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41 CVT セッション はじめに 血管診療技師(CVT:Clinical Vascular Technologist)は当センターに5名在籍、当院の脈 管診療には欠かせない存在となっている。CVTの業務は、脈管領域の無侵襲診断、医師による 侵襲的診断・治療の介助まで多くの診療に貢献している。脈管領域の検査であるABI(ankle brachial pressure index:ABPI,API も同義語)は比較的簡便で再現性の良い検査だが、ピ ットフォールも多く存在する。 ABIの評価 ABIは正確に血圧測定ができていれば健常肢で0.9未満になることはない。しかし、0.9以上で も狭窄病変が存在することもあり、ABIは確定診断ではなくあくまでもスクリーニング検査であ る。ABIは病態によって過小評価する場合も多く、結果報告する際には注意を要する。ABIのみ 検査をしていると分かない場合あり、身体所見(問診・視診・聴診)や他のモダリティを考慮す る必要がある。正常範囲は0.9 以上1.3 未満.この値であれば膝窩より中枢側の高度狭窄や閉 塞などによる有意な血流低下の可能性が低い.0.9 ~ 1.0:border line.0.9 未満:下肢動脈に 有意狭窄または閉塞の存在を疑う。0.4 未満:安静時疼痛が発生する重症虚血肢を疑う。0.25 未満:患肢切断の恐れのある重度のPAD を疑う。1.3 以上:圧迫不能の下肢動脈壁石灰化疑い、 上肢動脈の狭窄を確認、TBI測定が望ましい。 TBIの評価 足趾上腕血圧比TBI(toe-brachial pressure index:TBI)は上腕の血圧と足趾血圧の比(足 趾の最高血圧を上腕の最高血圧で割った値)であり、足首動脈石灰化が強い場合などに測定され る。TBI の基準値は0.7 以上であり、0.6 以下の場合には下肢動脈に閉塞や狭窄の存在を疑う。 糖尿病や透析患者では下腿動脈壁の石灰化が起こりやすく、ABIが正確に測定できない症例が見 られる。足趾動脈は石灰化の影響が少ないため、石灰化の強い症例などABIが評価困難な場合に 有効である。糖尿病や透析患者のような石灰化が疑われる症例では、ABI が1.3 未満であって も血管石灰化による偽正常化があるため、TBI の実施が推奨される。また、バージャー病では末 梢動脈優位に病変が見られるため,全症例でTBI の測定が望ましい。当院では、ABI結果が1.3 以上や身体所見と合わない場合、末梢動脈の病変が疑われた場合にABIとTBIを合わせて施行し ている。 ■ 注意点 血圧脈波測定時の注意点として、来院してすぐ測定すると、下肢に閉塞性病変がある患者は運動 負荷後のように足関節の血圧低下が起きている可能性がある。健常者では 5分、下肢虚血が疑 われる患者では 15分程度の安静時間が必要であるが、実際はベッド上での安静時間を取ること は難しい。当院では待合室を近い位置に設けることで待ち時間を安静時間とし、同時に施行する 心電図検査を先に行うことで10分~ 15分程度の安静時間を確保できている。その他、食後、 喫煙については 2 時間は控えるほうが望ましく、環境温度も22 ~ 25℃に保ち血圧変動の影 ○三木 俊 東北大学病院生理検査センター診療技術部生理検査部門 CVT からみた ABI 検査の実際とピットフォール C-1

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CVTセッション

■ はじめに

血管診療技師(CVT:Clinical Vascular Technologist)は当センターに5名在籍、当院の脈管診療には欠かせない存在となっている。CVTの業務は、脈管領域の無侵襲診断、医師による侵襲的診断・治療の介助まで多くの診療に貢献している。脈管領域の検査であるABI(ankle brachial pressure index:ABPI,API も同義語)は比較的簡便で再現性の良い検査だが、ピットフォールも多く存在する。

■ ABIの評価

ABIは正確に血圧測定ができていれば健常肢で0.9未満になることはない。しかし、0.9以上でも狭窄病変が存在することもあり、ABIは確定診断ではなくあくまでもスクリーニング検査である。ABIは病態によって過小評価する場合も多く、結果報告する際には注意を要する。ABIのみ検査をしていると分かない場合あり、身体所見(問診・視診・聴診)や他のモダリティを考慮する必要がある。正常範囲は0.9 以上1.3 未満.この値であれば膝窩より中枢側の高度狭窄や閉塞などによる有意な血流低下の可能性が低い.0.9 ~ 1.0:border line.0.9 未満:下肢動脈に有意狭窄または閉塞の存在を疑う。0.4 未満:安静時疼痛が発生する重症虚血肢を疑う。0.25 未満:患肢切断の恐れのある重度のPAD を疑う。1.3 以上:圧迫不能の下肢動脈壁石灰化疑い、上肢動脈の狭窄を確認、TBI測定が望ましい。

■ TBIの評価

足趾上腕血圧比TBI(toe-brachial pressure index:TBI)は上腕の血圧と足趾血圧の比(足趾の最高血圧を上腕の最高血圧で割った値)であり、足首動脈石灰化が強い場合などに測定される。TBI の基準値は0.7 以上であり、0.6 以下の場合には下肢動脈に閉塞や狭窄の存在を疑う。糖尿病や透析患者では下腿動脈壁の石灰化が起こりやすく、ABIが正確に測定できない症例が見られる。足趾動脈は石灰化の影響が少ないため、石灰化の強い症例などABIが評価困難な場合に有効である。糖尿病や透析患者のような石灰化が疑われる症例では、ABI が1.3 未満であっても血管石灰化による偽正常化があるため、TBI の実施が推奨される。また、バージャー病では末梢動脈優位に病変が見られるため,全症例でTBI の測定が望ましい。当院では、ABI結果が1.3 以上や身体所見と合わない場合、末梢動脈の病変が疑われた場合にABIとTBIを合わせて施行している。

■ 注意点

血圧脈波測定時の注意点として、来院してすぐ測定すると、下肢に閉塞性病変がある患者は運動負荷後のように足関節の血圧低下が起きている可能性がある。健常者では 5分、下肢虚血が疑われる患者では 15分程度の安静時間が必要であるが、実際はベッド上での安静時間を取ることは難しい。当院では待合室を近い位置に設けることで待ち時間を安静時間とし、同時に施行する心電図検査を先に行うことで10分~ 15分程度の安静時間を確保できている。その他、食後、喫煙については 2 時間は控えるほうが望ましく、環境温度も22 ~ 25℃に保ち血圧変動の影

○三木 俊東北大学病院生理検査センター診療技術部生理検査部門

CVTからみたABI 検査の実際とピットフォールC-1

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響も考慮する。また、緊張感を和らげ、リラックスできる体位、検査の説明を十分に行い、患者の協力を得ることも重要である。

■ 最後に

ABI の測定は自動血圧計で簡便になったが、正確に測定できているかを判断するのは検査者の役割であり、四肢の血圧だけでなく脈波の% MAP(Mean Arterial Pressure)や下肢のUT (Upstroke Time)なども考慮して報告する必要がある。また、検査前に理学的所見などの問診・視診・触診を得てから測定し、CVTからみた数値の妥当性を評価することも重要である。