Download - タフシート工法「紫外線硬化型FRPシート」 による水路 … · 42―aric情報№88ー2008 3.施工事例1(下水道内面被覆工) (1)工事概要 雨水貯留管渠の内面被覆工の施工事例を紹介する。
1.はじめに
近年、コンクリート構造物の耐久性が問題となっている。特に、水路トンネルや開水路などでは、経年劣化等により表面のコンクリートの摩耗や腐食が進行し、流水抵抗の増加や漏れ等により要求性能を維持することが困難となり、定期的なメンテナンスが必要となるため、ライフサイクルコストの低減が課題となっている。本報告は、コンクリートの劣化・腐食防止策の1つと
して、コンクリート覆工の内面を紫外線硬化型FRP(ガラス繊維強化プラスチック)にて覆い、耐久性の向上を図った2つの事例について報告する。
2.タフシート工法の概要
(1)材質
タフシートは、耐食性に優れたガラス繊維補強材と、紫外線照射により短時間で硬化する特殊な樹脂を組み合わせた複合材料で、防水性、耐薬品性、耐摩耗性等厳しい環境条件が要求される場所でのライニングに最適な材料である(写真-1参照)。タフシートに使用している紫外線硬化型樹脂は、樹脂
に含まれている光開始剤が紫外線に反応した瞬間から硬化を開始するので、紫外線を遮断した状態で、あらかじめ工場でシート状に加工しておくことができる(図-1参照)。そのため、品質が安定しており、材料のロスも少なく保管も容易である。
(2)特長
タフシート工法は、工場成型したシートを水路の内面に貼り付けるというきわめて簡単な方法で、均一な防食ライニングが施工できるという大きな特長がある。硬化前のシートは、現場で簡単に裁断でき、シートの上から重ねて貼り付けても硬化後に一体化するので、重ね貼りや部分的な補修も簡単に行うことができる。また、硬化後はピンホール等のない均質な被覆層が形成され、経年劣化等によりガラス繊維と樹脂が剥離する心配もない。(図-2)に施工概要を示す。
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会員コーナー【コスト縮減】
タフシート工法「紫外線硬化型FRPシート」による水路の内面被覆工施工事例
佐藤 栄徳 山村 康夫鉄建建設株式会社
(写真-1)タフシート
(図-1)タフシートの製造概要
(図-2)タフシート施工概要
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(3)水理特性
内面被覆工を施工するにあたり、構造性能の回復だけでなく水理性能の維持回復が必要である。タフシート工法による水路の粗度係数の低減効果については、(独)農業工学研究所(現 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所)の試験水路を使用した測定試験により、硬質塩ビ板と同等の0.012であることを確認している(写真-2、図-3参照)。また、粗度係数の低減効果を利用して、劣化した水路
トンネルの内巻補強への適用を検討した。断面を縮小しても表面をタフシートで被覆することにより計画通水量が確保でき、改修工事を合理的・経済的に施工できるといった検討結果も得られた(図-4参照)。
(4)耐久性
流砂等による長期的な摩耗の影響については、タフシートと硬質塩化ビニル板を貼り付けた鋼板(150×100)をコンクリートミキサーの攪拌羽根部に取り付け(写真-3、図-5参照)、砂を連続攪拌したときの摩耗減少量を比較して確認した。その結果、タフシートは硬質塩化ビニルに比べて約6倍の耐摩耗性を有していることが確認されている(図-6参照)。
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ハ ゙ ルフ ゙ 0.7m
35m
計量槽 水面計 (下流 ) 0.6m 水面計 (上流 ) 水面計 (中央 )
下流 ケ ゙ ート 15m 15m
高架水槽 より 【 側面図 】 【 断面図 】
タフシート タフ シート
2200
250
R2200
シングル 鉄筋 φ 13× 250× 250㎜
既設覆工厚 400
溶接金網 φ 6× 100× 100㎜
短繊維補強 モ ル タル
タフ シート
コンク リ ート 巻立 て
R2200
シングル 鉄筋 φ 13× 250× 250㎜
溶接金網 φ 6× 100× 100㎜
短繊維補強 モ ル タル
タフ シート
コンク リ ート 巻立 て
試験体
150
7.0
100
鉄 板 タフ シ ート
150
100
7.5
硬質塩化ビニル板
R2
y = 0.077xR2
0.00
5.00
10.00
15.00
20.00
25.00
30.00
35.00
40.00
45.00
50.00
0 20 40 60 80 100 120経過時間 ( h)
磨耗減少率 ( %)
タフ シート
硬質塩 ビ 板
(写真-2)粗度係数測定状況
(写真-3)試験体取付状況
(図-3)試験水路概要図
(図-5)試験体構造図
(図-6)摩耗試験結果(図-4)水路トンネル改修検討例
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3.施工事例1(下水道内面被覆工)
(1)工事概要
雨水貯留管渠の内面被覆工の施工事例を紹介する。施工箇所を(図-7)、施工概要を(表-1)に示す。管渠は、延長732.65m、仕上がり内径φ2,700㎜で、直線部は防食対応の二次覆工省略型RCセグメント仕様となっているが、発進立坑(上流側)に近い部分で、R=30
mの曲線部が2箇所あり、鋼製セグメント+コンクリート二次覆工仕様となっている(写真-4参照)。この曲線部のうち、83.78m区間(施工数量:約710㎡)について、腐食や摩耗による劣化を予防する目的でタフシートによる内面被覆工を施工した。(図-8参照)
(2)施工手順
タフシートの施工は、(図-9)のフローにしたがって行った。
タフ シート 施工区間 ( 83.78m)
用途 雨水貯留管渠 管路延長 732.65m
直線部 鉄筋 コ ン ク リ ー ト セグ メ ント 管種
曲線部 鋼製 セグ メ ント
+ コ ン ク リ ート 二次覆工 寸法 仕上 がり 内径 φ 2,700㎜
直線部 30.25m 曲線部 ( 曲率半径 ) 53.53m( 30m)
タフ シ ート 施工区間
計 83.78m
鋼製 セグメント 外径 : φ 3, 150㎜
紫外線硬化型 FRPシート ( タフシート )
6,000㎜ × 1,000㎜ × t 2.5 ㎜
特殊鋼製 セグメント ( タイプ C)
仕上 り 内径 : φ 2,700㎜
二次覆工 コンクリート
紫外線硬化型 FRPシート ( タフシート )
2,650㎜ × 1,000㎜ × t 2.5 ㎜
( 3 ) 接着材塗布 ・ コテ 等 にて 塗布
( 2 ) 墨出 し
( 1 ) 下地処理 ・ 清掃 、 アセトン による 脱脂
( 6 ) 仕上 げ ・ 表面 の 保護 フィルム を 剥 がす
・ タフシート 端部処理
( 5 ) タフシー ト 硬化
( 4 )
タフシート貼り付け
・タフシート貼り付け位置墨出し
・貼り付け装置により施工
・貼り付け後金へら等にて脱泡
・紫外線蛍光灯により紫外線照射
(図-7)施工箇所
(図-8)管路断面図
(図-9)施工フロー図(写真-4)施工前状況
(表-1)施工概要
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1)下地処理
下地処理としてアセトンを含ませたウェスで下地コンクリート貼り付け面の脱脂を行った(写真-5参照)。
2)墨出し
割付図に従ってタフシート貼り付け位置の墨出しを行った。墨は目立つように赤色とし、接着材を塗布した後でも消えないものを使用した(写真-6参照)。
3)接着材塗布
接着材を塗布する際は、気温や下地コンクリート表面の含水率に留意しながら施工した(写真-7参照)。
4)タフシート貼り付け
使用したタフシートの仕様を(表-2)に示す。タフシートの貼り付けは、重ね合わせ継手部の端部が
流水の抵抗とならないよう、下流側から上流側に向かって施工した(写真-8参照)。また上面のシートを貼付ける際、(図-10)に示すよ
うな簡易な貼り付け装置を使用して、長さ6mの長尺シートを分割せずに貼り付けることができ、施工性と施工品質の向上を図ることができた。
■会員コーナー
(写真-5)下地処理状況
(写真-6)墨出し状況
(写真-7)接着材塗布状況
項 目 仕 様
製品記号 M 10 -T 樹脂主成分
硬化方法 紫外線硬化 補強材 繊維目付量 1,050g /㎡
ガ ラス 含有率 27.0~ 33.0wt % 厚 さ 2.5~ 2.9㎜
耐酸ガラスチョップドストランドマット
エポキシアクリレート
6 m
(図-10)シート貼り付け装置
(写真-8)上面シート貼付け状況
(表-2)使用したシートの仕様
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5)タフシート硬化
タフシート貼付け後、(写真-9)に示す紫外線照射装置を使用して紫外線を照射し硬化させた。紫外線蛍光灯はFL40BL(ブラックライト)とした。またタフシートと紫外線蛍光灯の距離が30㎜以下とな
るように照射装置を設置した。硬化の確認は、紫外線の照度と時間およびJIS鉛筆
硬度試験にて行った。
6)仕上げ
タフシートの硬化が完了したら、表面の保護フィルムを剥がし、タフシートの端部からはみ出した接着材や樹脂のバリや重ね合わせ部分のまくれ等をスクレーパーで削り取って平滑に仕上げた(写真-10参照)。
(3)施工サイクル
本工事では、下流側から上流側に向けて1リングずつ仕上げていったために、紫外線照射時間(約20分)が待機時間となった。その結果、上部と下部は各々別の班で施工して1リング(約900㎜)当たりの施工時間は、上部が約55分、下部が約45分であった。
4.施工事例2(下水処理施設開水路補修工)
(1)工事概要
下水道処理場内で屋内施設内の終沈流出水路の開水路補修工の事例を紹介する。施設は30年以上経過しており、水路のジョイント部か
ら漏水が発生していた(写真-11参照)。そこで、止水を兼ねタフシートで内面被覆工を施工した。施工延長は37.8m、施工面積は91.4m2で、施工期間中は完全断水とした(図-11、表-3参照)。
(2)施工方法
施工方法は、基本的には前述した「3.施工事例1」
(写真-9)紫外線照射状況(上面)
(写真-10)施工完了状況
1,100( 水路幅 )
600( 水路高 )
50
150
800 150
端部をSUS帯板+アンカーピンで固定
モルタルですり付け(R30㎜)
1,000(タフシート幅)
100(50㎜以上確保)
用 途 下水処理場終沈流出水路 管 種 PSト ラフ
幅 1,100㎜ 高 さ 600㎜ 長 さ 37.8m
タフ シ ート 施工区間
施工面積 91.4m 2
(表-3)施工概要
(写真-11)施工前状況
(図-11)水路断面図
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の雨水貯留管渠の内面被覆工と同様である。ただし、今回のケースは供用開始から30年以上経過しており、コンクリート表面の劣化が進行していたため、下地処理として以下の工程を追加した。①高圧洗浄機を使用して表面に付着している泥、油分を洗浄した。②表面の凹凸部をディスクサンダーにてケレンした。③欠損部、隅部をポリマーセメントで平滑に仕上げた。ポリマーセメント乾燥後、通常の作業工程で施工を進めた。また端部補強としてタフシート硬化後、上端部および
流入・流出口端末部をSUS帯板(幅30㎜)とアンカーピン(φ5㎜)で固定した。(写真-12~16)に施工状況の写真を示す。
(3)施工サイクル
本工事では、施工箇所は完全断水して行った。施工面を乾燥状態に維持するため、流入口と流出口の止水を行った。施工日数は4.5日で、1スパン(約900㎜)当たりの施
工時間は、約45分であった。
5.おわりに
大口径の合流式幹線および汚水幹線等においては、腐食が進んで更新が必要となった段階では相当の期間と費用が必要となり、また通水を止めることが難しい等の不都合が生じることも想定される。そのため、管渠を新設する段階において、劣化しにくい対策をとる「予防保全」が望ましいとされている。また、開水路を含む供用中の経年劣化した水路の合理
的で経済的な更新技術が求められている。タフシート工法はこのような要求を満たす新しい内面被覆工法として期待されている。今後さらに、施工性、信頼性をより一層向上させるた
めの改良・改善を進め、工法の普及・拡大に努めたい。
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(写真-12)地下ケレン状況
(写真-13)接着材塗布状況
(写真-14)タフシート貼り付け状況
(写真-15)タフシート硬化状況
(写真-16)施工完了状況