過渡応答を用いた PID制御器のオートチューニング
広島大学 大学院 工学研究院 教授 佐伯正美
2012/5/18 1 JST 「広島大学 新技術説明会」 in Tokyo
目次
1.背景と目的 2.提案法の数値例 3.提案法の概説 4.企業との関連 5.ボイラーベンチマーク問題(記載省略)
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フィードバック制御器の設計 (1.背景と目的)
フィードバック制御 • 工業の製造・製品のいたるところで使われている • 高性能,省エネ、安全などに寄与 • ハードウエア性能を引き出すソフトウエア技術
外乱
制御量 目標値
図1 フィードバック制御系
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制御系設計の難しさ (1.背景と目的)
( )0
( ) ( ) ( ) ( )T TJ x t Qx t u t Ru t dt∞
= +∫最適制御の評価関数
伝達関数 状態方程式
数式モデル
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試行錯誤! (評価関数の重みの修正 モデル誤差による問題)
労力! 時間! モデル化不可能!
制御対象 数式モデル 制御器
過渡応答データを用いた直接設計 (1.背景と目的)
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制御対象 数式モデル 制御器
1sLk e
sT−
+
データに基づく設計 過渡応答データ
( ), ( ), [0, ]u t y t t T∈
データ駆動設計の利点 • プラントのモデリングが不要 • モデル誤差で生じる設計の問題を回避
モデルに基づく設計
「使いやすい制御器設計法」が開発できると期待される.
PID制御器 (1.背景と目的)
• PID制御器
• 簡単な構造 • 現場でPIDゲイン の調整が行える
• 制御ループの80%以上がPID制御器 • しかし,50%は不十分な調整状態
1( )1P I D
sK s K K Ks sτ
= + ++
汎用性が高い
調整が必ずしも容易でない
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, ,P I DK K K
研究目的 (1.背景と目的)
PID制御器の「使いやすい調整法」を与える
使いやすさとは • モデリングや同定が不要 • 評価関数の選定が容易 • 幅広い制御対象に良好な性能を発揮
オートチューニングに利用可能
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提案法による調整手順 (2.提案法の数値例)
Step1) 制御対象が「定常状態」であるとき, 外部入力を加えて,制御対象の 入出力応答 を測定 Step2) 安定度 とサンプリング周波数を指定(容易) Step3) 測定データを用いて,数値最適化による PIDゲインの自動計算
定常状態 時間
u(t)
y(t)
図2 設計に用いる入出力応答
( ), ( ), [0, ]u t y t t T∈
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a
数値例1 (2.提案法の数値例)
3
1 0.5( )( 1)
ssP s es
−−=
+0.3( ) 1K ss
= +
0=
Step2) 設計パラメータの指定
• 安定度 • サンプリング周波数 100点(0.01~100[rad/s])
0.33a = −
Step1)入出力データの測定
( )u t
( )y t
図3 設計に用いる入出力応答
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調整不良のPI制御器 非最小位相 むだ時間系
数値例1; 性能評価 (2.提案法の数値例)
時間応答による評価
( )w t
図4 ステップ目標値(t=0)とステップ外乱(t=50)
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STEP3)数値最適化
0.2197( ) 0.6395 0.64371 0.1
sK ss s
= + ++
図5 目標値応答と外乱応答
数値例2 (2.提案法の数値例)
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プラントの過渡応答データ 新しいPID制御器による応答
雑音なし 安定 雑音有 安定 雑音なし 不安定
各種の過渡応答で良好なゲインが得られた
データ駆動設計法の研究 (3. 提案法の概説)
データ駆動設計の2つの考え方 • モデルマッチング(VRFT, FRIT, …) 一般に評価関数に用いる参照モデルを与える
のが困難、特にむだ時間系など • ループ整形(提案法;DDLS) 一般に古典制御やロバスト制御で有用性が広
く認められている われわれのデータ駆動設計法はむだ時間など
を気にせずに幅広い制御対象に適用できる
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提案法の設計問題 (3.提案法の概説)
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a
Re
Im
( ) ( )P j K jω ω
-1
{ }Re ( ) ( ) ,P j K j a Rω ω ω> ∈以下の制約下で を最大にせよ IK
周波数応答 を用いた設計問題
「安定度制約の下で外乱を抑制せよ」
過渡応答データを用いた条件で表す
( )P jω
図6 安定度余裕とナイキスト線図
過渡応答を用いた制約式の導出 (3.提案法の概説)
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補題1 あるデータ で, ただし, , が成り立たなければ は成り立たない
, , , ,P I I D DT T T TK u y K u y K u y a u u+ + >
1 ,1I D
sy y y ys bs
= =+
( ), ( ), [0, ]u t y t t T∈
{ }Re ( ) ( ) ,P j K j a Rω ω ω> ∈
• この過渡応答を用いた制約式を用いる • 多くの制約式を求めるために,仮想的な過渡応答 データを生成する
0, ( ) ( )
T
Tu y u y dτ τ τ= ∫
仮想的な過渡応答データの生成 (3.提案法の概説)
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フィルタバンクによる疑似周波数応答の生成法 1) サンプリング周波数の設定
2) 組の信号を で生成. ここに、つぎのバンドパスフィルタを 用いる.
, 1, 2, ,i i nωω =
nω
1,2, ,Fi i
Fi i
u Fui n
y F y ω
= ==
4
2 2
2( ) , 1, 2, ,( )
ii
i i
sF s i ns ω
αωαω ω
= = + +
( )( )
( )
*
* *
*
0.05 0.05
0.05 1
1 1
α
α α α
α
<= ≤ ≤
<
* 2
iTπαω
=
図7a ひとつのバンドパスフィルタのゲイン特性
1, 0.01kω α= =
図7b ステップ応答
アルゴリズム (3.提案法の概説)
Step 1) サンプリング周波数と安定度を与える Step 2) 定常状態で外部信号を与えて、入出力応答を1回測定 Step 3) 測定信号から,「フィルタバンク」を用いて, 多数の疑似周 波数応答を生成 STEP4) 安定度制約式の係数を計算 STEP5) 安定度制約下で積分ゲインの最大化を線形計画法で解く
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以下の線形制約式の下で を最大にせよ ただし、
, , , ,P I I D DT T T TK u y K u y K u y a u u+ + >
IK
, , 1, 2, ,Fi Fiu u y y i nω= = =
過渡応答を用いた設計問題
アルゴリズム
新技術の特徴・従来技術との比較 (3.提案法の概説)
• モデルに基づく方法(CHR法,各種の方法) 簡易なモデルで近似できるとき有利.モデル誤差の問題が付きまとう. • データに基づく方法 実システムの運転状態のデータで最適化でき,モデル誤差の問題が無い
ループ整形(提案法) モデルマッチング法 望ましい閉ループ特性を指定できる 外乱抑制を重視 閉ループ系の安定性が保たれる 注意すべき制御対象 むだ時間・非最小位相系 多種のプラントへの適用が容易
表1 データに基づく方法の比較
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補足: 開発した設計法 (3.提案法の概説)
過渡応答データ
3Dパラメータ空間表示法
数値最適化による設計
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( ), ( ), [0, ]u t y t t T∈
図 安定度制約を満たすゲインの集合 の3D表示
PK
DK
IK
図8 パラメータ空間
まとめ (3.提案法の概説)
使いやすいPIDゲインの調整法を与えた. 1)1回の過渡応答の測定と安定度の指定のみ 2)むだ時間や非最小位相系を意識しなくても, 幅広いプラントに適用可能 3)安定度制約下で外乱抑制を最適化
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想定される用途 (4.企業との関連)
用途 • PID制御器の効率的調整 • ロバストPID設計 • オートチューニング制御系への適用 • ゲインスケジューリング制御系の構築
提案法の特徴 • 幅広い対象に適用可能 (むだ時間系、非最小位相系もOK) • 簡便な方法 過渡応答を1度計測するだけ 設計パラメータ(安定度)の選定が容易 • 外乱抑制を最適化
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想定される業界 (4.企業との関連)
• 化学プロセス制御 • 電気機械システムの制御 自動車,鉄鋼,各種製造装置, 発電プラントなど
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実用化に向けた課題 (4.企業との関連)
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実例による検証により問題点を明らかにする 今後の研究の方向性 ・多重ループ系へ拡張 ・実時間調整法への展開 ・不安定プラントに対する自動設計の確立
企業への期待 (4.企業との関連)
需要 • 制御器のゲイン調整を短期間で行いたい • PID制御調整の技術継承が問題となっている • 制御対象の数式モデルが得られない
提案法のセールスポイント 有効性の検証に時間やコストがかからない 「容易に試せ、導入のためのハードルが低い」
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本技術に関する知的財産権
2012/5/18 24 JST 「広島大学 新技術説明会」 in Tokyo
• 発明の名称 :PIDゲイン調整装置及び PIDゲイン調整方法 • 出願番号 :特願2011-093534 • 出願人 : 広島大学 • 発明者 : 佐伯正美
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