InSARの干渉条件Conditions for SAR Interferometry
○飛田幹男(国土地理院 地理地殻活動研究センター)
島田政信(宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)
藤原みどり・雨貝知美・和田弘人・藤原智・松坂茂(国土地理院)
○Mikio Tobita (Geographical Survey Institute, Japan), Masanobu Shimada (Japan Aerospace Exploration Agency)
M. Fujiwara, T. Amagai, K. Wada, S. Fujiwara, S. Matsuzaka (GSI)E-mail: [email protected]
東京大学地震研究所研究集会「新世代の干渉SAR」@東京大学地震研究所 2006(平成18)年10月5日,6日
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
謝辞JAXA,METIの高い技術力を誇りに思います。
ALOSの開発・運用に関わってこられた方々に敬
意を表します。
だいち(ALOS)のデータは,国土地理院とJAXA
の「陸域観測技術衛星データによる地理情報の把握等に関する共同研究」に基づき,ALOSデー
タの校正・検証及び地上システムの調整・検証のため,JAXAが国土地理院に提供したものです。提供データの著作権はMETI, JAXAにあります。
干渉SARの干渉条件
γ = γthermal · γtemporal · γspatial
γthermal :システム固有の成分
γtemporal:テンポラルベースラインによる成分
γspatial :基線による成分(spatial baseline decorrelation, geometrical decorrelation, phase slope)
decorrelation
correlation:干渉性の尺度
∑∑
∑=
NN
N
ss
ss
22
21
*21
γ
s1, s2: データ1,2のシグナルN: ウインドウ内のピクセル数
注意:Correlation Map は,軌道縞を除去してから計算・作成。
S/N比 JERS-1 と PALSAR
JERS-1 RAWデータ
のレンジスペクトラム
65
70
75
80
85
90
95
周波数
信号
強度
dB
東京
PALSAR RAWデータ
のレンジスペクトラム
7dB
13dB
システム固有のコヒーレンス
γ = γthermal · γtemporal · γspatial
1γ themal +
=SNR
SNR
γthermal ~ 0.83 (JERS-1)~ 0.95 (PALSAR)
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
ひとつの計算評価方法
S/N比のオフナディア角・場所依存性,人工ノイズ
ムラピ34.3゜ 12dB
13dB
12dB11dB
関東41.5゜
房総34.3゜
三浦半島34.3゜
スパイクノイズ
65
70
75
80
85
90
95
65
70
75
80
85
90
95
周波数
東京
スパイクノイズ(人工ノイズ)
周波数
東京
スパイクノイズ除去後
JERS-1PALSAR
スパイクノイズ除去後
Temporal Decorrelation従来:SEASATやERS-1の研究を元に
Temporal Decorrelation>Baseline Decorrelation
LバンドのTemporal Decorrelationにつて:Zebker et al. (1992) : 40日で半分の相関(干渉度)としていた
しかし,阪神大震災の干渉図では2年5ヶ月でも干渉できた。
Tobita(1996):JERS-1では,1.2~1.8年で半分の相関。
Nakagawa(2001):より厳密な研究で,都市部で1.9~3.6年,山地で150日で半分の相関。
データの賞味期間が長いことがわかった。 1992年9月ー1995年2月
データが少なすぎた
Baseline Decorrelation
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 1000011000
基線垂直成分 B⊥ (m)
相関
係数
(Cor
rela
tion)
JERS-1
B⊥
Critical Baselinetan
2c
res
iBR
λρ⊥ =
ρi
(Tobita, 1996)
干渉
画像
のコ
ヒー
レン
ス 臨界基線長は長いほど良い
Baseline Decorrelationtan
2c
res
iBR
λρ⊥ =
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0 2000 4000 6000 8000 10000
基線長垂直鉛直成分 B⊥ (m)
相関
係数
(Cor
rela
tion)
ERS-1
JERS-1
ALOS
B⊥
Critical Baseline
ρi
(Tobita, 1996)
12000 14000
FBS 34.3゜
Critical Baseline(1) Zebker & Villasenor (1992)
22 cosBc
Ry iλρ
=
(2) Zebker et al. (1994)
2 cosB c
Ry iλρ
⊥ =
tan2 res
iB cR
λρ⊥ =
(3) Zebker et al. (1992)
1.θ と i を区別していない2.基線は水平(B ≡ Bh, α=0)と仮定
cos( ) cos cosB B B B iα θ θ⊥≡ − = =なので式(2)と等しくなる。
お薦めしません
Ry : Ground range resolutionsinresR Ry i=
いくつかの式があるがどれが本当?
i
RyRres
なので式(3)と等しくなる。
i : Incidence angleRres : Range resolution (m)
お薦め!お薦め!
BでなくB⊥で議論入射角iを使う(15%)
RyとRresを混同しない
(64%)
Critical Baselineの導出
途中略
Zebker and Villasenor (1992), Gatelli et al. (1994), Hanssen (2001)より簡明
i : Incidence angleRres =c/(2BR): Range resolution (m)
)cycle(sin2)rad(sin4 θλ
θλπφ yy −=−=
1秒あたりのフリンジレートは,
θλρφ
tan2 ⊥
−=∂∂
≡≡cB
tFRdf
この後方散乱波周波数スペクトルのシフト周波数がレーダーバンド幅BRと等しくなるともはや干渉しない。よって,このときの垂直基線成分をB⊥cと表すと,
RrescBcB R
2tantan θλρθλρ
==⊥
地上y(m)あたりの干渉位相差は, 1A
2A
1P 2P
inc1θ
inc2θ
⊥B
inc1inc2d θθθ −=
inc1y θsin inc2y θsin
ρθd
P Q
)0(<
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
Far側(衛星と反対側)斜面の
コヒーレンス(干渉性)が高いのはなぜか?
例:例:Mt.Mt. SendaraSendara, Java, Java
ALOS
Central JavaRoughly flattened, geocodedPALSAR Interferogram
3000m
2000m
Topo of Mt. Sendara
PALSAR FBS HHApr 29, 2006 – Jun 14, 2006Offnadir: 34.3ºIncidence θ : 38.7ºB⊥= -1,629mHeight/cycle=35m(標高2,900mで地形縞83本)
# of orbital fringe: 880本
地形がある場合
θ を θ − ζ に置き換えればよいので,
臨界基線の式,
RrescBcB R
2tantan θλρθλρ
==⊥
RrescBcB R
2)tan()tan( ζθλρζθλρ −
=−
=⊥
θ :入射角ζ :傾斜角
ζ >0
θ
ζ <0
θ
衛星側(Near側)斜面の場合B⊥c 小 → Low coherence
衛星と反対側(Far側)斜面の場合B⊥c 大 → High coherence
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
Far側斜面の
コヒーレンスは高い
地形考慮の臨界基線 RrescB
2)tan( ζθλρ −
=⊥例:例:Mt.Mt. SendaraSendara, Java, Java
初期干渉画像
Flattened, Geocoded
Far Flat NearSlope ζ -30º 0º +30º
Fringe rate LowerLower - HigherHigherB⊥c (m) 24,00024,000 15,000 1,4001,400
Coherence HighHigh High NoNo
Topo of Mt. Sendara
Slope of Mt. Sendara
+30゜
-30゜
θ =38.7º
B⊥= -1,629m
ALOS
ALOS
)tan(2
ζθλρφ
−−=
∂∂
≡⊥cB
tFR
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
地形考慮のフリンジレート
Far側斜面はいつでもフリンジレートが低い
B⊥の符号によって,軌道縞と地形縞の符号が同時に変わるので,Far側斜面はいつでもフリンジレートが低い。
ALOS
利島初期干渉画像
ALOS
Mt. Sendara, Java
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
地殻変動の勾配(gradient)の臨界値(Critical Gradient of Displacement)
新しい導出 Tobita, 2006
の勾配をもっているとき,後方散乱波の周波数スペクトルのシフト量は,
これが,レーダーバンド幅BR (=c/(2Rres))と等しくなると干渉しない。よって,
)Hzcycle/s(2
=∂∂
=∂∂
≡≡ρφφ c
tFRdf
)cycle/m(12
2RresRres
ccc
==⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛∂∂ρφ
これは,「レンジ分解能距離あたり1サイクルの位相回転を超えると干渉しなくなる」という「地殻変動の勾配の臨界値」を意味する。
地殻変動Δρ がレンジ方向に,
)m/m(2 ρ
φλρρ
∂∂
=∂Δ∂
)m/m(12 Rresc
λρρ
=⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛∂Δ∂
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
地殻変動の勾配(gradient)の臨界値
なぜ,変動の大きい上盤側のほとんどが干渉しないのか?
(InSARでない)SAR画像のマッチング
で求めた三次元地殻変動場
地殻変動の勾配(gradient)の臨界値(Critical Gradient of Displacement)
一般に,震源の浅い地震に伴う地殻変動は大きな地殻変動勾配を持つ。また,大きな地殻変動は大きな地殻変動勾配を持つ。これらは,被害の大きな地震である。PALSAR FBSは,これら被害の大きな地震に伴う地殻変動のほぼ全体をとらえることができる。FBDでは,この利点が半減してしまうため,観測計画には工夫が必要である。
この議論には,基線長は関係ない。基線長が短くても関係ない。
)m/m(12 Rresc
λρρ
=⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛∂Δ∂
ERS-1 Envisat Radarsat JERS-1ALOSFBD
ALOSFBS
地殻変動勾配臨界値(mm/m)
2.9 3.0 5.7 11.7 11.0 22.1
新しい式 Tobita, 2006
引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
オフナディア角による干渉条件
後方散乱強度の点ではオフナディア角は小さい方がよい。
位相傾斜(臨界基線長)の点ではオフナディア角は大きい方がよい。
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 5000 10000 15000 20000
41.5º
34.3º21.5º
垂直基線成分(m)
相関
係数
入射角が小さい方が後方散乱強度が強く,S/N比が大きい。
同一の垂直基線長では,臨界基線長が長い方が,コヒーレンスが高い。
干渉条件のまとめB⊥が大きくなり地表を見る角度差が大きくなると,フリンジ
レートが大きくなり,これが,レーダーバンド幅と等しくなると,後方散乱波の周波数スペクトルが重ならなくなり,干渉がなくなる。
臨界基線B⊥cは、「軌道縞間隔がレンジ解像度長と等しい」と
いう条件と等価。
Far側斜面はコヒーレンスが高い。Near側20゜以上の傾斜地は×。
地殻変動の勾配臨界値は,PALSAR FBSはERSの7倍。
FBS(28MHz)はFBD(14MHz)と比べて,レーダーバンド幅2倍, レンジ解像度が1/2,B⊥cが2倍で有利。
地殻変動観測でも2倍有利。
オフナディア角が小さい程後方散乱が大きい一方,オフナディア角が大きい程臨界基線は大きい。
JERS-1の干渉確率20%の法則→ALOSでは80%以上?引用: 飛田他,InSARの干渉条件,東大震研研究集会,2006
PALSARの干渉処理
○軌道情報精度が格段に良くなったことで,対象画像の選択,干渉ペア画像間の画素位置合わせ,シミュレーション干渉画像との位置合わせ,軌道縞・地形縞の除去が,容易に・自動的に・迅速にできるようになった。
×干渉ペアの画像間でPRF(パルス繰返し周波数)が異なる場合
のリサンプリング処理に新たに時間を費やすとともに,巨大なファイルサイズが原因で予想以上に処理時間を要する。
都市部 森林 急傾斜地
ムラピ20060429-20060614
D 34.3 -1,629 2,517 16本 ◎ ○ ×
伊豆東部大島20060501-20060616
A 41.5 1,081 1,969 4本 ◎ ○ △
房総半島20060808-20060923
A 34.3 +573 615 2本 ◎ ○ △
コヒーレンスB⊥
(m)B
(m)残軌道縞本数
場所 取得日AD
オフナディア角
位置精度の向上
1.マスター,スレーブ画像の位置が近くなった。
2.Simulation画像がマスター画像とピタリと合うようになった。
鵜渡根島SLC画像(赤がマスター)
レンジオフセット:-352pixアジマスオフセット:26pix
伊豆大島4x8ルック画像
(赤がマスター,水色がSimulation)
レンジオフセット:0pixアジマスオフセット:0pix
残軌道縞・地形縞「ALOS高精度軌道情報」を使って,軌道縞と地形縞を除去した画像に残っている軌道縞。本数は1シーン内の数。
16本(2シーン連結)
4本(2シーン連結)
2本(3シーン連結)
残軌道縞の原因は,軌道情報精度だけによらず,処理法の近似やドップラの推定誤差など,色々な要素があり得る。これら要素の研究も課題である。
ALOSでの干渉処理1
基線値誤差1mのときの残軌道縞
D:¥tobi¥講演会¥2001Lバンド干渉SARの重要性¥images¥Bperp100m.gif, Bperp100mBpara1matbottom.gif, Bperp1m.gif
JERS-1での残軌道縞ΔB⊥ = 100mΔB//(bottom) = 1m
JERS-1での残軌道縞ΔB⊥ = 100mΔB//(bottom) = 0m
ALOSでの残軌道縞ΔB⊥ = 1m
残位相:約残位相:約0.540.54サイクルサイクル
リーダファイルの軌道情報を使った軌道縞の除去。フルシーン。
ΔB⊥
残位相:横残位相:横6666サイクルサイクル縦縦8.58.5サイクルサイクル
残位相:残位相:6666サイクルサイクル
ΔB⊥、ΔB//によらない(比例したりしな
い)SKK #3 pp27-27
2 (rad) B dφ θλ
⊥ΔΔ = − サイクル
RangeA
zimuth
ALOSでの干渉処理4
基線値変化誤差1mのときの残軌道縞
一定でないΔB//
D:¥tobi¥講演会¥2001Lバンド干渉SARの重要性¥images¥Bpara1matbottom.gif
ΔB//(Top) = 0mΔB//(Bot) = 1m
残位相:残位相:8.58.5サイクルサイクル
リーダファイルの軌道情報を使った軌道縞の除去。フルシーン。
誤差最大の場合
ΔB⊥、ΔB//によらない(比例したりしな
い)SKK #3 pp27-27
// Bottom // Top2 ( ) B Bφλ
Δ = − Δ − Δ サイクル
ALOSでの干渉処理5
基線値誤差1mのときの残地形縞
D:¥tobi¥講演会¥2001Lバンド干渉SARの重要性¥images¥TopoPhase.100mdBperp.gif, TopoPhase.1mdBperp.gif
JERS-1での残地形縞ΔB⊥ = 100m
ALOSでの残地形縞ΔB⊥ = 1m
残位相:約残位相:約0.0240.024サイクルサイクル
リーダファイルの軌道情報を使った地形縞の除去。フルシーン。
ΔB⊥
残位相:約残位相:約33サイクルサイクルΔB⊥、ΔB//によらない(比例したりしな
い)SKK #3 pp28
ΔB⊥に起因して残る地形縞の高度依存性
0
1
2
3
4
5
6
7
8
0 1000 2000 3000 4000
地形の楕円体高 (m)
残る
地形
縞(f
ringe
cyc
le)
100 (m)1 (m)
ΔB⊥
ALOS
JERS-1
0.06サイクル:変動7mm相当
標高500~1900mの磐梯山周辺
0
2sinB h
iφ
λρ⊥Δ
Δ = −
安達太良山残位相8.6度
まとめ
コヒーレンス,位置精度,軌道制御精度,軌道情報精度等,多くのすぐれた点を持つPALSARは,予想どおり,予想以上の性能を持っていることが確認されつつある。
注意点従来ではあきらめていた長い垂直基線でもコヒーレンスが得ら
れるようになって,従来無視できたDEMの誤差,ジオイド高や樹高が干渉結果に影響するケースがあるので,注意が必要である。