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Page 1: 包括的ストレス反応尺度作成の試み...まることが明らかとなっている。心理的ストレス反応尺度(Stress response scale-18; SRS-18)を用 いた調査では,阪神・淡路大震災の被災者が,SRS-18の標準得点よりも多くのストレス反応を示し

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第1号(2013年)

 本研究の目的は,災害に起因するストレス反応と,一般的に生じるストレス反応を包括的に測定す

る包括的ストレス反応尺度を作成することである。分析1では,3980名を対象に29項目の包括的スト

レス反応尺度項目に対して因子分析が行われ,4つの因子を抽出した。1つ目の因子は,抑うつ・不安,

2つ目の因子は災害時特殊ストレス症状,3つ目の因子は不機嫌・怒り,4つ目の因子は自律神経症状

であった。分析2では,1101名を対象に,包括的ストレス反応尺度の信頼性と妥当性及び,災害時特

殊ストレス症状に関する項目の分析を行った。その結果,包括的ストレス反応尺度は,十分な信頼性

と妥当性を兼ねそろえており,東日本大震災の被災者に対する有効な活用法について示唆された。

キーワード:一般ストレス反応,災害時特殊ストレス反応,PTSD,東日本大震災

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は多くの尊い命を奪った。また,地震によってもたらさ

れた津波による家屋流出,福島第一原子力発電所の放射能漏れによる転居などで,生活を一変させ

られた人も多くいる。本研究の目的は,東日本大震災のような大規模災害に対する効果的な支援を

行うために,新しいストレス反応尺度の作成を行うことである。

災害時ストレス反応

 大規模災害が生じた場合,災害に起因した心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress

disorder: PTSD)症状が生じることが明らかとなっている(例えば,Wood, Bootzin, Rosenhan,

Nolen-Hoeksema, & Jourden, 1992; Nomura, Honda, Hayakawa, Amarasinghe, & Aoyagi, 2010な

ど)。PTSD は生命が脅かされるような危機体験の後,その出来事の追体験や回避,覚醒水準の上昇

    *教育学研究科 博士課程後期/福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員   **教育学研究科 博士課程後期  ***教育学研究科 博士課程後期/日本学術振興会特別研究員 ****宮城県教育委員会 スクールカウンセラー*****教育学研究科 准教授

包括的ストレス反応尺度作成の試み

浅 井 継 悟*    

森 川 夏 乃**   

平 泉   拓***  

宇佐美 貴 章**** 

若 島 孔 文*****

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

といった症状が1か月以上持続し,臨床的・社会的な障害を引き起こしている状態であり,危機体験

から4週間以内に発症し,1か月程度以内で回復するような急性ストレス障害(ASD)とは区別され

る(American Psychiatric Association,1994 高橋・大野・染矢訳1996)。したがって,PTSD を扱

う際には,ある一時点での状態ではなく,長期的な視野からどのように変化したのかという視点が

必要になってくる。PTSD の歴史は浅く,世界的には DSM- Ⅲが発表された1980年頃から,日本に

おいては,1995年の阪神淡路大震災以後に注目されるようになった(窪田,2005)。

 PTSD の発症率は,DSM- Ⅳ(American Psychiatric Association,1994 高橋他訳1996)では,1 ~

14%であると指摘されているが,引き金となる出来事によって異なる。例えば,阪神・淡路大震災

の3 ~ 4 ヵ月後では,PTSD の疑いがある者は10.9% であり(坂野・嶋田・辻内・伊藤・赤林・吉内・

野村・久保木・末松,1996),地下鉄サリン事件の被害者を対象にした調査では,5年後に PTSD の

疑いがある者が男性では24.6%,女性では35.8% である(Asukai, Kato, Kawamura, Kim, Yamamoto,

Kishimoto, Miyake, & Nishizono-Maher,2002)。しかしながら,Manuel & Anderson(1993)では,

サンフランシスコ湾岸大地震発生後,48時間以内(T1),1週間後(T2),3週間後(T3)の3回にわたっ

て調査を行った結果,PTSD 症状は T1の方が T2,T3よりも有意に高く,T2と T3の間では有意

差が見られないことを明らかにしている。また,阪神・淡路大震災の被災者を対象にした田中井・

小田・中村・田淵・野田・三戸(1998)では,震災一年半後に,震災直後,震災3 ヵ月後,現在の3時点

について尋ねた結果,家屋の被害があった者もなかった者も,年月を経るごとに PTSD 様症状は低

下していくことを示している。これらのことから,PTSD 症状は,時間が経つにつれて軽減してい

くといえるだろう。

 PTSD 症状を測定する尺度は複数存在するが,信頼性と妥当性を兼ねそろえた尺度の一つに,改

訂版出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale Revised: IES-R; Weiss & Marmer,1997)があ

げられる。この尺度は PTSD の症状を,「再体験・侵入的想起」,「回避」,「覚醒亢進」の3つの因子

から捉えており,日本語版での信頼性と妥当性についても検証されている(Asukai et al.,2002)。

しかしながら,IES-R の各項目を見た場合,「その時の場面が,いきなり頭にうかんでくる(再体験・

侵入的想起)」や「そのことについての感情は,マヒしたようである(回避)」のように,PTSD に見

られる特異な症状を捉えている項目も見られるが,「睡眠の途中で目がさめてしまう(再体験・侵入

的想起)」「イライラして,怒りっぽくなる(覚醒亢進)」「寝つきが悪い(覚醒亢進)」「ものごとに集

中できない(覚醒亢進)」といった,PTSD に限らずとも他のストレス尺度に見られるような項目も

含まれている。もちろん DSM- Ⅳの診断基準では,覚醒亢進症状のカテゴリーに睡眠に関するもの

や,怒りに関する項目が含まれているが,これらはあくまで,心的外傷以前には存在しなかったも

のとして扱われている(American Psychiatric Association,1994 高橋他訳1996)。また,IES-R の

教示は,この一週間の状態について尋ねているが,上述した,睡眠や怒りに関する項目は,一週間と

いう短い期間での教示では,周囲の環境によって容易に変化すると考えらえる。

 また,PTSD に関して,記憶に関する問題が生じていることが指摘されている(若島・野口・狐塚・

吉田,2012)。通常,記憶の想起は自ら記憶にアクセスすることができる。しかし,PTSD の症状によっ

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て,自ら記憶にアクセスしていないにも関わらず,記憶の方が侵入してくるため,混乱し問題が生じ

てしまう。こうした問題を改善するためには,自ら問題となる記憶に主体的にアクセスすることで,

記憶想起のあり方を戻していく必要がある。若島ら(2012)では,記憶に主体的にアクセスする方法

として,ブリーフセラピーにおけるリフレーミングやパラドックスの応用を主張している。したがっ

て,PTSD 様症状を測定する際に,災害に関する記憶を自分から思い出すことができることと,自分

の意志とは関係なく記憶が侵入することを区別する項目を作成する必要となる。特に,記憶を含んだ

再体験のカテゴリーは,他のカテゴリーよりも発生状況が高く(坂野ら,1996),再体験は PTSD を構

成する上で重要なカテゴリーであるため,記憶に関する項目の精査には意義があるだろう。

 したがって,PTSD の症状をより的確に捉えるためには,PTSD に見られる特異な項目と,一般的

なストレス反応によって生じる項目を精査し,記憶に関する項目を作成することが必要となってくる。

一般ストレス反応

 大規模災害が発生した場合,上述したような PTSD 症状だけでなく,日常的なストレス反応も高

まることが明らかとなっている。心理的ストレス反応尺度(Stress response scale-18; SRS-18)を用

いた調査では,阪神・淡路大震災の被災者が,SRS-18の標準得点よりも多くのストレス反応を示し

ていること,PTSD が疑われるケースでは同時に心理的ストレス反応も高くなることを明らかにし

ている(坂野ら,1996)。このようなストレス反応は,震災による家屋の倒壊などの直接的な被害だ

けでは十分に説明できず(田井中ら,1998),災害による影響により職場などの人間関係の悪化や仕

事量の増大が影響していると考えられる(Usami, Wakashima, & Kato, 2012; 若島・野口,2013)。

したがって,災害時のストレスを測定する際に,PTSD だけでなく,一般ストレス(抑うつや不安,

不機嫌や怒り,身体症状など)についても測定する必要があるだろう。

 兵頭・森野(1999)では,阪神・淡路大震災を経験した女子大生の精神的身体的症状の自覚率が2 ヵ

月で大幅に減少することを示している。これは,PTSD 同様に,一般ストレス反応に関しても,時

間の経過によって,ストレス反応が低減することを示唆している。

 現在のストレス反応を測定する尺度は複数存在するが,以前と比べて現在のストレス反応がどの

ように変化したのかを測定する尺度は作成されていない。地震や津波を見たり,体験したりすれば,

PTSD を発症しなくとも,ストレス反応は高くなる。しかし,状況が落ち着くに従って,高まった

ストレス反応が徐々に低下していけば問題は生じない。しかし,いつまでもストレス反応を示し続

けているのであれば日常生活に重篤な支障が出てくると考えらえる。また,一般ストレス反応は2,

3日や一週間という短い期間での教示では,周囲の環境によって容易に変化すると考えらえる。

 そこで,本研究では一般ストレス反応の変化を捉えるために,以前と比べて現在のストレス反応

がどのような状態にあるのかについて,過去30日間という一時的な変化の影響を受けにくい期間を

設定した上で測定を行う尺度を作成する。なお,過去30日間の状態を尋ねる尺度としては K-6

(Kessler, Andrews, Colpe, Hiripi, Mroczek, Normand, Walters & Zaslavsky,2002)があるため,ス

トレス反応を測定する教示としても十分に妥当であると判断できる。

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

本研究の目的

 以上のように,本研究では,災害時特殊ストレス反応と一般ストレス反応を同時に捉える包括的

ストレス反応尺度(Comprehensive stress response inventory:CSI)を作成し,信頼性と妥当性に

ついて検討を行うことである。災害時特殊ストレス反応に関しては,項目の精査を行い PTSD に見

られる特異な項目の整理と記憶に関する項目の追加を行う。一般ストレス反応に関しては,以前と

比べストレス反応がどのように変化したかを測定できるように作成する。

方 法調査協力者と手続き

 インターネット調査及び,自記入式質問紙調査に回答した3980名(男性2585名,女性1296名,不

明99名)。各調査は2012年11月から2013年4月にかけて行われた。

 インターネット調査は,インターネット調査会社である「楽天リサーチ」から,東日本大震災発生

時に東北・関東圏にいた20歳以上を対象に実施した。自宅の損壊等を経験しておらず,最終的に回

答に不備のなかった1101名(男性687名,女性414名,M=44.56歳,SD=10.06, range21-69,20代79名,

30代272名,40代406名,50代243名,60代101名)を分析の対象にした。

 自記入式質問紙調査は,宮城県石巻市役所全職員及び,岩手県,宮城県,福島県,栃木県で働く地

方公務員のうち,地方公務員災害補償基金が実施したメンタルヘルスセミナーの参加者を対象に実施

した。石巻市役所職員は,全職員を対象にした健康調査を実施した際に回答を求めた。回答に不備の

なかった1251名(男性602名,女性477名,不明72名,M=44.93歳,SD=9.95,range19-70,10代3名,

20代90名,30代293名,40代345名,50代406名,60代41名,70代1名,不明72名)を分析の対象にした。

メンタルヘルスセミナー参加者は,セミナー開始前,セミナーの効果を測定する項目と一緒に回答を

求 め た。 回 答 に 不 備 の 無 か っ た1628名( 男 性1,196名,女 性405名,不 明27名,M=43.78歳,

SD=11.49,range18-65,10代11名,20代239名,30代331名,40代382名,50代592名,60代46名 )を

分析の対象にした。なお,メンタルヘルスセミナーの参加者の中に石巻市役所職員はいなかった。

 信頼性と妥当性を検討するため,インターネット調査参加者のみ2か月の期間をあけ,再度選定

された項目と併存的妥当性を確認する項目に回答してもらった。

質問紙の構成

 フェイスシート 性別,回答者の年齢について尋ねた。

包括的ストレス尺度(CSI) 災害時特殊ストレス反応と一般ストレス反応の双方を測定するため

に,既存の PTSD を測定する尺度とストレス反応を測定する尺度を参考に項目を収集した。東北地

方を中心に被災地支援を行う臨床心理士3名で,類似した項目をまとめ,重複する項目を削除した。

その後,一般ストレス反応を測定する項目に関しては,変化が明確になるように「以前よりも」とい

う文言を追加し,適切な文言に変更した。災害時特殊ストレス反応に関する項目は,災害時だけで

はなく,日常的に起こる可能性のある項目(「寝つきが悪い」「ものごとに集中できない」など)を削

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除し,侵入的に記憶が想起されることを強調した項目「考えるつもりはないのに,そのことがいき

なり頭に浮かんでくる」及び自ら記憶にアクセスできないことを強調した項目「そのことの重要な

部分をうまく思い出せない」を追加した。災害時特殊ストレス反応8項目,一般ストレス反応11項

目の計29項目を設定した。その後,惨事ストレスを専門にしている大学教員に項目を確認してもら

い,災害に関するストレス反応を適切に捉えていると判断されたため,29項目すべてを CSI 原版と

して利用した。一般ストレス反応については,最近30日間の状態について,項目ごとに4件法(1:「全

くあてはまらない」)~ 4:「非常によくあてはまる)で回答を求めた。災害時特殊ストレス反応に関

しては,東日本大震災を想定し,項目ごとに4件法(1:「全くあてはまらない」)~ 4:「非常によくあ

てはまる)で回答を求めた。

SRS-18 CSI の一般ストレス反応に関する併存的妥当性を検証するために,鈴木・嶋田・三浦・片柳・

右馬・坂野(1997)の心理的ストレス反応尺度(SRS-18)を使用した。この尺度の信頼性は,内的整合

性,折半法,再検査法によって確認され,妥当性は基準関連妥当性,弁別的妥当性が確認されている

(鈴木,2004)。3因子構造であり,「抑うつ・不安」「不機嫌・怒り」「無気力」の3因子から構成され

ている。2,3日の感情や行動の状態について,項目ごとに4件法(0:全く違う)~(3:その通りだ)

で回答を求めた。

PHRF-SCL(SF) CSI の一般ストレスに関する併存的妥当性を検証するために,SRS-18では測定

しきれていないストレス反応の概念を測定するため,今津・村上・小林・松野・椎野・石原・城・児玉

(2006)の Public health research foundation ストレスチェックリスト・ショートフォーム(PHRF-

SCL(SF))のうち,「疲労・身体反応」,「自律神経症状」を測定している12項目を使用した。項目

ごとに3件法(0:ない)~(2:よくある)で回答を求めた。

IES-R CSI の災害時特殊ストレス反応に関する併存的妥当性を検証するために,飛鳥井(1999)の

改訂出来事インパクト尺度(IES-R)を使用した。この尺度の信頼性は,内的整合性,再検査法によっ

て確認され,妥当性は併存的妥当性と弁別的妥当性が確認されている(Asukai, et al. ,2002)。3因

子構造であり,「再体験・侵入」「回避」「覚醒亢進」の3因子から構成されている。東日本大震災に関

して,この一週間ではどの程度強く悩まされたかについて,項目ごとに5件法(0:全くなし)~(4:

非常に)で回答を求めた。

 この他にも,研究以外の目的の質問項目(セミナーの感想や,健康調査票の項目など)も含まれて

いたが,本論文では報告しない。

 倫理的配慮 インターネット調査に関しては,東日本大震災に関連した内容が含まれていること,

不快に感じたり,答えにくい設問がある場合は,途中で回答を中止しても構わないことを実施前に

明記した。地方公務員災害補償基金と石巻市役所から得たデータに関しては,研究目的での結果の

公表の許可を得ている。

結 果 分析には SPSS ver. 19.0 for Windows と Amos19を用いた。

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

分析1 包括的ストレス反応尺度の作成

因子分析 包括的ストレス反応尺度原案29項目について,最尤法・プロマックス回転による因子分

析を行ったところ,固有値の減衰率および解釈可能性から3因子が適当であると判断されたが,因

子負荷量が .30以下である「以前よりもお腹が痛くなる」と「以前よりも頭痛がする」の2項目を削除

した結果,災害時特殊ストレス反応と一般ストレス反応に相当する2因子が抽出された。本研究では,

一般ストレス反応の詳細な内容を検討する必要があったため,3因子,4因子,5因子を指定し,再度

因子分析を行った結果,因子解釈可能性が高かったため4因子解を採用した。十分な因子負荷量を

示さなかった項目と,因子負荷量が複数の因子にかかる4項目(「以前よりも,何もする気が起きない」

「以前よりも,健やかに眠れない」「以前よりも疲れやすい」「以前よりも,身体がこっている(肩,首,

背中,腰など)」)を削除し,最尤法・プロマックス回転を繰り返し行い因子パターンを確定した

(Table1)。各下位尺度に含まれる項目内容から,第1因子を「災害時特殊ストレス症状」,第2因子

を「不安・緊張」,第3因子を「不機嫌・怒り」,第4因子を「自律神経症状」と命名した。第1因子から

第4因子までそれぞれ,中程度から強い正の相関が示された。

内的整合性の検討 各下位尺度の Cronbach のα係数を算出したところ,.81以上の値が得られた

ため,CSI は十分な信頼性があると判断された。

因子的妥当性の検討 因子的妥当性について,確認的因子分析を行った結果,GFI = .914,AGFI

= .897,CFI = .938,RMSEA = .061と十分な値が得られた。

交差妥当性の検討 交差妥当性を検討するために,インターネット調査の対象者,石巻市役所職員,

地方公務員別に最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,Table2-4のような

結果が得られた。3つのサンプルとも,災害時特殊ストレス症状を示す8項目は共通しているが,イ

ンターネット調査では「不安・緊張」と「不機嫌・怒り」の因子が合わさり3因子構造となった。石巻

市役所と地方公務員では全体の因子分析結果とほぼ同様の4因子構造であった。各下位尺度に含ま

れる項目内容から,インターネット調査のサンプルでは,第1因子を「抑うつ・緊張」,第2因子を「災

害時特殊ストレス症状」,第3因子を「自律神経症状」と命名した。地方公務員,石巻市役所職員のサ

ンプルでは,全体の因子分析結果と同様に,それぞれ,「災害時特殊ストレス症状」,「不安・緊張」,「不

機嫌・怒り」「自律神経症状」と命名した。石巻市役所職員のサンプルと地方公務員のサンプルを比

較すると,地方公務員のサンプルには,不安・緊張の因子に「以前よりも,気が張っている」の項目

が入っており,石巻市役所では,自律神経症状の因子に「以前よりも,疲れやすい」の項目が入って

いた。

サンプルによる平均の比較 インターネット調査,石巻市役所職員,地方公務員の比較を行なうた

めに,全体の因子分析結果を元に,各尺度の合計得点と下位尺度得点について一要因分散分析を行っ

た(Table5)。その結果,「CSI合計得点」においてサンプル間に有意傾向,「災害時特殊ストレス症状」,

「不安・緊張」,「不機嫌・怒り」においてサンプル間に有意差が見られた(「CSI 合計得点」F(2,3977)

=4.64,p<.10;「災害時特殊ストレス症状」F(2,3977)=7.08, p<.01;「不安・緊張」F(2,3977)

=7.13, p<.01;「不機嫌・怒り」F(2,3977)=7.73, p<.001)。Tukey 法による多重比較の結果,「災害

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Talbe 1 因子分析結果(最尤法・プロマックス回転)

F1 F2 F3 F4 h2

災害時特殊ストレス症状

そのことを思い出すものには近寄らないようにしている .81 –.05 .01 –.06 .56

そのことには触れないようにしている(考えない,感情を持たない,話さないなど) .80 .00 .06 –.13 .57

そのことを思い出すと,そのときの感情が強くこみあげてくる .75 .04 .02 –.05 .58

気がつくと,そのときに戻ったように感じたり,ふるまっている .72 –.02 –.01 .10 .59

そのことを思い出すと,身体が反応する(動悸がしたり,呼吸が苦しくなったり,汗が出るなど) .72 –.05 –.05 .16 .57

考えるつもりはないのに,そのことがいきなり頭に浮かんでくる .70 .14 –.01 –.05 .57

そのことについてよくない夢をみる .64 .03 –.02 .11 .52

そのことの重要な部分をうまく思い出せない .60 .04 .02 .04 .44

不安・緊張

以前よりも,不安になる –.01 .96 –.05 –.13 .69

以前よりも,悲しいと感じる .08 .84 –.06 –.09 .62

以前よりも,さみしく感じる .02 .79 –.05 .03 .62

以前よりも,気持ちが沈んでいる –.05 .75 .20 –.04 .72

以前よりも,びくびくしている .06 .66 –.04 .11 .58

以前よりも,焦っている .00 .58 .15 .09 .58

以前よりも,自分のことが嫌になる –.02 .54 .12 .15 .54

以前よりも,考えがまとまらない .03 .46 .12 .23 .57

以前よりも,気が張っている .06 .40 .20 .03 .41

不機嫌・怒り

以前よりも,不機嫌になる .02 –.05 .93 –.01 .79

以前よりも,いらいらする –.02 .01 .84 .06 .78

以前よりも,不愉快な気分になる .02 .14 .72 .03 .74

以前よりも,怒りを感じる .02 .15 .70 –.09 .60

自律神経症状

以前よりも,めまいがする –.02 –.03 –.09 .89 .64

以前よりも,頭痛がする .02 –.04 .06 .68 .51

以前よりも,お腹が痛くなる .03 –.01 .05 .64 .48

以前よりも,動悸がする .03 .17 .05 .53 .51

固有値 11.51 1.79 .68 .79

寄与率 46% 7% 3% 3%

累積寄与率 46% 53% 56% 59%

因子間相関 F2 .66

F3 .54 .77

F4 .64 .70 .65

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

時特殊ストレス症状」は,インターネット調査サンプルよりも,石巻市役所職員及び地方公務員の方

が高く(共に p<.01),「不安・緊張」と「不機嫌・怒り」では,インターネット調査サンプル及び石巻

市役所職員よりも地方公務員の方が高かった(すべて p<.01)。

Talbe 2 インターネット調査因子分析結果(最尤法・プロマックス回転)

F1 F2 F3 h2

抑うつ・緊張

以前よりも,気持ちが沈んでいる .96 –.01 –.09 .80

以前よりも,不安になる .86 .06 –.18 .61

以前よりも,不機嫌になる .85 –.03 .04 .74

以前よりも,さみしく感じる .82 .05 –.02 .70

以前よりも,悲しいと感じる .82 .09 –.12 .63

以前よりも,怒りを感じる .80 .03 –.11 .57

以前よりも,いらいらする .79 –.03 .13 .74

以前よりも,不愉快な気分になる .78 .08 .06 .77

以前よりも,疲れやすい .77 –.07 .05 .57

以前よりも,焦っている .72 .02 .11 .67

以前よりも,気が張っている .66 –.01 .09 .51

以前よりも,自分のことが嫌になる .61 .05 .18 .61

以前よりも,びくびくしている .56 .13 .18 .64

以前よりも,身体がこっている(肩,首,背中,腰など) .53 –.04 .21 .45

災害時特殊ストレス症状

そのことには触れないようにしている(考えない,感情を持たない,話さないなど) .02 .89 –.13 .67

気がつくと,そのときに戻ったように感じたり,ふるまっている –.11 .88 .08 .73

そのことを思い出すものには近寄らないようにしている .05 .81 –.03 .68

そのことについてよくない夢をみる .00 .79 .06 .69

そのことの重要な部分をうまく思い出せない .07 .76 –.04 .62

そのことを思い出すと,身体が反応する(動悸がしたり,呼吸が苦しくなったり,汗が出るなど) –.06 .75 .16 .67

そのことを思い出すと,そのときの感情が強くこみあげてくる .09 .73 –.01 .63

考えるつもりはないのに,そのことがいきなり頭に浮かんでくる .12 .72 .00 .65

自律神経症状

以前よりも,めまいがする –.05 .00 .91 .77

以前よりも,頭痛がする .11 –.03 .74 .64

以前よりも,お腹が痛くなる .05 .12 .70 .67

固有値 14.02 2.24 1.18

寄与率 55% 8% 3%

累積寄与率 55% 62% 66%

因子間相関 F2 .68

F3 .69 .64

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Talbe 3 石巻市職員因子分析結果(最尤法・プロマックス回転)

F1 F2 F3 F4 h2

災害時特殊ストレス症状

そのことを思い出すものには近寄らないようにしている .81 –.10 .08 –.09 .54

そのことには触れないようにしている(考えない,感情を持たない,話さないなど) .78 –.05 .10 –.08 .55

そのことを思い出すと,そのときの感情が強くこみあげてくる .74 .06 .00 –.02 .58

そのことを思い出すと,身体が反応する(動悸がしたり,呼吸が苦しくなったり,汗が出るなど) .71 –.03 –.07 .15 .57

考えるつもりはないのに,そのことがいきなり頭に浮かんでくる .66 .19 –.05 –.03 .56

気がつくと,そのときに戻ったように感じたり,ふるまっている .61 .03 –.03 .12 .50

そのことについてよくない夢をみる .53 .08 –.02 .10 .42

そのことの重要な部分をうまく思い出せない .51 .07 .04 .06 .38

不安・緊張

以前よりも,不安になる .03 .89 –.04 –.08 .68

以前よりも,悲しいと感じる .08 .82 –.04 –.09 .61

以前よりも,気持ちが沈んでいる –.07 .72 .22 –.02 .70

以前よりも,さみしく感じる .07 .71 –.05 .04 .57

以前よりも,焦っている –.06 .56 .14 .10 .50

以前よりも,びくびくしている .14 .51 .02 .06 .46

以前よりも,自分のことが嫌になる .00 .48 .14 .08 .44

以前よりも,考えがまとまらない .04 .42 .10 .22 .50

不機嫌・怒り

以前よりも,不機嫌になる .08 –.09 .94 –.03 .80

以前よりも,いらいらする –.02 –.04 .85 .10 .77

以前よりも,不愉快な気分になる .01 .13 .76 –.02 .72

以前よりも,怒りを感じる .01 .12 .73 –.04 .64

自律神経症状

以前よりも,めまいがする –.01 –.03 –.08 .80 .53

以前よりも,頭痛がする .03 –.04 .02 .73 .56

以前よりも,お腹が痛くなる .06 –.07 .04 .57 .34

以前よりも,動悸がする .09 .10 –.02 .53 .44

以前よりも,身体がこっている(肩,首,背中,腰など) –.01 .05 .10 .49 .35

以前よりも,疲れやすい –.08 .24 .19 .41 .51

固有値 11.06 1.74 .71 .70

寄与率 43% 7% 3% 3%

累積寄与率 43% 50% 52% 55%

因子間相関 F2 .67

F3 .49 .74

F4 .64 .75 .67

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

Talbe 4 地方公務員因子分析結果(最尤法・プロマックス回転)

F1 F2 F3 F4 h2

不安・緊張

以前よりも,不安になる .94 –.05 –.02 –.10 .70

以前よりも,びくびくしている .80 .04 –.09 .02 .60

以前よりも,気持ちが沈んでいる .79 –.06 .12 –.01 .70

以前よりも,さみしく感じる .78 .03 –.04 –.03 .56

以前よりも,悲しいと感じる .73 .14 .03 –.14 .57

以前よりも,自分のことが嫌になる .67 –.04 .02 .13 .57

以前よりも,焦っている .67 .02 .04 .08 .60

以前よりも,考えがまとまらない .53 .03 .04 .21 .56

以前よりも,気が張っている .41 .07 .17 .07 .42

災害時特殊ストレス症状

そのことを思い出すものには近寄らないようにしている –.08 .79 –.01 –.03 .52

そのことには触れないようにしている(考えない,感情を持たない,話さないなど) .02 .74 .05 –.12 .50

そのことを思い出すと,そのときの感情が強くこみあげてくる –.01 .72 .05 –.01 .53

気がつくとそのときに戻ったように感じたり,ふるまっている .01 .71 .02 .03 .56

そのことを思い出すと,身体が反応する(動機がしたり,呼吸が苦しくなったり,汗がでるなど) –.05 .70 –.05 .15 .54

考えるつもりはないのに,そのことがいきなり頭に浮かんでくる .12 .67 .00 –.05 .52

そのことについてよくない夢をみる .06 .63 –.02 .06 .48

そのことの重要な部分をうまく思い出せない .05 .55 –.02 .07 .37

不機嫌・怒り

以前よりも,不機嫌になる –.04 –.01 .89 .01 .75

以前よりも,怒りを感じる .03 .02 .82 –.09 .63

以前よりも,いらいらする .04 –.02 .80 .07 .77

以前よりも,不愉快な気分になる .14 .01 .73 .01 .72

自律神経症状

以前よりも,めまいがする –.12 .01 .01 .78 .51

以前よりも,お腹が痛くなる –.01 .03 –.09 .77 .52

以前よりも,動悸がする .08 .00 .03 .56 .40

以前よりも,身体がこっている(肩,首,背中,腰など) .20 –.01 .03 .50 .43

以前よりも,身体がこっている(肩,首,背中,腰など) .10 .00 .18 .41 .38

固有値 10.87 1.89 .84 .84

寄与率 42% 7% 3% 3%

累積寄与率 42% 49% 52% 56%

因子間相関 F2 .63

F3 .74 .48

F4 .68 .58 .63

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第1号(2013年)

分析2 信頼性,妥当性の検討と惨事ストレスの項目分析

方法

調査協力者 分析1の調査協力者の3980名のうち,インターネット調査サンプル1101名を対象とし

た。併存的妥当性については1101名,再検査信頼性については,2か月後の再調査の際に対応のと

れた857名(男性566名。女性291名)M=45.16歳(SD =9.77)range=21-69を対象とした。

結果

再検査信頼性の検討 インターネット調査のサンプルのうち,対応のとれた857名を対象に2か月

の期間をあけた再検査信頼性について検討した。1回目の測定と2回目の測定の級内相関係数

(intraclass correlation coefficient: ICC)は,CSI 合計で r=.79,「災害時特殊ストレス症状」で r=.79,

「不安・緊張」で r=.77,「不機嫌・怒り」で r=.69,「自律神経症状」で r=.70(いずれも p<.001)であった。

併存的妥当性の検討 CSI 及び CSI の下位尺度と SRS-18,PHRF-SC(SF),IES-R との相関係数

を算出した(Table6)。その結果,CSI は,SRS-18,PHRF-SC(SF),IES-R と中程度から強い正

Talbe 5 各サンプルにおける平均値及び標準偏差と分散分析結果

平均値(SD)

ネット(n=1101) 石巻(n=1628) 地方(n=1251) F 値 多重比較

CSI 35.08 (13.17) 35.75(11.26) 36.48 (11.48) 4.64 †災害時特殊ストレス症状 10.47 (4.22) 11.04 (3.90) 10.94 (3.78) 7.08 ** 地方,石巻 > ネット

不安・緊張 13.41 (5.54) 13.46 (4.79) 14.07 (5.34) 7.13 ** 地方 > 石巻,ネット不機嫌・怒り 5.97 (2.75) 6.03 (2.56) 6.33 (2.66) 7.73 *** 地方 > 石巻,ネット自律神経症状 5.22 (2.23) 5.22 (1.89) 5.13 (1.82) 1.12 n.s.

† p<.10,**p<.01,***p<.001ネット=インターネット調査サンプル石巻=石巻市役所職員地方=地方公務員

Talbe 6 各尺度における相関分析結果

SRS PHRF-SC(SF) IES-R

SRS合計

抑うつ・不安

不機嫌・怒り 無気力 疲労・

身体反応自律神経

症状IES-R合計

再体験・侵入的想起 回避 覚醒亢進

CSI .85 *** .83 *** .80 *** .79 *** .55 *** .63 *** .77 *** .75 *** .72 *** .79 ***災害時特殊ストレス症状 .73 *** .71 *** .70 *** .67 *** .48 *** .57 *** .84 *** .82 *** .81 *** .80 ***

不安・緊張 .82 *** .81 *** .74 *** .77 *** .52 *** .56 *** .65 *** .62 *** .59 *** .69 ***

不機嫌・怒り .77 *** .74 *** .77 *** .69 *** .47 *** .50 *** .61 *** .58 *** .55 *** .63 ***

自律神経症状 .66 *** .64 *** .64 *** .62 *** .48 *** .63 *** .63 *** .60 *** .58 *** .64 ******p<.001SRS =心理的ストレス反応尺度PHRF-SC(SF)= Publichealthresearchfoundation ストレスチェックリスト・ショートフォームIES-R =改訂出来事インパクト尺度

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

の相関を示していることが示された。また,CSI の下位尺度においても,「災害時特殊ストレス症状」

は,IES-R と高い正の相関を示しており,「不安・緊張」,「不機嫌・怒り」,「自律神経症状」はそれ

ぞれ関連のあるものと中程度から強い正の相関を示していた。

災害時特殊ストレス反応の項目の分布 包括的ストレス反応尺度で作成された「災害時特殊ストレ

ス症状」8項目について,記憶に関する項目が精査されているかを確認するために,災害時特殊スト

レス症状合計得点と各項目の分布を確認した。PTSD という特異な症状を測定しているため,全て

の項目で分布は正の方向に歪曲していた(歪度 >1.89,尖度>3.08)。次に,IES-R のカットオフポ

イントである24点を超えた162名(男性99名,女性63名)の分布を確認した(Figure1 ~ 9)。

Figure 1 災害時特殊ストレス症状合計得点の分布

平均値 =17.38標準偏差 =5.70度数 =162歪度 =.50尖度 =.42

Figure1 災害時特殊ストレス症状合計得点の分布

平均値=17.38

標準偏差=5.70

度数=162

歪度=.50

尖度=.42

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第1号(2013年)

Figure 3 項目2:「そのことを思い出すものには近寄らないようにしている」の分布

平均値 =2.21標準偏差 =.91度数 =162歪度 =.53尖度 =–.41

Figure 2 項目1:「考えるつもりはないのに,そのことがいきなり頭に浮かんでくる」の分布

平均値 =2.4標準偏差 =.94度数 =162歪度 =.34尖度 =–.77

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

Figure 5 項目4:「そのことには触れないようにしている」の分布

平均値 =2.2標準偏差 =.93度数 =162歪度 =.53尖度 =–.49

Figure 4 項目3:「そのことについてよくない夢をみる」の分布

平均値 =2.16標準偏差 =.94度数 =162歪度 =.50尖度 =–.58

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第1号(2013年)

Figure 7 項目6:「そのことの重要な部分をうまく思い出せない」の分布

平均値 =1.95標準偏差 =.87度数 =162歪度 =.73尖度 =–.04

Figure 6 項目5:「気がつくと,そのときに戻ったように感じたり,ふるまっている」の分布

平均値 =1.97標準偏差 =.881度数 =162歪度 =.724尖度 =–.076

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

Figure 8 項目7:「そのことを思い出すと,そのときの感情が強くこみあげてくる」の分布

平均値 =2.43標準偏差 =.96度数 =162歪度 =.15尖度 =–.92

Figure 9 項目8:「そのことを思い出すと,身体が反応する」の分布

平均値 =2.06標準偏差 =.92度数 =162歪度 =.64尖度 =–.34

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第1号(2013年)

考 察CSI の因子分析結果について

 本研究の目的は,災害時特殊ストレス反応と一般ストレス反応を同時に測定できる包括的ストレ

ス反応尺度の作成であった。因子分析の結果から,災害時特殊ストレス反応を測定している「災害

時特殊ストレス症状」と日常的にも生じるストレス反応を測定している「不安・緊張」,「不機嫌・怒

り」,「自律神経症状」の4因子構造が妥当であることが明らかとなった。サンプルを分けて分析し

た結果,インターネット調査では「不安・緊張」と「不機嫌・怒り」が一つの因子に集約され3因子構

造となった。石巻市役所,地方公務員では,サンプルを合わせた因子分析結果とほぼ同様の4因子

構造となった。サンプルによって,因子構造が分かれた理由としては,インターネット調査のサン

プルは,他のサンプルに比べ震災によるストレスの度合いが低かったためであると考えられる。イ

ンターネット調査のサンプルは,東日本大震災による地震は経験したが,自宅の損壊を経験してい

ないため震災の影響が比較的軽度であると考えられる。一方,石巻市役所職員や岩手,宮城,福島,

栃木の地方公務員は,自宅の損壊に関わらず東日本大震災直後から,住民の苦情を受け続けるなど

地域住民のために働いてきたため,災害時のストレスや,仕事量の増加に伴う日常的なストレスが

高いことが考えられる。したがって,石巻市役所職員や岩手,宮城,福島,栃木の地方公務員という

震災時にストレスが強くかかったことが想定されるサンプルで共通して4因子に分かれたことは,

CSI がストレス反応を適切に測定できていることを示唆していると考えられる。このことは,サン

プル間の平均値を比較した際に,石巻市役所職員と地方公務員よりも,インターネット調査のサン

プルの方が,災害時特殊ストレス症状が有意に低いことからも明らかである。

 しかしながら,この点については,インターネットによる回答と,調査用紙による回答という回

答方法による違いや,被災地域の公務員という職業による影響も考えられるため,今後は様々なサ

ンプルでの検討が必要となってくるだろう。

CSI の信頼性・妥当性について

 CSI の信頼性は,内的一貫性と再検査法によって検討された。その結果,尺度全体のα係数が .90

を上回り,各下位尺度においても,.81を上回ったため,十分な値が示された。2 ヵ月間の再検査法

による級内相関係数においても尺度全体が .70を上回り,各下位尺度においても,おおむね .70を上

回っていたため,十分な値であると判断できる。したがって,CSI の信頼性は十分であると考えら

れる。

 妥当性については,CSI と SRS-18,PHRF-SC(SF),IES-R との関連を検討したところ,これら

の尺度との間に正の関連が見出された。いずれも中程度から強い正の相関であるため,ストレスや

PTSDとの一定の関連が示され,併存的妥当性を有すると判断できる。また,確認的因子分析の結果,

十分な適合度を持つことも示されたため,因子的妥当性も十分であると考えられる。しかしながら,

交差妥当性については,上述したように,インターネット調査のサンプルと石巻市役所職員,地方

公務員のサンプルで因子構造が異なっていたため,今後も検討が必要となってくるだろう。

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包括的ストレス反応尺度作成の試み

災害時特殊ストレス反応の項目について

 PTSD に関して,記憶に関する項目を精査したため,CSI で災害時ストレス反応に相当する災害

時特殊ストレス症状の因子の分布を確認した。PTSD という特異な概念を測定するため,全ての項

目において分布は正の方向に歪んでいた。そこで IES-R のカットオフを超えたものだけの分布を

見たところ,おおむね正規分布と見なせる分布であった。また,CSI で新たに追加した記憶の侵入

を強調した項目「考えるつもりはないのに,そのことがいきなり頭に浮かんでくる」,自ら記憶にア

クセスできないことを強調した項目「そのことの重要な部分をうまく思い出せない」についても,他

の項目と同様の分布を示していたため,災害時特殊ストレス症状を測定できていると判断できる。

今後は,PTSD の患者の分布を調べるなど,項目の精度を上げていく必要があるだろう。

臨床的応用と今後の課題

 本研究の結果から,CSI は一定の信頼性と妥当性を有していることが明らかとなった。これまで,

災害時のストレス反応と日常的なストレス反応を測定するためには,尺度を2つ使用しなければな

らず,実施する上で尺度項目の多さが問題になる可能性があった。しかしながら,CSI は25項目で

災害時ストレス反応と日常的なストレス反応を同時に測定できるため,より簡便で利用しやすいこ

とが考えられる。

 また,日常的なストレス反応については,既存の尺度のように,現在のストレス反応に重きをおい

ているのではなく,以前よりもどのように変化したのかという,変化に重きをおいている。ここ2,3

日や一週間のストレス反応であれば,たまたまその時にストレスフルなイベントに遭遇した結果,一

時的にストレスが高くなっている可能性も考えられる。しかし,以前の状態と比較することで,状態

は落ち着いてきているのか,それとも悪化してきているのかを見極めることが可能となる。東日本大

震災のような大規模災害の場合,ストレスを全く受けないことは不可能である。問題となるのは,強

いストレスを受けたことではなく,ストレス反応が時間を経ても低下しないことである。このように

ストレス反応の変化を測定することは,被災地での支援を行っていく上で重要な視点となるだろう。

 今後は,上述したように,様々なサンプルのデータを集め,交差妥当性の確認を行う必要がある。

また,日本人のみではなく,外国人を対象にした調査も行い,日本に在留する外国人への心理的支

援に役立てることができるだろう。加えて,CSI を用いた実際の支援での活用事例を積み重ねるこ

とで,より効果的な支援を導くことも可能になるであろう。

付記1

 本研究は東北大学復興アクション100+(平成24年度)による助成を受けて進められた。

付記2

 インターネット調査に関するデータは日本心理学会第77回大会で発表された。

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第1号(2013年)

付記3

 本尺度の著作権は,若島孔文研究室に帰属する。使用に関しては [email protected] までお問

い合わせください。

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―  ―302

包括的ストレス反応尺度作成の試み

Thisstudydescribesthedevelopmentandevaluationofthecomprehensivestressresponse

inventory.InAnalysis1(N=3980),29itemswerechosentoconstructthecomprehensivestress

response inventory.Four factorswere identified:1.Disasterstress;2.Anxietyandtension;3.

Temperandanger; 4.Autonomic symptoms.All these factorshadhighdegreesof internal

consistency. InAnalysis 2(N=1101), the concurrentvalidityof the comprehensive stress

response scalewasexamined.Thecomprehensive stress response inventoryhasacceptable

reliabilityandvalidity,andcanused to improve theGreatEastJapanEarthquakesurvivor's

mentalhealth.

Key words:General Stress response, Disaster stress response, PTSD, the Great East Japan

Earthquake

Keigo ASAI(Graduated Student, Graduate School of Education, Tohoku University/

Fukushima Future Center for Regional Revitalization, Fukushima University)

Natsuno MORIKAWA(Graduated Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

Taku HIRAIZUMI(Graduated Student, Graduate School of Education, Tohoku University/

Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science)

Takaaki USAMI(School Counsellor, Miyagi Prefectural Board of Education)

Koubun WAKASHIMA(Associate Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)

Development of Comprehensive Stress Response Inventory


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