【はじめに】 一般耳鼻咽喉科医が嚥下障害患者の嚥下評価を求められることがしばしばあるが、対応は十分とはいえない。我々は本年1月に耳鼻咽喉科医師が使用する記載様式である「摂食・嚥下障害経過観察表」を作成した。
【対象と方法】 カルテ記載方法の手順は、 ①初診日は本学会が作成した摂食・嚥下障害評価表と当科が独自に作成した摂食・嚥下障害経過観察表の同時記入。②再診時は各項目ごとに追加記載。STや看護師の意見を取り入れて、一般耳鼻咽喉科医でも嚥下障害の診療に参入できるよう、可能な限り記載は選択式とした。平成25年1月〜8月に他科入院中に嚥下機能評価目的に当科に依頼された症例について上記方法にてカルテ記載を行った。
【結果】 対象患者17例。内訳を下の表に示す。
病棟看護師と診察時でのディスカッションが可能となり、耳鼻咽喉科医師とSTとの連携がスムースとなった。外来看護師は患者把握が短時間で行えるようになった。VFは別記載。日付は耳鼻咽喉科医師が診察した日であり、患者の状態や条件が変化した日ではないことに留意する必要がある。
摂食・嚥下障害経過観察表 (電子カルテ内に保存)
症例提示 84歳女性 大腿骨骨折 術後
嚥下障害に対し整形外科より依頼(診察計5回)
摂食・嚥下障害 経過観察表 【現在の問題点など】 大腿骨転子部骨折 1/4手術 術後嚥下障害 認知症 座位耐久性:不十分 2/25 座位保持可能 義歯が必要だが、作成していない 2/25 歯科受診 随意的な咳:不十分
【代償嚥下の適応】 複数回嚥下、think swallow 体位、食品(環境調整)がメイン(認知症のため)
【 良もしくは可能条件】 2/4 体位(体幹:ベッドアップ30度) 頸部(顎を下に引く・枕で調整する) 食物形態(ゼリーより段階的アップ・飲水可) 一口量(小スプーン) 介助者の監視のもと、可能な限り本人にスプーンを持ってもらう。 2/25 体位(座位) 頸部(できれば顎を下に引く) 食物形態(嚥下Ⅳから段階的摂食up・飲水可) 一口量(小スプーン) 4/9 体位(座位) 頸部(できれば顎を下に引く) 食物形態(嚥下Ⅳ・飲水可) 一口量(小スプーン)
【ゴール設定】 2/25 藤島Gr. 9 4/9 藤島Gr. 7
【反復唾液嚥下テスト】 2/25 1回/30秒 3/18 3回/30秒
【3mL水飲みテスト】 2/25 4.嚥下あり、呼吸良好、むせなし
【兵頭スコア(VE)】 唾液貯留-咳反射-嚥下反射-クリアランス スコア合計 点 2/4 1-1-1-1 4点 誤嚥:なし 随伴所見:なし 2/25 1-1-0-1 3点 誤嚥:なし 随伴所見:なし 3/18 1-2-1-1 4点 4/9 1-2-0-1 3点
【摂食状況 藤島Gr. 藤島Lv. Dyspasia Severity Scale(才藤)】 1/25 禁食(+点滴) 藤島Gr.5 藤島Lv. 2 2/4 嚥下Ⅲ(+点滴) 藤島Gr.6 藤島Lv.6 2/25 嚥下Ⅳ(点滴2/5まで) 藤島Gr.7 藤島Lv. 7 3/18 嚥下食Ⅳ 藤島Gr.7 藤島Lv. 7 5 口腔問題 4/9 嚥下食Ⅳ 藤島Gr.7 藤島Lv. 7 5 口腔問題
摂食・嚥下障害 経過観察表
【現在の問題点など】 例)座位耐久性に乏しい、認知症、義歯不適合、斜頸 など (摂食・嚥下評価表から抜粋) 咽頭通過側: 咽頭残留側:
【代償嚥下の適応】 嚥下後横向き嚥下(右・左・両方)、複数回嚥下、交互嚥下( )、 頸部突出法、supraglottic swallow、随意的な咳、think swallow
【 良もしくは可能条件】 / 体位(体幹角度:30度、45度、60度、座位) 頸部(顎を下に引く・枕で調整する など) 食物形態(ゼラチン、ミキサー、粥、常食 ・ ゼリー、とろみ付水分、液体) 一口量(小スプーン)
【ゴール設定】 / 藤島Gr. Gr.【1】嚥下困難または不能、嚥下訓練適応なし Gr.【2】基礎的嚥下訓練だけの適応あり Gr.【3】条件が整えば誤嚥は減り、摂食訓練が可能 Gr.【4】楽しみとしての摂食は可能 Gr.【5】一部(1~2食)経口摂取 Gr.【6】3食経口摂取プラス補助栄養 Gr.【7】嚥下食で、3食とも経口摂取 Gr.【8】特別に嚥下しにくい食品を除き、3食経口摂取 Gr.【9】常食の経口摂取可能、臨床的観察と指導を要する Gr.【10】正常の摂取・嚥下能力
【反復唾液嚥下テスト】 / RSST 回/30秒
【3mL水飲みテスト】 / 1:嚥下無し、むせる および/または 呼吸切迫 2:嚥下あり、呼吸切迫(silent aspirationの疑い) 3:嚥下あり、呼吸良好、むせる および/または 湿性嗄声 4:嚥下あり、呼吸良好、むせない 5:4に加え、追加嚥下運動が30秒以内に2回可能
【兵頭スコア(VE)】唾液貯留-咳反射-嚥下反射-クリアランス スコア合計 / - - - 合計 点 誤嚥: 随伴所見:
①喉頭蓋谷や梨状陥凹の唾液貯留 0:唾液貯留がない 1:軽度唾液貯留あり 2:中等度の唾液貯留があるが、喉頭腔への流入はない 3:唾液貯留が高度で、吸気時に喉頭腔へ流入する ②声門閉鎖反射や咳反射の惹起性 0:喉頭蓋や披裂部に少し触れるだけで容易に反射が惹起される 1:反射は惹起されるが弱い 2:反射が惹起されないことがある 3:反射の惹起が極めて不良 ③嚥下反射の惹起性 0:着色水の咽頭流入がわずかに観察できるのみ 1:着色水が喉頭あ蓋谷に達するのが観察できる 2:着色水が梨状陥凹に達するのが観察できる 3:着色水が梨状陥凹に達してもしばらくは嚥下反射がおきない ④着色水嚥下による咽頭クリアランス 0:嚥下後に着色水残留無し 1:着色水残留が軽度あるが、2~3回の空嚥下でwash out される 2:着色水残留があり、複数回嚥下を行ってもwash out されない 3:着色水残留が高度で、喉頭腔に流入する 誤嚥:なし・軽度・高度 随伴所見:鼻咽腔閉鎖不全・早期咽頭流入・声帯麻痺・( )
【摂食状況および藤島Gr. 藤島Lv. Dyspasia Severity Scale(才藤)】 / 、藤島Gr. 、藤島Lv. 、DSS:
Gr.【1】嚥下困難または不能、嚥下訓練適応なし Gr.【2】基礎的嚥下訓練だけの適応あり Gr.【3】条件が整えば誤嚥は減り、摂食訓練が可能 Gr.【4】楽しみとしての摂食は可能 Gr.【5】一部(1~2食)経口摂取 Gr.【6】3食経口摂取プラス補助栄養 Gr.【7】嚥下食で、3食とも経口摂取 Gr.【8】特別に嚥下しにくい食品を除き、3食経口摂取 Gr.【9】常食の経口摂取可能、臨床的観察と指導を要する Gr.【10】正常の摂取・嚥下能力 摂食介助が必要なときはA(assistの略)を付ける。
Lv.【1】嚥下訓練を行っていない Lv.【2】食物を用いない嚥下訓練を行っている Lv.【3】ごく少量の食物を用いた嚥下訓練を行っている Lv.【4】楽しみレベルの嚥下食を経口摂取しているが、代替栄養が主体 Lv.【5】1~2食の嚥下食を経口摂取しているが、代替栄養も行っている Lv.【6】3食の嚥下食経口摂取が主体で、不足分の代替栄養を行っている Lv.【7】3食の嚥下食を経口摂取している。代替栄養は行っていない Lv.【8】特別に食べにくいものを除いて、3食を経口摂取している Lv.【9】食物の制限はなく、3食を経口摂取している Lv.【10】摂食・嚥下障害に関する問題なし(正常)
嚥下障害臨床的重症度分類 Dyspasia Severity Scale:DSS(才藤) 7 正常範囲:臨床的に問題なし。 6 軽度問題:主観的問題を含め、何らかの軽度の問題がある。 5 口腔問題:誤嚥はないが、主として口腔期障害により摂食に問題がある。 4 機会誤嚥:時々誤嚥する、もしくは咽頭残留が著明で誤嚥が疑われる。 3 水分誤嚥:水分は誤嚥するが、工夫した食物は誤嚥しない。 2 食物誤嚥:あらゆるものを誤嚥し嚥下できないが、呼吸状態は安定。 1 唾液誤嚥:唾液を含めすべてを誤嚥し、呼吸状態が不良。
はじめに
対象と方法
結果
考察
1!診察日の日付挿入、
記載
3!次回診察時以降、
項目ごとに追加記載
2!不必要なスコアなど
は消去
摂食・嚥下障害評価表から、問題点を抽出
性別 依頼元 原因疾患 初診診察場所 平均診察回数
男性:13 内科:14 脳梗塞:4 ベッドサイド:11 3.4回 女性: 4 整形外科: 2 嚥下性肺炎:4 診察室: 6
外科: 1 肺癌 (声帯麻痺):2
その他:7
参考文献 兵頭政光 他:嚥下内視鏡におけるスコア評価基準の作成とその臨床的意義.日耳鼻 113:670-678, 2010 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害.P72, 医歯薬出版, 東京, 1993 藤島一郎, 大野友久 他「摂食・嚥下状況のレベル評価」簡単な摂食・嚥下評価尺度の開発.リハ医学 43:S249, 2006 才藤栄一:平成11年度厚生科学研究費補助金(長寿科学研究事業)「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究」統括研究報告書.平成11年度厚生科学研究費除菌研究報告書, pp1-18, 1999