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D: 赤色巨星のスペクトル分類
D.1.可視スペクトルの概観
O5VTe=42000log g =4.5(AQ :2.5)
λ =0.1 μmでのライマン連続吸収によるフラックスのジャンプに注意。
B0VTe=30000Klog g = 4
バルマージャンプ
O5Vと B0V のスペクトル線を比較すると
O型で見えたHeIIのラインがB型では消え、代わりにHeIのラインが強くなる。サブタイプの分類には、O型では He II 4541/He I 4471 のライン強度比が用いられる。
HeIのラインはB2Vで最も強い。B型の分類にはHeIと他の元素、 Si II, Mg II などのライン強度が用いられる。B型からA型にかけてバルマー線強度が強くなっていく。
O5V
B0V
A0 VTe=10000Klog g= 4
バルマージャンプ
A 型星では He I のラインは見えない。バルマー線が強いのが特徴である。A3で最も強い。AからFに向かって金属線が強くなる。これらの特徴をA型の分類に使う。山下、成合、乗本はCaI4226/MgII4481などを基準に用いた。1977, An atlas of representative stellar spectra
A6-8 VTe=8000Klog g = 4
バルマージャンプ バルマーライン
パッシェンラインH
線K線
バルマー線は依然強いが、F型の特長はH線、K線が強いことである。
G0VTe=6000log g =3Zsolar
バルマー線は非常に弱くなり、金属線が強度、本数共に増す。分類にはバルマー線と金属線の強度比例えば、Fe I 4143/Hδ,Ca I 4226/Hδなどが使われる。
Na I の電子配列= (1s)2(2s)2(2p) 6 (3s)
第1励起状態 3p 電子 ――> L=1, S=1/2, J=1/2, 2P1/2
――> L=1, S=1/2, J=3/2, 2P3/2
基底状態 3s 電子 ――> L=0, S=1/2, J=1/2 2S1/2
D1 line 5889 A
2P 項 (term)
S=1/2, L=1
(3p) 2P3/ 2 準 位 (level)
S=1/2,L=1,J=3/2(3p) 2P1/ 2 準 位 (level)
S=1/2,L=1,J=1/2
2S 項 (term)
S=1/2, L=0
(3s) 2S1/2 準 位 (level) S=1/2,L=0,J=1/2
D2 line 5895 A
g=4 g=2
g=2
D line (multiplet)
Na D線
低温度星では外殻にs電子が一個だけの原子、イオンの基底状態からの吸収線(共鳴線)が特徴的である。
Ca II の電子配列 = (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4s)
励起状態
外殻に4p電子 (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4p) 2P
3d電子 (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (3d) 2D
基底状態
外殻に4 s 電子 (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4s) 2S
(4p) 2P3/2 (4p) 2P1/2
(4s) 2S1/2
(3d)
2D3/2
(3d)
2D5/2
8542 8498
8662
7291 7323
3933
K線
3968
H線
Ca II
CaII triplet
G5 IIITe=5000log g =1Zsolar
K5 IIITe=4000log g =1Zsolar
K 5型ではTiOバンドが現れてくる。長波長側にはCaIIトリプレットが強い吸収線を示す。
M2IIITe=3500log g =0Zsolar
M型星は強いTiOバンドが特徴である。
M2IIITe=3500log g =1
Z=(1/30)Zsolar
低メタル星との比較
Z=Zsolar
M2Te=3500Zsolar
log g = 3.5 矮星
log g = 1 巨星
矮星と巨星との比較
CaII Tripletの強度が、巨星で強く、矮星で弱いことに注意
Ca II Triplet を使ったメタル量決定: 過去20年間の進歩と問題点
W(CaT)=W(8542) +W(8662)矮星 卵:A型、 ◇:F型、 △:G型、 ○ :K型、□:M型巨星 ▲ :G型、●:K型、■:M型
右図の直線からの残差はメタルと相関することも注意された。
Jones,J.T., Alloin,D.M.,Jones,B.J.T. 1984 ApJ 283, 457-465CaII triplet が巨星と矮星を区別するのに使える。
Armandroff,T.E., DaCosta,G.S. 1991, AJ 101, 1329-1337
球状星団のメタル量と CaII Triplet との関係
星団毎には、光度が上がると W ( CaT) が増加している。
これは前に述べた重力効果。
しかし、ラインが上下に分かれるのはメタル効果。
W8542+W8662+0.619(V-V(HB ))
は V-V(HB) =0での W(CaT)である。
こうして、 W(CaT) をメタル量とつなげるキャリブレーションができた。
しかし、古い種族のみ適用可。
Pont,F., Zinn,R., Gallart,C.,Hardy,E., Winnick,R. 2004 AJ 127, 840-860
Fornax 矮小楕円銀河のメタル量分布
MI ー( V-I) 色等級図
○ Fornax 赤色巨星
× M11 ( 0.25 Gyr, [Fe/H]=0.10 )
星団 [Fe/H]
47 Tuc - 0.71
NGC1851 ー 1.29
M15 ー 2.17
■ 球状星団
☆ LMC 平均
点線=若い種族のキャリブレーション。
左のキャリブレーションから決めた Fornax 赤色巨星の年齢ーメタル関係
点線は SFR= 一定でのモデル
明るくて高メタルの星に対する W(CaT) と [Fe/H] の関係。
n・ μ A+m・ μ B=k・ μ C
D.2.赤色巨星大気の化学組成
D.2.1.分子平衡A,B,Cという物質のあいだに下のような化学反応があるとする。
n・A+m・B=k・C
この反応が化学平衡の状態にある時には、下の関係が成立する。
ここに、 μ A、 μ B、 μ C、はA,B,Cの化学ポテンシャルである。
もう少し一般的に物質A1,A2、...の間に以下の反応が成り立つ時、
a1A1+a 2 A 2 +...=0
化学平衡の状態では次の式が成立する。
a1 μ 1+a 2μ2 +...=0
恒星大気の温度が低下してくると、まず電離エネルギーの高い原子、例えばヘリウムなどが中性化する。O型星で見られるHeIIのラインがB型ではHeIのみになるのはこのためである。温度がさらに低下すると、原子から分子への移行が始まる。K型からM型の恒星スペクトルは分子の吸収線が大変強い。
以下では分子平衡が恒星スペクトルに及ぼす影響を調べる。
Zn
nkT
Q
ln 理想気体の化学ポテンシャル μは、
ここに、n=N/V= 数密度(個 /cm3)、
nQ=( 2πmkT/h2)3 / 2=量子密度(個 /cm3)、
Z= Σexp ( - E/kT)=内部状態分配関数 0 jja に上の μ jの式を代入すると、
jinjQjjj
jinjQjjjinjQ
jjjj
Znana
ZnnakTZn
nkTaa
lnln
0lnlnln ,,
,,
(jはj-番目の種類の粒子の意味。)
jj
jj
jj
a
jinjQaj
a
jinjQa
jinjQjinjQj
aj
ajjj
Znn
ZnZnZna
nnna
lnln
ln
ln
lnln
lnln
TKZnn jjj a
jina
jQaj (質量作用の法則) K=平衡定数
分子雲や晩期型星大気では分子の形成を考慮する必要がある。
A + B ⇔ C という分子形成を考えよう。 注意すべきは、この反応式は実際には起きていなくても構わない。
平衡を考える際には A, B, C の持つエネルギーの高さだけが問題となる。
化学平衡での A, B, C の数密度 n A, n B, n C は質量作用の法則で決まる。
C in,
B in,A in,
3
23
C
3
23
B3
23
A
C in,
B in,A in,
C Q,
B Q,A Q,
C
BA
2
22
Z
ZZ
hkTm
hkTm
hkTm
Z
ZZ
n
nn
n
nn
数密度 n から圧力 P =nk T の表示に変えると、
)(2
2
PC in,
B in,A in,252
3
2
C in,
B in,A in,
C2
BA
C
BA
C
BA 23
TKZ
ZZkT
h
M
Z
ZZ
mh
kTmmkT
kTn
kTnkTn
P
PP
KH2 (T) 、、、、KCH4(T) が分かれば、与えられた、P H O、P C O、
P O O に対して
PH、PO、PC、PH2 、PO2 、PC2 、POH、PCO、PCH、PH2O、PCH4の11個を結ぶ11個の
化学平衡式を立てることができる。
H,C,Oが全て原子であったと仮定した時の仮想圧力を、
PH0=1000,PC0=0.5, PO0=1 ( erg /cm3 ) とする。
つまり、水素:炭素:酸素の組成比をH:C:O=1000:0.5:1 とする。
組成を数密度でなく分圧で表わすのは計算に便利であるからである。
温度が下がるとH,C,Oの間の反応により様々な分子が形成されるが、ここでは考慮する分子種を、 H, O, C, H2,O2,C2, OH, CH, CO, H2O, CH 4の 11
種に限定して、与えられたPH0、PC0、PO0 と T に対し、 PH、PC、PO、PH2、……PH2O、P CH4 を決める方法を考える。
この計算に必要なのは反応の平衡定数K(T)である。
D.2.2.G-K-M型星の大気組成恒星大気中では何百という分子が化学反応式で結ばれている。
ここでは最も基本的なH,C,Oの間の反応式が大気温度が低下するに連れて、どのような分子を生み出すかを調べてみよう。
解くべき方程式は、未知数の数と同じ11個あり、それらは以下の通りである。 (1) PH2=PH2 / KH2
(2) PO2=PO2 / KO2
(3) PC2=PC2 / KC2
(4) POH=POPH / KOH
(5) PCH=PCPH / KCH
(6) PCO=PCPO / KCO
(7) PH2O=POHPH / KH2O
(8) PCH4=PCHPH3 / K CH 4
(9) POH=PH+2PH2 +POH+PCH+2PH2
+4PcH4
(10) POO=PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O
(11) POC=PC+2PC2 +PCH+PCO+PCH4
11変数の非線形連立方程式なので、逐次近似による解法が必要となる。
下に解法の1例を紹介する。
A: (1)-(8)式を使うと、PH、PO、PC から残りの分子分圧PH2、PO2、、、PH4
が決まる。独立変数としては他の組み合わせも可である。B: (9)-(11)の右辺からH,O,Cに対する仮想圧力PH,PO,PCを計算する。
PH(PH ,PO ,PC) = (PH+2PH2 +POH+PCH+2PH2+4PcH4 )
PO(PH ,PO ,PC) = (PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O)
PC(PH ,PO ,PC) =POCー(PC+2PC2 +PCH+PCO+PC
H4)
C: Y1(PH ,PO ,PC) =POHーPH(PH , PO , Pc )
Y2(PH ,PO ,PC) =POOーPO(PH , PO , )
Y3(PH ,PO ,PC) =POCーPC(PH , PO , PC) が全てゼロになれば終了。D: 普通はゼロでないので、Y1,Y2,Y30になるようPH ,PO ,PCを少し動かす。
こうして決めた新しいPH ,PO ,PCで A: へ戻る。
この解法では、D: の「PH ,PO ,PCを少し動かす」部分がポイントである。
以下にPH ,PO ,PCの増分をどう求めるかの方法を説明する。
説明の都合上、X1=PH , X2=PO , X3=PC とおく。すると、
Y1(X1+ ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ ΔX1)
=Y1(X1,X2,X3)+(∂ Y 1 /∂X 1) ・ ΔX1 +(∂ Y 1 /∂X 2) ・ ΔX2 +(∂ Y 1 /∂X 3) ・ ΔX3
Y2(X1+ ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ ΔX1)
=Y2(X1,X2,X3)+(∂ Y 2 /∂X 1) ・ ΔX1 +(∂ Y 2 /∂X 2) ・ ΔX2 +(∂ Y 2 /∂X 3) ・ ΔX3
Y3(X1+ ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ ΔX1)
=Y3(X1,X2,X3)+(∂ Y 3 /∂X 1) ・ ΔX1 +(∂ Y 3 /∂X 2) ・ ΔX2 +(∂ Y 3 /∂X 3) ・ ΔX3
と1次の展開式が書ける。
Y1(X1+ ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ ΔX1)=0
Y2(X1+ ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ ΔX1)=0
Y3(X1+ ΔX1,X2+ ΔX2, X3+ ΔX1)=0
は ΔX1, ΔX2, ΔX3に対する1次の連立方程式なのですぐに解ける。
次の問題は、 (∂ Y 1 /∂X 1)、 (∂ Y 1 /∂X 2)、... (∂ Y 3 /∂X 3)をどう計算する
かである。
(1)-(8)式を使えば、 ∂ Yi/∂Xj (I,j=1,2,3) を直接書き下すこともできるし、
適当に小さな ΔXに対し、
[Y1(X1+ ΔX1 ,X2 ,X3)ーY1(X1 ,X2 ,X3) ]/ΔX1= (∂ Y 1 /∂X 1)等を数値的に
計算してもよい。
こうして、任意の温度での分子平衡を解く準備ができた。
温度が高い場合は分子の数は少なくPH=P o H、PO=P o O、PC=P o C
とみなして
他の分子の圧力を計算して構わない。
低温度での計算では初期値の取り方が悪いと逐次近似がうまくいかない場合が
あるが、高温度から出発して、その収束値を次の温度での初期値とし、
徐々に温度を下げていく手法が有効である。
log10Kp(T) を下の表に示す。Kp(T)はcgs単位表示であるT= 1000 1500 2000 2500 3000 4000 5000 6000 -11.09 -3.56 0.42 2.82 4.40 6.36 7.70 8.48 ! H-H -13.32 -4.79 -0.13 2.35 4.11 6.27 7.71 8.59 ! O-O -18.54 -8.48 -2.87 -0.04 2.04 4.61 6.31 7.29 ! C-C -11.05 -3.65 0.21 2.61 3.95 5.94 6.44 8.16 ! O-H -6.53 -0.67 2.26 4.31 5.55 7.06 8.14 8.76 ! C-H -42.98 -24.74 -14.33 -9.43 -5.67 -0.89 2.12 3.92 ! C-O -13.61 -5.05 -0.53 2.17 3.95 6.13 7.62 8.46 ! OH-H -31.52 -8.74 4.50 10.58 14.90 20.98 24.70 26.85 ! CH-3H
こうして、求めた分子圧 log P( dyn/cm2 ) を下の表に示す。 T H2 O2 C2 OH CH CO H2O CH4 H
O C 6000 -2.48 -8.59 -7.89 -5.16 -6.06 -4.22 -10.62 -23.91 3.00 0.00 -0.30 5000 -1.70 -7.71 -6.91 -3.44 -5.44 -2.42 -8.06 -21.14 3.00 -0.00 -0.30 4000 -0.36 -6.73 -6.70 -3.17 -5.10 -0.38 -6.30 -17.08 2.99 -0.23 -1.04 3000 1.53 -4.80 -13.28 -1.33 -8.20 -0.30 -2.31 -14.19 2.96 -0.34 -5.62 2500 2.45 -4.38 -17.38 -0.98 -10.38 -0.29 -0.52 -13.05 2.63 -1.01 -8.71 2000 2.68 -7.32 -18.93 -2.38 -11.61 -0.30 -0.30 -11.45 1.55 -3.72 -10.90 1500 2.69 -11.49 -25.31 -4.92 -16.66 -0.30 -0.30 -9.21 -0.43 -8.14 -16.89 1000 2.69 -19.82 -34.87 -9.71 -24.37 -0.29 -0.30 -5.44 -4.19 -16.57 -26.70
log10Kp(T) をグラフで示す。Kp(T)の単位はCH-3H以外は dyn/cm2 である。KCH-3Hの単位は dyn3 /cm6 であるが、cgs系での数値として同じグラフに描いてある。
解離エネルギー=11 eV と大きいCOのラインに注目して欲しい。
D.2.3.C型星(炭素星)低温度星のスペクトルで最も特徴的なことはM型星とC型星の存在である。
両者共に4000K以下の低温の恒星であるが、そのスペクトルは全く異なる。
その原因が大気中のC / O比の違いにあることを指摘したのは藤田良雄であった。
低温大気では安定な CO が C と O の少ない方を食いつくしてしまう。
このため、 O が多い M 型星の大気では余った O が Hや Fe 、 Ti と反応して H2Oや TiO
を形成する。
一方、 C 型星では逆に C が余り、それが C2,CH,CN を形成する。
このように
C/O>1ーー> C 型星
C/O<1ーー>M 型星
となるのである。
T H2 O2 C2 OH CH CO 6000. -2.4801 -8.5902 -6.6901 -5.1601 -5.4601 -3.6202 5000. -1.7000 -7.7232 -5.7164 -3.4466 -4.8432 -1.8298 4000. -0.3608 -8.2291 -4.5272 -3.9199 -4.0190 -0.0481 3000. 1.5379 -15.4283 -2.0616 -6.6402 -2.5919 0.0000 2500. 2.4527 -20.5723 -0.5976 -9.0848 -1.9925 0.0000 2000. 2.6832 -25.3402 -0.3197 -11.3935 -2.3033 0.0000 1500. 2.6971 -29.3176 -6.8924 -13.8352 -7.4476 0.0000 1000. 2.6973 -30.1069 -23.9930 -14.8598 -18.9329 0.0000
T H2O CH4 H O C 6000. -10.6202 -23.3102 3.0000 -0.0001 0.2999 5000. -8.0666 -20.5433 3.0000 -0.0066 0.2968 4000. -7.0503 -16.0001 2.9996 -0.9795 0.0414 3000. -7.6212 -8.5850 2.9689 -5.6591 -0.0108 2500. -8.6185 -4.6635 2.6363 -9.1112 -0.3188 2000. -9.3119 -2.1484 1.5516 -12.7351 -1.5949 1500. -9.2167 -0.0020 -0.4315 -17.0538 -7.6862 1000. -5.4462 -0.0020 -4.1964 -21.7135 -21.2665
炭素星スペクトル
C/M比較
γ Hya (炭素星)
比較用M型星
C/M判別フィルター
78
81