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2015年度 労働衛生協会事業年報

6. ネットワーク健診

■ 取り組み全国の提携医療機関をご利用頂くネットワーク健診は、健

診予約~結果データ化の一括代行を【健診倶楽部】健康診断業務代行サービスにて展開しております。

事業所、健康保険組合、受診者、健診機関の窓口となり、健診予約調整、データ化処理、請求処理までを一括代行、健康診断業務管理の業務効率化を実現しています。日々お客様からいただくご意見・ご要望にお応えするため機能の追加などを行い、より快適な健診を提供出来る様努力して参りました。

■ 活動結果・報告2015年度実績23,181件今年度は、巡回健診からネットワーク健診へのご契約を頂

き、前年度から約3,000人の増加となりました。また、昨年度から引き続き、健診基幹システムとネットワー

ク予約システムとの連携を行う事で更なる業務効率化を進めています。

① 顧客マスタの一元化② 全国提携医療機関から健診結果(紙ベース)回収後、

結果の登録から請求までの迅速かつ正確な業務③ 契約情報設定の作業効率化

提携医療機関との更なる連携を図る取り組みとして、次年度へ向けての実施要領の作成、依頼書、見積書、検査項目一覧等の整備を行うと共に、結果データ提供も順次進め、正確かつ迅速化を図る様、体制を整えていく予定です。

(2) 地域への貢献ジャパン・マンモグラフィ・サンデイ(J.M.S.)へ2010年よ

り参加し、6回目を迎え(詳細は別項参照)マンモグラフィ検診だけでなく乳房エコー検診や子宮がん検診も行えることを特徴としてきました。昨年度からは総合健診フロアでの健康診断も可能としました。

(3) 予約システムの改善一昨年、予約センターを設置し当院全体の予約を扱うこ

とができるようになり、ファックス予約利用も行われていますが、繁忙期には依然として不十分であり電話機器の機能向上、予約事務増員を計画しています。

予約事務および受付事務等の能率向上のため、従来は一般受診として扱ってきた個人検診を職域検診と同様の検診枠で扱うことになりました。受診枠を保険診療と分けることで受診体制もスムーズになりましたが、結果票出力による結果通知の遅れ、職域検診より複雑な個人検診セットでは依然として手作業が必要といった問題も浮上しています。

(4) 広報活動・地域との連携一昨年改訂した個人向け人間ドックおよび女性がん検診

セットがホームページ掲載により定着してきました。グループやペアでの申し込みや集団検診の少ない時期の受診を低価格とし利用拡大を図っています。

一昨年に続き、杉並医師会および杉並区産婦人科医会にクリニック現場の医師が参加し、地域医師との連携を深めました。

(5) クリニック関連会議の充実診療開始前に加え診療開始後にも申し送りを行い翌日の

業務の能率が向上しました。月1回はスタッフ全体会議を行なって協会全体の重要会議の報告も取り入れ、各自が大局から仕事を捉えることができるようにしました。外来運営会議は形を変えて外来実務会議となり、渉外部も参加して検診業務の流れが把握しやすくなりました。

巡回健診主体であった判定会議にクリニック医師も加わりました。

(6) クリニック改装等クリニック入り口の下駄箱の変更、総合健診フロアの床や

壁、案内札の改装、レントゲン機器の購入、クリニック入り口や総合健診フロアの電灯交換を行いました。その結果、女性のためのがん検診フロアへの階段の登り口・玄関の印象が明るくなり好評です。女性のためのがん検診フロア待合室の図書の購入入れ替えを行いました。

健康づくりのための活動

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1. 健康教育・社会貢献活動2015年も地域住民の方々に特定保健指導を実施し、生

活習慣病の予防に貢献しました。国民健康保険加入者の中には、年に1度、定期的に健診を受ける習慣のない方も多くみられ、久しぶりに健診を受けたら生活習慣病関連の数値がかなり悪化している、というケースが少なくありません。このような方々には、特定保健指導の電話勧奨時に医療機関への受診状況などを聞き取り、必要であれば受診勧奨を行い、重症化予防の観点から適切な対応をとれるよう支援しています。特定保健指導参加者には、生活習慣の見直しと改善を実践できるよう支援を行っています。

都区内の住民胃がん検診の実施、高齢者の方々の健康維持支援、個人で営業されている地元商店街の方々の営業時間に合わせた健康診断の実施、介護施設における介護職の方の腰痛健診等の実施などにより、地域との連携を図りました。時間的な余裕が無く医療機関でのインフルエンザワクチン接種が難しい就業者のために、約300事業所を巡回し延べ約36,000人の方へのワクチン接種を実施しました。さらに私立学校においては、麻疹検査・風疹検査など近年流行している感染症の予防も配慮した健診を実施しています。「女性のがん予防」におきましては、当協会本部施設「女

性のための検診フロア」で職域における職域検診だけでなく、地域住民の方々の「乳がん検診」「子宮がん検診」を実施しています。子宮がん検診と併せ、子宮頸がん予防に有用である、HPVワクチン接種も行っています。また、乳がん撲滅運動に賛同し、年1回日曜日に実施する「ジャパン・マンモグラフィ・サンデー」(J.M.S.)へ毎年参加し、当協会では

「乳がん検診」に併せて「子宮がん検診」も実施しています。今年度は医師・保健師・管理栄養士により、地域での

講演や事業所において健康教室の開催を実施しました。内容は次の通りです。

一般財団法人労働衛生協会「第2回健康づくり講座」本協会は、地域の皆様との交流および健康増進の啓発を

目的とした「健康づくり講座」を開催しました。

開催日:2015年7月3日会 場:吉祥寺第一ホテルプログラム:

1)講演「No卒中-脳の病気を予防しよう-」 講師:菊池哲郎先生(菊池脳神経外科)2)血管年齢測定

市民向け健康教室健康寿命の理解と、要介護状態の原因となる生活習慣病

の予防について、食事と運動両面から日常生活に取り入れられることを、実践を交えて本協会の保健師が講演しました。

開催日:2015年1月16日、2月15日、4月20日、7月16日講演:健康寿命を延ばす!生活習慣のポイント

事業所向け健康セミナー① 定年後の人生設計。身体の健康を前提に考えた場合、

どのような生活習慣を取り入れるのが良いのかを本協会の保健師が講演しました。

開催日:2015年6月6日~ 10月31日までの期間で計13回講 演:ライフ設計セミナー

② 生活習慣病の概要と健診結果の見方、改善方法、健診結果を活かすために個人でできること、職場でできることについて本協会の保健師がセミナーを行いました。

開催日:2015年7月23日、8月19日、10月20日講 演:健康診断結果の活かし方

③ 日本人が睡眠について抱える悩みの原因を解説し、良い眠りを得るために何をするべきか、何を避けたら良いかについて本協会の保健師が講演しました。

開催日:2015年12月15日講 演:良い睡眠とれていますか?

さて、このような状況の中、本部では主に、健保組合や事業者の委託を受け、保健師や管理栄養士が事業所に訪問し、特定保健指導や健診事後指導を実施しています。また定期的に訪問し、継続した相談活動も行っています。

2015年度は、健診事後指導・メンタル相談を合わせて340件、特定保健指導は741件でした。

このような職域では、特定保健指導の対象とならない40歳未満の労働者への保健指導も重要と考え事後指導等を行っています。特に若いうちに健診結果と生活習慣の関連を知ることで、健康を意識した生活習慣を考えるきっかけとなり自己管理の意識が高まることや、リスクが重複する前の段階で気づき改善することで、重症化予防や医療の回避につながる効果があります。

2015年度の特定保健指導実施数は、積極的支援・動機付け支援を合わせて741件と前年度より522件増加しました。このうち、医療保険者との個別契約での実施件数が684件(前年度より518件増加)、集合契約での実施件数が57件(前年度より4件増加)でした。このように大幅に特定保健指導の実施数が増加した背景には、平成27年度において市町村との委託契約が増えたためです。

保健指導は、基本的に個別支援の方法で行っていますが、特定保健指導においてグループ支援の方法で実施している事業所もあります。個別支援とは異なり、グループの仲間と一緒に取り組むことで対象者のやる気が刺激され、改善への意欲が上がったり、モチベーションの維持につながるなど、グループ支援ならではの効果と成果が出ています。

また、その他の保健指導としては、市町村での特定保健指導対象者への健康教室の開催や、事業所での健康セミナー、また管理職向けのライフ設計セミナーなど、集団へのアプローチも増え、適正医療・重症化予防の支援など新たな取り組みも実施しました。

働く人の生活習慣や健康状態には、労働時間や業務形態などの労働環境も大きく影響するため、個々の改善だけでなく、職場の意識や環境の整備も重要と考えます。引き続き特定保健指導などの支援を続けていくとともに、健保組合や事業者との連携を深め、その事業所や職場に合った健康づくりを支援できるよう、支援の幅を広げていきたいと考えております。

長野県支部では、健保組合や事業者の委託を受けて保健師が事業所に訪問して特定保健指導や健診事後指導を行いました。

保健指導の件数は、特定保健指導236件、事後指導・健康相談あわせて170件でした。

特定保健指導は対象を40歳から35歳に引き下げて行う健保組合が増えたり、毎年対象になるのに参加を拒否する方へ、産業医から参加指示を出していただくなど事業所の協力で件数が増えました。その一方で業務内容や時間の制約のため事業所が対象者本人の希望確認をしないで参加を拒否するケースもあり、取り組みの難しさを感じています。

健診事後指導については、2015年度初めて健診受診者の多い事業所を対象に勧奨を行いました。お試しという形で行い、以後予算をつけていただけるよう事業所担当者と連携を取りました。

対象者の中には、検査値が高いにもかかわらず何年も未治療の状態が続いていたり、一度も保健指導を受けたことがない、自分の健診結果を見たことがない等、自身の体に関心のない方が大勢いました。

担当者も産業医がいる中でどのように事後指導に取り組むべきか悩みを抱えていました。

事後指導は事業所の努力義務であり、強制できるものではありません。そのような状況の中で、生活習慣病の進行や重症化を防ぐためにどのように介入していくかが大きな課題だと感じています。

2. 保健指導現在、少子高齢化や疾病構造の変化が進む中で、生活

習慣および社会環境の改善を通じて、国民の健康の推進の総合的な推進を図るため、平成25年度から平成34年度までの期間において、「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」が推進されています。

また、健保組合等の保険者では、レセプトデータや平成20年からスタートした特定健診のデータを活用し、保健事業を効果的・効率的に実施するための事業計画「データヘルス計画」が始まっています。具体的には、データ分析に基づ

き、当該事業所における健康課題を明確にし、健康づくりの目標を設定→保健事業を計画・実施→その事業の効果を評価→次のサイクルに向けて計画の修正・改善を図る、いわゆるPDCAサイクルを通じた保健事業の展開です。

このデータヘルス計画では、働く人 と々家族の健康レベルの改善、また健康的な職場の整備を後押しし、医療費の適正化や生産性向上といった効果が期待されます。その効果は事業所にとどまらず、日本全体として少子高齢化を乗り切る切り札とも言え、重要な役割を担っています。

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6. ピンクリボン活動乳がんは1994年から女性のがん全体の罹患率第1位となっ

ています。また、40歳代での罹患率が最も高く、働き盛りといわれる30歳代から60歳代での死亡率も第1位となっています。しかしながら、受診率は30パーセントとまだまだ低いのが現状です。

ピンクリボンとはアメリカで始まった活動であり、乳がんで死亡した女性の母親がこの女性の娘である実孫に、同じ悲しみを繰り返さないようにと願いをこめて手渡したものがピンク色のリボンであった事に端を発します。日本では「あけぼの会」が2000年の10月に東京タワーをピンク色にライトアップしたことがきっかけになり、ピンクリボン活動団体も増え、運動の規模は年を追うごとに拡大しています。

当協会も「女性のためのがん検診フロア」開院当初から「あけぼの会」の協賛施設として、啓発運動パンフレットを配布しています。

また、杉並区民健康診査、事業所における婦人科検診の一環としてマンモグラフィや超音波を使用した乳がん検診を実

施しています。2010年からピンクリボン活動として、NPO法人J・POSHの

JMS(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)に賛同し、2015年度も10月18日に参加しました。

名前のとおり、日曜日に検診が受診できればという希望をかなえたものであり受診率の向上にもつながるものだと思います。

今年度は、芸能人の乳がんの罹患が公表されたことにより乳がん検診受診者数が例年の1.5倍にも増え、関心の高さを伺うことができました。

ただ、これが一時的なものではなく毎年の受診につながっていくことを切に願うばかりです。

このような活動を通じて、地域のみなさんに乳がん検診の大切さをもっと知っていただき、受診率の向上につながることを願っています。

5. メンタルヘルス労働安全衛生法の改正に伴い、2015年12月1日から50名

以上の事業所にストレスチェックの実施が義務づけられました。事業所におけるメンタルヘルス対策が一歩進むことに伴い、協会でも支援を行っています。健診実施事業所を中心に、保健師が安全衛生委員会などにおいて制度や実施意義の説明を行い、各事業所内での実施体制を整えるお手伝いをしています。また問診実施後のフォローとして、精神科医師が月に3回外来診療行っている場での面談や、健康管理部門に在籍する3名の産業カウンセラーによるメンタルフォローなどの準備を進めています。

協会では当制度に先行して、幾つかの事業所にストレスチェック問診の実施と、その結果に基づく面談を行っており、2015年も約346名に実施しました。問診の結果、高ストレスである人、面談の希望がある人などを中心に個別面談の実施、精神科への紹介、セルフコーピングの方法などの助言をしま

した。また事業所に対しては、職場のストレス判定図を提出・説明することで各職場のストレス度への認識を促し、職場改善に活かしていただいています。新たに施行されたストレスチェック制度では、努力義務となっている集団分析ですが、事業所に唯一フィードバックされるものなので、職場改善のために活用してもらえるよう、読み方や活用方法についての情報提供を行い、理解を促しています。

また事業所と契約をして、定期的に産業カウンセラーの派遣を行い、プライバシーに配慮した事前予約方式で個別面談を実施しています。メンタルの不調を抱えながらも受診のために仕事を休めない労働者が、気軽に相談できる場として好評をいただいています。産業カウンセラーとの話の中で解決の糸口をつかめる人もいれば、専門機関への受診を勧める人もおり、適切な振り分けをすることで休職などに至る前に、重症化を予防する効果もみられています。

4. 喫煙対策平成26年「国民健康・栄養調査」によると、現在習慣的

に喫煙している者(20歳以上)の割合は19.6%となり、男性では32.2%、女性では8.5%と、10 年前と比較すると男女ともに有意に減少はしていますが、近年横ばいで推移しています。

長年の喫煙は、がんだけでなくその他さまざまな疾病のリスクになることは明らかです。2007年の日本の死亡数において予防可能な危険因子を比較評価した研究では、高血圧、運動不足、高血糖などよりもさらに死亡に影響する最大の危険因子は、「喫煙」であることが明らかになりました。

そのため、健康寿命を伸ばし医療費を抑制していくために、喫煙による健康被害を回避していく取り組みが大切だと考えます。私たちは健診事後指導や特定保健指導の場で、肺年齢測定や一酸化炭素濃度測定と禁煙指導を行っています。

また禁煙キャンペーンなどで、禁煙に関する情報提供や働きかけを行っています。

喫煙は個人の習慣や嗜好のため、自主的に行動を変えることは難しいですが、例えば職域の場合、喫煙場所や時間などの職場の喫煙環境やルールを見直すことで、喫煙者の禁煙のきっかけを作り、受動喫煙への意識を高めることが可能だと思います。また、大多数の非喫煙者を巻き込んだ働きかけも、禁煙の意識を高めるために大変重要だと考えます。

私たちは、従来どおり健診時の肺機能検査や保健指導での働きかけを行っていくとともに、職場でどんな喫煙対策ができるのかを一緒に考え、効果的なアプローチをご提案していきたいと考えております。

3. 保健相談昨年に引き続き、長距離ドライバーの多い事業所には、

SAS(睡眠時無呼吸症候群)問診を実施し、該当する可能性の高い対象者に専門機関への受診勧奨を行いました。今後患者数の増加に伴い医療費増大を招く疾病を早期に発見することで、合併症の重症化予防や医療費の抑制につなげたいと考えています。

さて、健診機関における役割は、受診者が健診結果を振り返り、生活改善に活かせるような支援を行うことです。残念ながら健診の事後指導を実施している事業所の割合は、全体の1割にとどまります。数値に異常が出た段階で、対策を立て行動に移していくことで、将来的に病気なるリスクを低減させ、医療費を抑制することにつながりますが、その数値や所見のもつ意味や重大性を知らなかったり、改善方法が分からない場合、適切な対処はなされず放置されてしまいます。データヘルス計画の始まった今、保健指導を実施してい

ない事業場について、健診事後指導、メンタル相談、健康セミナーなどの職場の健康づくりを働きかけていきたいと考えております。

また、間接的な方法として、電話相談の窓口を案内し、健診結果について受診者が相談できる体制を整えています。年間約300件のお問い合わせの約4割を占めるのは「判定に対する対処の問い合わせ」です。具体的には、「健診結果の意味が分からない、どうしたらよいか?」「数値を改善したいけど方法が分からない」などの内容です。健診を受けて終わりではなく、受診や生活習慣改善につなげていただけるように、数値や所見を理解できるよう分かりやすい説明を心がけています。

今後も引き続き、受診者に健診結果の有効な活用と健康の維持や将来の疾病予防につなげていただけるような保健相談活動を実施していきます。


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