水理実験演習 演習資料
(テーマ 3)
橋脚洗掘実験
橋脚洗堀実験の目的と内容
実験の目的
実際の河川においては、河床は砂やレキなどにより構成されている。そのため、洪水時には、河道に設置された構造物の周辺では局所的な洗掘が生じ、場合によっては洗掘により構造物が倒壊するなどの事象が生じる。本実験では、このような構造物による局所的な洗掘現象の代表的な例として「橋脚の洗掘現象」を例に橋脚周辺部に生じる局所流による洗掘現象について計測を行い、流速(フルード数)、河床材料(粒径、比重)、橋脚規模(形状、径)による洗掘深、洗掘形状について計測を行う。また、開水路流れの特性を把握するため、水位計測、流速分布の計測を実施する。
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開水路流れの把握(水面勾配、流速分布の観測) 橋脚周辺部の洗掘状況と局所的な流れの流況の把握 径時的な洗掘状況と橋脚形状による洗掘形状の把握 ベンチュリーメーターによる流量計測
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橋脚周辺部の流れ
丸形橋脚
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橋脚周辺部の流れ小判型橋脚(2019年台風19号 信濃川 旭橋 既往最大規模の洪水)
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橋脚周辺部の流れ(大型水理模型実験)
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橋梁の構造
上部工
下部工(小判型)
橋梁は、下図に示すように、大きくは3つの構造物で構成されている。上部工 : 路面や軌道を載せる構造物(コンクリートや鋼製、箱桁、版桁、トラス橋、斜張橋など)下部工 : 上部工を載せる構造物(コンクリート製、小判型・丸形など)基礎(フーチング): 橋梁全体を支える構造物(杭基礎、ケーソン基礎など)
橋脚は基礎の天端まで土があることを想定して、構造設計を行っている。(流体力や地震時の荷重に対し反力を発生させて、耐力を構成している。)橋脚が洗堀し、基礎部が洗堀を受けると橋脚は倒壊の危険性が生じる。
基礎(フーチング)
反力
洗堀すると危険
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橋脚の形状について一般的には、河川に設置される橋脚の形状は、小判型が多い。 橋脚による洗堀は、その橋脚径が洗堀深に大きく影響する。(径が小さい方が有利) 橋脚は道路、鉄道など幅員のある構造物を上部工として設置する。小判型の方が橋脚の流れに対し幅が小さくても幅員のある構造物を架橋することが可能。
そのため、橋脚径が太くなる丸形より小判型橋脚が採用される。 しかし、小判型橋脚は流れの方向に橋脚の位置が一致している場合は良いが、流れの向きが橋脚に対し斜めの場合は、橋脚による偏流が大きくなり、洗堀深が増大する。
丸形橋脚は、どの方向から流れが来ても洗堀状況は同一のため、洪水により橋脚に対する流向が変動する個所では小判型より丸形橋脚が選定される。
洪水時の流向があまり変化しない下流域では小判型が主、山間部など流向が洪水時に変動するような個所では丸形橋脚が用いられる。
小判型 丸型
流れが大きく乱れる
流向が変わっても流況、洗堀状況は同じ
橋脚周辺の洗掘による橋脚の沈下(神奈川県、酒匂川)
橋脚洗堀による橋脚倒壊の例(富士川、東海道本線橋脚)
橋脚の洗堀による現象
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橋脚洗堀実験装置
実験水路
小判型橋脚(上流) 円柱型橋脚(下流)
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橋脚洗堀実験の計測
実験での計測
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:水位計測 :鉛直流速測定地点
断面流速分布計測
小判型橋脚 円柱型橋脚 経時的洗掘深計測
経時的洗掘深計測
断面流速分布計測 断面流速分布計測 ③ ④
② ①
水位(水深)計測: 橋脚の上下流 各2か所で計測(合計4か所) 流速 : 橋脚の上流断面で計測(小判型の場合は横断分布計測、円柱型では中央部1断面) 経時的洗堀深 : 橋脚の直上流点(最大洗堀が生じる位置)で経時的に通水中連続して計測。
橋脚洗堀実験の計測水深、水位、水面勾配の計測
小判型橋脚 円柱型橋脚経時的洗掘深計測 経時的洗掘深計測
断面流速分布計測 断面流速分布計測③④ ② ①
③④
区間距離(L)
Δh
H1,H2,Z
①②
Δh
区間距離(L)
H1,H2,Z H1,H2,Z H1,H2,Z
計測では通水前に水路を湛水させ、水面は水平にして、その時の水位を計測する。 通水して洗堀が進行し、水位が安定した時点で通水中の水位を計測する。 また、通水時に河床高を計測して、水面高との差分で水深を計測する。
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橋脚洗堀実験の計測
流速分布の計測
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
60cm
5cm 10cm 10cm 10cm 10cm5cm 5cm 5cm
電磁流速計を用いて断面の流速分布を計測する。 詳細に計測を行うことで、断面内の流れの分布を把握する。 小判型橋脚の上流断面で計測を行う。
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橋脚洗堀実験の計測
流速分布の計測
電磁流速計を用いて断面の流速分布を計測する。 流速は変動しているため、3回計測し、その平均値を算出する。 今回は、平均化した流速データを資料として示す。
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦1回目2回目3回目平均
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦1回目2回目3回目平均
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦1回目2回目3回目平均
水深:
水深:
水深:
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦1回目2回目3回目平均
水深:
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦1回目2回目3回目平均
水深:
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橋脚洗堀実験の計測(流速計測)
流速分布の計測:電磁流速計
電磁流速計は、先端のプローブ内に良導磁性体のコアを中心にコイルが巻かれている。コイルに微弱電流を通電し発生した磁束帯の中を、電導体である水が流れることにより流速に応じた起電力が発生する。その起電力の大きさと流速は直線関係があるため、その電圧を計測することで流速を計測している。
電磁流速計プロペラ型流速計
流水の流れによりプロペラの回転数を計測することで流速を計測する機器。昔はプロペラ型が主流。現在でも現地観測などで用いられている。
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水路の流速分布
矩形水路での流速分布
矩形水路では、側壁、底面での摩擦の影響を受けて、側壁近傍、底面近傍では流速は減速する。
水路中央部は、側壁などの影響を受けないため、流速は相対的に速い流速となる。 矩形水路を流下する流れにおいて、均一で一様な流れを形成することは、困難な場合が多い。
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等流速線 : 計測した流速から同一流速となる点を結んだ曲線
きわめて整流された断面で生じる等流速線図。実験で再現することは、結構困難。
0.4m/s0.38m/s
0.35m/s
0.30m/s0.25m/s
流速の横断分布。側壁部より中央部が早い。
0
2
4
6
8
10
12
140 5 10 15 20 25 30 35 40 45
洗堀深(㎝)
時間(分)
洗堀深経時変化図
丸型小判型動的洗堀
橋脚洗堀実験の計測洗堀深に経時変化の計測(今回、レポート作成では洗堀データは使用しない) 橋脚直上流の河床高をスタッフを用いて経時的計測し、洗堀深がどのように変化するかを計測 実験は静的な洗堀実験なので、最終洗堀深が一定値を示す
静的洗堀:橋脚の周辺部では土砂の移動が生じるが、橋脚から離れた地点の河床材料の砂は移動していない。動的洗堀:流れが強くなると河床の砂が移動するようになる。流れが強くなるので、洗堀現象が大きくなるが、上流から土砂が流下し洗堀孔に流れ込むので、洗堀深は最終洗堀深付近で洗堀・堆積を繰り返すようになる。
洗堀深が一定の深さで安定最終洗堀深静的洗堀状況
動的洗堀状況
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g・R・IU =*I:水面勾配
径深R
摩擦速度(U
(m):m/s):*
s・g・d
Uτ
2** =
0.8mm)1.651.0-2.65:s
*
d:砂の平均粒径(
)砂の水中比重(
無次元掃流力τ
=
河床材料が移動しない限界の無次元掃流力は *<0.05τ
無次元掃流力は水面勾配により大きく影響を受ける
→ 水面勾配の算出
→ 十分な計測区間長、水位計測の精度
流れで変動定数で変化しない
摩擦速度と無次元掃流力
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橋脚の洗掘深の算出【洗掘深/橋脚径/水深関係図】土木研究所資料
静的洗掘 動的洗掘
Z:洗掘深
D:円柱径(=橋脚幅)
ho:平均水深
dm:河床材料の平均粒径
τ*:無次元掃流力
Fr:フルード数
求める値はZ/Dの値例えば上記の場合、1.0と0.8の値をL1:L2で配分した値
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流量の計測ベンチュリーメーターを用いた流量計測 開水路橋脚洗掘実験の直線水路の下部に設置されている給水管に取り付けられている装置。管路流れにベルヌーイの定理を適用して、2点の水頭差から流量を算出する装置。
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マノメーター(水銀)
ベンチュリーメーター
水頭差
ベンチュリーメーター
管路の断面積を変化させた管で、断面が小さくなる地点と通常断面の圧力水頭差からベルヌーイの定理を用いて流量を算出。
gV
gpP
gV
gpP
22
22
2
22
1
1
1 +=+
2211 AVAVQ ==
流量は差圧 の関数である。マノメーターに水銀を用いると
但し、μ:定数(0.95~1.00)、D1=150mm
D2=73mm、p2/p1=13.6、g:重力加速度
21 PP −gHpgHpPP 1221 −=−
)1(21
22
22
1
21 −−
=ppgH
AA
AAQ µ
20
洗掘は下降流により底面に生じる馬蹄渦により生じ、土砂は下流に掃流され橋脚背面に堆積する。
上昇流(表層回転渦)
水面の跳ね上り
下降流
橋脚側方の速い流れ 馬蹄型渦
洗掘域
縦渦
橋 脚
カルマン渦
後流
橋脚背面部低速流域とのせん断渦
衝撃波(波状水面)
カルマン渦と橋脚後流との乱れによる複雑な流れ
堆積域
流れの加速、偏向
河岸に作用する衝撃波
水位上昇
橋脚周辺部の流れ
21
橋脚周辺部の洗堀状況
22
橋脚周辺部の流れ
23
橋脚周辺部の流れ
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カルマン渦
カルマン渦 :一様流体中に置かれた柱状構造物の背面に発生する2列の渦状の流れ。円柱状の後方の剥離点の振動により交互に渦が生じる。後方に顕著な乱れた流れを形成させる。
左の写真は昔カルマン渦に関する研究が行われていた時に撮影された写真
風洞の中をゆっくりと風を起こし、電熱線に塗った油を間断的な通電で発煙させて撮影。
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カルマン渦
2015年1月9日 衛星ひまわりの画像明石海峡大橋のカルマン渦
円柱後方に生じるカルマン渦
カルマン渦は実験室の中だけでなく、流体中に物体がある場合はその背面で生じる。大規模なカルマン渦は地球規模で生じる。(季節風によるカルマン渦)
セイシュの現象 セイシュとは、静振(せいしん)ともいわれる、湖沼や湾内でみられる水の固有振動。 深層までの水が振動する定常波で,容器中の水が容器の中央を軸として振動するのと同じ。 地震,気圧の局地的変動,風の吹寄せなどが原因で起こるとされている。 今回は、橋脚の後流(カルマン渦)の周期と水路の固有振動数が一致し、共振現象が起きたことで現象が増幅した。
洗堀が進行し、水深が変化すると固有振動数が変化し、振動現象が低減している。
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計測結果の整理については、今回は実際に計測を行っていないが、これまでに計測されたデータを用いて、レポートの作成を行う。
授業資料、計測データ、提出用ファイルは、 Scombにアップしているのでダウンロードする。授業の資料は随時アップするので、授業の前にチェックする。
提出は③のWordファイルを用いて作成し、Scombにて提出する。
① 授業資料_開水路橋脚洗堀実験資料(テーマ1)Pdfファイル② 計測データ_開水路橋脚洗堀実験データ 班別のデータ Pdfファイル③ 提出用_開水路橋脚洗堀実験(テーマ3) Docファイル
レポートは、次の実験演習の1週間前までにメールで提出。内容に不備がある場合、再提出をメールで連絡する。(次のWEB授業でレポート内容の不備な個所について説明を行う)
授業の内容、レポート作成で不明な点などの質問は下記のメールアドレスへ問い合わせ。
質問メール : 件名は「水理実験質問」
メールには、実験名、班名、名前を明記し、質問の内容を分かりやすく記載。資料などを添付し、どこがわからないか、何を聞きたいかがわかるように。何を聞きたいのか不明なメールが多いので注意。メールアドレス:[email protected]
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レポートの作成・提出について
結果の整理
平均水深 河床勾配 摩擦速度 無次元掃流力
上流区間下流区間
1.計測したポイントゲージの値から下記の値を算出する
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③④
区間距離(L上流)
Δh
H1,H2,Z
①②
Δh
区間距離(L下流)
H1,H2,Z H1,H2,Z H1,H2,Z
平均水深 : ((H2-Z)①、③+(H2-Z)②、④)/2水面勾配 : ((H1-H2)②、④-(H1-H2)①、③)/L上流、下流
H1:静水面での水面高 H2:通水中の水面高 Z:水路床の高さ
上流区間 下流区間
結果の整理
3.断面流速、フルード数を算出する
H1 H2 水位差 流量マノメータの読み
2.ベンチュリーメータのマノメータの読み値から流量を算出する
ベンチュリーメータの流量を用いた場合 鉛直断面流速を用いた場合
水深上流(小判型ピア)下流(丸ピア)
流速上流(小判型ピア) V1上:V=Q/A V2上:計測した平均流速下流(丸ピア) V1下:V=Q/A V2下:計測した平均流速
フルード数上流(小判型ピア) Fr1上流 Fr2上流下流(丸ピア) Fr1下流 Fr2下流
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V1上(V1下):ベンチュリーメータで計測した流量Qを上流水深(下流水深)から算出する断面積で除した流速V2上(V2下):電磁流速計を用いて計測した水路中央部の鉛直平均流速
結果の整理
1.計測した洗堀深に対し、H/D,フルード数から洗堀深推定図を用いて求めたZ/Dを用いて洗堀深を算出し、比較を行う。
小判形ピア(計測した洗掘深) h/d フルード数 洗掘深の図表から求
めたZ/D Z/D値から算出する洗堀深
Fr1上流
Fr2上流
丸ピア(計測した洗掘深) h/d フルード数 洗掘深の図表から求
めたZ/D Z/D値から算出する洗堀深
Fr1下流
Fr2下流
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実験結果の整理
流速分布の整理
各断面の水深別流速計測値から、断面平均流速を算出する。 各断面ごとの断面流速分布を作図する。 河床高は、上流区間、下流区間での平均水深を用いて設定する
水面から 断面① 断面② 断面③ 断面④ 断面⑤ 断面⑥ 断面⑦
水深(cm)
0123456789・・河床 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
平均
計測した各計測地点の流速の平均値
第1層目の流速を水深0の流速とする
河床の流速は0とする
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水面から 断面①
水深(cm)
0123456789・・河床 0.0
平均
小判型ピア(上流) 小判型ピア(下流)
H
h+
V∑
=1*
2V2V1
V
V1
V2H
で囲まれた面積と等価となるの値が断面平均流速
・計測の水深位置が等間隔でない場合、加重平均で算出・水面部の流速は最上層の流速を適用・河床の流速は0として算出
鉛直平均断面流速の算定
hI
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各測線での、計測水深、計測流速値を用いて流速分布図を作成し、どのような流速分布となっているかを把握する。
各断面ごとに作成する。(小判型7枚、丸型1枚、どの断面の流速分布図かわかるようにタイトルを示す)
鉛直断面流速分布図の作成
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
200 10 20 30
水深(㎝)
流速(cm/s)
断面②0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
200 10 20 30
水深(㎝)
流速(cm/s)
断面④0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
200 10 20 30
水深(㎝)
流速(cm/s)
断面⑥
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断面流量の算出
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
60cm
5cm 10cm 10cm 10cm 10cm5cm 5cm 5cm
計測した各点の断面平均流速を用いて、区分求積法により通過流量を算出する。 詳細に計測を行うことで、断面内の流れの分布を把握する。
7.5cm10cm7.5cm 10cm7.5cm 10cm 7.5cm
区分幅B
水深h
区分断面積B×h
区分流速Vcm/s
流量B×h×V
断面 ① 7.5断面 ② 7.5断面 ③ 10.0断面 ④ 10.0断面 ⑤ 10.0断面 ⑥ 7.5断面 ⑦ 7.5合計
35
考察
1.既往実験結果を基にした洗掘深の算定値と演習実験の計測値を比較し、洗掘深が異なった場合、洗掘深の差に影響した要因について考察する。洗堀に影響する値の中で何が異なっていたので算定値と実験での計測値が異なったかを考察する。
洗堀深算出に用いるフルード数を算出するパラメーターを理解する。 断面平均流速、河道中央部断面流速の違いを理解し、それが洗堀深の算出にどの程度影響しているかを検討する。
2. 無次元掃流力が0.05以上となっているが、その原因について考察する。実験では、橋脚周辺部で洗堀が生じ、河床が移動しているが、水路河床の全体では河床は移動していない。河床が移動していないので、無次元掃流力は0.05以下と考えられるが、算出した値は0.05以上となっている。
無次元掃流力を算出する式を理解し、計測値の何が原因で無次元掃流力0.05を上回っているかを把握する。
計測値がどの程度変化すれば無次元掃流力が0.05を下回るか検討する。 その変更した観測値の値が計測状況、計測機器の計測精度を考慮して妥当であるかと判断する。
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考察
3. 例題演習 下記の条件を用いて、土木研究所の洗堀深算定図を用いて洗堀深を算出する。条件から洗堀深算定図にプロットし、Z/Dを算出して洗堀深を想定する。
河川幅 100m水深 4.0m流量 1440m3/s橋脚径 2.0m河床材料 5mm河床材料の比重 2.65
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100m
橋脚径:2.0m
4m
考察
下記の用語について、橋脚の洗堀現象、開水路流れに関連して調べ、記述する。調べる 摩擦速度 無次元掃流力 動的洗掘と静的洗掘 カルマン渦
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