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3 輸液の生理作用
1 生体内水分量とその分布
体内の総水分量は,体重の約 60%とされており,これが輸液および経静脈栄養の基本となる(図 4)。ただし,水分量は加齢とともに変動し,若年者においては体重の70%,高齢者では体重の50%となる。体内の総水分量は体重の約60%であるが,この60%のうちの40%が細胞の中にある細胞内液,残りの20%が細胞外液になる。さらに,細胞外液の 20%は,組織間液 15%と血管内にある血漿 5%に分かれる(図5)。このことが経静脈栄養,特に細胞外液補充液と維持輸液の効果を理解するうえで重要な要素となる。
Ⅱ章 背景知識
輸液の生理作用3Ⅱ章 背景知識
図 4 体に占める水分の割合
炭水化物1.5%
無機質6.1%
水分61.6%蛋白質
17.0%
脂肪13.8%
人体の組 成
図 5 体液区分
細胞内液:40%
総水分量:60%
細胞外液:20%
細胞膜
組織間液:15%
血漿:5%
毛細血管壁
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Ⅱ章 背景知識
2 体液分布と電解質
前述のとおり輸液には補充輸液と維持輸液があり,これら輸液の特性を知るためには,生体内に分布する体液(水分)とその電解質の関係を理解する必要がある。 各体液の電解質組成は細胞内外で大きな濃度差がある。これは細胞膜がこれら電解質の移動を制御しているためであり,細胞内液では K+(カリウムイオン),Mg2+
(マグネシウムイオン),HPO42-(リン酸イオン)が主要電解質であるが,細胞外液
では Na+(ナトリウムイオン),Cl-(クロールイオン)が多く含まれている。また,細胞外液でも血漿と組織間液では蛋白質の濃度に差がある。これは血漿蛋白が毛細血管壁を通過できずに血管内にとどまるためであり,この血漿蛋白により血管内に水分が保持されることになる(表 4)。 また,消化液などは細胞外液であるが,分泌する臓器や消化の対象となる食物成分によって電解質組成が微妙に異なっており,これら各種消化液の喪失はそれぞれに特徴的な電解質の喪失をもたらすので注意が必要である(表 5)。
3 輸液の種類と再分配
輸液には補充輸液と維持輸液があるが,このような輸液の特性によって同容量の輸液を血管内へ投与しても,水分の再分配が起こり,血管内に残存する容量は変化する。あくまで理解を容易にするためであるが,図 6に示したように,血管内へ投与された輸液剤がリンゲル液(補充輸液)ならば輸液直後から細胞外液に輸液内容は拡がると想定され,血管内には輸液量の1/4が残存するものと考えられる。また,電解質組成はリンゲル液とほぼ同じであるがアルブミンなどの膠質浸透圧を有する成分を含む血漿製剤では,あくまで理論上であるが膠質浸透圧によって投与された輸液のほとんどが血管内にとどまることになる(図 7)。 一方,維持輸液では,輸液剤の電解質組成の違いから血管内へ投与された輸液は細胞外液のみならず細胞内液にも配分されることになり,血管内には輸液量の 1/12が残存するのみとなる(図 8)。したがって,血圧の低下を来すような急速な細胞外
表 5 消化液の分泌量と組成
消化液 分泌量(mL/日)
組成(mEq/L)
Na+ K+ Cl- HCO3-
唾液 1,500 10 25 10 15
胃液 2,500 70 10 100 0
胆汁 500 140 5 100 30
膵液 700 140 5 100 70
腸液 3,000 140 10 100 25
血漿 2,500 140 5 100 27
表 4 体液の電解質組成
組成(mEq/L)
細胞外液細胞内液
血 漿 組織間液
陽イオン
Na+ 142 144 15
K+ 4 4 150
Mg2+ 3 15 27
陰イオン
Cl- 103 114 1
HPO42- 2 2 100
毛細血管壁▲
細胞膜▲
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3 輸液の生理作用
液の喪失に際して,血圧の上昇を図るに最も効率の良い輸液剤は血漿製剤であり,最も効果の少ないものが維持輸液となる。
Ⅱ章 背景知識
図 8 維持輸液投与による血管内水分量の変化
100(%)6040
維持輸液(1/12のみが血管内)
総水分量(60%)
細胞内液(40%) 細胞外液(20%)
0
血漿(5%)組織間液(15%)
図 6 補充輸液投与による血管内水分量の変化
100(%)6040
補充輸液(1/4が血管内)
総水分量(60%)
細胞内液(40%) 細胞外液(20%)
0
血漿(5%)組織間液(15%)
図 7 血漿製剤投与による血管内水分量の変化
100(%)6040
血漿製剤(100%血管内)
総水分量(60%)
細胞内液(40%) 細胞外液(20%)
0
血漿(5%)組織間液(15%)