今回の講座について
今回の講座では、今話題のオペレーティングシ
ステム「ubuntu」(ウブントゥ)を3回に分けて解
説します。オペレーティングシステム、という
こと自体がわかりにくい面もあるため、最初に
全般的な事柄について触れておきます。そし
て、第2回、第3回目で、実際にubuntuに触れて
もらい、どのように便利なのか、どのような特
徴があるのかについて解説していきます。
講師の自己紹介
● 1967年生まれ。大学・大学院では月の地震を研究。
● 大学院を中退後、宇宙開発事業団(現: 宇宙航空研究開発機構)で、いまの「かぐや」にあたる衛星の開発を行っていました。
現在は、「かぐや」から送られてくるデータの解析などを行っています。
データ解析を通じてコンピュータに親しむようになり、公私ともにコンピュータを使う生活になっています。
小惑星「イトカワ」の模型との記念撮影
今日の進め方
1. オペレーティングシステム(基本システム)とは何か?
2. UNIX (ユニックス) の歴史
3. Linux (リナックス) の歴史
4. ubuntu (ウブントゥ) とは?
5. ubuntu最新情報
皆さんは、どんなソフトウェアをお使いですか?
● ワープロ● 表計算ソフトウェア● ブラウザ● メールソフト● ゲームソフト● その他…
こういった、すべてのソフトウェアの基本にあるのが、オペレーティングシステム(OS、または基本システムともいう)。いわば、すべてのソフトウェアの根本といってもよいでしょう。
オペレーティングシステムとは?
● 定義としてはなかなか難しいが、広い意味でのオペレーティングシステムとは、ユーザがコンピュータを使い、作業を行うために必要な機能を全て揃えた環境ということができる。
● 一方、狭い意味でいえば、プログラムや周辺装置を管理し、それらが正しく動作するために、システム全体を管理するための、いわば「システムのためのシステム」ということもできる。
● これ以降は、特に断りがない場合、後者の、狭い意味でのオペレーティングシステムを考えることにする。
オペレーティングシステムの役割
● プロセスの管理
– コンピュータの中で実行されているプログラムを管理し、正しく実行されるよう、また仮に異常が起こった場合に、他に影響を及ぼさないようにする。
● 周辺装置の管理
– コンピュータに接続されている周辺装置を管理し、他のプログラムなどから利用できるようにする。
● データの管理
– コンピュータの中に蓄えられているデータを「ファイル」という形で管理し、そのファイルを適切に管理、維持していく。
オペレーティングシステムの役割(1) プロセスの管理
● 「プロセス」という言葉は、コンピュータの用語では、起動されてシステムの中で実行されているプログラムを指す。
● 例えば、ワープロソフトが起動され、実行されていれば、システムからはそれは(少なくとも)1つのプロセスとして認識される。
● オペレーティングシステムは、同時に多数のプロセスが実行されても大丈夫なように、入出力やメモリなどの割り当て、開始や終了の処理などを行う。
● さらに、プロセスに異常が発生した場合、それが他のプログラム、ないしはシステム全体に影響が及ばないようにするための措置を講じる。
例えば、ワープロソフトを使いながらウィルススキャンができるのは、オペレーティングシステムがそれぞれのプロセスをしっかりと管理しているため。
オペレーティングシステムの役割(2) 周辺装置の管理
● コンピュータには、いろいろな周辺装置がくっついており、入出力を行っている。これらの装置の管理もオペレーティングシステムの役割。
– 入力装置...キーボード、マウスなど
– 出力装置...ディスプレイ、プリンタなど
● コンピュータが装置を認識する場合には、通常、オペレーティングシステムに対し、その入出力のための手順を教えるプログラムが必要になる。この、オペレーティングシステムと協調して動く入出力用の特殊なプログラムを「ドライバ」という。
● ドライバの助けによってシステムが周辺装置を認識すれば、システムはプロセス(プログラム)と装置とを仲立ちし、入出力を適切に割り振るようにする。
オペレーティングシステムの役割(3) データの管理
● ほとんどのオペレーティングシステムでは、データは「ファイル」という形で管理されている。
● データを「ファイル」という形にまとめ、それを維持、管理する(作成したり、削除したりする)のはオペレーティングシステムの役割。
● ディスクの物理的な位置とデータとしてのファイルを結びつけ、必要に応じてファイルを呼び出すためにディスク装置などを動かしたり、書き込んだりするのもオペレーティングシステムの仕事である。
● また、階層的なファイルシステム(ディレクトリ、あるいはフォルダと呼ばれるような、ファイルをまとめたファイル)を利用している場合には、その階層の管理も必要になる。
もし、オペレーティングシステムがなかったら…
● コンピュータのプログラムを書く人は、自前で入出力部分や他
のプログラムとの連携用のプログラムを書かなければならな
い。もっとも、それが正しいとは限らないので、正しく動くか
どうかは「やってみなければわからない」。
● 同時に多数のプログラムが走ると、システムを管理することが
できなくなり、システムは大混乱を起こすことになる。
● データを保存したり読み出したりするための統一的な規約がな
いので、ユーザはそういったツールや仕組みを自分で一から用
意しなければならない。
でも、実は昔はそうだった!
代表的なオペレーティングシステム
● Windows
● MacOS
● UNIX
– Linux
– FreeBSD, OpenBSD, NetBSD, BSD/386...)
– Solaris
– AIX, IRIX, ...● VMS
● CP/M
● BeOS
● ...
Windows
● いうまでもなく、いま世界で最もポピュラーなオペレーティングシステム。
● Microsoft社が開発し、いわゆるPC互換機に対して搭載し、発売している。
Windows Vistaのスクリーンショット
Windows (MS-DOS系列)
● もともとMicrosoftが開発し、世の中に出していたオペレーティ
ングシステムは、MS-DOSと呼ばれていた(1980年代に使われ
ていた)。
● これを1990年代になって改良して使われるようになったのが
Windows 3.1。
● さらに大幅な改良を加え、ネットへの接続機能を強化したりし
たのが、Windows95。これの爆発的なヒットにより、PCのOSとしての不動の地位を確立する。
● このシリーズはその後、Windows 98,Windows Meと続くが、システムの古さからここで開発を中止。
Windows (NT系列)
● 一方、もともとPC(パーソナルコンピュータ)で使われる予定
だったOSに対し、サーバ用途としてより強固なシステムとし
て、Windows NTが開発された(1992年)。
● サーバ用としてNT 4.0,さらにWindows 2000がリリースされる。安定性が高いことがから多くのユーザを得るようになる。
● 安定したNTカーネルをシステムの基礎に持ってきた、パーソナ
ル用の初めてのOSが、Windows XP。
● その後、サーバ用OSとパーソナル用OSが並行で開発される。
現在パーソナル用はWindows Vista、サーバ用はWindows 2008
Serverが最新。
MacOS
● アメリカのApple Computerが開発し、同社のMacintoshシリーズコンピュータで動作するオペレーティングシステム。
● もともとはオペレーティングシステムという形ではなかったが、徐々に体裁を整えてきた。
MacOS X 10.5.3のスクリーンショット
MacOS
● もともとMacintoshはオペレーティングシステムに関しては独
特の考えを持っていて、OSと言い切れないようなシステムで
あった。
● 最初にMacOSという名前をつけたのは、MacOS 7.6から(1997
年)。その後、8,9系列をリリース。
● 2001年に現行のMacOS Xがデビューし、近代的なオペレー
ティングシステムを備えたシステムとして再スタート。
● このMacOS Xは、実は基本部分はUNIX (FreeBSD)であり、そ
の意味ではUNIXの一種といえなくもない。
そして、UNIX
● 後で触れるように、UNIXは1970年代にはすでにその形が存在し
ていた、きわめて古いオペレーティングシステム。
● その後、姿形を変えて現在にまで続いているが、基本的な部分
は、実は1970年代からあまり変わっていない。
● これまた後述するように、実は、UNIXとひとくちで呼ばれるも
のにはきわめて多数のバリエーションがある。Linux、そして
ubuntuもこのUNIXの仲間である。
● そのため、UNIX系オペレーティングシステムと呼ぶこともあ
る。
● 代表的なものは、Solaris、AIX、IRIX、HP-UXなど。主にサーバ
用途などの信頼性が求められる分野で人気が高い。
オペレーティングシステムの「ご本尊」
● オペレーティングシステムはいくつかのファイルからなるが、その中で最も重要なファイルは、「カーネル」と呼ばれる。
● カーネル(kernel)とは英語で「植物の実」のこと。その通り、システムのいちばん中心に位置し、オペレーティングシステムが行う作業のほぼ全てを担うことになっている。
● カーネルそのものもたいていの場合は(実行可能な)ファイルで、実は私たちが実際にみることができる。例えば、一例として
– Windowsなら、C:\Windows\System32\ntkrnl32.exe
– Linuxなら、/boot/vmlinuz-2.6.9など
UNIXの歴史
● UNIXが誕生したのは、いまから40年近く前の1970年代。さらに
その着想は1960年代にまでさかのぼる。
● もともと、当時主流だった大型計算機に対抗するために、誰でも自由に好きなだけ使うことができるシステムであることを目指した。
● このため、「マルチタスク・マルチユーザ」(同時に複数のプロ
グラムが走り、同時に複数の人が利用できる)というシステムである。
● いまのUNIXシステムにあるネットワーク機能やウィンドウシス
テムは、1970年代から1980年代にかけて加わってきたもの。
● その時代、その時代の最先端の技術の影響を受け、根本的な部分はそのままに、大きくその姿を変えてきている。
UNIXの誕生
● マサチューセッツ工科大学(MIT)やベル研究所、GEが1960年代
に行っていた大型計算機向けOS、Multics(マルチクス)開発がそのきっかけ。
● Multicsは何から何までカバーする巨大なOSであったため、動きが鈍く、結局この開発は失敗に終わる。
● このプロジェクトに携わっていたベル研究所の技術者、ケン・トンプソンは、このシステム上で動いていた「スペース・トラベル」というゲーム(!!)を、Multics以外のシステムで実行できる
よう、小型のコンピュータ (PDP-7) に移植することにした。
● こうして、移植させるために作られた小型のシステムは、何でもできる「Multics」に対抗し、1つのこと(=ゲーム)しかできないという揶揄を込めて「Unix」と呼ばれるようになる。
UNIXの「父」ケン・トンプソンとデニス・リッチー
ケン・トンプソン デニス・リッチー
出典: http://www.cs.helsinki.fi/u/kerola/tkhist/k2000/alustukset/unix_hist/unix_historia.htm
新しいコンセプトを次々に導入
● 1973年には、このUnixシステムがC言語で書き直された。当時
は、オペレーティングシステムは1つのコンピュータに最適化
されるため、アセンブリ言語(機械語)で書かれることが普通だったが、その常識をひっくり返した。
● その後、この効果もあって、他の数多くのシステムにUnixシステムが移植されることになる。
● ベル研究所内ではより大型のコンピュータへUnixシステムが移植された。内部では文書処理システムとして稼働し、実際に役立つステムとしてツールなどが整備されていった。
● 現在UNIXシステムが備えているファイル管理機能や入出力の管理機能などはすでにこの時点でほぼ完成していた。
大学という環境で発展してきたUNIX
● ベル研究所は、当時、アメリカの電話会社AT&Tの傘下にあった。このため、独占禁止法によってコンピュータ分野への進出を禁止されており、コンピュータ製品を売ることができなかった。
● 一方、Unixは研究所育ちであり、その優秀さは口コミなどによりコンピュータ技術者の間に次第に広まることになった。
● このため、AT&Tでは、大学などに無償でUnixを配布し、使ってもらうことにした。このときにはソースファイルでの配布を行ったので、これはまさに、いまでいうところの「オープンソース」の先駆けともいえる動きである。
● 提供を受けた大学などでは、他のシステムへの移植やツールの開発、カーネルの強化などが活発に行われ、それがまた本流のUnixへ吸収され、次第にシステムは成長していくことになる。
UCB版UNIXの誕生
● 大学の中でも、カリフォルニア州立大学バークレイ校(UCB)では、技術者ビル・ジョイらをはじめとしたチームによっ
て、UNIXの積極的な開発(改良)が行われていた。
● 現在のUNIXに備わっている機能のうち、例えばネットワーク
機能(TCP/IP)や仮想記憶など、重要な機能は、UCBでの開発によってもたらされたものである。
● このため、UCB版のUNIXは、瞬く間にブームとなり、全米の
大学などで広く使われるようになった。
● ただ、開発元は大学であり、サポートなどの面に関しては不確
実ではあった(実際にはかなりしっかりとサポートなどはされて
いたのではあるが、それは本来の仕事ではない)。
バークレーvsAT&T
● 前述のような事情から、UNIXは大きく分かれて、いわゆる「バークレー版」(BSD=Berkeley Software Distribution)を元にしたものとAT&T版を元にしたものとに分かれてきた。
● バークレー版ではAT&T由来のコードを取り除いて、自主的に配布が行えるようなUNIXシステムを作り上げた。
● 一方、AT&Tは、独占禁止法の規定が解除されたことで自らもコンピュータ事業に乗り出せるようになり、UNIXを「System V」(システム・ファイブ)として売り出していく。
● しかし、AT&Tは通信会社ということもあり、コンピュータについての商売は暗礁に乗り上げ、コンピュータ部門はやがて子会社(USL)に売却される。
● さらに、このあたりの経緯が90年代に入ってからの著作権訴訟問題への火種になってしまう。
X Window Systemの誕生
● ネットワークを通じて利用でき、どのようなプラットホームで
も利用できるウィンドウシステムとして、開発が始まったのが
1984年。
● 当時マサチューセッツ工科大学に在籍していたボブ・シャイ
ファーとジム・ゲティスにより開発が行われる。
● 1985年に最初の版がリリース。無料で提供されたこと、また
UNIXとの親和性が高いことから、これも瞬く間に各地のUNIXワークステーションで使われるようになる。
● 現在では、UNIXにおける事実上の標準ウィンドウシステムと
なっている。
UNIXの急速な普及、そして行き詰まり
● 1980年代、「ワークステーション」と呼ばれる、小規模なオフィスや研究室などで使われるコンピュータが発売された。
● ワークステーションは大型コンピュータより安上がりで、PCよりは能力があるため、一挙に普及した。
● このワークステーション上に最適なOSということで、UNIXが全面的に受け入れられ、爆発的に普及した。
● ところが、1990年代に入り、PCの能力の向上、Windowsなどの普及により、UNIX系のオペレーティングシステムは行き詰まりを見せるようになる。
● また、UNIXのベンダー間の争いなどにより技術革新が止ま
り、UNIXには先がないという状態に陥ってしまった。
UNIXの再統一
● 大きなベンダー間の対立は、主にBSD系と呼ばれてきたSun(サン・マイクロシステムズ)のシステムSunOSと、AT&Tの流れを
くむ正統派のUNIXであるSystem Vを採用するベンダであった。
● この両者を統合する形で、Sunなどが開発に協力してできあ
がったのがSVR 4と呼ばれるシステム。
● さらにSunは、System Vの流れを取り入れた統合型のOSとして、Solaris(ソラリス) 2を1992年にリリース。
● UNIXベンダー間でも、ユーザ減少の危機感から統合の気運が
高まり、使用方法などを統一し「UNIX 95」規格を制定。しかし、これをもってしてもユーザ離れに歯止めをかけることはできなかった。
UNIXの特徴(1) 統一された入出力システム
● UNIXでは、すべてのプログラムには基本的な「標準入力」と「標準出力」が割り当てられている。このため、プログラムは特定の機器を入出力システムとして意識する必要は全くなく、プログラムを書くことができる。
● たいていの場合、標準入力はキーボード、標準出力は画面である。
● UNIXに付属する対話型のシステム操作ツール(シェル)を利用すると、この入出力を切り替え、例えば、他のプログラム(コマンド)の出力を他のプログラムの入力へ入れ替える、といったことも可能である。
● コマンド同士を組み合わせることにより、あらゆる仕事を柔軟に行える「プラットホーム」という形でのシステムが実現できた。
UNIXの特徴(2) マルチタスク、マルチユーザ
● 1台のコンピュータを、複数のユーザが同時に利用し、複数のプログラムを走らせることが可能である。
● 現在では複数のユーザはネットワーク経由で利用することが一般的であるが、何もそうする必要がなく、端末がいっぱいくっついていても構わないし、「ジョブ」という形で端末抜きで計算だけさせても構わない。
● 複数のプログラム(タスク、プロセスなどと呼ばれる)を走らせるために、相互のプログラムを管理する機能が非常に優れている。
● 同時に複数のユーザが使うということを考え、ユーザ同士でのファイルなどへのアクセスの許可・不許可などもきめ細かく設定できるようになっている。
UNIXの特徴(3) 全てが「ファイル」
● UNIXには、Windowsのように「ドライブ」という概念がない。その代わり、全ては、1つの「ルート」( / )と呼ばれる部分からスタートする、階層化されたファイルシステムとなっている。
● ディレクトリという考え方により、ファイルをまとめて管理することができるようになっている(いまでは当たり前だが、これはUNIXが最初)。
● ディレクトリの概念をうまく利用することにより、階層化されたファイルシステムをわかりやすく行き来することが可能。
● さらに、周辺装置や実行中のプログラムですら、UNIXシステム上ではファイルとして参照できてしまう。
● プログラムは周辺装置「ファイル」への出力を行ってもよい。システムがそこをうまく処理してくれる。
UNIXの特徴(4) プログラマによる、プログラマ
のための…● 細かいプログラム(コマンド)をつなぎ合わせることにより、目的とする事柄を簡単に実現できることになる。
● これはシェルの対話型プログラムでも可能だし、それをファイルとしてまとめた「シェルスクリプト」としても実現できる。シェル自体も条件判断などの高度な機能を備えている。
● さらに、UNIXではC言語が標準言語なので、プログラムはC言語で書きさえすれば、移植性が高く、わかりやすいプログラムを作ることができる。
● もともとシステムを作り上げたのはプログラマたちなので、UNIXはプログラマに最適なプラットホームとして成長を果たしてきている。
● また、各地で開発された多くの言語などもUNIXシステム上に移植されてきている。
そもそも、Linuxとは?
● まず、日本語では読み方はいろいろあるが、最近では「リナックス」と呼ばれることが一般的。
● フィンランドの技術者、リナス・トーバルス(Linus Torvalds)が開発した、完全にフリー(無料というだけではなく、改変や再配
布が自由に行える)なオペレーティングシステム。
● AT&T系やBSD系からは完全に独立し、一から書かれたシステムである。そのため、基本的にはどこからも著作権で文句を言われる筋合いはない。このようなシステムは一般的に「UNIXクローン」と呼ばれる。
● Linusが開発したのは、中核のカーネル部分だけで、その周り
はGNUというフリーソフトウェア運動のツールが使われるの
で、GNU/Linuxという言い方もなされる。
Linuxのはじまり
● 1991年、当時フィンランドのヘルシンキ大学に在籍してたリナス・トーバルズが作り出した。
● 当時、PCで動かせるUNIX系システムとしてMinix(ミニックス)と呼ばれるものが存在した。彼はそれをみて、Minixに多数ある制限を超えた、もう少しよい実装のシステムを作ろうと考えた。
● そして、実際に自宅のコンピュータで作り上げてしまったのが、Linuxの始まりである。
● もちろん、当時彼が作り出したシステムは、他のUNIXに比べると貧弱ではあったが、それでも数多くの問題や制限を抱えていたMinixよりはましであった。
発展が始まる (1990年代)
● 当時は32ビットCPUがPCへ導入される時期で、本格的なUNIXシステムをPCで走らせる土壌は整っていた。
● 一方、本家のUNIXはこの時期、主導権争いや著作権訴訟などの問題を抱えて動きがとれなかったり、個人の趣味のユーザを相手にするということはまったく眼中になかった。
● トーバルズ氏は自分が作ったシステムを無償で公開したため、世界中の多くのプログラマが改良に加わった。当時普及しはじめたインターネット上で、共同開発が行われてきた。
● こうして、短期間のうちに、多くのユーザ(プログラマ)の手により、Linuxは一気に改良され、強化されてきた。
● 1990年代後半には、PCで使えるUNIXということで、先進的なユーザの注目を浴びることになる。
大企業が注目しはじめる
● Linuxが安定して動作し、さらにサポートするプラットホームが広がってきたことにより、それまでまったく注目していなかった大企業がLinuxに目を向け始めた。
● Windowsの進撃で防戦一方になっていたUNIX系大企業、例えばIBMやSGIなどがこぞって開発に参加するようになる。
● これまでは自社で練り上げられた非公開のプログラムを提供していた各会社が、オープンソースという考え方で、公開されたプログラムをネットワーク上で作り上げるという方向に変わるようになった。
● こうして、Linuxは既存のオペレーティングシステムと比べても遜色がない(どころかより強力な)システムとして、企業向けにも注目されるようになった。
デスクトップ環境の開発
● Linuxの弱点として、Windowsのような統合されて洗練されたデスクトップ環境がないことが指摘されてきた。
● この流れを受けて、メキシコの技術者、ミグエル・デ・イガーザらが1997年に開発を開始した統合デスクトップ環境がGNOME(グノム)である。
● ほぼ同じ時期、1996年から同じように開発がはじめられたデスクトップ環境がKDE(KDE)である。
● 初期はどちらも貧弱かつ脆弱であったが、Linux同様、ネットワークで結ばれたプログラマによる共同開発で機能が一気に強化され、どちらも現在ではLinuxにはなくてはならないものとなっている(ubuntuでは標準がGNOME、KDEを採用したものはkubuntuと呼ばれる)。
いまや、Linuxは…
● Windows、Macと並んで、PCのオペレーティングシステムとしてなくてはならない地位に成長している。
● 特にサーバ分野での勢力拡大は著しい。PCサーバと呼ばれる
比較的小型のサーバでは、Windows系とシェアを競い合っている。
● 安定性が高まったことから、従来のUNIXシステムの独壇場であったエンタープライズ分野や大型計算機などへの進出も盛んになっている。
● そして、今後はデスクトップ分野(個人ユース)への進出が注目されているといえる。そして、その最先頭に立っているのが、ubuntuである。
Linuxと「ディストリビューション」
● Linux自身は、カーネル部分だけを呼ぶものであり、それだけでは実用的なシステムとはなり得ない。
● このため、各種のツールやウィンドウシステムなどを組み合わせ、パッケージ化されたものが、やはりネットワーク経由で配布されるようになった。これを「ディストリビューション」と呼ぶ。
● 最初は、プログラムなどを同梱して一緒に配る、といったような初歩的なものであったが、そのうちにアップデート機能やプログラム間の依存性解決機能などを持つようになる。
● また、PCへ導入するためのインストーラも着実に進歩し、Windowsがすでに入っているPCへ導入することも簡単にできるようになってきた。
● Linuxの誕生当時からディストリビューションを熱心に配布していたのがRed Hat。
ディストリビューションでみたLinuxの違い
Linuxは、基本とするディストリビューションの違いにより、大きく「RedHat (レッドハット) 系」と「Debian (デビアン) 系」に分かれる。
RedHat系 Debian系
●アメリカのRed Hat Softwareが開発したディストリビューション「Red Hat Linux」を基盤としたディストリビューション。
● 主にサーバ用途でよく使われている。
●堅牢性が高い。● パッケージ管理ソフトとして、rpmを利用している。
● LinuxのユーザグループであるDebianグループがリリースするディストリビューション。
● サーバ系、デスクトップ系両方に利用されている。
●セキュリティ対応が早い。● パッケージ管理ソフトとして、aptを利用している。
RedHat系とDebian系のディストリビューション
RedHat系 Debian系
● Red Hat Enterprise Linux● Vine Linux● Turbolinux● Fedora● SUSE (OpenSUSE)● CentOS など
● Debian GNU/Linux● KNOPPIX● Linspire● ubuntu など
実は歴史が浅いubuntu
● ubuntuは、実は誕生してからまだ4年ほどしか経っていない。
● Linux自体も誕生からまだ15年であるが、歴史からみるともっとも新しいディストリビューションということができる。
● しかし世界的な人気は絶大で、各種ディストリビューションの人気投票などでも1位を獲得するなど、世界的に注目が集まってきている。
● 日本では2006年頃からユーザが急速に増大、現在も、他のディストリビューションからの乗り換えや新規ユーザなどを含め、多数のユーザがubuntuへと加わっている。
● デスクトップLinuxシステムとしての完成度の高さから、いまや「Windowsを脅かすOS」とまでいわれるようになっている。
ubuntuの始まり
● ubuntuが正式に誕生したのは、2004年4月(いまからたった4年
前!)。
● 誕生に関わったのは、南アフリカ出身の実業家、マーク・シャ
トルワース氏。
● シャトルワース氏は、インターネットビジネスで巨額の財産を
得て、それを宇宙旅行に使うなどしていたが、その資産を元
に、「誰もが使える、フリーのオペレーティングシステム」の
開発を目指すようになる。
● 2001年に教育のための財団を創設。教育にはフリーのソフト
ウェアが必須ということもあり、その動きが加速していく。
ubuntu誕生
● シャトルワース氏は、フリーのオペレーティングシステムとし
てLinuxに注目するが、それがしばしば「うまくいかない」という点にも懸念を持っていた。
● そのため、既存のディストリビューションを強化する方向では
なく、まったく新しいディストリビューションを1から作り上
げることを目指すようになる。
● 2004年4月、シャトルワース氏はロンドンで十数人のソフト
ウェア技術者と会談。その中で、ソフトウェア開発に必要とさ
れる要件(例えば、規則正しいリリース、使いやすいデスクトッ
プなど)がまとめられる。
● この要件に基づいた最初のリリースが2004年10月にWarty
Warthog (イボイボイノシシ)というニックネームでリリース。
ubuntuという言葉の意味
● ubuntuは、シャトルワース氏の出身でもある南アフリカ地方の
言葉で、「他の人に対する思いやり」といったような倫理観を
表す。
● 南アフリカでは、激しい人種差別(アパルトヘイト)が撤廃されたあとの普遍的倫理観として使われるようになった。
● ubuntuは、ソフトウェアを使うユーザ、開発するユーザなどが
属するコミュニティ(共同体)を基礎として、それを発展させて
いくという考え方に基づいており、まさにふさわしい言葉とい
える。
● ubuntuチームには行動規範があり、その大元になっているのは
まさにこのubuntuという思想に他ならない。
ubuntuとは?
ubuntuを有する人は、寛容な心をもって他者に貢献し、他者を
擁護し、他者が才徳兼備であっても脅威を感じない。なぜなら、その人物は、自分がもっと大きな統一体の一員であるという認識に由来する穏当な自信を持ち、他者が恥ずかしい思いをしたり貶められたりしたとき、あるいは他者が痛めつけられたり迫害を受けたりしたとき、自分も傷つくからだ。
デズモンド・ツツ大司教の言葉より
出典: 「ubuntu徹底入門」
瞬く間にユーザを獲得
● デスクトップOSとしての完成度の高さ、サポートのきめ細かさなどが人気を呼び、リリースが繰り返されるごとにユーザの数が増えていった。
● インストールが容易なことも導入を促す原因となっている。
● また、各国語版への移植にも熱心であったことから、その国へのローカライズされたバージョンが配布されるようになった。日本では日本語ローカライズド版が利用される。
● また、ubuntuの標準デスクトップシステムであるGNOMEではなく、これまた人気の高いKDEを使用したkubuntu、教育用に特化したedubuntuなどのスピンオフが次々に誕生している。これらはubuntu公式のプロジェクトである。
● さらに、多数の派生システムが存在し、それぞれの目的のために使われている。
ubuntuの特徴(1) 完全にフリーである
● フリーである(無料で入手でき、改変が可能で、再配布可能である)ソフトウェアのみを利用してシステムが構築されている。
● このため、利用するにはもちろんお金を払う必要はなく、完全にただである(もちろん、ダウンロードの際の通信費や、CD-ROMに焼き付けるためのCD-Rの費用などは自己負担)。
● 再配布、改造も自由に行えるので、前述のように多数の派生ディストリビューションが誕生している。
● フリーであるにもかかわらず、サポートはしっかりと行われており、セキュリティの問題やバグ(不具合)などは比較的早く修正されている。特にセキュリティ問題への対応の早さには定評がある。
● 膨大な数のフリーなソフトウェアが利用できる。
ubuntuの特徴(2) 完成されたデスクトップ
● ubuntuは、基本的にその時点で最新のGNOMEデスクトップ環境を利用したものになっている。
● GNOME環境は着実に進化を遂げており、現在のバージョン(2.22)は安定性も高く、使い勝手もよい。
● 実際、WindowsやMacを使ったことがあるユーザなら、その日のうちにubuntuを使いこなせるようになる。
● UNIXのコマンドをまったく使うこともなく、マウスベースでファイルの操作を行ったり、アプリケーションを起動したりできる。
● もちろん、コマンドを併用することもできるので、UNIXの利点も受け継ぎ、かつ最新のデスクトップ環境を備えた「最強のデスクトップ」を体験できる。
ubuntuの特徴(3) 高度なセキュリティ対応
● ubuntuは基本的に、インストールされた状態では、ほぼ全ての
ポート(外部からネットワークを通じてやってくるサービスの入
口)を閉じている。このため、いきなりインターネットにつない
でも侵入される可能性はきわめて少ない。
● Linuxであることから、ターゲットとされるウィルスやワーム
などは少ない。また、システムの脆弱性もWindowsなどと比べると比較的少ない。
● もちろん、Windowsを標的とするようなウィルスやワームなどが感染する可能性はない。
● 前述の通り、セキュリティ問題が発見されるとすぐに対応が行
われる。
ubuntuの特徴(4) 充実したソフトウェア
● フリーであるにもかかわらず、Windowsなどと比べても遜色のないソフトウェアが多数導入されている。
● これらのソフトウェアはパッケージという形で配布され、システムからネットワークを通じてダウンロード、インストールすることが可能である。思いついたときにすぐに導入でき、利便性も高い。
● 特に、デスクトップ分野で必要となるような、オフィススイート(ワープロや表計算など)、音楽系ソフトウェアなどが非常に充実している。
● また、それらのソフトウェアはシステム上で統合されているため、相互にデータをコピー&ペーストするといったことも簡単に行える(実は、これは以前のUNIX系システムでは困難であった)。
ubuntuの特徴(5) 導入が簡単
● システムは1枚のCD-ROMとして配布されており、現在のほとんどのPCに導入可能。
● CDはそのまま起動してもubuntuを実行することができる。
● インストーラはきわめて洗練されており、ubuntuをシステムに導入するためには、基本的にはたった7回のクリックしか必要としない。
● すでにWindowsがインストールされているコンピュータに導入する場合でも、インストーラが領域を確保し、ubuntuを導入してくれるので、初心者でもきわめて簡単に導入できる。
● さらに、最新の8.04ではwubiと呼ばれる機能が導入され、ubuntuをまるでWindowsの1アプリケーションであるかのように使うことができるようになった。
Windowsの「定番」vs ubuntuの「定番」
○オフィス系ソフトウェア
(Windows) Microsoft Office
(ubuntu) OpenOffice.org
○ブラウザ
(Windows) Internet Explorer
(ubuntu) Firefox
○メールソフト
(Windows) Outlook Express,
Windowsメール
(ubuntu) Evolution
○画像処理ソフト
(Windows) Adobe Photoshop
(ubuntu) gimp
○音楽、ビデオ
(Windows) iTunes, Windows
Media Player
(ubuntu) totem, rhythmbox
ubuntuの「欠点」と「限界」
● 最新のハードウェアなどは、サポートされていない。
– これは、メーカが基本的にWindowsを優先してサポートしているためである。
● インストール作業などは、自分(ユーザ)が実施しなければならない。
– 欧米ではプリインストールされたパソコンが大手メーカから発売されている。日本でも専業メーカが出しているが一般的ではない。
● DVD再生ソフトや、一部の音声ソフトウェアなど、著作権やメーカの企業秘密などで守られているソフトウェアは実行できない。
– 中にはubuntuで使えるよう、メーカが提供しているものもある。
これはどちらかというと、ubuntu (Linux)の責任というよりは、メーカ側の姿勢の問題ともいえる。いずれ普及するにつれて、あるいは有料のサポートなどによって解決できると思われる。
ubuntuのリリース
● ubuntuは、必ず6ヶ月おきに新製品を出すということを公約に
している。これは、前身となったDebianが、なかなかリリース間隔を守れず、ユーザから批判が多かったことを踏まえたもの
(Debianに限らず、ユーザで作り上げるLinuxでは、リリースが
守られないことは日常茶飯事である)。
● 1つのリリースは、リリース後約1年半にわたってサポートが行
われる。
● また、2年に1回程度の間隔で、LTS (Long Term Support)と呼ば
れるリリースが行われる。このリリースは約3年間にわたるサ
ポートが保証される。
● リリースは、「年.月」という名前で呼ばれる。
最新リリース(ubuntu 8.04 LTS)
● 2008年4月に公開された最新のリリース。
● 2年ぶりに発表された、LTS (長期サポート保証)が行われるubuntu。
● GNOMEはバージョンが2.22へ上がり、機能強化と新機能の導入(世界時計の表示、新しい仮想ファイルシステムへの対応など)が行われた。
● Linuxカーネルは2.6.24。パフォーマンスが向上。
● システムの管理権限を強化するツールが導入されている。ただ、管理はウィンドウベースのツールで行え簡単。
● XウィンドウはX.org 7.3ベース。ディスプレイが2つ接続されたコンピュータでも設定がきわめて簡単。
● その他多数のシステムの強化など。