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外販事業に大きな課題

「大 倉庫として共同配送・3PLなど外販物流のやり方を大きく変えることにしたのは,東日本大震災のあと,2年前からです」と同社営業本部長の濵長一彦氏は話す。「それまでは売上を上げるため分

野にかまわず,闇雲に仕事を取っていた。気付いたら,“人以外は全て”運んでいたんです」

むろんそんなやり方が必要なときもある。大 倉庫がグループ物流業務に加え,他社物流を受託する外販事業を積極化させたのは2000年頃から。まず食品・医薬品・日用品

と経験のある分野から営業をかけたものの,そう簡単にいくものではない。そこで視野を広げ,新たな領域にもどん欲にチャレンジを続けてきたのだ。

とにかく売上の拡大と信頼の獲得のため,小さな仕事も積み上げて,成功モデルを作ろうとした。物流は実際にやってみないと分からない。営業も現場も,みな必死だった。

だが10年を経て振り返ってみると,様々な問題点が見えてきた。売上を積み上げたところで,本当に大

グループの事業会社として貢献しているのか。

実際に多くが中途半端な仕事にとどまり,顧客満足にもほど遠かった。従来持たなかった仕組みや倉庫・トラック,システムなど新規のインフラ整備を求められ,売上が出てもコストが増えた。

このままではいけない。「仕事を広げすぎて利益が上がら

ず,営業は行き詰まっていました。一番やりたい仕事の深掘り,信頼獲

得もできていない…」と濵長氏は続ける。「外販事業を効率化し,高業績に

結び付く経営体質にするために,できることは何か。考えた結果辿り着いたのが,自社の強みを活かしてお客様にメリットを提供するため原点に返り,大 グループの商品とシナジー効果の出せる荷物にターゲットを絞ることだったのです」

大 グループの物流受託で同社が扱ってきた商品は,図表-2の通

得意分野への選択と集中で物流の新たなプラットフォーム

食品・飲料,医薬,日用品/大 倉庫の戦略❶

大 倉庫が,変わった。これまで大 グループの物流業務を支えてきたネットワークとノウハウを活かし,幅広い分野の外販事業を積極展開してきたのだが,その方向性を大きく転換。「選択と集中」で食品・飲料/医薬品/日用品という得意分野にターゲットを絞った上で,自社の仕組みを共同物流の基盤として解放する「プラットフォーム戦略」を打ち出したのだ。それはいったいどんなチャレンジなのか。今回はその全体像から,シリーズで大 倉庫の新たな取り組みを追っていく。(編集部)

32 2013・5

[特集]+αの付加価値物流

濵長一彦氏

図表-1 大 倉庫㈱の会社概要

本 社所在地

大阪府大阪市港区石田1-3-16TEL.06-6576-5921(代表)

設 立 1961年11月22日

代表者 大 太郎 代表取締役社長

資本金 8億円

事 業内 容

倉庫業,貨物自動車運送事業,貨物運送取扱業,不動産の開発・取得・所有・処分及び賃貸・管理及び利用,損害保険業・自動車損害賠償保障法に基づく保険代理店業,生命保険の募集に関する業務,情報の収集・処理の委託・システム開発・各種情報の提供及び管理他

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り食品・飲料,医薬品,日用品で合わせて約2,800品目,年間取扱量は1億ケース(同社では梱と表現)。

さらに外販分を合わせればこの数字は1億6,000万ケースに跳ね上がる。扱い比率は食品・飲料とその他が概ね7:3の割合だ。

知らぬ者のない大 製薬のポカリスエット,オロナミンC,カロリーメイトなどの食品・飲料をはじめ,各種医薬品,アース製薬の殺虫剤他の日用品etc.,おなじみの品目がずらりと並ぶ。

ではシナジー効果を生み出せる分野は何か,そして大 倉庫は何を事業の柱とすべきなのか。

会社でなく,相性のいい商品の組み合わせ

◆シナジー効果

同社がまず着眼したのは,食品・

飲料,医薬品,日用品という大 グループの基盤扱い品目と,シナジー効果の出せる仕事に絞り込むことだった。

それまで,「相手の会社のネームバリュー」で営業先を選んでいた視点を,「商品」で選ぶ視点に変えた。シナジー効果の創出を具体的に考え詰めたことで,この発想の転換を得た。

ではシナジー効果を出せる「商品」とは何か。それには,①グループ扱い品目と物流特性が共通する同分野の商品,②互いの物流特性が違い補完し合える商品,の2つがある。したがって同社は以下の商品群に「選択と集中」を行ったのだった。

①物流特性が同じ同分野

…食品・飲料,医薬品,日用品

納品先の一致率が高く,共配による相乗効果が見込める商品。現有資

産を活かせるから,コストを上げずに利益が出せる。まずは既存顧客の仕事をリサーチし直した。

ただし同じ食品でも低温品や生鮮品など,同社の得意分野と特性の異なるものは除く。

また特性が同じでも,各業界のNo.1企業の商品は扱わないと決めた。No.2,No.3の企業の方がニーズが高いと考えたからだ。

②物流特性が違うために逆に補完し

合える分野

…軽量の商品,冬型の商品

ベースカーゴの多くを占める飲料とは,すなわち重量品で,かつ最盛期が夏期の夏型商品。この特性を補完するために,逆の特性を持つ品目を求めた。

軽い商品なら,飲料を積んだトラックの空きスペースに混載し,積載率を高めるというメリットを創出で

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得意分野への選択と集中で物流の新たなプラットフォーム/大 倉庫

大 倉庫㈱の会社概要

本 社所在地

大阪府大阪市港区石田1-3-16TEL.06-6576-5921(代表)

設 立 1961年11月22日

代表者 大 太郎 代表取締役社長

資本金 8億円

事 業内 容

倉庫業,貨物自動車運送事業,貨物運送取扱業,不動産の開発・取得・所有・処分及び賃貸・管理及び利用,損害保険業・自動車損害賠償保障法に基づく保険代理店業,生命保険の募集に関する業務,情報の収集・処理の委託・システム開発・各種情報の提供及び管理他

図表-2 大 倉庫が扱う大塚グループ製品/年1億梱

抗精神病薬「エビリファイ」

抗血小板剤「プレタール」

抗がん剤「ユーエフティ」

胃炎・胃潰瘍治療剤「ムコスタ」

抗がん剤「ティーエスワン」

高カロリー輸液「エルネオバ」

医薬品 食品飲料 日用品

ポカリスエット

SOYJOY

オーエスワン

SOYSH(ソイッシュ)

カロリーメイト

チオビタ・ドリンク

オロナミンCドリンク

ネイチャーメイド

UL・OS(ウルオス)

クリスタルガイザー

シンビーノジャワティストレート

ボンカレーネオ

100,000,000梱/年●食品飲料…約400品目  ●医薬品…約900品目  ●日用品…約1,500品目取扱品目

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きる。実際に同社はこうした混載を開始しており,他社に比べ高い積載効率を実現している(写真❶❷)。その典型的な商品例として濵長氏が挙げるのは,「即席めん,あるいはお菓子」である。

◆抵抗を排し絞り込み

「つまり,相性のいい商品との共同配送を外販として行う。それ以外はやらない,と決めたんです。でなければwin-winにならない。それまでは〈扱ってはいけない商品〉を扱っていたことを思い知りました」(濵

長氏,以下発言は同じ)

だが〈相性のいい商品しか扱わない〉こともそう簡単ではない。こうして絞り込むには,「合わない商品の仕事を切る」「考え方の合わない仕事は取らない」ことが必要になるからだ。当然,目先の売上は減るから,営業現場には抵抗がある。「私も営業ですから,自分の取っ

た仕事を断るのは身を切るように辛い。けれど,実行しました。余計なところに営業に行くなと部下をチェックまでしましたが,絞り込みによって週1回の訪問回数を毎日にも増やし,深掘りできる。〈捨てる勇気〉を持ち,今まで当たり前と思っていた考え方を,大逆転させたんです」

戦略方針を定めたら,断じて実行すること。これは勝利の方程式だ。数値結果が出てきている。

売上高は2010年度まで10年間の年平均成長率2.5%に対し,2011年度以降は平均10%成長と急上昇している。絞込みの効果は利益面にも表れ2011年度以降,営業利益も売上高を上回る成長を見せている。

大 倉庫の共通プラットフォーム戦略とは

◆マーケットインの思考

「こうした戦略を実行していく中で,結果として気付いたのが,これは〈市場が求めていること〉なのではないか,ということです」

大 倉庫の取り扱う年間1億6,000万ケースのベースカーゴ,医薬品メーカーの物流を支えてきた歴史,その間に培われてきたノウハウや,整備してきた各種のインフラを,相性の良い他社の商品が相乗りでき

る〈共通の場〉としたならば,どうだろうか。「これまで,物流プラットフォーム

というと,施設がどうだとか,物流システムがどうだとか,現場力がどうだというように,良いものを作って提供するプロダクトアウト型だったと思うのです。それを商品の相性という観点で見ていくと,物流に求められているものが同じであり,共同化すればするほど,互いのデメリットを補完し合えるばかりでなく,想定以上にメリットを生むことが分かったのです」

それにも増して驚いたのは,大グループの物流を行うことで育まれた知識と経験が,商品特性の似た外販のクライアントに対するそれと酷似していたことだった。特に問題解決のプロセスで,レバレッジを利かせられることが分かってきた。そこで,提案内容を大幅に刷新,課題の抽出に力を入れた。◦解決しなければならない問題は何

か。

◦取り引きすることでどんなメリッ

トが産まれるか。

◦どんなプロセスでそれが実現でき

るのか。

出荷数量とかコスト算出ではな

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[特集]+αの付加価値物流

❶実飲料と食品 ❷飲料と他社飲料の混載

1 2

図表-3 受注から納品/国際物流まで一貫プロセスを提供・可視化

国際物流

納品配送出荷在庫引当受注

いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように物流プロセス毎に可視化

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く,もっと深いところで繋がろうとする,アプローチとしての提案に変えたのだった。

大 倉庫が共通プラットフォームとして提供する物流インフラは,以下のものだ。

①一貫物流プロセス

機能としては,受注から引当・在庫・出荷・配送・納品までの物流サービスを一貫提供し,その過程を可視化すること(図表-3)。

この一貫プロセスには,国際物流

までが含まれる。「大 グループで現在,輸出入し

ている海上コンテナ・年間2万TEUの物流を取りまとめている最中です。グループ以外においても他社との共同購買を図り競争力を強化しています。また,グループの国際物流は輸入が大半のため,相性の良い,つまり輸出を軸とした他社と国際物流のプラットフォームを確立していきます。輸入コンテナを使い回せれば,既存分野にもこだわりません」②受注と物流ネットワーク

装備・体制としては,63か所から2か所に集約した徳島と東京の自社受注センター(図表-4,年間150万件

までの増加に対応)と,全国翌日配送を実現する物流拠点・配送ネットワークがある(図表-5)。

◆専用でなく,汎用システム

「今までは何かあればITや物流技術,そして現場力で解決しろ,と頼ってきた嫌いがあります。しかしそうでなく,戦略に基づいて現場を動かしていくことが必要と考えました」

仕事を広げすぎた戦略上の課題を,戦術でカバーすることはできないということだ。だから絞り込んだ上での,プラットフォーム戦略なのである。

そしてプラットフォームだからこそ,従来のような荷主ごとの専用システムでなく,共通して使える汎用システムとしていくことにした。端的な例が,iPad miniの活用だ。

“iPad mini作戦”で汎用力をパワーアップ

◆情報共有・ペーパーレス

「今までは幅広い物流業務を手がけ,事務も現場もそれぞれ専用の仕組みを用意していたので,負荷ばかり増え,十分な利益は出せませんでした」と濵長氏は振り返る。「だから〈選択・集中〉した根本

目的は,利益を高めること。そのために得意分野を活かして〈大 にしかできない〉強みを発揮する。そこで必要になるのが〈汎用的な仕組み〉で,仕掛けの一つが“iPad mini作戦”です」

従来,多能工化していた同社の現場でも,事務所の内勤者との間まで,互いの動きが見えるまでにはな

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得意分野への選択と集中で物流の新たなプラットフォーム/大 倉庫

図表-4 2か所の受注センターには十分な余力

図表-5 物流拠点・配送ネットワークで全国翌日配送を実現

(バックアップ体制確立)

年間受注件数150万件 受注能力件数300万件徳島受注センター 東京受注センター

九州支店(佐賀県鳥栖市)

大阪支店(大阪市港区)

飲料・食品在庫拠点(53カ所)医薬品在庫拠点(14カ所)日用雑貨在庫拠点(9カ所)

全国翌日納品体制 北海道支店(釧路市)

名古屋支店(北名古屋市)

東京支店(東京都中央区)

四国支店(徳島県徳島市)

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っていなかった。本社との間でも同様だろう。

そこに iPad miniを導入してWMSと連動・統合し,ピッキングなどの指示のペーパーレス化や,進捗率などの情報を社内で共有しようというのだ。同時にそれは,現場力ばかりに頼るのでなく,汎用機を全社的に活用することで,本社が全体をシステム的に管理し,責任を持って統御することを可能にする。

iPad miniは従来のハンディ端末に比べ,堅牢性には劣るものの,本体価格が安くWi-Fi通信を利用できるので,自前の無線LAN設備が不要など,はるかに低コストなのもポイント。以下3ステップでのメリット創出が期待されている(写真❸)。

①現場の生産性向上

ピッキングなど作業指示を各人が画面に取り込み表示することで,帳票発行のムダをなくし,効率的なペーパーレス作業が可能になる。

また内勤者と現場担当者がリアルタイムに現在状況を把握し共有可能になるため,応援など必要な対応のレスポンスがより速くできるようになる。

②社内で管理データ活用

生産性など業務実績がデジタルデータで見える化できるので,これを使ってピッキング時間,作業単価など事業所ごとのパフォーマンスを数値化,事業所間でベンチマークし改善に役立てることも可能。

③実績データを見積に活用

これまで仕事の料金を決める時は,実績をもとにするなどアナログな対応が普通だった。しかし以上のデータを活用すれば,その業務の原価はこれだけだからいくら,と数字の明確な根拠をもとに見積りを出す

ことも可能になる。

◆現場力,システム力も

ただし汎用化によって拠点ごとの物流現場力,IT・システム技術力を全て否定するというのではない。逆に,この面でも同社の力は抜きんでている。

実際,同社の物流現場では1人ひとりが自律し,多能工化してマルチに動くことが当然,という気風が培われている。忙しい他部門に率先して応援に入るのも当たり前。改善事例は発表大会で横展開してきた。「最近ではより意識的に,これが

自分の仕事で,あれは違うといった意識の〈壁をなくせ〉と呼びかけています。晴海では実際にフロアにあった壁を全て取り払い,営業も情報も品質管理も,物理的にお互いが見えるようにしました。目指すのは,

〈全員野球〉ですね」またシステム面では,88年から東

京晴海データセンターを立ち上げ,リモートコンピューティングサービスを情報事業として提供してきたノウハウが大きな強みになっている。工場直結倉庫では,自動倉庫や無人フォークリフトなどの先進マテハンシステムも採用。これも大 グループの強みだろう。

*こうして大 倉庫は,〈選択と集

中〉の戦略をまず定め,営業の活動も中身も変え,大 グループのインフラを最大限活かしてひたすら実行した。するとそこに,他社に活用してもらうための〈共通プラットフォーム〉が生まれ,売上と利益の拡大に結びついた……。

次回からはその実行の中身について,順次具体的に聞いていく予定だ。 MF

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[特集]+αの付加価値物流

❸物流現場でのiPad miniの使用状況

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