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日韓比較・国際知的財産法研究⑹ 資料

国際知的財産訴訟に関する原則(韓国案)(2009年3月26日の韓国国際私法学会で承認されたもの)

目 次

第1編 一般規定第1条(目的)第2条(定義)第3条(適用範囲)第4条(紛争解決合意の方式)第5条(紛争解決合意の締結能力)第7条(外国法の調査と適用)

第2編 国際裁判管轄第1章 総則

第8条(実質的な関連の要件)第9条(被告の常居所地国の裁判管轄)第�10条(登録知的財産権の成立・有効性紛

争の専属管轄)第11条(知的財産権侵害紛争の裁判管轄)第12条(知的財産権契約紛争の裁判管轄)

第2章 国際裁判合意管轄及び應訴管轄第13条(合意管轄)第14条(應訴管轄)

第3章 訴の併合第15条(客観的な併合)第16条(主観的な併合)

第4章 国際的訴訟競合第17条(国際的訴訟競合)

第5章 臨時的処分の国際裁判管轄第18条(臨時的処分)

第3編 準拠法第1章 総則

第19条(準拠法に関する一般原則)第20条(準拠法の合意)

第3章 多数国での知的財産紛争の準拠法第21条(多数国での知的財産権侵害)第�22条(知的財産権侵害紛争に付随した紛

争)第4章 知的財産権契約の準拠法

第�23条(知的財産権の譲渡,担保提供,使用許諾契約の準拠法)

第5章 知的財産権の最初帰属の準拠法第24条(最初権利帰属の準拠法)第25条(当事者間に関係がある場合)

第4編 外国裁判の承認と執行第1章 外国裁判の承認

第26条(外国裁判の承認)第27条(外国裁判と等しい効力がある場合)第28条(損害賠償に関する裁判の承認執行)

第2章 外国裁判承認執行の範囲第29条(承認・執行の範囲)第30条(裁判一部の承認・執行)

第3章 外国裁判承認・執行の手続き第31条(承認・執行の手続き)第32条(知的財産権侵害禁止裁判の執行)

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第5編 仲裁第1章 総則

第33条(当事者の自治)第34条(仲裁地)第35条(一般原則)第36条(他の編との関係)

第2章 知的財産紛争の仲裁適格性第�37条(登録知的財産権の成立有効性紛争

の仲裁適格性)第38条(仲裁適格性判断の準拠法)

第3章 国際知的財産紛争の仲裁合意第39条(仲裁合意の有効性)

第40条(仲裁合意の効力)第4章 国際知的財産紛争の仲裁手続き

第41条(仲裁手続きの進行)第42条(知的財産侵害差止など臨時的処分)第43条(客観的併合)第44条(主観的併合)第45条(裁判手続きとの関係)第46条(オンライン仲裁手続き)第47条(仲裁判断結果の公示)第48条(仲裁判断の取り消し)

第5章 仲裁判断の承認・執行第49条(外国仲裁判断の承認・執行)

国際知的財産訴訟に関する原則

第1編 一般規定

第1条(目的)本原則は国際的知的財産紛争の国際裁判管轄,準拠法,外国裁判の承認及び執行そして仲裁に関す

る原則を決める事を目的とする。

第2条(定義)1.“知的財産”とは発明,デザイン,著作(隣接)物,営業秘密,商標など人間の知的な創作,考案

または使用で発生した無形財産を言う。2.“知的財産権”とは知的財産に付与された権利を言う。3.“登録知的財産権”とは特許等,登録または寄託によりようやくその権利が創設される知的財産権

を言う。その以外の知的財産権を非登録知的財産権と言う。4.“国家”または“国”とは独立された立法機関と司法機関を持った地域または領域を言う。5.“登録国”とは知的財産権が登録されるとか寄託された国または条約の規定により登録や寄託され

たと見る国を言う。6.“保護国”とはその領域において知的財産権の保護を付与するとか保護が要求される国を言う。知

的財産権侵害においてはその権利の登録可否に構わずにその侵害地国を言う。この場合,侵害地になるためには侵害によりその国の市場が実質的な影響を受けなければならない。ただ著作者人格権侵害の場合はその国の内で権利が影響を受けなければならない。

7.“常居所地”とは当事者の主な事務所または営業所を含めて当事者が常に居住している所を言う。法人等,団体の本店所在地または設立準拠法地を含む。

8.“国際的知的財産紛争”とは常居所地国が異なる当事者の間の知的財産紛争を言い,外国で登録されるとか保護される知的財産権と係わる紛争と知的財産と係わった外国での活動により発生する紛争を含む。

9.知的財産権の“成立・有効性紛争”とは知的財産に関する権利の付与,登録,有効性,放棄また

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は取り消しに関する紛争を言う。10.“非交渉契約”とは一方当事者が繰り返し使用のために一定の形式によってあらかじめ作成した契

約の内容によって締結された契約を言う。11.“臨時的処分”とは本案に対する終局的な裁判や仲裁判断をする前に,一方当事者の申し込みによ

り他方当事者に命ずる仮差押,仮処分その他の一切の暫定的な処分を言う。12.“裁判”とは裁判所が下した判決,決定,命令などを言い,臨時的な処分と行政機関が特許無効な

ど事人の間の紛争に対して下した審決その外の決定を含む。13.“先決問題”とは裁判に至るための前提でその問題に関する判断が不可欠だが裁判所などが当該裁

判の注文で明示的に判断する必要がない問題を言う。14.“外国裁判または外国仲裁判断”とは執行国法上,内国裁判または内国仲裁判断と認められない裁

判または判定を言う。15.“承認国または執行国”とは外国裁判または外国仲裁判断を承認または執行する国,あるいは承認

または執行の要請を受けた国を言う。

第3条(適用範囲)本原則は知的財産に関する民・商事紛争(知的財産権の成立・有効性紛争を含む)に適用する.

第4条(紛争解決合意の方式)① 国際裁判管轄合意または仲裁合意は書面により証明されなければならない。② 第1項で規定する書面によると言うことは次の各号の中で何れに該当する場合を言う。

1.書面による場合,合意が持続的に記録できる電子的手段による通信を含む。2.後から参照することができる,その他の通信手段による場合3.当事者たちの間の以前の契約で遵守されて来た慣行による場合4.当事者たちが分かっていたとか分かっているべき慣行に符合して,係わる特定商取引分野で当

該類型の契約の当事者たちが通常遵守する慣行に従う場合

第5条(紛争解決合意の締結能力)国際裁判管轄合意,仲裁合意及び準拠法合意をする行為能力は各当事者の本国法に従う。

第6条(非交渉契約においての紛争解決合意)国際裁判管轄合意,仲裁合意及び準拠法合意が非交渉契約による時には契約の内容を作成してない

当事者の所在地と利害関係,熟練度及び紛争関連当事者と係わる国の利害関係を考慮して合理的な場合に限ってのみその効力がある。

第7条(外国法の調査と適用)① 裁判所または仲裁人は紛争に適用する外国法の内容を職権で調査・適用しなければならないし,

これのために当事者にそれに対する協力を要求することができる。② 外国法の調査に障害があって手続きが相当の間,遅延された場合には裁判所または仲裁人は法廷

地国法を適用することができる。

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第2編 国際裁判管轄

第1章 総則

第8条(実質的な関連の要件)① 当事者または紛争になった事案と実質的な関連のない国は裁判管轄権が持てない。② 次で挙げる管轄原因の中の何れまたはその以上に根拠して実質的な関連があると認めてはならな

い。1.原告の国籍または常居所2.被告の国籍3.被告の類型財産の所在4.法廷地国法に基づいた被告の知的財産権の所在5.被告の商業的または非商業的活動の遂行6.被告の一時的な居所や単純な現存または被告に対する出席要求書の送逹7.紛争の対象である契約を締結するための方式の履行

③ 第2項第3号ないし第5号において当該紛争がその財産,権利または活動に直接的に係わる場合には第2項を適用しない。

第9条(被告の常居所地国の裁判管轄)第10条の場合を除いて被告の常居所地国の裁判所は当該被告に対する一切の知的財産関連訴訟に対

して裁判管轄を持つ。

第10条(登録知的財産権の成立・有効性紛争の専属管轄)① 登録知的財産権の成立・有効性紛争はその知的財産権が登録された国の裁判所が専属裁判管轄を

持つ。②第1項の規定は登録知的財産権の成立・有効性紛争が先決問題として提起された場合には適用しな

く,それに関する判断は後訴で法的拘束力を持たない。

第11条(知的財産権侵害紛争の裁判管轄)① 被告が特定知的財産権に対する主な侵害行為をした国の裁判所はその知的財産権の侵害訴訟に関

して裁判管轄を持つ。この場合その裁判所の裁判管轄は被害がどの国内で発生したかは関係なく被告の侵害行為によるすべての被害に関する請求に及ぶ。

② 被告の行為が被害発生国を志向して行われた時にはその国の裁判所はその国内で発生した知的財産権侵害による被害に関する請求に対して裁判管轄を持つ。

第12条(知的財産権契約紛争の裁判管轄)① 知的財産権の譲渡,担保提供,使用許諾その他処分契約に関する紛争はその知的財産権が利用さ

れるとか行使される国の裁判所が裁判管轄を持つ。② 第1項において複数の国で利用されるとか行使される知的財産権に関する契約の場合に,その中

で1国の裁判所はその国で利用されるとか行使される知的財産権に関する契約の紛争に対してのみ

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に裁判管轄を持つ。

第2章 国際裁判合意管轄及び応訴管轄

第13条(合意管轄)① 当事者たちが特定の法律関係と係わって発生したとか発生し得る紛争に関して特定の国の裁判所

が裁判するように合意した時には,その国の裁判所が裁判管轄を持つ。② 第1項の裁判管轄は当事者が他に合意しない限り専属的な事と見なす。③ 第1項の合意は紛争が係属中の法廷地国及び合意により指定された国の法によって有効な場合に

限ってその効力がある。④ 本条は登録知的財産権の成立・有効性紛争には適用しない。但し,その紛争が先決問題として提

起されるとかその紛争に関する裁判が当事者の間のみに効力を及ぼす事と合意した時にはその限りでない。

第14条(応訴管轄)① 被告が本原則による裁判管轄を持たない国の裁判所に任意に出席して管轄違反を主張しないまま,

本案に関する弁論をした時にはその裁判所は裁判管轄を持つ。被告は本案に関して最初に陳述や答弁をする時点まで管轄違反の抗弁をする事ができる。

② 第13条第4項の規定は第1項の場合に準用する。

第3章 訴の併合

第15条(客観的な併合)① 一つの請求に対して裁判管轄を持つ裁判所は等しい当事者の間にその請求と同一または一連の取

り引きないし侵害行為から始まった関連請求に対してもその取り引きないし侵害の場所にかかわらず裁判管轄を持つ。ただ第11条第2項の規定によって裁判管轄を持つ場合にはその国内で発生した取り引きないし侵害行為に関した請求に限る。

② 第1項の規定は登録知的財産権の成立・有効性紛争に関する訴には適用しない。③ 併合に関する主張は本案に関して最初に陳述や答弁をする時点まで提起する事ができる。④ 併合決定に対する不服はこれができる最初の機会にしなければならない。

第16条(主観的な併合)① 共同被告の中で一人の被告の常居所地国の裁判所はその被告に対する請求と他の共同被告に対す

る請求の間に密接な関わりがあって矛盾した裁判の危険を回避する必要があって,法廷地の知的財産権と他の共同被告の間に実質的で直接的で予測可能な関連がある時にはその国に常居所がない共同被告に対しても裁判管轄を持つ。

② 第1項の規定は原告と専属的な管轄合意をした共同被告に対しては適用しない。③ 第1項の規定によりある国の裁判所に訴が申し立てられた場合,その国の裁判所は矛盾した裁判

の危険をもたらす行為から発生したすべての被害による請求に対してその発生地と関係なく裁判管轄を持つ。

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第4章 国際的訴訟競合

第17条(国際的訴訟競合)① 等しい当事者間で互いに異なる国の裁判所に訴訟が係属され,その訴訟が請求された救済手段と

関係なく同一または一連の取り引きないし侵害行為により始まった関連請求である時には,第1受訴裁判所が優先的に管轄権を行使する。

② 第1受訴裁判所が当該事件に対して裁判管轄を持っていて,また第2受訴裁判所に係属された請求に対しても併合審理などによって第2受訴裁判所国で承認できる裁判を下げると予想される時には,第2受訴裁判所は訴訟を中止しなければならない。但し,第2受訴裁判所国が裁判管轄合意や専属管轄の規定による専属裁判管轄国である時にはその限りでない。

③ 第2受訴裁判所は承認要件を満たす第1受訴裁判所の裁判が提出されれば直ちに訴を却下しなければならない。

④ 第1受訴裁判所の原告が本案裁判に至るために必要な手続きを取らないとか第1受訴裁判所が本案裁判を合理的な期間内にしない時には,当事者の申し込みによって第2受訴裁判所は訴訟を進行することができる。

⑤ 第1受訴裁判所に申し立てられた訴が義務不存在確認の訴で被告が本案に関する最初の陳述または答弁をする前に,履行の訴が第2受訴裁判所に申し立てられた時には第1受訴裁判所の優先的管轄権は否認され,むしろ第2受訴裁判所が裁判管轄を持って第1受訴裁判所国で承認される裁判を下げると予想される時には第1受訴裁判所は訴訟を中止しなければならない。

⑥ 本条を適用するにおいて次の時期に裁判所に訴訟が係属されたことと見なす。1.手続きを開始する書面またはそれに相当する書面が裁判所に提出された時。但し,原告がその

後に書類を被告に送逹するための措置をしてない場合にはその限りでない。2.前号の書類が裁判所に提出される前に送逹されなければならない場合には書類が送逹担当機関

に受付された時。但し,原告がその後に書類を裁判所に提出するための措置をしてない場合にはその限りでない。

第5章 臨時的処分の国際裁判管轄

第18条(臨時的処分)① 第8条ないし第16条の規定による本案の裁判管轄裁判所は当該本案に関する臨時的処分ができる。② 知的財産権登録国または有体財産の所在地国の裁判所は当該知的財産権または有体財産に関して

当該領土に限って効力を及ぼす臨時的処分ができる。

第3編 準拠法

第1章 総則

第19条(準拠法に関する一般原則)本原則に別途の規定がある場合を除き,知的財産権の成立・有効性紛争,権利の内容,消滅,侵害,

譲渡可能性及び譲渡の第三者に対する効力は登録知的財産権においては登録国法に従い,非登録知的財産権においては保護国法による。

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第2章 準拠法の合意

第20条(準拠法の合意)① 当事者はいつでも紛争発生の前後を問わないで紛争の全部または一部に対して準拠法に関する合

意ができる。ただ知的財産権の成立・有効性,権利の内容,消滅,登録知的財産権の登録,譲渡可能性及び譲渡の第三者に対する効力に関する準拠法の合意は当事者間にのみその効力を及ぼす。

② 当事者間の準拠法の合意はその合意以前に発生した第三者の権利に影響を及ぼさない。③ 準拠法合意の成立と有効性は合意によって指定された準拠法による。

第3章 多数国での知的財産紛争の準拠法

第21条(多数国での知的財産権侵害)① 特定できないとか特定しにくい多数国での知的財産権侵害が発生するとか発生する恐れがある場

合には,侵害全体に対して一番密接な係りを持つ国の法による。② 裁判所は一番密接な係りを持つ国を決めるにおいて特に次に記載した色んな要素を考慮しなけれ

ばならない。1.被告の常居所。但し,特定営業所の活動により侵害が起きた場合には該当の営業所を常居所と

見る。2.侵害を起こす活動が主に行われるとか志向された国3.権利者の活動及び投資の程度

③ 第2項によって一番密接な係りを持った国を決めることができない場合には,第2項第1号で決めた被告の常居所がある国が一番密接な係りを持ったと見なす。

④ 本条により知的財産権の侵害全体に対して一番密接な係りを持つ国の法を適用する場合,被告は侵害を起こした活動が影響を及ぼした他の国の法によればその行為が許される事を主張することができる。そういう主張が妥当な場合,裁判所はその他の国での行為を禁止するとか制限することができない。ただ知的財産権が侵害された者の正当な権利を保護するためにそういう禁止または制限が不可欠な場合にはその限りでない。

第22条(知的財産権侵害紛争に付随した紛争)第21条において知的財産侵害紛争に付随して知的財産権の成立・有効性,権利の内容,消滅,譲渡

可能性及び譲渡の第三者に対する効力が共に問題になった場合には第21条で決めた準拠法指定原則による。

第4章 知的財産権契約の準拠法

第23条(知的財産権の譲渡,担保提供,使用許諾契約の準拠法)① 知的財産権の譲渡,担保提供,使用許諾契約の準拠法に関する合意がない場合には,一番密接な

関連がある国の法による。この時,譲受人,担保権者または使用権者の常居所地法が一番密接な関連がある国の法で推定する。

② 知的財産権の譲渡,担保提供,使用許諾の契約関係が不法行為により侵害される場合にもその契約関係の準拠法による。

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第5章 知的財産権の最初の帰属の準拠法

第24条(最初の権利帰属の準拠法)① 登録知的財産権の最初の帰属は各登録国の法による。② 非登録知的財産権の最初の帰属は創作または考案をした者の当時常居所地国などその知的財産が

最初に創作または考案された国の法による。③ 第2項において創作または考案に関与した者が複数である時には当事者間に他の合意がない限り,

その創作または考案及び最初の公表に一番密接に係わった国の法による。④ 第2項及び第3項による準拠法が知的財産権を認めない場合にはその権利が最初に利用された保

護国法による。

第25条(当事者間に関係がある場合)① 第24条において知的財産が契約その他に当事者間にあらかじめ存在する関係から発生する場合に

はその契約または関係の準拠法による。② 第1項にもかかわらず職務発明,職務著作またはこれと類似な関係により発生した知的財産に関

する最初権利の帰属または承継は当事者間に他の合意がない限り,使用者の常居所地国法による。

第4編 外国裁判の承認と執行

第1章 外国裁判の承認

第26条(外国裁判の承認)① 確定された外国裁判は次の各号の要件を全て取り揃えてから承認される。

1.承認国の法令または条約による国際裁判管轄の原則上その外国裁判所に国際裁判管轄が認められること。但し,本原則によって国際裁判管轄が認められる場合には本要件を満たしたことと見なす。

2.敗訴した被告が訴状またはこれに準する書面及び期日通知書や命令を適法な方式により必要な時間的な余裕をもって送逹受けたとか(公示送逹とかこれて似た送逹による場合を除く)送逹を受けてなくても応訴した事。

3.その裁判の内容及び手続きに照らして見てその裁判の承認が承認国の善良なる風俗やその外の社会秩序に反されない事。

② 弁論またはそれに相当する手続きを経って下ろされた外国裁判が第1項各号の要件を全て取り揃えた場合に承認国の裁判所はその裁判の確定の前にあらかじめこれを承認することができる。但し,承認国の裁判所は正当な事由がある時にはその裁判が確定されるまでその承認または執行を保留することができる。

第27条(外国裁判と等しい効力がある場合)裁判上の和解,請求の放棄,請求の認諾など裁判国の法上,裁判と等しい効力が認められる承認及

び執行に対しては本編の規定を適用する。

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第28条(損害賠償に関する裁判の承認執行)① 承認国の裁判所は外国裁判が当事者に懲罰的な損害賠償など実際に受けた損失または損害を填補

する事ではないとか,過度な損害賠償を命じた場合にはその範囲内で裁判の承認または執行を承諾しないことが出来る。

② 第1項において承認国の裁判所は外国裁判が命じた損害賠償が訴訟と係わった費用の填補を含む物であるかその如何を考慮しなければならないし,外国裁判が償還を命じた弁護士報酬その他訴訟関連費用などが過度な場合には,その範囲内で裁判の承認または執行を承諾しないことが出来る。

第2章 外国裁判承認執行の範囲

第29条(承認・執行の範囲)① 承認国で認められることができる外国裁判の効力は裁判国で認めた限度に止まる。② 知的財産権の成立・有効性紛争と消滅または侵害に関する紛争の外国裁判は承認または執行国で

等しい状況の下で類似な法的救済手段を命ずることができる範囲内で承認または執行される。③ 他の国で登録された知的財産権を無効であると言った裁判は訴訟当事者の間でのみに承認または

執行されることができる。

第30条(裁判一部の承認・執行)外国裁判の可分的な一部に対する承認または執行の申し込みがある場合,またはこの原則により裁

判の一部だけが承認または執行できる場合にその一部に対して承認または執行できる。

第3章 外国裁判承認・執行の手続き

第31条 (承認・執行の手続き)① 外国裁判の承認または執行は本原則に別途の規定がある場合を除き,承認国または執行国の法に

よる。② 外国裁判を承認・執行する裁判所はその手続きを迅速に進行しなければならない。

第32条 (知的財産権侵害禁止裁判の執行)知的財産権侵害の禁止を命じた外国裁判(侵害物またはその品物の製造または複製手段の差押え及

び廃棄などの命令を含む)は執行国法の手続きによって,そして執行国で等しい状況の下で類似な救済手段を命ずることができる範囲内でこれを執行することができる。

第5編 仲裁

第1章 総則

第33条(当事者の自治)仲裁人と裁判所は仲裁合意の有効如何または仲裁合意の対象である事件を審理及び判断するにおい

て仲裁制度の主旨により,当事者自治の原則を最大限に尊重しなければならない。

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第34条(仲裁地)① 当事者は仲裁地を自由に決めることができるし,ひいては仲裁地がない事に合意することができ

る。② 当事者の間に仲裁地に関する合意がない場合には仲裁人が当事者の便宜と当該知的財産紛争の諸

般の情況を考慮してこれを決める。

第35条(一般原則)特別に本編で規定されてない事項はUN国際取引法委員会(UNCITRAL)のモデル国際商事仲裁法

(Model�Law�on�International�Commercial�Arbitration,2006年改訂法を含む)による。

第36条(他の編との関係)第2編及び第3編の規定は本編に別途の規定がないとか仲裁制度の主旨に反しない範囲内で本編に

準用する。

第2章 知的財産紛争の仲裁適格性

第37条(登録知的財産権の成立有効性紛争の仲裁適格性)① 登録知的財産権の成立・有効性紛争及びそれに関する無効の抗弁も仲裁の対象にできる。ただ知

的財産権の成立・有効性紛争に対する判断の効力は当事者間のみに及ぶ。② 登録知的財産権に関する権利者その他利害関係人は当事者の同意を得て,当該仲裁手続きに参加

してその成立・有効性紛争に関する主張・立証する事ができる。

第38条(仲裁適格性判断の準拠法)① 第37条の場合のほかに当該知的財産紛争が仲裁により解決できる事項であるかその可否は仲裁地

法による。② 第1項の場合に仲裁地が存在しない場合には仲裁合意の準拠法による。③ 仲裁人または裁判所は第1項の判断をするにおいて被告の常居所地国,その財産所在地国その他

仲裁判断の承認・執行が問題になり得る国の法が当該知的財産紛争の仲裁適格性を認めるかその如何を考慮しなければならない。

第3章 国際知的財産紛争の仲裁合意

第39条(仲裁合意の有効性)① 仲裁合意の有効如何は当事者の間に他の合意がない限り仲裁地法による。② 第1項の場合に仲裁地が存在しない場合には仲裁合意の準拠法による。③ 仲裁合意の取消し・解除及び撤回の効力に関しても前2項による。

第40条(仲裁合意の効力)① 仲裁合意の対象である知的財産紛争に関して訴が提起された場合に裁判所は当該紛争に仲裁適格

性があるとか,その仲裁合意が無効ではない場合にはその訴を却下しなければならない。② 第1項の規定は対世的な効力を持つ登録知的財産権の無効を求める審判請求や訴に対しては適用

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しない。③ 仲裁人は第1項または第2項に規定した手続きが係属中である場合にも仲裁手続きを開始すると

か続行することができる。

第4章 国際知的財産紛争の仲裁手続き

第41条(仲裁手続きの進行)① 仲裁手続きは当事者が合意したところにより進行する。② 仲裁手続きに関して当事者の間に合意がない時には仲裁人は仲裁地法を考慮して自分が適切であ

ると判断するところにより仲裁手続きを進行することができる。

第42条(知的財産侵害差止など臨時的処分)① 仲裁人は緊急に必要であると認める時には当事者の申し込みにより尋問を経るとか,尋問をしな

いで知的財産侵害の中止を命ずるなど臨時的処分ができる。② 仲裁人が臨時的処分をする時には申請者に適切な担保を提供することを命ずることができる。③ 仲裁当事者が第1項の臨時的処分に従わない時には,相手は関係法令によって管轄裁判所に臨時

的処分の執行を申し込むことができる。④ 第3項の申し込みを受けた裁判所は関係法令によって臨時的処分が速かに執行されられるように

しなければならない。⑤ 本条の規定は法廷地国の民事訴訟手続きによる臨時的処分に影響を及ぼさない。

第43条(客観的併合)① 仲裁人は紛争の一意的な解決と手続的経済などの事情を考慮して当事者一方の申し込みがある時

には,仲裁の対象である紛争と係わった紛争を併合して仲裁手続きを進行することができる。但し相手がその併合に対して異議を申し立てた時にはその限りでない。

② 第1項の異議はこれができる最初の機会に申し立てなければならない。

第44条(主観的併合)① 仲裁人は仲裁合意の当事者以外の第三者が仲裁対象である紛争と密接な関連を持っているし,ま

た仲裁当事者一方の申し込みがあった時にはその第三者を仲裁手続きに参加させて手続きを進行することができる。但し相手またはその第三者がその第三者の仲裁手続きの参加に対して異議を申し立てるとか仲裁手続きに参加しない時にはその限りでない。

② 第1項の異議はこれができる最初の機会に申し立てなければならない。

第45条(裁判手続きとの関係)① 仲裁対象紛争に直接係わる知的財産権の成立・有効性紛争に関して対世的効力が認められる裁判

のための手続きが係属された場合には仲裁人は当事者の申し込みにより,その裁判がある時まで仲裁手続きを中止することができる。しかし当事者一方がここに異議を申し立てるとか仲裁手続きがめっきり遅延される恐れがある場合にはその限りでない。

② 第1項の但し書きによって仲裁手続きを進行して仲裁判断をしたが,第1項の本文が規定する対世的な効力を持った裁判が確定された時には,それから1年以内に仲裁人は当事者一方の申し込みに

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よって仲裁手続きを再開して,上記裁判によって以前の仲裁判断を取り消し,新たに仲裁判断する事ができる。

② 仲裁対象紛争と係わる紛争が数カ国にわたって発生してそれに関する訴訟手続きが2国以上に係属された時には,当該訴の受訴裁判所は仲裁判断がある時までその訴訟手続きを中止することができる。

第46条(オンライン仲裁手続き)① 当事者がオンライン仲裁に合意した時には仲裁人は仲裁手続きをオンラインで進行しなければな

らない。② 仲裁人は仲裁手続きの進行上,必要であると判断される時にはオンラインによる画像尋問ができ

る。③ オンライン仲裁手続きで仲裁人が作成する文書と当事者が提出する文書は電子署名を添付しなけ

ればならない。④ オンライン仲裁手続きで仲裁判断をする場合には電子署名を添付したオンライン判断文を作成す

ることと別途に紙面の書面で判断文を作成しなければならない。

第47条(仲裁判断結果の公示)① 仲裁人が紛争に係った知的財産権を不成立,無効または消滅したと判断した時には,当該知的財

産権の登録事務を取り扱う機関に仲裁判断文を付けてこれを通知しなければならない。② 第1項の通知を受けた機関はその主旨を関係公簿に記載してこれを公示しなければならない。但

し,仲裁判断文はこれを公開しない。

第48条(仲裁判断の取り消し)第45条第2項の規定により当事者が仲裁人に仲裁手続きの再開を申し込んだが,仲裁人がここに応

じないとか対世的な効力を持った裁判に反する判断をした時には,当事者一方は管轄裁判所に仲裁判断取消の訴を申し立てることができる。② 第1項の訴は仲裁地国裁判所だけではなく対世的な効力がある裁判をした国の裁判所にも申し立

てることができる。③ 第1項の訴は仲裁人が仲裁手続き再開如何に関する決定をしないまま仲裁手続再開申込日から

3 ヶ月が経過した時にはその日から,第1項に規定した判断があるの時にはその判断日から3 ヶ月以内に申し立てなければならない。

第5章 仲裁判断の承認・執行

第49条(外国仲裁判断の承認・執行)① 外国仲裁判断の承認または執行はその判断が1958年,外国仲裁判断の承認及び執行に関するUN

協約の適用を受けたかその可否を問わず同条約による。② 外国仲裁判断を承認または執行するにおいて承認国または執行国の裁判所は本原則を充分に考慮

しなければならない。


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