2 SOKEIZAI Vol.53(2012)No.11
5 軸制御マシニングセンタの高速・高精度化に伴い、工具とツーリングおよび CAMなどの進展は十分とは言えず、新たな切削技術構築が求められている。本稿では、5軸制御マシニングセンタの現状、工具と使用技術および加工事例などを中心に説明する。
5軸制御マシニングセンタの最新技術動向
1.はじめに
松 岡 甫 篁 ㈱松岡技術研究所
今秋に開催される JIMTOF(日本国際工作機械見本市:東京ビックサイト)では、CNC複合加工機と共に 5軸制御マシニングセンタが中心的な工作機械として出展されることが予測される。 生産設備の中心的なマシニングセンタは、更なる高効率生産を指向した取り組みの中で 5軸制御マシニングセンタが有力視されている。 元来、5軸制御マシニングセンタは、ドイツなどヨーロッパ地域などで普及しており、部品生産、および型部品生産における多面切削が行われていた。 一方で、工業製品の生産拠点は市場拡大が進む中国に移行して久しいが、急速な人件費高騰で省力化・
自動化が期待できる 5軸制御マシニングセンタが注目されている。例えば、「上海現代金型訓練中心」は、中国の金型生産技術者を育成する大規模な教育機関で、このセンターに数台の 5軸制御マシニングセンタが教育用として設置されている。 反面、5 軸制御マシニングセンタの高速・高精度化に伴い、工具とツーリングおよび CAMなどの進展は十分とは言えず、新たな切削技術構築が求められている。本稿は、5 軸制御マシニングセンタの現状、工具と使用技術および加工事例などを中心に説明する。
5軸制御マシニングセンタは、変種変量、かつ迅速生産に対応可能な生産設備として期待が大きいが、今や大型機から小型機へと機種が増えている。 当初は、大型部品向けの CNC 5 面加工機として登場し、その後、写真 1に紹介した大型 5軸制御マシニングセンタ、写真 2の CNC複合加工機に進化、大型建設機械、航空機、エネルギー関連設備用大型部品の生産設備として普及してきた経緯がある。2010年の JIMTOF(日本国際工作機械見本市、東京ビックサイト)以来、5軸制御マシニングセンタは、
2.国際化が進む5軸制御マシニングセンタ
写真 1 大型部品向け 5軸制御マシニングセンタ例(オークマ)
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特集 5軸加工はどう展開していくか
高速・高精度切削性能が向上したため新たな生産設備としての注目度は高まっている。5軸制御マシニングセンタは、直線駆動する 3軸と旋回する 2軸で構成される方式が一般的で、直線駆動方式はボールスクリュ方式が多いが、リニアモータ方式(例えば、マザック、DMG社など)が登場し、送り速度の高速化が進んでいる。旋回軸部の駆動は、従来のウオームギアによる方式から、ダイレクトドライブモータ方式へ急速に移行している。 その結果、直線軸と旋回軸を同期させて、曲面形状の高速・高精度切削が可能になり、かつ高速回転(毎分 1200回転数以上)による旋削機能を付加した機種も登場している。すなわち、毎分 50m以上、加速度は 0.5G以上の送り駆動機能、および 5µm以下の位置決め精度を有する 5軸制御などマシニングセンタの高機能化は進んでいる。 図 1は、5 軸制御マシニングセンタに期待する背景および種類例を示しているが、小型、およびハンドリングロボットによる自動化、アングルヘッドを用いた簡易型など多様化が進んでいる。 2011年の 9 月に開催された EMO2011(欧州国際工作機械見本市 2011、ドイツ・ハノーバー市)に出展していた 5軸制御マシニングセンタなどから、以下に新たな動向を紹介する。 写真 3、写真 4および写真 5は国内メーカーの 5軸制御マシニングセンタ例で、小~中部品における複雑形状の同時および多面切削加工で、工程簡素化
写真 2 大型部品向け CNC複合加工機例(ヤマザキマザック)
変種変量生産指向
短納期化・コスト競争激化
5軸制御マシニングセンタ多種類化・生産拠点の拡大
ユーザーニーズ多様化製品寿命の短命化
部品生産方式の変化 切削による量産部品生産方式
マシニングセンタ多量消費時代
小型5軸制御マシニングセンタ
5軸制御マシニングセンタ
複数主軸化
アングルヘッド適用多面加工
マシニングセンタ
中型5軸制御マシニングセンタ
大型5軸制御マシニングセンタ
5軸制御マシニングセンタ
自動化
5軸制御マシニングセンタリニアモータ駆動
図 1 5軸制御マシニングセンタと部品生産の背景
写真 3 小型 5軸制御マシニングセンタ実演風景(ヤマザキマザック)
写真 4 小型 5軸制御マシニングセンタ実演風景(ツガミ)
写真 5 小型 5軸制御マシニングセンタ実演風景(ファナック)
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を実現している。写真 6、写真 7は、量産部品用 5軸制御マシニングセンタであり、従来の 3軸制御方式に比べ治具の簡素化、生産設備の縮小に加え、自動化による省力化など新たな合理化が期待できる。
写真 8は、台湾製の 5軸制御マシニングセンタであり、生産数量、性能共に日本の工作機械を追従しており、中国およびタイ市場などで販売を拡大している。
写真 9は、中国製の 5軸制御マシニングセンタであり、CNC制御装置を含め自社開発で低コスト化を実現し、5軸制御マシニングセンタの生産も世界規模になりつつある。
写真10は、アングルヘッドを用いて多面切削を行う方式で経済性を追求した事例で、試作品などの加工に最適な生産設備と言えよう。
写真11は、ドイツの工作機械メーカーから紹介されていた、複数の主軸を有する多面切削用マシニングセンタ例であり、部品の量産用として合理化が期
写真 6 小型量産部品向けマシニングセンタ実演風景(ブラザー工業)
写真 7 小型 5軸制御マシニングセンタと切削事例(牧野フライス製作所)
写真 8 台湾製 5軸制御マシニングセンタ実演風景(YCM)
写真 9 中国製の小型 5軸制御マシニングセンタ実演風景 (北京精彫)
写真10 アングルヘッド搭載の 5面切削用マシニング センタ実演風景(ヤマザキマザック)
写真11 複数主軸とインデックス装置を有するマシニング センタの実演風景(STAMA:ドイツ)
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特集 5軸加工はどう展開していくか
待できる。切削で量産部品を生産する方式の登場で、複雑形状を高精度、かつ高能率で切削することが求められており、高速ミーリング、自動化などに加え、5軸制御マシニングセンタの導入も期待されている。 写真12は、微細・精密切削向けの 5 軸制御マシニングセンタ例であり、直線送り軸はリニアモータ駆動方式で加速度特性は 2 G、旋回部はダイレクトドライブモータ駆動方式、主軸は毎分 42,000回転(HSK-E-40:オプション:毎分 60,000回転・HSK-E-25)などの機能を有する。微細・精密切削は、エレクトロニクス、オプチカル、メディカル分野などにおいて期待されており、5軸制御切削に加え、工具摩耗量を最小限に抑制できる機能などが期待されている。
5軸制御マシニングセンタで行われている切削の多くが多面加工であり、5軸制御機能を活かした新たな切削の実現は今後に待たれるところである。 5軸制御マシニングセンタの切削における優位性とそのために必要な条件について説明する。(1) ワーク、または主軸を傾けることができるため、
エンドミル外周刃を中心の切削が可能であり、面性状が一定の切削面の創成が可能である。
そのためには、例えば、高速・高送り切削、切削速度を高めた高精度切削面、工具寿命を向上させる対策などに対応したフライス工具の切れ刃形状の追求が必要になる。
(2) エンドミルを接近させた切削が可能であり、ツーリングで首下長さをぎりぎりまで確保し、先端部に最短の工具長のエンドミルを焼ばめ方式で保持すると、切削条件を大きく低下せずに安定した切削が期待できる。とりわけ、微小径エンドミルを必要とする隅部のコーナーR寸法が小さい形状の切削では有効な手段である(写真13参照)。
写真12 微細・精密切削 5軸制御マシニングセンタ例 (DMG:ドイツ)
(3) 高い縦壁、複雑形状の底部など、工具の突出量が多くなり不安定な切削を強いられる加工形状も、エンドミル切れ刃とワークの干渉を避けながら切削することが可能になる。
図 2は、立型のマシニングセンタのテーブルの割出しと旋回機能を用いた多数個ワークの多面切削パターンを紹介している。 すなわち、単純な形状を切削する部品を多数個セッティングして、連続切削することが可能で高能率化が期待できる。
図 3は、横型マシニングセンタで B軸を回転させて所定の形状をエンドミル切削する場合、エンドミルの突出量を少なく抑えた切削が可能になり、安定、かつ高能率切削を実現できることを紹介している。
3.5軸制御マシニングセンタの切削工具と切削技術
焼きばめ方式ツーリング
小径エンドミル
写真13 5軸制御マシニングセンタにおける小径エンドミルによる底部のコーナ R切削事例
(牧野フライス・MSTコーポレーション)
図 2 5軸制御マシニングセンタにおける多面ワーク装着と切削事例
(牧野フライス・MSTコーポレーション)
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写真14は、3軸と5軸制御マシニングセンタでボールエンドミルを用いて型部品の荒切削した場合の比較例を紹介した。すなわち、3軸制御の場合は、ワークとの干渉を避けるため首下がストレート形状、5軸制御では首下がテーパ形状のボールエンドミルによる外周刃中心の切削で、送り量が多くでき、切削時間と工具摩耗に大きな差が生じている。 5軸制御マシニングセンタの特性を活かした切削
は、CAMを含む CNC制御方式以外に、エンドミルとツーリングの最適な選択と適用が、加工能率、加工精度に大きな影響を及ぼすため、重要なポイントになる。切削に期待する精度が高まっている中で、エンドミルの切れ刃形状と精度、およびエンドミルの切削特性を十分に発揮させる保持方式について十分な配慮が求められている。例えば、エンドミルの条件は、外周刃中心の切削を指向するため、多刃による高能率、工具寿命特性の向上では、刃並び精度の高いことなど件が求められよう。ツーリングは、保持剛性と振れ精度が高く、ワークの接近性が優れている焼きばめホルダが最適と考えられており、写真15に紹介した独特な曲線を有する 5軸制御対応のデザインが開発されている。しかしながら、型部品などで小径エンドミルを用いた仕上げ切削で、ワークへの接近性を考慮してツーリングの突出量が多くなる場合に、安定した切削を指向すると最短なエンドミルを用いることが有効である。図 4は、5軸制御
B軸回転
B軸回転し工具と切削箇所
の接近性を高める
図 3 5軸制御マシニングセンタにおける B軸を旋回させ 荒切削の安定化と高能率化事例(牧野フライス)
R0.3ボールエンドミル
34分/1形状 15分/1形状
同時3軸加工 同時5軸加工
工具磨耗(8形状加工後)
使用工具(コーテッド超硬合金ボールエンドミル)
R0.3テーパボールエンドミル
写真14 5軸制御と 3軸制御マシニングセンタにおける工具形状と切削条件の比較例
(被削材:SUS630改質材・牧野フライス)
高速回転特性最少のアンバランス量スリム化・軽量化
切削条件切削速度:300送り速度:0.1mm/刃切り込み:0.05mm45°傾斜切削(5軸制御MC)工具:ラジアスエンドミル直径10mm・R2(コーナR)保持具:焼きばめホルダ 肉厚6mm・BT4
MCテーブル
焼きばめホルダ
被削材
エンドミル
切削面(2D) 切削面(3D)
シャンク径
図 4 エンドミル保持長さ(シャンク径 2倍、3倍)と切削面性状比較例(MSTコーポレーション)
写真15 突出量の多い 5軸制御マシニングセンタ用焼き ばめホルダ例(MSTコーポレーション)
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特集 5軸加工はどう展開していくか
マシニングセンタにおける焼きばめホルダの切削実験例を紹介している。 すなわち、エンドミルのシャンク径の 2倍、および 3倍の保持長さによる切削を行った結果、シャンク径の 2倍の長さの保持でも十分に切削特性を発揮
できることが分かった。小径エンドミルを高速回転で切削する場合、保持部の突出量が多いほど、短尺(軽量)なエンドミルを用いることが、切削精度と工具寿命を高める有効な手段になる。
部品集約化による製品の合理化対策で、複雑形状になっているワークを短時間、かつ高精度な切削を行う上で、5軸制御マシニングセンタは、有効な生産設備として認識が高まっている。 その期待に応えるべく、高速、かつ高精度切削に向けた開発が進められ、ワークを搭載して旋回、割り出しなどを行う回転軸部は、ギア駆動方式からダイレクトドライブモータ方式、および送り駆動系は、ボールスクリュ方式からリニアモータ方式の採用などで高度化が進んでいる。 例えば、直線軸と同様に回転軸の高速化と高精度化の更なる追求、高速高精度な回転機能、高精度な加減速技術、工具先端点制御などの同時 5軸制御の高度化、CAMによる CNCプログラム生成機能とシミュレーションソフトの開発などが挙げられよう。 同時に、5軸制御に最適な工具軌跡、切削条件、工具とツーリングの開発なども同様に求められ、とりわけ、工具は高速・高精度化と高能率化に向けた新たな対応は不可避な条件である。その結果、5軸制御マシニングセンタへの依存度はますます高まり、高機能、高精度、かつ作業性の高い生産設備の認識が高まり、中心的な生産設備として位置付けされてゆくと予測される。 今後の 5軸制御マシニングセンタは、工程簡素化と同時に、長時間自動運転化が指向され、ハンドリングロボットによるワークと工具の自動供給システム、工具とツーリングの自動着脱、および機内計測技術など更なる開発が求められている。 例えば、写真16に紹介した高周波電磁誘導加熱装置などによる自動工具着脱システムは、高精度・高剛性な工具の保持が可能になり、安定した切削が実現でき、長時間自動運転化を指向する場合の有力な手段として評価されている。
今後は、工作機械、工具、ツーリング、CAMなどソフトウェア関連との連携で更なる進展と普及を期待したい。 最後に、本稿を執筆するにあたり、貴重な資料提供など多大なご協力を頂いた関係各位の皆様に厚く御礼を申し上げる次第である。
参考文献1 ) 松岡甫篁:世界の先端をゆく工作機械と加工技術を展望する,機械技術,Vol.57,No.12(2009・12)
2 ) 宮本了一:航空機部品の最新加工事例,機械技術,Vol.57,No.11(2009・11)
3 ) 今泉悦史:5軸マシニングセンタに求められる切削工具の要素,機械と工具,Vol.54,No.5
4 ) 牧野フライス製作所:5軸制御マシニングセンタ技術資料
5) ヤマザキマザック:5軸制御マシニングセンタ技術資料6)MSTコーポレーション:焼きばめホルダ技術資料7) YS電子工業:焼きばめホルダ用加熱システム技術資料8)DMG:5軸制御マシニングセンタカタログ
4.課題と今後の動向
マシニングセンタ自動供給システム例 単体型自動供給システム例
写真16 焼きばめ方式自動工具着脱システム例(ワイエス電子工業)