vol.51,Nab,2000cvD法 によ りTiB2/TiN二 層被 覆 したsKD61鋼 の
溶 融Alに おけ る耐浸食性 643
A;滑 らか な表面 で,は く離 が ない。
B;僅 か なは く離が ある。
C;は く離 があ る。
ここでTiB,/TiNの 表示 は第1層 に はTiNが 形 成 され,
その上 に第2層 目のTiB2皮 膜が 形成 され てい る ことを
表 してい る。 成膜 条件No.1で はTiN/TiB2/TiN皮 膜
(第1層 のTiNは6μm,第2層 のTiB2は13μm,第
3層 のTiNは6μm)の3層 皮膜 の形成 を試 みた ところ,
皮膜 にわ ずかな は く離 が生 じた。
No.2は 予備実験 よ り定 めた基準 条件 であ る。 この条
件 では,TiN皮 膜 生 成 はTic1、 流 量 を基 準 にす る と,
H2流 量 は(1)式に基 づ く化 学量 論比 の10倍,N2流 量 は
5倍 とな る。TiB2皮 膜 生 成 に おい て はBCI3流 量 を基
準 に す る と,Tic1、 流量 は5.4倍,H2流 量 は8倍 とな
る。H2,N、 の流量 を化学量論 よ り多 くする こ とに よ り
TiN,TiB2皮 膜 生成反 応の促進 と,反 応 副生 成物 で あ
るHCIを 強制 的 に排気 す る ことが で きる もの と考 え ら
れ る。得 られた膜 厚 は第1層 のTiNが6μm,第2層
のTiB,が8μm,計14μmで あ り,皮 膜 にわ ずか な は
く離 がみ られ た。TiB、,TiN,SKD61の 熱膨張 係数 の
一 例 と し てTiB27):8―3×10―6/℃,TiN8):9.4×
10―6/℃,SKD61:13×10―6/℃(合 金 組 成 か ら の 推 定
値9))を採用 す る と,円 筒状 の試料 にお いて膜 厚 が この
条件 よ り厚 い場合 に は,成 膜後 冷却時 に外壁 で引 っ張 り
応 力,内 壁で圧縮 応力が無視 で きな くな り,皮 膜 がは く
離 を起 こす と考 え られ る。予備 実験 にお いて,TiB、 皮
膜 お よびTiN皮 膜 は12μm以 上 にな るとは く離 の可 能
性 が特 に外壁側 におい て高 くな る こ と,ま た,SKD61
材 上 に直接 形成 したTiB2皮 膜 はTiN皮 膜 と比 較 して
皮膜 形成後 の早期 に皮膜 がは く離す る ことが確認 されて
い る。 そ こでNo.3以 降の皮膜 の厚 さを単 純 にTiB2皮
膜 は12μmの1/3の4μmと し,TiN皮 膜 は12μmの
1/2の6μmと した。No.3は,水 素 流 量 をNo.2の
1.5倍 とした際の結果 であ る。皮膜 の表 面形 態 は全 く平
滑 で あ り,は く離,亀 裂 は一切 み られ な かった。試 料
No.3は 反 応 ガ ス の 流 速 も常 温 で2.6XlO―4m/sか ら
3.0×10―4m/sと 速 くなった ことで,試 料 表面 へ の反 応
ガスの送給 と表面か らの反応生成 ガス(HC1)と 未反 応 ガ
スの排 出がスムー ズにな り,皮 膜性状 が向上 した と考 え
られ る。No.4はBCI3流 量 を試 料No.2の1.5倍 と し
た。皮膜 にわず かな は く離が み られ た。No.5は 皮 膜析
出順序 を入 れ替 え,第1層 にTiB2を 成膜 し,第2層 に
TiNを 成膜 し,基 材 と被覆 が よ りは く離 しや す い条件
を設定 した もので ある。 結果 は皮膜 の密着性 が極 めて悪
く,基 材 とTiB,皮 膜 の 中間 層 にTiN皮 膜 の必 要 性 が
再認識 された。試料No.6は 試料表面 の前 処理 を,化 学
研 磨(0。01N-HCI中 に60分 間 浸 漬)→ 研 磨(1000番)→
アセ トン洗浄 に変更 した ものであ るが,皮 膜 の密着性 は
む しろ悪化 した。予 備 実験 お よ び本 実 験 よ り,TiB2/
TiN皮 膜の膜 厚は,2層 合 わせ て10μmが 適 当 であ り,
14μm以 上 に な る と皮 膜 形 成 時 の 自然 冷 却 の 過 程 で
TiB2,TIN,sKD61の 熱膨張係 数の差 か らは く離 を起
こす こ とが確 認 され た。なお,皮 膜 の は く離 は早 い時で
冷却後30min,遅 い時で24hで 開始 した。
本研 究で用 いた 反応管 サ イズ(内 径56.5㎜ ×長 さ1
m)と 円 筒 形SKD61試 料 サ イズ(外 径40mm× 内径28
mm× 長 さ60mm)で のTiB,/TiN皮 膜 形 成の 最適 条件
はNo.3で あ り,そ れ を次 に示す。
本研究 にお ける最適 皮膜 形成条件
(1)TiN皮 膜析 出
試料表 面温度;900℃
TiC14流 量;0,0024mol/min
H2流 量;0.0576mol/min
N2流 量;0.0060mo1/min
析 出時間:15min(膜 厚6μm)
(2)TiB2皮 膜 析 出
試料 表面温度:9000C
TiCl4流 量:0.0065mo1/min
BCI3流 量;0.0024mo1/min
H2流 量;0.0576mo1/min
析 出時間;8min(膜 厚4μm)
3.2ア ル ミニウ ム合金 溶湯浸漬試験
3.2.1浸 漬試 料 の溶 融 アル ミニ ウム に よる溶 損 の
進行
図6に 示 した溶湯浸漬後 の試料 の断面 写真 か らわか る
よ うに,TiB2/TiN皮 膜 は溶融 アル ミニ ウム による損 傷
を受 けて お らず,ア ル ミニ ウム の溶損 に対 し優れ た保護
特性 を持 つ ことがわ かる。 しか し,本 浸漬実験 で用いた
被 覆試料 の側 面部分(切 断面)は むき出 しになってい るた
Fig.6 Cross-sectional micrograph of TiB2/TiN coated
sample immersed for 4h in melted aluminum alloy.
101
644 研 究 論 文 表面技術
め,ま ず,被 覆 され ていない側面部分 か ら浸食 され,次
にTiB2/TiN皮 膜 と基 材 表 面 の 境 界 部 分 か らTiB2/
TiN皮 膜 に亀裂 が 入 り,削 りと られ る よ うに溶 損 が進
行 した。16h後 に はTiB2/TiN皮 膜 の部 分 は残 って い
るもの の,基 材の大部分 は溶損 して しまった。
一方,被 覆が施 されてい ないSKD61の 場合 は試料表
面 か らの浸食 とは く離の繰 り返 しで溶損が進 行 した。
3.2.2浸 漬 後の試料 の厚 さの経時 変化
TiB2/TiN皮 膜 は,皮 膜 の損傷 がな い限 りは基材 を保
護 してい るが,皮 膜 自体 に微小 亀裂や は く離が ある箇所
か らアル ミニウム合金が侵入 し,基 材 を浸 食 した。 浸漬
後 の試料の厚 さの経時変化 を図7に 示 す。厚 さは,そ れ
ぞれ の試料 につい て10箇 所 で測定 した。 これ に よる と
2h後 は3種 類 とも厚 さの変化 に大差 は見 られない。 し
か し,イ オ ン窒化処理 と未処理試料 につ いては,4h後
に急激 に試 料厚 さを減 じてい る。 この こ とは2hの 時点
です でにアル ミニ ウム合金 による浸 食反応 は進行 してお
り,2~4hの 間 で一気 に表面が は く離 し,そ の後,小
刻 みには く離 を繰 り返 した もの と推 定 され る。浸食深 さ
が イオ ン窒化試料 の方が浅 いので,浸 漬初 期の耐浸食性
に効果 があ った と考 えられ る。4~8hの 間での浸食 深
さの 変化 は両試 料 と もほ ぼ同 じと なって い る。TiB2/
TiN被 覆試 料 の デー タの最 上部 の点 は全 く浸食 され て
いない箇所 に もかかわ らず,浸 漬時 間の経過 とともに厚
さが初 期値 よ り2~3%減 少 してい るよ うに見 え る。
これ は,浸 漬 前のSKD61鋼(基 材)は 冷却 時に生 じた マ
ルテ ンサ イ ト変 態 に と もな い,基 材 は膨 張 した が(マ ル
テ ンサ イ ト変態 に よる膨張 は最 高約4%lo)と 言 われ て
いる),2~4hの 浸潰 中 に焼 鈍(硬 さ試 験 よ り推 定)さ
れ,膨 張 前の寸法 に戻 った ため と考 え られる。寸法変化
が終了 してい る4~8h間 におけ る浸食深 さの変化 は,
TiB2/TiN被 覆試料 の場 合 は他の2種 の試 料 の1/5程
度 であ り,TiB2/TiN皮 膜 の耐浸 食性が格段 に優れ てい
る ことが認 め られた。皮膜 自体 に問題 がな けれ ば完 全 に
皮膜 を保 護す る もの と確信 され る。
3.3繰 り返 し熱応 力は く離試験
実験 開始後500サ イクルで試料下部 のエ ッジの微 小 な
範 囲に は く離 が認 め られた。エ ッジの部分 は皮膜 応力が
最 も高 い と ころで あ るが,基 材 の溶 損 まで に は至 らな
か った。2500サ イ クル まで繰 り返 し熱 応力 は く離 試験
を行 ったが,試 料 内壁 表面 部 分 の は く離 は認 め られ な
か った。2500サ イ クル後 の外 観写 真 を図8に 示 す。試
料下部 のエ ッジ周辺 に損傷 が認 め られ る。 サ イクル回数
と質量 の関係 を図9に 示 す。 これ によ ると,試 験 を繰 り
返 す毎 に ご くわずかず つ試料 質量が減 少 して いるが,こ
の減少 の主た る原因 はエ ッジ部分の皮膜 の は く落 に よる
もの と考 え られ る。 これ らの こ とよ り,プ ランジ ャー ス
リーブへの被 覆 を考 えた場 合,実 際 に被覆 する箇 所が鋼
管 内面 に相 当す る部 分 であ る ことを考慮 す る と2500サ
イ クル以 内におい てはは く離 の問題 はない と思われ る。
なお,2500サ イ クル までの浸漬時 間の累積 は208hに 達
す るに も関わ らず,エ ッジ周辺 の皮膜 は く離部分 で露 出
Fig. 7 Relation between the thickness of samples and the
immersing time in melted aluminum alloy.
Fig. 8 Appearance of TiBz/TiN coated steel after thermal cycle test of 2500 times.
The photograph was taken after chemical removing
of aluminum adhered to sample.
102
Vol.51,Nab,2000cvD法 に よ りTiB2/TiN二 層被覆 したsKD61鋼 の
溶融A1に お ける耐 浸食性 645
した基材 に浸食 が起 こってい ない。 この理 由 として,質
量測定 毎 に試料 に付 着 した アル ミニ ウム合金 を1%硝
酸アル コール溶 液で溶解 し乾 燥 したが,そ の過程 で生成
した酸化膜 が溶 融 アル ミニ ウム合金 に対 し保護皮膜 とし
て作用 し,そ の効 果が1回 の浸漬時 間(5min)程 度 は持
続 した こ とが考 えられ る。
4.結 言
cvD法 に よ りsKD61鋼 管 内 外表 面 にTiB2/TiN皮
膜 を形成 し,ア ル ミニ ウム合金溶湯浸 漬試験 お よび繰 り
返 し熱応力 は く離試験 にて皮膜 の評価 を行 い,以 下の結
果 を得 た。
(1)CVD法 でSKD61材 表 面 に は く離 を生 じさせ な い
TiB、 皮膜 を形 成 させ る際に は中間層 としてTiN皮 膜 は
有 効 で あ り,ま た,そ の膜 厚 と してTiB、 は4μm,
TiNは6μmが 適 当であ った。
(2)TiB2/TiN被 覆処 理 はイオ ン窒化 処理 よ りも溶 融 ア
ル ミニウム に対 する耐食性 は大 幅 に優れ てい る。欠陥 が
な いTiB、/TiN皮 膜 を形成 で きれ ば耐溶 融 アル ミニ ウ
ム性 をさ らに向上 す るこ とが示唆 された。
(3)繰 り返 し熱 応力 は く離試 験 の結果,500サ イ クル で
試料下部 のエ ッジの部 分で微小 な範 囲で のは く離 はみ ら
れた が,2500サ イ クル で も試 料 内表面 で の は く離 は み
とめられなか った。
(Received October 14, 1999 ; Accepted February 24, 2000)
文 献
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Fig. 9 Change of mass of specimen in thermal cycle test.
103