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輸出管理実務運用[企業編]�

ウシオ電機株式会社の輸出管理〈1〉ITシステムを活用し、効率的・効果的な仕組みを構築

CISTEC情報サービス・研修部

◇委員会体制で輸出管理を行っているのですね。

 他社の方と名刺交換しますと、「“委員会体制”でどうやって輸出管理を行っているのですか?」と疑問を持たれたり不思議がられることは多いです。たしかに他社の体制を見ますと、やはり専門部署を設けて専門家を配置して行っているところが大半ですからね。 しかし、当社の輸出管理の推進組織である安全保障輸出管理委員会では、委員長(安全保障輸出管理最高責任者)である代表取締役社長のもと、担当役員(輸出管理統括責任者)をおき、実務部隊の委員会事務局を設置しています。これが「管理サイド」です。また、委員長のもとに事業部の輸出管理を統括する委員(事業部内最終責任者)がおります。

「ブロック体制」を導入していますので、東京営業・

大阪支店、御殿場・横浜事業所、播磨事業所、本社の4つのブロックごとに委員を任命しています。その下に、管理責任者(全般担当)を置き、さらに該非管理者、該非判定者と輸出管理事務担当を置いています。これが「事業部・本部サイド」です。 事務局が安全保障輸出管理全般を管理し、委員会や各種会議を運営し、社内審査・申請から企画・教育・監査、米国法対応も行っています。事務局以外の関係者は、他の職務を兼務しているケースがほとんどで、彼らをサポートすることも我々の仕事です。 また、推進組織には事務局長を置いており、委員長・担当役員が承認するリスト規制該当案件は事務局長でチェックを必須としていますし、非該当の案件は事務局長の承認を必要とする等、実質、輸出管理部門を設けている会社と同等の管理ができていると思っています。

 本誌9月号では、輸出管理実務運用<大学編>というテーマで、先進大学にスポットを当ててそれぞれの取組みをご紹介しました。3年ほど前は「なぜ大学に輸出管理が必要なのか?」とネガティブな議論がなされていたことを振り返ると、研究推進の為のリスクマネジメントの一環として、今後は企業並みに管理を推進していく展望が伺えました。 本誌では引き続き、輸出管理の業界でご活躍されている方、工夫されている組織にスポットを当てていきたいと思っております。本コーナーを通じて、読者に効率的な輸出管理を行っている組織の取組みをご参考にしていただくだけでなく、モチベーションアップや新たなネットワーク作りに貢献できればと思っています。輸出管理は自主管理という位置付けや、安全保障という機微な特性から、組織単体では他との情報交換や交流を活発に進めることは容易ではありません。今回の企画が輸出管理の「バランス」を見出すことへの一助になればと思います。 今回、取材をさせていただいたウシオ電機株式会社では、委員会による管理体制で取り組まれていると聞き、どのように進められているのか興味がありましたが、担当メンバーの問題意識が非常に高く、常にアンテナを高くし、問題解決に努めておられる姿勢が窺えました。継続的な努力の甲斐があって、ここ数年、格段に社全体に輸出管理が浸透し、システマティックに実行できるようになってきています。前半では安全保障輸出委員会事務局に伺った同社の取り組みを、後半では取材当日に行われた該非判定研修会の内容を、それぞれご紹介したいと思います。

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輸出管理実務運用[企業編]

・カスタマーブロック・A事業所ブロック・B事業所ブロック・本社組織ブロック

◇安保合同会議や定例会、専門部会を設ける等、色々と事務局が中心となって双方のサイドに働きかけを行っているのですね。

 当社の安全保障輸出管理は、新たな基本方針/行動指針のもと、重要テーマ目的・目標を設定して本格的に取り組み始めたのは約3年前からです。懸案課題の影響評価を行ってテーマを策定するなどISO14001のマネジメント管理手法を一部取り入れています。2009年度から3年間を目途に「安保コンプライアンス経営」のための安全保障輸出管理重要テーマを設けました。事務局で気づいた点や委員会で出された課題を踏まえて、点数法による影響評価を行い優先テーマや課題等を策定しました。

①グループでの安保コンプライアンス体制の構築を目的とした「遵法体制強化」、

②安保グループガバナンスの体制と構築、標準化と効率改善を目的とした「グループ統制の実践」、

③グループでの情報の一元化と共有化を目的とした「相互コミュニケーションの強化」

 3つのテーマをそれぞれ具体化し、年度単位で実施計画を立てて取組んでいます。各会議ではこれらの進捗状況や個別の案件のレビューを行うとともに、意識統一を図っています。 専門部会は、2010年度に課題を完了し解消している「EAR対応部会」を含めて、「役務取引・該非判定精度向上部会」、「標準化・効率改善部会」の3つがあります。遵法懸案等の対策の為に調査、施策の導入等を実現すべく設置し事務局が運営しています。

◇本社だけでなく、グループ会社にも同様に体制整備を行われたのですか。

 2009年6月に策定した「ウシオ安全保障輸出管理基本方針」にもグループとして輸出管理に取組む旨を明記しており、「安全保障輸出管理 行動指針」にも、全グループ会社で輸出管理を実施し、先ほど述べました重要テーマを共有すること、本社とグループ会社間で情報共有をすること、本社からグループ会社へ支援・指導を行う旨を明記しています。「安保グループ会議」と言いまして、本社の基本方針や会議の決定事項等に基づいて意思統一を図ったり、遵法懸案対応など進展させる会議を設けています。とは言っても、課題は山積で、今後の取組むべきテーマは少なくありません。

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◇組織体制を見ますと、事業部・本部サイドの該非判定に重点を置いているように見えます。

 目標の一つに、該非判定の精度を上げることを掲げています。従来は事業部には全般担当と事務担当しかおりませんでしたので、事務局に顧客から該非判定に関する問合せがあった際に、事業部の技術に詳しい人間にこちらからコンタクトすることが出来ずに大変な思いをしておりました。翻って、当時の担当は技術にそれほど詳しくありませんし、人手不足もあって、個々の相談に対して説明は行えるものの、関係者を集めて教育を実施するという時間も余力もなく、困窮していました。そこで2年ほど前から、技術部署の責任者であって一定レベル以上の法的知識と技術的知識を持ち合わせた者を「該非管理者」として社長に任命していただき、外為法と米国再輸出規制の該非判定のチェック体制を強化しました。 また、該非管理者である担当技術部署の部長レベルに「該非判定者」を選出してもらい、社長の任命により該非判定力が本来の技術者のスキルとして認知され始めています。基本的に該非管理者は該非判定者の上長という関係になり、ダブルチェックが実践されます。現在、該非判定者は50名以上が任命されています。該非管理者から提出された該非判定結果は「該非判定責任者」が責任を持って確認を行い、管理責任者(全般担当)は従来どおり、顧客審査や商談審査、該非判定等のCP上で定める必要手続きの検証等を行います。このように、個々に役割を与えて複数の眼で該非判定をチェック、確認責任を明確にすることによって、現場の意識も変わり、該非判定の精度向上につながっています。

◇具体的に何か変化はありましたか。

 後ほど説明させていただきますが、事務局が運営している社内の「ポータルサイト<安保総合窓口>」にこれら担当者リストを掲載し、社内での問い合わせ先を明確にしています。また、異動等の際には担当者が抜けてしまうことがないよう次の担当者を任命し、リストを更新しています。社長命令によ

り、各事業部・各部門の該非判定の責任者・担当者を配置したことにより、これまで以上に該非判定に対する彼ら自身の責任感や意識が高まったように感じます。 これらは、我々事務局が定期的に教育を行う中で、担当者の参加だけでなく、担当者をサポートする人間の参加が増えたことや質問内容、講義後の感想等からも窺えます。

◇現場の業務が増えるわけですが、反発などはなかったのですか。

 わが社の製品や技術はメーカーに直接納めるようなOEM販売は少なくありませんし、微細な加工を施したり高度な処理能力を付加する等、高い技術を追求し続けていくことに社の発展があります。一方で、そのような技術であればあるほど、該当製品・該当技術になりやすいため、わが社の宿命と言いますか、早急に輸出管理に対処する必要がありました。とはいえ、彼ら技術者は該非判定を専門にやっているわけではありませんので「社長に任命されたからやってください」「結果には責任を取ってください」と任せきりにして、製品や技術開発等の本来業務に支障をきたすことは避けなければいけません。一方で、現場である技術部門の該非判定の精度が高くなかったため、それもまた解決しなければならない課題でした。 内部教育や外部研修等のトレーニングの機会を与えたり、該非判定に関する情報を提供する等、地道な方法でしか浸透させられないため、当初は対象者を集めたり教育の意義を分かってもらうのは大変でしたが、事務局人員が増え、今まで個別に行っていた説明をまとまって教育する機会を多数設けることができるようになったこと、委員会組織で委員に事業部長や本部長が就いていますので、輸出管理における業務環境の整備に努めていただいたことが大きいですね。 最近、とある技術部門の責任者に技術提供上(性能向上するプログラムの提供)、手続に問題が発生し注意しなければならない事態が発生しました。この対応において、説明研修会への積極的参加やその

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後の真摯的な対応により、その部署全体の意識が変わり、相談件数増加や適切な実務処理など明らかに改善した事例がありました。他の技術部署へもよい影響が出るなど少しずつですが社内に大きな変化が生まれています。こちらからも継続的に働きかけを行い、一定レベルの知識の維持に努めたいと思っています。

◇ポータルサイトを活用されていると伺いました。

 本社の安保関係者との情報共有を図る「ポータルサイト<安保総合窓口>」と、グループ会社と安保情報を共有するための「イントラ版<安保総合窓口>」があります。2年前に導入したばかりで、どちらも我々事務局が運営しています。後者は、重要テーマのうちの3つ目の「相互コミュニケーションの強化」として位置付けられています。また、日本語版と、海外グループ会社向けに英語版があり、今後は中国語版も設ける予定です。 「ポータルサイト<安保総合窓口>」では、緊急

連絡事項のほか、お知らせが過去2年分見られるようになっており、例えば最近のお知らせでは、9月30日に新メンバーの任命によるリストの更新、事業所における訪問カードの改訂がありました。前者は先ほど述べました役割の明確化、後者は専門部会の

「合同標準化会議」の課題懸案が実現化したものです。個々のコンテンツは、これを見れば輸出管理に関するあらゆる情報が入手できるように、できる限りオープンにし、タイムリーな情報が入手できるように努めています。

◇教育に関するコンテンツが充実していますね。

 優先課題の一つとして、教育の継続を重視しているわけですが、「年間スケジュール」には、我々事務局が行うものと、CISTEC等の外部研修会の予定が入っています。どちらも、受講すべき人間をこちらで指名したり、事業所のほうから「この研修を受けたい」とリクエストをいただく場合があります。外部研修会のほうは、年間の予算が決まっております

ポータルサイト<安保総合窓口> イントラ版<安保総合窓口(和文・英文)>

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ので、基本的には事務局がコントロールするようにしていますが、研修会の内容が担当者の業務内容にマッチしていれば、予算にかかわらず受講させています。 「受講報告書」については、内外の研修会に出席した人全員にその提出を義務付けています。PDFファイルで全員分を掲載しており、こちらを見ますと、受講者の理解できていない点や現場の問題点が把握できますので、その後あらためて事務局が彼らの疑問を解決できるような社内教育を企画したり、浮き彫りになった現場の問題点は、検討会議を設けて然るべき対応をしています。 以前、受講報告書のコメント欄に、「用語索引集の置き場所がわからない」と書かれている方がいました。事業部に項目別対比表と一緒に配布しているのですが、このコメントを機に、ポータルサイト内に「購入書籍管理(保管)状況一覧」を設け、どのブロックで何を保管しているかを明確にしました。 コメントの中でも悲しいのは、費用を出して外部研修会に参加されても、受講報告書で「実務と関係ない内容だった」と書かれると、事務局の情報不足だったと反省しています(苦笑)。

◇教育履歴とテキストも閲覧できるようになっていますね。

・階層別教育(新人・中途採用者教育、役職者候補者、経営層、グループ会社)

・専門教育(輸出管理関係者、営業、技術・開発、資材、管理、CS、製造等への実務教育)

・特別教育(海外赴任者、米国輸出規制、その他)

 上記3つに分けて行っています。各社内教育で使用したテキストをPDF化して年度毎に保管し、関係者が常時閲覧できるようにしています。また、保管したテキストの横に、受講者の役職・氏名一覧をエクセル表で付けています。これを見れば、こちら

で指名していた方が受講したかしていないか、あるいは誰を代理として受講させたかどうか、受講報告書を提出したかしていないかが把握できます。 また、講義の後には受講者から質問を受け付けるのですが、そこで出された質問や、講義前に各人に渡している「質問・感想シート」に記入された質問に対する回答を、後日改めて書面にて受講者に配布しています。また、回答書面をPDF化し、テキストの横に保管し、常時確認できるようになっています。これらは当初は意識していなかったのですが、回数や種類をコツコツこなしているうちに、これまでの実績が自然と教育資料のアーカイブのようになっていますね(笑)。

◇それにしても、素晴らしいサポート体制ですね。

 ありがとうございます。事業部の安保担当者が教育を行う際は、彼らがこのサイトを見て、勉強しながら資料を作成することもあるそうです。一から作成するのは大変ですし、教育内容に差があってはいけませんので、大いに役立ててもらっています。事業部ごとに扱っている製品が異なりますので、全く同じテキストはありませんが、全く違う内容を教えるわけではありませんから。基本は同じです。テキストは作成したら、作成した個人のものにするのではなく、共有してできるだけ良いテキストを使い回したいというのが本音です。 これからの課題の一つなのですが、本日行うような露光部門向けの該非判定研修会は、他の装置を担当されている部門には該非判定そのものの手法は同じなので、参考になりますが、自部門で設計している装置に展開する時にいろいろ疑問が出てくると思います。そこで、今年の秋以降、装置ごとの該非判定研修会を開催したいと考えています。それで、資料が蓄積すれば、手元に置いていつでも閲覧できるよう、装置ごとの該非判定小冊子にして関係者に配布してはどうかといったアイデアもあります。

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◇ポータルサイト内の「懸念顧客検索システム」とはどういうものですか。

 懸念顧客DB(CISTEC顧客情報、MKデータサービス顧客情報、外国ユーザーリスト、当社独自リストからなるDB)を利用して、①懸念顧客かどうかを一度の検索で確認できる、②懸念顧客DB更新のタイミングで自動で既存顧客の検索を行うものです。営業部門の担当者が顧客との契約の前に先ず懸念顧客であるかどうかを確認するために利用します。取引後に、顧客が制裁を受けブラックリストに掲載される場合もあるため、懸念顧客DBが更新されるタイミング

(3,4回/週)で既存顧客の自動検索を実行し、部分

一致、曖昧等ヒットするとメールが管理者に送信され、問題無いか確認作業を行うことになります。膨大な検索結果を簡単に確認できるような工夫もされています。実は2011年10月から本番運用を開始したばかりの仕組みで、専門部会の中の「標準化・効率改善部会」により改善されたものです。グループ会社の顧客情報もDB化しており、自動検索させることにより懸念顧客の一括確認が行えるようになりました。 補足ですが顧客の管理に関しては、顧客管理DBにより管理されており、顧客審査の有効期限が視覚的に分かる仕組みになっており、四半期毎に営業担当者に通知も行う運用になっています。赤色の丸が有効期限切れ、黄色の丸が90日以内に期限がきれるもの、青色の丸が有効期限が91日以上あるもので、赤が取引できない、黄色が注意、青は取引可能と信号機の様に視覚で判別しやすくしており、うっかり期限が切れていたということが起きない仕組みになっています。顧客審査後登録したデータは全て削除できない仕組みになっており、過去の審査履歴の確認も可能となっています。

顧客管理DB

懸念顧客検索システム 検索画面

懸念顧客検索システム 自動照合管理画面

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◇eラーニングの開発にも取組まれたそうですね。

 「USHIO BUSINESS SCHOOL ONLINE」の中に、新しくeラーニングを設けることになり、IT部門から安全保障輸出管理が第一弾のコンテンツとして位置付けられ、ベンダーとともに取組むことになりました。2012年4月から運用予定です。内容は3テーマ(「安全保障輸出管理の基礎・概要」、「安全保障輸出管理のしくみ」、「違反に対する罰則と原因」)です。ナレーションを付け、1テーマ5分程度、全体で20分程度で終了できるようになっています。最後に確認テストを設けており、各テーマの受講と確認テストで一定の点数を採れなければならないと修了条件を定めます。事務局で誰が修了していないかが把握できますので、メールでフォローする予定です。 全社員向けの一般的な内容で作成していますが、今後は部署向けに、装置ごとに「該非判定コース」のような形で展開していければと考えています。仕組みが出来れば、あとはテキストとナレーションを自分たちで作成していけばいいですから。

◇一番、苦労されたことはどんなことでしたか。

澁田氏:私がこの業務に就いた当初は、自分自身も周りも輸出管理業務は初めて担当するという人手も知識も不足している状態で、納入先のお客様と直接該非判定のやりとりをしなければいけませんでした。他社には法令集や項目別対比表を見ずに省令や該当箇所をスラスラ言える位のベテランの方も多く、「所詮は事務担当だから仕方ないが、こんなことも知らないのか」等の厳しいお叱りもあり不甲斐ない思いをしたことも度々ありました。周りに相談できる人も少なく、問い合わせがある度に技術者の方と該非判定について打ち合わせて、毎回勉強しながら対応している状態でしたね。技術者によっては該非判定のスキルがなかったり、安保関係者の異動もあって知識の蓄積が難しい等、然るべき体制ができていない問題が浮き彫りになりました。改善の必要性が認識されたことによって、現在では人数・体制ともに以前よりとても良くなっています。

振り返ってみれば、あの時に苦労しながら覚えた知識のおかげで、現在は社内研修会で講師を勤めたり、後輩の指導を任されるようになったのでしょう。文字通り、血となり肉となっているのかもしれませんね(苦笑)。諸岡氏:安全保障輸出管理は世の中から差別が無くならない限り、永遠に必要なテーマと認識し、よくそう伝えています。メンバーは経験年数が総じて少ない中、努力し着実に前進しているのですが、安保に関する認識度合いの違いはどうしても防げない中、管理強化・維持の難しさを実感します。私も含め経験年数の少ない者では判断等に必要以上の時間を要します。CISTEC殿や㈱東芝輸出管理部 皆様の貴重なアドバイスを戴いたり各種改善を進めてきましたが、なによりもメンバーのモチベーションの維持や、若手の担い手がやりたい!と思える魅力ある部隊(職務)にする難しさを痛感しています。色々と努力、工夫をしていますが大変なところです。また、コンプライアンスを推進する者は、遵法懸案等をいち早く見つけ出し、必要に応じ社長等への報告やその再発防止を実施しなければならないことは言うまでもないですが、指摘される側にとっては死活問題でもあり難しい局面に陥る場合もあります。食い違いが出るとしたら、その多くが当方の説明不足に起因し反省材料は多いです。このためにも策定した教育細則の着実な運用、定期的な教育啓発と底辺拡大活動を強化・継続したく考えています。

◇今後の目標について教えてください。

 一つは、引き続き技術者の該非判定の精度を維持・向上、役務対応強化をしていくことです。また、技術レベルの向上により、高性能・高技術なものが多くなってきているので、装置に該当品を搭載する可能性があります。現在は、新しい高性能なものを組み込む時は必ず該非判定を確認してくださいとしか注意喚起ができません。輸出時に許可が要るかどうかを考えて設計していれば楽なのですが、なかなかそうはいきません。特に、露光部門では内蔵品に性能の高いものを組み込むことがありますので、担当者と1対1で相談させていただいていますが、設計段階で該非を考慮してもらえるような仕組

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輸出管理実務運用[企業編]

取材にご協力いただいたウシオ電機株式会社

安全保障輸出管理委員会関係者の皆様

みが作れればと思います。  実際問題、海外に輸出した製品の内蔵品が故障した場合、内蔵品の輸出許可申請に2ヶ月を要するとすれば賠償問題になりかねません。契約時には少なくとも、製品に該当品が組み込まれていて、許可申請に時間がかかるということを我々はもちろん営業やCSの担当者が認識し、伝えておく必要があります。 二つめは、子会社・グループ会社の体制強化や監査チェック体制の強化です。人数も少なく、専任者を置くことができない規模のところがあります。国内グループ会社は迂回輸出等のリスクも高いので、グループガイドラインを策定、導入を進めたことにより、全件商談審査を行い、該非判定のエビデンスも残り始めたところです。ここも、各社推進者の理解と協力が最も大きいところです。海外グループ会社へのグループガイドライン導入等の取り組みは、地域的に危険なところより順次実施しているところでこれからが本番ですが、外為法の規制範囲での対応以外にも米国法及び在国規制法等もあり、各社の理解と協力がより必須となるところで、力を合わせて推し進めたいところです。 監査については、今は業務監査室が主体になって

実施しています。これが重要課題として残っています。他社の監査手法について情報収集をしていますが、中堅どころの我々では明らかに人員が不足しています。現段階では、教育やガイドラインの導入・運用を行い、それが出来たら監査に取組めるといったところです。 三つめは、反省も含めてなのですが、外部の研修会等を受講しますと、自分一人の勉強では知らなかったことが多々あることに気づきます。「内蔵品であって主要な要素でないリスト規制品=該当ではあるが特例で許可不要」と思い込んでいましたが、特例ではなく運用通達の解釈により非該当と扱うことを学びました。今回の該非判定研修会では、露光装置に関するケーススタディにこの運用通達の解釈が使えるかどうかを説明するためのテキストを用意しています。こうした演習問題を使用した教育はCISTECの研修会<該非判定コース>を参考にさせていただいています。ただ、事業部によって製造している製品が異なりますので、導入の仕方に悩むのですが(苦笑)。今後も、CISTECへの相談や研修会で知識を増やし役立つものは教育に積極的に導入していきたいと思います。 

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ウシオ電機株式会社の社内教育〈2〉技術者向け該非判定研修会

CISTEC情報サービス・研修部

1 研修の経緯と目的 10月3日(月)の午後、説明と質疑応答を合わせて2時間の該非判定研修会が行われました。主に御殿場事業所の露光部門をはじめとする技術者(該非管理者、該非判定者含む)27名のほか、サテライトで横浜・播磨事業所からも技術者や安保関係者が聴講され、全会場の聴講者は40名以上となっていました。事前にテキストと資料データをメールで受講者に送付し、各自PC持参で説明会に参加されていました。 講師である澁田氏に今回の研修会の経緯や目的を伺ったところ、実際にウシオ電機の露光部門で扱っ

 今回の取材先であるウシオ電機株式会社の本社は東京・大手町にあるのですが、10月3日に御殿場の事業所にて技術者向けの該非判定研修会を開催されるとのことで、特別にお願いして御殿場事業所の会議室を借りて今回の取材を行うとともに、同日行われた社内研修会にも参加させていただき、担当者の教育のノウハウやポイントを伺うことができました。 企業の社内研修会でどのような内容の教育が行われているか、そのノウハウやポイントは非常に貴重な情報だと思います。是非、参考にしていただければと思います。 研修会講師を務められたのは、チームの中でも6年半という一番長いキャリアを持つ澁田氏です。同社の輸出管理の中心的役割を担っておられます。

ている装置や技術を演習問題として、項目別対比表の書き方を教育するのは今回の研修会が初めてとのことでした。そのきっかけとなったのが、CISTEC研修会の実務演習コース<該非判定>の2時限目の

「該非判定の演習と解説」であったそうです。CISTECの研修会では、技術者に該非判定の基礎的な内容、項目別対比表の標準的な書き方を理解させることは出来ても、実際に技術者が自身の扱う装置やその関連技術を判定する際、どの対比表を使って、どういったフローで該非判定を進めるべきか理解してもらえないとの着眼から、彼らの扱う装置や技術に特化した該非判定のための教育資料を作成されたそうです。

澁田 亜希子 氏

ウシオ電機株式会社安全保障輸出管理委員会 事務局

[講師]

(輸出管理歴6年半)

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輸出管理実務運用[企業編]

講義内容

・違法輸出に対する罰則・安全保障貿易管理制度の仕組み(日本の法体系)・ウシオ電機が扱うリスト規制品・手順1 該非判定の対象を確認する・手順2 判定項番を探す・手順3 該非判定をする・分割投影露光装置:UX-5582SCの最終的な判定・部分品の輸出・許可の取得について・ウシオの該当品輸出許可マトリクス・最後に

 たしかに、テキストを見ますとCISTEC研修会の実務演習コースの1時限目「該非判定の基礎」と2時限目「該非判定の演習と解説」を凝縮させた構成になっています。それ以外にも様々な工夫が凝らされており、詳細は以下の6つのポイントにまとめてみました。

2 該非判定教育のための6つのポイント[ポイント1]違反による“影響”を真剣に

考えさせる 営業マンやCSの人間であれば、常々から取引先との信頼関係や納入期限に関わっているため違反を起こせばどうなるかは比較的容易に想像がつきます。技術者にそれを求めるのは難しい・・・という声を教育担当者からよく聞きます。今回の研修会では、最初に、もし自社が違反を犯してしまうとどのような影響が出るかを、単に例示するのではなく、

「輸出禁止になれば、売り上げの約半分が輸出であ

るウシオ電機の業績等も影響を受け、研究開発なども縮小せざるを得ない」「包括許可の取消により、許可申請が都度発生しタイムロスが生じて他社との競争に負けてしまう」とできる限り具体的に伝え、技術者に身近なこととして理解させる努力をしています。その上で、経産省が公表している「最近の違反原因分析」の円グラフを示して、違反の8割は該非判定に関わるものであり、判定は慎重に正しく行わなければならないことを説明しています。 また、過去の違反事例を挙げ、警告に至るまでの経緯と警告を受けた後の状況、近況を詳細に伝え、教訓としています。合わせて、違反が発覚した際にウシオ電機として厳格な処罰が与えられることも説明しています。本題に入る前に、こうした違反による影響を真剣に考えさせることで、教育全体を引き締める効果が得られるのではないでしょうか。

[ポイント2]自社が扱うリスト規制品を例示 日本の法体系、引合いから輸出までのフロー、リスト規制一覧を説明した後、ウシオ電機が扱うリスト規制品を挙げて注意喚起を行っています。技術者には先入観で「生物兵器やミサイルに転用されるような製品や技術は扱っていない」と思い込みがありますが、該当となるものを挙げれば、どの項番で規制されていてどういう規制理由なのかを理解することができます。その際、どのような装置に内蔵されているものか、技術は該当していないか、今後の注意事項(内蔵予定かどうか)も合わせて説明しています。

<取扱うリスト規制品を明示>

ポイント:写真を挿入しイメージしやすいように工夫

UAV

項目別対比表の記入要領について説明

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[ポイント3]判定書類の入手方法、データベースの活用

 該非判定のフロー(手順)を説明していく中で、判定に必要な資料(経産省作成の「貨物・技術のマトリクス表」、CISTEC作成の「項目別対比表」)をデータベースのNote内のどこで入手できるかを示したり、専門書籍の保管場所を案内しています。通常の教育ですと判定に必要な資料の名前だけを紹介し、あとは判定者任せにしている内容のものが多い中、ウシオ電機では社内データベースに判定に必要な資料を一纏めにしていることで、判定者が必要に応じてすぐにアクセスできる環境を整えています。データベースは、事務局が随時メンテナンスしているため、判定者は資料が最新の情報に基づいているかどうか迷うことなく、安心して使用することができます。データベースを所持していても、メンテナンスがなされていなかったために技術者が古い資料を使用して判定し、誤判断を招くケースも多々あるものですが、この点の対応がなされています。

[ポイント4]例題に取扱製品・技術を用いて判定の演習

 今回の研修会の受講対象者が露光部門をはじめとする技術者であるため、例題を「分割投影露光装置」としています。実際に製品化されている装置で

<判定資料の入手先も合わせて案内>

ポイント:常に最新版を掲示/掲示場所、保管場所を通知

あり、部分品・付属品、内蔵のプログラム・添付のソフトウェアも判定対象に含めています。 実際、露光装置の内蔵品は該当のものが多く含まれているため、運用通達1- 1(7)(イ)「他の貨物の部分をなしている」(=親貨物と組込み品の関係)、「他の貨物の主要な要素となっていない」(=10%ルール)「他の貨物と分離しがたい」等の解釈を理解させると同時に、実務に応用させていくことをねらいとしたようです。 また、貨物本体の技術、内蔵している部分品の技術の該非判定は、一般に説明が非常に困難とされています。基本ルールは理解できても、実際の該非判定とリンクすることが難しいからです。研修会では、実際に扱っている技術名称を用いて、例題の装置に基づいて説明しています。「貨物の判定項番に対応した技術の項番で判定」や「10%で非該当になった部分品の技術」(役務通達)に関する説明も、例題の実際の貨物と連動させて示したことで、非常に理解しやすくなっています。 果たして2時間以内に無事終わるのだろうかと懸念していましたが、CISTECの研修会のように受講者に時間を与えて演習を解かせた後に解説を行うのではなく、解説をしながら判定要領、用語の解説や注意点、対比表の記入要領を説明していくというものでした。

<受講者の取扱装置・技術を例題に挙げる>

Page 12: ウシオ電機株式会社の輸出管理 · 2016-01-08 · 24 CISTEC Journal 輸出管理実務運用[企業編] ウシオ電機株式会社の輸出管理 〈1〉ITシステムを活用し、効率的・効果的な仕組みを構築

352011.11 No.136

輸出管理実務運用[企業編]

[ポイント5]注意事項と国別許可要否の判断  CISTECの研修会では、該非判定の演習を行った後は、最終的な該非結果を確認して終わります。今回の研修では最終判定を示した後、[注意事項]として、「装置の輸出では運用通達を適用して非該当で輸出できたとしても、装置に内蔵されているリスト規制該当の組込品を修理・保守で単品輸出する際には許可要」となる旨を図解で説明しています。 また、判定の結果、許可要となった品目に対しては、次の段階で許可の取得要領について説明しています。まず貨物と役務の一般包括許可の適用条件やメリット、包括許可マトリクスの見方についても詳しく説明しています。包括許可マトリクスでは、主要な取引が行われている国について明示し、別表第3の国(ホワイト国)以外の別記地域やその他の地域では一般包括が適用できない場合があることにつ

いて注意喚起をしています。更に、一般包括許可が適用できなかった場合の個別許可申請の要領や個別許可申請が必要となる場合には輸出までに時間がかかり、保守がスムーズに行うことが出来ないという問題点などを説明しています。

[ポイント6]該当品「輸出許可マトリクス」の説明

 最後に、「輸出許可マトリクス」(役務も含む)を示しています。この一覧表は他社の資料でもよく見かけるものです。該非判定の結果一覧とともに国別

(ホワイト国/非ホワイト国)にどの許可が適用できるかをまとめています。 今回のように該非判定結果だけでなく、製品ごとの輸出許可の要・不要の判定までの教育を行うことは大変珍しいと言えます。一般的に技術者に要求するレベルは該当か非該当かの正確な判断までです。後で確認したところ説明の意図は以下にありました。 技術者に貨物・役務ごとの許可の要・不要、輸出許可マトリックスの説明を行なう理由は、技術者に自分が購入・設計するものが該当なのかどうか、一般包括許可が適用できるかの判断を設計段階で出来るような知識を持ってもらうためです。 一般包括が適用できない場合は、必要スペックを確認して許可が不要なものに変更可能かの検討もしてもらえますし、適用できない場合は事前にCS、安保など関係者に連絡してもらい、保守の方法を早い段階で決めることが出来るようになります。

<内蔵品の単体輸出の際の注意喚起> <個別許可の要否と注意事項>

<貨物と連動した技術の判定要領>


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