改変decs法あるいはrca法のngsとの組み合わせによる 果樹類 …

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植物防疫所調査研究報告(植防研報) 56 号:25 30 令和 2 年(2020資    料 改変 DECS 法あるいは RCA 法の NGS との組み合わせによる 果樹類苗木等からのウイルス検出法の調査 勝 幸司 1) ・城戸 剛 2) ・大矢 仁志 横浜植物防疫所 Detection Method of Viruses in Fruit Tree by Next-Generation Sequencing used DECS method modified or RCA method. Koji KATSU 1) , Go KIDO 2) and Hitoshi OYA (Yokohama Plant Protection Station, 557 Kitanakadori, Naka- ku, Yokohama, 2310003 JAPAN. 1) Tokyo Sub-station, Yokohama Plant Protection Station. 2) Plant Protection Division, Food Safety and Consumer Affairs Bureau, MAFF). Res. Bull. Pl. Prot. Japan 56: 25-30 (2020) Abstract: In post-entry plant quarantine, there are cases where pathogenic viruses are not detected by prescribed detection methods such as indexing, ELISA and RT-PCR, although the inspected plants exhibit symptoms that appear to be viral diseases. So, we investigated the DECS method, a detection method for plant RNA viruses, to solve this problem. The DECS method employs sequencing the cDNA of double-stranded RNA isolated from plant samples. The detection sensitivity is limited by the capability of the sequencer. Hence, we replaced the cloning and sequencing steps of the DECS method with a next-generation sequencer (NGS) to improve the detection sensitivity. In addition to the method, we attempted to combine the NGS with the rolling circle amplification (RCA) method that exponentially amplifies only circular DNA, and was employed for DNA viruses. Arranging the above-mentioned methods, a detection method for elusive viruses was developed, and four plant viruses could be confirmed from four plants which were assumed to have viral diseases. Key Words: virus, detection, DECS method, RCA, NGS 緒  言 我が国の植物検疫で隔離検疫対象と定められた果樹類苗木等 に実施する検査において、ウイルス病様の症状が確認されなが らも所定の手法(ELISART-PCR、生物検定等)でウイルス 等が直ちに検出されず病原の特定に長期間を要する場合があ る。そこで、これまで我々はこのような事例への対処として、 植物ウイルスの多くを占める RNA ウイルスをターゲットとし た網羅的検出技術である DECS 法(Kobayashi et al., 2009)に 着目し、隔離栽培検査における利用の可能性について検討して きた(勝ら、2019)。 DECS 法は二本鎖 RNA(以下、 dsRNA: double-stranded RNA結合蛋白質(以下、DRBdsRNA binding protein)を用いて単 離した dsRNA を網羅的に逆転写・増幅して得られた DNA 片について、クローニングにより個々の DNA 断片を分離した 上で塩基配列を解読することでウイルスを検出する手法である Kobayashi et al., 2009)。解読する DNA 断片の数とそれに要す る時間は用いるシーケンサーに依存することとなるが、3130 ジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific 社)にて シーケンスを行う場合(キャピラリー数; 4 本、キャピラリー長; 50cm、プログラム;fast)、シーケンサーにサンプルをセット した後、丸一日(24 時間)シーケンサーを稼働させても塩基 配列を解読できる DNA 断片数は 100 程度である。さらに DRB により単離した dsRNA の濃度が低く、セルロースパウダーを 充填したカラム(以下、セルロースカラム)を用いる dsRNA 離法を併用しないと検出が難しい場合があり、また、併用して もウイルス種によっては検出感度が高くない事例があった(勝 ら、2019)。一方、近年、塩基配列を短時間で大量に解読できる 次世代シーケンサー(以下、NGSnext-generation sequencerが普及しつつあり、ウイルス診断の新たな手法としても注目さ れている(Boonham et al., 2014)。NGS は、数十万本以上の DNA 群に対して同時並行で DNA 鎖のシーケンスを行えるた 1) 横浜植物防疫所東京支所 2) 消費・安全局植物防疫課

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植物防疫所調査研究報告(植防研報)第 56号:25~ 30 令和 2年(2020) 資    料

改変 DECS 法あるいは RCA 法の NGS との組み合わせによる 果樹類苗木等からのウイルス検出法の調査

勝 幸司 1)・城戸 剛 2)・大矢 仁志

横浜植物防疫所

Detection Method of Viruses in Fruit Tree by Next-Generation Sequencing used DECS method modified or RCA

method. Koji KATSU1), Go KIDO2) and Hitoshi OYA (Yokohama Plant Protection Station, 5‒57 Kitanakadori, Naka-

ku, Yokohama, 231‒0003 JAPAN. 1) Tokyo Sub-station, Yokohama Plant Protection Station.2) Plant Protection

Division, Food Safety and Consumer Affairs Bureau, MAFF). Res. Bull. Pl. Prot. Japan 56: 25-30 (2020)

Abstract: In post-entry plant quarantine, there are cases where pathogenic viruses are not detected by prescribed

detection methods such as indexing, ELISA and RT-PCR, although the inspected plants exhibit symptoms that

appear to be viral diseases. So, we investigated the DECS method, a detection method for plant RNA viruses, to

solve this problem. The DECS method employs sequencing the cDNA of double-stranded RNA isolated from plant

samples. The detection sensitivity is limited by the capability of the sequencer. Hence, we replaced the cloning

and sequencing steps of the DECS method with a next-generation sequencer (NGS) to improve the detection

sensitivity. In addition to the method, we attempted to combine the NGS with the rolling circle amplification (RCA)

method that exponentially amplifies only circular DNA, and was employed for DNA viruses. Arranging the

above-mentioned methods, a detection method for elusive viruses was developed, and four plant viruses could be

confirmed from four plants which were assumed to have viral diseases.

Key Words: virus, detection, DECS method, RCA, NGS

緒  言

我が国の植物検疫で隔離検疫対象と定められた果樹類苗木等に実施する検査において、ウイルス病様の症状が確認されながらも所定の手法(ELISA、RT-PCR、生物検定等)でウイルス等が直ちに検出されず病原の特定に長期間を要する場合がある。そこで、これまで我々はこのような事例への対処として、植物ウイルスの多くを占める RNAウイルスをターゲットとした網羅的検出技術である DECS法(Kobayashi et al., 2009)に着目し、隔離栽培検査における利用の可能性について検討してきた(勝ら、2019)。

DECS法は二本鎖 RNA(以下、dsRNA: double-stranded RNA)結合蛋白質(以下、DRB:dsRNA binding protein)を用いて単離した dsRNAを網羅的に逆転写・増幅して得られた DNA断片について、クローニングにより個々の DNA断片を分離した上で塩基配列を解読することでウイルスを検出する手法である

(Kobayashi et al., 2009)。解読する DNA断片の数とそれに要する時間は用いるシーケンサーに依存することとなるが、3130

ジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific社)にてシーケンスを行う場合(キャピラリー数;4本、キャピラリー長;50cm、プログラム;fast)、シーケンサーにサンプルをセットした後、丸一日(24時間)シーケンサーを稼働させても塩基配列を解読できる DNA断片数は 100程度である。さらに DRB

により単離した dsRNAの濃度が低く、セルロースパウダーを充填したカラム(以下、セルロースカラム)を用いる dsRNA単離法を併用しないと検出が難しい場合があり、また、併用してもウイルス種によっては検出感度が高くない事例があった(勝ら、2019)。一方、近年、塩基配列を短時間で大量に解読できる次世代シーケンサー(以下、NGS:next-generation sequencer)が普及しつつあり、ウイルス診断の新たな手法としても注目されている(Boonham et al., 2014)。NGSは、数十万本以上のDNA群に対して同時並行で DNA鎖のシーケンスを行えるた

1) 横浜植物防疫所東京支所2) 消費・安全局植物防疫課

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26 植 物 防 疫 所 調 査 研 究 報 告 第56号

め、塩基配列の高速・大量な決定が可能という特徴をもつ。実際にこれを利用した植物ウイルスの検出や新規ウイルスの発見事例等が報告されている(Adams et al., 2009; Al Rwahnih et al.,

2009; Giampetruzzi et al., 2012; Al Rwahnih et al., 2015; Maliogka

et al., 2015; Yanagisawa et al., 2016)。そこで、DECS法のクローニング及びシーケンスの工程を NGSに置き換えることにより検出感度及び時間効率の向上が期待される。また、植物ウイルスの多くは RNAウイルスだが、中には

DNAウイルスも存在する。植物の DNAウイルスのゲノムは、一本鎖および二本鎖に関係なく環状構造を持つ特徴があることから(吉川ら、2015)、環状 DNAのみを指数関数的に増幅するrolling circle amplification(以下、RCA法)を用いてウイルスの DNAを増幅後、RNAウイルスと同様に、NGSでの解読を試みた。これらの結果から、隔離栽培検査における NGSを用いた果樹類苗木等からのウイルス検出法を検討したので報告する。

材料及び方法

1.供試株核酸抽出法の選定には、ブルーベリー(品種;Spartan)、ブドウ(品種;Riparia Gloire de Montpellier)、西洋ナシ(品種;Beurre Hardy)及びモモ(品種;GF305)の各健全植物の生葉、並びに農林水産大臣の許可を得て導入した Blueberry shoestring

virus(BSSV)に感染したスノキ属(Vaccinium spp.)の穂木を接木接種したハイブッシュブルーベリー生葉(以下、BSSV

感染ブルーベリー生葉)及び中国産 Grapevine fanleaf virus

(GFLV)等混合感染ブドウ生葉(以下、GFLV等感染ブドウ生葉)を供試した。また、dsRNA単離法の比較には、GFLV等感染ブドウ生葉

及びアメリカ産 Apple stem pitting virus(ASPV)等混合感染リンゴ生葉(以下、ASPV等感染リンゴ生葉)を供試した。加えて、DNAウイルスの検出には、農林水産大臣の許可を得て導入したドイツ産 Grapevine geminivirus A(GGVA)感染ブドウ生葉並びに国内産 Blueberry red ringspot virus(BRRV)感染ブルーベリー生葉を供試した。

2.RNA抽出法の選定勝ら(2019)の手法、すなわち、PVP- カリウム SDS 法

(Dellaporta et al.(1983)の抽出バッファーに 3.3%ポリビニ

ルピロリドン(PVP) M.W.40Kを添加)にて全核酸を抽出し、ISOGEN(ニッポンジーン社)により全 RNAを単離した後、RNeasy Plant Mini kit(QIAGEN社)を用いて精製を行う手法と Xiao et al.(2015)の手法(Spectrum Plant Total RNA Kit

(SIGMA ALDRICH社)の lysis bufferに PVP M.W. 40Kを 2.5%となるように添加)を比較した。ブルーベリー生葉、ブドウ生葉、西洋ナシ生葉及びモモ生葉から各々葉柄を中心に葉身を含む 100mgの組織片を切り出し、上記の両法それぞれの磨砕バッファー溶液中に、BSSV感染ブルーベリー生葉から PVP-カリウム SDS法にて抽出した核酸溶

液 10µlを添加した上で両手法により RNAを抽出し、最終的に50µlの滅菌水で溶解した。これらの RNA溶液を鋳型とし、添加した BSSVを対象に、

Yanagisawa et al.(2016)が設計したプライマー・プローブを用いてリアルタイム RT-PCRを行った。TaqMan® RNA-to-Ct™

1-Step Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用い、F/R各プライマー 0.3µM、プローブ 0.2µMの濃度で反応液を調製し、各試料 2点並行で 48℃ 15分、95℃ 10分、(95℃ 15秒、60℃ 1分)を 40サイクルの条件にて StepOnePlus™ Real-Time PCR System

(Thermo Fisher Scientific社)を用いて増幅を行い、両手法のコピー数を比較するとともに、添加した BSSVゲノムの回収率を算出した。次に、ブドウ及び西洋ナシを用いて抽出した RNAを基に単

離した dsRNAを鋳型として、下記4.の方法により NGSを用いて解読し、全リードに占めるウイルス由来リード数を調べた。加えて、GFLV等感染ブドウ生葉から dsRNAを抽出して、

下記4.の方法により NGSでの解読を試みた際、核酸抽出の段階で DNAが混入していることが疑われたため、DNaseをカラムへ添加する工程を付加することを検討した。

3.dsRNA単離法の比較GFLV等感染ブドウ生葉及び ASPV等感染リンゴ生葉から葉

柄を中心に葉身を含む 100mgの組織片を切り出し、上記2.で選定した抽出法により、RNA抽出を行った。続いて、ブドウは 5µg、リンゴは 10µgとなるよう RNA量を調整した溶液を作製した。比較する dsRNA単離法は、dsRNA結合蛋白質(以下、DRB)及びセルロースパウダーを充填したカラム(以下、セルロースカラム)を用いる手法とした。DRBは、それぞれのRNA溶液について Plant Viral dsRNA Enrichment Kit(MBL社)を用いてキット付属のプロトコルに従って処理を行い、最後に30µlの TEバッファーを用い dsRNAを溶出することで単離を行った。他方、セルロースカラムについては、大木(2009)のプロトコルを参考に行ったが、STE(0.1M NaCl, 0.05M Tris,

0.001M Na2EDTA, pH 7.0)-16%エタノール緩衝液中に CF-11

セルロースパウダー(Whatman社)0.03gを添加し(大木の1/10スケール)、そこに RNA量を調整した溶液を添加した。最終的に得られた沈殿を 30µlの滅菌水で溶解して dsRNAを単離した。ブドウ及びリンゴから DRB及びセルロースカラムそれぞれ

の手法にて単離した dsRNAを下記4.の方法により NGSを用いて解読し、全リードに占めるウイルス由来リードの割合を比較した。

4.NGSを用いた塩基配列の決定及び解析単離した dsRNAを鋳型として、Complete Whole Transcriptome

Amplification Kit(SIGMA ALDRICH社)を用いて網羅的逆転写・増幅(以下、WTA)を行った。WTA反応は、勝ら(2019)と同様に行い、得られたWTA産物を精製後、Ion Xpress Plus

Fragment Library Kit (Thermo Fisher Scientific社)を用いて次世代シーケンサー(NGS、Ion PGM、Thermo Fisher Scientific

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2020年12月 勝ら:改変 DECS法あるいは RCA法のNGSとの組み合わせによる果樹類苗木等からのウイルス検出法 27

社)で解読するためのライブラリを作製した。作製したライブラリは、Ion Chef及び Ion PGM Hi-Q View Chef Kit(Thermo

Fisher Scientific社)を用い、Ion PGMによるシーケンスに用いるサンプルを調製し、半導体チップに充填した。サンプル充填されたチップは Ion PGM及び Ion PGM Hi-Q View Sequencing

Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用い、シーケンスを行った。解読された全配列は、NCBI(National Center for Biotechnology

Information; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)が公開しているウイルスゲノムの参照配列を取り込んだ CLC Genomics Workbench

(CLC Bio)を用いてマッピング(相同性部分の決定)した。

5.RCA法を用いたDNAウイルスの検出植物 DNAウイルスは、植物 RNAウイルスに特異的な dsRNA

を持たないため、dsRNAを単離する手法では DNAの混入がない限り、原理的には検出できない。そこで、Kathurima et al.

(2016)の手法を参考に、環状 DNAを指数関数的に増幅させる rolling circle amplification法(以下、RCA)を用いることで、植物 DNAウイルスを NGSで検出することを試みた。

GGVA感染ブドウ生葉並びに BRRV感染ブルーベリー生葉を供試し、PVP-カリウム SDS法にて全核酸を抽出後、TempliPhi

DNA Amplification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて RCAを実施した。次に、増幅された産物を基に、上記4.の Ion Xpress Plus

Fragment Library Kit (Thermo Fisher Scientific社)を用いたライブラリの作製及び以下の作業にて NGSを用いて解読し、全リードに占めるウイルス由来リードの割合を比較した。

結果及び考察

1.RNA抽出法の選定より純度が高い RNAを効率よく植物から抽出する方法を選定するため、勝ら(2019)の手法と Xiao et al.(2015)の手法により、予め既知のウイルス(BSSV)ゲノム RNA溶液を添加した 4種の植物試料から抽出した RNA溶液を鋳型とし、BSSV

を対象としたリアルタイム RT-PCRを行った。その結果を比較すると、ブルーベリー、西洋ナシ及びモモについては Xiao et

al.(2015)の手法の方が勝ら(2019)の手法よりコピー数が多く、ブルーベリーで約 2.6倍、西洋ナシで約 7倍、モモで約 2.9

倍であった。一方、ブドウについては勝ら(2019)の手法がXiao et al.(2015)の手法よりコピー数が多く、約 2倍であった(Fig. 1)。

また、各手法における植物種間でのコピー数の差は最大でXiao et al.(2015)の手法で約 2.7倍(モモとブドウ)、勝ら(2019)の手法で約 7.7倍(ブドウと西洋ナシ)となった。加えて、添加したウイルス RNAのコピー数を基にその回収率を算出すると、Xiao et al.(2015)の手法で約 59%(モモ)から約 22.3%(ブドウ)、勝ら(2019)の手法で約 45%(ブドウ)から約 5.8%(西洋ナシ)となった。これらの結果から、Xiao et al.(2015)の手法の方が安定して RNAを得られることが示唆された。さらに、これら抽出 RNAの内、唯一勝ら(2019)の手法の

方がコピー数の多かったブドウ及び Xiao et al.(2015)の手法と勝ら(2019)の手法とでコピー数の開きが最も大きかった西洋ナシについて、dsRNA由来網羅的増幅産物を基にライブラリを作製し、NGSを用いて解読した。なお、ライブラリ作製過程における DNA断片化の 37℃インキュベート時間はプロトコル記載の範囲内で比較試験を行い、目的とする断片長割合の最も高かった 10分間を選定した。その結果、ブドウ及び西洋ナシ共に Xiao et al.(2015)の手

法の方が全リードに占めるウイルス由来リード数が多かった(Table 1)。また、勝ら(2019)の手法は約 4.5時間を要するのに対し、

Xiao et al.(2015)の手法は約 1.5時間で終えることができる。これらのことから RNA抽出には Xiao et al.(2015)の手法が適

Fig. 1. The comparison between RNA extraction methods by TaqMan real-time RT-PCR assay.

Equal volume of Blueberry shoestring virus (BSSV) RNA was added to each of four plant materials and RNA was extracted in equal volume of solution by following two methods, A; Katsu et al. (2019), B; Xiao et al. (2015) BSSV was targeted to TaqMan real-time PCR. BSSV means the viral RNA adjusted to the dilution ratio in procedure of extraction, i.e. if the recovery rate is 100%, copy numbers of each extract should correspond to BSSV.

Pear PeachGrapevineBlueberryBSSVBABABABA

1000000

100000

10000

Copy

num

ber

Table 1. The comparison between RNA extraction methods by percentage of agent reads.

The same extracts as Fig. 1 were used.A; Katsu et al. (2019), B; Xiao et al. (2015)

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すると考えられた。加えて、GFLV等感染ブドウ生葉から Xiao et al.(2015)の

手法で RNAを抽出して NGSで解読したところ、DNAウイルスであるGGVAにヒットするリードが多数検出され(1,455リード)、RNA抽出時に宿主由来のものを含めて DNAが混入していることが疑われた。そのため、カラムへの DNase添加を工程へ加えたところ、GGVAのリードは 77と、全リード数を勘案すると約 25分の 1に減少した一方、RNAウイルスやウイロイドのリードは概ね増加した(Table 2)。このことから、DNase添加は DNAの排除に有効だと判断し採用することとした。

2.dsRNA単離法の比較GFLV等感染ブドウ生葉及び ASPV等感染リンゴ生葉から

DRB及びセルロースカラムの二法によりそれぞれ単離したdsRNAを NGSにより解読し、全リードに占めるウイルス由来リードの割合を比較した。その結果、大部分のウイルスで DRBの方がウイルスリードの割合が高く、特にウイロイドはセルロースカラムでの検出率が非常に低かった。勝ら(2019)が隔離栽培検査での利用を検討した結果、セルロースカラム法による dsRNA単離を併用することでより慎重な手法になると結論づけられたが、従来のシーケンサーに代えて多量の塩基配列を解読できる NGSを用

いるのであれば、dsRNA単離能に多少の差異があるとしても二法を併用する必要性は低いと考えられた。所要時間短縮及び労力軽減の観点からもセルロースカラム法を併用するのではなく、DRB法のみを用いることとした(Table 3)。

3.RCA法を用いたDNAウイルスの検出 植物 DNAウイルスはゲノムとして環状 DNAを持つことが

知られていることから、環状 DNAを指数関数的に増幅させるRCAによって増幅された産物を、NGSを用いて解読し、病原ウイルスが検出可能か調査した。まず、RCAにおける増幅反応条件はプロトコル記載の範囲内で増幅効率の比較試験を行い、鋳型量は 10ng、増幅時間は11時間を選定した。次に、ライブラリ作製過程における DNA断片化の 37℃インキュベート時間はプロトコル記載の範囲内で比較試験を行い、目的とする断片長割合の最も高かった 20分間を選定した。続いて、作製したライブラリを NGSを用いて解読した結果、ブドウでは 20,643の GGVAリードがマッピングされ、ウイルスゲノム全長のコンセンサス配列が得られた。また、ブルーベリーでは 5,092の BRRVリードがマッピングされ、ウイルスゲノム長の 99.5%のコンセンサス配列が得られた。このように、ブドウ、ブルーベリーとも、病原ウイルスを高率に検出することができた(Table 4)。

28 植 物 防 疫 所 調 査 研 究 報 告 第56号

Table 2. The comparison between cases with or without DNase treatment.

Table 3. The comparison between dsRNA isolation methods by percentage of agent reads.

GDefV: Grapevine deformation virus, GFLV: Grapevine fanleaf virus, GRSPaV: Grapevine rupestris stem pitting-associated virus, HpSVd: Hop stunt viroid,GGVA: Grapevine geminivirus A,AGCaV: Apple green crinkle associated virus, ASGV: Apple stem grooving virus, ASPV: Apple stem pitting virus, ASSVd: Apple scar skin viroid

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2020年12月 勝ら:改変 DECS法あるいは RCA法のNGSとの組み合わせによる果樹類苗木等からのウイルス検出法 29

4.NGSを用いたウイルス検出プロトコルについて本研究において、DECS法の一部工程を NGSに置き換えることで検出感度及び時間効率の向上を図ったところ、従来のDECS法に比べてより時間をかけずに多くの RNAウイルスを検出できるという結果が得られた。併せて、RNA抽出については、Xiao et al.(2015)の手法がより短時間で安定して RNA

を得られるという結果が得られた。また、RCAを用いて得られた増幅産物を NGSで解読することにより、多量の DNAウイルスを検出できるという結果が得られた。一度に解読できる DNA断片数として、3130ジェネティック

アナライザを用いた DECS法では約 100であるのに対して、NGSを用いた本手法では数十万であり、その差から、DECS

法に比較して NGSの検出感度は高いといえる。また、データ量が多い分、複数の病原体を一度のシーケンスで検出でき、検出の迅速化が期待できる。さらに、逆転写・網羅的増幅以降シーケンシングまでの作業時間においては、DECS法ではクローニングに時間を要すること等からのべ 3日かかるのに対し、NGS

ではのべ 2日で行える。特に、シーケンス自体に要する時間について、DECS法では 24時間に対し、NGSでは 2時間 30分で行える。一方、DECS法に比べて NGSを導入することによるデメリットについて、機器自体の費用に加え、解析するためのランニングコストが劣る。また、サンプル調製、操作及びデータ解析に習熟が必要である。本手法の適用場面として、ウイルス病様の症状が確認されながらも所定の手法ではウイルス等が直ちに検出されない場合に最終手段として用い、得られた病原情報に基づき、当該症状がその病原によって引き起こされることを文献情報や接種試験等で確認する必要がある。これは、DECS法と同様に NGSで解読された配列の 1つ 1つは 200塩基程度であるため、ウイルス等の一部塩基配列が検出されたことのみで当該病原への感染と断定すると誤同定の恐れがあるためである。特に、病原由来の配列が十分量検出されていない、あるいは、病原ゲノムの全長配列に対し得られたコンセンサス配列が短い場合等は必須であ

る。そうした場合、NGSで得られた遺伝子配列情報は、PCR

プライマーの設計に役立ち、得られた増幅産物の塩基配列を決定することで、文献情報等で推定した病原体であるか否かを確認できる。さらに、NGSで得られた遺伝子配列情報は、後の検査において有効なツールとなる PCRプライマーの設計にも役立てることが可能となる。以上のことから、検疫現場で適用可能な NGSを用いた果樹

類苗木等からのウイルス検出プロトコルをまとめた。以下に作業手順の概要を記す。なお、本プロトコルをまとめる際に供試したウイルス病様の

症状があり、かつ、病原が特定されていない 4種の植物から、4種のウイルスの塩基配列を確認できた(Table 5)。なお、これらのウイルスのうち ASGV及び GPGVは既報の特異的プライマー(Menzel et al., 2002; Morelli et al., 2014)による RT-

PCR、また、RanLDV及び ASPVは NGSで得られた塩基配列を基に新たに設計した特異的プライマー(Table 6)による RT-

PCRにて、目的とする遺伝子の増幅を確認し、シーケンスにより非特異反応によるものではないことを確認した。さらに、ASPVについては、生物検定を行い、病徴が再現されることを確認した。

●NGSを用いた病原ウイルス検出法の流れ【RNAウイルスを対象とする場合】(1-a)植物からの RNA抽出   →「( 2)dsRNAの単離」へ進む。

【DNAウイルスを対象とする場合】(1-b-1)植物からの DNA抽出(1-b-2)環状 DNAの増幅   →「( 5)DNA濃度の測定」へ進む。( 2)dsRNAの単離( 3)単離した RNAの網羅的逆転写・増幅( 4)増幅産物の精製( 5)DNA濃度の測定( 6) Ion Xpress Plus Fragment Library Kitによるライブラリ

Table 4. The result of virus detection from grapevine and blueberry using RCA and NGS.

Table 5. Viruses detected in this study.

Table 6. Oligonucleotide primers for RT-PCR.

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30 植 物 防 疫 所 調 査 研 究 報 告 第56号

の作製( 7)ライブラリのサイズ選択→精製( 8)ライブラリのサイズ及び濃度測定( 9) Ion Chef及び Ion PGM Hi-Q View Chef Kitによるサン

プルを調製及び半導体チップへの充填(10) Ion PGM及び Ion PGM Hi-Q View Sequencing Kitによ

るシーケンス(11)解読結果の解析(12) 得られた病原について、文献情報や接種試験、RT-PCR

法等で確認

謝  辞

本研究を進めるにあたり、DECS法についてご教示いただいた公益財団法人岩手生物工学研究センターの関根健太郎博士(現 国立大学法人琉球大学農学部)、厚見剛博士(現 国立研究開発法人産業技術総合研究所)、冨田麗子氏(現 国立大学法人琉球大学熱帯生物圏研究センター)に感謝の意を表したい。また、分譲試料(BRRV感染ブルーベリー)の利用許諾をいただいた国立大学法人岩手大学農学部の磯貝雅道博士に心より御礼申し上げる。

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