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DGRC NEWS DROSOPHILA GENETIC RESOURCE CENTER NEWS VOL. 5 (2) OCTOBER 23, 2009 PAGE 1 目 次 1.系統情報 (1)FRT ─ insertion 系統 (2)φC31系統とそれを用いたIntegration System 2.センター事業活動 (1)系統の収集、維持 (2)系統の提供 (3)教育と社会貢献活動 3.セミナー等 (1)ショウジョウバエ遺伝資源センター設立 10 周年記念行事 (2)学会見聞記 (3)ショウジョウバエ関連集会 4.教育研究活動 (1)遺伝資源キュレーター育成プログラム

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Page 1: DGRC NEWS Vol5 2 2009(1)FRT insertion系統 ヨーロッパのショウジョウバエ研究者コンソーシアムで作成したFRT-insertion(RS因子挿入)系統をハンガリ

DGRC NEWSDROSOPHILA GENETIC RESOURCE CENTER NEWS VOL. 5(2) OCTOBER 23, 2009

PAGE 1

目 次

1.系統情報

(1)FRT─insertion系統

(2)φC31系統とそれを用いたIntegration System

2.センター事業活動

(1)系統の収集、維持

(2)系統の提供

(3)教育と社会貢献活動

3.セミナー等

(1)ショウジョウバエ遺伝資源センター設立10周年記念行事

(2)学会見聞記

(3)ショウジョウバエ関連集会

4.教育研究活動

(1)遺伝資源キュレーター育成プログラム

Page 2: DGRC NEWS Vol5 2 2009(1)FRT insertion系統 ヨーロッパのショウジョウバエ研究者コンソーシアムで作成したFRT-insertion(RS因子挿入)系統をハンガリ

(1)FRT─ insertion系統

ヨーロッパのショウジョウバエ研究者コンソーシアムで作成したFRT-insertion(RS因子挿入)系統をハンガリ

ー共和国セゲド大学遺伝学研究室(Szeged Stock Center)で維持していたのですが、約3000系統を6月末から順

次譲渡を受け、提供に向けた準備を始めました。昨年度からDrosDel欠失系統(486系統)を受け入れ、現在提供

をおこなっていますが、これらの欠失を作成するもとになったFRT配列挿入系統です。これがあれば、研究者の

ニーズにあわせて欠失を作成することができ、遺伝子マッピングやゲノム構造の研究等に有用です。全ての挿入

位置は塩基配列レベルで明らかにされています(Genetics 167:797-813, 2004)。既存のDrosDelあるいはExelixis

欠失系統の情報についてはDeletion Coverage Maps(http://www.drosdel.org.uk/coverage.php)を参照してくださ

い。また、挿入因子の構造ならびに欠失の作製法については、DGRC NEWS 4巻1号の系統情報欄に詳しい記事

がありますので参照ください。DrosDel系統の系統依頼は、ショウジョウバエ遺伝資源センターの系統検索・提

供依頼用WEBページ(http://kyotofly.kit.jp/)からどうぞ。

(2)φC31系統とそれを用いたIntegration System

これまでにP因子やPiggy-Bac因子などのトランスポゾンを利用する方法によって多くの有用な遺伝子導入系

統が作成されました。しかし、トランスポゾンによる遺伝子導入法では、外来遺伝子がゲノムへランダムに挿入

されるため、挿入された外来遺伝子の発現量が挿入場所によって異なる(position effect)という欠点がありまし

た。最近、バクテリオファージStreptomyces phage φC31由来のインテグラーゼを介した新しい遺伝子導入法

が確立されました。φC31は、バクテリアに感染した時にインテグラーゼと呼ばれる部位特異的組換え酵素が、

ファージゲノム中の配列(phage attachment site: attP)とバクテリアゲノム中の配列(bacterial attachment site:

attB)間で組換えを誘発し、バクテリアゲノムへファージゲノムを導入する機能を備えています。この機能を利

用した遺伝子導入法がφC31インテグラーゼ遺伝子導入法です。この方法はドナー配列attBと外来遺伝子が導入

されているプラスミドと、φC31インテグラーゼの供給源(φC31インテグラーゼmRNAまたはφC31インテグ

ラーゼ遺伝子が導入されたプラスミド)を、レシピエント配列attPがゲノム上に導入されているショウジョウバ

エ系統の初期胚へ注入することによって、ゲノム上のattPと導入プラスミド上のattBとの間で組換えを誘発し、

部位特異的に外来遺伝子を導入するという方法です(図1参照)。P因子による遺伝子導入法とは異なり、特定の

位置のattP挿入系統を選択することによって、外来遺伝子のゲノム内での挿入位置を決定できます。例えば、in

vitroで異なった改変を加えた外来遺伝子を同じ位置に導入することによって、外来遺伝子間の発現を比較するこ

とも可能となります。ショウジョウバエのφC31システムの原理と挿入系統作製法についてはFlyC31のサイト

(http://www.frontiers-in-genetics.org/flyc31/)を参照して下さい。

すでに100以上ものゲノム上の異なった位置にattPが導入された系統が作製されおり、φC31インテグラー

ゼを生殖系列で発現する系統も作製されています。このようにφC31インテグラーゼ遺伝子導入法に必要な

ツールが充実してきており、簡便に高効率で導入できるようになってきています。当センターでは、それら

の系統のうち62系統について公開、提供を行っています。

図1 φC31挿入系統作製の原理(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104:3312-3317(2007)から引用)a. ゲノムに挿入されたレシピエント配列の構造。b. レシピエント配列のゲノムマップ。X, 2, 3, 4はショウジョウバエの染色体。唾腺染色体地図で示されている。c. attBとattPとの間の特異的組換えによるドナー配列の挿入。

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1.系統情報

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(1)系統の収集、維持

本年6月を持って閉鎖されたハンガリーのSzeged

大学Peter MaroyからFRT-insertion(RS因子挿入)系

統(CBxxxx-3、UM-xxxx-3, 5-HA-xxxx, 5-SZ-xxxx)合

わせて3000系統を6月から順次受入れてきました。

現在、これらを維持するとともに、検疫作業など公開

に向けた準備を始めています。これらの系統の公開に

関しては、http://www.dgrc.kit.ac.jp/をご覧ください。

また、センターでは、個々の研究者からの系統の

譲渡を受入れています。本年6月以降、下記の系統を

収集して公開しています。東北大学山元大輔氏より、

mbl l(muscleblind)遺伝子の2つのallele(うち一方は

雌の交尾受容性を低下させる突然変異chasteとして

単離されたもの)とUASコンストラクト導入系統4系

統、さらにアナナスショウジョウバエ(D. ananassae)

のOm(1E)遺伝子(キイロショウジョウバエのos、

upd、sis-cのホモログ)をキイロショウジョウバエに

導入した2系統を収集しました。Om(1E)はキイロシ

ョウジョウバエ以外の遺伝子ですが、この導入系統は

sis-c関連遺伝子として性決定の研究やJAK/STATカス

ケードの研究にも使用できます。これらはいずれも当

センター独自の系統です。また、田辺三菱製薬㈱安

全性研究所馬場博氏より、変異原性試験に有用な2系

統の譲渡も受けました。

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2.センター事業活動

(2)系統の提供

今年度上半期(4~9月)に10,552系統の提供依頼

がありました。提供先の内訳は、国内4,343系統、海

外6,209系統でした。国別では昨年度と同様に日本国

内が最も多く、次いでアメリカ合衆国(4,005系統)で

した。今年度は、すでに昨年度の実績(合計17,140系

統)を上回るペースで提供依頼が来ています。

前号のDGRC NEWS(5巻1号)の系統情報で紹介し

たCPT1プロテイントラップ系統については、検疫を

終了して提供準備を整えています。現在、挿入ベクタ

ー(改変型PBac因子)の情報などを整え遺伝子組換え

系統の譲渡に関する事務手続きをおこなっています。

提供開始時期については、http://www.dgrc.kit.ac.jp/にて

お知らせします。

(3)教育と社会貢献活動

公開光学顕微鏡・実習講習会「光学顕微鏡の原理・仕組みから応用まで」、

「共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察技術」日時:9月16日(水)、17日(木)

開催場所:京都工芸繊維大学

嵯峨キャンパス学道会館

ニコンインステック㈱から技術講師をお招きして、

ニコン㈱の共焦点顕微鏡、位相差及び微分干渉顕微鏡

等を用い、公開講義・実習講習会を開催しました。公

開講義では、本学松ヶ崎キャンパス、嵯峨キャンパス、

及び、他大学から約30名の大学院生、研究員、研究

補助員等が聴講して、観察検体媒質の光屈折率の違い

を位相差または微分干渉によってコントラストをつけ

る原理や、共焦点法によって厚みのある検体を観察す

る原理等を分かり易く解説していただきました。その

後行われた講習会では、帯広畜産大学原虫病研究セン

ター、大阪大学大学院生物科学専攻、自然科学研究機

構・岡崎統合バイオサイエンスセンターから参加した

3名の大学院生を含む5名(定員制限)の受講者が、各

自で準備したサンプル(クモの胚、ショウジョウバエ

胚及び卵巣等)をマクロ

レーザー共焦点顕微鏡

と共焦点レーザー顕微

鏡を用いて、技術講師

の個人指導を受けなが

ら観察しました。大学

院生から、「わずか2日

の間に生体を顕微鏡観

察することへの抵抗が

取れた」との感想を受

けました。

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平成21年度高大連携事業「京都教育大学附属高校スーパーサイエンスハイスクール特別授業」

日時:8月19日(水)、20日(木)午後1時~5時

開催場所:京都工芸繊維大学嵯峨キャンパス

参加人数:8名

ショウジョウバエ遺伝資源センターがおこなう社

会貢献事業として、京都教育大附属高校の高校生を招

いてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)特別授

業を実施しました。この事業は、文部科学省から

SSHの指定を受けた京都教育大附属高校と本学ショ

ウジョウバエ遺伝資源センターが連携して、高校生に

生命科学研究の一端に触れさせるために毎年夏休み期

間に2日間に渡って実施しているものです。遺伝現象

と遺伝子の本体であるDNAに関する授業、ショウジ

ョウバエの形態突然変異の観察、ショウジョウバエの

野外採集と種の分類、ショウジョウバエを使ったアル

コール耐性の系統差に関する実習を行いました。形態

突然変異の観察では、あらかじめ用意された10種類

の突然変異系統を実体顕微鏡で観察し、どこが野生型

と違うのか見つけだしました。野外採集と分類では、

まず、第1日目(19日)にバナナトラップを嵯峨キャ

ンパスの木に掛け、翌日(20日)採集しました。今年

は冷夏のためか例年に比べて多くの種類のショウジョ

ウバエが採集できました。アルコール耐性の実験も、

第1日目(19日)に実験をセットし、翌日(20日)死亡

個体を数える2日がかりで行いました。この実験は、

50%死亡率を得て系統差を識別するものであり、薬剤

耐性や安全性の評価など身近な、または、将来意識す

るであろう実験となったはずです。

今年の参加生徒は、なぜか「虫嫌い」な人が多く、

観察や採集のときは最初大騒ぎとなりましたが、実習

を通してショウジョウバエだけは好きになってくれた

と思います。

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ナショナルバイオリソースプロジェクト「“KYOTO BRAND”

高品質遺伝資源の開発」日時:10月23日(金)

13:00-17:45

会場:京都工芸繊維大学

松ヶ崎キャンパス

総合研究棟

4階多目的室

プログラム:

はじめに

竹永睦夫(京都工芸繊維大学・副学長)

石井康彦(文部科学省・ライフサイエンス課長)

講演

・分子医学におけるショウジョウバエ研究の重要性

加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所・教授)

・ショウジョウバエを用いた神経行動学

江島亜樹

(京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット)

エタノールの希釈系列の作製(左)と耐性および感受性個体のセットアップ(中央)。さまざまな突然変異体の観察風景(右)

(1)ショウジョウバエ遺伝資源センター設立10周年記念行事

ショウジョウバエ遺伝資源センターの設立10周年を記念したシンポジウムを本年度に2回開催する予定です。

まず、10月に公開シンポジウム『ナショナルバイオリソースプロジェクト“KYOTO BRAND”高品質遺伝資源の

開発』を開催します。このシンポジウムでは、ショウジョウバエ、ラット、酵母を用いて当該分野の第一線で活

躍している研究者を招き、遺伝資源の高品質化と新規の有用遺伝資源開発にむけた先端研究の成果を紹介いただ

くとともに、それらを通して、遺伝資源のあり方について考えます。詳細はhttp://www.dgrc.kit.ac.jp/をご覧下さい。

3.セミナー等

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・NBRP-Ratの医学生物学研究への貢献と新規疾

患モデルの開発

芹川忠夫

(京都大学大学院医学研究科附属動物施設施設長・教授)

・ラットを用いた糖尿病研究

横井伯英(神戸大学医学研究科細胞分子医学)

・質量分析法によるショウジョウバエの分子プロ

ファイリング

武森信暁(ショウジョウバエ遺伝資源センター)

山本雅敏(ショウジョウバエ遺伝資源センター・教授)

・ショウジョウバエプロテオミクスと医学との接点

松本博行(オクラホマ大学医学部・教授)

小森直香(オクラホマ大学医学部・准教授)

・分裂酵母の配偶子形成におけるメンブレントラ

フィック

中村太郎氏(大阪市立大学大学院理学研究科)

おわりに

多羽田哲也氏(東京大学分子細胞生物学研究所・教授)

国際バイオリソースシンポジウム日時:平成22年3月18日(木)10:00-17:45

会場:京都工芸繊維大学 松ヶ崎キャンパス

総合研究棟4階 多目的室

プログラム:

はじめに

江島義道(京都工芸繊維大学・学長)

竹永睦生(京都工芸繊維大学・副学長)

講演(予定)

・山本雅敏(ショウジョウバエ遺伝資源センター・教授)

・Timothy. Karr(Arizona State University・Prof.)

・Utpal Banerjee(UCLA・Prof.)

・Leslie Griffith(Brandeis University・Prof.)

・Hugo Ballen(Baylor College・Prof.)

・Keneth Storey(Carleton University・Prof.)

・多羽田哲也(東京大学分子細胞生物学研究所・教授)

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(2)学会見聞記

ショウジョウバエ研究会第9回研究集会(JDRC9)日時:2009年7月6日(月)~8日(水)

会場:ヤマハリゾートつま恋(静岡県掛川市)

300人弱の参加者が集まり、前回とほぼ同規模の集

会となりました。ポスター発表は約180題におよび、

発表分野としては、「発生」と「神経・行動」が約60

題ずつと多くを占めていました。口頭発表も25題行

われ、動画によって分子の挙動や発生過程をリアルタ

イムで追跡するライブイメージングを行っている発表

が多く見られました。

2年に1度開かれるショウジョウバエ研究者の集ま

り、「ショウジョウバエ研究集会」も9回目を迎える

事になった。約20年、毎年出席していると、集会の

規模といい、発表される研究内容の幅広さといい、

Drosophila Meetingの頃と比べると隔世の感がある。

これはショウジョウバエ研究者の増大とともに、ショ

ウジョウバエ研究に対する世間の評価の高まりによる

ものと思われ非常に心強い。今回の会場は森に囲まれ

た中に十分な設備が整えられ、しかもアクセスもJR

掛川駅よりシャトルバスが運営されているなど申し分

のないものだった。

プログラムは、夕刻にポスターセッションの時間

を設けてある以外はすべて1つの会場でのオーラルセ

ッションである。発表は全て英語。これは前回大会か

らだが、海外からの参加者を考慮した当然の選択なの

だろう。全参加者282人中、外国人が47人の参加で

あった。分子細胞生物学、分子発生学の中で細分化さ

れた分野の最先端の内容を英語でとなると、正直つい

ていくのは難しい。従って個人的には講演を減らして

でも、ポスターイントロ(5分の持ち時間でポスター

内容を紹介する)や、ポスターセッションの時間を増

やした方が有意義なのではと感じた。(全ての講演が

ポスターでも提示されているのだが)

私自身はポスターでpiggyBacによるプロテイントラ

ップ系統に関する発表を行った。興味を持って下さっ

たのが外国人の方が多かったのは気のせいだろうか?

ショウジョウバエ研究というと既にツールが揃ってい

て、それを利用する研究は多いものの、自分でツール

から開発しようという研究が少ないのも気になった。

今回の大きな話題は今後のJDRCをどうするか、とい

うこと。事前のJFlyおよび総会での議論、そして採決

の結果以下の案が支持された。JDRCを存続させ、そ

れとは独立にAPDRCを設立させる。JDRCを日本で行

う(JDRCの形態、開催時期、APDRCとの関係は世話

人あるいはワーキングに一任)。とりあえずJDRCが存

続するのは良かったが、APDRC共々発展させていくの

はなかなか大変なことだろうと感じた。(文責 松林)

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今回の研究集会(JDRC9)では、とくにポスターイ

ントロが印象に残りました。ポスターでは伝えられな

いような動画等が示されていたりして、ここで効果的

に内容紹介されていたものに関してはポスター会場の

方でも聴衆が集まっていたように思います。私自身は、

オナジショウジョウバエの性比(オスとメスの比率)

が歪む突然変異についての研究でポスター発表をおこ

ない、様々な議論を交わすことができました。また、

現在ショウジョウバエの精子形成の研究を行っている

こともあり、雌雄の配偶子形成や減数分裂に関する研

究については、興味深く聴きました。

発表終了後のポスター会場やミキサールームで

は、時間を気にせずに夜遅くまでディスカッション

している方々が多く見られました。他大学の方と4

人部屋でしたが、互いに交流を深めるきっかけとな

り良かったと思います。

今年は集会前から、「今後のJDRCのあり方」につ

いてJflyで活発に討論されていましたが、総会でのア

ンケート結果により、JDRCの存続および国内での開

催が決定されました。時代に沿う形で柔軟に方向性の

転換などが議論されているのを目の当たりにして、他

の学会ではなかなか体験できないような熱気と迫力を

感じました。 (文責 安野)

七夕の飾りもきれいなJDRCポスター会場の展示風景

日本遺伝学会第81回大会見聞記

日時:2009年9月16日(水)~18日(金)

場所:信州大学理学部(長野県松本市)

松本での開催は62年ぶりとのことで、遺伝学会の

歴史を感じさせられました。京都から新幹線と特急

を乗り継いで約3時間の松本市は昔ながらの面影を

残しつつ今風のお店などが混在しているのが印象的

な街でした。

大会の構成は3日間を通して、午前中は一般講演

(口頭発表のみ)、午後はシンポジウム・ワークショ

ップ、となっており、一般講演は169演題、シンポ

ジウム・ワークショップでは18の話題について98

演題の発表が行われました。

一般講演に関してはショウジョウバエ関連の発表

が11演題とやや寂しい感じではありましたが、複

製・組換え、集団・進化関係のものが多かったよう

に思います。ただ、ショウジョウバエに限らず多様

な生物を対象にした分子レベルの研究から理論的な

ものまで、様々な側面からの研究発表を聞けること

が遺伝学会の醍醐味でしょうか。センターからは、

○大迫隆史、高橋文子、山本雅敏「貯精精子の利用

に必要なwasted遺伝子の同定」(本年度日本遺伝

学会ベストペーパーズ賞を受賞しました。)

○山田博万、山本雅敏「ノハラカオジロショウジョ

ウバエの休眠・非休眠系統を用いた休眠誘導機構

の遺伝学的解析」

以上、2題の発表を行いました。

シンポジウム・ワークショップ関係では、初日の

午後に近年進歩の著しい次世代シーケンサーについ

てのアプライドバイオシステムズ社によるランチョ

ンセミナーに続いて「遺伝学のゲノム革命と次世代

シーケンサー」と題したシンポジウムがあり、一番

広い会場で立ち見が出るほどの盛況ぶりで、次世代

シーケンサーへの注目度の高さが伺えました。シー

ケンサーの著しい進歩が有用であることは間違いな

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左)JDRC9世話人代表三浦正幸氏のあいさつ(懇親会にて)右)JDRC9第5回森脇大五郎賞の受賞(広海選考委員長より賞状と記

念品の贈呈) 写真提供: 倉永英里奈氏

Page 7: DGRC NEWS Vol5 2 2009(1)FRT insertion系統 ヨーロッパのショウジョウバエ研究者コンソーシアムで作成したFRT-insertion(RS因子挿入)系統をハンガリ

いが、それによって得られたデータをどう処理する

か、また、そのデータ処理の人材開発が今後の課題

だ、というのが実際に利用している講演者のコンセ

ンサスであったように思います。

その他には「遺伝学の素材としての日本の野生生

物」「生物地理学からゲノム機能学へ」「チョウ目昆

虫の分子遺伝学とその応用」と題したワークショッ

プがあり、モデル生物だけでなく多様な生物を対象

とした研究についての発表や紹介があり、興味をひ

かれました。また実験手法に関しては「量的形質研

究の展望」と題したワークショップで、QTLマッピ

ングの歴史と現状、その課題などについてのディス

カッションが行われました。

近年研究分野の細分化・専門化に伴い、学会等も

細分化するようになって久しいですが、遺伝学会の

ように遺伝学というキーワード一つで多様な研究発

表が一度に集まり交流する場というのも貴重だと再

認識して松本をあとにしました。(文責 山田、大迫)

1st Asian Network for Research ResourceCenter & Asian Chapter Meeting of ISBER

日時:2009年9月22日(火)~25日(金)

場所:大韓民国・ソウル・COEXセンター

ソウルでアジアのバイオリソースセンターの国際集

会が開催されました。参加者は、韓国および日本、中

国、モンゴル、フィリピン、ベトナム、タイ、シンガ

ポール、インド、スウェーデンのバイオリソースに関

連した研究者およびその関係者です。25日の「方針と

戦略セッション(Policy

and Strategy Session)」

において、山本が講演を

行いました。また、ポス

ターセッションでもショ

ウジョウバエ遺伝資源セ

ンターとNBRPの事業に

ついて紹介しました。

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(3)ショウジョウバエ関連集会

第82回日本生化学会大会

・公開シンポジウム「オミックス研究の最前線─ショウジョウバエをモデルとして─」

日時:10月24日(土) 8:30-11:00

会場:神戸ポートアイランド

オーガナイザー:山本雅敏 松本博行

講演者:三浦正幸(東京大学)上田龍(国立遺伝学研

究所)伊藤啓(東京大学)小森直香(オクラホマ大学)

武森信暁(ショウジョウバエ遺伝資源センター)

第21回ヨーロッパショウジョウバエ研究会日時:11月18日(水)~21日(土)

会場:Acropolis Conference Center, Nice, France.

http://www.unice.fr/ibdc/EDRC/accueil.htm

第32回日本分子生物学会年会日時:12月9日(水)~12日(土)

会場:パシフィコ横浜

http://www.aeplan.co.jp/mbsj2009/index.html

第51回Annual Drosophila Research Conference

日時:2010年4月7日(水)~11日(日)

会場: Marriott Wardman Park, Washington DC

http://www.drosophila-conf.org/2010/abstracts/index.shtml

第32回日本分子生物学会年会特別企画「ナショナルバイオリソースプロジェクト実物つきパネル展示」日時:2009年12月9日(水)~12日(土)

場所:神奈川県横浜市・パシフィコ横浜 展示ホール

ナショナルバイオリソースプロジェクト中核的拠

点プログラムとして、NBRP「ショウジョウバエ」:

国際ショウジョウバエ遺伝資源センターとして系統の

品質の向上を目指して、さらに、基盤技術整備プログ

ラムとして、NBRP「ショウジョウバエ」:ショウジ

ョウバエ系統の長期安定保存技術の開発研究の2演題

をパネル展示する予定です。

Page 8: DGRC NEWS Vol5 2 2009(1)FRT insertion系統 ヨーロッパのショウジョウバエ研究者コンソーシアムで作成したFRT-insertion(RS因子挿入)系統をハンガリ

(1)遺伝資源キュレーター育成プログラム

遺伝資源キュレーター教育開発センターがおこなう教育プログラムを

受講している修士2回生(本学3名、宮崎大学3名)が8月24日から28

日まで宮崎大学にて植物遺伝資源学実習及び演習、9月14日から18日ま

で本学嵯峨キャンパスにて動物遺伝資源学実習及び演習を行いました。

植物遺伝資源学実習及び演習では、ミヤコグサ、シバを対象に、形態及

びゲノム解析による種の分類・同定を行いました。また、生体高分子解

析として熱分解クロマトグラフィーを用いて植物細胞壁成分であるリグ

ニンの成分解析を行い、種間類縁関係を推定しました。パーティクルガ

ンによる植物細胞への遺伝子導入にも挑戦しました。さらに、農業試験

場、ゴルフ場、干潟、都井岬等宮崎県の多様なフィールドに出て生物の

多様性を実際に観察し、各現場で行われている保全活動や方法について

学びました。動物遺伝資源学実習及び演習では、ショウジョウバエと蚕

を対象に、形態、DNA塩基配列・タンパク質解析による種の分類・同定、

系統解析をしました。タンパク質同定法としてTOF-MSを用いてショウ

ジョウバエのタンパク質を同定し、細胞観察手法として共焦点レーザー

顕微鏡、走査型電子顕微鏡等を用いて、ショウジョウバエ複眼や生殖組

織等を観察しました。また、ネムリユスリカ幼虫の乾燥状態等の極限環

境からの蘇生の様子を観察しました。さらに、海外遺伝資源取扱いに必

要な実務である、生物多様性資源へのアクセス申請方法等について演習

しました。

DROSOPHILA GENETIC RESOURCE CENTER NEWS VOL. 5(2) OCTOBER 23, 2009

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4.教育研究活動

上)植物遺伝資源学実習及び演習シバを採取しています。この後形態分類しました。

下)初期胚にレーザー光を当てて蛍光画像を取得しています。

(表紙写真)センターの近くで見かけた皇帝ダリア。2.5メートルほど高いところで開花していた。(写真:MTY)

(編集後記)

ショウジョウバエ遺伝資源センターは、設立10周年を迎えます。急速に発展して、世界最大の系統数を維持する国際

的責任を担うセンターにまで成長しました。

今年度と来年度は、10周年記念行事として国内シンポジウム、国際シンポジウム、生物多様性シンポジウム、公開講習

会などを開催して、遺伝子を中心とした生命科学研究の最重要モデル生物「ショウジョウバエ」の代表的研究センターと

して、利用者の参加を通じて、今後の進展における協力を要請したいと思います。

発行責任者  山 本 雅 敏

〒616-8354 京都市右京区嵯峨一本木町 京都工芸繊維大学 嵯峨キャンパス

電話: 075-873-2660㈹ / Fax: 075-861-0881 / E-mail: jpn-fly@ kit.jp

http://www.DGRC.kit.ac.jp/