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Ⅲ 若者の自立と社会参画に向けての方策

1 社会参加の水路としての若者の居場所の整備

(関連コラム:事例1、2)

若者の社会参加の水路として重要なのは、若者の居場所である。若者たち

は、居場所を通じて、仲間と合流し、そこで、適切に方向づけられることで

社会参加の機会を得る。

ヨーロッパには、このような目的をもつ施設としてユースセンター※3が

ある。そこは、若者のレクリエーションや創造活動の場であり、同時に、社

会参加の基盤である。たとえば、ユースセンターの多くは、スタジオやステ

ージを持ち音楽活動や演劇活動の場を提供しているが、利用者のグループが

協力して一般公演を行ったりする。日本でも中高生向けの児童館を始め、ユ

ースセンターに相当する施設の整備が行われている。たとえば、都市圏では、

東京都杉並区のゆう杉並、兵庫県宝塚市のフレミラ宝塚を始め様々な施設が

開館し、地方でも、長野県茅野市のCHUKO(ちゅうこう)らんどチノチ

ノがあり、札幌市の若者支援総合センター(事例 1)は今年度開館したばか

りである。しかし、静岡県内にはこうした施設はない。新規の施設整備が困

難であれば、小学生向けの児童館の夜間(例えば、18 時以降)の活用とし

て行う、廃校となった空き校舎を活用するといった方法があり、十分に実現

可能である。

大学生のための交流施設も社会参加の水路として有効である。石川県金沢

市では、学生のまちづくりへの参加を積極的に推進してきたが、その過程で

生まれたのが、「金沢学生のまち市民交流館」である。金沢市のまちなかに

整備された同交流館には、市民活動のアドバイザーが常駐し、大学生のまち

づくり活動を積極的に支援している。静岡県内には 20 の大学があり、そこ

で学ぶ若者の力を結集できる居場所があれば、どれほど、静岡県にとって有

用であろうか。

また、多世代型の居場所への若者参画も有望である。全国で、個人の自宅

を開放したり古民家など空き家を改修したりして、子育て、高齢者、女性な

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どに開かれたコミュニティ拠点を形成する活動が行われている(事例2)が、

若者たちがこうした居場所に参加し他の世代との絆をつくっていくことは、

地域における若者のボランティア活動のきっかけにもなるだろう。

また、意欲的な若者たちに、こうした居場所の運営を任せ、地域人材とし

て積極的に育成していくことも期待される。

コラム(事例1) 札幌市若者支援総合センター

平成 25 年4月、札幌市若者支援総合セ

ンターが移転とともにリニューアルした。

ニート・ひきこもり状態にある若者の就労

支援だけでなく全ての若者、特に高校生や

大学生など、義務教育修了から 20 代前半

の子ども・若者たちが社会の中で育つ居場

所を持てるようデザインされている。学生

の自習の場や活動の場など気軽に使用されるような「ユースセンター」を目指し

ている。

コラム(事例2) 駄菓子屋 Peco

静岡市駿河区宮本町にある駄菓子屋。駄菓子販売を通じて、自主活動の場及び

居場所の提供を行っている。年齢・国籍・障がい等を問わず、人との交流を通し

て子どもたちや地域の人々のコミュニティを形成している。駄菓子購入のほか、

自由遊びや作品づくり等開催されるイベントに参加することで、多様な価値観を

もった人々が自然に交流できるところが利点である。

※3 ユースセンター:社会参加が難しい若者を含め、誰でも気軽に立ち寄ることができ

る施設。様々な活動プログラムを通じて若者の社会参加を促進している。

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2 社会参加の保障としての意思決定への若者の参加

(関連コラム:事例3~8)

子ども・若者の社会参加を促進するための「参画のはしご」※4というツ

ールがある。参画の主体性の度合いで、参画を8段階に分けたものである。

はしごの下段から、①操り参画、②お飾り参画、③形式的参画、④与えられ

た役割の内容を認識した上での参画、⑤大人主導で子どもの意見の提供があ

る参画、⑥大人主導で意思決定に子どもも参画、⑦子ども主導の活動、⑧子

ども主導の活動に大人も巻き込むとなっている。

社会を変えられるという自己有効感を得るためには、はしごの上段に位置

する活動が必要である。先進例は、ヨーロッパの若者参画である(事例3~

6)。たとえば、ルンド市(スウェーデン)の若者会議は、①政治家との対

話、②影響と参加、③自分たちの活動・プロジェクトの実施という三つの原

則をもち、予算配分を決める総会の下、事業委員会を持ち、環境イベント、

国際交流活動、コンサートなどを実施している。

わが国でもこうした活動はある。京都市では、①「京都市ユースアクショ

ンプラン」で、若者の各種審議会、検討委員会への参画の機会を設けること

が定められており、②「青少年モニター制度」を用いて、若者の市政に対す

る意見を聴取して反映させ、③「未来の担い手・若者会議U35」を開いて、

若者の観点から京都市基本計画を策定している。京都市では、このほか、学

生団体のまちづくり企画を助成する「学まちコラボ事業」があり、平成 25

年度には 470 万円近い予算が投じられている。山形県遊佐町には、中高生が、

自主予算をもって事業を展開する「少年議会」があり、高知市には、子ども

たちの活動を助成するだけでなく、子どもたち自身が企画審査にも参加する

「こうちこどもファンド」がある。秋田県には、県内各地で、高校生から

40 代までの「若手」が集まり、地域課題に取り組む「秋田県若者会議」が

ある。

県内にも、牧之原市が、高校生の意見を市政に取り入れるために開いたワ

ークショップ(事例7)や、静岡県立大学生のサークルが中高生の企画の実

現を支援する「もうひとつの放課後探しプロジェクト」(事例8)などの先

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進的な取組がある。お飾りでない社会参画を体験することで、静岡の未来を

担う真の市民が育っていく。

コラム(事例3) フィンランドのユースフォーラム

フィンランドのヘルシンキでは、若者による若者のためのお祭り「ユースフォ

ーラム(ルーティ)」が開催される。ルーティでは、ワークショップが開かれ、参

加した若者たちは、「アクショングループ」をつくる。市は、若者の議論を促進し

相談にのるほか、知識や資金を提供する。

コラム(事例4) フィンランドの子どもたちによる公園設計

フィンランドのデザイン・ミュージアムでは、子どもたちに都市デザインを通

じて、社会参加を促すプロジェクトがある。子どもたちは、自分たちが普段利用

している、もっとも身近な施設である公園を、専門家の指導を受けながらデザイ

ンし、自分たちで制作できる部分は手作りするなど、公園づくりの主人公になっ

て、自分たちが使う公園を実現する。

コラム(事例5) スウェーデンのシティズンシップ教育

カールスタードでは、ユースカウンシルという若者議会があり、市の庁舎内に

若者議会のオフィスがある。市は市内に住んでもらう人を増やすため、若者だけ

でなく市民の声をまちづくりに反映させていこうという理念。

ヨンショーピンには街づくりに子どもや若者を参画させる取組がある。街灯プ

ラン、公共交通プロジェクト、駅プロジェクトなどを若者が提案した。

コラム(事例6) イギリスのユースワーク

ユースセンター等の施設を含めて青少年に対する学校外での指導援助活動をユ

ースワークと総称する。イギリスでは、生活の困窮した地域に設置されたユース

センターが、若者の社会参加を支援する拠点として、大きな役割を果たしている。

バーミンガムのユースセンターではユースセンターのスタッフであるユースワー

カーの後押しで、地域の中高生が、荒れ果てた公園を再整備する運動を始め、政

治家等に働きかけて、自らの望む公園を実現した。

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コラム(事例7) 高校生による「牧之原市の未来を語ろう」

(牧之原市/企画課)

市が、若者の声をまちづくりに生かすため

に企画し、地域の高校生約 40 人が、参加

した意見交換会。「市の好きなところ、気に

なるところ」「こんな街にしたい」

などをテーマにワークショップ形式で、市の

利点や課題を挙げ、自分たちが今後担う市の

将来についてさまざまなアイデアを出し合

い提案した。

コラム(事例8)「もうひとつの放課後探しプロジェクト」~若者が若者を支援~

(YEC)

静岡県立大学公認サークルのYEC(若者エンパワメント委員会)の「若者へ

のアプローチ」の活動。中学生・高校生が「やりたいこと」を自主企画していく

ことで、参加した中学生・高校生が自己肯定感を高め、自分たちが次世代の静岡

を担う存在であるという意識を育む。

自主企画例:「キラキラフェスティバル」

新しい形の文化祭。

ファッションショーやバンド演

奏、ダンス等、参加者がやりた

いことを形にする。

※4 参画のはしご:ロジャー・ハート(1950 年生まれの環境心理学者)は、子どもの参

画の程度を8段階に分けた。はしごの下段の操り参画、お飾り参画、形式的参画は、子ど

もたちが認識していない活動で、参画とはいえないとしている。

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3 社会参加を支える情報ネットワークの整備

(関連コラム:事例9~11)

社会参加のツールとして、情報ネットワークの活用は重要である。一つは、

いわゆるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)※5の活用である。

SNSとは、ウェブ上での人と人とのつながりを促進する、コミュニティ型

のウェブサイトである。SNSは、リアルなコミュニティづくりと並行して

活用することで、相乗的に関係を強化することができる。たとえば、東京都

杉並区における「杉並区ワールドカフェ・サロン〜もし、杉並区の 100 人と

“ともだち”だったら〜」は、ワールドカフェと呼ばれるワークショップを

繰り返し開くとともに、ワークショップで出会った人々がフェイスブックを

通じてつながっていくよう仕掛けている。

県内では、牧之原市が、津波防災対策について市民の意見を募るため、独

自開発したSNSを活用してアイディア募集を行ったが、これは、時間的に、

対話の場に参加できない市民、とりわけ高校生の意見を対話型で聴取するた

めの工夫である(事例9)。このほか、交流でなく、発信を主目的としたS

NSの利用も見られる(事例 10)。こうしたローカルなSNSの活用は、若

者の地域参加に有用であると思われる。

もう一つは、地理的な制約や年齢による制約を超えて活動するための情報

ネットワークの活用である。代表例は、東京の数名の高校生たちが行ってい

る「僕らの一歩が日本を変える」で、高校生 100 人と国会議員の対話、中学

校における地域づくりの授業、全国での若者インタビューや 10 代の若者に

よる社会問題について話しあう場の提供など、大学生や大人と対等に活動を

行っている。また、東京を起点に、広島、福岡、大阪の高校生の間に広がり

つつあるのが「こどなひろば」(事例 11)で、「大人も子どももお互いに一

人の人として参加する」、「お互いに真剣に向かい合って話す『対話』を大切

にする」、「世代にとらわれない考え方を持つ」を理念とするワークショップ

を開催している。こうした、全国的な動きに、静岡の高校生が参加していく

後押しをすることも、彼らが羽ばたいていくきっかけを提供するものと思わ

れる。

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コラム(事例9) SNSを活用した「津波防災まちづくり」

(牧之原市/地域政策課)

牧之原市では、沿岸部5地区の「地区自治推進協議会」で「津波防災まちづく

り計画」を 2013 年 3 月に策定した。㈱電通との協働により、平日夜に開催され

る男女協働サロンに参加しにくい高校生や子育て世代などの市民や専門家から、

SNS を活用して津波からの安全な避難方法や市民参加の避難訓練など、5 つのテ

ーマでアイデアを募集した。

コラム(事例 10) Facebook による情報発信 「静岡未来」

行政と大学生のコラボレーションによる広報。県と県内大学生が作るフリーマ

ガジン「静岡時代」編集部との協働によるもの。県からは県政情報の中から、就

職、環境、食など若い方の関心の高い情報をセレクトして発信する。「静岡時代」

編集部も「静岡時代」の記事やイベントと連動した投稿を行う。全国的にもまだ、

例がほとんどない。

コラム(事例 11) こどなひろば

2012 年2月設立。現在、関東支部のほか、関西支部、九州支部あり。世代を

超えて自由に対話し理解することを目的とした団体。メンバーは高校生のみ。設

立から企画、広報、イベント運営まで全て高校生が行っている。

高校生×大人、高校生×大学生といった形で、お互い一人の人として向き合え

るような対話の場作りなど。

※5 SNS:インターネット上で構築するサービスのこと。友人・知人間のコミュニケ

ーションを円滑にする手段や場を提供したり、新たな人間関係を構築する場を提供する、

会員制のサービス。

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4 社会活動への参加の奨励と社会的評価

(関連コラム:事例 12~14)

若者の代表的な社会参加の経路は、ボランティアをはじめとする社会活動

である。そこで、若者たちを社会活動参加へといざなうための工夫が必要と

なる。

中高生の場合、重要なのは、学校教育の役割である。学校教育が、若者の

活動を学校内に押しとどめず、学外につなげるとき、生徒は社会活動への接

点を得る。一例は、宮城県内の各市にある、中高校生のボランティア組織「ジ

ュニア・リーダー」である。彼らは、東日本大震災後、意気消沈する大人が

少なくない中、避難所等の配ぜんの手伝いや幼い子の遊び相手を務めるなど

前向きに活動し、被災後の復興においても若者の意見形成の主体になり、全

国に知られることになった。ジュニア・リーダーは、宮城県教育委員会が昭

和 40 年代から「子ども会のお兄さん・お姉さん」として育ててきた組織で

ある。県立伊豆総合高等学校や県立金谷高等学校書道部(事例 12、13)の

ように、県内でも多くの高等学校の生徒会や部活動等で地域との交流を実施

している。県教育委員会ではこのような取組を表彰する制度を設けて推進に

努めている(事例 14)。

大学生になると、地方自治体の役割も大きくなる。金沢市には、「学生の

まち」推進条例がある。中心部にあった大学が郊外に移動したので、学生を

市内に呼び戻そうとしてつくられた条例である。これを基に、学生、市、市

民、町会等、高等教育機関及び事業者の役割が定められ、その連合体として

の「金沢学生のまち推進会議」、学生の大連合体である「金沢まちづくり学

生会議」、また、学生の地域活動の基盤としての「学生のまち地域推進団体」

が定められ、学生たちがまちづくりに取り組むための仕組みが整備されてい

る。学生会議には 100 名余りの学生が加入し、先述の「金沢学生のまち市民

交流館」を基盤に、「学生まちづくり交流会」を始め、多くのイベントを企

画して活発に活動している。こうした活動を大学の側が、単位取得や資金援

助といった形で支援することも考えられる。

地方自治体や学校をはじめとする教育機関が、若者を、活動の客体として

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ではなく、地域を担う主体として捉え、若者の力を地域に生かすための仕組

みを整えることが、若者自身の力を引き出すとともに、長期的な地域の財産

形成となると考えられる。

一方、仕組みの整備と併せて、若者の地域参加を適切に支援するコーディ

ネーターとしての人材育成やその体制づくりも求められる。

コラム(事例 12) クラスと地元企業のコラボレーションによる文化祭

(県立伊豆総合高等学校)

伊豆総合高等学校文化祭は、地元企業・団体とのコラボレーションによるクラ

ス展示を行っている。普段から、地域学を学習活動にいれ、地域を知る機会をも

つようになっている。

例:鮎の塩焼き(狩野川漁業協同組合)、

手作りスプーン、

手作り箸(有城道具店)

ジオパーク(ジオガシ旅行団、

NPO修善寺総合研究所)等。

また、有志で生徒が、月1回の地元の清掃活動に参加している。清掃活動は、

修善寺中学校、土肥高等学校、三島南高等学校等、近隣の学校とも連携し、清掃

活動を通じて地域にも生徒の活動がひろがりつつある。

コラム(事例 13) 高校部活動における地域への文化発信

(県立金谷高等学校/書道部)

「書道」を通して、高校生の元気な姿とともに、地域に関連した題材を取り上

げた「書道パフォーマンス」や他団体とのコラボレーション等により地域文化の

発信となり、子どもからお年寄りまでが楽しく過ごすことができる地域づくりに

貢献している。

例:島田元気市、SLフェスタ「書道パフォーマンス」

大井川鉄道各駅への書(「大井川SL旅情」歌詞)の寄贈等

男声コーラスグループ「ダークダックス」が大井川鉄道のSLと各駅を歌った「大井川 S

L旅情」の歌詞を県立金谷高書道部の生徒が書にし各駅に展示用として贈呈した。

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コラム(事例 14) 「高校生ひらめき・つなげるプロジェクト」

(教育委員会学校教育課)

高校生のアイデアを地域の活性化等につなげる取組。県内高校等と企業等のコ

ラボレーションによる新商品の開発やまちづくりの提案など。

例:「B3 地産地消弁当開発校首脳会議『ベントー・サミット』」(県立磐田西高

等学校)

「安全・安心な農法で、耕作放棄地を復活」(県立田方農業高等学校)

「マスコットキャラクラー『ファイゴン』を活用した地域貢献」(県立裾野高

等学校):地元企業と連携し「ファイゴンサブレ」の商品化など。

(高校生ひらめき・つなげるプロジェクト表彰式)

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5 社会参加が難しい若者を受け止める地域環境の整備

(関連コラム:事例1、3、6、15~17)

若者世代の困窮が始まったのは、わが国よりヨーロッパが先である。当地

では、移民問題や都市における困窮地区の問題とも関連しつつ、若者の社会

的排除の問題が先鋭化した。ヨーロッパの対応は、主として、二つに分ける

ことができる。一つは、福祉と就労支援を組み合わせた、いわゆるNEET

※6対策である。もう一つは、制度を離れた若者たちに対するユースワーク

の強化による社会参加の支援で、若者の集まる場を仕掛けて、そこを手掛か

りにして、社会参加の経路を用意するものである。ヘルシンキ市(フィンラ

ンド)では、社会に十分に統合されていない若者を対象に、音楽やダンスな

どのイベントに参加してもらい、それをきっかけにアクショングループを形

成させ、思いを実現してもらう「ルーティ」(火薬)というプロジェクト(事

例3)がある。ユースセンターに集う若者たちに、地域の問題について考え

てもらい地域の改善に取り組んでもらうプロジェクト(事例6)も定番であ

る。先述の、札幌市若者支援総合センター(事例1)も同様の役割を果たす

ことを狙いとしている。

わが国でも、現役世代の困窮化により、子ども・若者の社会的排除の問題

は、もはや、ごく一部の若者の問題ではなくなり、大多数の若者の問題とな

っている。こうした大規模の問題には、専門の支援機関で取り組むだけでは

間に合わず、地域ぐるみでの取り組みが求められる。県内では、全国的に見

ても先進的な、一般市民による若者就労支援団体が活動している(事例 15)。

また、特に困難に陥っているのは、高校を卒業できなかった若者や社会的

養護を受けた若者など、社会的に不利な状況にある若者たちである。彼らは、

就労につながりにくく、その結果、貧困に陥るリスクが高い。これらハイリ

スクの若者たちが、社会的排除の状態に陥ることを予防するため、県内では、

大学生の団体による生活困窮家庭の中学生に対する無償学習支援(事例 16)

や、高校を中退した生徒やする可能性のある生徒を就労支援機関が引き継ぐ

ための高等学校と地域若者サポートステーションの連携(事例 17)が始ま

っている。ハイリスクの若者たちは自発的に支援につながることが困難なた

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め、保護者や教員など若者の身近にいる人々が、容易に支援につなぐことの

できる仕組みも必要である。

コラム(事例 15) NPO 法人 青少年就労支援ネットワーク静岡の就労支援

青少年就労支援ネットワーク静岡は、働きたいけれど働けない若者を支える一

般市民のネットワーク。自力での就労が困難なひきこもり、非行、障害などの問

題を抱えた青少年を、就労支援を通じて社会への適応を促すことも目的としてい

る。

「サポーター」と呼ばれる大学生及び市民ボランティアによる、居場所の持た

ない支援手法は「静岡方式」と呼ばれる。「サポーター」が、それぞれの若者をマ

ンツーマンで担当し、若者の就業先を地域に求め、就労体験を受け入れてくれる

事業所や会社を探し、困難を抱える若者と結びつけている。

コラム(事例 16) 宿題カフェ~大学生による中学生の学習支援~

(静岡学習支援ネットワーク)

静岡大学、県立大学、常葉大学の大学生が集まり 2012 年2月に誕生した団体。

経済的事情により塾に通えない・教材を買えない、ひとり親家庭などの家庭事情

により勉強まで手がまわらない、不登校の理由で勉強に遅れをとっている等の中

学生を対象にマンツーマン形式で宿題を中心に宿題カフェ開講。勉強することが

楽しいと感じてもらえるような場づくりを目指している。

コラム(事例 17) 地域若者サポートステーションと教育機関との連携

平成 24 年度から、教育機関との連携が始まり、定時制の在籍する高校生への

出張相談を開始した。学校から社会への切れ目のない支援をするという点では、

中退予定の生徒を中退と同時にサポートステーションでの支援につなげ、就労に

結びつけることも可能となってきている。今年度からは、全日制の高等学校への

出張相談も始まった。

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※6 NEET: 「NEET」とは、Not in Education, Employment, or Training の

頭文字をつなぎあわせた言葉だが、ヨーロッパでは若年未就労者、すなわち、学校教育や

職業訓練から離れたものの未就労の(主として)未成年(たとえば、イギリスでは、16

歳から 18 歳まで)の未就労者を指す。一方、日本では、成人して自立すべき年齢になっ

ても仕事に就けない、必ずしも若くはない(たとえば、内閣府の定義では、15 歳から 39

歳の)未就労者を指して、「ニート」という言葉が用いられてきた。つまり、NEETと

ニートは意味が異なる。本文では、混同を避けるためNEETという表記を用いた。


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