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第2部 関西物流特集2019 (1)2019年9月4日(水曜日)

KANSAILOGISTICS~未来への布石~

神戸市港湾局長 辻 英之 氏 大阪市港湾局長 田中 利光 氏

Ocean Interview

関西国際空港Air「空港コミュニティ」で貨物戦略を

東京都千代田区岩本町2-1-15 吉安神田ビル3階TEL.03-5835-4161(代表)

(Daily Cargo HP)www.daily-cargo.com/

発行所 株式会社海事プレス社

関西物流特集 2019

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(2) 第2部 関西物流特集2019 2019年9月4日(水曜日)

台風21号の翌月はV字回復

 昨年の台風21号で物流施設がダメージを受けたことで、貿易額にも影響がでた。大阪税関や神戸税関によると、18年9月の海港・空港別貿易額は、輸出は関西空港が前年同月比52.1%減の2337億円と半減。大阪港は19.4%減の3003億円、神戸港は15.0%減の4302億円だった。輸入も、関西空港は67.9%減の1063億円、大阪港は14.3%減の3746億円、神戸港は16.1%減の2425億円だった。しかし、その

 2018年の関西は自然災害が多い年だった。6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、8~9月は台風が続々と襲来。特に台風21号は、最大瞬間風速が過去最大値を記録し、高潮は1961年の第2室戸台風の記録を超えた。関西の物流施設に及ぼした被害は甚大で、関西国際空港は一時閉鎖され、神戸港、大阪港ともコンテナターミナルは高潮で荷役機器に影響を及ぼした。しかし、その後、完全復旧し、機能回復している。一方、米中貿易摩擦など国際動向が関西経済に影響し始めている。

たどっている。輸出額は昨年11月以降、8カ月連続でマイナスとなり、5、6月ともに2桁減となった。輸入額は11月以降、プラスとマイナスを繰り返したが、6月は13.9%減となっている。輸出入動向について、大阪に本部を置くシンクタンクのアジア太平洋研究所は「問題は輸出と輸入の合計である貿易総額が7カ月連続で縮小していることである」とも指摘している。 また、半期ベースの19年1~6月では、輸出額は前年同期比7.4%減の7兆9561億円と2期連続のマイナス、輸入は4.4%減の7兆2920億円で5期ぶりにマイナスに転じた。内訳を見ると、輸出の減少品目では、中国向けフラッシュメモリーといったICなど半導体等電子部品、中国向けの液晶パネル関連製品など科学光学機器が大きかった。輸入では、サウジアラビア産原油、中国産のゲーム機などの減少が目立った。昨年はニンテンドーのスイッチが好調だったためで、落ち着いたと言えそうだ。 地域別で見ると、中国向け輸

出は13.3%減の1兆8766億円と2期連続マイナスとなり、科学光学機器、半導体等電子部品の減少が大きかった。輸入も5.1%減の2兆2432億円と5期ぶりのマイナスで、遊戯用具や衣類など落ち込んだ。 米国向け輸出は0.7%増の1兆1622億円と5期連続のプラスとなり、公共工事用機械など増加。輸入も3.8%増の5期連続のプラスなっており、シェールガスや原油、医薬品が増えた。一方、米国向けではリチウムイオン電池、米国出しでは半導体等製造装置がそれぞれ大きく減少した品目として挙がった。米中貿易摩擦の影響が貿易額に表れているようだ。 EU向け輸出は、0.6%減の9247億円と5期ぶりのマイナスで、リチウムイオン電池やオートバイなど減少。輸入も6.0%減の8935億円と2期連続マイナスとなり、たばこや医薬品が減少。今年2月、日EU経済連携協定(EPA)が発効し、ワインや高級自動車の輸入が増えたのが目立ったという。

台風被災から復活米中貿易摩擦、関西経済にも影響

関西国際空港

神戸空港

堺泉北港

阪南港

大阪港(阪神港)

神戸港(阪神港)

舞洲ポートアイランド

六甲アイランド

夢洲

咲洲

伊丹空港

新名神高速道路

中国自動車道

阪神高速道路

阪神高速道路

関西の海港、空港、高速道路

りんくうタウン地区

翌月にはもとに戻しており、関西の底堅い需要を示した。 なお、17年から実施された申告官署の自由化で、被災した事務所以外で業務を続けられることができ、自由化が成果となった声もフォワーダーから多く聞かれた。

輸出入額は減少傾向

 大阪税関がまとめた近畿圏貿易動向によると、近畿2府4県(大阪、京都、兵庫、滋賀、奈良、和歌山)の18年7月~19年6月の1年間は、台風21号から貿易実績を戻した後は、減少傾向を

近畿圏貿易動向貿易額の推移(大阪港、神戸港、関西空港)

大阪税関、神戸税関の統計資料から作成

大阪港 神戸港 関西空港単位:億円 単位:億円輸出 輸入

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月2018年 2019年2018年

7月 8月 9月 10月 11月 12月1月 2月 3月 4月 5月 6月2019年

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

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第2部 関西物流特集2019 (3)2019年9月4日(水曜日)

 昨年、台風の襲来で阪神港は大きな痛手を被った。台風21号の暴風と高潮の影響はすさまじく、神戸港では六甲アイランドのコンテナターミナルRC6・7のガントリークレーンの電気設備が被災し、大阪港は夢洲コンテナターミナルでトランスファークレーンが倒れた。両港で貨物の浸水、コンテナの流出も発生。被災後は、阪神国際港湾会社、港湾管理者、事業者などにより完全に復旧を果たしている。阪神港の2018年コンテナ取扱量は前年実績を上回った。台風以降は、災害時でのBCP(事業継続計画)対応、京浜港の混雑やトラックドライバー不足など背景に、阪神港を利用する試みも行われている。

高潮・暴風対策を検討

 台風21号で阪神港が被災した後、国土交通省近畿地方整備局は「大阪湾港湾等における高潮対策検討委員会」(委員長=青木伸一大阪大教授)を発足。その下に、神戸港、大阪港、堺泉北港、尼崎西宮芦屋浜港と4部会を開催。被害状況を把握し、原因を探るため、シミュレーション再現を行い、対策を検討した。 最終とりまとめでは、高潮対策をハード、ソフト両面で整理し、高潮・暴風対応計画を導入。高潮・暴風対策の大阪湾BCPを作成し、それをもとに各港湾管理者が高潮・暴風対策BCPを作成することになった。 21号では、防潮堤の堤外地となるコンテナターミナルなど港湾施設への被害が大きかった。そのため、各港では、被災したところを復旧させるだけでなく、強靭化させる取り組みも行われ、次の台風に備えを進めている。

なお、6月には「大阪湾港湾等における高潮対策推進委員会」と、推進の文字に替えて継続している。

阪神国際港湾が5周年戦略港湾政策を推進

 阪神港のコンテナ取扱量は台風が襲来した9月は減少したものの、国の国際コンテナ戦略港湾政策を推進し、阪神国際港湾会社や港湾管理者などが、集貨、創貨、競争力強化の施策を進めたことで、堅調な結果となった。 年間を通してみると、神戸港の外内貿合わせたコンテナ取扱量は294万4000TEUと過去最高を更新。大阪港の外貿コンテナ取扱量は210万TEUと前年に続いて2年連続で200万TEU台を維持した。 阪神国際港湾会社は今年で発足5周年を迎える。インセンティブを行うなど戦略港湾の施策を推し進め、阪神港は港勢拡大に向けた取り組みを実施してい

る。

BCP、ドライバー不足を背景

 阪神港を利用した動きでは、サプライチェーンに支障が出ないよう、BCP対応を再検討して活用するケースも出ている。また京浜港の混雑回避やトラックドライバー不足から、阪神港で貨物を揚げてJR貨物で東京に輸送する試みも行われている。 阪神港には、上海と結ぶ国際定期フェリー2隻がそれぞれ毎週1便運航されており、定時性が高いのが特長だ。フェリーと鉄道を組み合わせたモーダルシフトにより、安全に的確な輸送ルートを確保しようという動きだ。 ドライバー不足を背景とした動きでは、ユニエツクスNCTが阪神港と東瀬戸内を内航フィーダーで結ぶ事業を強化している。神戸-水島、神戸-三島川之江で貨物をバージ輸送して

いた。499総トン型内航船を配船し、神戸-三島川之江航路では高松にも寄港するスケジュールを組んだ。ドライバー不足で陸送の供給不足があるため、陸送補完型として実施している。なお同事業は、関西国際物流戦略チーム(本部長=松本正義関西経済連合会会長)の「関西総合物流活性化モデル」として認

定されている。

滞留対策も検討

 港湾は高速道路との結びつきも重要だが、神戸では阪神高速道路の大阪湾岸道西伸部(六甲アイランド北~駒栄)の工事が進む。大阪では阪神高速大和川線(三宝JCT~三宅JCT)が今年度開通予定で、渋滞する大

阪市内を通らずに奈良方面と大阪湾岸が接続されることになる。 港でのトラックの滞留対策もとられている。2025年大阪・関西万博の会場となる大阪港夢洲のアクセスルートはトンネルと橋だけであり、工事車両と貨物車が混在し、港湾物流への影響も懸念される。橋の拡幅など対策も検討されている。

阪神港、復旧で強靭化コンテナ取扱量は堅調

輸出 移出 移入輸入

神戸港総取扱貨物量 大阪港総取扱貨物量

大阪市港湾局の資料から作成

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000

1,179 2,521 2,542 3,4261,155 2,446 2,361 3,336970 2,312 2,057 2,7561,005 2,510 2,177 2,837930 2,788 2,219 2,873871 2,750 2,231 2,789898 2,750 2,229 2,821925 2,743 2,217 2,762969 2,496 2,004 2,527936 2,475 2,122 2,687

(万㌧)

958 2,525 2,183 2,798963 2,633 2,116 2,668

(万TEU)

外貿

内貿

0 50 100 150 200 250 300

197195184198217212219217197197

3429263027292926

2525195195 2626

コンテナ取扱個数

200720082009201020112012201320142015201620172018

(万TEU)

外貿

内貿

0 50 100 150 200 250 300

197195184198217212219217197197197

3429263027292926

252525195195195 262626

コンテナ取扱個数

200720082009201020112012201320142015201620172018

205205 2727210210 3131

神戸市港湾局の資料から作成

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000

2,363 2,584 2,8661,8062,373 2,625 2,6611,8591,933 2,386 2,0041,3802,240 2,539 2,2701,5042,220 2,710 2,2201,5522,224 2,679 2,2271,5912,162 2,732 2,2941,6472,261 2,769 2,4451,7642,330 2,789 2,6981,8842,331 2,842 2,7591,9002,407 2,865 2,7521,962

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

(万㌧)

2,371 2,845 1,804 2,528

外貿

内貿

0 50 100 150 200 250 300

200720082009201020112012201320142015201620172018

(万TEU)

コンテナ取扱個数

202204

177201210207205205212

4552

47545350505759

222 71214 66

222 72

港湾・海運編

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(4) 第2部 関西物流特集2019 2019年9月4日(水曜日)

Interviewまた、東南アジアと中国とのトランシップ獲得に向けた取り組みや、国の支援を得ながら、阪神港間でのバージ輸送の取り組みを進めていく。 今後、荷主が何を求めて航路を選択しているかを分析したい。世界的な環境変化で荷主もコスト競争が激しい。荷主が貨物を輸出入するのに何をもって判断しているのかを掘り起こしたい。港湾行政はインフラ政策と日本の産業の競争力を向上させる産業政策の両方の視点が必要だ。神戸は市街地に近い港だ。ダウンタウンから港、空港、高速道路と30分圏内に陸海空がそろっている港は他に見られないし、神戸の強みだ。持続的に港を成長させるには、強みを最大限に生かす政策展開をしないといけない。 ——日本港運協会の久保昌三会長が提唱され、神戸市として取り組んでいるアジア広域集貨プロジェクトチームについて。 辻 物流改善のためのさまざまなトライアルを試みた。特に神戸港で陸揚げした後、貨物ターミナルに陸送してJR貨物で東京へ輸送したトライアルについてであるが、トラックドライバー不足や環境に優しいモーダルシフトにつながり、かつ荷主のBCP(事業継続計画)にとって有効で、またリードタイム短縮の可能性も報告されるなどの成果があった。シー・アンド・シー、シー・アンド・レール、フェリー・アンド・レール

など、あらゆる方策をベストミックスして貨物の獲得に努める。

港あっての神戸経済

 ——創貨について。 辻 六甲アイランドの森本倉庫が国の支援を受けて流通加工施設を備えた冷凍冷蔵倉庫を整備する。付加価値を高めるロジスティクス・ターミナルのような取り組みは大きな流れとして必要だろう。集貨は貨物の取り合いという状況の中、神戸港から輸出する貨物を創る、創貨の取り組みは産業振興との連携が不可欠だ。 ——競争力強化について。 辻 北米、欧州航路に加えて、アフリカ、中南米航路などの船舶も大型化してきており、対応可能な高規格コンテナターミナルの整備を引き続き進めていきたい。今後、労働力が減少、高齢化していく中、競争力を保ち、生産性を上げて、物量を確保していくためにも、日本の産業構造や技術的な優位性からみても、物流におけるIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用は必要になる。PC18で17~18年度にRTGの遠隔操作の実証実験を行っており、労使合意を前提に、IT(情報技術)化について、渋滞対策も含め、港湾管理者として、現場でどういうものが求められるか、しっかり議論し、国にフィードバックして進めたい。 ——クルーズ客船の誘致は。 辻 昨年、客船寄港回数が

141隻と過去最高を更新し、今年も引き続き高い水準で推移している。世界最大級の22万トン級客船の受け入れ可能なハード整備も行った。今後、関西では関西ワールドマスターズ、大阪・関西万博など大規模な国際イベントの開催が予定されており、インバウンドの増加も見込まれる。さらに、背後には瀬戸内や淡路島など多様な魅力を持った地域があり、関西国際空港との連携、また神戸空港の運用緩和によるフライ・アンド・クルーズの増加にも取り組む。 SDGs(持続可能な開発目標)など欧米での取り組みをみても、これからは港湾における環境負荷が少ない港づくりが国際港としてスタンダードになっていくだろう。神戸港でも環境面での港の優位性を考える必要がある。神戸港で実証実験を予定している水素サプライチェーン事業や、LNGバンカリングなどを検討していきたい。神戸港は市街地から近いこともあり、神戸は港があってこそだと思うし、市民に愛され親しまれる港であることが、政策を行う上で必要不可欠だ。神戸港がしっかり貨物量を確保していくことが重要だ。神戸港がどう優位性を保って発展していけるかが、西日本の国際コンテナ戦略港湾の役割を果たすことになる。災害に強く、環境にやさしく、神戸の強みや特長を生かした港づくり、にぎわいのある拠点づくりに積極的に取り組みたい。

 神戸港は昨年、8月に台風20号で浸水被害を受けた後、9月に21号でさらに大きく被災した。しかし外内貿合わせた2018年コンテナ取扱量は294万4000TEUと過去最高を更新。今は復旧を終えて、集貨、創貨、競争力強化に取り組んでいる。今後、神戸市港湾局の辻英之局長は「荷主が輸出でどういう意向を持って航路を選択しているかを分析したい」との考えを示した。港、空港、高速道路が近接する神戸という特性を生かして、「災害に強く、環境にやさしく、にぎわう港づくりを目指していく」方針だ。 (文中敬称略)

災害に強く環境にやさしくにぎわう港に

神戸市港湾局長

台風対策で踏み込んだ助成

 ——昨年の台風被災について。 辻 台風20、21号と続いたが、特に21号は想定以上の高潮により、大きな被害を受けた。南海トラフ地震の津波対策として既設防潮堤の改良などを行っていたので、幸いにも人的被害はなかったが、六甲アイランド東側からの浸水により、コンテナターミナルの電気設備など大きな被害があった。「大阪湾港湾等における高潮対策検討委員会」神戸港部会での検討結果を踏まえ、約300億円の大規模な

対策予算を国の支援もあり、確保できた。単なる復旧ではなく、再度災害防止の観点が重要で、六甲アイランドでは埠頭用地のかさ上げや、ポートアイランドでは、防潮壁と併せ排水施設などを整備する。 被災した民間事業者には市賃貸地の使用料減免を行うとともに、民間が防災対策として行う止水板の設置などにも、行政として、阪神淡路大震災でも行わなかった助成を一歩踏み込んで行った。また、ポータルサイトの災害情報発信システム構築や、事業者間の連絡網の確立など、ソフト対策においてもさらに強化する。今後、災害に強い

港を目指して中期計画でも盛り込む。 ——台風被災でも18年コンテナ取扱量は過去最高となった。 辻 国際コンテナ戦略港湾政策として、これまでの国の支援や港湾事業者の取り組みのおかげで成果が出たと思う。ただ、今年1~3月のコンテナ取扱個数は、前年同期比2%減となった。動向を見ると、外貿は横ばいだが、内貿は1割減だ。 集貨施策として、これまでの内航フィーダーの取り組みに加え、北米と東南アジアとのトランシップ促進のためのインセンティブの増額(1TEU当たり1万円を1万5000円に増額)や、

荷主のニーズ分析して集貨施策辻 英之 氏

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第2部 関西物流特集2019 (5)2019年9月4日(水曜日)

Interview

田中 利光 氏

 大阪港は外貿コンテナ取扱量が2017年205万TEU、18年は台風21号の被害もあったが、

210万TEUと200万TEU台を2年連続で維持した。田中利光大阪市港湾局長にインタビ

ューすると、今後は大阪府と大阪市の港湾局の統合も見据え、大阪湾としての広域集貨に

もつなげていきたい考えを示した。また、昨年11月、2025年大阪・関西万博の開催が決定。

会場となる夢洲は「物流」と「観光」を共存させ、高機能ロジスティクスセンターを設け

る構想や、大阪市内を結ぶ小型旅客船、クルーズ客船などのターミナル機能も備えて「水

上交通アクセスの拠点としたい」考えだ。 (文中敬称略)

大阪府市の港湾局統合も視野に

台風21号の復興対策

 ——まず、昨年の台風21号を

振り返ってほしい。

 田中 21号の被害は想像でき

ないほどだった。大阪港では、

伊勢湾台風が室戸台風コースで

来襲した場合を想定して防潮堤

の高さを5.7~7.2メートルとし

ており、住宅のある地域では一

般の市民生活に影響はなかっ

た。しかし、堤外地である埋立

地では浸水したところがあった。

港湾荷役に影響があったところ

は検討して対策を進めている。

「大阪湾港湾等における高潮対

策検討委員会(大阪港部会)」

で21号をシミュレーションして

再現したが、今年度、伊勢湾台

風が室戸台風コースで来襲した

場合について検討し対策を考え

たい。

 21号による大阪港の港運事業

者の被害は約30億円だった。大

阪港も公共の上屋81棟のうち、

66棟が被害を受けた。応急処置

は終わっているが、復旧工事で

は、従来と同じ仕様ではなく強

度を上げて補修する。

 ——港勢について。

 田中 200万TEUを割った時

期も数年あったが、2017年、18

年と200万TEU台に回復してよ

かった。船社、荷主に使っても

らう港を目指すのが港湾管理者

の責務と思っている。

 国が進める国際コンテナ戦略

港湾政策で、「集貨」「創貨」「競争

力強化」を進めている。「集貨」

に関して阪神港としては、瀬戸

内海の貨物は神戸港が地理的に

も優位であろうが、われわれは

背後圏の滋賀、三重、和歌山県

などをターゲットに集貨施策を

打っていく。大阪府港湾局とも

連携し、例えば、阪神高速道路

大和川線は今年度開通予定で、

奈良、三重県とのアクセスが向

上する。これもインセンティブ

であり積極的に施策をとりたい。

 「創貨」だが、大阪港は輸入

量に比べて輸出量が少ない状況

にあるので、輸出を増やしたい。

食の輸出を積極的に進めている

ところで、8月に第3回食の輸

出セミナーを開催した。「競争

力強化」は、16メートル水深の

岸壁整備、航路浚渫といった

ハード整備、さらに効率的な

ターミナル運営など、国や阪神

国際港湾とともに行っている。

 基幹航路の開拓のほか、ニー

ズやシーズのあるところと貿易

したい。東南アジアに加え、イ

ンド、パキスタン、スリランカ

といった南アジアも注目したい。

 ——大阪府港湾局との一元化

の進ちょく状況について。

 田中 2年半ほど前に大阪府

と市の港湾局で連携協約を結

び、できるところからやろうと

いうことになっている。府市の

港湾局で港湾管理の一元化につ

いても検討してきている。今年

度中に方向性を定め、進めて行

きたい。8月27日の副首都推進

本部会議では、「港湾戦略」と「観

光戦略」についてのキックオフ

がされた。「港湾戦略」とは、

府市の港湾を一元的に機能させ

て物流施策を促進することだ。

 ——策定した新しい港湾計画

について。

 田中 2020年代後半を目標年

次として、計画貨物量を271万

TEUと設定した。夢洲コンテ

ナターミナルでの取扱量は、昨

年90万TEUだったが、140万

TEUまで伸ばす。そのため、

夢洲の物流ゾーンへの高機能ロ

ジスティクスセンターの誘致や、

フィーダー船の接岸も考えてい

る。

身の丈にあった港湾に

 ——6月のG20大阪サミット

の港湾物流への影響について。

 田中 サミットの港湾物流へ

の影響は懸念していた。国から

の補助も頂き、4億8000万円の

予算を確保し、ゲートオープン

時間延長や待機場整備、空コン

用の封印シールの製作など準備

することができた。関係者には

迷惑もかけたと思うが、今回の

サミットで一致協力して乗り越

えたのは事実で、経験と財産に

なった。だが、乗り越えられた

からといって、本格的な万博工

事などを控えて港湾物流が対策

不要と思っているわけではない。

 ——万博と誘致に取り組むI

R(統合型リゾート)の会場と

なる夢洲について。

 田中 夢洲は国際物流拠点、

国際観光拠点が共存するよう進

めている。島という特性を生か

して水上交通を進めていきたい。

現在、盛土の工事を行っている

が、それらはバージやガット船

で海から運んでいる。万博は半

年間で2800万人がやってくる。

来場者の消費・生活のため、大

阪に物資を輸入することになり、

港湾関係のビジネスにもつなが

る。

 IRに近い夢洲北側水際線に

は、クルーズ客船のターミナル

を構想している。クルーズ客船

だけでなく、シャトル船など、

フェリーも視野に入れ、水上交

通アクセスの拠点としたい。

 ——滞留対策について。

 田中 国際物流拠点に隣接す

る形で万博(国際観光拠点)を

共存させるが、アクセスがトン

ネルと橋しかない。ゲート前の

滞留解消に向けて他港事例も調

査したが、横浜港で行われた

「CONPAS」のようなシス

テムの導入を検討したい。同様

の課題を抱える東京港でも対策

を講じているようだが、大阪港

においても早めに対応したい。

 ——大阪港をどのようにした

いか。

 田中 2020年代後半を目指し

て港湾計画を改訂した。取扱量

271万TEUに向けて着実に施策

を進め、船社や荷主にとって必

要な、あるべき姿の大阪港を追

求していく。それが身の丈にあ

った港湾だ。

大阪市港湾局長

夢洲、「物流」と「観光」を共存

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(6) 第2部 関西物流特集2019 2019年9月4日(水曜日)

加した貨物に対応している。上組の神戸での2018年コンテナ取扱量は外内貿合わせて54万TEU。今年もさらに増加する見通しで、CTでの貨物取扱のキャパシティーは厳しくなっている。 そのため、PC18に隣接するI、 J岸壁との一体運用を図り、取扱貨物の増加に対応していく。I-J岸壁(延長480メートル×水深12メートル)はコンテナ船用として使用されているが、K岸壁(220メートル×12メートル)はRORO船用として使用され、建設機械など置かれていた。神戸港港湾審議会が6月、K岸壁もコンテナ船用に

変更することを承認し、I、J、K岸壁とそろってコンテナ船が接岸できるようになった。今後、関係者と調整を行い、I-J岸壁に加え、K岸壁を含めた一体運用を目指す。内航船を接岸させてフィーダー貨物など効率的に取り扱うことが可能になり、整備後はPC18が拡張される格好となる。なお昨年秋の台風21号では、PC18で被害はほとんどなく、「翌日には通常どおりの作業を行うことができた」(長田行弘執行役員港運事業本部長)。 大阪港では咲洲CTのC8を川崎汽船と共同借受しているが、昨年ガントリークレーン2

基目を13列から17列対応に更新。隣接するC9(三菱倉庫と三井倉庫港運が共同借受)もすでにクレーン2基を17列対応としており、C8・9全体で効率的に運用を図っているという。

上組

PC18の取り扱い増、港運事業を強化 総合物流業を展開する上組は、阪神港で行っている港運事業で取扱貨物の増加に対応した体制整備を進めている。 神戸港ポートアイランドでは、

単独運営しているコンテナターミナル(CT)PC18に加えて、17年からPC13を住友倉庫と共同借受。PC18と13を合わせると外航船は月間80~90隻が入港

し、内航船は70隻だった。特にPC18でのAPLの取扱分が増加。上組は川崎汽船と国内港湾運送事業で合弁会社「KLKGホールディングス」を4月に設立し、連携を強化。六甲アイランドで川崎汽船と三菱倉庫が運営するRC4・5で、APLの一部の本船を取り扱うことで増

井本商運

新造船投入、トレードレンズ参画 内航コンテナ船社の井本商運は、57港に寄港する国内最大の内航フィーダー・ネットワークのサービスをさらに拡充させる方針だ。 同社の2018年度売上高は122億円。コンテナ輸送量は、18年度が前年度比6.7%増の60万3000TEUとなり、初めて60万TEU台に乗せた。運航隻数は28隻で、100TEU型8隻、200TEU型15隻、400TEU型3隻、600TEU型2隻。これまでコンテナ船の大型化を図ってきたが、さらに過去最大船型の1000TEU型船を

投入する計画を進行中。デザインは600TEU型船と同じ球状船首型で3隻目。22年度就航予定。 1000TEU型船を配船することで、基幹航路を増強させる。1000TEU型船は苫小牧-京浜航路に投入予定。600TEU型2隻は京浜-九州航路に配船し、週2便化を図る。東海-京浜-東北航路は400TEU型船2隻で運航する。今回は、大型船を配船した航路では定曜日サービスを行うことで、営業をより拡充させる狙いがある。大型化により消席率アップと往復航バランス

を改善し、コスト競争力を強化することも目標だ。100TEU型船も新造計画中。 また7月、マースクラインとIBMの共同開発によるブロックチ

ェーン技術を基盤とするオープンプラットフォーム「トレードレンズ(TradeLens)」に、内航船社として初めて参画した。井本は自社のシステム化で、17年からiコンセプト(iは、Im o t o I n t e g r a t e d I T solutionsの各頭文字)に基づく内航フィーダーサービスの電子化プロジェクト「iCOMS(Conta i ne r Ope ra t i on Management System)」を進めている。インターネット経由で内航コンテナ船とコンテナオペレーションを統合管理する新しいIT基盤を確立させる。 iCOMSとトレードレンズの接続プロジェクトを7月から開始。トレードレンズ提供のプラットフォームを活用することで、外航船社やコンテナターミナルとの業務連携の効率化を実現化。またトレードレンズを通して内航コンテナ船の動静情報を提供することで、内航フィーダーサービスのトレーサビリティ向上の実現も図る。井本隆之社長は「時代の流れを先取りした姿勢を示したい」と積極的に取り組む姿勢だ。

近畿通関

大阪港を拠点に海貨業 近畿通関は、大阪港を拠点に国際物流一貫輸送サービスを展開している。 創業は1957(昭和32)年。創業時から多く手掛けていたのが、返還前の沖縄との取引だった。72年に米国から日本に沖縄が返還されると、近畿通関は子会社「近通」を設立して、取引を継続している。なお近通には陸運部があり、ドレージも担っている。ヘッドは11台、シャーシは40台。本社は当時の大阪税関近くの川口に置いていたが、その後、港区波除に移転した。 大阪港では、98年に咲洲中埠頭のQ4で、大阪市港湾局から

の賃貸で物流センターの業務を開始した。自社や大手フォワーダーの輸出貨物など取り扱っている。その隣では、沖縄積み貨物の作業も実施している。 夢洲物流センターは2002年から運用を開始。舞洲と結ぶ夢舞大橋から降りてすぐのところにあり利便性が高いのが特長だ。夢洲に行くには、夢舞大橋と咲洲と結ぶ夢咲トンネルを通るしかない。トンネルでは通るのが厳しい大型貨物が夢舞大橋を通って、同センターに運ばれてくるという。全国のスーパーマーケットに配送する輸入貨物や、輸出貨物では環境機械などあ

り、フル稼働の状況。今後、2025年大阪・関西万博や誘致しているIR(統合型リゾート)に関する貨物も期待がかかっている。 航空貨物の取り扱いを始めたのは創業してから4年後の61年で、大阪国際(伊丹)空港内の土地建物の使用や営業許可を受

井本隆之社長

米澤隆弘社長

長田行弘執行役員港運事業本部長

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第2部 関西物流特集2019 (7)2019年9月4日(水曜日)

で生産し、輸入するケースもあるが、そうした対応も久新輸送で請け負っている。 大手タイヤメーカーが泉大津市に工場を持っていたこともあって、タイヤ輸送も長く行っている。同メーカーがタイに生産拠点を構え、日本へ輸出することになった。そのため、新洋海運は2016年、同社初の海外物流センター「アマタシティ・ロジスティクス・センター」をレムチャバン港近郊にある工業団地内に建設した。倉庫面積は約2万4000平方メートル、タイヤ約40万本が保管可能。さらに隣接地に第2倉庫の

建設に着工。供用開始は20年4月予定。倉庫面積は約1万3000平方メートルで、タイヤ保管能力は約20万本。24時間稼働な体制を整える。

 農業機械やタイヤのほか、カナダやシベリアから輸入した製材、製紙メーカーの新聞紙ロールなども扱っている。AEOは倉庫業と通関業で取得している。

けてからだ。1994年の関西国際空港の開港とともに、大阪国際空港支店を移転して関西国際空港支店に変更した。それと合わせて、関西空港輸出公共上屋を開設した。主に中小フォワーダー向けに運営。現在は、自社で上屋を持っていない外資系中小手や国内企業が定期的に利用しているという。関空では、国際旅客通関サービスセンターの

業務も担っている。空港に残った乗客のスーツケースや税関検査を通らなかった手荷物など一時保管している。 台風21号の影響は、コンテナが倒れたり、テント倉庫が飛んだものの、被害は大きくなかったという。取扱貨物が一般雑貨類で、温度管理が必要な冷凍、冷蔵品がなかったことで、冷蔵倉庫で起きたような貨物損害は

なかった。BCP対応は現在、検討中だ。 近畿通関は、財閥や大手グループに所属していない独立系だ。独立系だから輸送してほしいという顧客からの依頼を受けることもあるという。「小回りが利くことが強みで、今後も臨機応変に対応していきたい」(米澤隆弘社長)との考えだ。

新洋海運

堺で国際物流、タイに第2倉庫 新洋海運は、大阪府堺市の物流事業としてパイオニア的存在で、国内外で大型貨物から小口貨物まで複合一貫輸送サービスを展開している。

 倉庫は、泉北支店、塩浜埠頭事務所、大浜埠頭事務所と堺泉北港に3カ所置いて、大阪南港にも設けている。海外は、ベトナムとタイに現地法人を置く。

 創業時から物流業で携わってきたのが大手農機具メーカーの輸送だ。大阪から北海道まで農業機械の輸送を手掛け、50年以上もの取引を続けている。北海道苫小牧市には子会社「久新輸送」を置いて、農業機械の輸送受け入れを行っている。農業機械は近年、メーカーが海外工場

上海フェリー

フェリー&レールで混雑を解消 大阪-上海間で国際定期フェリー「蘇州号」を運航している上海フェリーは、海上混載貨物のフェリー・アンド・レールのトライアルを実施、成功させており、今後も同事業の拡大で取扱量を増やしていきたい方針だ。トライアルは、JR貨物グループ、エーアイティー(AIT)と連携して行った。 蘇州号の大きさは1万4410総トン、旅客定員272人、航海速力21ノット。毎週1便往復するスケジュール。金曜12時大阪港を出港、日曜の午後2時ごろに上海入港。上海港は毎週火曜11時に出港し、木曜午前9時に大阪港に入港する。

 フェリー・アンド・レールのトライアル事業は、東京港の混雑が背景にある。東京港で混雑が常態化しており、コンテナ船が入港しても着岸できないなどの問題が多発。入港後に効率よく輸送できるようドレーやトラック、デバンニングのスケジュールを組んでいていても、本船着岸が遅れればスケジュール変更せざるをえなくなる。ドレーが確保できないなどの理由で、着岸してもデバンニングが完了するまで1週間程度かかってしまうケースもあり、荷渡しの停滞が著しい状況に陥っている。シー・アンド・レールの複合一貫輸送サービスを行うことで、

納品の遅延問題を打開するのが同サービスだ。 トライアルでは、上海港を火曜出港後、木曜朝に大阪港で荷揚げした後、コンテナはJR貨物の百済貨物ターミナル駅に陸送。貨物車に積載した。同駅を夕方出発し、翌金曜朝に大井貨物ターミナル駅に到着した。コンテナをピックアップして、デバン、CFS搬入を行った。リードタイムは4日間だった。フェリーの持つ定時性の高さと、上海のCFSカット時間がコンテナ船よりも遅いため、現地生産サイドにもメリットのあるサービスとなっている。環境にやさしいモーダルシフトで、トラックドライバー不足にも対応している。 上海フェリーの丸山英行社長は「想定以上の成果を収めることができた。そもそもスケジュールの定刻性には自負もあったが、荷渡しが予定と寸分狂わぬ時刻に完了できた」と、実績に改めて自信を深めたようす。今後については「スケジュールの安定性はすでに継続的に立証されている。この実績に基づいたシー・アンド・レールをさらに浸透させたい」と積極的に進めていく考えだ。

日中国際フェリー

フェリー&レールのT/S事業に参画 阪神-上海間で運航される国際定期フェリー「新鑑真」に関わる日中国際フェリーは、神戸港経由のフェリー・アンド・レールによるトランシップ(T/S)トライアル事業に参画。今後もフェリーの活用が広がっていくことを期待している。 日中国際フェリーは1984年、日本企業出資により設立された。同社と中国上海遠洋運輸公司(コスコ上海)が折半出資した日中合弁会社、中日国際輪渡が運航船社として、日中間に戦後初めての国際定期フェリー「鑑真」を就航させた。新鑑真は2代目。日中国際フェリーは日本総代理店として日本側窓口として活動している。 新鑑真は、大きさ1万4543総トン、旅客定員345人、航海速力21ノット。毎週1便往復しているスケジュール。毎週火曜午前11時30分に神戸港と大阪港を交互に出港し、上海港には木曜午前到着。上海港は土曜正午に出港し、月曜午前8時30分に神戸港か大阪港に入港する。 T/Sトライアル事業は、神戸市のアジア広域集貨プロジェクトチームが推進している事業。今回のフェリー・アンド・レー

ルの実施は阪神国際港湾会社の支援の下、荷主は高級洋傘など手がけるムーンバットで、物流は上組が担当した。ムーンバットはこれまで、中国生産の製品をコンテナ船で横浜港に揚げた後、埼玉県内の指定倉庫に陸送していた。しかし、ムーンバットは自然災害の増加による単一港湾利用のリスクが高まっているため、BCP対策として実施。京浜港の慢性的な渋滞やトラックドライバー不足、ドレージ不足が深刻化しており、貨物を速やかに輸送できる手段の確保も狙った。 上海から新鑑真で輸送したコンテナ貨物を神戸港で荷役した後、神戸貨物ターミナル駅に陸送した。日本貨物鉄道(JR貨

物)の貨車に積み替えて、東京貨物ターミナル駅に輸送し、埼玉県内の指定倉庫まで陸送した。輸送期間は3日間。空バンは東京港で返却したが、これは中日国際輪渡に出資しているコスコのコンテナ船を活用できたため。フェリーとJRによる、T/Sトライアルが成功し、「関西だけでなく関東の貨物も獲得していきたい」(村上光一社長)と、今後の活用を期待している。 また、昨年9月の台風21号では関西国際空港が一時閉鎖。中国からの訪日観光客が航空機で帰国できなくなり、中国総領事館からの要請を受けて、帰国できるように船室を確保。出港の前日に船内に宿泊できるようにも対応した。その結果、中国総領事館との連携も強化され、今後フェリーを活用した青少年交流ツアーなどが企画されているという。

稲葉徹志社長㊨と堀口純英専務取締役

丸山英行社長

村上光一社長

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(8) 第2部 関西物流特集2019 2019年9月4日(水曜日)

 長期的には、関西エアポートの運営権の最終年度である59年度時点の姿に関して、関係事業者へのヒアリングを実施。より効率的なオペレーションを可能とする、より品質向上につなげることができる貨物施設配置のあり方なども検証していく。

19年上期発着、過去最高

 関西エアポートによると、2019年上期(1~6月)の関西空港における発着回数は前年同期比7%増の10万2329回となり、同期として過去最高だった。国際線旅客便が12%増の7万8173回と全体を底上げ。国際貨物便は8%減の6737回だった。

国際貨物量は11%減の36万6923トン。内訳は、積み込みが15%減の17万3920トン、取り降ろしが7%減の19万3003トン。国内貨物は20%減の7114トンだった。 関西空港において、邦人航空会社で貨物便を乗り入れている全日本空輸は、関西空港からは沖縄貨物ハブ接続ネットワークとともに、関西発は上海線と青島線、関西着は香港線、上海線、大連線、天津線(大連経由)でB767F型機が就航している。8月25日まではB777F型機が成田→関西→上海線で寄港していた。 B777F型機による運航路線は、10月末以降は成田̶上海、成田̶シカゴの2路線となる。

関西空港から北米向け貨物を扱うような場合にも、成田空港へのロードフィーダーサービスでB777F型機への接続も可能だ。ANA Cargoは「大型貨物機ならではのサービス、品質を生かして事業を強化していきたい」とする。 関西空港(関西ウェアハウスオペレーションセンター)では共同事業(JV)のパートナー会社であるルフトハンザ・カーゴのフレーター貨物のハンドリングも手掛けている。 例えば欧州向けはルフトハンザ・カーゴの貨物便、北米向けは自社貨物便に搭載するなど、貨物便活用の選択肢が拡大する。

 中国郵政航空(CYZ)の日本路線は現在、関西-上海・浦東、義烏間の直行便2路線週10便体制だ。上海・浦東線では2006年の就航以来、週5便の供給を維持、継続している。先月下旬には、新たに同-義烏線を開設。通年の定期便とし、週5便(火~土曜日)運航する。日本向けEMS需要の増加に対応するもの。両路線ともに運航機材はB737-400F型機(貨物輸送能力約18トン)。 日本発では引き続き上海線が主力となる。日本地区貨物販売総代理店(GSA)を務めるエアトリビューンの森正男貨物事業本部本部長は「上海線では、B757F型機への機材大型化が検討されている」と説明する。実現すれば、1便当たりの貨物供給量は25トンに拡大する。 上海線では定時運航率の高さが強みだ。「特に電機産業関連で、定期出荷需要がある品目を取り込んでいく」とする。現行便は毎週火~土曜日、関西発8時30分、上海・浦東着9時30分。上海到着後は、中国国内であればロード・フィーダー・サービス(RFS)で主要都市に翌日接

続できる。 関西市場では今年、半導体、自動車関連、工作機械や繊維などあらゆる輸出品目が大きく減少している。「米中貿易摩擦の影響が継続しており、今年下期に向けてもさらなる減速が懸念される。ただ、eコマース(EC)の荷動きは堅調そのものだ」という。「従来の郵便は、エンベロープ型が多数だったが、近年では国際スピード郵便(EMS)の増加で“小口化”している」という変化も指摘する。 「CYZ本社も力を入れる分野であり、今後は一般貨物だけでなくEC関連の需要も同時に取り込んでいく」とする。現状(8月上旬時点)、日本発便の搭載比率は一般貨物が9割、ECが1割。関西発着便では、天津、青島、大連へ路線を伸ばす計画も引き続き検討されている。関西発着便を中心に、今後も日本路線のさらなる拡充が期待される。

防災機能強化対策を実施

 関西エアポートは昨年9月の台風被害を受けて、防災機能強化対策事業に着手。越波防止や浸水被害防止対策、排水機能確保対策などを実施している。今年6月末までに止水板設置や電気室などへの水密扉設置、大型排水ポンプ車の導入を完了した。 1期島国際貨物地区でも浸水防止のためにGSE通路を20センチかさ上げする「保護マウンド築造」が行われており、20年度上期の完成を目指している。医薬品専用共同定温庫「Kix-Medica」についてもコンクリート製の浸水防止壁を設置するなど対策を強化した。災害対策に際して管理機能を担う「カーゴ・オペレーション・センター」を第5国際貨物代理店ビルに設置。貨物エリアの事業者対応の活動拠点として機能する。 

左から関西エアポート航空営業部貨物事業開発グループの新宮早人リーダー、関西空港運用部の野澤浩三調査役、貨物事業開発グループの辻亮太サブリーダー

関西空港、国際物流を牽引

19年上期の発着回数が過去最高を記録した

航空・空港編

 関西国際空港は、「空港コミュニティ」が国際航空運送協会(IATA)の医薬品輸送品質認証「CEIVファーマ」を取得するなど、日本の航空物流をけん引する空港として機能している。昨年9月の台風被害を乗り越えて災害対策の強化、事業継続計画(BCP)の充実にも取り組んでいる。1994年9月4日の開港から25周年を迎えた関西空港。日本を代表する国際拠点空港として、特色ある貨物戦略に期待が寄せられている。

● 中国郵政航空/エアトリビューン

義烏線就航、上海線機材大型化も検討

森正男貨物事業本部本部長

リーダーは「関西空港として長年、力を入れてきた医薬品をキーワードに、関係事業者が協力して認証を取得したことの意味は大きい」と説明。関係事業者が連携して取り組むべき課題、施策に関して「空港コミュニティ」で対応することの重要性に言及する。 貨物地区の動線やトラック待機時間の改善、人材確保、オペレーション自動化、デジタル化などに至るまで、関係者が共通認識をもたなければ実現が難しい案件は多い。CEIVファーマ認証取得をモデルケースとして、「空港コミュニティ」としての取り組みに、さらに力を入れる方針だ。他の空港コミュニティとの連携を通じて相乗効果を見いだすことも視野に入れている。新宮リーダーは「まずは“貨物のオペレーション品質・日本一”という空港の位置付けを一層強固なものとして、“より使いやすい空港”を目指す」と強調する。

コミュニティの役割高まる

 関西空港は、日本で初めて空港コミュニティとして、IATAのCEIVファーマ認証を取得した。「KIX Pharmaコミュニティ」として準備を進めてきたもの。取得事業者は郵船ロジスティクス、ボロレ・ロジスティクス・ジャパン、三菱倉庫、日航関西エアカーゴ・システム、阪急阪神エクスプレス、CKTS。

より使いやすい空港へ

 関西エアポート航空営業部貨物事業開発グループの新宮早人

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第2部 関西物流特集2019 (9)2019年9月4日(水曜日)

 関西支店の車両にはトレーラー(+1)、10トン温調車(Medica号、新型車両)、4トン温調車、可変式ダブルデッキ車両(2WIN)、その他96車両、4トン車、2トン車がある。豊富な車両体制が強みだ。 さらに医薬品対応サービスも特色。医薬品専用の大型車(10トン車)、4トン車を中心に関連物流に対応している。大型空調車はマイナス25度からプラス25度の温度設定に対応。4トン空調車は医薬品輸送に際して需要の高いプラス5度および同2~8度帯を中心とした温度設定

に加えて、マイナス25度からプラス25度の設定も可能だ。 従来の大型空調車は、関西エアポートやCKTSによる関西空港の医薬品共同定温庫「Kix Medica」、「Kansai Airports」、「CKTS」のロゴを施しており、「Medica号」と名付けて運行。さらに6月に医薬品専用大型車を2台導入した。 製薬会社との直接契約のもとでのオペレーションも手掛けている。製薬会社のニーズを直接

把握できる機会となっているという。田中支店長は「物流会社やメーカーをはじめ、さまざまなお客さまの要望、問い合わせが、われわれのサービス品質向上の良い機会につながっている」と説明。社員教育を含めたソフト面の品質向上にも余念がない。

エアーポートカーゴサービス

高品質で航空貨物業界に貢献 エアーポートカーゴサービス(ACS)は西日本地区では関空事業部、阪神・中部事業部の2事業部体制を敷いている。関空および対岸のりんくうタウンが関連する事業は関空事業部が所管している。関空事業部の陣容は約500人。4グループ体制をとっている。 業務内容・分担は▷第1Gは航空会社上屋での輸入貨物ハンドリング業務、フォワーダー向け人材派遣、動植物検疫業務▷第2Gは輸出入共同上屋でのハンドリング業務、フォワーダー上屋での輸出貨物手倉業務▷第3Gは特定顧客向け貨物ハンドリング業務▷第4Gは航空会社上屋での輸出貨物ハンドリング業務。

 西日本地区を統括する池田眞澄取締役執行役員西日本担当関空事業部長は「人財採用が厳しい環境にあるが、中途採用、新卒採用ともに力を入れている。新卒採用については関空地区の人事担当課長が幅広い地域を対象に大学、短大、専門学校、高校をはじめ、さまざまな教育機関にお伺いし活動を展開している」と話す。西日本全体を俯瞰しながら、適切な人財配置を意識して採用活動に取り組んでいる。 6~7月は全社的に「品質向上運動」月間と定めて、品質への意識をより高める期間と位置付けている。今期は西日本地区全体で「指差呼称」を重点ポイントに置き、現場やオペレーシ

ョンごとに、より注意を行っている。 池田取締役は「品質向上運動期間は、安全や品質に意識を傾けることの重要性を再確認する機会。一人ひとりが日々、意識を高めながらそれをオペレーションに生かすことが何より重要だ」と強調。「お客さまにとって最良の品質を社員全員で提供していく」と話す。

平野ロジスティクス

関空内に保税倉庫を開設 平野ロジスティクス関西支店は、航空会社の空港間保税転送(OLT)、フォワーダーの貨物の空港-周辺拠点間の集配サー

ビスなどに加えて、関西空港内の保税倉庫を活用した新規サービスに着手した。7月1日付で大阪税関から保税蔵置場許可を

取得。現在は主に輸入貨物の取り扱いを行っている。将来的には輸出貨物の取り扱いも開始する方針だ。休日対応も視野に入れている。

 同倉庫は関空国際貨物地区の第2国際貨物代理店ビルに位置。保税蔵置場面積は746平方メートル(うち屋外268平方メートル)。フォワーダーをはじめとする顧客にとっては、航空会社からの貨物の引き取りやダメージチェック、ブレークダウン、配送などに至るまで、通関以外の業務を委託できる。田中基康西日本担当営業部長兼関西支店長は「貨物のピックアップ、保管、配送サービスに至るまで、一連の対応が可能だ。お客さまにとって、より効率的なサービスを追求していきたい」と話す。

りんくう国際物流センター

働きやすい環境を追求 空港施設(本社=東京都大田区)が運営する、りんくう国際物流センターは関西空港の対岸、りんくうタウンに立地している。阪神高速湾岸線泉佐野南出口から約500メートル。関西空港とともに、各地へのアクセスに優れた物流施設だ。施設概要は、物流棟が4階建て、事務所棟が6階建て。延べ床面積は5万2815平方メートル。関西空港と一体となって、西日本地域の航空貨物業界を支えている。 花畑雄士りんくう国際物流センター長代理は「快適な環境、安全性、効率性を重視している」と話す。水井航大氏は「働きやすい環境整備の一環として、物流棟にもLED照明を導入した」と説明。空調管理も自社設

備に移行するなど、設備・ 運営を適時見直ししている。 充実したセキュリティーも特色。入居者のTAPA、AEOなどの認証に準拠した施設を提供して い る。共 用サービスとして爆発物検査装置を配備しており、顧客の利用が可能だ。 物流棟はほぼ満床状態。施設の効率運用や満足度向上にも力を入れており、「オフィスには若干の余裕があ

るため、お客さまのお声がけをお待ちしている状況」という。

池田眞澄取締役

新たに導入した医薬品専用大型車

関西空港内に開設した保税倉庫

りんくう国際物流センター

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(10) 第2部 関西物流特集2019 2019年9月4日(水曜日)

富士運輸

医薬品・精密機械輸送を拡充 富士運輸(本社=奈良市、松岡弘晃社長)の関西空港支店は関西空港対岸のりんくうタウンに拠点を構える。車両は大型車50台、中型車5台など。今後の車両増強を備えて第2駐車場も確保した。大型車のうち13台が空調車。医薬品や精密機械の需要の高まりに対応している。 空港関連拠点は、航空営業部

(関西空港内)、関西空港支店、成田支店(千葉県富里市)、セントレア支店、福岡支店という体制だ。 航空会社やインテグレーターの空港間保税転送、空港と周辺拠点間を結ぶシャトル便サービスなどが主要事業。最新車両の導入を進める中で、機械関連をはじめとした一般貨物輸送事業の拡大も推進している。 全社的に高規格大型空調車100台体制を確保。エアジョルダ仕様のローラーベッドを着脱

できる日本初の大型航空ウイング車は、荷台後部からULD搭載が可能。荷役の省力化、ULD搭載効率向上など、効果を発揮している。関西空港支店にも順次、配備されている。 富士運輸は全国の運行車両の位置、貨物積載情報をウェブ上で把握できる自社開発のポータルサイト(docomap JAPAN)を活用している。ヒアリハット地点の通知機能、危険挙動(急減速、急加速、急ハンドルなど)の感知、ドライバーへのフィー

ドバックなどの機能も追加されるなど、日々、機能が向上している。輸送品質の向上、ドライバーの安全確保などに効果を発揮している。 関西空港支店の神野貴士支店長は「全社的にも航空保安・安全講習、危険物講習に特に力を入れている。安全確保を基盤と

して、さらなる品質向上を図り、空港間OLT、シャトル便サービス、一般貨物輸送に至るまで、確実な輸送サービスを提供していく」と強調する。

愛知陸運

労務環境さらに重視 愛知陸運エアカーゴ支店(河里成規支店長)は成田空港営業所、成田空港事務所、羽田空港出張所、セントレア営業所、関空営業所、関空事務所という構成。航空会社の空港間保税転送(OLT)、フォワーダーの空港内-空港外拠点の集荷・配送事業、スモールパッケージ(SP)の輸送まで幅広い貨物に対応し

ている。 西日本地区の中核拠点である関空営業所の車両体制は、96ULD対応のローラーベッド車15台、10トン車7台、4トン車7台。ローラーベッド車を順次、増強する計画だ。 成田営業所、セントレア営業所には上屋施設が整備されており、現在、関空営業所としても

上屋施設の確保を検討している。空港内あるいは対岸のりんくうタウンなど空港外を含めた形での施設確保を検証する。 ドライバーをはじめとする社員・スタッフの働きやすい労働環境整備の取り組みを継続、重視しながら事業拡大に取り組んでいる。労務管理の確実な履行などを含めて基本を徹底している。搬出入作業員(リリーフマン)の配置など、バックアップ体制を含めた形で労働環境を整備。安全、品質を最優先としながら、顧客満足度向上につなげている。西日本地区の事業強化の一環として、福岡にエアカーゴ支店としての拠点開設も視野に入れている。 河里支店長は「車両増強、拠点拡大に伴ってドライバーや運行管理者の確保も重要な施策となる。より働きやすい環境を整えると同時に、社内研修を通じて安全、品質のさらなる向上に務めていく」と強調する。

フジエアカーゴ

業容拡大、3部体制に フジエアカーゴ(井上博登社長)は業容拡大を受けて業務部、直轄営業部、保税業務部の3部体制を整備した。通関関連業務やトラックによる集配事業は直轄営業部のもとにある各支店・営業所が、貨物の内容点検業務などは保税業務の空港業務課が担当している。 現在のフジエアカーゴの陣容は約40人。直轄営業部(重谷将

哉部長)には、関空通関営業所、関西空港支店、セントレア営業所、成田空港支店、成田通関営業所がある。九州地区の需要に対応するために福岡空港支店開設準備室を設置した。福岡空港支店は9月末の開設を計画している。 保税業務部(清原伸尋部長、関西空港支店長を兼務)は内容点検業務などを所管。昨年、違

法薬物を発見したことで大阪税関から表彰を受けた。正確・確実な作業を強みに需要に対応している。 フジエアカーゴは保税転送(OLT)

貨物のハンドリング、空調車や96ローラー車によるトラックチャーター輸送、車両手配、貨物のダメージチェック・内容点検、通関などに至るまで、きめ細やかサービスを提供している。車両は大型空調車、軽(冷凍車)、2トン車、4トン車がある。医薬品輸送、精密機械輸送などの需要も高まっているため、このほど高規格大型空調車を追加導入した。 通関とトラック輸送を組み合わせたサービスも特色だ。通関作業とトラック輸送をワンストップ対応できる。グループ会社である富士運輸の長距離拠点間輸送に接続することもできるなど、さまざまな需要に確実に応える体制を整えている。 清原支店長は「輸出貨物の集荷、輸入貨物の配送、通関、内容点検といった航空貨物に係るさまざまな作業に柔軟、そして確実にお応えしていきたい」と説明する。愛知陸運エアカーゴ支店関空営業所 フジエアカーゴの空調車両

関西空港支店の大型車両

神野貴士支店長

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第2部 関西物流特集2019 (11)2019年9月4日(水曜日)

鴻池運輸

医薬・空港も軸に事業拡大 鴻池運輸は、関西地区には国際物流部門として大阪港支店、国際物流関西支店、国内物流部門として関西支店、和歌山支店、西日本支店、関西中央支店(以上、大阪市)がある。流通センターや配送センター、物流センターなどはKONOIKEグループで14拠点を展開している。 海外拠点に関しては、米国やメキシコ、中国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、カンボジア、シンガポール、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インドに現地法人や支店、事務所など33拠点を展開している。本社組織としては主に海外統括本部インド統括本部が所管。現在、上野山和希海外統括本部長は、最注力国にアセアン諸国を掲げ、シンガポールに駐在し、陣頭指揮を執っている。

 上野山本部長は海外事業戦略として①海外-海外の物流ネットワークの拡充②鴻池運輸が得意とする製造業・サービス業・構内作業などの請負事業を切り口とした事業展開——

を挙げる。 重量物や設備据え付けといった事業も積極的に取り込むとともに、既存のフォワーディング事業も含めた総合力を生かして、海外事業比率を高める方針だ。 また、グループ会社に鴻池メディカル(本社・東京都千代田区)があるなど、医薬品関連物流も鴻池運輸の特色のひとつ。

本社組織にはメディカル本部が設置されている。 コウノイケ・エアポートサービス(本社=東京都大田区)、コウノイケ・スカイサポート(本社=大阪府泉佐野市)などといった空港でのグランドハンドリングサービスに長けたグループ

会社もある。本社組織としては空港本部がこれらグランドハンドリング業務を所管している。 「メディカル」「空港」も鴻池運輸の強みだ。海外でも「メディカル」「空港」という強みを生かして新規事業開拓、事業拡大を図っていく方針だ。

ワコン

GDPとBCP対策を強化 ワコンのPACKPRO事業部は関西国際空港の国際貨物地区にある関空ロジスティクスセンター(関空LC)と成田ロジスティクスセンター(千葉県山武郡芝山町、成田LC)で航空貨物に特化した輸出梱包、保税蔵置サービスを手掛けている。今年7月からは、新たに業務管理基幹システムを稼働させており、貨物の入出庫、作業の進捗管理などを統合的に行うことによって、顧客サービスをこれまで以上に向上することができると考えている。 昨年12月に日本版GDP(医薬品の適正流通基準)ガイドラインが発出された影響もあり、荷主からの貨物の温度管理に対するニーズは厳しくなってきている。貨物を一定の温度で輸送するための定温梱包には、資材の選定などの梱包設計だけではなく、作業と記録保管の確実性も求められる。今年から稼働させている業務管理基幹システムには、貨物を保管する温度や蓄熱材、蓄冷材の調温を指示したり、梱包作業の記録をより確実に行ったりできる機能も付与されている。 また、ワコンでは実際に現場で作業を行うスタッフの育成にも力を入れている。同社では、年に

一度、関空LCと成田LCの全てのスタッフを集めて合同研修を実施している。スタッフの技術の熟練度を確認するとともに、スキル向上に向けた取り組みを行っている。そのほか、3カ月ごとに両拠点のスタッフを1人ずつ交換するなどして、それぞれのセンターの技術を学ぶ機会を作り、レベルの均質化を図っている。 こうした活動は、昨今、重要視されているBCP(事業継続計画)対応にも生かしている。神田崇裕営業統括責任者は「成田LC、関空LCの両拠点で同じ品質のサービスを提供できることが強み」として、「どちらかの拠点が災害に見舞われても、すぐにもう一方の拠点でバックアップができる」と語った。その上で、「昨年9月の台風21号によって関空LCが被災した

際にも、その強みが発揮された」と振り返った。 現在、同社が取り組んでいる課題は、確実、かつ低コストな高性能定温輸送ボックスの開発だ。同ボックスには、今年6月から同社で製造を開始した真空断熱パネルを使用していく予定だ。従来の断熱材の10倍の性能を有している真空断熱パネルと専用の蓄熱材を組み合わせることによって、長時間でも温度を維持することができるとしている。 同社では、同ボックスについて、包装貨物の評価試験規格において世界各国で採用されているISTA(国際安全輸送協会)の国際規格の1つである「IS TA7D」で定められている環境温度下でのバリデーションを取得する予定だ。同社は、従来のシミュレーション(温度予測)による梱包設計と併用しながら、バリデーション済の新商品についても幅広く顧客の利用につなげていく。

関空ロジスティクスセンターベトナム現地法人、ANPHA-AG JOINT STOCK COMPANYの物流施設

グランドハンドリングをはじめ空港関連事業を強化している

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(12) 第2部 関西物流特集2019 2019年9月4日(水曜日)

商船三井ロジスティクス

地方空港・港活用で輸送トライアル 商船三井ロジスティクスの関西支店は6月から、BCP(事業継続計画)の一環として顧客と関西以西の空港や港を活用した輸送トライアルを実施している。 同社では、昨年9月の台風21号による関西国際空港の被災時に、同空港から輸出する予定だった貨物を北九州空港などから輸出した。昨年の台風を経験したことで、現在でも顧客からはBCPに関する問い合わせが増えているという。そのため、同トライアルは、現場の作業者や顧客に代替輸送のオペレーションを思い出してもらうことも目的とする。 台風による関空被災を受けて、代替輸送のため、成田空港や中部国際空港に貨物が集中した。これにより、両空港ではターミナルで貨物を受け入れられない状況となった。また、空港までの横持ちトラックの不足も起こった。その中で同支店では、北九州空港からの輸出で関西以西の地場トラック会社を利用し、トラック不足の問題を解

決した。 平野資富関西支店長は輸送トライアルについて、「緊急時に備えて現場作業員に慣れてもらうこと、顧客自身にも関空発とのリードタイムの違いなどを思い出してもらう必要がある」と話す。今後も北九州空港や博多港などを利用したトライアルに取り組む計画だ。 現在、同支店の売上高の構成は航空で50%、海上で45%、ロジスティクスで5%を占める。今期からスタートした同社の中期経営計画(2019年4月~22年3月)にのっとって、海上輸送と海外拠点を絡めたコントラクトロジスティクス(CL)の拡大に取り組む。 営業面では、今年度、化学品、自動車関連部材を強化している。化学品については、医薬品などを含めて深耕セールスを積極的に推進する考えだ。自動車関連では、自動車メーカーだけでなく、関連するサプライヤーなどにも営業範囲を広げていく。 この数年、同支店では半導体

関連やスマートフォン関連部材が取扱量の6~7割を占めてきた。 ただ、今年度は半導体市場の減速により厳しい状況ではある。平野支店長は「新しい産業分野に裾野を拡大する良い機会と捉えている」と話す。ロジスティクスの割合を上げるためには、得意とする半導体関連のFOBに関わる作業からCLの拡大を進めていく。 人材育成にも力を入れていく。「取扱品目が多岐にわたり、海上も航空もロジも経験できる土壌だ。どこにいっても、活躍できる人材を育てていきたい」と平野支店長は話す。今後も人材の育成を続けていく方針だ。

築港

台風被災から復旧、倉庫も増加 危険物の総合物流業を展開する築港(本社=神戸市、瀬戸口仁三郎社長)は、昨年の相次ぐ台風で危険物倉庫が被災するも復旧させ、災害対応強化を図っている。一方、危険物倉庫の需要増に応じて関東、関西で倉庫を増加するなど、市場ニーズへの対応も進めている。 昨年、神戸には8月の台風20号、9月の21号と台風が多く襲来した。築港は神戸ポートアイランドに、危険物、毒劇物に対応する主力の化学品センターを置く。台風20号、21号と相次いだことで、倉庫内の貨物は大きな被害を受けた。温度管理もできる定温倉庫だったが、電気設備が被災した。同センターは約1カ月の休業を余儀なくされるほどだった。だが、顧客のサプライチェーンを維持するため、貨物は横浜化学品センター、名

古屋化学品センターなどで受け入れて対応。10月末にはサービス再開にこぎ着け、昨年のうちにもとどおりに復旧させたという。 台風の再度の襲来に備えて、神戸港の化学品センターでは高さ2メートルの止水板を周囲に設置した。自営倉庫と神戸市の賃貸倉庫があるが、神戸市からの予算協力も得て台風対策を施したという。貨物についても、顧客からは台風前に輸送してほしいとの依頼があるなど台風シーズンを避ける傾向が出ている。仕出港も、神戸だけでなく、他港から分散して出すことも検討している。 また築港は、危険物倉庫の需要に応じるため、新しく倉庫を開設している。昨年10月は、千葉県市原市に「市原倉庫」を開業した。日本貨物鉄道(JR貨

物)の子会社が建設した倉庫2棟を借り受け、危険物専用倉庫として単独運用。倉庫面積は2000平方メートル。今年2月には、神戸市の遠矢浜倉庫に第3倉庫を竣工させた。倉庫面積は1000平方メートル。いずれもすぐに満床になるほど危険物倉庫の需要は高い。 最近では、危険物はリチウムイオン電池関係の問い合わせが多く、潤滑油やペイント類も堅調であるが、米中の貿易摩擦や日韓の貿易動向など影響してくると見ており、「今後の動向は読みにくい」(芝好俊郎常務取締役経営企画部長)と難しいようだ。 同社は2年前にベトナム・ホーチミンに現地法人を開設。今年から危険物混載サービスで、ベトナム向け直航混載を自社化した。現地では危険物倉庫を借りて対応している。 このほか、IT(情報技術)化への取り組みも進めている。トラック予約システムのトライアル運用を神戸ポートアイランドで実施中。トラックの積み降ろし時間を前日までに予約できたり、ドライバーがスマートフォンで荷役状況や荷役順番がわかるようにしている。渋滞解消や効率化を上げるためで、ドライバーからの反応も好評だという。神戸だけでなく、今年中に横浜や名古屋にも展開していく方針。

南海エクスプレス

医薬品強化で東京・葛西LC提案 南海エクスプレスの西日本営業部の管轄範囲は沖縄県までを含めた愛知県以西だ。同社の2018年度の航空輸出貨物の取扱量は前年度を上回り、好調に推移した。なかでもTC2向けの建設機械関連や輸送機器関連が好調で、取扱量の増加に大きく貢献した。菅原浩一西日本営業部長兼ソリューション営業グループ長は「今年もこれら貨物は堅調に推移しており、取扱量はついては昨年並みになりそうだ」と話す。 同社の今年度の営業の重点産業分野は医薬品だ。今年4月には西日本営業部にソリューション営業グループを新設。関東、関西で医薬品関連の取り扱いの拡大に注力している。特に、東西で連携して昨年11月に開設し

た、同社の医薬品専用の物流施設「葛西ロジスティクスセンター」(東京都江戸川区、葛西LC)の有効活用、営業強化を推進している。 葛西LCは同社初の関東の自社施設であり、同社初の医薬品専用の物流施設でもある。6階建ての多層階型物流施設で、2~4階は医薬品を取り扱うメディカルフロアとし、GDP(医薬品の適正流通基準)に準拠した3温度帯定温設備の仕様とした。2階に中温庫(20度)、冷蔵庫(5度)、冷凍庫(マイナス20度)を設け、3階は冷蔵庫、4階は中温庫だ。成田空港まで車で50分、羽田空港まで20分の立地だ。 現状、西日本営業部では航空輸出貨物の取り扱い増は、建設

機械関連や輸送機器関連がけん引する一方、医薬品関連の取扱量の拡大が課題と認識している。ただ、同グループの設置により、関東だけでなく、西日本の顧客に対しても葛西LCの活用を推進していくことができる。葛西LCでは医薬品やその原料などの輸入貨物を中心に保管を行っていく。同グループではまた、動物輸送など特殊案件も対応している。  同部の航空貨物輸送では、航空会社から一定のスペースを確保するブロック・スペース・アグリーメントを実施してスペース確保につなげている。現在、シカゴ、上海、ソウル向けに契約している。常に一定のスペースを確保できる同サービスをBCP(事業継続計画)にもつなげている。 海上では、堺ロジスティクスセンター(大阪府堺市堺区)で貨物を集約して、コンテナ詰めして輸出するなどロジスティクスサービスも提供している。菅原部長は「西日本営業部は、これまで輸出を中心に南海エクスプレスの収益獲得をけん引してきた。今後は医薬品関係をはじめ、輸入関係の顧客、貨物の確保とロジスティクス事業の収益性向上を図っていく」との方針を示す。

にしてつ

ゲートウエー化でシェア拡大へ 西日本鉄道国際物流事業部(にしてつ)は第15次中期経営計画(2019年4月~21年3月)で、航空、海上ともに重点拡大仕向け地を定めるとともに、現地でもゲートウエー機能の強化に取り組んでいる。航空では独フランクフルト、米ロサンゼルス向けのシェア拡大を目指す。 西日本営業部営業課の白石健課長は「昨年度は航空輸出の取扱量は増えたものの、スペースの確保に苦慮し、思うように伸ばせなかった。今年度は品目別でのシェア拡大に取り組みたい」と話す。同部は、航空について名古屋から九州までを管轄しており、航空輸出で半導体関連や電子部品関連の取り扱いが多い。ただ、今年度はこれらの市場の冷え込みで、関連部材の取り扱いが減少した。現在、航空

では、航空宇宙関連、アパレル、電気自動車(EV)関連部材の取り扱いに力を入れている。 海上では今年度、輸出貨物取扱量の2桁増を目指している。今年度は新たに営業強化のため、企画販売課を設置。物量増に向けた営業戦略を展開している。同課傘下に関東、関西それぞれで企画販売係を設け、両拠点で協力して案件の取り込みを拡大する。西日本海運統括営業所は関西から九州までを管轄し、工作機械や液晶フィルムなどの輸出を多く取り扱ってきた。今年度、力を入れるレーンはアジア/日本発の東西航路だ。海運営業部西日本海運統括大阪海運輸出営業所の川上英生所長は「航空と同じく、グローバルフォワーダーとして基幹航路での存在感を高めていく」と話す。

 ロジスティクス事業は、自社倉庫のりんくうロジスティクスセンター(大阪府泉佐野市りんくう往来北)、西淀ロジスティクスセンター(大阪市西淀川区千舟)で満床状態が続いており、外部倉庫も積極的に活用してビジネスを拡大する方針だ。今後、自社倉庫は改修などを計画的に進め、安全面、サービス面の強化を図る。ロジスティクス営業部西日本物流統括課の酒村貴之課長は「倉庫管理システム(WMS)について、今後も顧客のニーズに合わせて改良を重ね、サービスの向上と効率化を進める」とした。 業務効率化では、航空輸出の通関業務で顧客から提供されるデータから通関関連書類を自動作成するシステムを導入している。昨年度は西日本営業部で、書類の作成からNACCSの送信までを自動化したシステムを利用し始めた。現在、同部の通関件数の2割ほどで適用してい

る。顧客から受け取ったデータを、同社が統一されたレイアウトにあてはめる仕組みだ。これまで特定の顧客向けに活用してきた。ただ昨年度、情報の並びや量を同社で書き換えることでシステムに情報を反映できる汎用的な仕組みとしたため、特定の顧客に限らずに同システムの提供を推進する。

菅原浩一西日本営業部長兼ソリューション営業グループ長

芝好俊郎常務取締役経営企画部長

(写真左から)西日本営業部営業課の白石健課長、ロジスティクス営業部西日本物流統括課の酒村貴之課長、海運営業部西日本海運統括大阪海運輸出営業所の川上英生所長

平野資富関西支店長

ロジスティクス編

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第2部 関西物流特集2019 (13)2019年9月4日(水曜日)

日新

化学・危険品、食品で営業強化 日新は第6次中期経営計画(2017年4月~22年3月)で自動車関連、化学品・危険品、食品を事業の柱として伸ばす。関西では自動車関連のメーカーが関東に比べて少なく、化学品・危険品や食品で物量拡大を目指す。海上輸送では、神戸発露ボストチヌイ経由モスクワ向けの輸送をはじめとする「シベリアランドブリッジ」に加え、6月に試行した中国-欧州向けのクロスボーダー鉄道輸送に日本発を接続する「日中欧Sea&Rail一貫輸送サービス」を利用した関西発シベリア・中国経由欧州向け鉄道輸送の販売を強化していく予定だ。 同サービスのリードタイム(LT)は、横浜港から中国・厦門港経由独デュイスブルク向けの場合で約25日。全て海上輸送の

場合に比べてLTは3分の2ほど、コストは航空輸送の半分以下。鳥尾省治取締役常務執行役員関西支社長は「全て海上輸送の場合に比べて割高のため、現在はレギュラーで利用されることは少ないが、利用者が増えればコストは下がり、活用が増えるだろう」とした。 航空輸出で、清水俊孝航空事業部大阪航空部部長は「当社の現地法人が充実したアジア向けをターゲットに取り扱いを広げたい」とした。増加しているのは和牛など食品の輸出だ。鮮度が重視されるため、航空輸送が利用され、香港や台北向けなどが増加。航空輸入では、大阪を中心に医薬品関連で検査キットや新商品の販売前のストックの需要が高い。ただ、近年は荷主のコスト意識の高まりなどで、

海上シフトが進んでいるという。 ロジスティクスは、昨年から既存施設が満床状態だ。来年初頭には神戸摩耶地区(神戸市灘区)で冷凍倉庫を開業する予定。同倉庫は国内向けの冷凍食品などを取り扱う同社初の冷凍自動倉庫だ。倉庫への入出庫はすべて自動で、設定温度はマイナス18度以下。作業環境が厳しく、人員の確保も難しいため自動倉庫とした。作業以外のオペレーションは隣接の摩耶冷蔵倉庫の従業員が対応する。中嶋粹芳執行役員関西支社長補佐は「摩耶冷蔵倉庫は冷蔵、定温、常温などあらゆる温度帯に対応している。取扱量の多い冷凍倉庫の一体化で効率化を図る」とした。 昨年9月の台風の経験からBCP(事業継続計画)にも力を入れている。今年度は従来よりも詳細なBCPマニュアルを策定した。全社向けに加え、関西版、関東版を作って対応を示した。関西版は同エリアでの大地震、関東版は首都直下型地震、全国版は南海トラフ地震の発生を想定。誰がどの役割を果たすかまで明記した。現場の作業員まで浸透させていく。さらに災害時に倉庫などの状況を遠隔で確認できるカメラを関西は既に14台設置済だ。電話やインターネットの不通時も利用できる無線を十数台今後取り入れる予定だ。

日本通運

関西で勝ち、世界で存在感を 日本通運は創立100周年を迎える2037年で目指す長期ビジョンとして「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」を掲げる。関西では大阪で今年6月、主要20カ国・地域首脳会議(G20)サミットを終えたが、25年の大阪・関西万博まで多くの国際イベントも控える。池田誠専務執行役員関西ブロック地域総括兼大阪支店長は「G20を成功裡に終え、大阪、関西は確実に国際都市の一員となれた。今後も多くの国際イベント開催が控えており、世界中から関西にヒト、モノ、カネ、情報が集まってくる」と述べる。そのうえで、「大阪、関西は間違いなくグローバル都市となっていく。関西経済圏で勝つことが、グローバル市場での存在感につながる。ただ勝つだけでは

なく、どれだけ関西経済圏に貢献できるかも考えていく」とする。 新中期経営計画(19~23年度)で関西ブロックが掲げる数値目標は、同社国内売上高シェアで16%に定めた。18年度のシェアは売上高が14%。各種指標から16%程度が日本での近畿の経済規模と考え、14%から引き上げる。具体的には、電機・電子関連、デバイス関連、半導体関連向けに注力するため、航空輸出の強化や複合店でのハイスペック倉庫を検討していく。電気自動車(EV)関連での取引も拡大しており、好調な産業に注力する。 前中計の3年間では「ONE KANSA I」と「MADE i n KANSAI」を掲げ、陸海空およびグループ会社を含めた組織

の融合、オペレーションの融合、アカウント営業の強化、関西ブロックでの戦略的商品開発に取り組み、一定の基礎ができた。19年度は「ステップア ッ プ」と

「一歩前進」の方針の下、11のプロジェクトに取り組む。 昨年12月には大阪市北区中津で大阪支店の新社屋(6階建て)が竣工した。新社屋には、従来と同様、大阪支店業務支援・営業部門、日通商事大阪支店、日通不動産大阪支店が入居するほか、大阪海外引越支店、日通NECロジスティクスも同居。「ONE KANSAI」で多くの支店が一カ所に集まり、効率的な業務体制を実現した。 新社屋にはまた、大阪支店、大阪航空支店、大阪国際輸送支店、グローバルロジスティクス支店の業務支援部門を集めた。来年には神戸、京都支店も集約する考えだ。実現すれば、関西ブロックの業務支援機能が本当にひとつとなり、「ONE KANSAI」となる。 倉庫の投資面でも「ONE KANSAI」の方針の下、各支店の部分最適の考えから関西ブロックの全体最適の考えで進める。例えば、神戸、京都、大阪の各支店が活用できる共同倉庫の整備を検討している。また、航空と複合店のコラボレーションで3年後には、大阪国際空港(伊丹)近郊に大型倉庫を整備する方向性もある。池田専務執行役員は「投資面では陸海空の融合が十分にできてきた」とし、新中計や長期ビジョンの実現にまい進していく。

丸一海運

危険物倉庫の安全性高める 大阪に本社を置き、危険物の運送、保管を強みにグローバルな総合物流サービスを展開する丸一海運は、昨年の台風21号を機に危険物倉庫の安全性を高める対策を強化している。また、今春、東京化学品センターに危険物自動立体倉庫を建設し、増加する危険物の倉庫需要に対応している。 同社が小口運送需要に向け提供する危険物混載サービスは、阪神から26港、京浜から14港に及ぶ。大阪地区では大阪港化学品センターと木津川倉庫を運営。大阪港化学品センターは大阪南港の先端にある危険物専用倉庫であり、今年45トン型リーチスタッカーを導入し、タンクコンテナにも対応する。木津川倉庫は普通品倉庫で、多目的に貨物を取り扱う。また、岡山県

の水島港玉島の水島港物流センターには西日本最大級の危険物自動立体倉庫を有している。 京浜地区にも2015年に自社倉庫である東京化学品センターを川崎に開設。今年4月、同センターの敷地内に自動立体倉庫を竣工させ、保管能力を3倍に高めた。貨物を専用パレットに積み替えずに収容できる工夫を施し、作業効率をアップさせている。海外ではバンコクに現地法人を置き、日本からタイの顧客まで一貫した物流サービスを提供している。なお丸一海運は、通関と特定保税承認者でAEO認定を受けている。 台風21号では大阪港化学品センターが被災。作業スペースが十分に確保できなくなったため、AEO制度による申告官署の自由化を活用して、東京化学品セ

ンターでも荷受けし、全社総合力で顧客からの要望に対応した。 台風で一部被災したことから、屋根、シャッターを補強、照明もLEDに交換するなど設備の強化を図った。また、BCP対応を見直し、初動対応、貨物の保護、事業の早期正常化を念頭に全面的に対応策を練り直した。特にシステム保全の観点からクラウド化を今年4月に完了し、安定したサービスを提供できる体制を整えた。さらに社内では危機への即応能力を高めるべく実戦的な訓練も進めている。顧客も安全性を最優先しているため、これに応えていく。 今後は、安全性を高めるとともに効率化も推進。バーコード管理などの最先端の手法を取り入れることで効率化と出荷漏れなどヒューマン・エラーを防ぐ。トラック予約のシステム化も検討中。待ち時間短縮により働き方改革といった昨今の社会ニー

ズにも対応していきたいと考えている。「総合物流業としての能力を高めることで、よりお客さまの事業の発展に貢献したい」(清水智志取締役営業本部長)との方針だ。

郵船ロジスティクス

消費財輸入の取り扱い強化へ 郵船ロジスティクスは今年度、西日本営業部で海上、航空ともに輸入案件の取り扱いを増やす方針だ。西日本営業部は近畿から九州を管轄している。北浦剛執行役員西日本営業本部長は「マーケットにおける当社の輸入量が落ちているので、シェアを取り戻す」と話す。 海上輸送では、消費財の輸入案件の取り扱い拡大を目指す。北浦執行役員は「昨年度並みの取扱量を継続したいと考えている。航空については海上へのシフトが目立ち、大口航空貨物の輸送が減ったため、昨年並みの物量は厳しいが、その分を海上で取っていく」と話す。特に大規模な物量の獲得が期待できる消費財関連の取り扱いに注力する方針だ。北浦執行役員は「消費財関連では必然的に中国発の出荷が増えるだろう」とした上で、「中国からの工場移転の動きもあるため、中国発だけの扱いにとどまらず、取り扱いを強化したい」とした。 北浦執行役員は昨年まで台湾に駐在しており、中国からの工場移管について「移管の動きは台湾で強く感じた」と話した。一方、日系の大手メーカーでは東日本大震災などの経験から以前よりBCP(事業継続計画)

として拠点分散していた企業も多いという。「いずれにしても、サプライチェーンの見直しに対応する必要がある」とした。 一方、同社は医薬品輸送ネットワークの構築をグローバルで進めており、昨年9月には関西国際空港で国際航空運送協会(IATA)の医薬品輸送品質認証「CEIVファーマ」を国内のフォワーダーで初めて取得した。関西エアポートが主導する同認証の共同取得に向けた「KIX Pharmaコミュニティ」に参画し、認証取得に取り組んだ。郵船ロジスティクスの各地域のメンバーも参加し、西日本の取り組みとして実現した。 医療・医薬品物流の強化の一環として各地でGDP(医薬品の適正流通基準)認証やCEIVファーマ認証の取得を進めており、海外では、16年11月にアムステルダム・スキポール空港で日系物流企業として初めてCEIVファーマ認証を取得。17年3月には独フランクフルト空港でGDP認証を取得している。また、同社として17年度にGDPに沿った自社基準「Yus-en Global GDP Standard」を策定している。 これら一連の取り組みの中で、関空でもCEIV認証を取

得し、対外的に品質管理の高さを示した。北浦執行役員は同認証取得について、「取り組みが荷主にも理解されており、期待の声をいただいている」と話す。 BCP対応については、日本の地方港から近隣国・地域でゲートウエイとなる大型の国際港湾を経由し、第三国へ輸送するルートの活用を検討している。同社では、自然災害などで通常利用している港から貨物の輸出ができなくなった場合を想定して釜山港や基隆港を経由した輸送ルートを検討した。同取り組みは各事業部で進めており、既に検証を終えている。 業務の効率化については、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入など一部業務の自動化を検討している。業務フローの見直しを行い、業務の分類を行うことで導入の推進につなげていく。

(写真左から)中嶋粹芳執行役員関西支社長補佐、鳥尾省治取締役常務執行役員関西支社長、清水俊孝航空事業部大阪航空部部長

池田誠専務執行役員

大阪港化学品センターは台風被災の復旧後、リーチスタッカーを導入して能力強化

北浦剛執行役員西日本営業本部長

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