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弁護士 荒井 里佳(ホライズンパートナーズ法律事務所)

従業員のソーシャルメディア利用による問題点と企業のリスク対応策

ブログ・フェイスブック・ツイッター・ミクシィ等…

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11 ソーシャルメディアの急速な普及ソーシャルメディアの急速な普及が引き起こした問題が引き起こした問題

 ソーシャルメディアの急速な普及に伴い,企業自身のみならず,従業員の方々も,何らかの形でソーシャルメディアを活用し,その恩恵を受けていることと思います。従業員が個人としてソーシャルメディアを利用することは,基本的に問題のない行為ですが,その影響力の強さや広さから,思いがけないところで,従業員個人の枠を超えて,企業自体に影響を及ぼす可能性もあります。 報道等で耳にした方もいらっしゃると思いますが,ホテルの従業員が有名人の宿泊客情報をツイートした事件や,病気休暇を申請した従業員が,休暇中旅行に行き,その様子をフェイスブックにアップしていた等,従業員の個人的なソーシャルメディアの利用が問題を引き起こしてしまった,様々な事例が挙げられます。 また,想定されるトラブルとしても,従業員が個人としての立場から意見表明したことが,会社の意見表明と受け取られ,会社自体が非難の的になり会社のホームページ等が炎上する,会社の内部情報が流出して株価や企業価値の判断に影響を及ぼす,自身のブログ等において好意で自社製品の過剰な宣伝を行い,法律に抵触してしまうといった状況もあり得るでしょう。 さらにソーシャルメディアは,自身が積

極的に活用していなくても,利用者からのアプローチを止めることができません。その意味で,能動的か受動的かを問わず,企業にとってソーシャルメディア利用に伴う問題への対応は,避けて通れないものとなっています。 本稿では,ブログ・フェイスブック・ツイッター・ミクシィ等を想定し,従業員によるソーシャルメディア利用の増加に伴い,企業にどのようなトラブルが生じ得るのか,さらにそれを回避するための効果的な対応策等ついて述べたいと思います。

22 企業はどんなリスクを被る企業はどんなリスクを被る可能性があるのか可能性があるのか

(1)従業員による会社情報の漏洩

 ブログやHP,ツイッター等で,露骨に会社情報が漏洩されるというおそれは十分にあります。しかし,ソーシャルメディア上で情報漏洩したことのみをもって特殊な問題となるわけではなく,入社時等に交わした企業秘密の漏洩禁止に関する誓約書,もしくはその旨が盛り込まれている雇用契約書に定める義務違反として,懲戒やその他約定違反として処分の対象とすればよいことです。 問題はそれのみにとどまりません。一般的な従業員の場合,いわゆる企業人としての公の側面はあまりないようにも思います

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ソーシャルメディア対応

が,例えばフェイスブックでは,実名開示かつ勤務先企業名が明示されていることも多くありますから,会社の内部状態・ひいては他社から見れば格好の与信管理材料を与えている場合もあるかもしれません。つまり,企業情報に変異した個人情報が,簡易に流出してしまう可能性があり,些細な個人の発信情報であっても,企業の内部情報としての意味付けを与えられる可能性があるということを従業員自身が認識するべきと言えます。

(2 )企業の経済的損失や,社会的イメージのダウン

 企業の経済的損失の一例としては,社外との関係においては,従業員が取引先の悪口を書き込んだり,友人への愚痴のつもりで書き込んだ「今日の仕事先にこんな嫌な担当者がいた」云々という話を取引先担当者が偶然見つけてしまい,取引停止になるなどという事態も生じ得ます。 社内に目を向けても,同じ部署の同僚や先輩の悪口を書き込んだり誹謗中傷をしたりした結果,誹謗中傷合戦に発展し,閲覧した外部の方々から「こんな風土の会社なのか」「こういった人間関係を野放しにしておく会社なのか」という印象を抱かれ,他人を誹謗中傷するような人間を雇っているという企業イメージの悪化に発展するおそれがあります。同様のトラブルは非常に多く,社内的な職場環境の悪化のみならず,企業の社会的価値の低下にもつながりかねない,重要な問題と言えます。 いずれにせよ,影響力の拡大に伴い,発言内容が一人歩きをするおそれがあることを,従業員が常に意識することが重要です。企業人としての発言なのか,個人としての発言なのか,その区切りが曖昧になることから様々な問題が生じます。次項では,このトラブルを食い止めるために,企業はど

のような防衛策を取るべきなのかにつき検討します。

33 リスク回避のためにリスク回避のために企業が取るべき対応企業が取るべき対応

 すでにソーシャルメディアポリシーやガイドラインを策定している場合もあるでしょうが,特に「従業員対応」という目的においては,ポリシー策定以外にも,事前・事後も含めた具体的対応策として,以下の5点が考えられます。

(1 )個別の契約書・誓約書で意識レベルを強化する

 入社時,退職時,休職時等に,企業の秘密保持や競業避止義務,社内法規の遵守などにつき,様々な誓約書を交わすことと思います。これらと併せて,ソーシャルメディアの利用に伴う注意事項という形で誓約書を交わす(もしくは上記の通常の誓約書に追加的に盛り込む)ことも,従業員の意識を注意深いものにする1つの方法と言えます。 ソーシャルメディアを利用する際の注意事項を含んだ誓約書を交わす場合は,例えば,ネット上で勤務先等の情報を開示せざるを得ない場合,個人としての書込みであること(勤務先企業の意思は関係ないこと)の明示を約束させること,つまり,どの立場での発言なのか,はっきりと示したうえで発言(書き込み)することを約束させることが重要になります。 また,紛らわしい発言や閲覧者を煽るような言動(うけを狙った誇張言動等)はできるだけ注意し,発言してしまうと取返しがつかないので,迷ったら企業の担当部署や担当者に事前相談することが好ましいこと等を規定し,あらかじめ従業員に告知することも重要です。 特に,休職中は,企業が直接従業員を監

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ソーシャルメディア対応

視・啓蒙できる機会が減少しますので,休職中の行動や心構えにつき「あらかじめ」誓約書を取り交わす場合(上記サンプル第5項)もあります(休職中の従業員対応・モニタリングの詳細については,後述)。 では,誓約書に「誓約内容に違反し,会社の体面汚損が生じた場合,すべての責任を負い,損害賠償責任を負います」といった条項まで盛り込むことで,従業員に損害賠償責任まで負わせることができるでしょうか。それだけをもって現実に従業員個人のみに全責任を課すことは,かなり困難でしょう。損害の発生や範囲が曖昧である,広範囲に過ぎるという面もありますし,違反行為と損害の因果関係も直ちに認定できるのかどうかも,依然として検討を要する部分であると言えます。 誓約書や個々の契約書は,あくまでも,

従業員個人の意識を濃いものにし,会社と個人的に約束したのだという意識強化を図るものという位置付けになりますが,それでも,従業員に徹底的に意識を「刷り込む」ためには重要な方法と言えます。

(2 )就業規則の「体面汚損条項」をチェックする

 従業員を直接規律するのは,職務規律や,懲戒処分対象行為等も規定されている就業規則となります。では,これらの規定の中にソーシャルメディア利用に伴う規制を具体的に組み込んで,場合によっては違反行為が懲戒処分の対象となりうることを明示すべきなのでしょうか。 この点に関して,現在のところ裁判所の考え方が明示された例はありませんが,参考になる事例として,ソーシャルネット利用

■休職に関する誓約書(サンプル)

休職(傷病休職)に関する誓約書

◎◎株式会社 代表取締役社長 ○○○○ 殿

 私は,貴社社員として,平成○年○月○日より休職するに当たり,下記の事項を遵守することを誓約します。

記1 .休職期間中は休職原因となった傷病の回復を最優先し,回復に努めます。2 .休職期間中,他社での就業,アルバイト,日雇い労働など,職種形態を問わず一切の労働はしません。

3 .休職期間中,会社の営業時間においては,会社からの連絡を受け取れる状態にし,会社指定の面談日や訪問日は,合理的理由なき限り指示に従います。

4 .毎月の状況報告は,期限までに提出することを約し,その他会社が求める提出物についても遅滞なく提出します。

5 .休職期間中も貴社の社員であること,そして傷病休職中であるという自覚を持った行動をとり,取引先や同僚社員などから誤解される,あるいは不快感を与える言動はとりません。また,ブログ,ツイッター,フェイスブック等ソーシャルメディアの利用に際しても,同様の自覚を持って行動します。

6 .体調,状況に変化があった場合は,直ちに会社に連絡いたします。体調悪化等により会社との連絡が困難となった場合は,以下の者を連絡窓口とします。

 (連絡窓口を任せる者 ・連絡先電話番号・住所を記載)

 上記1~6に違反した場合は会社の処分に従い,休職期間を満了しても休職事由が継続している場合には,就業規程の定めに従い退職いたします。

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ソーシャルメディア対応

に関する著名な米国の裁判(米国全国労働関係局(以下,「NLRB」という)とAmerican Medical Response of Connecticut(以下,「AMR」という)の事件)があります。 簡単にご紹介すると,NLRBが,従業員に対して,ソーシャルメディア利用に関し過度に厳格な規制をするポリシーを策定することは,全国労働関係法(NLRA)7条に違反するとして,AMR社を提訴したという裁判です。 そもそも,AMR社のソーシャルメディア利用に関するポリシーにおいては,会社からの許可がない場合,従業員がネット上に自分の写真を掲載することを禁止する,会社とその上司・同僚・競合他社について,名誉毀損的・差別的・中傷的コメントを行うことを禁止するなどの厳しい規制がありました。ところが,AMR社のある女性従業員は,自身のフェイスブック上において,上記社内ポリシーに反して上司に対する文句や悪口等を掲載しました。これを閲覧した同僚も,この書込みにコメントし,さらに女性従業員が再度コメントをしたことから,同人は解雇処分となったのです。そこでNLRBは,女性従業員の解雇処分は不当解雇であるとして,AMR社のSNSポリシーが違法である等主張し同社を訴えました。 この事件は和解により終結しており,裁判所の判断は下されませんでしたが,和解内容に,「当事者らの行為を懲戒解雇の対象としないこと」が盛り込まれているなどから,従業員の行動を過度に制限しないこととする方向性が見て取れます。 ここから,具体的な状況や企業の被る損害の程度にもよりますが,単純に従業員がソーシャルメディア利用規約やポリシーに違反したというだけで懲戒処分(特に懲戒解雇)の対象にするというのは,今のところ,「過度の制約」に当たるという理解で

よいと思われます。 ソーシャルメディア利用に伴う従業員個人の行動制限という問題においては,企業における損失発生の阻止もさることながら,従業員個人としての表現の自由(憲法21条)やプライバシーの保護(同13条)という,非常に重要な権利の制限になりうることも重要視されています。そして,懲戒処分は,基本的に従業員の私生活上の行為を対象にはしませんから,違反行為によって企業がリスクを被る可能性があるからといって直ちに重い処分は課しにくいわけです。 現時点では国内裁判例も未出の状況ですので,今後の動向を注視する必要があります。しかし,従業員の行動を過度に制限はしないという上記の傾向からすると,ソーシャルメディアの利用に特定した制約を個別に設けることは,従業員に対する過度な制約であると受け止められる可能性があるかもしれません。 そこで,多くの企業で就業規則に盛り込まれている体面汚損条項を用いて,企業の名誉や体面を汚損したという結果(損害)が,従業員の故意ないし重過失によって引き起こされたことを根拠として,就業規則違反として懲戒処分の対象とするという運用が適切でしょう。もし,当該対面汚損条項を含んでいない場合は,ソーシャルメディア利用に限った話でもありませんので,早急に盛り込むことを検討していただきたいと思います。

(3)社内教育体制を確立し,循環させる

 従業員が就業時間中に書込み等を行った場合には,職務専念義務違反として対応すれば十分です。他方,就業時間外については,企業が,帰宅後の従業員の行動まですべてを把握することは困難ですし,従業員にもプライバシーがあるので,帰宅後の行

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ソーシャルメディア対応

動までは基本的に制約されません。しかし,実際は職務外で行われた書込み等が問題になることのほうが多いのが実態です。 ですから,規制一辺倒ではなく,①定期的な研修やテストの実施・義務化,②テスト結果や報告書内容のチェック・従業員個人の達成度の明確化,③従業員の達成度や状況変化に応じた研修内容自体の継続的な見直しなど,様々な意識喚起のための具体的な方法により,社員に企業としての理念・ソーシャルメディアとの向き合い方を徹底的に浸透させます。そして,これらの方法を循環させて,企業と従業員が「協働」してソーシャルメディアへの向き合い方につき意思統一を図ることが,トラブル回避にとって最も重要なことと言えます。これも,コンプライアンスの社内浸透の際に行われてきた,むしろオーソドックスな手法であり,ソーシャルメディア問題に特有のものではありません。

従業員からの情報収集&

研修内容のフィードバック

従業員へのテスト義務研修の実施社内大学での講義専門家による講演会

研修内容・体制の適正化&

恒常的ブラッシュアップ

(4)モニタリングの要否

 社員のプライバシー保護と企業としてのモニタリングの必要性について,どう考えるべきでしょうか。従来型である電子メールのモニタリングに際しても,裁判所はやむを得ない合理的な場合には一定限度での

モニタリングもなしうるとする判断を下しているケースもあります。ソーシャルメディア特有の問題としては,メールよりも秘密性が低く(ブロックをかけている場合は別),多くの方が情報にアクセスできるので,メールよりもいっそうモニタリングしやすいように思える点でしょう。 モニタリングは,平素から素行のよろしくない社員につきピンポイントで行う場合もありますが,むしろ必要性が高まるのは,すでに触れた通り,主に対象従業員が休職中の場合,つまり出勤中に監視・啓蒙ができない場合です。 近年急増している精神疾患に罹患した従業員については,長期間にわたり休職し,職場に姿を見せることがないケースも多く,休職中のモニタリングの必要性は増すものと考えられます。 休職中に自身のブログ等で会社の誹謗中傷をしていることが発覚する,ありもしない妄想を事実のように書き込み,ダイレクトに会社の体面を汚損するケースも見受けられます。この場合,当該社員を懲戒処分にしたとしても,それで問題が解決されるわけではなく,真の事実関係を釈明し,リカバリーを図らなければなりません。また,ブログやネット上の情報を誰も閲覧できない状態にまで持っていくことにも様々な手続きを要します。また,完全な削除まではプロバイダー等の協力を要する場合もあり,ある程度の時間も要するので,一定範囲での情報の拡散を食い止めることすら困難になることもあります。そのためにも,従業員の個人情報やプライバシーには十分に配慮をしたうえで,事前に従業員のブログ更新状況等を適宜把握するなど,必要に応じて内容を閲覧することも,許容される場合もあると思います(この点に関する裁判例は現時点では見当たらないので,今後も状況を注視していくべきでしょう)。

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ソーシャルメディア対応

(5)問題発生時のフローと組織作り

 現実にトラブルが発生した際,どの部署(誰)に対し,どんな手続きで情報をどのように上げればいいのか,具体的な流れがわからないと,対応が遅れてしまう場合も少なくありません。 すでに触れた通り,ソーシャルメディア上の情報は伝播が急速なので,一刻も早い対応が必要となります。そこで,緊急時対策フローを作成し,それに見合った社内部署やセクションの設定ないし選定を事前に行っておく必要があります。その意味で,この問題は全社的問題と言えます。ソーシャルメディアとの向き合い方という根本的な部分を,社内でいかに共有化できているかが,まさに試されるところです。ここをクリアしなければ,従業員への浸透は困難になるでしょう。 策定されたポリシーや社内規定をどう運用していくかのみならず,いかにスピーディかつ正確に情報を吸い上げ,適確に情報を分析し,調査を行い,会社として対応を行うのか,そのシステムを確立することは,非常に重要です。従業員も,何かトラブルがあれば,加害者のみならず企業の構成員として被害を受ける可能性もあるわけですから,トラブル発生時の対応が確立していることで,安心感や信頼感が芽生え,会社に対する忠誠心にもつながるかもしれません。 トラブル発生時に備え,右上に挙げたような対応フローを設定しておくことに加え,初動対応までのリミット(期限)を設定することも重要と言えるでしょう(情報受領から1週間以内に,暫定的であれ,何らかの対応を発信する等の「早期対応」(現在調査中でも構わないので「対応をしていること」を発信すること)が重要)。 すでにコンプライアンス違反やセクハラ通報などのフローを運用されているのであ

れば,これらと類似のフローを規定することで十分対応可能です。ただ,ソーシャルメディア対応においては,コンプライアンスや人事労務,法務,システム等の横断的な処理を必要とする可能性もあるので,どこに情報を上げていいかわからない,逆に細分化しすぎてわかりにくいという制度にならないよう,配慮する必要があります。 ソーシャルメディアにおける問題をいたずらに特別視する必要はありません。ソーシャルメディアでの表現の自由と,従業員統制との共存の問題です。コンプライアンス体制構築の一環というとらえ方も可能でしょうし,純粋に人事労務の問題として,問題を起こした社員をどう扱うかという,実は,非常にトラディショナルな問題であるとも言えます。

44 ソーシャルメディアポリシーはトラブソーシャルメディアポリシーはトラブル修復・再発防止にこそ役立てるべきル修復・再発防止にこそ役立てるべき

 ソーシャルメディアポリシーの策定は,企業がソーシャルメディアといかに共生するかに関する根幹部分を規定するという意味で非常に重要ですが,これは社内担当者や従業員だけでなく,メディアユーザーと

■事件発生後のフロー(例)

ホットラインの設定(取扱い担当者ないし担当部署を明確にすること)

⬇上がってきた情報を正確に把握・記録

⬇担当者ないし担当部署の判断で,必要に応じてヒアリングや調査を実行

⬇収集した情報を精査・検討し,まとめて上層部へ報告

⬇問題の性質の把握(法的問題なのか,経営上ないし事実上の問題なのか等)全社的対応が必要か,部署レベルでいいのかの判断必要に応じて,専門家の見解も取り入れつつ,対応決定

⬇企業としての見解の発信・実行

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ソーシャルメディア対応

いう開かれた外の人たちにも向けられた,メッセージ性の強いものに留まってしまう可能性もあります。トラブルを生じさせた社員をどう処分するのか,その実損害をどう確定し,どう修復するのか,このような事態の再発防止に何ができるのかといった具体策=ポリシーの具体的運用のほうがはるかに重要と言えます。 企業が積極的にソーシャルメディアを用いるか否かにかかわらず,良くも悪くも波に巻き込まれ,スピーディな対応を迫られます。しかし,不安に思うことはありません。問題の本質は,これまで企業が検討を

重ね,運用しきた情報や人の流れと同じです。少々スピードや範囲は異なりますが,企業自身の意識の深化と統一化,それを従業員に浸透させることをもって,十分な対応が可能なのです。いたずらに従業員を規制することで解決する問題ではありません。昨今急激に脚光を浴びてきた問題ではありますが,特殊な対応ではなく,社内の既存の規定を見直すことから始めていただければと思います。ソーシャルメディアにかかわらず,想定外の新しい事象とどう向き合っていくのか,企業としての姿勢が問われていると言えるでしょう。

【執筆者略歴】荒井 里佳(あらい りか)

ホライズンパートナーズ法律事務所(東京都港区西新橋)パートナー弁護士。平成18年弁護士登録(東京弁護士会)。企業法務・訴訟一般・家族法関係事件に取り組みつつ,企業内外から未然の法的トラブル防止に取り組んでいる。著書に「税理士のための会社法務マニュアル 実際にあった顧問先からの相談事例77」(第一法規 共著),「オルタナティブ・ジャスティス~新しい〈法と社会〉への批判的考察」(大阪大学出版会 共著),「裁判員対応と企業対応 万全ですか?あなたの会社の社内整備」(第一法規 共著)等多数。


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