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Page 1: デザインマネジメントで、 企業イメージを再確認 01 · 2018-01-10 · 従来の製品は、農業機械の重要な機 能である性能・耐久性ありきで、コスト

6 attraente ~「ものづくり」から「もの創り」へ~

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牧草や稲ワラを収穫する「ベーラ」を、海外向けに開発。機械化が進んでいない国や小規模農家に適応できるよう、ベール(四角い牧草のブロック)が人の手で運べるサイズになっています。農作業の効率だけでなく、デザイン面も重視した製品です。

インラインベーラ(牧草梱包機)

CASE事例紹介 01

デザインマネジメントで、企業イメージを再確認

デザインマネジメントに取り組み 始めたきっかけ

 当社は、トラクタ用の農業機械を開発・製造・販売しているメーカです。牧草収穫用の農業機械、特にその中でもベーラ(牧草梱包機)が主力商品で、近年海外への販路拡大を図っています。 「インラインベーラ」という製品は、トラクタの真後ろ(インライン)で牧草を拾い上げて排出する構造のベーラです。一般的にはトラクタの右横で牧草を拾い上げる構造のベーラが多いのですが、インラインの方が作業効率が良いため、海外市場向け製品として力を入れたいと考えていました。そこに外観やデザインという付加価値を付けて、海外の富裕層のお客様が「購入したい」という気持ちになる製品を目指しました。 従来の製品は、農業機械の重要な機能である性能・耐久性ありきで、コストを抑えたものだったため、デザインを重視して設計する機会がなかなかありませんでした。そこで(地独)北海道立総合研究機構 工業試験場に相談し、(株)ファシオネの登 豊茂男氏をご紹介いただきました。

チーム内での意識共有 今回の開発は「Spi r i t」「Speed」

「Simple」をキーワードに、従来であれば2年程度かかっている開発期間を8ヶ月で完成させることを目標にスタートしました。デザインについては、従来の「本体の設計が出来上がってから、その外側にカバーを付けて体裁を整える」という流れではなく、初期段階から「機能とデザインが両立した設計」を検討できるよう、チーム内での意識共有に時間をかけました。デザイナーには全てのプロジェクト会議に出ていただいて製造工程を理解いただく一方で、こちらもメンテナンスのしやすい内部構造について情報を提供する等、デザインを丸投げすることなく、意見を出し合いながら進めました。 また、海外子会社である上海スターと共同開発することも今回のテーマでした。上海スターは当社の子会社ですが、製品開発のノウハウがなかったので、仕事の進め方をすりあわせるところから始まりました。ホワイトボードに表を作って項目毎に、時にイメージ画も書きながら、「いつまでに」「誰がやる」という細かいところまで共有し、

「IHIスターの会議はこう進める」とい

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Designer Profile登 豊茂男 Tomoo Nobori

株式会社ファシオネ 代表取締役 1966年生まれ。フジテック株式会社にて、国内外のエレベータープロジェクトに20年間携わり、2003年、札幌駅南口開発プロジェクト(現 :ステラプレイス、JR日航ホテル)を最後に引退、独立。1年の個人事業主期間を経て、2005年に「有限会社TOMO NOBORI DESIGN」を設立。2006年、イタリアカーデザイン事務所に1年間師事、2009年に「株式会社ファシオネ」に改称。2011年にレーシングチームのカーデザインを担当。単に製品の色、カタチを整えるだけではなく内部の技術設計も並行しておこなうデザインエンジニアリングの手法でモビリティーや、家電、LED照明などの工業製品、医療器具、布団、家具、その他、手がけた製品は幅広い。多方面で活躍する人材をパートナーとして登用し、多様な情報を集積しながら、「もの」を通して様々な社会問題に向きあう「ソーシャルものづくり」を得意とする。

Company Profile株式会社IHIスター 所在地:千歳市上長都1061-2TEL:0123-26-1123(本社)代表者:代表取締役社長 青栁 稔資本金:5億円設立:大正13年(1924年)主要事業:牧草収穫機・畑作用作業機等の農業機械の開発・製造・販売。URL:http://www.ihi-star.com/

代表取締役社長青栁 稔 氏

01 実際の農作業での使用の様子02 プロジェクト会議の様子03 メンテナンスし易い構造を意識して開発04 キックオフ会議での集合写真05 ほぼデザイン画の通りに製品が完成した

う会議の進行を実践しました。市場調査や、試作部品の確認も一緒に行うなかで、上海スター側も試作機を作る楽しさを理解して、積極的に参画するようになりました。

デザインと製造工程のすりあわせ (株)ファシオネには製品設計の最初の段階から外形デザインを検討いただきました。というのも、単に「カッコ良いデザイン画」が出てきても、実際に製造できなければメーカとしては採用できません。段ボールやベニヤ板を使用したモックアップ(模型)でのイメージ作りや、加工工程の確認もしていただいたおかげで、採用したデザイン画とほぼ近いイメージの製品を完成させることができました。デザイナーが開発に加わったことで、いい意味で

「農業機械らしくない」製品に仕上がっています。特に、外形上のアクセントとして製品にシルバーのラインを取り入れた部分は、当社だけでは発想できませんでした。

企業イメージを意識したカタログづくり 製品を売る上では、ポスターやカタログも大事な要素です。インライン

ベーラのカタログではシルバーを取り入れ、製品イメージと統一したものに仕上げました。海外に100 部単位で持っていくことも考慮して、コンパクトでメンテナンスし易く作っています。

企業イメージが反映された製品 今回の開発では、デザインの考え方を取り入れることによって、何度も当社のイメージについて議論を重ねることとなりました。その結果、インラインベーラは開発者の想いとともに、企業イメージを反映した製品になりました。アクセントとなったシルバーは、後発の製品にも展開されています。 当初の計画通り、8ヶ月で製品が完成したことと、社外の組織と共同で仕事を進められたことは、開発担当者の自信につながっていると思います。今回の開発で得られた成果が、次につながる事を期待しています。


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