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刀剣研磨(人間国宝) 本阿彌 光洲さん

 院友(卒業生)で、刀剣研磨の本阿彌光洲(本名:道弘)さん(昭37卒・70期史)が、今年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された

(学報9月号既報)。刀剣研磨は、刀剣を研ぎ、整形して切れ味を良くする技法に加え、刀剣の善し悪しを鑑定する上で最も重要である。この技法は古い時代に作られた古刀から現在に鍛えられた現代刀まで、幅広く刀剣を本来のあるべき姿

に保存し、日本の世界に誇れる美術工芸品の一つとして後世に伝えるために欠くことのできない技術だ。本阿彌さんは、室町時代から同家に受け継がれる研磨の技法を踏襲するとともに体得。現在は、多くの刀剣を間近で触れてきたことで培われたその目で刀剣の鑑定も行っている。また伝統を絶やすわけにはいかないと後進の育成にも力をそそぐ。今回は、刀剣研磨の歴史と技法、本阿彌さんの人間国宝認定までの軌跡をたどる。

日本刀を今に残す伝統技法

◆ 父から学び、子へ継承する

 刀剣研磨の重要無形文化財保持者(人間国宝)の本阿彌日洲(本名:猛夫)さんの3男として生まれた本阿彌さんは、幼い頃から手仕事が好きだったことから学生時代は仕事を手伝うことに夢中であったという。学生時代から本格的な後継ぎとして周囲から期待を受けていたそうだ。 大学進学については、刀剣界で見識の高い本間順冶先生(日本美術刀剣保存協会初代会長)、長兄が入学していたこともあり、本学史学科に入学。在学中は、日中に講義を受け、終了後父の手伝いや雑業をこなす生活を送った。「大学時代は、研磨の仕事が生活の中心で講義は二の

次のような感じ。あまりいい学生とは言えなかったですね」と当時を振り返る。 本阿彌さんが父に師事し同家に伝わる刀剣研磨の技法を本格的に学びはじめたのは、本学を卒業した昭和37年のことである。10年経って一人前と言われる世界。本阿彌さんは、多くを語らない父の技を見て盗むことで工程ひとつひとつを体得していった。その後、国宝・重要文化財に指定されている多くの刀剣を研磨したことが高く評価され、刀剣界のさまざまな審査員を歴任。重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された今、伝統を絶やすわけにはいかないと後進の育成に力を注ぎ、現在、御子息が本阿彌さんの元で修行をしている。

◆ 本阿彌家と刀剣研磨

 本阿彌家に伝わる刀剣研磨の技法は、室町時代に確立した。当時は、刀剣自体を鑑賞し、価値を高める風習が生まれ始めた時代でもあり、同家は刀剣の切れ味を良くするのはもちろん、刀剣の持つ芸術的要素を取

り入れた研磨・鑑定法を提唱した。 江戸時代には、刀剣の鑑定士として徳川幕府に仕え、徳川家と大名たちの国宝級の神宝の管理・保存を行い、幕府から貴重に扱われる存在となった。さらに、江戸時代では刀剣目利きの鑑定書に「折り紙」が使われており、その折り紙を発行する権利を徳川幕府から保証されていた。品質を保証することを「折り紙付き」と呼ぶ語源となっている。 武士の身分が消滅した明治時代以後は、地鉄部分を青黒く、刃を白く際立たせる仕上げ研ぎの技法が同家で確立され、美術工芸品としての鑑賞面がより評価されるようになった。 「刀剣という日本のすばらしい美術工芸品をぜひ一度鑑賞してほしい」と話す本阿彌さんは、本阿彌家光意系第18代当主として刀剣研磨の伝統を守り抜いている。多くの刀剣を研磨してきた本阿彌さんのゴツゴツした分厚い手からは、長年の修練を通して代々受け継がれる伝統の力強さを感じた。 《記事》森《写真》木下

 刀剣研磨は、7種類の砥と

石いし

を使い、粗い砥石から細かい砥石の順で研いでいく。これらの工程は、「下地研ぎ」と「仕上げ研ぎ」に大きく分けられ、「下地研ぎ」は刀剣の整形を主に行う作業で、砥ぎ台に「踏まえ木」という棒を乗せ、前屈みに座り「構え」という格好で行う。

 「仕上げ研ぎ」は研ぎに加え、刀剣を切きっさき

先まで本来の姿・形に戻し、完璧な形に整える8工程からなる。「下地研ぎ」は刀剣を素顔の形にするのに対し、「仕上げ研ぎ」は刀剣にお化粧をする工程のようなものだ。 作業日数は、1振りの刀に1カ月以上を要することもある。これらの工程は、本阿彌家に伝わる技法として室町時代から変わらずに受け継がれている。

受け継がれる伝統の技法

歴史を感じる作業場

2014別冊

秋号定期号(毎月10日発行)

一部20円

祭 

▽創立記念祭 

▽創立記念祭 

1111月1日(土)午前9時 

神殿

月1日(土)午前9時 

神殿

▽関係物故者慰霊祭

▽関係物故者慰霊祭

1111月1日(土)午前

月1日(土)午前1010時3030分

百周年記念館記念講堂

百周年記念館記念講堂

平成26年10月10日(金曜日) 國學院大學学報 第628号

●発行 国学院大学 〒150-8440 東京都渋谷区東四丁目 ●電話 03(5466)0130 ●FAX 03(5466)0528 ●E-mail [email protected] ●URL www.kokugakuin.ac.jp ●編集 総合企画部広報課/学生アドバイザーメディアチーム[森淳(チーフ・経営3)/赤羽政哉(サブチーフ・法4)/林歩実(サブチーフ・経営4)/安藤新菜(編集長・経営4)/木下透(法4)/加瀬詩織(外文3)/髙村孟司(法3)/福沢孝子(日文3)/大崎麻里(経2)/落合遥香(法2)/小林雄貴(外文2)/田中啓友(経2)/土橋菜央(法2)/平野玉葉(経2)/大塚直哉(外文1)/古積可奈子(外文1)/山口佳那子(法1)]

K:DNA  創立132年目を迎えた国学院大学の     … 個人・個性を尊重する校風 若いエネルギーが未来を変える遺 伝 子

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ダウンロードと使い方

スマホをかざすと動画が見られる◇ iOS4以上を搭載したiPhone、iPadおよびAndroid OS2.2以上を搭載したAndroidに対応しています(一部対応していない端末もあります)。◇ ダウンロードは無料ですが、通信に費用がかかる場合があります。◇ 通信環境によって、写真にかざした後、コンテンツが再生されるまで時間がかかる場合があります。

ご 利 用 端 末 に つ い て QRコードを読み込める機種では左のQRコードからかざすンARの無料アプリを入手できます。

左のマークが付いた写真などにスマホをかざしてみましょう

❶ iPhoneは「App Store」、Android端末は「Google Play」を開き「検索」をタップ。❷ 検索窓に「かざすンAR」と入力し検索。❸ 検索結果から「かざすンAR」を選択します。❹ 《iPhone》「無料」ボタンを押すと「インストール」と表示され、インストールボタンをタップするとパスワード入力画面が表示されます。ご自分の「Apple ID」とパスワードを入力し「OK」ボ

タンを押すと、自動的にインストールされます。  《Android》「インストール」ボタンをタップするとダウンロードが始まり「インストール済み」と表示されると完了です。❺ 位置情報を利用しますか?と表示されるので「OK」ボタンを押します。数秒経ってカメラモードになり、画像を読み取れるようになります。

その他主要記事の掲載面P.1 ◉院友ネットワーク  「刀剣研磨・本阿彌光洲さん」P.2~4 ◉ 特集 携帯電話の使用を制限

したらどうなる?P.4 ◉若木が丘だよりP.4~7 ◉NEWS & TOPICSP.5 ◉K-Club Activities  「居合道部」 ◉文系解体新書  「文学部・石川則夫教授」P.6 ◉潜入!国大生24時!  「宇山玲加さん(日文2)」 ◉渋たま奥の細道  「ハチ公前広場観光案内所」 ◉こくぴょんのおさんぽ  「キャンパスツアー」P.7 ◉突撃!!学生記者!  「農業サークル青人草」 ◉インフォダイジェストP.8 ◉防災特集~万一に備えて~ ◉編集後記

古代米を5名様にプレゼントお知らせ

 アンケートに回答してくださった方の中から抽選で5名の方に、今号「突撃!!学生記者!」で紹介した古代米をプレゼントします(締切:11月30日)。①今号の満足度5段階(低1~5高)②今号で面白かった記事の感想③プレゼントキーワード<○○○○○○○○※ひらがな(ヒント:「重要無形文化財保持者」の通称)>、住所、氏名、所属(在学生<学科・学年>、保護者、院友<本学卒業生>、本学・本法人教職員、その他のいずれか)を明記の上、ハガキ・FAX・Eメールで国学院大学広報課(連絡先は1面上記参照)までお送りください。また、QRコードからEメール作成画面を開くことができます。 なお、当選者の発表は、景品の発送をもって代えさせていただきます。 お送りいただいた方の個人情報は法令に基づいて取り扱いいたします。

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第628号 平成26年10月10日(金曜日)   (2)國 學 院 大 學 学 報

 今年6月に公表された総務省のデータによると、平成26年3月時点での日本の携帯電話・スマートフォンの普及率は112.5パーセントとの結果が出ている。日本人1人が1台以上携帯電話を所有している計算である。このように、携帯電話は世代を問わず、日常生活において必要不可欠な存在となっている。 では、通話とEメールという最低限の機能だけしか使えない状況で生活すると、私たちの生活にはどのような変化が表れるのだろうか。今回学生アドバイザーは、そのような素朴な疑問を解決するためのシミュレーションを行った。その方法は、平日2日と休日2日の合計4日間で、3つのパターンに分けて、使用できる携帯電話の機能に制限を設け、携帯電話を使用できないことで普段の生活パターンに何らかの違いが表れたか、心境の変化があったかなどを分析・調査した。調

査パターンの分類については下表を確認してほしい。 また、学生アドバイザーでは、携帯電話の制限調査とは別に、同じ条件の4日間で、携帯電話の機能ごとの使用時間も調査した。学生が頻繁に使う携帯電話の機能と使用時間を分析し、学生の無料対話アプリ「LINE」の利用が多いなどの現状が明らかになった。その上で、新聞アプリを展開する産経新聞デジタルの近藤哲司社長と、臨床心理士の平野学さんに「若者の携帯電話とのより良い付き合い方」をそれぞれの視点から話を聞いた。この企画を通じて、今後の自分自身と携帯電話との付き合い方を見出していただければ幸いである。 《記事》髙村

特 集 学生アドバイザーが実践!!

他者との交流は「LINE」が断トツ

 グラフ①を見て分かるように、コミュニケーションツールの中ではLINEの使用時間が1日あたり44.5分と圧倒的に多かった。LINEは無料で通話やメッセージのやり取りができる手軽さや操作の簡便さが人気につながっている。総務省の平成25年の調査では、20代の80%が無料通信アプリ「LINE」を使っているとの結果が出ている。本学学生においても同様に高い利用率であることがうかがえる。 LINEには、相手がメッセージを読んだ時に発信者に「既読」が表示される機能がある。また、グループ機能では、一度に多数の人たちと簡単にコミュニケーションをとることができるため、仲の良い友人たちとの会話や、サークルや部活動でのメンバー間の会話には適している。これらは、他者との意思疎通において不安や煩わしさを取り除く機能ではあるが、反面、相手がメッセージを読んだことが分かるため、「早く返信しなければならない」とプレッシャーを感じるケースも出ている。「既読」の機能によって得られる簡便さの反面、「既読無視」や「既読スルー」という言葉が生まれるなど他者とのコミュニケーションに「疲れている」若者がいることもメディアなどで取り上げられている。 そのほか、Eメールや電話の利用は、LINEに比べて大きく利用時間を減らしている。総務省の調査では、20代のソーシャルネットワーク(以下、SNS)とメールの平均利用時間で約10分ほどSNSが長い程度だが、今回の私たちの調査では、大きく差がついた結果であった。学生と社会人では、おかれた環境により使用するスマートフォンの機能に違いがあることも影響していると考えられる。

ゲーム・動画の使用には個人差 メディア視聴行動分析サービスを提供するニールセン株式会社が今年1月に発表した「2013年12月 カテゴリ別インターネット利用時間シェア」によると、スマートフォンを使ってゲームをする時間はSNS(23%)に次ぐ2位(15%)にのぼる。グラフ②を見ると、よく使用されているゲームと動画の使用が上位に入った。今回調査対象であった学生では、ゲームよりも動画を視聴する傾向が見られた点は、外部の調査と異

なっている。この点は、学生たちが、ゲームよりも SNSやLINEなどで友人とコミュニケーションをとることに多くの時間を割いている傾向があると考えられる。 また、今回の調査では、ゲームや動画の使用時間が“0分”の対象者が約3分の1にのぼった。ゲームや動画を使う人と使わない人の差が大きいことが要因と考えられ、引き続き分析を進めたい。 《記事》落合

 私たちは、平日2日間・休日2日間の計4日間にわたって携帯電話の使用時間を調査した。 この結果を集計してみると、さまざまな発見があった。私たち学生自身が分析し、顕著に見えた点を2点にしぼって紹介する。

学生自身が携帯電話の使用時間を徹底分析!

0 10 20 30 40 50

コミュニケーションアプリの1日あたりの平均使用時間グラフ①

LINE 44.5分

Facebook 2.9分

電話 2.3分

SMS 1.1分

(分)

Twitter 13.6分

Eメール 1.4分

(分)0 5 10 15 20 25 30

動画 28.6分

電子書籍 3.4分

娯楽関係アプリの1日あたりの平均使用時間グラフ②

ゲーム 18.8分

ネット 17.3分

コミュニケーションアプリ 娯楽・情報アプリ その他機能

LINE・Eメール・電話・SMSSNS(Twitter・Facebook・mixi等)

ゲームアプリ・動画アプリ(YouTube・MusicTube)・インターネット・電子書籍(漫画・雑誌含む)

カメラ・電卓・アラーム・路線検索・天気予報等

第1グループ × ○ ○第2グループ ○ × ○第3グループ × × ×

※制限調査では、コミュニケーションアプリから電話とSMSを除外する

今回の調査にあたり、私たちは右表の通り定義・分類を行いました。

左の写真にスマホをかざすと、

特集の動画がご覧になれます。

【参考調査】 「平成25年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(平成26年4月、総務省情報通信政策研究所)「ファミコン世代がスマートフォンゲームを長時間利用」(平成26年1月、ニールセン株式会社)

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第628号(3)   平成26年10月10日(金曜日) 國 學 院 大 學 学 報

 ここでは、携帯電話の機能を制限するという調査を行った学生アドバイザーと本学職員の感想を紹介する。ここには一部しか載せられなかったが、他にも調査に協力した学生、職員からは興味深いコメントが寄せられた。調査へのご協力、ありがとうございました。※グループ分けの詳細については、2面の別表参照

制限調査を終えて体験者の反応はいかに!?

第1グループ 第2グループ 第3グループ

LINEの 返事を返さなかったため心配された。(外国語文化学科3年・加瀬詩織さん)

暇なとき、ついゲームアプリを起動してしまった。アプリをひらくことが習慣になっていると感じた。(法律学科2年・土橋菜央さん)

制限解禁になってから、使用時間が減ったような気がする。(経済学科2年・平野玉葉さん)

携帯電話でいつでも誰かとつながることが当たり前になっていると感じた。(法律学科1年・山口佳那子さん)

時間的には有意義に過ごせたが、動画アプリが使えなかったのでテンションが上がらなかった。(健康体育学科1年・入倉滉太君)

携帯電話を持つこと自体が安心感につながっていると思った。(経営学科3年・森淳君)

複数人との連絡を取るときにLINEのグループ機能が使えないため、不便に感じた。(広報課・原詩織さん)

生活の中で、なにかとスマホで用事を済ませる習慣がついてしまっていることに気づかされた。(広報課・髙次智雄さん)

家ではパソコンを使っていたので苦労しなかった。しかし、相手から連絡がくるのですぐに返信できず不便を感じたし、スマホに頼っていることを認識した。(法律学科4年・木下透君)

休日は携帯がなくても平気。仕事の日は不便に感じるかもしれない。(学生生活課・永清理奈さん)

制限により空いた時間で、普段あまりしない読書などをして有意義に過ごすことができた。携帯電話に依存した時間の使い方を見直すきっかけになった。(入学課・安西香菜子さん)

携帯がないと、少しの空き時間に電車の運行状況や連絡メールの確認などができず、携帯が日常生活においての時間短縮に大きく貢献していることを感じた。(教務課・松本忠和さん)

昔は、携帯は自分が便利な生活を送るためのものだったのに、今は誰かを捕まえるためのものになっていると気づいた。(国際交流課・茂木奈津子さん)

外出の際に、目的地にたどりつくまでにアプリが使えず困った。(教務課・前島司さん)

普段利用している電子書籍や動画アプリは使わなくても生活できたが、仕事で利用するメールやスケジュール・インターネットの制限は難しかった(制限中の機能を使ってしまった)。(広報課・萩慎太郎さん)

スマホ依存の要因と生活リズムの関係 世の中では「携帯電話への依存(以下、スマホ依存)」に関して問題視されているが、平野さんは、これまでに臨床心理士として携帯電話やネットの使用に関する問題を抱える私たちと同年代の若者から相談を受けてきた。彼らが臨床心理士のもとを訪れるきっかけには「ひきこもり」も多いようだ。よくある事例の1つとして、ひきこもりの子をもつ保護者が平野さんのもとに相談に訪れることがある。ひきこもりは生活リズムの乱れによるもので、乱れの要因がスマホ依存と関係している場合も多いという。 こういった相談への対処法は2つあるという。1つ目は生活リズムを見直し整えること。深夜にゲームをし過ぎることが原因で生活リズムが乱れる事例も多く

ある。なかなか難しいことだが、少しずつ夜の携帯電話の使用から本人を離れさせ、違うものに向かわせることが大切だ。2つ目は家族、特に保護者がこうした問題を正しく理解すること。ひきこもりによって、とかく家族関係の悪化などの悪循環に至ることも多い。彼らの抱える問題や状況を正しく理解し、共に良い方向に向かって歩んでいくことが家族には求められる。家庭内でより良い関係を保つことで、次のステップへと踏み出すことができるのだ。

「依存」と今回の調査 「スマホ依存」は現代の社会問題の1つであるが、「依存」の本当の意味は、 「依存とは危ない状態、治療などが必要なくらい携帯電話を使用していること」と平野さんは話す。しかし、今回私たちが行った「携帯電

話使用時間調査」の結果を見ると、「依存」というよりも、「携帯電話を使用している」に過ぎないとのことだ。 その理由は、使用時間(2面グラフ)だけでなく使用していた時間帯からも分かる。今回の調査では、携帯電話を使用していた時間帯も合わせて調査を行った。その結果、「通学等の移動時間」と「休み時間」によく使用することが分かった。つまり、何かをし“ながら”携帯電話を使用しているというよりも、「暇つぶし」などに使用していると言える。「授業中」、「食事中」、「バイト時間中」といった依存をうかがわせるような選択肢も用意してみたが、この時間に使用する学生はほとんどいなかった。しかし、グラフから分かるように、LINEなどのずば抜けて使用頻度の高い機能もある。「依存予備軍」という危機感を持って、携帯電話との付き合い方を考えていきたいものだ。

全ては気の持ち方次第! これからの携帯電話との付き合い方について「自制心をもつことが大事だ」と平野さんは話す。携帯電話は便利であるが、悪影響を及ぼす側面もあることを意識しながら上手に使用することが必要だ。機械ばかりを目の前にするのではなく、もっと「人との関わり」も大事にして生活することが重要だという。 最後に、「さまざまな誘惑に流されず、主体的・意欲的にやりたいことをしっかり考えて日々生活してほしい」と平野さんは話した。自分自身の日常生活をより充実させるためにも携帯電話との付き合い方を常に考えながら、便利な側面の「いいとこどり」をすることを目指していきたい。 《記事》落合《写真》髙村

 私たちは携帯電話に関する調査を、身をもって行ってきた。集計する中で、私たちの調査結果にはどのような特徴があるのか、また危険はあるのかという疑問をもった。そこで、臨床心理士の平野学さんのもとを訪ねた。平野さんは日本臨床心理士会常務理事で、慶應義塾大学学生相談室カウンセラーなどを務め、大学生など若者の心理的問題に関わっている。今回は、大学生に潜む携帯電話使用に関する問題や求められる携帯電話との付き合い方について話を聞いた。

携帯電話「依存」とは?身近に潜む危険に迫る!INTERVIEWINTERVIEW

日本臨床心理士会 常務理事 平野 学さん

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第628号 平成26年10月10日(金曜日)   (4)國 學 院 大 學 学 報

英語で日本文化体験(能楽鑑賞)

 10月9日、「英語で日本文化体験(能楽鑑賞)」が行われ、本学学生12人が観世能楽堂(渋谷区松涛)を訪れた。 まず能楽師・野村昌司さんを講師に迎え、英語で能楽に関する講義を受け、その後、実際に稽古で使われている舞台に上

がり、歩き方の指導を受けた。学生たちは、能楽の独特のかかとをつけたゆっくりとした歩き方を、野村さんの実演を観察し挑戦。また、「謡」の体験では、祝詞祝言「高砂」を謡いあげた。参加者の大半は、今回が初めての能楽鑑賞で、英語での解説に、日本の伝統文化の細かな所作を異なる言語で伝えることの難しさも体験した。 その後、能楽堂に場を移し、午後1時30分開演の「観世会荒磯能」を鑑賞。こ

の日の演目は、能「芦刈」「熊坂」、狂言「雁大名」など。荘厳な雰囲気の中繰り広げられる能の世界を堪能した。 同イベントは、文化発信型英語力開発活動の一環として、文学部外国語文化学科が主催。海外へ日本の伝統文化を発信するため、まずは自身から体験することを目的とし、昨年から能楽鑑賞を行っている。

野村さんから英語で能を学ぶ学生

特 集 学生アドバイザーが実践!!

産経新聞アプリのはじまり 産経新聞の電子新聞アプリの開発原形は、今からおよそ20年前、平成8年10月にさかのぼる。デジタル技術の開発が進む中「紙以外の方法で新聞を届けたい」と試行錯誤を繰り返した。テレビの電波に文字を乗せてニュースを読者へ届けたり、専用機械を用いて新聞をデータ化して送ったりと、当時の最先端技術を活用しながらさまざまな試みを実践。しかし利用者数は伸び悩み、赤字という厳しい現実が重くのしかかった。 転機となったのは米国のアップル社が平成19年にiPhoneの販売を開始したこと。発売翌年には、日本でも利用が始まる。同社では、長年にわたり蓄積され

たデジタル配信のノウハウを活かしてiPhone向けの産経新聞アプリを他社に先駆けて生み出し、平成20年12月から配信を開始した。 配信開始当初は、iPhone自体があまり普及していなかったこともあり、まずは半年間無料で使ってもらい、利用者の意見を聞こうと関係者は考えていた。より多くの人に産経新聞を読んでほしいという同社の思いは、ユーザーを中心に大きな反響をもたらした。一つは無料で新聞が読めることへの評価、そして「iPhoneを使って新聞が読めるなんてかっこいい」という意見だった。最新のiPhoneを片手に、新聞が読めてしまうというスマートな印象が利用者には評判がよかったのだろう。半年が過ぎても無料配信をやめず、むしろ維持するための研究に力を入れた。現在は、タブレットなど大きなサイズの機器では有料での配信となるが、スマホアプリでは広告を紙面に載せることで収益をあげ、無料配信を維持し続けている。

新聞離れの危機をどう乗り切るか 産経新聞の無料配信は、利用者にしてみれば嬉しいことだろう。しかし、現在では新聞各社がスマホアプリに進出している。近藤社長は産経新聞アプリの強みについて「すでに産経新聞を利用している人もそうでない人もすべてを大事にする方針」と話す。近年、新聞の購読者層が高齢化していて、新聞を読む若者の数は減少傾向にある。新聞に関心のある人だけを大事に

するのではなく、関心のない人にも新聞を見てもらえるよう積極的に働きかけていかなければならない。若者の利用率が圧倒的に高いスマホアプリを前面に押し出し、新たな購読者の獲得を目指している。 また近藤社長は、現在の産経新聞アプリで満足することなく、産経新聞の「新聞紙以外」での活躍の場を広げることも目標に掲げる。インターネットの普及により必要な情報を自由に手に入れることができる現代社会では、新聞社もそれに対応し情報提供の手段を増やすことが求められる。

世の中を見る目 近藤社長は、現代の若者について「世の中への興味関心が薄れている」と深刻に捉えている。生活が安定しているため、社会で起こる問題について無関心な若者が多い。人によっては社会に対して興味すらなく、身の回りに情報が溢れているにもかかわらず、知ろうともしない。一方では好きな芸能人など自分の興味があることは、必要以上の情報をもっているというようなアンバランスで限られた世界に生きる若者が多くなっている。「広い視野で世の中を見つめ、知ることで、将来的に無限の可能性を見出すことができる」と近藤社長は言う。 新聞は、客観的に世の中を知るための効果的な手段である。産経新聞アプリでは、時間がない人や紙の新聞を持ち歩くことに抵抗のある人のために、敷居を低くして手軽に読めるように工夫されている。私たちが大切にすべきことは、多種多様な事象に興味を持つこと。絶えず変化する世の中に、無関心であってはならない。世の中の出来事をもっと知ろうとする姿勢をもち、人とつながることである。 近藤社長は広い世界を見つめ、選択肢を多くもつことが将来を切り開くために役立つと話す。情報の氾濫する社会の荒波を潜り抜けるため現代を生きる若者として、私たちは今あるツールを最大限に活用し、自分の道を見つけていきたい。 《記事》福沢《写真》落合

 私たちは、日ごろスマートフォン(以下、スマホ)やタブレットを使用する際、アプリケーション(以下、アプリ)を使用している。多くのスマホアプリがある中で、「LINE」「Twitter」「YouTube」をはじめとする定番のアプリは累計数千万ダウンロード(以下、DL)を記録している。1千万DLを超えるスマホアプリは数えるほどしかない中、産経デジタルでは、iPhoneが国内で発売された当初から「産経新聞アプリ」を世に送り出し、ニュース配信アプリとして確固たる地位を築いている。「若者の新聞離れ」が言われる中、スマホで配信される新聞は私たちに何を伝えるのか、産経デジタルの近藤哲司社長に話を聞いた。

 私たちが友人と連絡をとったり、知りたいことを調べたりすることを手のひらの中で簡便にできるのは、スマートフォンのおかげである。今回の調査を通じて、携帯電話を所持していて当たり前という固定観念が、大学生に限らず世の中で定着していることを実感した。特に調査の感想では、主にコミュニケーションツールに制限をかけた学生や職員の中で、LINEの通知に対してすぐ返信をしなければいけないという意識が頭の片隅にあることで「イライラした」、「手持無沙汰になった」という意見があった。ゲームなどの利用を制限した学生・職員からは、読書をしても集中できずに飽きてしまい、時間が長く感じたという声もあった。携帯電話は、普段の生活に何の違和感も無く入り込んできており、それが使えなくなることで、初めて携帯電話という存在を意識するほど、私たちの生活の一部となっていると感じた。 今回私は調査を体験して、携帯電話を手にしていないときに、周りの風景や人の動

きに目がいくようになったと感じた。普段は、通学時間に携帯電話でゲームをしていて、周りの景色をほとんど見ずに、気がついたら大学に到着している感覚だった。しかし、携帯

電話を使う機会が減り、視線を上げると電車の中で周りの乗客のほとんどが、携帯電話に目を落としていることに気がついた。 携帯電話・スマートフォンの登場によって、他者との意思疎通や世の中のニュースを知ることが容易になった。それは、社会を生きていく上で欠かすことのできないものであるが、一方で身の回りの出来事や変化を敏感に肌で感じ取れるようにアンテナを張っておくことも忘れてはならない。私たち学生にとって簡単なことではないが、目先の好きなことばかりにとらわれず、広い視野をもって社会に氾濫する膨大な量の情報を選別しながら付き合っていくことが、今後求められる携帯電話の理想の使い方だろう。 《記事》髙村

ひまわりガーデン

代官山坂

 生まれ育った5km四方の地元から出たがらず、人間関係が狭く、大人になっても中学校時代などの少人数の地元友達とつるむ「マイルドヤンキー」が大学生の間にも増殖しているらしい(原田曜平『ヤンキー経済』幻冬舎新書2014)。私自身もそうした傾向を痛感しており、外の世界に目を向けてもらうため、2年前からゼミのカリキュラムに代官山の地域調査を組み込んだ。その際、一方的に調査をさせていただくだけでは申し訳ないので、地域貢献活動として微力ながら始めたのがひまわりガーデン代官山坂のボランティア

である。ひまわりガーデンは地元の有志が道路計画で宙に浮いた土地の貸与を受けて始めたもので、今年で9年目になる活動である。毎年、5月に地域の人や地元の保育園・幼稚園・小学校の園児・生徒たちがひまわりの種をまき、7月~8月には夕涼み観賞会などを開催、10月に抜根というのが主なスケ

ジュールで、田原ゼミでは昨年の抜根からボランティアを始めた。 最初は自由参加にしたところ、たった2人しか参加してくれず、がっかりさせられた。そこで次はかなり強く呼びかけたところ、ほとんどの学生は参加してはくれたものの、自分たちだけで固まってしまい、せっかく地元の方が話しかけて下さっても一言、二言返事をするだけで会話が途切れとしまうという状況だった。 それでも回を重ねるうちに積極的に参加を申し出る学生も現れ、今年の抜根には6人が参加してくれた。何

度も参加した学生は初対面の方ともスムーズに会話ができるようになり、「本業」の調査へのご協力をとりつけた学生もいた。「きみはこの間も来てくれていたね。ありがとう」と声をかけていただき、うれしそうな学生もいた。たった1年の活動で「地域貢献しています」などというのはおこがましいが、ひまわり並みのスピードで成長する学生の姿には目を見張る。一方、成長する同級生と差が開いてもどこ吹く風の「踏み出さない人たち」をどうするか。これが目下の悩みである。田原裕子(経済学部教授・学生部委員)

現代の若者へ今、必要とされるアプリとはINTERVIEWINTERVIEW

産経デジタル 社長 近藤 哲司さん

調査を振り返って

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第628号(5)   平成26年10月10日(金曜日) 國 學 院 大 學 学 報

国際交流歓迎会 10月10日午後6時から、本学渋谷キャンパス若木タワー有栖川宮記念ホールで9月から本学で学ぶ交換留学生を歓迎する国際交流歓迎会が行われた。本学は、台湾・アメリカ・スペインなどから来日した招

しょう

聘へ い

研究者2人と交換留学生12人を迎えた。  歓迎会には、前期から引き続き本学で学

ぶ留学生や、彼らの日本での生活をサポートする「K-STEPアシスアント」、国際活動サークル「cha×cha」に所属する学生が参加し、新しい仲間を温かく迎え入れた。 開会のあいさつ・乾杯の後、歓談の時間に。今回は、日本らしい屋台でおでんが振る舞われるなど、初の試みも。もの珍しそうに屋台に集まる留学生と、おでんについて説明をする日本人学生の姿もあり、親交を深める様子が見られた。

 会の途中では恒例の大クイズ大会が行われた。クイズには留学生の母国語に関する内容が含まれ、留学生と日本人学生が互いに助け合いながら答えていた。今回の交流を通じてより一層、留学生と日本人学生の仲が深まったように見えた。留学生には、日本での生活の中で母国では得られない大切な知見を見出す半年間もしくは1年間を過ごしてほしい。 《記事・写真》落合

居合道部

礼儀を重んじる

 本学たまプラーザキャンパスの剣道場に刀が空を切る鋭い音が響く。居合道部の練習は緊張感に包まれ、張りつめた空気が流

れていた。居合道は本来、日本刀を用いた武道である。練習や学生の大会では模擬刀が使用される。模擬刀といえども、その重さは1キロを超える。日本刀の真剣はさらに重いという。学生記者も実際に模擬刀を持たせてもらったが、この重量の刀を練習

なくして自在に操れるものではないと感じた。 居合道は、目の前に敵がいることを想定して刀を抜き、技の完成度を競う。このときの敵を仮想敵といい、体格・容姿などが全て自分と同じとされる。つまり居合道における敵は自分自身ということになるのだ。また、試合での審査

基準には「礼儀」、「心構え」などが挙げられ、礼儀作法が重んじられていることがわかる。 長谷川主将は居合道を、「自分を磨き上げる武道だ」と話す。自分が納得いくまで、どこまでも努力できるのだ。成長していく過程が目に見えることも、居合道の魅力の一つであるという。それは居合道の実力だけではなく、精神面の成長でも同じである。

居合道を体感する

 居合道部では新入生歓迎演武会と若木祭の際に、真剣を使用した巻藁斬り(まきわらぎり)の演武を披露している。巻藁斬りとは畳表を巻き、水につけて人間の体ほど

の硬さにして立てたものを、一刀両断に切り落としていくというものである。 今年の若木祭では11月3日(月・祝)に出演予定だ。居合道の迫力、緊張感を感じることができる貴重な機会である。ぜひ足を運んで磨き上げられた技を間近で体感してほしい。 現在本学の居合道部に所属している部員は、全員大学に入ってから居合道を始めたという。本人の努力次第で十分に活躍することができる競技なのだ。実際に長谷川主将も大学に入ってから居合道を始めた一人だ。「固く考えず、気軽に巻藁斬りを見に来てほしい。そして居合道に興味をもってもらいたい」と長谷川主将は話す。

全日本学生居合道大会優勝に向けて

 居合道部の今後の目標は、個人・団体ともに10月に行われる東日本学生居合道大会と、11月に行われる全日本学生居合道大会に出場し優勝を手にすることだ。東日本学生居合道大会では、一昨年は団体の部で第3位、昨年は長谷川主将が個人の部で第3位であった。しかし、全日本学生居合道大会では、惜しくも入賞することはできなかった。長谷川主将はその悔しさをバネに、「今年こそは優勝」と意気込みを語る。この目標を胸に、部員一丸となって日々稽古に励んでいる。 《記事》土橋《写真》赤羽《映像》田中

No. 007

「心身を鍛える」 本学居合道部は、居合道を修行し心身を鍛える部として、本学の建学の精神に基づき昭和46年に創部された。40年以上の歴史をもち、現在までに約150人のOB・OGを輩出した。居合道とは、「礼に始まり礼に終わる」と言い表されるように礼儀を重んじる、戦国時代から続く日本の伝統的な武道である。今回は居合道部の長谷川旬主将(経営4)に、歴史ある居合道について話を聞いた。

『こころ』の研究

 夏目漱石の『こころ』は、現在文庫本などの形で出版されているが、最初は朝日新聞の連載小説として書かれた作品である。現代でも広く読まれている理由の1つは、高校国語の教科書に取り上げられていることだと石川教授は言う。教科書に使われる『こころ』は、単行本の下巻「先生と遺書」にあるほんの一部分。登場人物の先生とその友人Kのお嬢さんをめぐる恋の場面が有名で、『こころ』といえば、その場面を思い浮かべる人も多いだろう。かつての近代文学研究でも「先生と遺書」でKとのやりとりや先生の心の葛藤を『こころ』のテーマと

 『こころ』が100年の時を超え文学作品として価値を失わないのは、時代に関わりなく読者の中にある「人とのつながりを求める心」に響くからなのだろう。読む人それぞれに感じるものがあるはず。あなたには、どのような『こころ』のメッセージが伝わるだろうか。 《記事》福沢

 今年、朝日新聞で夏目漱石の小説『こころ』の連載が始まってから100年を迎えた。『こころ』が、時代を超えて今なお、価値ある文学作品として読み継がれているのはなぜだろうか。文学部日本文学科で近現代文学が専門の石川則夫教授と、この作品の魅力について探っていきたい。

『こころ』を見つめる石川 則夫教授文学部

する見方があった。しかし最近では、上巻「先生と私」、中巻「両親と私」が見直され、上巻と中巻で語り手となる「私」の存在が重要視されるようになっている。石川教授も「『こころ』を読むなら、上巻と中巻をまずよく読んでほしい」と話す。

「先生」と「私」のつながり

 『こころ』の研究を進める石川教授は、上巻の「私」が先生と交流を深めていく日々の充実感と、中巻の故郷へ帰るために先生と別れたときの寂しさという「私」の2つの感情に注目する。人とのつながりをもつ充実感を知ったがゆえに生まれた寂

せき

寥りょう

感や孤独感が読み取れるのである。また、先生も自分のことを「寂しい人間」だと表現するが、そこには孤独感とその裏側にある人とのつながりを求める気持ちが込められている。つまり上巻と中巻では、「私」自身の心と素直に表に出てこない先生の心を「私」の目線から少しずつ覗いていく。下巻「先生と遺書」は、そうした過程を経て

展開していくのである。漱石がこの作品に表現する「人間関係の裏表」を意識し、登場人物の心を見つめていくと『こころ』はなお一層興味深く読み進めることができるだろう。

『こころ』が伝えるもの

「『こころ』に描かれた人の心は、現代に生きる私たちにも共感できるのではないか」と石川教授は話す。何にも深入りせず、互いの世界に踏み込んだり踏み込ませたりしない他者との付き合い方をしている人が現代には少なくないだろう。しかし、胸の内には怒りや悲しみなど激しい感情をもっていて、どこかで心からつながることのできる存在を求めている。先生の言葉に「私は死ぬ前にたった一人で好(い)いから、他(ひと)を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか」とある。石川教授いわく、先生は「私」と心の底から信じあえる関係を望んだ。その関係は、下巻の遺書の中ですべてを語ったことで最後の最後に成立するのである。

 鎌倉の海岸で「先生」と出会った大学生の「私」は、その俗世から離れたような謎の多い先生の存在に惹かれ、交流を深めていく(上巻「先生と私」)。父の病を知らされた「私」は大学を卒業後実家に戻る。先生と別れ寂しさを感じていた「私」の元に、あるとき先生から遺書と思われる長い手紙が届く(中巻「両親と私」)。それには、先生が生前なかなか話そうとしなかった過去や胸の内がつづられていた(下巻「先生と遺書」)。

小説『こころ』あらすじ紹介

交流を深める学生たち

右の写真にスマホをかざすと、

居合道部の動画がご覧になれます。

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第628号 平成26年10月10日(金曜日)   (6)國 學 院 大 學 学 報

東都大学野球秋季1部リーグ~対拓殖大学戦~

 東都大学野球秋季1部リーグ戦、上位争いに食い込んでいきたい本学は、勝ち点で並んでいる拓殖大学と対戦した。10月8日の初戦、今季リリーフで活躍する栃谷弘貴君(健体4)が先発した。栃谷君は、初回に先制を許すも、見事な立ち直りをみせ

5-3で完投勝利をおさめた。2回戦、拓殖大学先発の佃君の前に打線が沈黙。完封負けを喫した。 対戦成績1勝1敗で迎えた3回戦、勝ち点を得るためになんとしても勝利したい本学は、1回戦で先発を務めた栃谷君にマウンドを託した。 10月10日午後1時30分秋空の晴天の中、本学先攻で試合開始。初回、本学先発投手の栃谷君は危なげのない投球で試合の

リズムを作ると、2回表本学の攻撃では、7番・櫻吉宏樹君(経営3)が左翼へ鮮やかな適時打を放ち、1点を先制。その後も相手のミスを見逃さず2点を追加した。本学らしい堅実な攻撃でこの回一挙3点をリードすると、投げては栃谷君が相手を寄せ付けず、9回4安打無失点と圧巻の投球を見せた。3-0で完封勝利を果たし、勝ち点を手にした。《記事》田中《写真》木下

圧巻の投球を見せた栃谷君

「好き」という気持ちが原動力

林:いつから役者の仕事をしていますか?宇山:小学1年生の終わりの頃からです。両親に「劇団では歌やダンスに触れることができる。そこで、好きなことを見つけて極めていくのはどうか」と勧められ、周りの子が習っているものとは違うところに興味を抱き、オーディションを受けて入団を決めました。 幼いときから歌うことや本の音読が好きで、演技やナレーションの仕事も楽しくて好きになりました。しかし、仕事上学校を早退や欠席をすることが多く、それを周囲に理解してもらえずに苦労したこともありました。 中学生のときは仕事の数も増えたため、学業との両立に苦労しました。劇団では「仕事よりも勉強が第一」と言われていたので、試験では必ず平均点以上が取れるように学習していました。

林:学校生活との両立で、役者の仕事が嫌になることはありませんでしたか?

宇山:レッスンや仕事が楽しく、嫌いになることは全くありませんでした。むしろ好きな気持ちが強かったので、困難を乗り越えることができました。

最高の「表現者」になるために林:なぜ大学に入ろうと思ったのですか?宇山:日本文学を学びたかったからです。小学3年生のときに「新近松心中物語」の舞台に出演し「悲しいはずの死なのに美しい」と感じ、日本文学に興味をもったことがきっかけです。また、仕事で歌舞伎などの日本文学を題材とした舞台に携わることがあるので、作品の時代背景を勉強して仕事に生かしたいと思い、大学への進学を決めました。林:数ある大学の中で国学院大学を志望した理由はなんですか?宇山:役者としての幅を広げるためには、日本の文化を理解する必要があると思ったからです。洋画の吹き替えの仕事をする中で、異文化を知る以前に、日本文化でもまだ知らないことが多くあると感じました。自国の文化をより理解できたら異文化への

理解や演技力の向上につながるのではないかと思い、同様の意味が込められている国学院大学の建学の精神に共感したことで受験を決めました。林:本学で学んだことが実際に仕事に生きていることはありますか?宇山:日本文学科の必修科目である「日本語学概説」では日本語の発音や言語の成り立ちを学ぶので、声優や舞台の仕事で生きていると思います。また、昔話に関するフィールドワークを行う伝承文学の授業では、実際に肌で感じたことを自分の言葉で表現することが、演技での表現に生きていると思います。

林:宇山さんの「将来の夢」は何ですか?宇山:舞台を主軸としながら声優のお仕事などもできる女優になることです。最近は、目標として出演したいミュージカルがあるので、それに向けてのレッスンに取り

組んでいます。一方で、今は大学での勉強が本当に楽しく、大学院に進んで伝承文学の研究をしてみたいという気持ちもあります。林:では、大学に入ってから勉強したことの影響は大きいですね。宇山:大学で学んでいることは、直接的でなくても全て仕事に生きていると思います。幸いなことに、私は幼い頃から演技の仕事をやらせていただいています。今後も声優か女優かなどを明確に絞るのではなく、「表現者」という仕事を極めるために、今学びたいことを学んで、夢につなげたいと思っています。《記事》林《写真》木下

 本学には、大学に通いながら職業に就いている学生がいる。宇山玲加さん(日文2)は、幼い頃から芸能事務所に所属し、声優や舞台の仕事をしている。彼女はかつて、ウォル

ト・ディズニー・ピクチャーズの人気映画「ナルニア国物語」シリーズで、ルーシー・ペベンシー役の吹き替えを担当するなど活躍している。彼女に、学生生活との両立や大学での勉強について話を聞いた。

今を全力で駆け抜ける

 本学では受験生などの来校者に対して、キャンパスツアーを随時実施している。普段はなかなか入ることができない教室や施設を、本学学生による解説と共に見学できるのが特徴だ。今回はオープンキャンパスなどで実際にキャンパスツアーを行っている学生アドバイザーの松井春菜さん(法3)に見どころを聞いた。

国学院の「今」を届ける~キャンパスツアー~

こくぴょんの

学生が案内するキャンパスツアー

 普段「大学」になじみのない受験生などの来校者には、学内ですれ違う大学生でさえも新鮮さを感じる一つの要素になる。松井さんは「大学でどのような学生生活を送るか」のイメージを、来てくれた生徒たちそれぞれにもってもらえるように心がけているという。例えば、カフェで楽しく談笑している在学生を横目に空き時間の過ごし方を提案するなど、キャンパスツアーは大学の施設はもちろん、等身大の大学生に触れる機会でもある。動画では、実際に施設をめぐるキャンパスツアーを体感できる。

さまざまな利用法 オープンキャンパスや、学校見学で訪れる高校生の案内をすることが多い松井さんは、「院友だけのキャンパスツアーをして

みたい」と話す。創立120周年を機に進められてきた渋谷キャンパス再開発以降、大学の施設はそれまでとは一変している。長年本学を訪れていない院友も、ぜひこのツアーに参加してほしい。良き伝統を常に踏襲しつつも、成長し続ける「今」の国学院大学が見られるはずだ。 《記事》小林《写真》福沢《映像》大塚

上の写真にスマホをかざすと、「こくぴょんのおさんぽ」の動画がご覧になれます。

 行き交う人々の待ち合わせスポットとして、日本や世界に知られる渋谷駅ハチ公前広場。いつも人であふれかえるこの場所に、通称「青ガエル」と呼ばれる緑色の電車が置かれている。 ハチ公の銅像に並び、渋谷のシンボルとなりつつある青ガエル。かつて東急東横線などで活躍した車両で、その名前は電車を愛した人々が、愛嬌ある車両形態から名づけた。東急電鉄が渋谷区に寄付し、平成18年10月に設置された。 昨年6月には、渋谷区観光協会が同所に観光案内所を開設。ハチ公前という観光客が集まりやすい場所に開設したことで、順調に利用者数を増やしている。 その人気の秘密は、スタッフの語学力と親しみやすさだ。渋谷区観光協会の松井裕理事長は、「一聞かれたら二答える」という真心をこめたおもてなしを心掛けているという。観光案内はもちろんだが、雑談をしに来る人やリピーターも多いとか。単なる案内所としてだけでなく、スタッフと訪れる人とをつなぐ、憩いの場を兼ねた情報交換の場ともなっている。 また、観光案内所開設1周年を記念して、「あいりっすんNavi」という渋谷区内の案内アプリも開発された。このアプリは、渋谷区の主要スポットへ行くとスマートフォンが反応し、その地の歴史やエピソードなどを知ることができる日英版アプリだ。今後は対応地域を拡大していくそうだ。スマートフォンで手軽に利用できるため、ぜひ試してみてほしい。 「青ガエル」は今日も、渋谷の街を訪れる観光客を迎えている。【開設時間】午前10時~午後6時《記事》山口《写真》森

ハチ公前広場観光案内所(緑の電車「青ガエル」)

渋谷の待ち合わせスポット「青ガエル」

宮崎吾朗監督、初の3DCGアニメ「山賊の娘ローニャ」に出演 10月11日(土)からNHK BSプレミアムでアニメ「山賊の娘ローニャ」がスタートする。宇山さんは主要人物の一人である、山賊の息子・ビルクの役を担当している。彼女はオーディションを受け抜擢されたが、「男役なのでまさか選ばれるとは思わなかった」と話す。放送は、毎週土曜午後7時から、全26回放送される。

将来の夢

授業を受ける宇山さん

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第628号(7)   平成26年10月10日(金曜日) 國 學 院 大 學 学 報

 

平成26年若木祭開催に伴う休講について

 

若木祭開催に伴い、学部・専攻科・別科・大学院の授業を

 

若木祭開催に伴い、学部・専攻科・別科・大学院の授業を

渋谷・たまプラーザ両キャンパスとも

渋谷・たまプラーザ両キャンパスとも1010/3131(金)

(金)1111/1/1

(土)は休講とする。

(土)は休講とする。

 

なお、

 

なお、1111/4(火)は創立記念日のため休校。

/4(火)は創立記念日のため休校。

 

御嶽山噴火の被災された学生・保護者の皆様へ

 

御嶽山の噴火により被害に遭われた皆様には、心よりお見

 

御嶽山の噴火により被害に遭われた皆様には、心よりお見

舞いを申し上げます。今回の被害により、今後家計が急変し

舞いを申し上げます。今回の被害により、今後家計が急変し

学業生活に支障をきたす恐れのある学生は保護者と相談のう

学業生活に支障をきたす恐れのある学生は保護者と相談のう

え、下記窓口までご相談ください。

え、下記窓口までご相談ください。

(学生生活課:☎

(学生生活課:☎03・5466・0146/たまプラーザ

03・5466・0146/たまプラーザ

事務課:☎

事務課:☎045・904・7705)

045・904・7705)

事務局からのお知らせ

その他のイベント等は、本学ホームページでご確認ください。

 

特別展「ジパングの途―西洋古地図に描かれた極東像―」

 

1111/1515(土)〜1/

(土)〜1/1616(金)午前

(金)午前1010時〜午後5時(入館は

時〜午後5時(入館は

午後4時

午後4時3030分まで)国学院大学博物館(本学渋谷キャンパ

分まで)国学院大学博物館(本学渋谷キャンパ

ス)。入場無料。日曜・祝日、大学が定める休業日は休館。

ス)。入場無料。日曜・祝日、大学が定める休業日は休館。

本学が収集してきたマニュスクリプト古地図の精密な複製本

本学が収集してきたマニュスクリプト古地図の精密な複製本

などを展示。

などを展示。

 

ミュージアム連携

美術文化フォーラム3

「東山魁夷と日本の四季 

日本の自然表現 」講演・ピア

ノコンサート

 

1111/2929(土)。フォーラムは午後1時

(土)。フォーラムは午後1時3030分から、山﨑妙子

分から、山﨑妙子

山種美術館長、河野元昭京都美術工芸大学学長が講演。午後

山種美術館長、河野元昭京都美術工芸大学学長が講演。午後

3時3時3030分からは、ピアニストの西村元希氏によるピアノコン

分からは、ピアニストの西村元希氏によるピアノコン

サート「東山魁夷が愛したモーツァルトと季節・自然に贈る

サート「東山魁夷が愛したモーツァルトと季節・自然に贈る

ピアノの名曲」を開催する。会場は、本学渋谷キャンパス百

ピアノの名曲」を開催する。会場は、本学渋谷キャンパス百

周年記念館4階記念講堂。参加費無料。申し込み、問い合わ

周年記念館4階記念講堂。参加費無料。申し込み、問い合わ

せは研究開発推進機構事務課:☎

せは研究開発推進機構事務課:☎03・5466・0927

03・5466・0927

講座・学会等のご案内

 

公務員試験合格者報告会・アドバイス会

 

1111/8(土)3・4限。入退室自由。今年度の公務員試験

/8(土)3・4限。入退室自由。今年度の公務員試験

に合格した4年生を招いて、パネルディスカッションとブー

に合格した4年生を招いて、パネルディスカッションとブー

ス形式の座談会。自身の体験談、試験対策、合格の秘訣など

ス形式の座談会。自身の体験談、試験対策、合格の秘訣など

についてアドバイス。

についてアドバイス。

 

業界研究ワークショップ

 

1111/1212(水)3

(水)3・4限、

4限、1919(水)4

(水)4・5限5限※いずれか1日2コ

いずれか1日2コ

マ連続。ワークを通じて、就職活動で必要な自分の特性に合っ

マ連続。ワークを通じて、就職活動で必要な自分の特性に合っ

た業界、職業をマッチングさせる能力を向上させる。

た業界、職業をマッチングさせる能力を向上させる。

 

以上、渋谷キャンパスで実施。申し込みはK―SMAPY

 

以上、渋谷キャンパスで実施。申し込みはK―SMAPY

キャリアサポートシステムで。

キャリアサポートシステムで。

キャリアサポート

関東大学ラグビーフットボール連盟主催秋季関東大学リーグ戦2部

~対国士館大学~

 9月28日午後1時から、八王子市の拓殖大学グラウンドで、関東大学ラグビーフットボール連盟2部リーグの本学対国士館大学の試合が行われた。21日に行われた東洋大学とのリーグ開幕戦に敗れた本学は、今季初白星を目指した。

 試合前半は、立ち上がりの緊張からか思うように得点を奪えないまま、相手にリードを許す苦しい展開となった。後半は中盤から独走状態で相手を振りきりトライを挙げたのをきっかけに勢いに乗ると、その後も積極的な攻撃で得点に結びつけた。 本学はこの勢いのまま点差を広げたいところだったが、接戦が続き結果は24-24で引き分けた。同リーグの試合は、11月下旬まで続き、本学は1部昇格を目指す。《記事》山口《写真》平野

平成26年度全日本学生柔道体重別選手権大会

 9月27日・28日に平成26年度全日本学生柔道体重別選手権大会が、日本武道館で行われた。坂本大記監督をはじめとするコーチ陣の指導の下、力をつけてきた本学柔

道部員たちは大健闘。出場した9人のうち6人がベスト8以上の成績を収めた。 1日目は、男子60㎏級・66㎏級・73㎏級・81㎏級、女子63㎏級・70㎏級・78㎏級・78㎏超級が行われ、男子60㎏級に満田和総君(法2)、66㎏級に渡邉恭章君(健体3)、中川直治君(神文2)、81㎏級に星光君(経営3)、糸井滉平君(法3)の5人が出場。81㎏級に出場した糸井君は、順調に決勝戦まで勝ち進んだが、決勝戦では一本負けで、惜しくも準優勝だった。 この他、満田君、渡邉君、中川君、星君はベスト8に入り、11月に行われる講道館杯全日本柔道体重別選手権大会の出場権を獲得した。 2日目は、男子90㎏級・100㎏級・100㎏超級、女子48㎏級・52㎏級・57㎏級が行われ、男子90㎏級に、中川凱貴君(経4)、地崎亮祐君(経4)、小林大介君(史3)、100㎏超級に桑崎涼輔君(経2)が出場した。中川君、小林君、桑崎君

は惜しくも初戦敗退となったが、地崎君は準々決勝まで駒を進めた。試合は序盤から地崎君が有利に試合を進めるものの、残り3秒に小外刈りでポイントを奪われ、ベスト8に終わった。 今回ベスト8以上に進出した6人は、11月8日(土)、9日(日)に千葉ポートアリーナで行われる講道館杯全日本柔道体重別選手権大会(世界選手権大会一次選考会)に出場する。全国、そして世界へとつながる彼らの活躍に注目だ。《記事》古積《写真》大崎

一歩も譲らない両校の

選手たち

抜穂祭の様子

必死に技をかける糸井君

農業へのこだわり 農業サークル青人草は発足1年目のサークルだ。現在の部員数は7人で、主に土日の休みを利用して活動を行っている。活動日は定めておらず、行きたい人が自由に参加できる。活動は千葉市花見川区にある個人が所有している田畑で、米の他に、大豆やサツマイモなどの野菜を年間を通して栽培している。 代表の森淳君(経営3)に活動内容を聞くと、創立したばかりとは思えない本格的なものであった。同サークルは作物の種まきや収穫だけでなく、種や苗を植える前の土作りから草取りまで、農作業における全ての作業を行う。農作業での1番のこだわりは、農薬を使わずに育てる無農薬栽培。そのため、農薬を使った畑と比べて草取りなどの時間と根気がいる作業が多い。手間を惜しまない分、成長して収穫できたとき

の達成感や喜びは非常に大きいと森君は話す。1年間を通じて、本格的に農作業に没頭できることが、同サークルの魅力だ。 今の日本では、食への安全意識が高まり、無農薬や減農薬栽培が注目される一方で、値段が高いという声も多く聞こえる。同サークル顧問で本学兼任講師の有働智奘さんは「無農薬栽培の苦労を知っていたら、高価だとは感じない」と話す。同サークルは、食物には多くの人の絶え間ない努力が背景にあることを知ってもらいたいという思いをもって活動しているのだ。

抜ぬい

穂ぼ

祭さい

に突撃!! 同サークルが活動する個人所有の田んぼの一角では、東京都神社庁港区支部が神田として稲の栽培を行っている。5月の田植えと9月の稲刈りには、神職や氏子の人たちが田んぼを訪れて祭典を行い、農作業を体験する。今回、学生記者は9月27日に行われた東京都神社庁港区支部主催の抜穂祭に参列すると共に、稲刈りを体験した。 抜穂祭は、稲穂を刈り取る際に神々に実りを感謝する神事だ。祭りの当日は、神職や氏子らが参加。子ども連れの参加者も目立った。5月に自分たちで稲を植えた田んぼの脇に祭壇を組み、神職による神事が執り行われた。祭典終了後、子どもたちは黄

金色の穂が垂れた田んぼに入り、小さな手を大きく広げて自分の背丈ほどある稲穂を掴み、ハサミを使って刈り取った。同サークルメンバーらは、子どもたちの面倒を見ながら稲刈りの補助を行う。記者もサークルメンバーに刈り取り方を教わり稲刈りを体験。鎌を使って稲を刈るとザクッという音と共に手の中に黄金色の束が収まった。機械を使わず、手で行う作業は時間がかかり疲労感もあったが、その分普段口にするお米へのありがたみを感じることができた。 抜穂祭の斎主を務めた三田春日神社権

ごん

禰ね

宜ぎ

の三笠雅春さん(平15卒・111期中文、平16卒・112期神専)は、「自分たちの食べているものは、どうやってできているのかを知ってもらいたい」と話す。小学校の教育の一環としてバケツを使いお米を育てる学校もあるが、「本物」から得られる発見は多い。今回参加した子どもたちに、その思いや実感は伝わったことだろう。 春に自分たちで植えた青緑色の小さい子どものような稲が、秋には黄金色の大きく穂を垂れる大人に成長する。森君は「抜穂祭に参列してから収穫することで、作物への感謝の気持ちがより一層増した」と話す。

食への感謝 現代の日本では、24時間営業のお店はコンビニエンスストアだけでなく、スーパーマーケットでも増えてきている。何の

不便もなく食材を買うことができる一方で、作物が食卓へ並ぶまでの過程を知る機会が減り、食へのありがたみが薄れてきているのではないだろうか。今回私たちは、農業サークル青人草に突撃したことで、1つの野菜ができるまでの苦労、そして大切に育てた野菜を食べる瞬間の喜びを知ることができた。抜穂祭で私たちが刈った稲を精米し、食べられるようになるにはもう少し時間がかかるが、今から待ち遠しく感じている。同サークルは、現在部員不足で、体験入部も大歓迎とのこと。普段携わることのない農業の世界に一歩足を踏み入れ、土のぬくもりや食へのありがたみを体感してみてはいかがだろうか。 《記事》平野《写真》赤羽・大塚

 私たちが生きていく上で欠かすことのできない食事。毎日の食卓に料理が並ぶまでには、作物を育てる人々の苦労がある。一方、日本には1年を通して作物の豊作を祈るとともに感謝を伝える神道の考えが根付いている。古くから日本人は、食への感謝の念をもちながら自然と向き合い続けてきた。本学には、自然に触れながら農作業に励んでいる「農業サークル青

あお

人ひと

草くさ

」がある。今回、私たち学生記者は食への感謝を再認識するべく、同サークルが活動を行っている千葉県にある田畑を訪れた。

大地の恵みに感謝

第 7回農業サークル青人草農業サークル青人草農業サークル青人草

稲を刈る代表の森君

古代米を5名様にプレゼント 農業サークル青人草は、古くから日本に存在する作物の栽培にも力を入れています。今年、田んぼでは、黒米と呼ばれる粒の黒い古代米を栽培。収穫時には、弥生時代の人々が用いていた石包丁を使い収穫しました。古代米はパラパラと実が落ちやすいため、一つひとつ慎重に石包丁や鎌をあてて収穫します。 白米に少し加えて炊いて食べる黒米は、プチプチとした食感が楽しめます。今回、その古代米を読者アンケートに答えてくださった皆様の中から抽選で5名様にプレゼントいたします。読者アンケートの詳細は1面をご覧ください。

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第628号 平成26年10月10日(金曜日)   (8)國 學 院 大 學 学 報

 東日本大震災からはや3年7カ月。慌ただしい都会での日常のなかで、多くの犠牲者が出たあの震災は人々の記憶から薄れつつあるのではないだろうか。今年は広島の土砂災害(8月)や御嶽山の噴火、台風被害などさまざまな災害に見舞われている。そこで今回は、いつ起こるかわからない自然災害から身を守るためにも、改めて防災について考えてみたい。東日本大震災以降、多くの災害が起きている日本の最先端の防

災対策について知り、実用的に使える情報を紹介する。 まず、私たち学生記者は池袋防災館で消火、煙、地震の防災体験を行い、そこで非常時に役立つ知識や災害発生時の心得を学んだ。その他、本学渋谷キャンパスが立地する渋谷区の災害時の取り組みについて渋谷区役所の地域防災課から、本学の災害対策について財務部次長兼管財課長の中村大介さんに話を聞いた。 《記事》山口

防 災 特 集

新しい目をもって 私は特集メンバーとして、副編集長として、今号に携わってきました。自分自身はもちろん、本紙全体としてもさまざまな意味で「新たな道」を見出した号だと感じます。 特集「学生アドバイザーが実践!! 携帯電話の使用を制限したらどうなる?」では、アンケート調査だけでなく、私たちが携帯電話の使用制限を実際に体験することで発見がありました。私は、コミュニケーション機能(電話・Eメール・Cメール除く)の禁止を担当。日頃、家族や友人との連絡手段として使用するLINEが使えなく

なることがとても不安でした。しかし、実際に調査が始まると、まるで不安が無かったかのように、難なく生活することのできる自分がいました。企画から結論までこの調査を通して私たちが全て考える、「新たな道」に進むものとなった特集だと思います。 特集に限らず、こくぴょんのおさんぽではキャンパスツアーとして学内のさまざまな見どころを、院友ネットワークでは人間国宝の本阿彌光洲さんを紹介…などと今までの本紙では想像もつかない記事・映像が詰まった「宝箱」のような号になったのではないでしょうか。

 また、私自身にとっては、初めて副編集長を務める号となりました。本紙制作に携わってちょうど2年目を迎えたのが今号です。まだまだ未熟であるため、副編集長を務めることが決まってからずっと不安な気持ちが続いていました。しかし、裏方の仕事に関して右も左も分からない私に、編集長を務める安藤さんをはじめ、先輩方が一から教えてくださりました。そのおかげもあり、自分にできる新しいことを見つけることができた号になりました。 自分自身も本紙全体も、「新たな道」を歩んだ今号。今後も、新しい目を探して制作していきたいと思います。 (落合)

 近年、日本ではさまざまな自然災害による被害が後を絶たない。平成23年3月11日に発生した東日本大震災をはじめ、今年は台風による被害などが記憶に新しいのではないだろうか。首都圏では、30年以内に70%の確率で首都直下型地震が発生するといわれている現在、本学がある渋谷区

ではどのような防災対策を行っているのであろうか。 人口が密集し、高層ビルが建ち並ぶ渋谷区では、主に地震と雨による災害への備えに力を入れている。 東日本大震災の教訓を活かし、交通機関がまひした際の動きとして帰宅困難者支援

(受入)施設を定め、マップを公開している。本学も受入施設の1つとして定められている。渋谷センター街のスクランブル交差点のような人が多く集まる場所で災害が起きた場合、最も危険なことはパニックに巻き込まれることである。落ち着いて行動することを心がけることが必要になってくる。パニックを防ぐために、災害時の情報提供ツールとして、渋谷区では区内で発生した犯罪や安全・安心に関する情報、および区内外の災害情報や各種防災情報をメー

ルにて提供する「しぶや安全・安心メール」を独自に配信している。このメールは区内在住・在勤・在学の人(在学の人は保護者も)は登録が可能であるという。 渋谷区は坂が多く谷底地形になっている。そのため、大雨・洪水・台風などに備え、洪水ハザードマップなども策定している。 渋谷区では東日本大震災以降、防災対策を見直し、未だ見ぬ自然災害への防災を強化している。詳細は渋谷区のホームページを参照。 《記事》森

東日本大震災の教訓を活かして~渋谷区の防災対策~

~万一に備えて~

池袋防災館について いつどこで起こるかわからない災害に備え、防災の知識・技術・行動力を身に付けることは、なかなか日常生活の中でできることではない。池袋駅から徒歩5分の場所にある池袋防災館は、災害発生時の対処法を無料で体験できる施設として注目されている。 この施設の特徴は、インストラクターの

指導の下、消火・煙・地震・救急などの防災体験を大人から子どもまでわかりやすく身をもって学習できることだ。 今回私たち学生記者は、キャンパスがある渋谷などの都心でいつか起こるといわれている大規模災害に必要な備えを学ぼうと考え、この池袋防災館で体験取材を行った。

「知っている」を「できる」に 池袋防災館は、池袋消防署と同じ建物内に入っており、4階と5階がメインフロアとなっている。 震度7までの横揺れを体験できる地震コーナーは、東日本大震災以降、多くの方が訪れるようになったという。大災害を経験し、身の安全を自分で確保するという人々の防災意識が高まったことが要因に挙げられる。また地震コーナーは、平成24年3月に新たに東日本大震災や長周期地震動など5種類の地震の揺れを体験できるようにリニューアルされた。ここではテーブ

ルの下に避難し後頭部を守るなど、地震が発生した直後にとるべき行動を学ぶことができる。同館では、東日本大震災の教訓を踏まえ、揺れが収まった後は津波被害に備え、防災無線やテレビ・ラジオの避難情報を聞き、速やかに高台へ避難することが重要だと説明をしている。 本物の消火器(中身は水)を使う消火コーナーでは、画面に映る火を自分で消火する体験ができる。消火器から消火剤が出る時間は20秒しかない。そのため火元にホースを向け消火する正確さと冷静さが消火活動の第1歩だ。ここでは消火器の種類や効果など多様なケースで使える知識も学べる。 煙コーナーでは、屋内で火災が発生したときを想定し、煙が充満する中、外まで避難する体験を行った。火災時は迅速に避難することに加え、煙をできる限り吸わないことが求められる。鼻・口を押え、低い姿勢を保つことなどが自分の身を守るためには必要だ。 各体験を終えると最後に防災体験カードが渡され、5枚集めると修了証がもらえる。 今回体験取材を行い、実用的な防災に対

する知識を得ることができた。「知っている」だけではなく「できる」ということが防災においては大切だ。災害時に、自分の身の安全を確保することが「できる」市民でいることが今、求められている。                   【池袋防災館】開館時間:午前9時~午後5時休 館 日:火曜日・第3水曜日アクセス: JR池袋駅西口・メトロポリタ

ン口より徒歩5分問い合わせ:☎03・3590・6565 《記事》森 《写真》山口

都心で気軽に体験学習!

今回、取材に訪れた池袋防災館

防災体験を行う学生記者たち

防災倉庫ってなんだろう 本学渋谷キャンパスの3号館地下に防災倉庫は存在する。防災倉庫とは、地震や豪雨などの災害が起こった際に、キャンパス内にいる教職員や学生、近隣から避難してきた人が生活できるようにさまざまな品が

備蓄されている場所だ。本学で収容可能な避難者数の7千人が3日間生活可能な備蓄品(飲料水・食糧、簡易トイレや毛布など)が保管されている。実際に防災倉庫を見学したが、備蓄品が倉庫いっぱいに保管されており、その量の多さを実感した。 現在、渋谷キャンパス旧体育館敷地では再開発工事が進められている。新たに建築される建物の地下にも防災倉庫が設けられ、その規模は現在の防災倉庫よりも大きいものになるという。

反省を生かして このように災害に対して備えを進める本学だが、実は東日本大震災が発生するまでは、300人分の備蓄品しかないなど、対策は十分とはいえなかった。渋谷という交通

機関が集中している場所に位置する本学。普段はその恩恵を享受しているが、ひとたび交通機関がまひしてしまうと多くの帰宅困難者が生まれる。その中で、大学の果たすべき社会的役割は年々大きくなってきている。東日本大震災時の教訓を生かし、教職員や学生だけではなく、近隣住民や帰宅困難者の受け入れに向け、対策を講じている。

万一が起こったら もし大学内で地震が発生したらどのように行動すればよいのか。財務部次長兼管財課長の中村大介さんは「まず、慌てずに建物の中に入る。そして周囲にガラス、上部に電灯やプロジェクターなどがある場所を避け、壁や柱の近くに行き、安全を確保してほしい」と話す。壁や柱の近くは他の場所よりも強度が高いからだ。 普段から災害が発生した際にどのように

動けばよいかを考えながら生活すれば、いざというときの行動も変わってくるのではないだろうか。「知っている」だけではなく「行動できる」ことが万一のときに自分の身を守ることになる。「備えあれば憂いなし」。災害が多い日本に暮らす一人として、災害への備えを怠らずに日々の生活を送りたい。 《記事》土橋 《写真》山口

災害に備えた大学の取り組み本学財務部の中村次長

防災倉庫の備蓄品。災害に備え、

さまざまな品が保管されている


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