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氏名:羽田 裕(はだ ゆたか)
現職NEC通信システム ・品質推進本部・ソフトウェア技術センターに勤務.• 所属組織は,社内の開発部門に対して「製品実現における設計や検証の技
術・手法の提供」など,ソフトウェア生産技術に関する専門的な共通サービスの提供を機能とする.
• 自身は,技術移転・教育,新技術開発・獲得を担当.
社内での業務経験1984年に入社.局用電子交換機の評価・検査,携帯電話ソフトウェア開発,等に従事.2009年から現職.
IPA/SEC様における活動• 組込み系プロジェクト委員(2011.4~2013.3)• IPA/SEC連携委員(2013.6~現在)• ソフトウェア高信頼化委員・障害事例検証WG(2013.10~2015.3)• ソフトウェア高信頼化委員・未然防止知識WG(2013.10~現在)
その他の社外活動• 情報処理学会(IPSJ)組込みシステム研究会会員• ソフトウェア技術者協会(SEA)会員,など
自己紹介
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弊社では,製品・サービス提供において発生した問題の原因分析の手法として,従来から「なぜなぜ分析法」と「プロセスネットワーク分析法(PNA†法)」を適用してきました.
しかし,発生問題の当事者が原因分析する場合,「なぜなぜ分析」のみを使うことが多く,分析に時間がかかったり,分析結果が再発防止・未然防止に繋がらないケースが散見されました.
このような状況にある開発部門を支援するため,当事者が,PNA法となぜなぜ分析を使って,手順を踏んだ原因分析が可能となることをねらった活動をご紹介します.
†PNA:Process Nerwork Analysis
プレゼン概要
本日ご紹介する内容
1. 原因分析教育を実施する前の状況
2. プロセスネットワーク分析法(PNA法)とは
3. 原因分析教育を実施した後の状況
4. 課題解決に向けたアプローチ
5. 方策の効果と今後に向けて
6. まとめ
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1.原因分析教育を実施する前の状況
なぜなぜ分析法だけの原因分析
開発プロセスとその成果物の事実が共有されない
- 分析結果に対して上司からのダメだしが延々と続く
- 大切な原因を見逃す
分析作業に対して,さまざまな条件・制約が課せらせる
- 分析結果の誘導が起きる
- 当事者には辛いときがある
分析技術向上には,多くの技術要素と経験が必要となる
- 分析結果がいつも同じ原因になる
- 分析技術の伝承が難しい
原因追求に先立って,定義された/実行されたプロセスを共有しよう!
原因分析教育で,PNA法を展開【参考】田中孝一,佐野忠 ほか,プロセスネットワークに着目した問題・原因の分析手法
‐その実践と効果‐,ソフトウェア品質シンポジウム2010 (2010/8/27).
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2.プロセスネットワーク分析法(PNA法)とは(1/3)
業務プロセスを書き出して,個々のプロセス,およびプロセス間の相互関係を分析する手法 生産工学(Industrial Engineering)での工程分析技術などを基礎として,
プロセスネットワーク社・金子龍三氏が開発.
「インプットを使用して意図した結果を生み出す,相互に関連する又は相互に作用する一連の活動」であるプロセスを,単に物事を進める手順を示すのではなく,品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management
Process)のモデルにならってモデル化.
図.QMSのモデル 引用[3]
フレームワーク組織,役割,責任,権限,監査,改善,…
プロセス手順,方法,条件,確認項目
↑ ↑ リソース ↑ ↑原材料,人の技量,作業環境,
設備・機器,技術,情報,財務,…
価値顧客
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プロセスマネジメント
Input
開始条件
プロセス
順序
Output
終了条件
資源・知識・技術・情報・資産
技術規程技術マニュアル技術教育資料技術見本例題
【例:UML・EUC】技術要素資料(諸規格)
【資産に分類してもよい】
2.プロセスネットワーク分析法(PNA法)とは(2/3)
PNA法におけるプロセス要素
図.PNA法におけるプロセス 参考[4]
実績データ情報システム過去の教訓
リスク監視・対策
既存資産(母体)購入済資産
プラットフォームリスク要因構造
工程終了基準レビュー手順・質基準
工程別品質の保証
出力当工程成果物
工程品質保証記録
結果情報成果物量(頁項目)追跡可能性保証記録
点検情報中間業務ゲート管理能力要素作業記録類
ナレッジマネジメントシステム
ノウハウ資料専門家名簿
SW知識体系HW知識体系PM知識体系因果関係知識
【資産・情報に分類してもよい】
人財【スキル要件を含めても良い】
(技術者・管理職・スタッフ)
他組織(パートナー等)資金【予算】
設備・資材(常備品)
前工程終了基準レビュー手続・質基準
工程別品質の保証
入力ニーズ・期待等前工程成果物
購入品
指示情報オリエンテーション
リスク注意コミュニケーション法
方針・計画情報
プロセス名称 詳細業務要点マネジメント順技術課題解決順
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2.プロセスネットワーク分析法(PNA法)とは(3/3)
業務プロセスを「プロセスのネットワーク」と捉えて,改善課題を抽出 開発プロセスだけでなく,マネジメントプロセスや支援プロセスも分析対
象とすることもある.
【PNA法の進め方の概要】
STEP1:問題把握分析対象を確認する.
STEP2:状況把握プロセスフローを書き出す.
STEP3:プロセスフローの分析入出力の相互関係を確認する.
STEP4:プロセスの分析プロセスを特定し,品質保証内容,入出力,設計順序を確認する.
STEP5:プロセス能力の分析プロセスのプロセス能力要素を確認する.
STEP6:マネジメントプロセスの分析プロセスのマネジメント要素を確認する.
STEP7:分析のまとめ改善課題を抽出する.
図.プロセスネットワーク分析例 引用[1]
STEP2:問題発見したプロセスから書き出す
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3.原因分析教育を実施した後の状況(1/3)
依然として,教育開始前と変わらぬ状況が散見 分析結果に対して上司からのダメだしが延々と続く,大切な原因を見逃す,
当事者には辛いときがある,分析結果がいつも同じ原因になる,…
分析報告と報告者に対する観察・質問からみえた課題
報告者(分析者)本人でも思い出せない.
他人が読んでも,具体的な分析の弱みを指摘できない.
他プロジェクトの人が読んでも参考にならない.
報告を集めても,一般化できない.
原因分析が,現場にとってより良い活動であるようにしたい!
原因分析の教育や支援方法を再検討
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3.原因分析教育を実施した後の状況(2/3)
原因分析の教育や支援方法について検討スタート
検討チームで対策を議論.
- 原因分析の教育担当者,主旨に賛同した組織(事業本部)の品質保証部門の担当者ら5名で,隔週に検討会を開催.
1. 原因分析教育の受講者数の制約
• 学習成果「知的技能」(ルールや原理の適用,問題解決)をねらった教育形態からくる受講機会の損失.
2. なぜなぜ分析法適用の制約・誘導
• 顧客指定による制約,様式例による誘導.
3. 原因分析の目的や定石・コツの認識不足
• 企業・組織の学習プロセスの重要な要素であることの認識不足.
• 原因構造の解明はそこそこで,直ぐなぜなぜ分析法で分析.
4. なぜなぜ分析法に必要な知識・技術の認識不足
• 分析者の持つ,問題/因果構造に対する固有の知識・仮説モデルの影響.
• 推論技術(演繹的・帰納的・アブダクション)や蓋然性への対応.
図.なぜなぜ分析法のみの分析,再発防止・未然防止に繋がらない分析となる仮説要因
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当面の活動を「原因分析の報告帳票の改善」に
対策について,効果・経済性・実現可能性・完全性などを考慮.
- 以下の対策のうち,b, c, d, e, g の5つを選択し,当面の対策に.
3.原因分析教育を実施した後の状況(3/3)
① 原因分析教育の受講者数の制約a. 学習成果「言語情報」(言葉で述べることができるような知識)
のみをねらったオンライン学習コースの追加.
② なぜなぜ分析法適用の制約・誘導
b. 報告帳票で,PNA法+なぜなぜ分析法の適用をガイド.
③ 原因分析の目的や定石・コツの認識不足
c. 報告帳票で,組織の教訓化をガイド.
d. 報告帳票で,原因分析の手順をガイド.
④ なぜなぜ分析法に必要な知識・技術の認識不足
e. 報告帳票で,分析結果の体系的な知識化を準備.
f. 学習内容改訂(なぜなぜ分析法のポイント追加)
g. 報告帳票で,なぜなぜ分析法による分析をガイド.
図.仮説要因に対する対策
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4.課題解決に向けたアプローチ(1/3)
ねらいは「他人に理解・活用されやすく記述できる」こと
分析対象は,開発不具合(バグ)とする.
分析結果に対して上司からのダメだしが延々と続かないように.
- 少なくとも,上司とのやりとりは数回.1か月以内の終了を目安.
報告帳票を改善し特定の組織で適用後,全社展開
1. 検討チームが,原因分析の帳票案を作成.
2. 検討チームが,実事例を帳票案に記載し,是非を検証.
- 検証結果に応じて,帳票案を随時修正.
3. 対象組織が,帳票案をレビューした後に適用開始.
- キーパーソンである対象組織の各部門長をレビューアに含める.
4. 改善した帳票について,対象組織に教育を実施.
- 教育は,Webinar形式.
5. 使用実績と効果を確認後,全社に展開.
- 適用者・上司へのインタビュー結果などを帳票に反映後,社内展開.
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4.課題解決に向けたアプローチ(2/3) 原因分析の報告帳票(1)
PNA法となぜなぜ分析を使って原因分析をガイドする帳票
原因分析の手順が,ページ記載順序.記載項目ごとに説明と例示で記載内容をガイド ‐対策 b, c, d, e, g
【特徴】
1. 不具合の発生構造の記載 ‐対策 d
- 不具合概要(発見の経緯と症状),直接原因,発生メカニズム,作り込み経緯,プロジェクトの特徴.
- 分析者の思考の整理,および,後続のPNA法・なぜなぜ分析法に対する読み手の理解性の向上と妥当性の判断材料のため.
2. 分析作業の十分性・合理性・妥当性について,分析者が内省し,読み手が判断する材料となる情報の記載 ‐対策 d
- 分析メンバー,なぜなぜ分析法の方向性,なぜなぜ分析結果の確認.
3. PNA法を適用してから,なぜなぜ分析法を適用 ‐対策 b
- PNA法で,改善の対象候補となる原因を幾つか抽出する.
プロセスの過不足,プロセスの入出力の欠落・内容不足,プロセス能力の不足,マネジメントプロセスの問題,支援プロセスの問題,など
- 候補原因を「なぜなぜ分析の方向性」で絞込み,なぜなぜ分析法で分析.
4. 水平展開と再発防止策の計画・実績,教訓の記載 ‐対策 c, e
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4.課題解決に向けたアプローチ(3/3) 原因分析の報告帳票(2)
原因分析の報告帳票の記載項目
記載順 項目 内容
1 不具合の発生構造 不具合の発生構造が把握できる情報.
2 分析メンバー 分析に参加したメンバー.
3 PNA法の分析結果 PNA法で作成した分析図.改善の対象候補となる原因を記載.
4 PNA法で抽出した候補原因 PNA法で抽出した改善の対象候補となる原因のリスト.リストで,なぜなぜ分析法の対象とする原因(解消)/前提条件とする原因(適応)を分類.
5 なぜなぜ分析法の方向性 なぜなぜ分析法の分析方針.候補原因の分類の根拠,分析・対策の検討条件とその理由などを記載.
6 なぜなぜ分析法の分析結果 なぜなぜ分析法の分析結果.対象とした原因,n次要因,対策案とその期待効果,および実行容易性を記述する.
7 なぜなぜ分析結果の確認 なぜなぜ分析法の結果を確認するチェックシート.
8 水平展開 同種問題を検出(1+n)するための調査方法とその計画・実績.
9 再発防止策 なぜなぜ分析法で得られた対策案から,効果・経済性・実現可能性・完全性などを考慮して再発防止策とし,その計画・実績を記述.
10 教訓・標語 分析から得た教訓.知識化するための情報も記載.
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5.方策の効果と今後に向けて
適用始まるも実績数が少なく,効果の判断は未
対象組織で1年ほど前から適用開始したが,適用実績は2件.
- 対象組織ルールでは,分析対象の案件が重要品質問題(当社規定)のみ.
- いずれも,分析結果についての上司とのやりとり回数,終了までの期間は,ほぼねらいどおり.(3回前後,1か月以内)
適用した部門長の感想は良好.
- 顧客に紹介したいとの声あり.
分析報告・報告者に対する観察・質問では従来の課題はなさそう.
継続して適用状況を観察.
残りの対策の実施・検討と追加対策の検討
原因分析教育の学習内容改訂(対策 f)は実施済.
原因分析教育のオンライン学習コース追加(対策 a)の検討.
再発防止/未然防止知識の整理方法と知識マネジメントプロセスの検討.
さらに,推論技術教育の検討やリスク管理教育の検討も.
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弊社では,原因分析教育でPNA法の展開を図ってきましたが,以前として原因分析の状況に課題がみられました.
そこで,課題解決のために,PNA法となぜなぜ分析を使って手順を踏んだ原因分析を可能とする報告帳票を作成しました.
報告帳票の適用実績はまだ少ないものの,課題解決に有効であることの見通しは得られました.
今後は,適用状況の継続した観察,残りの対策の実施・検討,および,再発防止/未然防止知識の整理方法と知識マネジメントプロセス追加対策などの追加対策の検討を進めていきます.
6.まとめ
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[1] 金子龍三,「根本原因分析」の壁を破る‐プロジェクト完了時の振り返りと原因分析の勘所‐,ソフトウェア品質シンポジウム2009 (2009/9/11).
[2] 田中孝一,佐野忠 ほか,プロセスネットワークに着目した問題・原因の分析手法‐その実践と効果‐,ソフトウェア品質シンポジウム2010 (2010/8/27).
[3] 飯塚悦功,金子龍三,原因分析~構造モデルベース分析術~,日科技連出版
(2012).
[4] 金子龍三,原因分析「プロセスネットワーク分析法(PNA法)」の勘所 品質マネジメントシステムの原則に基づく原因分析法,http://www.juse.or.jp/sqip/
mailnews/qualityone/sp1/index.html (2016/11/15現在).
[5] JIS Q 9004:2010, 組織の持続的成功のための運営管理‐品質マネジメントアプローチ, 日本規格協会 (2010).
[6] 米盛裕二,アブダクション 仮説と発見の論理,勁草書房 (2007).
[7] R.M.ガニェ ほか(著),鈴木克明 ほか(監訳),インストラクショナルデザインの原理,北大路書房 (2007).
参考資料