Download - 86akademeia Olympus Incident
1.はじめに
∗ 粉飾とは?不正な会計処理を行い、嘘の財務諸表を報告すること
∗ 財テクとは?
財務テクノロジーの略。企業が本業以外の財務活動によって収益拡大を狙うこと
∗ 時価会計とは?資産と負債を再評価し、財務諸表に反映させる会計制度
∗ 損失飛ばしとは?
企業が保有する有価証券の損失計上を防ぐため、一時的に他の決算期の異なる企業へ売却すること
∗ キーワード説明
2012/6/123
∗ 登場人物紹介
1.はじめに
∗ マイケル・ウッドフォード氏・・・オリンパス元CEO
2012/6/124
∗ 菊川剛氏・・・オリンパス元CEO(2001~2011年10月)
∗ 森久志氏・・・オリンパス元副社長
∗ 山口義正氏・・・経済ジャーナリスト
「オリンパス事件は、単に一企業のコンプライアンスやガバナンスだけの問題ではありません。
そこには、日本の資本主義、ジャーナリズム、不況に苦しみ停滞する社会の今後について多くの示唆が含まれていると私は信じています。」
2.オリンパス事件とは
-「解任」よりマイケル・ウッドフォード氏の言葉
2012/6/125
∗ オリンパス事件の特徴
∗ 1,350億円近くに上る粉飾金額
∗ 10年以上に渡る粉飾期間
∗ 極めて複雑なスキーム
2.オリンパス事件とは
日本史上最大日本史上最大日本史上最大日本史上最大の粉飾事件の粉飾事件の粉飾事件の粉飾事件
2012/6/126
∗ 過去の粉飾事件
2.オリンパス事件とは
企業名企業名企業名企業名 時期時期時期時期 金額金額金額金額 問題の内容問題の内容問題の内容問題の内容 詳細詳細詳細詳細
西武鉄道 2004年11月 - 大株主虚偽 40年以上に渡り偽装
カネボウ 2005年5月 829億円 業績の粉飾 債務超過を隠ぺい
ライブドア 2006年3月 90億円 業績の粉飾 虚偽の経常利益
日興コーディアルグループ
2007年3月 180億円 不適切な会計処理 決算数値を水増し
ビックカメラ 2009年3月 49億円 不適切な会計処理 不適切な特別損益
オリンパス 2000~10年 1,350億円億円億円億円 不適切な会計処理 損失飛ばし
出所:週刊東洋経済2012/6/127
•円高による本業の苦戦
•バブル崩壊による財テクでの1,000億円弱の損失
1990年代
•時価会計の導入
•「損失飛ばし」の開始
2000年~2005年
•銀行からの借入の返済が必要
•大型買収を利用して損失穴埋め
2006年~
3.事件の全体像
∗ 事件の経緯
2012/6/128
3.事件の全体像
∗ 時価会計のイメージ
このバナナ100円で
買ったから帳簿上も当然100円だろ?
あなた、今それをスーパーで売ろうとしても10円にしかなら
ないから、帳簿上も10円なのよ。
2012/6/129
資産資産資産資産
100
資産資産資産資産
10
損失 90
•円高による本業の苦戦
•バブル崩壊による財テクでの1,000億円弱の損失
1990年代
•時価会計の導入
•「損失飛ばし」の開始
2000年~2005年
•銀行からの借入の返済が必要
•大型買収を利用して損失穴埋め
2006年~
3.事件の全体像
∗ 事件の経緯
2012/6/1210
3.事件の全体像
∗ 損失飛ばしのイメージ
有価証券 1,000億円
含み損△600億円
時価 400億円
現金1,000億円
オリンパスオリンパスオリンパスオリンパス 海外海外海外海外ののののファンドファンドファンドファンド
オリンパスの預金などオリンパスの預金などオリンパスの預金などオリンパスの預金などを担保にした借入を担保にした借入を担保にした借入を担保にした借入
売却売却売却売却
2012/6/1211
•円高による本業の苦戦
•バブル崩壊による財テクでの1,000億円弱の損失
1990年代
•時価会計の導入
•「損失飛ばし」の開始
2000年~2005年
•銀行からの借入の返済が必要
•大型買収を利用して損失穴埋め
2006年~
3.事件の全体像
∗ 事件の経緯
2012/6/1213
3.事件の全体像
∗ 損失飛ばし解消のイメージ
含み損含み損含み損含み損△△△△1,300億円億円億円億円買収費用
1,300億円
オリンパスオリンパスオリンパスオリンパス 海外海外海外海外ののののファンドファンドファンドファンド
穴埋め穴埋め穴埋め穴埋め
2012/6/1214
2009年8月、事件はオリンパス社員(以下A氏)の告白から発覚する
4.事件の過程Ⅰ告白
「ウチの会社、バカなことやってるんだ・・・」
ホームページにも外部公表資料にも買収の形跡がない
2年近くに渡るA氏からの情報収集と調査が始まる
2012/6/1217
「そりゃ、そうさ。発表してないんだからな。」
2011年7月、満を持して雑誌「FACTA」に告発記事を掲載
4.事件の過程Ⅱ告発
しかし、アナリストや他のマスコミは一切反応しない
偶然、FACTAの記事の内容がウッドフォード氏の耳に入る
ウッドフォード氏も調査を始め、事件告発への動きが本格化
2012/6/1218
8月、ウッドフォード氏が菊川氏と森氏を追及する
4.事件の過程Ⅲ追及
菊川氏「部分的にはイエスだ」
山口氏に別のオリンパス社員からの情報
9月、FACTAが告発記事第2弾を掲載
2012/6/1220
森氏「菊川さんです。私は菊川さんに忠誠を尽くしています」
ウッドフォード氏のさらなる追及
4.事件の過程Ⅳ解任
9月30日、菊川氏はCEOの座をウッドフォード氏に譲る
ウッドフォード氏は菊川氏の完全退陣を求める
10月14日、臨時取締役会にてウッドフォード氏解任
2012/6/1221
深層を伝えない日本のマスコミ
4.事件の過程Ⅴ辞任
FTなどのスクープにより欧米諸国のトップニュースに
10月26日、菊川氏が会長兼CEOを辞任
日本のマスコミもようやく深層解明に動き出す
2012/6/1222
∗ 第三者委員会の調査報告
4.事件の過程Ⅵ調査
透明性やガバナンスについての意識が低く、正しいことでも異論を唱えれば外に出される組織
取締役会は不正発覚後も調査を行うことなく、ウッドフォード氏を解職し、チェック機能が果たせなかった
不正がウッドフォード氏の指摘があるまで発覚しなかった
経営の中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、経営の中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、経営の中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、経営の中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、悪い意味でのサラリーマン根性の集大成悪い意味でのサラリーマン根性の集大成悪い意味でのサラリーマン根性の集大成悪い意味でのサラリーマン根性の集大成ともいうべき状態ともいうべき状態ともいうべき状態ともいうべき状態
2012/6/1224
11月1日、第三者委員会が正式に発足
4.事件の過程Ⅶ対決
11月30日、ウッドフォード氏が取締役辞任を表明
12月7日、調査報告を受けて現経営陣の早期退陣を発表
12月6日、第三者委員会が調査報告を発表
ウッドフォード氏の復帰には難色を示し、プロキシーファイトへ
2012/6/1225
ウッドフォード氏らの呼びかけを拒絶する経営陣・メインバンク・大株主
4.事件の過程Ⅷ撤退
オリンパスの利益にならない戦いにウッドフォード氏は撤退を検討
1月6日、プロキシーファイトからの撤退を表明
2012年1月5日、深夜まで続く関係者との議論
銀行を含む国内株主からの支援が得られないことへの確信
2012/6/1226
∗ 先程のクイズの結果
4.事件の過程
1.粉飾を最初に見つけたのは誰??
2.粉飾を最初に告発したのは誰??
3.ウッドフォード氏の告発は報いられたか??
→オリンパスの社員
→月刊誌「FACTA」
→ウッドフォード氏自身はほとんど報いられていない
ここに、日本社会に潜む大きな病巣が存在するここに、日本社会に潜む大きな病巣が存在するここに、日本社会に潜む大きな病巣が存在するここに、日本社会に潜む大きな病巣が存在する2012/6/1227
5.事件が提起した日本の問題
∗ 内部告発の難しさ
∗ 内部通報の窓口が経営者となっている体制
∗ 信頼できない監督官庁
∗ 公益通報者保護法の矛盾
∗ マスコミに通報すると、窃盗・業務上横領・秘密保持契約違反の可能性
∗ 保護の対象は労働者のみ
∗ 「内部告発者の孤独は、誰も住み着くことのない孤島のようなもの」(ウッドフォード氏)
2012/6/1229
5.事件が提起した日本の問題
∗ 機能しないマスコミ
∗ 経営内容について疑惑がFACTAで報じられ、その直後に社長解任騒
動が起きていながら、それを深堀りしようとしない日本のメディアはやはりニュースセンスがどこか麻痺している(山口氏)
∗ 恐ろしかったのは、オリンパスの疑惑をFACTAが報じた後も日本国内の主要なメディアは何も報じようとしなかったことだ
∗ イギリスであればFACTAのような雑誌がスキャンダルを書き立てれば、数時間後に金融ニュースのヘッドラインを飾り、株価に影響する
∗ 「私は日本のジャーナリズムへの疑念を捨てきれていない」「私は日本のジャーナリズムへの疑念を捨てきれていない」「私は日本のジャーナリズムへの疑念を捨てきれていない」「私は日本のジャーナリズムへの疑念を捨てきれていない」(ウッドフォード氏)
2012/6/1230
5.事件が提起した日本の問題
∗ 馴れ合いの企業経営(内部要因)
∗ チェック不能の内部体制
∗ 「能力ではなく、菊川らの意向に沿って動くもの」が出世する組織(現役オリンパス幹部)
∗ 「私は菊川さんに忠誠を尽くしています」
∗ 取締役会は、議題が根回しされた上で行われるただのルーティン
∗ 「反対意見が無く、お互いを褒め合い、同意し合うだけ。この環境こそ、彼らが誤った経営判断を下した下地だった」
∗ 「良心ある個人が集団になるとどうして良心に反する行動をとるのか」(ウッドフォード氏)
2012/6/1231
5.事件が提起した日本の問題
∗ 馴れ合いの企業経営(外部要因)
∗ 株式持ち合いの弊害売却もしなければ批判もしない暗黙のルール
∗ 外国人経営者に対する抵抗
∗ 「私がオリンパスで30年も働いてきた事実が簡単に忘れ去られて、ただの類型的な外国人経営者と見られている」(ウッドフォード氏)
2012/6/1232
5.事件が提起した日本の問題
∗ オリンパス事件は「奇跡」の事件である
オリンパス社員 •内部告発の難しさ
FACTAの記事 •機能しないマスコミ
ウッドフォード氏
•馴れ合いの日本企業経営
•外国人経営者に対する抵抗
2012/6/1233
5.事件が提起した日本の問題
企業名企業名企業名企業名 時期時期時期時期 金額金額金額金額 問題の内容問題の内容問題の内容問題の内容 結論結論結論結論
西武鉄道 2004年11月 - 大株主虚偽 上場廃止
カネボウ 2005年5月 829億円 業績の粉飾 上場廃止
ライブドア 2006年3月 90億円 業績の粉飾 上場廃止
日興コーディアルグループ
2007年3月 180億円 不適切な会計処理 上場維持
ビックカメラ 2009年3月 49億円 不適切な会計処理 上場維持
オリンパス 2000~10年 1,350億円億円億円億円 不適切な会計処理 上場維持
∗ 不明確な上場廃止基準
出所:週刊東洋経済
2012/6/1234
「財界や政治家など権力者に“必要な会社”と認定されれば生き残り、気に入らなければ抹殺される。そんな証券市場には危なくて投資できない」(某ベンチャーキャピタリスト)
5.事件が提起した日本の問題
∗ 企業ともたれ合いの関係にある証券アナリスト
→企業が公募増資や社債発行に乗り出す際には、自社を引受シンジケート団に入れてもらいたいという思惑
∗ カンパニー制の弊害
→他の事業部がどのような動きをしているか見えにくい体制
∗ 独立取締役の設置義務化
→独立取締役は義務化すべきか?また本当に機能するのか?
∗ 監査法人の責任
→監査法人が粉飾を見抜けないのは仕方ないのか?
2012/6/1235
5.事件が提起した日本の問題
∗ 日本人の問題
∗ 「日本人は名誉を重んじると言われながら、大抵の人は重大な場面になるとどこかで腰が引けて無難な落とし所を探そうとする。欧米人はそういう時には徹底的に戦う」(大手証券幹部社員)
∗ 「日本人と欧米人とで決定的に違うのは、『問題が生じてしまったときにどう対応するか』であり、『対応に当たって透明性を保ちつつ断固とした姿勢で取り組むのか、問題を隠すことによって無難な着地点を探すのか」である(山口氏)
∗ 「日本人はなぜサムライとイディオット(愚か者)がこうも極端に分かれてしまうのか」(ウッドフォード氏)
∗ 「しかたない、それが日本だよ」「しかたない、それが日本だよ」「しかたない、それが日本だよ」「しかたない、それが日本だよ」(アメリカ人投資家)2012/6/1236
∗ 粉飾を告発できるか?
∗ 山口義正氏の言葉
「もしもあなたがオリンパスに勤めていたとしたら、損失隠しを羊のような従順さで助ける立場に回るのか、事なかれで傍観するのか、危険を冒して内部告発に踏み切るのか」
∗ 経営共創基盤CEO・冨山和彦氏の言葉
「ガバナンスというのは結局、『『『『だったら俺、社長代われるよだったら俺、社長代われるよだったら俺、社長代われるよだったら俺、社長代われるよ』』』』と言えるか。これだけ。」
6.終わりに
2012/6/1237
∗ 「お金を失うことは小なり。名誉を失うことは大なり。しかし、勇気を失うことはすべてを失う。」(南壮一郎氏の祖父)
∗ 「社会も企業も政治もボランティア活動も何もかも、人間が関わることのできる部分は『個人』こそすべての価値の源泉なのである」(山口義正)
∗ 「企業は社会的組織であり、共通の目的に向けた活動を組織化するための道具である 」(ピーター・F・ドラッガー)
∗ 「日本を変える方法は簡単です。目を逸らし、口をつぐむのではなく、勇気を持って立ち上がるのです。間違っていることは間違っていると声を上げるのです。それだけのことで、日本の未来は拓けるのです。」(マイケル・ウッドフォード)
6.終わりに
2012/6/1238
∗ 「サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件」山口義正著 講談社
∗ 「解任」マイケル・ウッドフォード著 早川書房
∗ 「オリンパスの闇と闘い続けて」浜田正晴著 光文社
∗ 「週刊東洋経済 2011/12/17号」
参考文献
2012/6/1239