Transcript
  • はじめに

    近年、温室効果ガス削減に向けた国際的な取り組みの中で、輸送機器についてはその軽量化が効果的かつ基本的な手法の1つとして一般に認識されている。特に自動車においてはCASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric) やMaaS(Mobility as a Service)といった言葉に代表されるような今後の新たな使用方法に即し、その設計や生産方法も検討がされており、種々の異種材料の接合に適用できる接着接合技術が注目されている。ここでは上記観点を念頭に、第2世代アクリル系接着剤について、接着剤メーカーとしてその特性面から解説する。

    第2世代アクリル系接着剤(SGA)とは

    第2世代アクリル系接着剤は、Second Generation

    Acrylic Adhesiveの頭文字を取ってSGAと称される。2液主剤型で室温速硬化の変性アクリレート系構造用接着剤である。主成分はアクリル系モノマーとエラストマーからなり、その硬化物は図 1 のようにソフトセグメントであるエラストマーを海、ハードセグメントであるアクリルを島とした、いわゆる海島構造のモルフォロジーをとることから、強度(剛性)と耐衝撃性(靭性)が発現する。接着剤メーカーは、多種多様なアクリルとエラストマー、加えて添加剤を原料選定するが、さらにその配合比なども考慮すると、組み合わせが事実上無限にあり、接着剤特性としての設計範囲が極めて広いのがSGAの特徴である。

    SGAのもう1つの特徴として使い勝手に優れるという点がある。SGAは2液タイプの接着剤であり、A剤とB剤を混合することで硬化するが、主成分はA剤とB剤で基本的に変わらないことから、ラフな混合比率にも対応でき、またA剤とB剤の粘度がほぼ変わらないためにミキサーでの混合バラつきも一般に起こしづらい。SGAには油面接着性があることも加えると、これらは作業現場でのバラツキ要因低減に寄与する特徴といえる。なお余談だが、SGAに限らず接着時の問題は実は適切な使用がなされていないことが原因である場合がかなり多く、その点からも使い勝手は非常に重要なファクターであると考えている。

    白:アクリル(ハードセグメント)

    黒:エラストマー(ソフトセグメント)

    1 μm

    デンカハードロックC-355-20の透過型電子顕微鏡像

    図 1  第2世代アクリル系接着剤(SGA)硬化物のモルフォロジー例

    特集 マルチマテリアル時代における異材接合のための接着技術

    デンカ㈱ 浅Asanuma沼 正

    Masami実

    電子・先端プロダクツ部門事業推進部〒103-8338 東京都中央区室町2-1-1☎03-5290-5540

    ••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••

    第二世代アクリル系接着剤(SGA)における異種材構造接着への適用性

    解 説

    48

  • SGAにおける異種材接合での適用性

    SGAにおける異種材接合での適用性は、主に接着剤設計範囲の広さ、および室温硬化性にある。1 . 接着剤設計範囲の広さ

    異種材接合には各被着体の線膨張差に起因する熱歪みの課題があり、接着剤にはこれに追従する伸び特性が要求される。SGAでの伸び特性は他の特性バランスも考慮した上で主にエラストマー成分の設計を中心に組み立てるが、当然ながらそのエラストマー成分にあったアクリル系モノマーなどを設計に反映させていくことが必要である。アクリル系モノマーはその種類が実に多種多様にあり、これがSGAの設計範囲の広さの一因を担

    っているともいえる。図 2 はせん断接着強度と接着剤自体の伸びと

    の関係を、当社開発品を例としてプロットしたものである。通常この2つの特性はトレードオフの関係である場合が多くいわゆるバナナカーブを示すが、配合設計によってはそのカーブを逸脱した特性も可能であることを示している。また耐熱性の目安であるガラス転移温度(Tg)を高めに設定していることや、表面処理なしのデータであることもポイントである。たとえばフタものの意匠面を裏面から補強接着するような場合や、各辺が拘束され歪みの逃げる構造が取りにくいような箇所に有効と考える。

    図 1 で例示したように、SGAはある意味元々

    SGA開発品2(伸び/高強度)Tg:150℃

    SGA開発品1(高耐熱/高強度)

    Tg:190℃

    SGA上市品(高耐熱)Tg:158℃

    一般エポキシ系接着剤

    SGA開発品3(高伸び/高強度)

    Tg:140℃

    一般ウレタン系接着剤

    一般アクリル系接着剤

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    伸び / %

    引張せん断接着強さ

    / M

    Pa

    2500 50 100 150 200

    せん接着強度試験はJIS K6850に準拠 接着剤厚さ:0.1 mmt 測定温度:23℃試験片: PA6-CFRTP 〔100 x25 x2mm, CF30 wt%短繊維, 表面処理なし(ウエス拭き)〕 アルミ合金 〔100 x 25 x2mm, A5052-H34, 表面処理なし (ウエス拭き)〕

    図 2 ナイロンCFRTPとアルミ合金の異種材接着における引張せん断接着強度とバルク伸びの関係測定例

    長さ

    1mでの変形量

    /mm

    長さ

    1mでの変形量

    /mm

    ■室温硬化型(20℃硬化) ■加熱硬化型(170℃硬化)

    -2.0-1.00.01.02.03.04.05.0

    -40 80-50 0 50 100 150 200

    -6.0-5.0-4.0-3.0-2.0-1.00.01.0

    -50 0 50 100 150 200-40 80

    温度/℃ 温度/℃

    使用温度範囲 使用温度範囲

    硬化硬化

    ナイロンCFRTP(連続繊維)

    SPCC鋼A5052アルミニウム合金

    各材料の線膨張係数のみを考慮して傾きをプロット。なお線膨張係数(ppm/K)は、SPCC(11.7), A5052(23.8), CFRTP(1.0)とした。

    図 3 室温硬化型と加熱硬化型における使用温度での熱歪の違い(モデル図)

    492020年6月号(Vol.68 No.6)

  • がハイブリッド接着剤のようなものであり、その点から接着剤メーカーにも幅広い設計手法が蓄積されやすい側面もあるように思う。2 . 室温硬化性

    次に異種材接合におけるもう1つの適用性である室温硬化性について述べる。図 3 は鋼材、アルミニウム合金および連続繊維CFRTPにおける、温度による伸縮変形量をモデル的に図示したものである。ここでは各線膨張係数のみからの計算値をプロットしている。また縦軸の伸縮変形量は長尺ものをイメージしやすいように、初期長さが1mの場合の変形量mmで示している。なおここでは接着接合体の実際の使用環境温度をモビリティを念頭に仮に−40〜80℃とした。加熱硬化型接着剤の場合、たとえば硬化が170℃とすると実際の使用温度範囲である−40〜80℃では大きな歪みが残留するが、SGAのような室温硬化型接着剤の場合は比較的残留歪みが小さいことが期待される。

    ただし図 3 は単純に線膨張係数のみを念頭においており、実際は温度による弾性率の変化、反応による発熱、硬化収縮、粘弾性に起因する歪緩和など種々の特性が複雑に絡み合うはずである。そこで実際にアルミニウム合金と連続繊維CFRTPの接着において、室温硬化型の接着剤である当社

    SGAと、加熱硬化型の一般的なエポキシ系接着剤で貼り合わせたものの比較を実施してみた。その結果を図 4 に示す。室温硬化型のSGAは23℃を起点としているので−40℃と80℃ではそりの方向が逆になるがその量としては小さい。一方加熱硬化型は80℃よりもかなり高い温度から接着剤の硬化が進むので、80℃、−40℃と温度が低くなる程そり量が大きくなるのがわかり、おおむね図 3 の傾向と一致した。

    なお最近はエポキシ系接着剤もハイブリッド化などのさまざまな手法で改良開発が各社でなされており、従来のものとは大きくその特性が変わってきているので、実際に使用検討する接着剤で確認する必要がある旨も付記しておく。

    室温硬化性における環境貢献

    異種材接合での適用性とは異なるが、室温硬化性という特性は、加熱炉不要により製造時のCO2排出量削減にも貢献できる可能性がある。表 1にモビリティ 1台あたりの試算例を示した。仮に加熱に50kW×0.5hr.=25kWhの電力量を使用しているとすると、CO2排出係数を0.37kg-CO2/kWhと仮定すれば、単純計算では1台あたり9kg以上のCO2排出量削減が期待される。

    車体製造では、接着剤を硬化させる以外の目的もあわせて加熱工程を設けているのが一般的なので簡単ではないと推察するが、マルチマテリアルの検討余地が大きいMaaSなどの新たな形態のモビリティを、製造方法から検討する場合には特に室温硬化性は環境面からも有用な可能性があると考えている。

    室温硬化型(ハードロックSGA)

    -40℃

    23℃

    80℃

    加熱硬化型(一般的なエポキシ系)*1

    *1 n3のうち1本で剥がれ発生

    試験片: PA66-CFRTP TEPEX dynalite 201-C200(2)(200 x20 x0.5mm)アルミ合金 A5052-H34 (200 x 20 x0.5mm )

    接着剤厚さ:1 mm

    アルミ合金(上側)

    ナイロンCFRP(下側)接着剤

    図 4 室温硬化型と加熱硬化型における熱歪の違い(バイメタルそり試験)

    表 1 加熱炉削減による生産時のCO2排出削減量試算(例えばモビリティ 1台あたり)

    電力kW

    時間h

    電力量kWh

    CO2排出係数kg-CO2/kWh

    CO2排出量kg-CO2

    10 0.5 5 0.37 1.8550 0.5 25 0.37 9.25100 0.5 50 0.37 18.50

    50


Top Related