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特定医療法人豊司会 新門司病院 診療部長 櫻井  修 Osamu Sakurai

 このような貴重な執筆の機会を与えていただき誠にありがとうございます。 私の勤務しております新門司病院は福岡県北九州市にある260床の単科の精神科病院です。当院の病床は急性期治療病棟と精神科一般病棟,2つの精神科療養病棟,認知症治療病棟で構成されています。アルコール依存症治療の専門病棟はなく,アルコール依存症の患者さんは急性期治療病棟に入院して,アルコールリハビリテーションプログラム(以下,ARP)に参加しております。私はARPを担当しておりますが,アルコール依存症の方だけを専ら診ているのではなく,統合失調症や気分障害,神経症,認知症などを幅広く診療しております。当院におけるアルコール依存症診療の特徴と日々の診療において感じることを述べさせていただきます。

 2012年,福岡県飲酒運転撲滅条例(以下,条例)が施行されました。飲酒運転検挙者は県が指定する専門医療機関でアルコール依存症の診断のための受診義務が課され,5年以内に再犯した者は罰則付きの受診義務が課せられるという全国初の画期的な条例です(2015年2月に

の望まない形での受診であり,アルコール依存症という診断が下ることへの強い抵抗感があるように思えます。社会全体が,アルコール依存症は誰でもかかる可能性のある身近で恐ろしい病気であるけれども,回復が可能な病気でもあるという正しい知識をもってもらわなければ,この状況は改善しないのではないかと思います。

 冒頭にも記載いたしましたが,当院はアルコール依存症治療の専門病棟(以下,専門病棟)をもっていません。アルコール依存症の患者さんは急性期治療病棟に入院していただいております。アルコール離脱期の管理が必要な期間を除いて,認知機能や精神症状,ADL(日常生活動作)などに問題がなければ可能な限り開放ユニットを用意しています。アルコール依存症の患者さんは認知機能に問題のない気分障害圏の患者さんとは相性がよいことが多く,ARPに参加する患者さんのみに適応する規則を定着させることで,特に大きな混乱はなく病棟運営はできています。ARPには担当スタッフが決まっており,月に1回30分ほどのスタッフミーティングでARPについて話し合ったり,情報交換したりしています。当院でのARPは,変化のステージミーティング,断酒勉強会,酒のない人生を始める方法(ASK編),院内断酒週例会・月例会を軸に,自助グループや回復施設(断酒会,AA,北九州MAC)との交流・メッセージ,作文,体力測定,料理教室,歩こう会,DVD学習などを盛り込んでおります。当院では医療者用クリニカルパス,離脱期管理クリニカルパス,患者用クリニカルパス(ひと目で分かる! アルコール依存症治療ノート)を用

いており,多職種でのカンファレンスでケースについて意見交換し,その患者さんが変化のステージモデルのどのステージにいるのか考察し,それに応じた支援・助言の仕方について話し合っています。専門病棟でのARPと比較すると,マンパワーが不足しがちで,できることにも限りがあるかもしれません。また,患者数にも変動が大きく,集団療法が中心であるため,患者数が少ない時期は治療効果が下がる可能性があります。このように専門病棟でのARPに比べると不利な点が多いのは事実ですが,専門病棟をもたなくても,アルコール依存症の方が回復し,社会生活を送るための支援は十分にできるのではないかと感じております。

 私がアルコール依存症の患者さんの診療に携わるようになったのは,医師になって10年近く経過してからです。アルコール依存症については,それまでにも勉強して理解したつもりでいましたが,実際にアルコール診療に携わってみると,自分自身の無知に気づくことが度々ありました。また,自分の無力さを感じることもあれば,酒害体験真っ只中から回復していった依存症の方に元気づけられることもありました。アルコール診療はやってみると予想外に面白く,意外なことも多いと感じました。アルコール依存症の方が回復する過程をみていくと,人と人との出会いの大切さ,回復を信じて長い目で向き合うことの大事さを学びました。これからもこの仕事に携わり,日々勉強していきたいと思います。どうか,よろしくお願いします。

若手ドクターの広場若手ドクターの広場 2

おわりに

はじめに

福岡県飲酒運転撲滅条例の指定医療機関

専門病棟をもたないARP

当院でのアルコール依存症診療,私の思うことAlcohol addiction treatment at Shinmoji hospital, and what I think

50(100)Frontiers in Alcoholism Vol.5 No.2 2017 Frontiers in Alcoholism Vol.5 No.2 2017 51(101)

改正)。当院は条例施行の当初から県にある8つの専門医療機関の1つとして,飲酒運転検挙者のアルコール依存症診断のための診療を担ってきました。条例施行後から2017年3月までに,当院に初犯者8名,再犯者6名が受診しました。私はすべての受診者の診察を担当しました。受診に際して,家族などの本人の状況をよく知る人の同伴を求めましたが,受診者のうち5名は単身で来ました。受診者全体をみるとアルコール関連問題への関心の低い方が多く,2度の飲酒運転検挙にもかかわらず自身のアルコール関連問題への認識が乏しかったり,AUDITの点数が極端に低かったりするなど,否認の疑われる人もいました。しかし,そのような方でも依存症と診断できるだけの十分な情報や根拠がなく,アルコール依存症と診断して治療に導入できた方は,全体の受診者のなかでわずかに2名という状況で,この2名はいずれも受診時に同伴者のいる方でした。この条例は飲酒運転での検挙を機会に,アルコール健康障害を学び,自身のアルコール問題を顧みて,依存症であれば早期に治療につなげる機会となる点で有意義と思われますが,受診がそのような機会に結びついていない可能性があるのは残念でなりません。自分の診療技術にも問題があるのかもしれませんが,根本には通常の受診状況と異なり本人

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