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Page 1: 天井吹出型パーソナル空調システム出口の前に書類などを置けないなどの制約がある。そ こで,本システムでは天井吹出方式を採用し,従来の

大成建設技術センター報 第 40 号(2007)

天井吹出型パーソナル空調システム

システム概要と実験結果

仁志出 博一*1・加藤 美好*1・齋藤 正文*2・樋渡 潔*2

Keywords : Personal Air Conditioning, Task & Ambient Air Conditioning,Ceiling Air Outlet, Mock-up test

パーソナル空調,タスク&アンビエント空調,天井吹出,実大実験

1. はじめに

現在のほとんどのオフィスでは室内を一様な温度に

制御する空調方式が使われている。それに対して,執

務者の空調に対する好みには個人差があり,同じ温熱

環境でも暑さや寒さの感じ方が人によって違う。また,

執務室での作業状況に差がある場合には,代謝量に違

いが出て好む温熱環境が違ってくる。特に,屋外から

入ってきたばかりの人と,長時間執務室内で作業をし

ている人では,求める温熱環境が違うのは当然であり,

最近では温熱環境に対する個人差を満足させる空調シ

ステムが求められている。このような背景から,執務

者個人が自分の好みの温熱環境を作れる空調システム

を開発するに至った。本報ではパーソナル空調システ

ムの概要とシステムを構築するための実大実験での検

討結果について述べる。

2. 開発のねらい

パーソナル空調システムは個人の好みの温熱環境を

作ることが出来るだけでなく,パーソナル域を出来る

だけ小さくすることにより,タスク&アンビエント空

調が形成され省エネルギー効果も図れる。そこで,今

回の開発のねらいを下記に挙げる 2 項目とした。 (1)快適性の向上 従来のように室内の温度を均一にする空調ではなく,

各個人の周囲を自分の好みに応じた温熱環境とするこ

とができる空調を実現する。 (2) 省エネルギー性能の向上・地球温暖化防止対策 二酸化炭素排出抑制が急務になっており,我が国で

は 2005 年度から夏期の冷房設定温度を 28℃,冬期の

暖房設定温度を 20℃にすることが推奨されている。前

記の個人の快適性を満足しつつ,温暖化防止に寄与す

る空調を実現する。

3. 従来の技術

パーソナル空調システムは 1980 年代から開発が進め

られ,現在その一部が実用化に至っている。その方式

を大別すると表-1 のようになる。床やパーティション

など執務者の近くから吹出す方式が多い。しかし,床

から吹出す方式では冷房時に足元が冷えるクレームに

繋がり,また,パーティションから吹出す方式では吹

出口の前に書類などを置けないなどの制約がある。そ

こで,本システムでは天井吹出方式を採用し,従来の

システムの課題を解決することをコンセプトの1つと

した。

表-1 パーソナル空調の方式

Table 1 Types of personal air conditioning system 吹出位置 特徴 課題

床 床吹出空調と併用される。O

Aフロアーに個人用の吹出口

を設置し,その吹出風量を個

人で調整できる。

冷房時足元が

冷える。

パーティション

側面

床吹出空調と併用される。在

席者の正面のパーティション

に吹出口を設置して,その吹

出風量を個人で調整できる。

机の吹出口前

には書類を置

けない。

パーティション

上面

床吹出空調と併用される。パ

ーティションの上面に吹出口

を設置し,在席者に向かって

斜めに吹出す。

吹出口の位置

が遠いのでパ

ーソナル性が

少ない。 *1 設計本部設備グループ *2 技術センター建築技術研究所環境研究室

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4. システム概要

4.1 パーソナル性 (作業域の快適性)

28℃のアンビエント空間内で個人にとって快適な温

熱環境のタスク域を形成するするため,一人一人に対

して,吹出風速と風向を自由に調整出来る空調吹出ユ

ニットを設けた。パソコンなど執務者の席から発生す

る排熱を攪拌させないよう,吹出空気はスポット的に

吹出す形状にした。また,空調吹出空気を積極的に人

に当てることにより,吹出空気温度は冷房では従来の

空調より高く,暖房では低く設定できる。 アンビエント空間内でのタスク域を形成する吹出条

件について,CFD 解析にて検討した。その結果,図-1に示す温度,風量,風速の条件が人体周辺の気温,気

流速度共に好ましい値になることがわかった。

気温分布 気流分布 【計算条件】

吹出空気の温度と風量:19℃,90m3/h(吹出風速 1.6m/s)

吹出口の大きさ:150mmφ

頭上から吹出口までの距離:1.2m

室内発熱:照明(96W),人体(70W),OA 機器(115W) 図-1 吹出空気性状のCFD解析結果

Fig.1 Result of CFD analysis

4.2 利便性

個人の吹出し口のオン・オフ操作を省力化するため,

個人の在席を検知して自動で空調吹出のオン・オフを

行えるようにした。在席の検知方法には,人感センサ

ーやICタグの利用などがあるが,今回,パソコンの

稼働状況から在席の有無を判断するシステムを構築し

た。また,居住者が好みに合わせて,吹出の風速や風

向を自席のパソコンから制御できるようにした。 4.3 省エネルギー性・地球温暖化防止対策

①執務者の付近では快適な温熱環境にしながら,室内

平均温度を冷房では 28℃,暖房では 20℃を実現出来

るようにした。 ②執務者の在席状況をパソコンのオン・オフで判断し

て不在の場合には吹出を停止して,不要な空調を行

わないようにした。 ③天井をなくし空調吹出口よりも高い位置に排熱溜ま

りを設けることにより,天井に向かって上昇した排

熱が空調空気で攪拌されないようにした。さらに,

排熱溜まりの空気を屋外に排気するために,上部に

排気口を設けた。

28℃

26℃

25.5℃

27℃

0.1m/s

0.5m/s 4.4 レイアウト変更対応

床吹出方式のパーソナル空調では吹出ユニットの位

置が変更可能なのでレイアウト変更に対応できるが,

天井吹出方式ではダクトの位置を固定する必要がある。

そこで,1 スパンに 2 系統配置したダクトについて,

これを 800mm の単位でユニット化し,吹出口の位置変

更を可能にすることにより,レイアウト変更に対応で

きるように配慮した。

図-2 空調システム概念図

Fig.2 Concept of Air conditioning system

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4.5 設備機器のユニット化

新築だけでなく,リニューアル工事にも容易に対応

出来るように,照明器具やスピーカー,火災報知器な

ど,設備機器を空調ダクトユニットと一体化すること

により施工の簡略化を図れるように配慮した。

5. 実大実験 5.1 実大実験概要

技術センター内空調システム実験室に空調ダクト及

び,吹出ユニット,机を配置し,人体位置での温度と

気流分布を測定した。図-3 に測定状況を示す。吹出口

から座っている人の頭までの高さは 1200mm にセット

した。温度と気流は 300mm 間隔で 1200mm×1200mm×1200mm の範囲を測定した。なお,測定は人が居な

い状態で行った。 実験ケースを表-2 に示す。ケース 1,2 は吹出気流を

人に向け,風量を変えた場合,ケース 3,4 は風量を同

じにして風向を変えた場合である。

図-3 実験風景

Fig.3 Experiment scene

表-2 実験ケース

Table 2 Experimental condition

ケース 風 量 風 向

1 強風モード(150 m3/h) 人体

2 弱風モード(120 m3/h) 人体

3 微風モード(90 m3/h) 人体前(机上)

4 微風モード(90 m3/h) 人体後ろ

5.2 実験結果

図-4 に人体廻りの温度と気流分布の計測結果、およ

び人体中心における PMV の算出値を示す。

気温分布 風速分布

強風モード

PMV=-0.65(人体中心θ=26.5℃,v=0.8m/s)

弱風モード

PMV=-0.30(人体中心θ=27.0℃,v=0.6m/s)

微風モード

気流人体前

PMV=+0.38(人体中心θ=27.5℃,v=0.2m/s)

微風

モード

気流人体後 PMV=+0.73(人体中心θ=28.0℃,v=0.1m/s)

0.0 1.0 (m/s)

25 29(℃)

27

0.5

【PMV 算出条件】

温度θ・気流 v:実測値,湿度:50%,放射温度:28℃

代謝量:1.1MET, 着衣量:clo

吹出ユニット

吹出気流 19℃

FL+1200

FL+900

FL+600

測定高さ

図-4 気温分布と気流分布測定結果

Fig.4 Contour of Temperature and velocity

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【ケース 1(強風モード・風向人体)】 温度は頭部では 26.0℃,上半身では 26.5℃,足元では

27.0℃であった。風速は頭部から上半身では 0.8m/s,足元では 0.4m/s であった。この結果から,体の中心で

の PMV は-0.65 になり,やや涼しい範囲になることが

わかった。このモードは屋外から執務室に戻ったばか

りの代謝量が多い過渡的な状態に適している。 【ケース 2(弱風モード・風向人体)】 温度は頭部では 26.0℃,上半身では 26.5~27.0℃,足

元では 27.0℃であった。風速は頭部では 0.8m/s,上半

身では 0.4~0.6m/s,足元では 0.2m/s であった。この結

果から,体の中心での PMV は-0.30 となり,涼しい側

の快適範囲になることがわかった。このモードは執務

中に涼しさを求める時に適している。 【ケース 3(微風モード・風向人体前)】 温度は体全体で 27.0~27.5℃であった。風速は顔付近

では 0.5m/s,机の上に置いている腕の付近で 0.3m/s,足元では 0.2m/s であった。この結果から,体の中心で

の PMV は+0.38 の快適範囲となり,従来の空調よりも

若干温度が高いものの,気流感により温冷感が調整さ

れていることがわかった。このモードは通常の執務に

適している。 【ケース 4(微風モード・風向人体後ろ)】 温度は頭部から上半身で 28.0℃,足元で 27.0~27.5℃であった。風速は体全体で 0.1m/s であった。吹出し気

流は人体に当たらず背面で床付近に到達している。人

体の背面の空間で 25.0~27.0℃,0.3~0.8m/s であった。

この結果から,体の中心での PMV は+0.73 になり,快

適域よりもやや暖かい状態になることがわかった。こ

のモードはやや暖かい状態を好む人の通常の執務に適

している。 以上のように同じ吹出温度でも,風量と風向を調節

することにより PMV は-0.65 から+0.73 に変えることが

出来た。このことから,吹出ユニットは個人の好みや

代謝量に応じて温熱環境を調整できることがわかった。

6. 適用建物でのシステム概要

今回開発したパーソナル空調システムは,当社技術

センターリニューアル工事にて研究者の執務空間に適

用された。図-5 に適用した建物での室内の写真を,図-6 に空調システム平面図を示す。技術センターでは実

験棟での実験や会議,外勤などで在席率が低いことが

多いため,本システムの特徴を活かした省エネルギー

効果が期待される。

黄色丸内:パーソナル吹出口

図-5 技術センターにおける適用例

Fig.5 Application for Taisei Technology Center

図-6 技術センターの空調システム平面図

Fig.6 HVAC system plan in Taisei Technology center

7. まとめ

快適性と省エネルギー性の向上を目的に,天井吹出

型のパーソナル空調システムを開発した。実大実験の

結果,やや涼しい環境からやや暖かい環境を作れるこ

とがわかった。今後,本システムを適用した当社技術

センターで性能を検証する計画である。

参考文献

1) 三村良輔,秋元孝之ら:非等温気流タスク空調に関する

研究,空気調和・衛生工学会大会論文集,pp.181-184,2007.

2) 楊霊,加藤信介ら:パーソナル空調機を用いた自然換気

併用空調オフィスに関する研究(その 14),空気調和・衛

生工学会大会論文集,pp.1065-1068,2006. 3) 流田慎也,田辺新一ら:タスク・アンビエント空調シス

テムに関する研究(その 28),日本建築学会大会学術講演

梗概集,pp.1021-1022,2006. 4) 中原信生:空調システムの最適設計,名古屋大学出版会,

1997.

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