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シカゴ大学実習記録 M4 Male
1. 渡米前準備期 渡米前の準備段階として重要なのは、学内選考、TOEFL、シカゴ大学への各種書類の準備、ビザの取得、防
寒対策の 5 つです。 学内選考に関しては、日本語と英語の面接、これまでの成績の 3 要素の合計で希望が決まっていくということ
です。これまでの方の体験記なども参照にしていだければと思うのでここでは割愛させていただきます。 TOEFL に関しても具体的な勉強法も詳しくはネットや他の方のものを参考にしていただければ十分だと思い
ます。敢えて言うならば、意外と実際の試験日は埋まっていることが多いので、早めに準備することが大切です。
特に運動部などに所属している方は、土日しか受験できないので注意してください。あとは「習うより慣れろ」
です。 シカゴ大学への書類提出が一番ストレスフルでした。一番面倒だったのは予防接種と抗体価を提出しなければ
いけない部分です。これに関しては大学毎に必要とされるものが違うので細かい差はありますが、基本的には今
までの抗体価の「生データ」(検査値として検査会社が発行している紙)が必要になります。ズボラな僕は一部紛
失していて、もう一度検査をしたり、その結果もう一度予防注射が必要になったり、大変でした。また輸入ワク
チンである Tdap を受けなければならず、国立国際医療センターにまでわざわざ行かなくてはいけないこともあ
りました。去年の夏は東医体から帰ってきてからずっと予防接種系の事務手続きに奔走していた記憶があります。
その他の書類に関しては困ったら丸山先生がいらっしゃるので安心ではありますが、先生のお手間をおかけしな
いようにも早め早めの準備を強くお勧めします。 ビザに関しては、万一のことを考えて B1/B2 ビザを取得いたしました。アメリカで 2 ヶ月病院実習をするた
めにはこれで万全だと思います。ビザ申請の際の注意に関しても、丸山先生から実習予定者に連絡が行くと思い
ますので、それをしっかりと読んでください。結果的には不要だったかもしれないですが、人生経験のためとポ
ジティブに捉えています。大使館での手続きは朝一番でも多くの人が並んでいたものの非常にスムーズでした。 最後に一番大切な防寒対策について少し書きます。去年はシカゴ史上稀にみる暖冬であったということで、覚
悟していたほどの寒さは数日しか体験しませんでした。しかし来年以降当然とてつもない寒さと格闘しなくては
いけませんので、防寒対策だけは十分にしていってください。ヒートテック、ニット帽、手袋など完全装備で行
きましょう。
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2. 実習記録 循環器内科のコンサルトチームに配属され、他科患
者の心疾患や術前の心機能評価を扱いました。心不全
と心房細動を始めとした不整脈が中心でした。心不全
の背景は多岐に渡り、米国ならではの alcoholic cardiomyopathy が印象に残っています。
attending と fellow の計 3 人のチームで 2 週間毎に
彼らは入れ替わり、後半 2 週間は resident が1人加わ
りました。前半 2 週間の attending はドイツのmedical school を卒業し、Ph.D を取得するために米国に渡り、
その後残って医者として働くことになったとおっしゃ
っていました。基礎研究に非常に強い興味を持った女
性の先生で、rounding 中もきっかけがある毎に熱心に自分の研究の話をしていました。また日本の教育制度に
も理解があり、「ドイツと日本は講義が中心で知識のレベルは総じて高いけれども、プレゼンテーションの能力
は訓練されていないから、君はここでとにかくそのトレーニングを徹底的に繰り返しなさい。それはカテーテル
とかを見学するよりずっと重要なことだから。」とおっしゃり、厳しく指導していただきました。後半の 2 週間
は、attending が Fellow Program Director の Professor に替わり、fellow と resident も親切でとても居心地が
良かったです。また前半 2 週間でみっちり鍛えてもらったおかげでスムーズに実習を行うことができたのも大き
かったかもしれません。この attending は画像診断のガイドラインを書いているということで、rounding 中、
エコーやシンチといった画像について割く時間が多かったです。 1日の流れとしては、午前中に新患を数人割り当てられ、過去のカルテ確認、問診、身体診察を行います。昼
に resident 向けの症例検討会に参加してランチを取った後、午後の回診で Assessment & Plan をプレゼンし、
それに対してフィードバックを受けます。時間次第でカルテを書きます。Plan を立てる際にも当然の如く
Evidence が重要になり、それを引っ張り出してこなければいけません。おかげでガイドラインというものをま
ず頭に入れて、それに患者を当てはめていくというスタイルには慣れました。それができるようになると、ガイ
ドラインを超えた Plan の立て方も学ぶことができました。例えば、CHA2D2 VASc Score による治療ガイドラ
インは structual disease を持たない患者での話であり、MR などを持っている場合はそれを考慮しなければいけ
ないというものがありました。また、ガイドラインでは第一選択薬が amiodarone であるけれども、肺線維症を
始めとした重篤な副作用を踏まえると、若年でこれからの人生がまだ長い患者にそのまま amiodarone を投与す
るのは良くないなどということもおっしゃっていました。「これが evidence-based medicine だ。しっかり覚え
ておけよ。」といわゆる「ドヤ顔」で言われたのを強く覚えています。いくらアメリカで臨床試験が進んでいる
とはいえ、その「evidence の隙間」は確実に存在し、その領域においては各先生方の経験と直感に基づいて治療
を行っているようでした。少し話が逸れてしまいました
が、基本的にこれらを一通りすべて自分で行わなければ
ならず、最初の数日間は日米の学習スタイルの差に戸惑
いましたが、これは自分で積極的に知識を求めていくス
タイルを身に付けるきっかけになり、その過程で医学に
は面白い世界が沢山広がっているということに気付くこ
とができました。 ちなみに大学周辺はダウンタウンに比べ治安が悪く、
キャンパス内にも多くの警備員が配置されていましたが、
実際に怖い体験はしませんでした。時間が経つにつれて
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佇まいが Americanize されてくるのか、2 週目くらいから全く知らない警備員の方から”See you, Sir.”と声をか
けてもらえるようになりました。言葉だけでなく、そういう生活の部分であちらに入り込むことができたという
のは非常に有意義な体験でした。余談ですが、同じ時期に病棟の Nurse 達に話しかけられ、親しくなれたのもひ
とえにこちらの生活に入り込むことに成功しつつあったということなのかもしれないと思います。
3. シカゴという都市について これも完全に余談ですが、シカゴは米国の産業発展の中
心として機能してきました。またリンカーンやキング牧師
が活動した拠点でもあり、現在の米国の根幹を築きました。
19 世紀にシカゴ大火という町全体を巻き込む大火事があ
り、焼け野原になったシカゴに世界中の優秀な建築家達が
集まりました。それ以後建築という観点でも非常に重要な
都市です。美しい摩天楼やユニークな建築物を存分に見る
ことができます。Mission Impossible で有名なタワー (駐車場?) や Trump Tower があります。それらがシカゴ川と
織り成す景色は最高でした。また米国の代名詞である「多
様性」というものを肌で感じることができ、様々な人種が入り乱れています。実際にボストンと比較すると、患
者にはアフリカ系が多く、医者にはインド系が多い印象を受けました。その多様性からくる一種の「パワー」を
病院だけでなく、街の至る所で感じました。friendly な人が多く、町のスタバとかでもしばしば話しかけられま
した。最初はスリか何かと警戒していましたが、次第にそういう会話も楽しむのも今回の留学の目的の 1 つだと
考え、積極的にコミュニケーションを取るように心掛けていました。 更に完全なる余談ですが、米ドラマ Prison Break はシカゴを舞台にしています。帰国便の中で Season 1 を観
ることができましたが、知っている建物ばかりで嬉しかったです。僕は受験日の次の日から Prison Break を延々
と見て、ラストシーズンまで観ました。本当に関係ない話でしたが、もしシカゴ大学が決まったら是非このドラ
マで英語の勉強をしてください。という真面目なメッセージだと捉えていただけると助かります。 4. シカゴ観光スポット シカゴは本当に見るべきもの、訪ねるべきところが沢山あります。正直休日が全然足りません。以下参考まで
に紹介しておきます。 4-1. Oak Park ここが僕の一番のお気に入りです。世界的に有名な Frank Lloyd Wright とノーベル文学賞作家 Hemingwayのゆかりの土地です。正確に言うと Wright の出身はここではありませんが、Oak Park で様々な建築物を設計
しました。実際に彼自身の家や彼の手がけた幾つかの家を見ることができます。日本の旧帝国ホテルも彼が設計
しました。Hemingway に関してはその生家と博物館があります。博物館では少年期から円熟期まで様々な記録
を見ることができ非常に興味深かったです。ちなみに、彼の成績表も見ることができましたが、小説家らしく国
語は良く、数学は悪かったです。 4-2. Chicago Bulls 僕自身は行くことができませんでしたが、是非行ってきてください。バスケの神様マイケルジョーダンが所属
していたチームです。現地のテレビでは毎試合生放送です! その他シカゴ美術館やフィールド博物館、外科博物館、リンカーンパークなど沢山あります。シカゴ大学のキャ
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ンパス自体、歴史のある見どころ満載ですのでそれも忘れないようにしてください。
5. まとめ 今回が初めてのアメリカということで思うところが沢山ありました。当然最初は戸惑うことばかりでした。ひ
とつひとつその壁を乗り越えていった時に、いろんな形で喜びを得ることが出来ました。 病院実習中一番違和感を抱いたのは、患者と医者の関係性についてです。一人一人の医者やスタッフは患者さ
んに十分な説明や誠意をもって接していました。しかし、一歩引いて見た時に、医者は社会的勝者、患者は社会
的敗者という関係性が浮かび上がってきました。少なくとも僕にはそう感じられました。そもそも医者、特に循
環器内科医はアメリカでは非常に competitive で給料が良いという背景を知っているために幾らかバイアスがか
かっているかもしれません。しかしそれでも、アメリカの健康事情は経済力に非常に強く相関するということの
影響は否定できません。貧困層になればなるほどマックなどのファーストフードを食べます。毎朝利用していた
シカゴのダウンタウンの駅では、Subway などのファーストフードが並んでいましたが、基本的に貧困層と思わ
れる黒人が客でした。循環器内科の患者もそういった食生活を理由に、黒人が多数を占めていました。遺伝的要
因もあるとのことでしたが。一方で誤解を防ぐために、黒人のとても優秀な fellow もいたということを付け加え
ておきます。 いずれにせよ、経済的な豊かさと人種というのはアメリカの医療のみならず、アメリカという国を考える上で
非常に重要なファクターであることは間違いありません。それに比べて日本は依然として中流階級が多く、人種
としても均一で、アメリカとは非常に異なる背景の国であるということを強く実感しました。 シカゴが自分にとって最初の米国都市ということになり、大変大きな愛着を持つことができました。またシカ
ゴ大学派遣 1 期生という名誉な形で行くチャンスをいただけたということにも深く感謝しております。現地でお
世話になった先生方や親しくなった現地の医学生達に
も心から感謝しています。当然辛いこと、大変なこと
も多いですが、それを踏まえてもトータルとして、後
輩たちには自信を持ってシカゴ大学を薦めることがで
きます。来年以降シカゴ大学で多くの後輩たちが様々
な体験を得られることを祈っています。 改めて丸山先生、グリーン先生、ホルムズ先生を始
めとしてお世話になった全ての先生がたと諸先輩がた
に深く感謝申し上げたいと思います。