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Belle 実験の最新結果( 2008 年夏)
2008 年 8 月 5 日宮林謙吉
(奈良女子大学理学部)KEK 機構内セミナー
For Belle collaboration
お品書き
• イントロダクション• 風変わり(エキゾチック)なハドロンの話題• CP 非保存 (B0→K00)• 稀崩壊 (B→K(*)l+ l-)• まとめ
途中、 は「素人向け」、 は「玄人向け」 玄素
イントロダクション• 加速器での「素粒子の調べ」は、自然が仕込
んだ「 iPod shuffle 」を鑑賞するようなもの– 電子ビームと陽電子ビームが衝突するたび、どんな反応
=事象 (event) が生じるかは確率的。– 音程(=質量)はいくらか? 音色(=崩壊幅)は? 曲
目(=崩壊モード)はどんなものがあるか?
=
素
量子力学と相対論の1ページ復習素
「電子、陽子といった粒子も波としての性質を持つ」E = h
E: エネルギー、 h: プランク定数、 : 振動数
「質量とエネルギーは等価である」E = mc2
E: エネルギー、 m: 質量、 c: 光速ただし、運動量 p も考慮すると
E2 = (mc2)2 + (pc)2
質量スペクトルで粒子を観測する素
QS 質量MP
事象数
音叉は単一のサインカーブを出す
P
Q
S
Q と S を検出器でとらえてエネルギーと運動量を測ったら、P の崩壊から来たものかどうか、質量を計算して考察(mc2)2 = E2 - (pc)2
注 : エネルギー、運動量の保存
振動数440Hz
振幅の大きさ
幅:測定精度 or寿命の逆数
振動数( = 質量)が互いに重なった
複数の成分には注意が必要•ラジオも、二つの局が互いに重なった周波数で放送すると混信。•波の重ね合わせ(干渉)は、位相差により、強め合うとき (constructive interference) と、弱め合う場合 (destructive interference) がある。位相差を考慮した手法 (Dalitz 解析 ) が有効。
観測された波が青と赤の波の強め合う干渉であるとき
観測された波が青と赤の波の弱め合う干渉であるとき
素
KEKB 加速器
800fb-1
Int. lum.
Lum./day
8GeV(e-)X3.5GeV(e+) 、世界最高のルミノシティ (輝度 )最新結果は Υ(4S):605fb-1 、 Υ(5S):22fb-1 + エネルギースキャンのデータを解析
1fb-1/day
Silicon Vertex Detector
Central Drift Chamber
Aerogel CerenkovTime Of Flight CsI calorimeter
S.C. solenoid
1.5T
KL μ system
8GeV e-
3.5GeV e+
Belle 測定器
汎用で粒子識別能力に優れた高分解能スペクトロメーター
ハドロン (hadron) 素
•構成要素としてクォークを含む粒子•これまでに知られているハドロンは、
-陽子や中性子のようにクォーク3つからなるバリオン-Kやのようにクォーク・反クォークからなるメソンのいずれかであった。
風変わり(エキゾチック)なハドロン
qq(メソン ) 、 qqq(バリオン ) でないものも可能性あり。
ペンタクオーク :e.g. an S=+1 バリオン
グルーボール :gluon-gluon color singlet states
テトラクオーク :
qq-gluon ハイブリッド
u cuc
c c
ud
usd
構成要素として cや b を含むと• 軽いクォーク (u,d,s) は混ざる場合があるが
重いクオーク (Mc~1.5GeV 、 Mb~5GeV) なので混ざらない。
• 特に cc の場合、 J/(cc の 1S束縛状態 )や’ (2S束縛状態 ) は e+e-や + - に崩壊してくれるので、実験データ中に明瞭な信号を得やすい。 bb の場合も、 Υ(1S) 、 Υ(2S) 、 Υ(3S) は + -への崩壊が使える。
QuickTime˛ Ç∆TIFFÅiîÒà≥èkÅj êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉÇ å©ÇÈÇΩÇflÇ…ÇÕïKóvÇ≈Ç∑ÅB QuickTime˛ Ç∆TIFFÅiîÒà≥èkÅj êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉÇ å©ÇÈÇΩÇflÇ…ÇÕïKóvÇ≈Ç∑ÅB→→’
例: 玄
テトラクォークの場合は
u cuc
• ccuu, ccdd であれば中性だが、 ccud のような組み合わせならば電荷を持つ。
• cc を含み、電荷をもつハドロンの探索が興味深い。
d cuc
d cdc
電気的に中性 電荷1を持つ
電荷を持ち cc を含む二つの新粒子、 Z1, Z2 の発見
B 中間子の崩壊におけるcc を含むハドロンの生成
B
K, K*
B 中間子の崩壊過程は cc を含むハドロンの源として使える。カビボ抑制なし (Vcb と Vcs)→崩壊分岐比は割合高い。
Spectroscopy(分光学的研究)
↓質量 , 幅 ?新しい状態は ?
玄
チャーモニウム (通常の cc束縛状態 )
これらの状態はすでに同定されている。
DD 生成閾値を超す質量のものはいまだよくわかっていない。DDや DD*への崩壊は強い相互作用で起きるので、これらが支配的になり、崩壊幅が広くなる、というのが旧来の常識。c
J/
’
玄
チャーモニウムの再構成
+-
e+e-
J/→レプトン対という過程は、質量分布の中に明瞭なピーク
c1, c2 → J/(2S)→ J/ +-
c1
c2
高いエネルギー準位のもの ((2S), c) は質量差分布のピークを利用
チャーモニウムの再構成 (続 )
B 中間子崩壊の再構成
Υ(4S)→ BB二体反応の運動学を利用
Mbc = { (ECM/2)2 - ( Pi)2}1/2
信号は B質量にピーク (5.28GeV)
E = Ei - ECM/2信号はゼロにピーク
Example; B0→ J/ KS
E(GeV)
Mbc(GeV)
復習: cc を含むエキゾチックハドロンを B 中間子崩壊中に探す
X(3872) はB→ J/ +- K 崩壊でJ/ +- の質量分布にピークとして出現
荷電テトラクォークの中には、チャーモニウムと荷電パイ中間子に崩壊するものがいるのでは?B→ チャーモニウム ± K でチャーモニウム ± の質量分布にピークを探そう!
復習: B→Z(4430)±K の観測
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ǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉÇ å©ÇÈÇΩÇflÇ…ÇÕïKóvÇ≈Ç∑ÅB
’±K(K は K∓ または KS) の組み合わせで B 中間子を再構成’ は e+e-, +- または J/ +- で見つけられる。B→ ’±K の信号は比較的きれいなピークとして観測される。
ありふれた崩壊モードである B→ ’K* がいっぱい入ってるので、 Dalitz平面上の分布をチェック。 PRL100,142001 (2008)
復習: Dalitz 分布
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ǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉÇ å©ÇÈÇΩÇflÇ…ÇÕïKóvÇ≈Ç∑ÅB
K*(892)
K*2(1430)
M2(K)
M2(
’)
ここに事象の集中がある。これは何だ?
PRL100,142001 (2008)
B→ ’±K過程の M(’±
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4430MeV/c2 に明瞭なピークあり(発見者は Z(4430) と命名 )!
E サイドバンド領域の分布で見積もったバックグラウンド
フィット : Breit-Wigner (ピーク部分 )+ 位相空間分布 .
Npeak=121±30events(6.5)M=4433±4±2 MeV/c2
=44 +18/-13 +30/-13 MeV.
これは cc を含むハドロンのうち、電荷を持つ状態をはじめて観測したもの!
チャーモニウムではあり得ず、荷電テトラクォークである公算が高いと思われる。スピンやパリティを決定するには、さらに実験データの蓄積が必要PRL100,142001 (2008)
玄
柳の下に二匹目のどじょう(?)
Z(4430)+ は B→ ’±K過程で、’ののののののののののののののの’ ののののの c1 を用いて同じことをしたらどうなるであろうか?
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B0→ c1±K∓過程の信号は明瞭に得られる
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では Dalitz平面上の分布は?
Belle preliminary
arXiv:0806.4098
Dalitz 分布
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K*(892) K*(1430)
このあたりに事象の集中がある。これは一体何だろう?
Belle preliminary
arXiv:0806.4098
Dalitz 解析
• B0→ c1±K∓崩壊に寄与する様々な過程の波動関数( =遷移振幅)を Dalitz平面上の関数として入れる。
– B0→ c1K*, K*→ ±K∓の類;
, K*(892), K*0(1430), K*
2(1430), K*(1680), K*3(1780)
– B0→Z K∓, Z→ c1± の類;
Z は一つでよいか?近接した二つが重なり合っていないか?
• 上記の Dalitz平面上の関数を用いてフィット( = 最尤度法)
玄
Z なし、 or 一つの Z
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1.0GeV2<MK2<1.75GeV2
Z なしの仮定データを再現できず
一つの Z を仮定
M(c1)2 (GeV2)M(c1)2 (GeV2)
Eve
nts/
0.2G
eV2
Eve
nts/
0.2G
eV2 二つの
近接したピーク?
Belle preliminary
arXiv:0806.4098
M(c1±) 分布
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1.0GeV2<MK2<1.75GeV2
Belle preliminary
ののののののののの c1± に崩壊する粒子が存在することを強く示唆; Z1 と Z2
c1± に崩壊する粒子が存在しない仮定でのフィットは実験データを再現できず。
arXiv:0806.4098
Z1と Z2
Z1, Z2 の結果まとめ• Z1
M=4051 ±14(stat) +20/-41(syst) MeV=82 +21/-17(stat) +47/-22(syst) MeV
Br(B0→Z1±K∓)×Br(Z1
± → c1±)=(3.0 +1.5/-0.8(stat) +3.7/-1.6(syst))×10-5
• Z2
M=4248 +44/-29(stat) +180/-35(syst) MeV=177 +54/-39(stat) +316/-61(syst) MeV
Br(B0→Z2±K∓)×Br(Z2
± → c1±)=(4.0 +2.3/-0.9(stat) +19.7/-0.5(syst))×10-5
柳の下に、二匹もどじょうが!!
Belle preliminary
arXiv:0806.4098
Yb:b クォーク対を含む新しい
ハドロン
復習: cc を含む” Y” 粒子
衝突直前の e+ (または e- )が光子を放出、有効な衝突エネルギーが下がって生じる反応がある。 Radiative return 、または Initial State Radiation(ISR)と呼ばれる。
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BaBar:”Y(4260)”PRL95,142001
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cc を含んで重いのに J/ に崩壊する。bb でも同様の粒子 (Yb) がいるか?
Belle:”Two Ys, 4.05GeV and 4.25GeV”PRL99,182004
”Υ(5S)”→Υ(nS)+- (n=1,2,..)
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“Υ(5S)”
重心系エネルギー
ハド
ロン
生成全断面積
Υ(4S)→B0B0, B+B-
Υ(5S)→B0B0, B+B-, BSBS などB 中間子の類の対生成が支配的で、その他の過程の存在は Bファクトリー実験以前にはわかっていなかった。
しかし、 Bファクトリーの高統計データにより(→次頁)
”Υ(5S)”→Υ(nS)+- (続き)Υ(4S)→ Υ(1S)+-, Υ(2S)+-, Υ(3S)+- が存在することがわかった (PRD75,071103R) 。”Υ(5S)”→ Υ(nS)+- も測定したところ、
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”Υ(5S)”→ Υ(1S)+-, Υ(2S)+- は Υ(4S) などの場合とくらべて数十倍も大きい! (PRL100,112002)
ISR
”Υ(5S)”
これは一体どういうことか?終状態(=曲目)を Υ(1S)+-, Υ(2S)+- に限ると、 Υ(5S) (bb の束縛状態 ) とほぼ同じ質量のもう一つの粒子 Yb が作られて、重なり合っているのでは?(=ほぼ同じ音程で、その曲だけ得意な演奏者が隠れている?)
B0B0, B+B-,BSBS, …
Υ( 1S)Υ( 2S)
Υ( 5S)
Yb
Belle
重心系エネルギーを 10.689GeV の近傍で変えながらデータ収集( =Yb と Υ(5S) の音色の違いを調べたい) = エネルギースキャン
エネルギースキャンの結果
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ǙDZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉÇ å©ÇÈÇΩÇflÇ…ÇÕïKóvÇ≈Ç∑ÅB
BB 、 BSBS など”全曲目”既知の Υ(5S) (あるいは Υ(6S) )データと無矛盾。
Υ(ns) に限ると、ピーク位置(= 最も得意な音程 ) と幅 (= 音色 ) が既知の Υと違っている!M=10889.6±1.8(stat)±1.5(syst) MeV=54.7+8.5/-7.2(stat)±2.5(syst) MeV
Yb がいた!
Belle preliminary
B→K の CP 非保存中性 B 中間子と荷電 B 中間子で、 CP 非保存が異なる。(Nature452,332)
標準模型を超える物理の探索には、 B0→K00 の CP 非保存との関連を議論するのがよい( Sum Rule : Gronau, PLB627,82, etc. )
玄
B0→K00 の CP 非保存
KLevts
KSevts
SCP=+0.67±0.31(stat)±0.08(syst)ACP=+0.14±0.13(stat)±0.06(syst)
Sum Rule の予想では− 0.151±0.043スーパー Bファクトリーで重要なテーマ
Belle preliminary
初挑戦!
玄
B → K(*)l+l-
ループのあるファインマン図形で生じる→標準模型を超える物理に感度。レプトン対の質量分布、角度分布などが新しい物理の探索に有用。
玄
M(K) Mbc
K*l+l- : 230±23events
Mbc
K l+l- : 166±15eventsBelle preliminary
Belle, 08’ ICHEP
BABAR, 08’ FPCP
Melikhov et. al (quark model, PLB 410, 1997)
Ali (PRD 66, 034002, 290, 2002)
レプトン対質量 2=q2 分布
K*l+l- Kl+l-
BaBar の結果、理論計算と無矛盾。
Belle preliminary
レプトン角度分布
Bl > /2 : 前方 (Forward)Bl < /2 : 後方 (Backward)
玄
AFB
Belle preliminary
標準模型の予言では、 q2 が小さい領域 (4GeV2以下 ) の領域で AFB がマイナスになる。一方、実験データはその領域で AFB がプラスである。
標準模型との矛盾を確認するにはさらにデータ必要→スーパー Bファクトリーで重要なテーマ
まとめ• 新たに3つの風変わりなハドロンを発見した。
– Z1 と Z2 : cc を含み、 c1± に崩壊する。 Z(4430) に続く荷電テトラクォーク候補。
– Yb : 質量 10889.6 GeV で、 Υ(nS) に崩壊、既知の Υ(5S) とは別物であるとエネルギースキャンで明らかに。
• B0→K00 崩壊の CP 非保存– Sum Rule の期待と ACP が逆符号
• B→K(*)l+ l - の AFB
– 標準模型と q2 の小さい領域 (<4GeV2) で符号が不一致
Belle の今秋冬と来年度のデータ、スーパー Bファクトリーに希望が膨らむ成果となりました。