Download - 与 地 し え v 面 ら に 少 れ は 落 し る ち だ と 初 る け さ 速 だ 待 … · 魔 球 」 が 用 意 さ れ て い る 。 こ れ は 野 球 盤 の ホ
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【 注 意 事 項 】
(1)試験監督の指示があるまでは、問題冊子を開いてはいけません。(2)解答時間は60分です。(3)この問題冊子は18ページ、問題は【一】から【三】までです。(4)解答用紙は1枚です。(5)乱丁・落丁、印刷不鮮明などがある場合、手を挙げて試験監督に申し出なさい。(6)解答用紙には、必ず受験番号・氏名を正確に記入し、受験番号マーク欄にも
受験番号を正確にマークしなさい。(7)解答はすべて別紙の解答用紙の所定欄にマークしなさい。(8)試験開始から終了までの間は、試験教室から退出できません。(9)問題冊子および解答用紙は室外に持ち出してはいけません。
2019年度全学統一入学試験
国 語
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【一】次の文章を読んで、あとの設問に答えなさい。
小学生の頃、よく野球盤で友達と遊んだ。パチンコ玉のようなボール
をピッチャーが投げて、もう一人が野球盤に固定されたバットでタイミ
ングよく打ち返すというゲームである。ところが、このゲームのピッ
チャー側には、秘密兵器の「消える魔球」が用意されている。これは野
球盤のホームベースの前に切れ込みがあり、それが下がって、ボールが
床下に消えてしまうというものである。これをやられるとバッター側は
もうお手上げだ(消える魔球をボールが落ちる前に無理矢理打つ、とい
う強者もいるにはいたが……)。野球の勝負の(ⅰ)醍
醐味が、いかにピッ
チャーの球にタイミングを合わせて打ち返すか、だとするなら、A消える
魔球はその勝負にどっかのおっさんの茶々が入るような仕組みである。
なんで、こんな「おっさんの(ⅱ)茶
々」を許すような仕組みになっているの
だろうと思わないでもないが、野球盤に「消える魔球」が登場して以来、
なくなることなく現在に至っており、どこか人の心を魅了する部分があ
るのだろう。
科学というと、この世にある法則や原理の発見など、世界の真理や真
実を解き明かしていくというイメージが強いものである。しかし、この
世の真実、つまり「正しい」こととは、一体、何なのか?
以下、(ⅲ)屁
理
屈のような話が続くことになるが、これは実際、単純な話ではない。た
とえば「リンゴが木から落ちる」という現象がある。これはニュートン
が万有引力を発見したきっかけとなったとされる「(ⅳ)由
緒正しい」現象で
あるが、この「リンゴが木から落ちる」というのは〝正しい〞のだろう
か?
もし、〝正しい〞としたなら、それはどうしてそう言えるのだろ
う?人
間が把握できること、というのは、基本的に経験から来ており、
「リンゴが木から落ちる」ということが正しいと信じられているのは、
リンゴを枝から切り離せば地上に落下するということを、これまでずっ
と人類が経験してきたからである。そして、そこからニュートンは、万
物はすべて互いに引き合っているという、「リンゴと地球」の関係だけ
に留まらない、たとえば星と星の関係のような、より一般的な現象に適
用できる「万有引力の法則」を発見した。そしてそれが今では物理学上
の「正しい」法則と信じられている。この例は科学的な「正しさ」につ
いての非常に重要な二つの考え方を含んでいる。
一つは、「繰り返し起こることは法則化できる」という考え方である。
そして、もう一つは「法則化できたことは、他の現象にも応用できる」
という考え方である。これらは「帰納法」および「演繹法」と呼ばれる
論理であり、科学を支える非常に重要な考え方となっている。リンゴは
いつ見ても、木から切り離されれば、地面に落ちるし、それを地球とリ
ンゴが引っ張り合った結果と考えると、より多くの現象にも同じ考え方
を適用できるようになる。実際、その法則を使えば、彗星の動きまで正
確に予測できるようになるのだから、それは確かに素晴らしいことであ
る。し
かし、帰納法というのは単純な理屈の上から言えば、Bさほど根拠が
しっかりした考え方という訳でもない。たとえば、昨日、阪神が勝って
いたとする、そしてなんと今日も勝っているではないか。帰納法が成り
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立つなら、明日も勝つし、明後日も勝つ。おお、秋には道頓堀だ〜!
という理屈が成立するか、という話である(ちょっと違うか?)。これ
までそうだったから、この先も必ずそうなるという論理は、一般的には
成立しない。では、リンゴはいつ見ても地面に落ちるが、それはこれま
での観測ではそうであっただけで、この先、落ちないことが起こる可能
性はまったくないのだろうか?
ないと言うなら、どうして、そう言え
るのだろう?
実は帰納法と演繹法が世界を説明する論理として成り立つためには、
重要な前提がある。それはこの世界は同じことをすれば、同じ結果が
返ってくるようにできている、という仮定である。別の言葉で言うなら、
この世は、ある種、機械的な「法則」により支配されているという仮定
だ。この前提で考えれば、事例を集めて「法則」の発見にたどり着けば、
その後はすべてそれに従って現象を説明・予測できることになる。この
前提は、「神々が支配していた世界」から、人類の理性で世界を説明で
きるとする「理性が支配する世界」へのパラダイム転換に伴って得られ
たものであり、現代科学の根幹となっている。このヽヽ前提が、絶対的に正
しいのか、それは誰にも分からない。ただ、それに基づいて構築された
近代の科学は、この世の多くのことを説明・予測するのに成功し、実際
に役立ってきた。この世には、消える魔球もおっさんの茶々もなく、同
じことをすれば、同じ結果が返ってくるようにできている、だから世界
は説明できる、と現代人は信じている。私も科学の世界に身を置く者の
一人として、大筋でこの世界観に異論を持つ訳では、もちろんない。そ
う、だからリンゴは木から落ちてきたし、今からも落ち続けるはずなの
だ。し
かし、少しだけ待って欲しい。本当にリンゴはこの世でいつも同じ
ように地面に落ちるだろうか?
物理学では、地球上における物体の落
下速度(v)は、初速が0であれば、v
=gt
(gは重力加速度、tは時
間)で与えられるとされる。だが、地球上のどこでリンゴを落としても、
この公式通りにリンゴは落下などしはしない。それは空気抵抗があるか
らである。もっと言えば、たとえば、台風の風で落ちるリンゴを見てみ
よう。場合によっては、リンゴは落下どころか、風に飛ばされ舞い上が
るかも知れない。こんなことを書いていたら、何をバカなことを言って
いるのだ、そんなことは当たり前ではないか、重力加速度通り(法則通
り)の速度を計測したいのなら、真空条件でやらないといけないに決
まっているだろと、物理学の先生に笑われるのがオチであろう。しかし、
甲
のが、同じ科学と言っても、たとえば、生命科学である。
それはどういう意味か?
たとえば、あるウイルス病の薬として、ウ
イルスの細胞への侵入部位であるレセプターとウイルスの結合を阻害す
る薬があったとしよう。ウイルスとレセプターとその薬だけを試験管内
で混ぜれば、なんと百発百中結合を阻害する。すごい薬ができたと、喜
んで患者にその薬を投与してみたら、10%の人にしか効果がない、とい
うようなことが、普通に起こるのだ。つまり「法則」的な意味では(試
験管の中では)100%効果がある薬の効き目に「茶々を入れるおっさ
ん」が、現実の人間の体の中にはいる。「消える魔球」のように、薬の
効果が消えてしまうのだ。【Ⅰ】
それは、たとえば、せっかくの薬を分解して体外に排出してしまう酵
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素の力であったり、薬を患部までうまく運べないという問題であったり、
薬の効きを阻害する物質が細胞の中にあったり、あるいはウイルスのレ
セプター自体に人によって微妙に異なったいくつかの種類があったり、
といったような様々なことである。そういった多くの要素が、その個人
の持つ遺伝子のタイプ、年齢や性別、あるいは食べ物や環境といったも
の達の影響を受けて、患者一人一人で違っている。その影響で薬の効き
目も違ってくる。それは本来、地球の中心に向けて重力加速度に基づき
真っ直ぐに落下するはずのリンゴが、現実の世界では空気抵抗や台風の
風で、理論通りには落ちてこないことと、基本的には同じである。【Ⅱ】
それじゃ、リンゴの落下実験で真空にしたように、細胞の研究でもそ
かくらん
ういった攪乱要因を取り除けばいいじゃないか、複雑な現象を単純化し
て、その中にある「法則」を見つけ出すのが科学じゃないか、そう言う
人もいるだろう。【Ⅲ】まったくもって、ごもっともな意見である。し
かし、この問題が深刻なのは、現実の生物・細胞を使った研究などでは、
攪乱要因の数があまりに多く、それらを完全に排除した状態を作ること
が、実務上、不可能に近いという点である。【Ⅳ】
また、もう一つの問題は、そういった攪乱要因を取り除けば取り除く
ほど、〝現実〞から離れて行ってしまうというジレンマである。極端な
話、試験管の中でウイルスとレセプターと薬のみを入れれば、「科学的
な真理」を得られるかも知れないが、人に投与して効き目がなければ、
そんな「真理」は役に立たない。ニーチェは、『ツァラトゥストラはか
く語りき』で「神は死んだ」と宣言したが、どっこい「茶々を入れる
おっさん」は生きている。それが現実の世界であり、そこで通用する科
学は茶々の存在を前提にしたものでなければならない。【Ⅴ】
この「おっさんの茶々」問題は、科学を考える上で、実は一つの重要
なポイントである。最初に書いたように科学的な物の考え方の基礎には、
この世界は「法則」に支配されており、同じことをすれば同じ結果が
返ってくるという前提がある。そうであるなら、「正しい」ことという
のは、1足す1が2になるように、常に〝100%正しい〞ものとして
与えられるはずである。しかし、現実の世界では、同じことをしても同
じ結果が返って来ない(正確に言えば、まったく同じ条件を二度作るこ
とが現実的にできない)。
従って、そういった現実的な問題に対する科学的な知見というのは、
「これまでどれくらい、この薬の使用例があり、そのうちどのくらいの
人で効果がありました」というような統計学的なものにならざるを得な
い。つまり「この薬はこの人のこの病気に効くのか?」といった現実的
な命題に対する科学的な回答というのは、たとえば「60%の確率で効果
がある」というような確率的なものになってしまう。Yes/Noで答
えるとするなら「分からない」である。
批判を承知で単純化して言えば、科学には実は性格の異なった二つの
ものがあるのだ。一つはこの世の真理を求め、単純化された条件下で
100%正しいような法則を追い求めるもの。そしてもう一つは元来
〝100%の正しさ〞などあり得ない、茶々を前提とした、より現実的
なものである。このかなり性格の異なった二つのものが、「科学」とい
う名の下でごっちゃになっている。特に前者の「科学」が持つ、この世
界の真理や真実を解き明かしていくというイメージは、あたかもその対
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象が何であっても「正しい」ことと「正しくない」ことを判定し、明確
な回答を与えてくれるような期待を抱かせる。
しかし、実情を言えば、一般に思われているより遥かに多くの「科
学」が後者のグループに属している。特に、人の生活に密接に関連する
ような話は、ほとんどがそうである。つまり「100%の正しさ」など
元々ない。
だから、低線量被曝や残留農薬の問題でも、「絶対安全なんです
か?」という問いに対しては、C「大体、安全です」と答えるのが関の山
である。「大体って、何ですか。もしうちの子供がガンになったら、ど
うしてくれるんですか!」と怒られたら、もうお手上げだ。おっさん、
お前のせいやぞ。
(中屋敷均『消える魔球』による)
*
問題作成上の都合により、本文の一部に手を加えてある。
問1
傍線部(ⅰ)〜(ⅳ)の本文中における意味として、それぞれ
もっとも適切なものを、各群の①〜⑤の中から一つ選び、マークし
なさい。解答番号は
1
〜
4
。
(ⅰ)醍醐味
1
①
みんなの思う良さ
②
最高の成果
③
表面的な味わい
④
本当の楽しみ
⑤
世間の感じる面白み
(ⅱ)茶々
2
①
指をさしてせせら笑うこと
②
不平不満をつぶやくこと
③
物事を素直に取らずひがむこと
④
相手の力を軽く見て侮ること
⑤
横から割り込んで冷やかすこと
(ⅲ)屁理屈
3
①
思弁
②
詭弁
③
駄弁
④
訥弁
⑤
強弁
(ⅳ)由緒
4
①
不動の来歴
②
理論的な整合性
③
ことの起こり
④
現象の中身
⑤
挿話の面白さ
5
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問2
傍線部A「消える魔球はその勝負にどっかのおっさんの茶々が入
るような仕組みである」とあるが、これはどういうことか。「科
学」に即した説明としてもっとも適切なものを、次の①〜⑤の中か
ら一つ選び、その番号をマークしなさい。解答番号は
5
。
①
実験がうまくいかなくなるような攪乱要因が存在していたとし
ても、現実の世界には、それをうまく排除して正しい法則を導き
だす仕組みが存在しているということ。
②
たとえ科学的に考えると正しいとされる法則であっても、現実
の世界には、その法則が法則通りに機能することができなくなる
仕組みが存在しているということ。
③
科学の世界では、100パーセント正しいと思われた理論で
あっても、少しでも条件が異なっていると、理論通りにはことが
運ばない仕組みが現実には存在しているということ。
④
複雑に入り組んだ自然界に起こる現象を単純化して、その中に
法則を見出そうとするのが科学であるが、簡単には法則化ができ
ない仕組みが現実には存在しているということ。
⑤
現実の生物や細胞を扱っていると、頭の中で考えていたことと
は異なることが発生するが、それを前提にして法則を組み立てる
仕組みが科学には存在しているということ。
問3
傍線部B「さほど根拠がしっかりした考え方という訳でもない」
とあるが、それはなぜか。その説明としてもっとも適切なものを、
次の①〜⑤の中から一つ選び、その番号をマークしなさい。解答番
号は
6
。
①
ニュートンの時代から存在している長い歴史を持つ演繹法に比
べて、帰納法は、近代に入ってはじめて理論的に導き出され、正
しさが証明された、歴史の浅いものであるから。
②
同じことをすれば同じ結果が起こるという帰納法を現代人は信
じているが、科学者の中にはこれに疑問を提起する人もおり、事
例を集めても法則化できるとは限らないから。
③
法則化できたことは他の現象にも応用できると帰納法は考える
が、現実的には他のさまざまな現象に適用することができておら
ず、汎用性があるのかどうかは判明していないから。
④
近代の科学はあまたのことを予測し説明してきたのは事実であ
るが、帰納法は、絶対的に正しいかどうかが誰にもわからない前
提に基づいて成り立っているものであるから。
⑤
絶対的存在である万能の神が作ったものではなく、帰納法は、
有限な能力しか持たない人間が近代になって理性を働かせること
によって作り上げたものであるから。
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問4
空欄
甲
に入る表現としてもっとも適切なものを、次の
①〜⑤の中から一つ選び、マークしなさい。解答番号は
7
。
①
そんな当たり前のことに精力を傾けている
②
そんな笑われるようなことを分かっていない
③
そんな法則通りのことに時間を費やしている
④
そんな決まりきったことに疑問を持っている
⑤
そんなバカなことを大真面目にやっている
問5
傍線部C「『大体、安全です』と答えるのが関の山である」とあ
るが、それはなぜか。その説明として、もっとも適切なものを、次
の①〜⑤の中から一つ選び、その番号をマークしなさい。解答番号
は
8
。
①
攪乱要因が数多く存在している現実世界では、論理的に物事を
とらえることには限界があり、科学といえども、感覚的に対処す
るしかないという問題が存在するから。
②
何が起こるのかは予想もできない現実世界においては、特に意
思を持っている人間を対象とするときには、科学は絶対的な答え
を出すことはできないとわかっているから。
③
まったく同じ条件を作ることのできない現実的な世界の問題に
対して、科学は、YesかNoかという明確な形で答えることが
がいぜん
できず、蓋然的に答えるしかないから。
④
理論的に割り切ることの難しい社会的な問題に対しては、でき
るだけ責任を負いたくないと考える科学は、明確な回答を避け、
曖昧に答えようとする傾向にあるから。
⑤
現実世界を法則化してとらえようとする科学ではあるものの、
1足す1は2になるような100%正しいような絶対的な法則を
求めようとはそもそも誰も考えていないから。
7
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問6
本文中には次の文が脱落している。この文が入る箇所としてもっ
とも適切なものを、次の①〜⑤の中から一つ選び、マークしなさい。
解答番号は
9
。
あちらこちらに「おっさん」がいて、茶々を止めないのだ。
①
【Ⅰ】
②
【Ⅱ】
③
【Ⅲ】
④
【Ⅳ】
⑤
【Ⅴ】
問7
次のア〜オの中で、本文の内容に合致するものには①を、合致し
ないものには②を、それぞれマークしなさい。解答番号は
10
〜
14
。
ア
現実の世界には、100%絶対に正しい法則などというものは
いくら探しても存在しないと、一般的には考えられている。しか
し、科学にたずさわっている者たちは、帰納法や演繹法にもとづ
き、世の中のすべての現象を法則化できると固く信じている。
10
イ
科学は、この世界が法則に支配され、同じことをすれば同じ結
果が返ってくるという仮定の下に成立しているという前提に立っ
ている。これが絶対に正しいかどうかは誰にも分からないが、こ
れを前提にした近代の科学を現代人はおおよそ信じている。
11
ウ
自然現象を対象とする通常の科学は、条件を設定して実験する
ことができる。しかし、生きている人間を対象とする生命科学は、
そのようなことができず、科学の中でも特殊なものであり、
100%正しいような法則を求めて活動しているわけではない。
12
8
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エ
科学に与えられている使命は、現実世界をいかに理論化するの
かというものであり、現実世界に具体的に起こっている社会問題
を解決する任務を帯びているわけではない。だから、科学は現実
世界と遊離したところに閉じこもっていると批判される。
13
オ
理論的に割り出した法則を現実の世界に当てはめようとすると、
それをわきから妨げようとするものが現れてくるという問題を、
科学は抱え持っている。しかし、そのような攪乱要因を前提にし
なければならないというのもまた科学の宿命である。
14
9
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【二】次の文章を読んで、あとの設問に答えなさい。
A日常の出来事には、何か目的を実現するのに役立つといったこととは
関係のない出来事が多い。そういう事態を「B偶有性」と呼ぶ。「本質的
ではない偶然的な性質」のことだが、こう説明してもそれほど分かりや
すくなったわけではない。正確に説明することはしたくない。先に進む。
「偶有性」は、「実体」や「本質」を関連させると少しは分かりやす
くなる。哲学で用いられる「実体」(ⅰ)概
念は、「本当に存在するもの、そ
れ自体で存在するもの」である。やはり曖昧な定義だが操作概念として
捉えておこう。操作概念は物事を分かりやすくする道具だ。
その実体を構成する不可欠の
a
が「本質」である。本質で
はないもの、したがってあってもなくてもよいものが「偶有性」である。
不可欠ではないというのは、成立していてもいなくてもよいことであり、
偶々ある時にはそれが成立していることだ。例えば、案山子の頭に赤と
んぼが留まっていることとかがそうだ。顔のついていない案山子など
きっとなさそうだ。
偶有性を厳密に考えると、その実体が属する種について、(1)常に
成立しているわけではない、(2)その種のすべての個体に成立してい
るわけではない、(3)その種以外にも見出される、という三条件のど
れか一つを充たしているものが偶有性である。厳密に考えると難しくな
るので、不可欠ではないものと考えておこう。不可欠のことが「本質」
であり、不可欠ではないことが「偶有性」である。
目的との関連でも、目的を実現するのに不可欠のものは本質的だが、
必ずしも必要でないものは偶有的である。目的との関連では偶有性は本
来的な使い方ではないが、ここでは広く用いよう。
羽がついていないトンボは存在しない。トンボの本質に羽を含める。
哲学は、そういった本質探求の方に心を向けてきた。現象学における中
心概念である「本質直観」にしてもそうだ。物事がそもそも何であるか
を探求するのは、本質を探求することと考えられてきたのである。
「ハクセンシオマネキとは何か」や「トップクォークとは何か」とい
うように定義を求めることは、本質探求と考えられるが、「私とは何
か」という問いも、そういった問いに並べると、本質を探究しているよ
うに見える。
〈私〉とは個物だから、個物に定義はない。定義があるのは、個物で
はなく、それらを取りまとめた「種」という
b
な事物に対し
てだけだ。「机」をして机たらしめるものが「机の本質」であるとする
と、〈私〉をして〈私〉たらしめているものがあるとすれば、それは本
質ではないとしても、何かあるはずだ。それが「個体性」を探求するこ
とであり、中世の哲学者ドゥンス・スコトゥスは、〈このもの性〉と名
付けた。〈私〉をして、〈私〉たらしめる、〈私〉にしかない、そして
〈私〉にとって不可欠のものが、〈私〉の〈このもの性〉なのである。
〈私〉とは、童話の「青い鳥」にも示されているように、
甲
、不在のものとして当人に現象する。だから、〈私〉を探
しに毎日出かけていかなければならない。〈私〉とは常に不在において
与えられるのである。自己実現してしまったと安心して、〈私〉を探求
しようとしなければ、〈私〉は喪われてしまっているのである。探求さ
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れ続けている限り、〈私〉は存在するから、探求されていない、探求し
ていない〈私〉は死んでしまった〈私〉なのである。
探求されている〈私〉は、現在において存在せず、未来の中に措定さ
れるしかない。〈私〉とは現在において不在であり、未来において存在
するものなのである。そして、未来において存在するものは、「目的」
と名付けられる。その目的にいたる道筋が、一つであったり、必ず或る
中継地点を通らなければならない場合、それらは
c
である。
しかし、入口も様々で、通る道筋もそれぞれの入口で様々である場合、
目的にとって本質的な道筋はない。すべては目的にとって偶有的なので
ある。
目的の実現にとって、どうでもよい、つまり
d
であるもの
は、偶有性である。八時に駅で電車に乗ることに関して、玄関から外に
踏み出す第一歩を左足にするか右足にするかは
d
であり、右
足で踏み出したことは偶有性である。
そして、目的が初めから定まったものではなく、過程の中で現象して
くるものであった場合にはどうなるのか。すべては偶有性となる。偶有
性の海とは、本質の不在を表す事態なのである。そして、我々の日常は、
偶有性の海である。
けっして現れることのないゴドーを待ち続けるように、〈私〉を待ち
続けるのが、目的を不在において待ち続けることが、人生の生き方なの
だろうか。私はそういう仕方で、「人生に目的はない」と言いたいので
はない。
哲学とは不在と無意味を(ⅱ)堪
える訓練、修行だと思う。楽な道を選ぶん
じゃねえとばかりに「本当の自分」「究極の真理」といった
e
エサに釣られないようにするための訓練だと思う。おいし
そうなエサは、たいてい釣り上げるためのエサなのだ。
予期、待ち受けることには重要な特質が見出される。自分で何を求め
ているのか分からない(ⅲ)衝
動が芽生え、それが徐々に形をなしていくこと
が見出される。本能的な予感や欲求、あくなき探求、強い憧れとして形
をなし、宗教的衝動といったものに自然に移行しうるとも古来様々な報
告がされてきた。そしてこの衝動が落ち着くのは、その衝動の正体があ
きらかとなって、その目指す目的を見出したときである。そういった心
の動きは、キリスト教の中では、「先行的恩恵」と呼ばれてきた。
中世の神秘主義的神学者ゾイゼは、この恩恵について、つぎのように
みごとな叙述をしている。
わたしの心は幼いころからなにかを(ⅳ)渇
望し求めてきましたが、それ
がなにであるかは、いまでも完全にはわかっておりません。【Ⅰ】主
よ、わたしはもう何年もの間熱心にそれを追い求めてきましたが、な
かなか満足をえることはできませんでした。【Ⅱ】それがなになのか
よく知らないからです。【Ⅲ】にもかかわらず、それはわたしの心と
魂を惹きつけるものであり、それなしでわたしは決して真の安らぎを
えることはありません。【Ⅳ】ほかの人たちがそうしているのを知っ
ていたからです。【Ⅴ】しかし、そうやって探せば探すだけ、なにも
見出すものがありませんでした。近づこうとすればするほど、ますま
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すそれから離れてしまいました。……いま、わたしの心はそれを求め
て荒れ狂っています。それが欲しくてたまらないのです。ああ、わた
しのなかでまったく隠れたまま戯れているもの、それはなにでしょう
か、どんな性質のものでしょうか。(ゾイゼ『自伝』第二巻第一章、
オットー『聖なるもの』岩波書店、二〇一〇年)
こういう心の動き方を、新海誠の映画『君の名は。』の「ずっと何か
を、誰かを探しているような気がする」「私たちは何かを探して生きて
いる」といったセリフと重ねて考えることもできる。
C人生には目的がないということは、人生の姿にとって大事な論点だと
思う。若い頃、人生は何のためにあるのかと人生論の本を読んでも、た
いしたことが分かったわけではない。こちらから見つけるというよりも、
人生の意味の方に見つけてもらうという感じ方の方が大事なような気が
する。
(山内志朗『目的なき人生を生きる』による)
*
問題作成上の都合により、本文の一部に手を加えてある。
問1
傍線部A「日常の出来事には、何か目的を実現するのに役立つと
いったこととは関係のない出来事が多い」とあるが、それはどうい
うことか。その説明としてもっとも適切なものを、次の①〜⑤の中
から一つ選び、その番号をマークしなさい。解答番号は
15
。
①
人間はすべてに対して主体的に行動しているわけではないので、
私たちの日常は、自らの意図とは関係のない出来事で構成されて
いるということ。
②
人間は社会のなかで生きるよりもまず個人として生きているの
で、私たちの日常は、社会の役に立つ出来事ばかりで構成されて
いるわけではないということ。
③
人間は言葉の定義を厳密に行い、概念操作を行っているわけで
はないので、私たちの日常は、意味の明確ではない出来事で構成
されているということ。
④
人間は物事がそもそもなんであるのかなどどうでもよいので、
私たちの日常は、生活に直接役に立つと思われる出来事で構成さ
れているということ。
⑤
人間はつねに何かの目的があって動いているわけではないので、
私たちの日常は、本質的な出来事ばかりで構成されているわけで
はないということ。
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問2
傍線部B「偶有性」とあるが、その説明として適切でないものを、
次の①〜⑤の中から一つ選び、マークしなさい。解答番号は
16
。
①
偶有性とは、その実体が属する「種」のすべての実体が、必ず
備えているわけではなく、あるいは、その「種」とは異なる他の
「種」においても備えているような性質のことである。
②
偶有性とは、その実体がそのようであってもよいし、そのよう
でなくてもよいというようにどちらでも構わず、絶対的な要因で
はないという性質のことである。
③
偶有性とは、目的を達成する上において、それがなかったら目
的を達成することができないような根本的な要素であるとは考え
られていない性質のことである。
④
偶有性とは、個物をまとめた「種」ではなく、定義を持たない
個物にとって、その性質を持っていることによって個物として存
在することができるもののことである。
⑤
偶有性とは、哲学において、そもそも物事とは何であるかなど
と考えるうえで浮上してくるような、その物事に欠かすことので
きないようなものではない性質のことである。
問3
傍線部(ⅰ)〜(ⅳ)の本文中における意味として、それぞれ
もっとも適切なものを、各群の①〜⑤の中から、一つ選びマークし
なさい。解答番号は
17
〜
20
。
(ⅰ)概念
17
①
明確な存在内容
②
理性的な判断内容
③
中心的な思想内容
④
大まかな認識内容
⑤
具体的な意味内容
(ⅱ)堪える
18
①
しっかりと感受する
②
じっと耐える
③
じっくりと考える
④
どうにか理解する
⑤
きっぱりと諦める
(ⅲ)衝動
19
①
直接的に物事の本質を把握する心の動き
②
眼前の現象を具体的に捉える心の動き
③
不意に現れた不本意な心の動き
④
自分だけが理解できる心の動き
⑤
理性を失った発作的な心の動き
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(ⅳ)渇望
20
①
切実にこいねがうこと
②
ずっと求め続けていること
③
わけもわからず願っていること
④
本能的に得たいと思うこと
⑤
多くのことをのぞんでいること
問4
空欄
a
〜
e
に入る言葉として、それぞれもっ
とも適切なものを、各群の①〜⑤の中から一つ選び、マークしなさ
い。解答番号は
21
〜
25
。
a
①
体裁
②
理論
③
契機
④
命題
⑤
観念
21
b
①
思弁的
②
一般的
③
規範的
④
具体的
⑤
有機的
22
c
①
典型的
②
能動的
③
主体的
④
絶対的
⑤
本質的
23
d
①
示唆的
②
相対的
③
中立的
④
受動的
⑤
即物的
24
e
①
実直な
②
軽薄な
③
鮮烈な
④
安直な
⑤
健気な
25
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問5
空欄
甲
に入る表現としてもっとも適切なものを、次の
①〜⑤の中から一つ選び、マークしなさい。解答番号は
26
。
①
どこかに飛んで行ってしまい、もう手許にないもの
②
他人から与えられているものの、満足できないもの
③
既に手許にありながらも、未だ獲得されていないもの
④
未だ見たことがなく、憧れ続けているもの
⑤
もともと持っていたのに、失くしてしまったもの
問6
本文中には次の文が脱落している。この文が入る箇所としてもっ
とも適切なものを、次の①〜⑤の中から一つ選び、マークしなさい。
解答番号は
27
。
主よ、わたしは幼いときに、それを被造物のなかに探し求めようと
しました。
①
【Ⅰ】
②
【Ⅱ】
③
【Ⅲ】
④
【Ⅳ】
⑤
【Ⅴ】
問7
傍線部C「人生には目的がないということ」とあるが、それはど
ういうことか。その説明としてもっとも適切なものを、次の①〜⑤
の中から一つ選び、マークしなさい。解答番号は
28
。
①
人間が生きる目的は現在の時点では分からず、死ぬときになっ
て初めて分かるものであるので、人間は目的もわからずに生きな
ければならないということ。
②
生きていくうえで、必ずそのように生きなければならないとい
うような決まった生き方は人間にはなく、生きていくなかで探し
ながら生きてゆけばよいということ。
③
人生の目的を人間が自らの力で定めることなど決してできず、
目的は神が人間に与えるものであり、人間は与えられた、その目
的に従って生きるだけであるということ。
④
若い頃は何のために自分は生きているのかが分からないが、年
を取ると人生には目的などそもそもなく、時が経過していくだけ
であると分かるということ。
⑤
「本当の自分」を探し求めて生きていくことは、とても大変な
ことであるので、そのようなことをせず、目的もなくただ生きて
いくだけでよいということ。
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問8
次のア〜オの中で、筆者の考えと合致するものには①を、合致し
ないものには②を、それぞれマークしなさい。解答番号は
29
〜
33
。
ア
〈私〉とは不在において与えられるものであるので、常に探し
求めていなければならず、しかも、その〈私〉にいたるプロセス
は一つしか存在していない。その唯一のプロセスは予感や欲求と
して与えられるため、宗教的衝動に移行していくことになる。
29
イ
「私とは何か」という問いを発することは、物事の本質を探究
することと同じであり、人間が生きていくうえで必ず行わなけれ
ばならないことである。そうすることで〈私〉にしかない本質を
見出し、未来に向けて確固たる生を営んでいくべきである。
30
ウ
「本当に存在するもの、それ自体で存在するもの」という「実
体」の定義は、物事をわかりやすくするだけの操作概念であり、
意味のないものである。しかし、哲学者というものは、そのよう
な操作概念を用いて思考を訓練することを日々行っている。
31
エ
目的を実現するために必要とされるものではない出来事が日常
には多く、そのような目的にはどうでもよい出来事が日常生活に
はあふれている。このような偶有性の中、自分が求めているもの
が分からないまま生きていくことも人生には大切である。
32
オ
日常は本質が不在であり、必ず経過すべき出来事などは存在し
ないが、人生においても目的は不在であり、その不在の中で生き
なければならない。このような人生には虚しさがつきまとうため、
神秘主義的な考えに魅せられる人々が増えてきている。
33
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【三】
問1
次の傍線部のカタカナを漢字にする場合、それと同じ漢字を用い
るものを、各群の①〜⑤の中からそれぞれ一つ選び、マークしなさ
い。解答番号は
34
〜
38
。
A
ジョウマンな文章。
34
①
ジョウキを逸する。
②
ヨジョウ人員を整理する。
③
トラックにビンジョウする。
④
ジジョウ能力が問われる。
⑤
ジョウヒを省く。
B
ショクシが動く。
35
①
小説にショクハツされる。
②
室内をブッショクする。
③
センショク家になる。
④
ホウショクの時代を生きる。
⑤
キョショクに満ちた人生。
C
新幹線のシャショウになる。
36
①
交通のヨウショウ。
②
実権をショウアクする。
③
シショウをきたす。
④
ソショウを起こす。
⑤
身元がフショウである。
D
実力がハクチュウする。
37
①
ハクシンの演技。
②
ハクシャがかかる。
③
ハクヒョウを踏む。
④
ハクシキを誇る。
⑤
文壇の名ハクラク。
E
浄財をキシャする。
38
①
発展にキヨする。
②
キジュを迎える。
③
キセイを上げる。と
き
④
キキュウ存亡の秋。
⑤
平和をキネンする。
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問2
次の傍線部A、B、Cの漢字の読みと同じ読みのものを、また、
傍線部D、Eの読みを、各群の①〜⑤の中からそれぞれ一つ選び、
マークしなさい。解答番号は
39
〜
43
。
A
牙城
39
①
頑強な肉体を持つ。
②
机上の空論。
③
時宜にかなう。
④
雅言と俗言。
⑤
設備が稼働する。
B
勤行
40
①
無菌状態を保つ。
②
勘弁してください。
③
力作がそろっている。
④
華厳経をあげる。
⑤
嫌疑をかけられる。
C
禁忌
41
①
気骨のある人。
②
微熱がある。
③
司直の手にゆだねる。
④
忠実に仕える。
⑤
家来になる。
D
和やか
42
①
おだやか
②
あでやか
③
かろやか
④
すこやか
⑤
なごやか
E
繕う
43
①
ぬう
②
つくろう
③
つちかう
④
ぬぐう
⑤
つぐなう
18
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