ヒトiPS細胞由来肝幹前駆細胞の 大量増幅
~大量の肝細胞が必要な創薬研究や 再生医療の実現に向けて~
大阪大学大学院薬学研究科
教授 水口裕之
採取した細胞に山中4因子 (OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC)
を導入してiPS細胞樹立
健常人 or
患者
神経細胞
心筋細胞
肝細胞
ヒトiPS細胞
再生医療
創薬
本技術説明会で紹介するヒトiPS細胞由来分化誘導 肝幹前駆細胞の大量増幅技術は、ヒト肝細胞が必要な創薬研究や再生医療のための重要な基盤技術になる
ヒトiPS細胞の医療応用
創薬研究におけるヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の期待
ヒトiPS細胞から肝細胞への効率の良い分化誘導技術の開発、 および大量の分化誘導肝細胞の調製技術が必須!
ヒトでの薬効や副作用 ならびに薬物相互作用を 予測することが可能
ヒト肝細胞を用いた 毒性評価は多くの 製薬企業で実施
多くの薬物(95%以上)は肝臓で代謝
(薬剤によっては)肝障害を示す危険性あり 医薬品の開発中止、販売中止に至る主要原因
医薬品開発の初期に ヒト肝細胞を利用
ヒト肝細胞
(1)高価 (数千万~一億円以上? /年/会社) (2)ロット間のバラツキ (再現性の ある評価が困難) (3)培養中の機能低下 (薬物代謝酵素等)
初代培養ヒト肝細胞を用いた毒性評価の問題点
<背景>
<現状> iPS細胞由来分化誘導肝細胞を用いた毒性評価の可能性
均一なロット・機能を有した肝細胞を 安定に、大量に、比較的安価に 調製できる
肝細胞移植は、肝硬変などの慢性肝不全・急性肝不全・遺伝性肝疾患等の 根治的治療法として、これまでに多くの移植例が報告されているが、
大量の細胞を必要とするため、ドナーの絶対的不足が問題となっている。
ヒトiPS細胞から肝細胞への効率の良い分化誘導技術の開発が必須
肝細胞の新たな供給源として、ヒトiPS細胞が注目されている。
内胚葉 ヒト iPS細胞
BMP4 FGF4
3 days 肝幹前駆細胞
成熟 肝細胞
HGF OSM Dex
11 days
Activin A
5-6 days
ヒトiPS細胞は、内胚葉、肝幹前駆細胞を経由して肝細胞に分化する。 肝幹前駆細胞の増幅が可能になれば、大量の肝細胞の供給が可能になる。
再生医療におけるヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の期待
ヒトiPS細胞から成熟肝細胞を作製するために長い培養期間(3週間以上)を 要することや、分化誘導した成熟肝細胞は増殖能が低いことから、
大量の成熟肝細胞を調製することは困難である。
ヒト iPS/iPS 細胞
内胚葉
胚体外 組織
外胚葉
中内胚葉
中胚葉
肝臓
膵臓
心臓
血球
神経
分化誘導効率 従来 10~30% 70~90%
ヒトiPS細胞から肝臓、心臓、神経細胞への分化誘導
・新たな細胞分化誘導技術 ・最適なiPS細胞クローンの選択
ヒトiPS細胞 内胚葉 肝幹前駆細胞 肝細胞
分化効率の改善が必要
・分化効率が低い ・分化誘導肝細胞の薬物代謝能がヒト肝細胞と比べて大きく劣る ・分化誘導肝細胞が胎児型の性質を有したままである
肝分化効率 10~30% アルブミン陽性
細胞率
ヒトiPS細胞から 肝細胞への分化誘導の問題点
●様々な増殖因子・サイトカイン等の添加 ●細胞外マトリックスの最適化
definitive endoderm differentiation
hepatic specification
hepatic expansion / maturation
3週間から5-6週間
ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導は、
①未分化細胞→内胚葉、
②内胚葉→肝幹前駆細胞、
③肝幹前駆細胞→成熟肝細胞、
の3段階に分かれるが、それぞれの分化
過程で液性因子(サイトカイン等)を付加さ
せ、分化誘導させる方法が一般的
●分化効率が不十分
●毒性評価に使用できる肝細胞の機能
(薬物代謝酵素の十分な活性等)が欠落
液性因子に加え、細胞分化の適切な段階で
適切な転写因子(遺伝子)を、独自開発した
改良型アデノウイルス(Ad)ベクターを利用し
て遺伝子導入する分化誘導法を開発
FOXA2、HNF1α遺伝子を、それぞれ適切な時期に導入することにより、肝細胞への分化効率が飛躍的に向上
技術的な ブレークスルー
●飛躍的な肝細胞への分化効率の向上
●ヒト初代培養肝細胞と同等の薬物代謝
酵素の遺伝子発現レベル
内胚葉ヒトiPS細胞
BMP4 FGF4
HGFOSMDex
9-11 days
Activin AbFGF
6 days 3 days
肝幹前駆細胞
成熟肝細胞
FOXA2+HNF1α
FOXA2+HNF1αFOXA2
CYP2D6 CYP3A4
Rel
ativ
e G
ene
Exp
ress
ion
0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10
未分化 iPS 細胞
分化 誘導
肝細胞
初代 培養
肝細胞
0.00001 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10
未分化 iPS 細胞
分化 誘導
肝細胞
初代 培養
肝細胞
初代培養肝細胞と同等レベルの 薬物代謝酵素の遺伝子発現が認められた
0 20 40 60 80
100 120
0 20 40 60 80 100
Troglitazone
cell
viab
ility
(%)
(μM)
ヒト初代培養肝細胞
未分化細胞
ヒトiPS由来分化誘導肝細胞は初代培養肝細胞と同様に 肝毒性を示す薬物によって細胞毒性を示した
濃度 ★世界初のヒトiPS由来肝細胞の製品化
★厚生労働大臣賞(H24年度)
iPS由来分化誘導 肝細胞
ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導のまとめ
Day 0
Day 6
Day 9
ヒトiPS細胞
内胚葉
肝幹前駆細胞
培養日数
FGF4 + BMP4
Activin A
On laminin
On laminin
肝幹前駆細胞の増幅・維持培養
Day 18~20 肝細胞
On laminin
HGF + OsM + DEX
FOXA2
FOXA2 + HNF1α
レンチウイルスベクター等の 安定発現ベクターを用いた場合、
細胞分化が進んでしまい、 安定に継代することができない
【利点】 ・肝細胞の大量供給・低コスト化が可能 ・肝細胞への分化がone stepになる ・未分化細胞の除去が可能になる
ヒトES/iPS細胞からhepatoblast-like cellへの分化
2 days
内胚葉 hepatoblast-like
cells 3 days 1 day
stage II
Activin A (100 ng/ml) BMP4 (30 ng/ml) FGF4 (20 ng/ml)
3 days
内胚葉分化 肝特異化
stage I
ヒトES /iPS細胞
Ad-FOXA2 (3,000 VP/cell)
継代 継代 Eva Schmelzer et al. JEM. 2007
200 µm
200 µm
AFP / DAPI
human hepatic stem cells
ヒトES細胞由来 hepatoblast-like cells
ヒトES/iPS細胞に 肝幹前駆細胞への分化を促進する液性因子を作用・ 内胚葉分化を促進するFOXA2遺伝子を導入し、 AFP陽性のhepatoblast-like cellsを作製
約80%
分化プロトコール
# ヒトES細胞(H9) を使用した
ヒトES/iPS細胞から、AFP陽性の Hepatoblast-like cells (HBC)が分化誘導される
顕微鏡下でスポイドや針を用いて、hepatoblast-like cells (HBC)と non-hepatoblast-like cells (NHBC)を分けて、その性質の違いを調べた
AFP CD133 EpCAM CK8 CK18
before HBCs NHBCs
rela
tive
gene
exp
ress
ion
0
1
2 ** ** ** ** ** ** * ** * **
HBCとNHBCにおける肝幹前駆細胞マーカーの遺伝子発現
-14 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2
α1 α2 α3 α4 α5 α6 α9 αv β1 β3 β4 (C
t val
ue o
f GAP
DH
) –
(Ct v
alue
of i
nteg
rin)
integrin
**
** before HBCs NHBCs
HBCとNHBCにおける 各種インテグリンの遺伝子発現
HBCの方が肝幹前駆細胞マーカー の発現量が高い
→メカニカルな分離に成功している
HBCはNHBCよりも強く integrin α6遺伝子を発現した
→integrin α6を受容体とする細胞外マトリックスを 用いれば、HBCとNHBCを分離できる?!
# before = 分離前の細胞 (ヒトES細胞由来の9日目の細胞) # ヒトES細胞であるH9を使用 # beforeの遺伝子発現量を1.0としている
ヒトES/iPS細胞由来HBCsは適切な細胞外基質を選択 することで純化できる可能性が示唆された
肝幹前駆細胞マーカー遺伝子の発現
before NHBCs% o
f int
egrin
α6-
and
β1-p
ositi
ve c
ells
0
25
50
75
100
HBCs
hepatoblast-like cell(HBC)における インテグリン発現
# ヒトES細胞であるH9を使用
ヒトES/iPS細胞由来HBCsはα6β1インテグリンを高発現している
LN111 LN211 LN411 LN511
rela
tive
cell
num
ber before HBCs NHBCs
0
0.4
0.8
1.2 * **
**
LN111 LN211 LN411 LN511
rela
tive
cell
num
ber
control IgG anti-integrin α6 anti-integrin β1
0
0.4
0.8
1.2 *** ***
* *** ***
* *** *
HBCおよびNHBCの 各種ヒトラミニンアイソフォーム
に対する結合能の評価
HBCのLN111への結合が Integrin α6β1を介しているかどうか評価
Integrin α6と親和性が高いことが知られるLN111を含む 各種ラミニンに対するヒトES/iPS細胞由来HBCの結合能を評価した
HBCはLN111への接着能が高い NHBCはLN111にほとんど接着しない HBCのLN111への接着はintegrin α6あるいは
Integrin β1に対する中和抗体を用いることで 阻害された # before = 分離前の細胞
(ヒトES細胞由来の9日目の細胞) # ヒトES細胞であるH9を使用 # 播種前の細胞数を1.0としている # 各種ヒトラミニンはbiolamina社から購入
ヒトES/iPS細胞由来HBCsはヒトラミニン111に対して integrin α6およびintegrin β1を介して接着することが示唆される
各種ラミニンアイソフォームに対する接着能
肝幹前駆細胞の増殖に適したラミニンの選択
0
2
4
6
8 LN111 LN211 LN411 LN511
rela
tive
cell
num
ber
% o
f AFP
-pos
itive
cel
ls
day 16 day 9
0
20
40
60
80
100
ヒトES/iPS細胞由来HBCs のLN111上での増殖曲線
増殖細胞のAFP陽性率の測定 (FACSによる解析)
ヒトES細胞由来HBCsはLN111上 でのみ増殖可能であった LN111上に接着・増殖した細胞は
ほとんどAFP陽性であった # HBC P0を各種ラミニン上に播種 # day 10に接着した細胞数を1.0とした # before passage = 分化誘導9日目の細胞
# HBC P0 = LN111に接着したのみの細胞
ヒトES/iPS細胞はヒトラミニン511上で維持培養できる(Rodin et al. Nat Biotech. 2010)
ヒトES/iPS細胞由来の肝幹前駆細胞を選択的に増幅可能なラミニンを探索した
胎児マウス肝幹前駆細胞(Dlk1+)をラミニン上で維持培養可能である(Tanimizu et al. JCS. 2004)
ヒトES/iPS細胞由来のHBCはヒトラミニン111上で 維持培養できる可能性が示唆された
ヒトES/iPS細胞由来HBCをLN111上で増殖・維持できるか
matrigel-coated dish
LN111-coated dish
LN111-coated dish
passage
replace with fresh medium after 15 min
from passage
HBC NHBC
dissociation by using accutase
passage number
rela
tive
cell
num
ber
100
102
104
106
108
1010
1012
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
human ES cells (H9) human iPS cells (Dotcom)
ヒトES/iPS細胞由来HBCs のLN111上での増殖曲線
ヒトES/iPS細胞由来HBCsはLN111上で 15回継代以上維持できる
増殖細胞のAFP陽性率の測定 (FACSによる解析)
LN111上で増殖した細胞はAFP陽性である
passage number passage number
% o
f AFP
-pos
itive
cel
ls
% o
f AFP
-pos
itive
cel
ls
human ES cells (H9)
human iPS cells (Dotcom)
0
25
50
75
100
day 9 P1 P10 P15 0
25
50
75
100
day 9 P1 P10 P15
DMEM/F12 FBS (10%) HGF EGF Ins/TF/selenium Dex Nicotinamide
HBC hepatocyte -like cells
HGF, OsM (20 ng/ml), DEX (10-6 M) matrigel
14 days hepatocyte differentiation
HBC P0
HBC P10
HBC clone %
of A
SGR
1-po
sitiv
e ce
lls
0
25
50
75
100 ASGR1陽性率
HBCは肝細胞に分化でき、かつその分化能は 継代を重ねることにより向上した
# HBC P0 = LN111に接着したのみのhepatoblast-like cells # HBC P10 = LN111上で10回passageしたhepatoblast-like cells # HBC clone = 単一細胞由来のhepatoblast-like cells
明視野画像 CYP3A4 / DAPI
HBCは胆管上皮細胞にも 分化できた(data not shown)
ヒトiPS細胞
内胚葉肝幹前駆細胞
肝細胞ヒトiPS細胞ヒトiPS細胞
内胚葉内胚葉肝幹前駆細胞
肝幹前駆細胞
肝細胞肝細胞
胆管上皮細胞
胆管上皮細胞
【利点】
・肝細胞の大量供給・低コスト化が可能
・肝細胞への分化がone stepになる
・未分化細胞の除去が可能になる
『肝幹前駆様細胞の培養方法及び培養細胞(特願2013-80557号)』
肝幹前駆細胞の 維持・増幅に成功!
肝細胞への分化誘導
増幅した肝幹前駆細胞の肝細胞への分化能
CYP3A4
rela
tive
gene
exp
ress
ion
0
0.5
1.0
1.5
HBC P10
HBC clone
HBC P0
PH 48hr
Takayama et al., Stem Cell Rep. (2013)
従来技術とその問題点および 新技術の特徴・従来技術との比較
• ヒト初代胎児由来肝幹前駆細胞(hepatic stem cell)は、 倫理的な問題や供給が極めて限られるため、実質的に 利用は不可能である。
• 本技術では、従来までの技術と異なり、肝幹前駆細胞としての性質をほぼ完全に保持したまま細胞増幅が可能になる。
• 本技術の適用により、肝細胞への分化誘導効率の上昇が 期待でき、より成熟度の高いヒトiPS細胞由来分化誘導肝 細胞の作製が可能になる。
• 本技術の適用により、ヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞への分化ステップが1段階となり、最終分化細胞を調製するためのコスト、時間、手間の削減が期待できる。
想定される用途
• ヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞を用いた
創薬応用(毒性試験、薬物動態試験、薬効
試験、肝炎研究への応用等)
• 肝細胞移植等の細胞治療や再生医療のため
の肝細胞調製技術としての利用
実用化に向けた課題 • 増幅したヒトiPS細胞由来分化誘導肝幹前駆細胞の凍結技術
• 本技術を再生医療(細胞治療)に応用するためには、血清等の異種成分を含まない培養条件下で、ヒトiPS細胞由来分化誘導肝幹前駆細胞の増幅技術の開発が必要
• 本技術を創薬研究に応用するためには、現在の技術で対応可能
JST「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」 『技術開発個別課題』で検討中
企業への期待
• 創薬研究や再生医療(細胞治療)のためのヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の
販売を目指す企業には、本技術の導入が有効と思われる。
• 自社で、創薬研究のためのヒトiPS細胞
由来分化誘導肝細胞の調製を行い、各種試験に使用を考えている企業には、 本技術の導入が有効と思われる。
本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :肝幹前駆様細胞の培養方法
及び培養細胞
• 出願番号 :特願2013-80557
• 出願人 :独立行政法人医薬基盤研究所
国立大学法人大阪大学
• 発明者 :水口裕之、川端健二、高山和雄
産学連携の経歴 • 2000年?- クロンテック社と特許実施契約 (アデノウイルスベクター作製キットの世界販売) • 2001年頃- ベンチャー企業と改良型アデノウイルスベクターの 特許実施契約(数社と本技術での実施契約) • 2010年- リプロセル社と特許実施契約 (ヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の作製技術) • 2010年- ベンチャー企業と特許実施契約 (制限増殖型アデノウイルスベクターに関する技術)
その他、数特許に関し、企業との実施契約経歴あり
お問い合わせ先
小此木 研二(おこのぎ けんじ)
大阪大学産学連携本部 知的財産部
〒565-0871 吹田市山田丘2-8
TEL: 06-6879-4859 FAX: 06-6879-4205
E-mail: [email protected]
野原 形太(のはら けいた) 独立行政法人 医薬基盤研究所 戦略企画部 戦略企画課 管理係 TEL: 072-641-9832 FAX: 072-641-9821 E-mail: [email protected]
水口 裕之(みずぐち ひろゆき) 大阪大学大学院薬学研究科分子生物学分野 TEL: 06-6879-8185 FAX: 06-6879-8186 E-mail: [email protected]