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教科指導等を通じたPISA型「読解力」の育成に関する研究

--読解力グループ研究の概要

研究の概要

本研究は,これからの国際社会を生きる日本人にとって必要とされる力である 型「読解力」PISA

を,教科・領域の指導を通して育成することを目指すものである。

型「読解力」の育成に向けて,学習内容や学習過程を工夫することが効果的であることにつPISA

いて,グループ研究として検討した。

キーワード

読解力 収集する力 考える力 表現する力

Ⅰ 主題設定の理由

17 OECD Programme for International Student平成 年1月に文部科学省は, 生徒の学習到達度調査(

。以後, と呼ぶ )の調査結果を発表した。この調査は,実生活の様々な場Assessment 2003 PISA2003 。

面で直面する課題において知識や技能をどの程度活用できるかを評価することを目的としている。す

なわち,この調査が求める能力は,現行指導要領が目指す「生きる力 「確かな学力」と同じ方向性」

のものであると考えられている。

, , ,「 」PISA2003 調査結果によると 我が国の学力は 全体として国際的に見て上位ではあるが 読解力

など低下傾向にあり,特に,学ぶ意欲や学習習慣に課題が見られた 「読解力」の得点は 平均。 OECD

程度まで低下していることが明らかにされた。そして,この「読解力」が低下した結果を受けて,平

成 年 月に文部科学省は「読解力向上プログラム」を打ち出した(図1,表1参照 。17 12 )

このプログラムは 型「読解力」の向上を図るために,各学校における指導改善に向けての具PISA

体的な取り組み方法や,文部科学省と教育委員会による学校現場を支援するための施策等が示されて

。 , , 「 」 , ,いる 特に 各学校においては 型 読解力 の育成に向けて 国語科の指導を中心としつつPISA

すべての教科等を通じて取り組むことが求められている。

昨年 月に,平成 年度( 年調査)に実施された 調査結果が公表された。この結果に12 18 2006 PISA

においても 「読解力」の得点が一層低下したことが明らかにされている。,

この 型「読解力」を児童生徒に育成することの必要性について,国立教育政策研究所の有元PISA

秀文氏は 「日本人が国際社会の一員となるためには国際的なコミュニケーションができなければな,

らない 」と述べている。国際化する日本社会で外国人と交流するためには,知識や技能を実生活の。

場面で応用する力が必要である。日常の課題解決をおこなう場面において,資料を評価したり根拠を

明らかにしながら,自分の考えを論理的に表現することができるようなコミュニケーションの力が,

これからの国際社会を生きていく日本人にとって必要である。このような力は 「生きる力」と同様,

のものであると考えられ,これからの国際社会を生きる児童生徒に, 型「読解力」を育成するPISA

ことが必要であると考えられる。

本センターでは,平成16~18年度の3年間にわたり 「国語力向上」についての研究に主事研,

究のグループ研究として取り組んできた。特に 「国語力」の向上を 「論理的思考力」と「相互向上, ,

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図1 読解力向上プログラム(文部科学省 平成17年12月)

表1 読解力向上プログラム(文部科学省 平成17年12月)

コミュニケーション能力」の育成に焦点化し,研究を進めてきた。そして 「相互向上コミュニケー,

ション能力」を「人間の成長への願望や人格の完成という教育の期待を根底にもち,言語を媒介とす

る本質的理解と高い相互理解を目指していく伝達受容能力」と定義し,その伸長を目指してきた。

「相互向上コミュニケーション能力」は,知識の本質的理解と人間的理解を結び付けた相互啓発型

のコミュニケーション能力である。知識の本質的理解と人間的理解を深める為にコミュニケーション

を効果的に用いている点は 型 読解力 の育成に深く関わるクリティカル・リーディング 建, 「 」 (PISA

設的な視点に基づいた評価・批判読み)と関連があり, 型「読解力」の育成に向けて参考になPISA

ると考えられる。

我が国におけるこれまでの学習指導要領の改訂は,国が行う各種学力調査結果に基づいて行われて

きた。現在検討されている新学習指導要領においても, などの国際学力到達度調査結果やPISA2003

教育課程実施状況調査の結果を基に検討されている。新学習指導要領においては,基礎的・基本的な

知識・技能を身に付けさせ,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむという現行の学習

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指導要領のねらいが引き継がれている。そして,実現に向けて,基礎的・基本的な知識・技能の育成

(習得型の学習)と自ら考える力の育成(探究型の学習)の両方を総合的に育成することが必要であ

り,そのための手だてとして言葉と体験などの学習や生活の基盤づくりを重視する事の必要性があげ

。 ,「 」 「 」 , ,られている 特に 習得 と 活用 については 改正された学校教育法第30条二項においては

前項を受けて「前項の場合においては,生涯にわたり学習する基盤が培われるよう,基礎的な知識及

び技能を習得させるとともに,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現

力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いなければなら

ない 」と述べられている。。

また,習得型の学習と探究型の学習の間に,この2つの学習をつなぐ学習(活用型の学習)を位置

付けることが考えられている。すなわち,①基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させる,②定

着した知識・技能を実際に活用する力を育成する,③活用する力を基礎として,実際に課題を探究す

る活動を行い,自ら学び自ら考える力を育成する,という過程を各教科等で具体的に行っていくこと

が検討されている。

このような状況を踏まえ,本センターにおいても 型「読解力」の育成についての研究に取りPISA

組むことが必要であると考える。

Ⅱ グループ研究の目標

国際学力調査結果を受けて,今日的な教育課題である 型「読解力」についての研究にグルーPISA

プ研究として協同で取り組み, 型「読解力」の具体的な育成方法について検討し,学習指導案PISA

の提示と授業実践を通じて,その育成過程について明らかにする。

Ⅲ 研究の基本的な考え方

1 OECD生徒の学習到達度調査

(1) 生徒の学習到達度調査( )の概要OECD PISA2003

では,学習到達度を 「読解力 「数学的リテラシー(活用能力 「科学的リテラシー(活用OECD , 」 )」

能力 」の主要3分野から,思考プロセスの習得,概念の理解,様々な状況でそれらを生かす力を重)

2000 2003視して調査している。 年に最初の調査を行い,以後3年ごとのサイクルで実施している。

年調査は,第2サイクルとして実施された調査で,主要3分野に新たに「問題解決能力」を加えて行

われた。具体的な調査内容等については,表2のとおりである。

また 生徒の学習到達度調査 年調査国際結果報告書 によると 読解力 数,「 ( ) 」 ,「 」「OECD PISA2003

学的リテラシー 「科学的リテラシー 「問題解決能力」については,それぞれ表3のように定義さ」 」

れている。

(2) 生徒の学習到達度調査( )の調査結果OECD PISA2003

我が国の学力は,全体として国際的に見て上位ではあるが 「読解力」などが低下傾向にあり,世,

界トップレベルとはいえない状況であった 「数学的リテラシー(活用能力 」は,前回1位であっ。 )

たが今回は 位 「読解力」は前回8位であったが 平均と同程度の 位 「科学的リテラシー6 OECD 14。 。

(活用能力 」は前回と変わらず2位。今回から新しく実施された「問題解決能力」は4位という結)

。 , 。 , ,果であった 平均得点の国際比較については 表4のとおりである なお 年調査においては2006

我が国の「読解力」の得点は,さらに 位から 位へと順位が低下した。14 15

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表2 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)

表3 「読解力 「数学的リテラシー 「科学的リテラシー 「問題解決能力」の定義」 」 」

表4 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)における平均得点の国際比較

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2 PISA型「読解力」の捉え方

「読解」という用語は,国語大辞典(学習研究社)では 「文章を読んで,その意味・内容を理解,

する 」と記述されている。この記述にみられるように「読解力」とは,我が国においては「文章を。

読んで,その内容を正確に理解する力 」という意味で用いられていることが多いと考えられる。。

これに対して, 調査における「読解力 ( )は 「自らの目標を達成し,PISA2003 Reading Literacy」 ,

自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用

, 。」(「 ( ) 」 。)し 熟考する能力 生徒の学習到達度調査 年調査国際結果報告書 によるOECD PISA2003

と定義されており,我が国の国語教育等で従来用いられてきた「読解力」という語の意味とは異なる

ものであると考えられる(図2参照 。以後,従来我が国で用いられてきた「読解力」と区別するた)

めに, 調査における「読解力 ( )を 型「読解力」と呼ぶことにする。PISA Reading Literacy PISA」

図2 PISA型「読解力」の定義(OECD国際報告書英語版参照)

型「読解力」の定義は 「目的」を記述している部分と「能力」を記述している部分に分かれPISA ,

ている。目的については 「自らの目標を達成する 「自らの知識と可能性を発達させる 「効果的に, 」 」

社会に参加する」ことが示されている。そして,これらの目的を実現するために必要であると考えら

れる能力として,テキストを「理解する 「利用する 「熟考する」という3つが示されている。」 」

また 「効果的に社会に参加するために」という目的を踏まえて, 型「読解力」の調査問題に, PISA

は,実生活で直面する実際的な課題が多く含まれている。単に文章を読んで理解することばかりでは

なく,それを基にして推論したり,自己の知識や経験と結び付けて深く考えたりする問題である。こ

れは,社会に参加するために求められている力を測定しているものであり 「生きる力」と深く関わ,

るものである。

さらに上記報告書では,次のような内容の解説を付け加えている。

①文章を理解することはもちろん,様々な目的のために書かれた情報を理解し,利用し,熟考す

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る能力。

②ある範囲の状況の中で様々な目的で行われる読解の応用力をより広く深く測定することに焦点

化する。

③将来それぞれのコミュニティーに積極的に参加することを期待されている生徒達の手段あるい

は道具として捉えている。

これらより, 型「読解力」は,これまで我が国で用いられてきた「読解力」のイメージに加PISA

えて,①テキストを「解釈」したり 「熟考」したりすること,②テキストを利用すること,③テキ,

ストに基づいて自分の意見を論じること,④テキストの構造・形式,表現法を評価すること,⑤図や

グラフ,表なども読解の対象とすること,なども包括している。また,読解力向上プログラムによる

と, 型「読解力」は,文章や資料等のテキストから「情報を取り出す」ことに加えて,テキスPISA

PISAトを 解釈 したり 熟考・評価 や 論述 したりすることを含むことが示されている よって「 」 ,「 」 「 」 。 ,

型「読解力」の概念の方がより幅が広いものであると考えられる。

また,一方では, 型「読解力」は,①受信・受容(読むこと,聞くこと ,②思考・判断・創PISA )

造(考えること,思うこと ,③発信・提示(書くこと,話すこと)の3つの要素の総体であるとも)

考えられている(横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校による 。テキストを正確に読み取る)

とともに,自分の考えや意見を持ち,さらにそれを表現することができる能力であると考えることが

できる。

, , 「 」 。以上のことを踏まえ 本グループとしては 型 読解力 を図3のように捉えることとしたPISA

図3 PISA型「読解力」の捉え方

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つまり,この 型「読解力」を,①収集する力,②考える力,③表現する力の3つの力の総体PISA

であると考えた。

「収集する力」は,テキストの中にある色々な情報を目的に応じて正確に取り出すことができる力

である。これは,読む力や聞く力,見る力等がこの力の中心であると考えられる。我が国において,

「 」 , , 「 」今まで一般的に 読解力 と言われてきたような 国語科における文章問題等は この 収集する力

の中に含まれるものである 「収集する力」は, 型「読解力」の読解プロセスの中では「情報の。 PISA

取り出し」に深く関わる力である。

「考える力」は,テキスト全体の内容について理解した上で,テキストに基づいて推論したり,思

考したりする力である。これは,テキストの中にある情報を自分の知識や経験と関連付けて理解した

, , ,り テキストに基づいて論理的に思考したり テキストの内容や形式について多方面から吟味したり

自分の経験に基づいてテキストの内容を推論したりする等の力である。その際,あくまでもテキスト

PISAにあることを根拠にして推論したり 思考したりすることが必要である この 考える力 は, 。 「 」 ,

型「読解力」の読解プロセスの中では「解釈 「熟考・評価」に深く関わる力である。」,

「表現する力」は,推論したり思考したことを,文字として文章に論述(書く力)したり,音声言

語により発表する等の話す力や,絵や歌,身体を用いて表現する等の表す力である。ここでは,この

「表現する力」は,最終段階として自ら情報発信していく力であるといえる。なお,この表現する力

は, 型「読解力」の読解プロセスの中では「解釈 「熟考・評価」に深く関わる力でもある。PISA 」,

これらの3つの力の中で, 型「読解力」の中核をなすものは 「考える力」である。この「考PISA ,

える力」を育成するとともに,推論や思考したことを,テキストに基づいて根拠を示しながら表現す

ることに関わる「表現する力」を育成することが大切であると考える。

型「読解力」は,これからの日本の教育において,学力の中心的な位置付けがなされるものPISA

である。

3 PISA型「読解力」の問題の特徴

調査における「読解力」の問題は,テキストは一般的な文章だけでなく「連続型テキスト」PISA

と「非連続型テキスト」の問題がある。これらのテキストを幅広く読み,広く学校内外の様々な状況

15に関連付けて理解することがどの程度できるかを測定している この調査は 義務教育修了段階の。 ,

歳児が,知識や技能を実生活の様々な場面で直面する課題に対してどの程度活用できるかを評価する

ことをねらいとしている。したがって,特定の学校カリキュラムがどれだけ習得されているかをみる

ものではない。

型「読解力」の問題の特徴としては 「情報の取り出し 「テキストの解釈 「熟考・評価」とPISA , 」 」

いう読解のプロセスを含んでいる。また,問題の出題形式は,自由記述によるものが多く,全問題の

うち約4割を占めている。

(1)読解のプロセスの3つの視点

型「読解力」の問題は,読解のプロセスとして,以下の3つの視点を設定している。PISA

①情報の取り出し : テキストの中の事実を切り取り,言語化・図式化する。

②テキストの解釈 : 書かれた情報から推論・比較して意味を理解する。

③熟考・評価 : 書かれた情報を自らの知識や経験に位置付けて理解・評価する。

「 」 , 「 」 ,「 」PISA 型 読解力 の問題は 文章や資料から 情報を取り出す ことに加えて テキストの解釈

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「熟考・評価 「論述」することを含んでいる(図4参照 。」 )

図4 読解のプロセスの3つの視点

*読解力の5つのプロセスを区別する特徴 ( 評価の枠組み」より)「

* 内は,著者が付加する。

(2) 型「読解力」の問題の特徴PISA

型「読解力」の問題は,読解プロセスの3つの視点に基づき,以下のような特徴がある。PISA

①テキストに書かれた「情報の取り出し」だけではなく 「理解・評価 (解釈・熟考)も含ん, 」

でいること。

②テキストを単に「読む」だけではなく,テキストを利用したり,テキストに基づいて自分の意

見を論じたりするなどの「活用」も含んでいること。

③テキストの「内容」だけでなく,構造・形式や表現方法も,評価すべき対象となること。

④テキストには,文学的文章や説明文章などの「連続型テキスト」だけでなく,図,グラフ,表

などの「非連続型テキスト」を含んでいること。

読解力の問題は全部で 問あり,今までの学校教育では扱わなかってこなかったような実際的な28

課題が含まれていたり,従来の国語科の枠を越えて理科や社会科に関連するような幅広い内容が盛り

込まれている。その内,通常の文章の問題は %,図表や地図などの問題は %である。64 36

読解プロセスの3つの視点により課題を分類した出題率は,①情報の取り出しが %,②テキス25

トの解釈が %,③熟考・評価が %である。50 25

出題形式は,①多肢選択,②複合的選択,③求答,④自由記述,⑤短答,のような形式をとってい

る。

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(3) 型「読解力」の問題におけるテキストの捉え方PISA

「 」 ,「 」 「 」PISA 型 読解力 の問題で使われているテキストには 連続型テキスト と 非連続型テキスト

がある。

連続型テキスト :文学的な文章(物語 ,説明的文章(解説 ,記録など) )

非連続型テキスト:文章以外のデータを視覚的に表現したもので,図,グラフ,地図,表など

これまで我が国における読解の問題で多く用いられてきたテキストは, 型「読解力」の問題PISA

では「連続型テキスト」にあたるものであると考えられる。 型「読解力」の問題で使われていPISA

るテキストは 「連続型テキスト」ばかりでなく「非連続型テキスト」も含み,より幅広く多様な捉,

え方をすることができると考えられる。

4 我が国におけるPISA型「読解力」の課題

生徒の学習到達度調査( )の結果によると,我が国における 型「読解力」のOECD PISA2003 PISA

課題は,読解のプロセスの3つの視点のうちで「テキストの解釈 「熟考・評価」に,また,出題形」

式においては 「自由記述形式」に課題があることが明らかにされている。,

また,具体的には,下記のような問題に課題が見られた。

①テキストの表現の仕方に着目する問題

②テキストを評価しながら読むことを必要とする問題

③テキストに基づいて自分の考えや理由を述べる問題

④テキストから読み取ったことを再構成する問題

⑤科学的な文章を読んだり,図やグラフをみて答える問題

Ⅳ グループ研究の構想

1 グループ研究の構成

型「読解力」の育成についての研究にグループ研究で取り組み,各教科・領域における授業PISA

実践を行う。グループの構成員と研究対象については,表5のとおりである。

表5 グループの構成員と研究対象

所 属 氏 名 研究対象(教科・領域等)

1 研究開発 内田 淳 グループの統括,理論の研究

各校種各教科等の授業例の収集

2 教育指導 橘田 雅春 「高校国語」授業案の提示と実践

3 教育指導 丸山 一彦 「小学校算数」授業案の提示と実践

4 教育指導 五味 一仁 「高校理科」授業案の提示と実践

5 業務推進 橘田美喜恵 「中学校音楽」授業案の提示と実践

6 教育指導 清田 礼子 「中学校技術・家庭(家庭分野 」授業案の提示と実践)

7 研究開発 古谷みつ江 「高校家庭」授業案の提示と実践

8 教育指導 北川 俊明 「中学校保健体育(保健分野 」授業案の提示と実践)

9 研究開発 二宮 寛美 「高校工業」授業案の提示と実践

教育指導 田中 和恵 「高校道徳」授業案の提示と実践10

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2 研究内容

(1) 型「読解力」の育成方法について検討する。PISA

(2) 型「読解力」の育成を目指した指導方法を考案する。PISA

① 型「読解力」の育成を目指した学習指導案を作成し,授業実践を行う。PISA

②日常的に学校現場で行われてきた学習指導を基に指導方法を工夫・改善する。

③学校現場において実践しやすいものにする。

④各教科・領域等における 型「読解力」の育成を目指した指導計画(単元レベル)と学PISA

習指導案を作成する。

⑤現行の学習指導要領に基づいた 型「読解力」の育成を目指す。PISA

(3)各教科・領域等におけるねらいの達成を図りながら 型「読解力」の育成を目指す。PISA

①各教科・領域等におけるねらいを達成するとともに, 型「読解力」の育成を目指す指PISA

導の工夫(学習内容,学習過程)による授業実践を行う。

② 型「読解力」の育成を目指す指導を工夫(学習内容,学習過程)することにより,各PISA

教科・領域等におけるねらいがより達成されやすくなるような授業実践を行う。

本グループ研究においては,②にあるような授業実践を目指す。

(4) 型「読解力」を育成する具体的な視点PISA

①読解力向上に関する指導資料(文部科学省 平成 年 月)中で,読解力を高める指導例17 12

として,指導のねらいを7つに分類している。この読解力を高める指導例にある7つの能力

の育成に基づいた指導を工夫する (表6参照)。

表6 読解力向上に関する指導資料(文部科学省 平成17年12月)

ア テキストを理解・評価しながら読む力を高める

ア)目的に応じて理解し,解釈する能力の育成

イ)評価しながら読む能力の育成

ウ)課題に即応した読む能力の育成

イ テキストに基づいて自分の考えを書く力を高める

ア)テキストを利用して自分の考えを表現する能力の育成

イ)日常的・実用的な言語活動に生かす能力の育成

ウ 様々な文章や資料を読む機会や,自分の意見を述べたり書いたりする機会を充実する

こと

ア)多様なテキストに応じた読む能力の育成

イ)自分の感じたことや考えたことを簡潔に表現する能力の育成

3 PISA型「読解力」を育成する指導の工夫

(1)学習内容の工夫

①テキストの吟味と工夫

○児童生徒にとって興味・関心が高いテキストを,教科等の特性に応じて選定し,効果的な

活用を工夫する。

( , , )・身近な教材を活用した指導 地域教材 児童生徒との距離が近い教材 日常的な教材等

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・日常生活との関連を意識させる指導

・楽しく学習に取り組めるテキスト

○児童生徒の既習知識や体験等を生かせる指導を工夫する。

文部科学省「読解力向上に関する指導資料」によると,テキストについての具体例として,表7の

ような例をあげている。

表7 テキストの具体例(読解力向上に関する指導資料による)

これは, 調査で用いられているテキストが,書かれたテキストであるのに対して,もっと幅PISA

広く視覚,聴覚的な情報全般にわたってテキストと捉えている。本グループとしては,テキストにつ

いては,上記具体例を中心に,書かれたテキストばかりでなく,学習の対象となり得る全てのものが

テキストになると考える。

(2)学習過程の工夫

「情報の取り出し 「テキストの解釈 「熟考・評価」という読解のプロセスの3つの視点に「表」 」

」 , , 。現 を加えて 読解のプロセスの4つの視点とし 学習過程にこのプロセスを位置付けた指導を行う

なお 「読解力向上プログラム」に明記されている「論述」は,本研究においては「表現」の中に含,

めて考えることとする。

本グループとしては,読解のプロセスの4つの視点を表8のように考える。

表8 読解のプロセスの4つの視点

情報の取り出し:テキストの中から求められた情報を正確に取り出すこと。

テキストの解釈:テキストの中にある情報を根拠として,その情報がもつ意味について

テキスト全体から構造的に理解したり推論したりして,テキストを解

釈すること。

熟考・評価 :テキストの中にある情報を解釈したことに基づいて,これまでの知識

や体験,考えなどのテキスト以外の情報に照らし合わせながら自分で

思考すること。

また,テキストを吟味したり,クリティカル・リーディングを行うこ

とにより,テキストの内容や形式について自分で考えること。

表現 : 情報の取り出し 「テキストの解釈 「熟考・評価」したことを表現「 」 」

する (書く・話す・あらわす等。特に,論述することも表現するこ。

との中に含めて考えることとする )。

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4 研究計画

研究計画については,表9のとおりである。

表9 研究計画

Ⅴ 研究のまとめと今後の課題

, 「 」 。 ,グループ研究として 型 読解力 の育成についての研究に着手した 1年目の研究としてPISA

日常の授業の中で 型「読解力」を育成する方法について検討した。そして,小学校・中学校・PISA

高等学校のそれぞれの校種において,9つの授業実践を行った。

小学校の算数科では,指導方法の工夫として学習過程に論理的な思考活動の場面を位置付けた授業

実践が行なわれた また 中学校の音楽科では 表現領域と鑑賞領域との関連を重視し 型 読。 , , , 「PISA

解力」の育成を目指した。テキストから音楽的な諸要素を取り出させ,音楽の諸要素の役割を理解さ

せ,表現方法を工夫して考えさせ,より深い表現をさせるというプロセスを重視した授業実践が行わ

れた。技術・家庭科(家庭科)では,資料を基に深く思考したり,自分の考えを記述したりする活動

を学習過程の中に取り入れることにより, 型「読解力」を育成し,それが教科のねらいの一層PISA

の実現につながるような授業実践が行なわれた。保健体育科(保健分野)では,色々な情報を効果的

に活用し,思考・判断・表現させるような授業過程を通して, 型「読解力」の育成を目指したPISA

。 , , , 「 」授業実践が行なわれた また 高等学校の国語科では 古文の読解指導において 型 読解力PISA

の育成と古文の読みを深める学習指導を目指した授業実践が行なわれた。理科では,実験・観察の授

業において,学習過程や学習プリント等を工夫することを通して, 型「読解力」の育成を目指PISA

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した授業実践が行なわれた。家庭科では, 型「読解力」に視点をおき,中高の連接に配慮しなPISA

がら学習指導と評価の充実を目指した授業実践が行なわれた。建築科では,学習過程の工夫や導入の

, 「 」 。工夫等を通して ねらいの達成とともに 型 読解力 の育成を目指した授業実践が行なわれたPISA

高等学校道徳教育では,道徳の授業を通して 型「読解力」と道徳性の育成を目指した授業実践PISA

が行なわれた。

これらのグループ研究を通して, 型「読解力」の育成に向けて次のような成果や課題をあげPISA

ることができる。

本研究では 日常の授業において 型 読解力 を育成することを目指した結果 型 読, , 「 」 , 「PISA PISA

解力」の育成につながるような授業実践が行えたのではないかと思われる。授業実践を行った授業者

の感想や児童生徒の様子からは, 型「読解力」の育成につながるような授業実践であったと考PISA

えられる。 型「読解力」の育成に向けては,学習内容の工夫や学習過程の工夫が効果的であるPISA

ことが確認できた。

教師が 型「読解力」を意識せずに行っている日常の学習指導の中にも, 型「読解力」のPISA PISA

PISA育成につながるような素晴らしい実践は当然あると思われる。しかし,そのような場合には,

型「読解力」の育成に向けて,教師が意図的に行っているわけではないために,継続した指導や発展

した指導になることはあまり期待できない。今回は,学習内容の工夫や学習過程の工夫を通して,日

, 「 」 ,常の学習指導の中で 型 読解力 の育成につながるような具体的な指導方法について検討しPISA

授業実践を行った。まだまだ,実践例も少ないために,明確に結論をだすことはできないが,日常の

学習指導を行う中で, 型「読解力」の育成につながるようなものであったと考えられる。PISA

また,今後の研究としては,学習内容や学習過程をさらに工夫していくことに加えて,特に教師発

問の工夫があげられる。児童生徒にどのような発問をすることが, 型「読解力」の育成に向けPISA

て効果的なのかを検討していく必要がある。また,検証方法についても十分に検討し, 型「読PISA

解力」がどの程度高まったのかを明らかにしていく必要がある。

, 「 」 , 「 」これからも 型 読解力 の育成を目指したより多くの授業実践が行われ 型 読解力PISA PISA

の育成につながるような効果的な指導方法が明確にされて,広く学校教育現場で実践されることを願

っている。

No.808 No809 No810〈参考文献〉 ・初等教育資料 , ,

・読解力向上プログラム (文部科学省教育課程課/幼児教育課編集)

文部科学省 平成 年 月 ・読解力向上をめざした授業づくり( )17 12( )・読解力向上に関する指導資料 井上一郎 東洋館出版社 2006

文部科学省 平成 年 月 ・評価の枠組み( )17 12・ 生徒の学習到達度調査( )年 (国立教育政策研究所 ぎょうせい )「OECD PISA2003 2007

調査国際結果報告書 ぎょうせい ・平成 年度山梨県総合教育センター研究紀要」( )2004 18・ 国際的な読解力」を育てるための「相互交流 等「

コミュニケーション」の授業改革

( )有元秀文 渓水社

・ 読解力」向上のためのガイドブック 平成19年度 山梨県総合教育センター「

( )神奈川県総合教育センター 平成 年3月19・ 読解力」とは何か 執 筆 者 研修主事 内田 淳「

(横浜国立大学教育人間学科学部附属横浜中学校

三省堂 )2006


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