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Page 1: ・接法篇第九 骨折治療 - さくらのレンタルサーバarumika.sakura.ne.jp/anat/seikotsu/seikotsu_b09.pdf・接法篇第九 骨折治療 接法とは骨骸の斷碎折傷する者を接續するを謂ふ。その損處の形狀種々不同あり。或は折れて兩斷するものあり。碎けて分離するものあり。或は突出するものあり。䧟(阝舀:

・接法篇第九 骨折治療

接法とは骨骸の斷碎折傷する者を接續するを謂ふ。その損處の形狀種々不同あり。

或は折れて兩斷するものあり。碎けて分離するものあり。或は突出するものあり。䧟(阝舀:

陷)下する(くぼむ)ものあり。各其宜(よろしき)に適して、之を接續するの法なり。乃ち之

を施すに四の樞要(物事の最も大切なところ)あり。其一は損傷する所の形狀を精細に察

知するを謂ふ。其一は手指を以て徐々に患處を按し能(よく)合攏ア ハ ス

して 歪斜ゆ が み

齟齬クイチガウ

なから

しむるを謂ふ。其一は膏紙以て傳貼し蘗皮以て 挾持ハ サ ミ

し患處をして動移すること勿らしむ

るを謂ふ。其一は其調摂(養生させる)宜(よろしき)に適するを謂ふ。此四のものは一も

闕(かかす)べからず。悉(ことごと)く之を精密重慎せずんばあるべからざる所なり。蓋

(思うに)接骨の法たるや譬(たとえ)は猶(なお)種樹家の樹木を 分接ツ ギ キ

するの術の如し。

既に 接着ツ ギ ア ウ

するの後静保すべし。動揺すべからず。以て其自然接成に至るを候而已(の

み)。是故に接續の法其初敷貼する所の膏紙七日に至るを期とす。而して後之を更(ふ

か)して易るなり。その之を更(さらな)るとき、必重慎して患處をして動揺せしむること勿

れ。若こゝに差誤あるときは啻(ただ)に 囘復ホ ン ブ ク

せざるのみならず。或は腐敗を致し、或は

癈人カ タ ワ

となるなり。而して其全愈 復故ホ ン ブ ク

の期に於ては固(もと)より患者の壯老 稟受ウマレツキ

の強弱

と、所患の輕重に因て遅速差等ありと雖も、大抵少年健強の者の如きは、約するに一月

を以て全く常に復す。壯年は少年に比すれは差遅く。老年は壯年に比すれば、又、差遅

しとす。是他なし。血氣の盛衰に因て骨液の榮養多寡(か;少ない)あるを以ての故なり。

今各部の接法を 晣細コ マ カ

に 分缕ワ カ ツ

(糸娄)すること左の如し。

頭蓋骨

項・額・後頭・顳顬等の區別あり。すべて毛髪の生ずる部分を總稱す。

此骨折傷に因て其所䧟(阝舀:陷)下(くぼむ)し、精神昏冐目焮腫(炎症)を發し、或は

昏睡病を發し。或は目を 瞠ミスヘ

て言うこと能はざる等の者は是その傷脳髄神經に及ぶなり。

救治すべからず。或は心を失すと雖其傷處䧟(阝舀:陷)下(くぼむ)せざる者は諸還元法

を施し醒復せは治法を施すべし。其法藥劑篇に詳(つまびらか)なり。若其創處に於て

毛髪あらば先づ之を 剔髪ソ リ

し然(しかし)して後治法を施しすべし。

巨骨(鎖骨)

此骨の折傷する多くは突出す。治法其突出の骨を能 合攏ア ワ ス

して、而して青陽膏を貼し、

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蘗皮一片を以て骨に沿て之を用ひ、巨胛帶を以て縛定(縛って固定)し、其手をして動

揺させらしむるを緊要とす。

胸骨及び肋骨

此二骨碎破する者、其創内に透徹し、心肺に波及カ カ ル

するを以て必ず死( )す。或は

其骨損傷せずと雖(いえども)、強く 打ウツテ

撞ツ ク

するときは呼吸短息して、咳血・吐血を發し、

終(つい)に死( )す。或は其症一等輕しと雖(いえども)、凝瘀肋膜に滞着するときは、

日を經て 潰瘍ウミカエリ

と成り、遂に死す。或は鳩尾(みずおち)の邉(あたり)を強く打撲するも亦

死す。これ劔尖軟骨(剣状突起)䧟(阝舀:陷)入して其部の内臓を 壓迫オ ス

するよりして横隔

膜を撞ツ ヰ

て心肺に及ぶを以てなり。然とも其傷甚(はなはな)しからざるものも其症大率(お

おむね)胸骨は𨺻𨺻(陥)入して 参差狀ク ヒ チ ガ フ

を為し、呼吸促迫・煩悶し、身体動揺すること能わ

ず。治法先(まず)第五第六等の還元法宜しきに隨て、これを施し、而して手指を以て

徐々に其骨を捺正ナ ラ ス

(押して正す)し青陽膏を貼し蘗皮を順次堅(かたき)に加え、肋脊帶

を其上に施して、之を 緊カタク

縛ククリ

し、而して適(?ときおり)椅(いす)に倚(よりかかり)しめ調

攝(養生)すべし。

脊椎

凡椎骨䧟(阝舀:陷)没するものは昏冐人事を知らざるものあり。或は角号(乛丂 )反

張して呼吸促迫するものあり。或は䧟(阝舀:陷)没せずと雖(いえども)、手足厥冷し、痿弱

不仁(麻痺)して、或は尿閉し、或は遺尿するものあり。或は咳血吐血を發するものあり。

或は日を經て精神了々(物事がはっきりわかるさま。明らかなさま。)たらざるものあり。此等皆必死

なり。或は其損傷相似たりと雖(いえども)、神清爽にして呼吸短息せざるものは之を救ふ

べし。其法患人を平坐せしめ醫其後に在て患處に承(うけたまわる)くるに膝頭を以てし

両手を患人の肩に掛け之を後に 拽ヒ ク

ときは患人氣息自ら胸腹に充張す。是その内より自

ら脊椎を合攏せしむるの術なり。次に第四還元法を施し而して青陽膏を貼し蘗皮を加へ、

其各部の縛帯を以て纒燒し、適(?ときおり)椅(いす)に倚(よりかかり)しめ調攝(養生)

す。或は強直して屈伸すること能わすと雖(いえども)、精神常に異ならざる者は患人を

仰臥せしめ、高さ五寸許(あまり)の木枕を以て腰下に加へて 墊ムツクリ

起ア ゲ

せしめ。而して第七

還元法を施すときは其強直自ら故に復することを得べし。其後膏を貼し 縛マキモメン

を施すこと

前の如くし、調攝(養生)するなり。

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胛骨

此骨の折傷することある者は其患害必ず手臂(前腕)に及て疼痛し、或は麻木不仁し

て運用すること能わず。是胛骨は手臂(前腕)の根柢たるが故なり。治法青陽膏を貼し、

而して巨胛帶を 慇懃テ イ ネ イ

に纒(まとい)褁(ふくろ)し手臂をして 些少ス コ シ

も動揺することなからし

むるを要とす。

臑骨(上腕骨)

此骨の折傷するものは治法患人と相對坐し而して一脚を起てその膝頭に患人の臂

(前腕)を承載し、其損所を 合攏ア ワ ス

し青陽膏を貼すること凡七八重疊し續臑(上腕)帶を施

し、又別に一の全布を以て是を臂に纒て其端を項ウナジ

に掛け繞して臑を動揺することなから

しむるなり。

臂骨(尺骨)並輔骨(橈骨)

此骨の折傷する者は治法高き。几(机)を以て患人の側におき、その臑(上腕)を几上

に安し、毉一膝を起て患者の手腕を承(う)け、其掌を仰かしめ 平直マ ツ ス グ

にして、歪斜ユ カ ム

なから

しめんことを要す。而して施治すること臑骨(上腕骨)の法の如くし、縛帯も亦臑骨の法に

随て可なり。

掌骨(中手)

此骨の折傷する者は指頭を以て能く整理して、青陽膏を貼すること五重而して續掌帶

を施すべし。

五指骨

此骨の折傷する者も指頭を以整理して、青陽膏を揉紙に攤き、纒貼すること三重而し

て續指帯を施すべし。

大腿骨

此骨の折傷する者は治法患人をして凳上に安せしめ、之を整理すること臑骨(上腕骨)

法の如くす。伹(但し)全幅布を以て項に掛ること無きの異(こと)なるのみ。

膝蓋骨

此骨の折傷する者(膝蓋骨骨折)及此部の蠻度(靱帯)の損傷する者(膝蓋骨骨折・膝蓋

腱断裂・大腿四頭筋腱断裂・十字靭帯断裂)は、治法患人をして、其脚を伸へて正直(まっす

ぐ)にして、膝葢を能(䏍虫 )合攏(あわす)して、而して青陽膏を貼し、接蓋帶を施す

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べし。

小腿骨(脛骨)並腓骨

此骨の折傷する者は、治法、患人を凳(腰掛け)上に安せししめ、一條帶を以て其 𦚼𦚼ヒツ

䐐カガミ

(膝の湾曲部分)を纒ひ、其端を上梁(はし)に 鈎ヒツカケ

住ククリ

し、脚板アシノクワ

(足底)をして、みずか

ら平らかに蹈(ふみ)しめ動揺すること無きを要とす。而して之を整理捺(押して正す)正し

て、貼膏(膏を貼る)縛束(束ねて縛る)すること臑骨(上腕骨)の法の如くすべし。

脚趺(足根・中足)

此骨の折傷する者は、治法、其患處を整理し膏を貼し續足帶を施すべし。接續するこ

と臑骨(上腕骨)の法の如くすべし。

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環神備要 還元法(第一~第十二法)

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還元者復神之謂也。〔凢凡〕打撲顚墜、以觸要處投繯溺水、

以閉呼吸積聚疝癎、以衝心胸恐驚怵惕、以致暈倒之類、

皆卒然失神不省人事也。欲救鍼灸無所應藥汁不得入。

若棄而不治則終為泉客也。唯手術可以甦也。

然毉家往々舎、而不講間雖有論者不明。扵内景之理、

而欲施手術。豈得中其肯綮哉。

故今圖寫内臓眞景及外表全象以示。

其手術庶乎。其理易通曉〔突矣〕蓋施手術有四不同。

焉(いずくんぞ)輕重難易是也。

輕者謂患害徹要處之〔徴微幑〕。

重者謂患害徹要處之劇。

難者謂患者骨節長大堅強、而醫人小弱。

易者謂患者骨節小弱、而毉人長大堅強。

此四者臨治之間不可不辨。

焉予甞定十有二法令、以無遺漏。焉其法左。

第一法

回積聚衝逆及他。故而不知人叓仰臥者施之。

第二法

患同前而俯臥者施之。

第三法

諸病口噤不能開及顚癇失神等者施之。

第四法

打撲顚墜觸胸背脇肋精神不異〔乎〕常而呼吸短施之。

如不速救之異曰必危。

第五法

跌撲墜損及被薫撃於炯氣而悶絶失神氣息旣絶者皆施之。

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若煙氣薫撃者蘓(よみがえる)生後必與蘿蔔自然汁。

第六法

患同前而婦人及嬰〔孩㧡〕之輩體小弱者施之。

第七法

溺死及自縊者施之。

第八法

打撃睾丸而呼吸短促者施之。

第九法及第十法

前所謂重者施之。

第十一法及第十二法

前所謂難者施之。

〔凢凡〕此十有二法者、備扵諸急症。然皆在劻勷倉卒之際苟

非乎素精其術則臨事不能羨乎。其機矣。故雖能尊遵其法

而手術次第錯乱則遂誤其治。焉怠慢失機則弗。及焉不

中肯綮則弗。及焉是故吾門先設堅立堅〔𡊙𡊙坐〕之二法習熟

煉磨而后授以之十有二法夫人命至重此法〔丣 〕撃亦至

大矣。醫家之闋鍵患者之幸福其亦捨此何依豈可不潛

心致思哉( )

日東大坂府 歸一堂 各務文献 誌


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