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メイクアップにおける視覚効果を用いた感性評価に関する研究 ― TPOに応じたメイクアップの提案 ―

A Research on the Sensibility Evaluation using Make-up Visual Effect - Proposal of Make-Up based on TPO - !

1w110532-7 山下 千絵  指導教員 長 幾朗 教授 YAMASHITA Chie       Prof. CHOH Ikuro !

概要:  本研究は、化粧による印象評価の効果測定を行い、顔の印象が他人に与える効果について検討し、化粧がコミュニケーションに与える効果の重要性に着いて言及する。そのためにまず、第1章では、化粧の文化的・歴史的背景について調査し、装うということに関した美意識、化粧と人との関係について考察する。次いで、第2章では、化粧と心理の観点から、化粧が自身にもたらす効果、化粧が他者にもたらす効果について検討し、化粧とペルソナの形成について考察する。第3章では、色彩とイメージの観点から、色が人間の心理にもたらす効果について、視覚的・心理的分野から理解を深め、個人に似合った化粧、状況に応じた効果的な化粧をするためにふさわしい化粧法を提案する手段として考察する。その内容を踏まえ、第4章では色の違う化粧を部位別に施し、印象評価の効果測定を行い、化粧が他者からのイメージをコントロールすることを明らかにする。次いで、第5章では、実験の結果を下に、TPOに応じたメイクアップ法について提案し、本論の発展性、および日本ではそれほどまでに意識されていない化粧というものの重要性について言及する。 キーワード:化粧コミュニケーション、ペルソナ、美意識、色彩、印象 Keywords: make-up communication,persona,aesthetics,color,image !1.はじめに   「美しさ」とは人により様々だが、大昔から人は装うことを続けてきた。現代は、女性が化粧をするということが一般的だが、魔除けの為の化粧や宗教的な儀式として、様々な民族たちが体に穴を空け装飾を施したり、化粧を施したりしている。また、美しさの概念も生活様式や文化によって異なり、美意識について考えること・装うことは常に私たちの身近にあるテーマである。 2. 化粧研究の課題   グローバリゼーションが進み、美しさの概念が多様化してきた現在、ありのままの自分自身を受け入れ、目的に合った装いをすることが望まれている。一方で「化粧」とは、外見をコントロールし偽り何らかの利益を得るといった戦略的側面が強調され、見栄や虚構といった言葉と結びつけられがちである。世俗性や学問的に軽薄なものと考えられ、研究が進められておらず、現在の日本の教育において装いの教育はなされていないのが現状だ。またなんとなく化粧を施している女性が多く、自分に似合った化粧や状況に応じた適切な化粧を学ぶ機会が他国と比べて圧倒的に少ない。化粧の効果測定もなされておらず、有用性があいまいなのも化粧研究

が進んでいないことの原因のひとつであろう。 3. 本研究の目的 本研究では顔の化粧が自己・他人の心理に与える影響を調査し、化粧による変化が人の印象にどう影響を与えるのか研究し、TPOに応じたメイクアップの提案および化粧コミュニケーションの有用性を明示する。そのことによって、化粧を始めとした装いの美学が発展することを切に望む。 4. 化粧の文化的・歴史的背景   化粧の歴史を辿ると、縄文・弥生時代にまでさかのぼる。人々は抜歯や彩色を行い、種族の表示やや成人か否かを何別していた。平安中期になると伝統美の基本が形成され、美しさの象徴として化粧が施されるようになる。人前で素顔は魅せないという江戸の武家社会の化粧感が形成され、これがノンバーバル・コミュニケーションとして顔の表情が重んじられてきた歴史的背景および現代の美意識にも繋がる。以降、欧米化に伴い「素顔も顔」という価値観が生まれ、人々はボーダレスに化粧を楽しむようになった。 5.化粧の心理的効果 5.1 自己評価   メイクアップをした時の女性の気持ちの状態

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を調べたところ、「積極性の上昇」「リラクセーション」「気分の高揚(対外)」「気分の高揚(対自)」「安心」の5因子が確認された。化粧をすることにより、安心感が生まれたり、自信が高まったりと、自己評価が高まり、この自己評価の高まりが結果的に心理的状態にも影響を及ぼし、対人魅力を高めている可能性があるといえる。 5.2 他己評価   ある人に対して抱く好き嫌いのことを対人魅力(interpersonal attraction)といい、特定の他者に対する正負の態度と定義されている。対人魅力には、「物理的接近性」「身体的魅力」「類似性」があり、化粧は容姿の美しさが関係する「身体的魅力」要因に関して、効果を発揮する。化粧をすることで、この身体的魅力をを高め他者からの印象をコントロールできるが、化粧と状況の適合性に着いて考慮する必要がある。 6.色彩の心理的効果 6.1 色彩心理 色彩と感情には密接な関係があり、人は知らず知らずのうちに色彩により感情をコントロールされる。これを化粧に応用すれば、化粧による色の関係が、人間の顔面から受ける印象を左右する裏付けになると考える。本研究では、日本カラーデザイン研究所が開発したイメージスケールを用いて感性評価を行う。言語イメージスケールと単色イメージスケールから割り出した形容詞と色彩の感情記述に使われる言葉の分類を下に、色彩と化粧の感性評価の指標とする。

5.実験 5.1  実験方法   同人物の顔を用いて、パーツ(目・唇)ごとに化粧を施し、印象評価を行う。日本の市場に 多く見られる、赤・緑・青・紫・茶・黒のアイシャドウ、赤・橙・桃・紫のリップメイクを行い、その印象について女子学生15名、男子学生15名の計30名に、SD評価を行ってもらう。

図2 実験に用いたアイメイクとリップメイク

5.2 実験結果に基づく提案   実験により、色彩による印象と化粧による印象には適合性がみられた。しかし、強くて積極的や強くて冷たいイメージなど、男女によって感じ方が異なることがわかった。以下に、TPOにおけるメイクアップの分類を示す。

6.今後の展望と課題   本研究より、化粧と色彩の効果により顔のイメージをコントロールできることがわかった。また、色彩と同様にある程度共通の印象が得られることが確認されたが、ニュアンスが男女で異なることがわかった。今後の展望としては、顔の系統別に調査したり、色のコントラストの違いや、目・頬・唇などの部位別の組み合わせによる分別をする必要があると考える。 ◆参考文献◆ [1] 大坊郁夫『化粧行動の社会心理学』北大路書房、2001 [2] 髙木修『被服と化粧の社会心理学』北大路書房、1996 ◆図表版◆ 図1) 日本カラーデザイン研究所、山下・加筆 図2) 表1) 山下、2014

表1 TPOにおけるメイクアップの提案(略)

図1 言語単色イメージスケール


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