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平成19年度県小学校教育課程福井県研究集会研究資料 小浜市立国富小学校

教諭 吉田 稔雄

1.研究主題 自然から学び 自然を愛し 共に科学する楽しさを実感する理科学習 -受け取ろう 伝えよう 自然からのメッセージー 2.研究概要 ―3年「チョウを育てよう」の実践を中心に― (1)研究主題について 本校は,小浜市の市街地に隣接し,東部を流れる北川沿いに丸山,天ヶ城等の山に囲まれた田園

地帯のほぼ中央に位置し,自然環境にはとても恵まれた所にある。このような環境にありながらも

日常に自然を生かした遊びや生活がほとんどない。カードやゲームをして遊び,サッカーや野球な

どのスポーツを好むといった自然とあまり関わりのない生活をしている。そんな本校児童にとって

は,身近にある自然の神秘さや不思議さに気づき感動する体験こそが,科学する楽しさを実感する

理科学習につながると考える。 (2)研究の視点 普段何気なく見ている自然の事物・事象の中に,実に魅力的な生命の神秘や営みが隠されている

ことがある。そういったものに子どもなりに気づくことが自然に対する興味・関心を持つきっかけ

になる。初めて理科学習に取り組む3年生にとって,形を変えながら成長していくチョウの姿は感

動的で,科学する楽しさを体感するには絶好の素材であると言える。ところが昆虫に対する児童の

思いは様々である。小さい頃から自然に親しみ,虫の名前や習性などたくさんの知識を持っている

児童がいる一方で,自然体験が希薄で,虫を採取したことがなく,虫にさわることすらできない児

童もいる。児童の経験がいずれであっても,モンシロチョウという身近な素材を通して魅力的な生

命の神秘や営みに気づき,科学する楽しさを体感できるように次の3つを研究の視点とした。 ○ア飼育や観察の仕方を身につけさせる。 昆虫であっても植物であっても,継続して世話をしたり観察したりすることは,児童にとって簡

単なことではない。途中で飽きてしまったり投げ出してしまったりする姿もよく見かける。しかし,

きちんと飼育ししっかり観察をすれば,素材に対する興味や愛着が沸き,意欲的に学習に取り組め

るようになる。また,飼育や観察の仕方を身につけることは,今後の理科学習にとって重要なこと

である。飼育や観察の仕方については丁寧に指導し,しっかり身につけさせる。 ○イ意欲的に飼育や観察活動ができる学習環境を整える。 観察したいときに対象物がある,観察に必要な用具がある,調べたいことがあるときに図鑑があ

るなど,学習環境を整えることは大事である。意欲的にモンシロチョウの飼育や観察活動ができる

ようにするためには,どのような物を準備し,何を活用するのかを考えながら実践する。 ○ウ情報を共有化したり,他の事物・事象に広げたりすることで科学的に見る力を養わせる。 友達の気づきを聞くことで,これまで見えなかった特性やきまりが見えることがある。また,他

の対象物と重ねて考えたり違いを見つけたりすることによって,新たに発見することがある。情報

部会名 理科

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を共有化する時間をとったり他の事物・事象に広げたりする学習を展開することが,児童に自然を

科学的に見る力を養わせることになる。

(3)授業実践 本単元は,モンシロチョウの卵を採取して育て,卵→幼虫→さなぎ→成虫の変化を捉えることが

一番のねらいとなる。卵から成虫へと成長していく過程の観察を,児童が自分自身の課題として取

り組み,少しでも生命の神秘さ,不思議さといった感動を味わわせるために,昨年度までの実践で

は,次のことに留意してきた。

昨年の学習においても,モンシロチョウを育てることには,比較的どの子も意欲的に取り組んだ。

様子を報告に来たり失敗をしても何度もやり直しをしたりするなど,楽しみながらも粘り強く取り

組む児童が多かった。また,成虫になったときは歓声を挙げて喜ぶ姿も見られた。 しかし,途中で育てることへの関心が薄れたり死なせてしまったりするなど成虫まで育てられな

い児童もいた。また,成虫に育ち,外へ放してしまった後,「別の昆虫も育ててみたい」とか「別

の昆虫の成長の過程を調べたい」など,その意欲や関心が他の昆虫につながった子は少なかった。

「成虫になってよかった」「世話が大変だった」という意識が大きく,理科の学習として生き物の

成長の過程に対して興味を持ったり科学的に捉えたりすることが十分でなかったことを物語って

いる。そこで,今年度は,このような問題を少しでも改善し,どの児童も科学する楽しさを味わう

ことができるようにと考え,取り組んだ。 ①卵との出会い 校区には,田畑が広がっており,児童の家でキャベツを育

てているところも多いが,モンシロチョウの卵を知っている

児童はほどんどいなかった。また,モンシロチョウの卵から

成虫になるまで育てることを告げると,「わたしは虫ぎらいで

す」「いやだなあ」など消極的な声が目立った。学校の畑のキ

ャベツに,モンシロチョウの卵を見つけることがでなかった

ため,児童の保護者にモンシロチョウの卵や幼虫がついてい

るキャベツの大きな玉を分けてもらった。そして,それを植木鉢に

移し,理科室で「卵・よう虫見つけ」をした。 教科書ではモンシロチョウの卵や幼虫の姿を確認していたが,大

半の児童は実際にモンシロチョウの卵を見るのは初めてであった。

興味深く観察するとともに,自分でも畑でモンシロチョウの卵を見

つけたいという意欲を駆立てるのに効果的であった。

チョウを育てよう(3年)

・ひとりが1個ずつモンシロチョウの卵を世話し,成虫まで育てる。 ・休日には家に持って帰り,飼育と観察を続ける。 ・いつでも観察と記録ができるように,ルーペと記録用紙を教室に常備しておく。 ・愛情を持って育てるために,卵から名前をつけさせる。

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②飼育の仕方を学習する

次の理科の時間までにたくさんのモンシロチ

ョウの卵が集まった。モンシロチョウの育ちに関

心を持たせ,自覚と責任を持たせるために,今年

度もひとり1個(自分で見つけたときは2個以上

でも可)の卵を世話させることにした。飼育の仕

方については教科書を使って学習した後,勉強す

ることや約束ごとを書いたプリント(右図)を配

り指導した。卵のときだけでなく,幼虫になった

ときの育て方や幼虫が大きくなったときの育て方,

さなぎになったらどうすればよいかなど,児童が

長期にわたる飼育の見通しを持つことができるよ

う丁寧に指導した。また,先生に聞くばかりでな

く,図鑑を開いたり友達どうしで教え合ったりす

ることも確認した。その後,自分たちが持ってき

たプリンカップやイチゴパックに卵を入れ,児童

たちは観察活動を始めた。翌日には幼虫に変わっ

たものも多く,さっそく進んで観察記録を書く姿

が見られた。

③観察の仕方を学習する 観察記録を書かせると,対象物をよく見て書かずに頭に浮かぶイメージで書き表そうとしたり,

「元気に育ってね」など心情的な感想だけが書かれていたりすることがある。それでよしとする

と対象物を細かく観察したり,変化や不思議を感じたりすることもなく,ただ育てるだけの浅い

学習となる。育てる中でじっくりと観察し,モンシロチョウという素材を通して自然の不思議さ

や神秘さを子どもなりに感じることができるように観察をさせなければならない。そこで,次の

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2つのことに力を入れて指導を行った。 ア、虫眼鏡の正しい使い方を身につけさせる。 正しい虫眼鏡の使い方については,教科書の最初に

掲載されており,その後の学習で繰り返し活用するこ

とになっている。しかし,虫眼鏡を正しく使えない児

童がおり,細かい観察活動ができないことがある。今

回のモンシロチョウの観察活動では,「①虫めがねを目

に近づける ②見るものをうごかしてはっきり見える

ところでとめる」ことを繰り返し指導した。正しく虫

眼鏡を使うことで,対象物がよく見え,観察しやすい

ことを学習経験の中で感じることができるようにした。 イ、観察記録の書き方を身につけさせる。 児童が書いた観察記録の中で,色や形,大きさや動きなどが具体的に書かれているものを紹介

し,できるだけ五感を働かせて観察記録を書くことを指導した。また,書く前に対象物をじっく

りと観察し,気づいたことや発見したことを見つけさせ,まず文で書かせるようにし,その後で

絵を描かせることにした。そうすることで頭のイメージだけで書いたり,心情的な感想だけの観

察記録が減り,より具体的な観察記録になった。さらに,手順を踏みながら繰り返し観察記録を

書かせることで,「先生,模様が少し変わりました」「大きさは変わらないけど色が少し薄くなっ

てきました」など日々のモンシロチョウの変化や特徴といったものを子どもなりに捉えるように

なった。

④観察をする学習環境を整える 意欲的に観察活動を続けさせるためには,学習環境を整える

ことが重要である。教室のロッカーの上に,いつでも使えるよ

うルーペと観察記録用紙を置いた。また,モンシロチョウの卵

とよう虫がついている鉢植えのキャベツを教室前の廊下に置

くことで,自然に近い状態でも観察できるようにした。 学校の畑のキャベツにも5月中旬ごろからモンシロチョウ

が卵を産み始めた。観察の場として活用することはもちろんの

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こと,えさが準備できない児童がえさとして活用し,途中で

卵を補充しなければならないときには手軽に児童に採取さ

せたりすることができた。 また,モンシロチョウの図鑑や昆虫の飼い方の図鑑などを

教室に置き,児童がいつでも手にとって見られるようにした。 その他,必要なときにすぐに使えるように大きな飼育箱,予

備のプリンカップ,きりふきなども準備をした。 ⑤飼育・観察の意欲を継続させる モンシロチョウを育てている時,児童がよく「先生,よう虫がさなぎになりました」「先生,全

然動かないので心配です」などと報告に来た。そんな時は,いっしょに対策を考えたり,いっし

ょに図鑑を見たりするなどできるだけ時間をとり対応

するようにした。また,休み時間や給食時間等に3年教

室に行き,児童が育てているモンシロチョウの様子を観

るようにした。飼育がうまくいかないと,とたんに意欲

を失ってしまうことがある。そうならないように飼育カ

ップを観ながら,できるだけ個々にアドバイスをするよ

うにした。 進んで観察記録を書く約束であったが,なかなか実行

できないのが現実である。しかし,児童がモンシロチョウの様子や変化を報告に来てくれた際,「じ

ゃあ,それを観察記録に書こうよ」と促すと,ほとんどの児童は喜んで書いていた。それを見て

いた他の児童も書くといった波及効

果も見られた。

⑥観察して得た情報を共有化する モンシロチョウの観察で,児童が見つけた気づきに対しては,できるだけその場で紹介するよ

うにした。友達の見つけた気づきに対して,改めて自分の対象物で確認したり,友達の育ててい

るものと比べたりしていた。また,学習が一段落した時,これまでの観察活動を振り返って気づ

いたことや感想を発表しあった。 児童の気づきや発見について,図鑑や実物(卵,幼虫,さなぎ,成虫)を,OHCで映し出し

確かめた。児童は自分が発見したことが認められるとうれしいし,友達が発見したことでも実際

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に確かめられると納得するものである。モンシロチョウの体や成長の様子について,観察してき

たことをもう一度大きな画面を使い,実物や図鑑で確認し共有できたことはよかった。 ⑦他の事物・事象に学習を広げる ア.飼育した場合と自然に育つ場合のチョウの育ちの違いを学習する。

植木鉢のキャベツからは,卵からかえった幼虫がキャベツの葉がぼろぼろになるほどよく食べ,

たくさんのふんをする様子を観察することができた。えさが多いので,幼虫も大きく,子ども達

が育てているプリンカップの幼虫では感じられない力強さを感じることができた。キャベツの葉

だけでなく,壁のあちこちでさなぎになり,さなぎを作る場所によってさなぎの色が違うことに

も気づくことができた。中にはアオムシコマユバチの卵に寄生されたも

のもあり,成虫になれない自然の厳しさに直面することもできた。教室

前に鉢植えのキャベツを持ち込むことで,身近なところでより自然に近

い形でのモンシロチョウの成長を観察することができた。また,学校の

畑のキャベツも機会を捉えて児童と一緒に観察に行った。モンシロチョ

ウが卵を産んでいるところが観察できたり,無数の卵が産みつけてある

のを発見したりした。日常的な出来事ではあるが,これまで学習してき

たことと照らし合わせながら観ることができた。

イ,アゲハとモンシロチョウの違いを学習する。 児童がアゲハの卵を見つけて学校に持ってきた。5つの卵のうち3つを3年生が育てることに

した。3つの卵それぞれに名前をつけ観察をした。ちょうど育てていたモンシロチョウの多くが

成虫になり,学習が終わりに近づくころで,生き物に対する関心が薄れかけていた時でもあり,

初めはあまり児童の興味を引かなかった。ところが,よう虫の体が黒から緑に変わったときから

異質でダイナミックなアゲハチョウに関心を持つ児童が多くなった。モンシロチョウと比べて観

察したり,ゆずの葉だけでなく,みかんや山椒の葉を与えて

食べるかどうか観察したりするなど,楽しみながら育てるこ

とができた。 さなぎから色鮮やかなアゲハチョウが生まれてきた時は,

たくさんの子が職員室に報告に来てくれた。しばらく観察を

続けたり,花のみつをあげたりした後,外に逃がした。観察

記録を書くことは特に強要しなかったが,多くの児童が進ん

で書いていた。 アゲハチョウが成虫まで育った時,モンシロチョウとの違いについて学習した。卵を産む場所

や体の大きさ,色の違いはあっても,成長の過程(卵→幼虫→さなぎ→成虫)や体のつくり(頭,

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胸,腹,6本の足等)が同じであること,幼虫の好物のところに卵を産むこと,外敵に見つから

ないような体の色になっていることなど,共通点に目を向ける意見が多かった。

また,このころから他の生き物の幼虫や昆虫を学校に持ってくる児童が多くなった。アゲハチ

ョウに触発され,他の昆虫に関する興味が高まったようである。

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⑧生き物に対する関心を他の学年に広げる 児童が持ってきたアゲハの卵のうち,残り2つを私

が譲り受け,1つを職員室前廊下で,もう1つを職員

室の中で育てることにした。職員室前廊下には,クマ

ゴロウと名づけて卵を置き,その後の成長の様子を観

察できるようにした。また,成長の様子をデジタルカ

メラで撮り,「クマゴロウの観察日記」として,記録

文とともに随時掲示をした。アゲハの成長の様子を見

に来る児童も多く,学年を問わず,関心の高いものに

なった。アゲハの図鑑も常備したことで,図鑑を手に

しながら観察する児童も多かった。 職員室の中で飼育していた

クマキチも人気が高く,「先生,

クマキチも見せてください」と

たくさんの児童が職員室にも

来るようになった。3年生も自

分たちが育てているアゲハと

比較をしながら観察すること

ができた。アゲハに対する関心を他の学年に広げることで,3年生自身のアゲハへの関心も高め

ることができた。また,クマゴロウの羽化の様子も観察することができた。 ⑨本単元での学習の視点を,他の学習に生かす 「チョウを育てよう」と並行しながら学習する「植物を育てよう」においても,ヒャクニチソ

ウとホウセンカを一人一人鉢で大事に育てている。また,観察記録を書くときなど,指示をしな

くても,観察をして気づいたことを文に書き,その後で絵を描いている姿を見かける。日々の世

話など「チョウを育てよう」の学習との共通項も多く,継続して観察したり,世話をしたりする

習慣がついてきた。ホウセンカとヒャクニチソウを比較しながら観察をしたり,畑で栽培をして

いるホウセンカやヒャクニチソウと比べて考えたりする児童がいるなど,自然を見る力が少しず

つ育っているように思う。 また,「チョウを育てよう」の後の単元「こん虫をしらべよう」でも,各自が調べたい昆虫につ

いて学習を進めた。自分で決めた昆虫について飼育をしたり,チョウとの相違点を考えたりしな

がら観察をするなど,チョウを育てた経験を生かしながら学習を進めている。 ⑩理科環境を整える アゲハの卵を職員室前の廊下に置き,全校児童に

関心を持たせる取り組みについては,先に述べた通

りであるが,それ以外でも,理科の学習や自然につ

いて,学習している学年にとどまらず,他の学年の

児童も関心が持てるように配慮している。 3年生の「植物をそだてよう」「植物のからだをし

らべよう」の学習では,ホウセンカとヒャクニチソ

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ウの育ちについてデジタルカメラで取り,画像と記録文を教室前の廊下に掲示した。 また,4年生が育てたヘチマやヒマワリの育ちの様子についても,画像と記録文を教室前廊下

に掲示した。こちらは記録文も画像撮影も児童に行わせた。

なおヘチマは,その後たわし

を作り,11月のふるさと祭り

で販売をした。毎年4年生にな

るとヘチマだわしを販売する

ことを楽しみにしている。 5年生では,「植物の発芽と

成長」の学習で使うインゲンマ

メの発育の様子を身近に感じられるように,理科準備室の窓際で育

てた。また,理科室にはメダカの水槽を置き,どの学年の児童も気

軽に観察できるようにした。特に卵からメダカの赤ちゃんが生まれ

たときなど,たくさんの児童が見に来た。 校区には野生のメダカが生息する場所があるなど豊かな自然がたくさん残されている。校区内

の自然探検のよりどころとするために,1階の掲示板には,「国富生き物・草花マップ」を掲げて

いる。これは,3年前に本校児童が理科自由研究で作成した作品を大きくしたものである。校区

の地図に写真入りで生き物や植物の分布が示されている。また,平成12年度の本校職員が作成

した「くにとみーふるさとを知ろうー」の小冊子が各教室や職員室前に置いてある。その中に国

富の生き物や草花の生育についての資料があり,生き物と植物の生育の様子が地区別に月ごとに

示されている。これらはまだ充分活用されているとは言い難いが,今後活用を図りたい。 合わせて,少しでも児童が自然に目を向け,自然に関心を持つことができるように理科環境の

整備・充実を図っていきたい。

3.成果や今後の課題 3年生の児童にとって,モンシロチョウを育てることは楽しいことである。ところが先に述べたこ

とであるが,「世話するのが楽しかった」「成虫まで育ったことがうれしかった」という表面的な楽し

さではなく,少しでも自然の神秘さや不思議さに気づいたり,自然に対する見る目が変わったりする

楽しさを味わわせたいという願いを持って実践した。 効果的であったのは,比べて考えることである。同じチョウでありながらモンシロチョウとアゲハ

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チョウは,見た目は大きな違いがある。卵から育てていると更にたくさんの違いが見つけられる。と

ころがたくさんの違いがあっても同じチョウである。共通項を見つけることでチョウの特徴を捉える

ことができる。また,飼育しているチョウと自然のチョウの違いについてもとりあげた。飼育してい

るチョウは卵から成虫にまで育つ確率が非常に高いが,自然のチョウは成虫になる確率が1、2パー

セントと非常に低い。幼虫やさなぎの色が葉の色に似ている理由や1匹の成虫が200~300個の

卵を産む理由,外敵の存在などに気づかせることができた。自分で飼育するほか,植木鉢や畑のキャ

ベツのチョウを観察したことはよかったと思う。 はじめは成虫になったとき,いつまでも逃がそうとしない児童がいた。ところが成虫の寿命が1週

間足らずであることやその間に卵をたくさん産むことを知り,観察後すぐに逃がしてあげる児童が増

えてきた。自然に対する見る目が少し変わったように感じた。 また,今回は私自身がアゲハ(クマゴロウ,クマキチ)を卵から育てて,観察記録を掲示した。自

分が感動することも多く,児童の目線で話をしたり,感動を伝えたりすることができた。何よりも私

自身が楽しんで学習を進めることができた。 課題もたくさんある。やはり継続観察や日頃の世話がおろそかになる児童がいることである。飼育

や観察の約束や方法を徹底するだけでなく,飼育や観察をする動機付けがやはり重要である。育てた

い,観察をしたいと思わせるような指導が大切である。どんな学習環境の中でどのような手立てが必

要なのかを考えていかければならない。 また,飼育や観察を日常的に続けようとすると,担任との連携や保護者への協力依頼なども大事で

ある。幸い学級担任も言葉がけや意欲付けを積極的に行ってくれた。担任や保護者といかに連携しな

がら学習を展開していくかも,より良い学習とする大きな要因である。


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