放射線の経験から考える 食のリスクコミュニケーション
食のリスクコミュニケーション・フォーラム2016/6/26 @東京大学中島董一郎記念ホール
小野 聡(Satoru ONO) 立命館大学政策科学部 助教
• 小野 聡(Satoru ONO) • 立命館大学政策科学部 助教 • 専門:環境計画、市民参加型意思決定、環境影響評価
• 略歴 • 東京工業大学理学部→同大学大学院 • 博士(工学)、2011年、東京工業大学 • 2009年 日本学術振興会 特別研究員(DC1・PD) • 2013年 地球環境戦略研究機関(IGES) 研究員 • 2014年 東邦大学理学部 博士研究員を経て、2015年4月より現職
• 「効果的な除染のための福島アクションリサーチ」(FAIRDO)プロジェクトに参画
• 福島県、とりわけ伊達市小国地区におけるフィールドワークを通した、放射線リスクに対する社会の反応を観察。
自己紹介
講演の構成
STEP 1 本講演の視座:演者のこれまでの研究や、リスクコミュニケーションに関する既往研究の振り返りをとおして。【環境・地域計画✕自治】
STEP 2 FAIRDOを通じて学べること:「効果的な除染のための福島アクションリサーチ」でのフィールドワーク、および”車座会議”の実施を通じ
て得られる教訓とは?
STEP 3 食のリスコミのコンテクストでの一考察:FAIRDOの取り組みなどを通じて、食のリスコミの展開は考えられないか?既存の取り組みから
見えてくる課題はあるか?
• 環境計画の策定プロセス:協働型の意義と課題(愛知県日進市のフィールド)
• 計画策定時に、住民が環境調査を企画・実施 • 調査項目、調査結果に対す
る理解促進 • 科学性の担保:コンサルタ
ントによる助言 • 調査結果を元に、住民主導の
プロジェクトを複数立案
【STEP 1】本講演の視座、これまでの活動を通して
• 中山間地域でのまちづくり計画策定(滋賀県高島市朽木)
• 人口減少、急激な高齢化 • 産業の縮小:へしこ、とちの実 • まちづくり計画の内部化のための、
住民個々人の地域に対する再理解の取り組み • 古写真ワークショップ • 哲学対話 • 地域ワークショップ • 参加型フィールドワーク
調査段階からの住民の参画・自治 Citizen Scienceの合意形成プロセスへの組み込み
• リスクアセスメント(Risk Assessment) • リスクの分析を、産業界の利益や政治的思惑に左右されることなく、
科学的根拠のみに基づいて行う。 • リスクマネジメント(Risk Management) • リスクアセスメントの結果に基づき、いくつかの選択肢の中から費用
や効果などを考慮して適切な手段を講じる • リスクコミュニケーション(Risk Communication) • リスクアセスメント・リスクマネジメントの両方を含むすべての過程
で行われる。関係者間の信頼をベースに、問題を適切に把握し対処するための情報交換をする。
リスクコミュニケーションはなぜ必要なのか?
原田英美(2007)「リスクコミュニケーションの考え方と課題に関する一考察」
古くは、リスクアセスメントとリスクマネジメントは限られた関係者らのみに閉ざされた領域があると考えられていた。
• 科学的根拠に基づいたリスク理解の共有
• リスクに対する対策代替案に関する情報の共有
• 上記を踏まえたうえでの各個人各主体の意思決定支援
• インフォームドコンセント(Informed Consent) • 「ヘルシンキ宣言」(1964年) • 日本弁護士連合会「患者の権利の確立に関する宣言」(1992年)
• インフォームドコンセントの原則 • 患者が自己の病状、医療行為の目的、方法、危険性、代替的治療法などにつき正
しい説明を受け理解した上で自主的に選択・同意・拒否できる。 • 医療法の改正(1997年)
リスクコミュニケーションの意義と本講演の視座
日弁連Website: http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/1992/1992_3.html
• 「情報開示・教育型」リスクコミュニケーション • 専門家によるリスクアセスメント・リスクマネジメントに関する情報提供を
通して、参加者にリスク対策に関する理解を促すことを目的としたリスコミ
• 専門家やリスク管理者による、リスクアセスメント/マネジメントが正しくないかもしれないというリスク
• 吉川(2000)によるリスコミの要素 • 教育:人々がリスク情報を理解できるようにすること。 • 参加:リスクについての意思決定に、初期の段階から一般の人々に参加して
もらい、発言の機会を与えること。 • 信頼:専門家や一般市民も含めた利害関係者が、お互いの信念や価値観の違
いを認め、敬意を払い、相互の信頼を確立すること。
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「情報開示・教育型」リスクコミュニケーションの限界
吉川肇子(2000)「リスクコミュニケーションの戦略」日本リスク学会編『リスク学事典』小川晴也(2006)「作物残留農薬の事例によるリスク・コミュニケーション 改善のための新モデル構築」
共同事実確認(Joint-Fact-Finding)とリスコミ
iJFF (2014)「共同事実確認のガイドライン」より引用
• 国立感染症研究所村山庁舎施設運営連絡協議会(感染研協議会) • リスクコミュニケーションのための協議会
• 国立感染症研究所村山庁舎の「安全で開かれた透明性のある施設運営を図る」。→BSL4施設としての稼働が大きな目的。
• 2015年1月から7月に4回開催。 • 2015/1/20(これまでの経緯) • 2015/2/17(施設の安全対策について) • 2015/3/17(地元との交流の経緯) • 2015/6/ 5(施設見学など)
国立感染症研究所村山庁舎の事例
Level4 Dangerous pathogen unitsLevel3 Special diagnostic services, researchLevel2 Primary health services; diagnostic services, researchLevel1 Basic teaching, research
• 科学的根拠に基づいたリスク理解の共有
• リスクに対する対策代替案に関する情報の共有 • 費用、効果、危険性
• 上記を踏まえたうえでの各個人各主体の意思決定支援
• インフォームドコンセント(Informed Consent) • 「ヘルシンキ宣言」(1964年) • 日本弁護士連合会「患者の権利の確立に関する宣言」(1992年)
• インフォームドコンセントの原則 • 患者が自己の病状、医療行為の目的、方法、危険性、代替的治療法などにつき正
しい説明を受け理解した上で自主的に選択・同意・拒否できる。 • 医療法の改正(1997年)
リスクコミュニケーションの意義と本講演の視座
日弁連Website: http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/1992/1992_3.html
リスコミ=「教える専門家、教わる市民」 では、もはやない。
その地域に住む市民が、 生活をまもり、かつ豊かなものとしていくために、
社会的な意思決定プロセスにアクセスし、 自らの行動決定にも活かせる場として、
リスクコミュニケーションを理解することができる。
とくに自らの行動決定に活かすという観点では、 どのような取り組みによってそれは可能になるか?
• 放射線対策に関する意思決定システム構築の必要性 • 日本型の除染計画ツールの必要性 • スリーマイル、チェルノブイリの経験から、日本の実情(木造家屋・屋
根の形状、田圃など)に即した、最適な除染計画ツール・組織構成を開発する必要性。
• 低線量被曝をリスクファクタとするリスクコミュニケーション • 汚染状況重点調査地域(空間線量が0.23+μSv/h) • 生活や子ども・胎児への影響に対する不安広がる。
当時、何が問題であったか?
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三橋紀夫(2011)「福島原発の事故による低線量放射線被曝と人体への影響」、日本外科系連合会誌, 897-907
【STEP 2】 FAIRDOプロジェクトの概要
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• 「効果的な除染のための福島アクションリサーチ」(FAIRDO) • 代表:鈴木浩(福島大学名誉教授) • 目的:放射性物質に汚染された地域の実情を理解し、欧州の知
見や経験を生かしつつ、効果的な除染活動へ寄与する。 • 環境省 環境研究総合推進費 受託研究(2012~2014)
*LODOSは原発・放射能の危機対策準備のための欧州プラットフォーム(NERIS)において、除染計画支援システムとして開発され、除染ガイドラインEURANOSの基礎となった。
• ホールボディカウンターを用いた内部被曝測定 • 福島県立医大病院など • ガイガーカウンターの配布を通した、生活内での累積被曝測定 • 福島県伊達市霊山地区など • 政府や国際機関による対話 • ICRP(国際放射線防護委員会)福島原発事故による長期影響地域の
生活回復のためのダイアログセミナー(2016/5/30-31 #12+α) • 福島県庁、環境省によるリスクコミュニケーション • 医師保健師による診察とコミュニケーション • 甲状腺がんの羅患に関する検査 • 育児、妊婦に対する影響に関する相談会
• 除染に際する地域・戸別の説明会 …など
低線量放射線下でのリスクコミュニケーションの例
これらのリスクコミュニケーションによって 住民の行動がどのように決定されたか or されなかったか?
• 目的:(アクションリサーチであったため、研究面と政策面の両面の目的から設計された。)
• 研究面:福島県内におけるリスクコミュニケーションの企画意図と、それに対する住民の反応についての情報を収集する。
• 政策面:地域的なリスク対策のためのプラットフォームづくりに向けた、関係者間での意見交換と組織化。
• 2013/7-2014/1までに4回実施 • 福島市内で2回+伊達市内で2回 • 参加者構成=住民+地方行政+環境省+NPO+研究者(30名前後) • 情報提供:チェルノブイリ事故後の小学校区ごとのリスコミや、コミュニ
ティレベルでの活動の先行事例の紹介 • 対話:適宜議長が指名しつつ、前の意見と関連する主体に話をつなげる
方式で参加者が発言
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FAIRDO 車座会議
得られた反応の例
• リスク情報に対する質問 • ガラスバッジを1週間持って市役所に返送して、返ってきた結果は「累
計○○μSvで問題ない」と書かれている。 • しかし、これは胸元の高さの線量であって、脚はもう少し被ばくしてい
るのでは? • 住民間での認識のギャップが軋轢を生む例
• 被災から2年が過ぎて、子どもに弁当をもたせていると子どもから「なぜ他の子と違って給食を食べられないのか」と言われてしまうようになった。
• 他のお母さんたちと話をしていると、「まだそんなこと気にしているのか」とか、逆に私よりももっと注意している人もいて、何をどうすれば良いのかわからなくなる。
得られた反応の例
• リスク情報の追加生産 • 政府が作成した線量マップは1kmメッシュで作成されているが、私(発言者)の地区は市内で最も線量が高い。
• 大学(福島大学)と土地家屋調査士の協力を得て100mメッシュの線量マップを作成して、全戸配布した。
• また、大学(福島大学)の協力を得て、地区で収穫された農作物の放射能汚染状況を全数調査によって明らかにする仕組みを作った。 • 2012年5月時点で作られた仕組み:
• 「残留農薬」と低線量被曝・作物の放射能汚染 →不可視のリスク、不透明なマネジメントに対する対応
• 目に見えないリスク、目に見えないマネジメントがリスクに対する不安をより大きなものにする。
• 「調査、視察への参加」などによる、参加型のリスクコミュニケーション。その場合は、妥協ラインの目安に関する大枠取り決めの必要性。
• 生産者と地元消費者をつなぐコミュニティ • 「安全・安心の柏産柏消」円卓会議
• 仕掛け人 五十嵐泰正氏(筑波大学准教授) • 円卓会議が含有放射能測定に参加する地元の「My農家」制度 • 円卓会議が中心となり、柏の野菜を知ってもらうイベントを開催 • 取り組みの姿勢をサイトに載せ、野菜売り場のQRコードから検査結果と併せ
て読んでもらう
【STEP 3】食のリスコミへの示唆
http://www.sotokoto.net/jp/interview/?id=78
• 「遺伝子組み換え食品」と低線量被曝・作物の放射能汚染 →中長期的かつ民主的な意思決定の必要性
• 反対派を抑える目的ではなく、各アクターの意思決定につながるコミュニケーションが必要。
• 「政府レベルでの基準やマネジメントフレームの設定⇔コミュニティレベルでの対話」のシステム設計
• 「コミュニティレベルでの対話」は如何にあるべきか? • リスクを受容している住民と受容しない住民の間でのコミュニケーショ
ン • 互いの決定を尊重し合い、決定できない現状も尊重する。
• 討議型世論調査、哲学対話など、グループの合意を志向しないWS • オープンな対話が可能なスペース整備(PFMを背景として) • コミュニティレベルでの対話の標準づくり
【STEP 3】食のリスコミへの示唆
渋谷和彦(2013)「遺伝子組み換え食品のリスク・コミュニケーション」