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(第三種郵便物認可)税 理 士 新 聞 72012年(平成24年)5月25日号 第1377号

クローズアップ

早川小百合 三田弁護士登場人物

税理士。税理士事務所に勤務した後、税務関係を専門分野のひとつにしている三

田総合法律事務所に移籍した。好奇心が強く、遠慮なく質問や意見を言う性格。

三田総合法律事務所の代表弁護士。数多くの税務訴訟・税理士賠償責任訴訟を担当し、

税理士界をよく知っている。裏表のない率直な性格で、「何があっても上り坂」が信条。

税理士事務所~税法以外の法律も〝味方〟にする~

訴訟時代の生き残り術執筆:鳥飼重和弁護士

早 川  三田先生は日ごろから「税理士業界の未来は非常に明るい」と唱えています。でも、『税理士新聞』のアンケート調査(第1376号)によると、「5年後の税理士業界はきっと明るくない」と考える税理士先生が多いようです。

三 田  興味深いね。小百合ちゃんはどう思う?

▼早 川  この法律事務所に来る前は、税理士業界の未来を明るいとは思え

ませんでした。赤字企業が多い現状では、顧客はそう簡単に増えませんし、顧問料を減額させられる例は多いです。会計ソフトの発達などで、記帳代行を主業とする税理士業界は〝お先真っ暗〟と思っていました。

▼三 田  多くの税理士先生もそれと同じ考えなのだと思う。それは目に見

える「現状」に捉われているからだろう。さっきのアンケート調査の話だけど、「税理士業界の未来はきっと明るい」という回答はどのぐらいあったのかな。

▼早 川  「明るい」が32通で12%ということです。ちなみに、「明るくない」

が243通で88%ですね。▼

三 田  12%でも明るいと思う税理士先生がいることは心強いね。▼

早 川  先生お得意の「人生何があっても上り坂」の視点ですね。良くなると思う「上り坂」に焦点を当てるというわけでしょう。

▼三 田  小百合ちゃん、ご明察。で、その先生方のコメントにはどういう

のがあるのだろう。▼

早 川  例えば、「明るくなると思うことが大切。景気はみんなの思いから始まる。他人や社会のせいにせず、全ては自分の思いを大切にすること」というものがあります。

▼三 田  とても素晴らしいコメントだ。この税理士先生は、目に見えない

世界が見えているようだ。目に見えない「思い」という言葉を3回も使っているからね。人間の思いが未来を創造するという真理を理解している証拠だ。

▼早 川  「未来は、今思うことで創られる」ということですね。税理士先生

が税理士業界の未来は明るいと思えば、明るい未来が拓けていく。▼

三 田  うん。そう思えるようになるには、税理士業界の未来が明るくなることに焦点を当てる必要がある。

▼早 川  ほかのコメントには、「時代への対応が正しく出来るかどうかで

決まる。だが、人材を思うように育てられない」というものがありますが、参考になるでしょうか。

▼三 田  とても参考になるよ。厳しい環境の中で生き残るかどうかはダー

ウィンの適者生存の法則が適切な基準となる。大きいものや強いものが生き残るのではなく、環境に適応したものが生き残る―そういうことだ。この法則は正しいと思う。

▼早 川  三田先生、環境に適応するとはどういうイメージになるでしょうか。

言葉としては理解できるのですがどうもイメージが湧きません。▼

三 田  自己改革のイメージだ。寒波が襲ったときに裸だったら凍えて死ぬ。だから防寒用の服を着る。暖房施設を創る。こうやって適応していく。要は、従来の考え方を変えて実行することだ。

▼早 川  イノベーションという言葉と同じでしょうか。 

三 田  そうも言えるね。イノベーションも、生き残りを想定した創造的革新のこと。自己改革と同一線上にあるともいえる。

▼早 川  自分を抜本的に変えないと、イノベーションは起こせないでしょ

うからね。▼

三 田  鋭いな。税理士先生の「時代への対応が正しく出来るかどうか」という発想は、その意味で的を射ている。ただ、その次が問題だ。せっかく時代への適応が必要だという正しい発想があるのに、「人材が思うように育てられない」というマイナス表現が出ている。

▼早 川  どのように考えればいいのでしょうか。

▼三 田  自己革新が時代への適応法だとすれば、まず、税理士先生の自己

革新が必要になる。ところが、税理士先生の表現からすると、まだそれができていないように思う。

▼早 川  つまりどういうことでしょうか。

▼三 田  税理士事務所でイノベーションを起こすためには、税理士先生は、

過去的発想から未来的発想に切り替えるという自己革新が必要になる。しかし、「人材を思うように育てられない」という言葉は過去的発想になっている。未来の発想だと、過去はどうあれ、「これから人材を育てていこう」と建設的に考える必要がある。このように考えると、次には「人材とはどういうものなのか」「どうしたら人材は育つのか」という発想につながる。

▼早 川  それは確かに建設的な考えです。

▼三 田  税理士先生でも一般経営者でも、「人材がいなくて困る」と言う

方がいる。これって、世の中の本当の姿が見えていないと思うんだ。誰だって、その「人材」になれる可能性があるはずなんだから。

▼早 川  資格や出身大学は決め手にならないということですか。

▼三 田  そのとおり。松下幸之助さんは、「何もないところから無限なも

のを生み出せるのが人間」ということを教えてくれている。彼は何の資格もなく、有名大学も出ていないのに、世界的企業を育てた。その最大の原因が分かるかな? 松下さんは、優秀な人材がいるように思えない零細企業から事業を始めた。ところが、そこから世界的大企業になった。その一番の原因は、人材を育てたからだと思う。わが社は人を作り出す会社だと称していたからね。

▼早 川  「事業は人なり」と松下さんは経験で学んだのでしょうか。

▼三 田  うん。松下さんはヒト・モノ・カネの何もなかった。唯一あった

のが「考える」という思考力。この考える力こそが無限の物を生み出す源であることを体感し、その考えを従業員に植え付け、人材を創っていったのだろう。

▼早 川  どうやって従業員に考える力を植え付けたのですか?

▼三 田  「わが社には社会的使命がある」ということを徹底的に従業員に

伝えた。社会的な使命感を持った人が社会に役立つことを考える人材になると見抜いたようだ。

▼早 川  税理士業界には立派な社会的使命があります。だから、それを従

業員に植え付ければいいのですね。▼

三 田  そうだね。ただ、従来の税理士業界の常識では社会的使命が狭すぎる。もっと広い意味での社会的使命に気付けば、従業員が立派な人材になり、税理士事務所の明るい未来が拓けてくると思う。 (つづく)

税理士業界の明るい未来は「人材」から

第12回

早 川

三 田

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