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平成27年11月12日
中国リスク回避が課題の韓国石油産業動向
韓国銀行(中央銀行)によると、2015年上期の韓
国の輸出額は、前年同期比10.6%減の2,790億米ド
ルに落ち込んだ。特に石油製品が同36.0%減の196
億米ドル、家電製品が 23.6%減の 53 億米ドルとな
り、主要輸出品の減少が著しい。同行では、原油価
格低下に加え、中国経済の減速が輸出低迷の背景に
あると分析している。さらにこうした輸出不振に内
需低迷が加わっている。しかし、輸出額より輸入額
が急激に低下したことにより、貿易黒字が過去最大
規模(500 億米ドル超)に拡大している。いわゆる
不況型黒字(輸出金額の減少より、輸入金額の減少
額が大きいこと原因)が深刻になっている。
2014年 韓国の輸出依存度は、約44%と大きく(日
本は同年 約15%)の世界経済の影響を受けやすい。
特に同国は、最大の貿易相手国である中国(同年
輸出金額の約26%)に大きく傾斜した構造になっている。
韓国の石油産業は、1990年代の高度成長期に石油需要が急増し、石油精製能力の増強を
進めた。しかしながら、1997~1998 年の通貨危機以降、国内石油需要の伸びが鈍化した
ため、余剰が発生した石油製品を大量に輸出するようになった。同国の主要輸出先は中国
であったが、近年 中国では新規大型製油所が相次いで完成している。加えて中国の経済成
長の鈍化により石油需要が伸び悩んでおり、中国の石油製品はかつての大幅な輸入超過か
ら 2014 年には輸出と輸入が拮抗するまでになっている。中国は、数年の内に石油製品の
純輸出国になる可能性が高くなってきている。
韓国の石油産業は、こうした中国市場の変化に危機感を抱いており、新たなマーケット
の開拓および石油精製事業の高度化を進めている。また同国は、こうした余剰石油精製能
力、日本・中国など東アジア域内の石油大消費国との関係およびロシア極東地域での新たな
原油供給源誕生(ESPO、サハリン原油)などを背景に、北東アジアオイルハブ建設構想
を進めている。今回は、前述した経済環境の変化を受け、新たな時代に向かう韓国石油産
業の動向について報告する。
2015年度 第 20回
2 1 韓国のエネルギー需給
と原油安定供給 2
1-1 1次エネルギー需要 2
1-2 エネルギー資源 2
1-3 エネルギー輸入 3
1-4 石油備蓄の拡充 4
1-5 オイルハブ構想 5
2 韓国の石油精製 6
2-1 石油精製能力と原油処理実績 6
2-2 中国向け輸出の減少 8
2-3 アジア地域への輸出拡大 9
2-4 高付加価値化戦略 10
3 油種別需給動向 12
4 まとめ 15
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1 韓国のエネルギー需給と原油安定供給
1-1 1次エネルギー需要
韓国では、1980 年代~1990 年代中頃まで続いた高度経済成長で、1997 年には 1 次エ
ネルギー消費が 1 億 7,760 万 toe(石油換算トン)に達した。その後、同国の経済危機の
影響で一時的にマイナス成長となったが、1999年以降は再び上昇に転じ、2014年には前
年比0.9%増の2億7,320万 toeとなった。
2014 年 韓国の 1 次エネルギー構成比は、石油が最大で 39.5%を占め、石炭が 31.0%、
天然ガスが15.7%、原子力が13.0%、その他が0.8%となっている。2000年時点では、石
油の構成比54.8%であり石油の低下傾向が顕著である。一方、天然ガスおよび石炭の構成
比は、増加傾向にある。なお、2013年 同国での建設中の新古里原子力発電所向け不正部
品納入疑惑や運転トラブルが相次いで発生して発電量が減少した原子力発電は、2014年に
入って増加に転じたが、構成比は横ばいとなっている(図1参照)。
1-2 エネルギー資源
韓国の国産エネルギー資源は、石炭がほぼ唯一のもので、天然ガスは同国ガス需要のわ
ずか 0.7%程度しかなく、原油に至っては同国原油需要の 0.02%に過ぎない。同国では、
メタンハイドレートの資源探査も進められているが、現時点でエネルギー需給に大きな影
響を与えるような資源は発見されていない。
BP統計によると、2014年末現在 韓国の石炭可採埋蔵量は、1億2,600万トンで可採年
数は約72年である。1986~87年のピーク時には、2,430万トン(1,120万 toe)の生産が
あったが、2014 年には 170 万トン(60 万 toe)にまで落ちている。また、同国の水力発
電は、包蔵水力(水力発電源として開発可能な河川のエネルギー量をいう)77TWhの70%
以上がすでに開発済であり、新たな電源開発余地は小さい。なお、水力発電量は、エネル
ギー需要の0.3%を賄うに過ぎず、総発電量のわずか2%程度しかない。また、原子力発電
図1 韓国の1次エネルギー消費推移
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に利用されるウラン資源の埋蔵は確認されていない。
再生可能エネルギーは、韓国政府も「新エネルギーおよび再生可能エネルギー開発・利
用・普及促進法」を2002年に制定するなど力を入れている。2014年の実績は、太陽光発
電が2.5TWh(60万 toe)、風力発電が1.3 TWh(30万 toe)、その他(バイオマス、地熱
発電など)1.3TWh(30 万 toe)となっている。同エネルギーの構成比も 0.4%と小さく、
主要エネルギー源にはなっていない。
1-3 エネルギー輸入
韓国は、日本同様に原油の中東依存度
が高く、2005 年以降は 80%を突破し、
その後は高水準を維持しており 2014 年
は約84%となっている。国別では、サウ
ジアラビアが最大で以下クウェート、
UAEとなっている(図2参照)。
韓国では、1 次エネルギー需要に占め
る石油の比率が低下したといっても、エ
ネルギー需要の中心はまだ石油である
(図 1 参照)。同国では、エネルギーの
安定供給を担保するため、産油国との関
係緊密化政策を実施している。また、海
外油田開発、戦略石油備蓄、原油輸入ソ
ースの多様化、天然ガスへの転換、原子
力発電、再生可能エネルギー拡大および
省エネなども推進している。
【韓国と中東諸国との近年の関係緊密化動向】。
・サウジアラビア:1991年 Saudi Aramco(国営石油会社)は、温山製油所(66.9万bbl)
を運営する双龍精油(現 S-Oil)の株式 35%を取得するとともに原油輸入の長期契約を
結んでいる。また、1999年にサウジアラビアと石油分野の協力覚書に調印し、関係強化
を図っている。さらに2014年 Saudi Aramcoは、韓進グループから株を取得し、保有
比率は63.4%になっている。この動きは、Saudi Aramcoが成長するアジア市場を重視し
ており、その存在感を高めることを目指していると推定される。
・UAE:2010年 韓国石油公社(KNOC)は、UAE国営石油会社(ADNOC)と石油備
蓄およびアブダビでの油田開発の覚書(MOU)を締結した。ADNOC は、韓国(北東
アジアで一番インフラが整備されている)内の商業用石油貯蔵施設および公共石油備蓄
施設を、北東アジア地域の石油物流基地として活用することを目指している。KNOCは、
後述するオイルハブ戦略の一環として活用するためである。2011年には、アブダビ原油
図2 韓国の原油輸入構成比(2014年)
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を韓国の備蓄基地で無償貯蔵(600 万 bbl)し、非常時に韓国が優先的に利用すること
で合意、さらに同原油を日量30万bblまで優先輸入する権利を得た。
・イラン:経済制裁の影響(欧州の船舶保険拒否)により2012年 8~9 月の短期間 同国
原油輸入を中断していたが、その後は再開している。なお、同国原油は、SK Innovation 、
現代OilbankおよびSamsung Totalが処理している。
【韓国の原油輸入ソース多様化動向】
・ロシア:ロシア極東側輸出港から出ている同国産ESPO原油およびサハリン原油の輸入
拡大(2014年 約535万トン)している。同国産原油は、SK InnovationとGS Caltex
が輸入していたが、2015年から現代 Oilbankも輸入を開始している。
・米国:2014 年 9 月 GS Caltex は、新たに米国産コンデンセートのテスト輸入(40 万
bbl)を実施している。同社は、同コンデンセートが中東の超軽質原油と十分に競争でき
ると判断しており、米国のエネルギー政策・保存法(EPCA、1975年施行)緩和の動き
を受け、今後 米国産原油の輸入も計画している。
韓国は、LNGにおいて日本に次ぐ世界第2位の輸入国である。1986年にインドネシア
産からスタートし、次々に長期契約が加わって輸入量は拡大し、2014 年は約 511 億 m3
となった。国別内訳は、カタールが最大(177億m3)で以下インドネシア、マレーシアと
なっている。LNG も原油と同様に中東依存度(2014 年 約 53%)が高まっているが、今
後は北米、豪州、アフリカなどから輸入を増やす意向で、すでに長期契約を結んでいるほ
か、海外での天然ガス開発事業にも参画している。
1-4 石油備蓄の拡充
韓国が石油備蓄の検討を開始したのは第 2 次石油危機(1979 年)からで、韓国石油公
社(KNOC)が国家備蓄計画を進め、1991 年の石油事業法改正で民間備蓄も加わった。
これにより、2001年末までに IEA(国際エネルギー機関)勧告の石油備蓄90日分を達成
した(図3参照)。
韓国での石油備蓄基地建設は、1980年から開始された。2005年に瑞山、2006年に巨済
島の増強、2008年に麗水の増強、2010年5月に蔚山の地下基地650万bblが竣工し、戦
略備蓄基地建設計画が完了した。これにより、全10カ所1億4,600万bbl(原油1億2,750
図3 韓国の戦略備蓄量の推移 図3 韓国の戦略備蓄量の推移
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万bbl、石油製品1,410万bbl、LPG 440万
bbl)の備蓄容量を構築し、2014年1億4,000
万bblの備蓄を達成している(図4参照)。
韓国は、1990年代から備蓄設備のフレキシ
ブルな運用によるコスト削減を目指して、世
界の石油企業と石油貯蔵設備のリースなどを
進めている。第2次国家エネルギー基本計画
(2013~2035 年)でも、その推進が謳われ
ている。
1999年 韓国は、Statoil(ノルウェー)と
の間での麗水の原油タンク(800 万 bbl 分)
を3年間リースし、年間860万米ドルの使用
料を受け取るという契約を交わした。その後、
Sonatrach(アルジェリア)、Glencore(スイ
ス)、China OilおよびUnipec(中国)、Total、
Shell、KPC(クウェート)、ADNOC(UAE)
などもリース契約に調印している。
1-5 オイルハブ構想
韓国は、2000年頃からシンガポール(貯蔵容量6,800万bbl)に匹敵する、オイルハブ
建設(同 3,660 万 bbl)を目指してプロジェクトを進めてきた。国家エネルギー基本計画
の中にオイルハブ構想を位置づけ、麗水に貯蔵容量820万bblのオイルハブを建設し、2013
年4月から運用を開始した。これに続いて蔚山に麗水の3倍以上の規模となる2,840万bbl
のオイルハブ建設計画を2期(北港および南港)に分けて進めている(表1参照)。
この構想が完成すれば、韓国は世界 4 大オイルハブ(中東湾岸、オランダ・ベルギー、
シンガポール)保有国となる。オイルハブとは、石油物流サービス(大型港湾施設、大型
石油基地、供給)と石油取引サービス(石油トレーダー、石油取引所)の両サービスが提
供できる施設をいう。なお、韓国の石油取引所は、2017年開設予定である。
表1 北東アジアオイルハブ計画
図4 韓国の戦略備蓄基地とオイルハブ
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1) 麗水オイルハブ
2013年4 月 麗水オイルハブ(北東アジアオイルハブ構想の第1弾)は、韓国石油公社
(KNOC)の麗水石油備蓄基地にある遊休地(面積29.1万m2)に建設され、すでに稼動
開始している。
外資パートナーとして中国航空油料集団(CAOHC)が 25%を、韓国側が 75%を出資
(KNOC:29%、SK Incheon Petrochem:11%、GS Caltex:11%、Samsung C&T:10%、
Seoul Line Service:8%、LG International:5%)して、Oilhub Korea Yeosu (OKYC)
を設立した。同社は、4バース(20 万、12万、8万、1万DWT×各 1)および原油タン
ク(470万bbl)および石油製品タンク(350万bbl)からなる計820万bblの貯蔵設備(タ
ンク36基)を建設した。
2)蔚山オイルハブ
韓国は、蔚山に南北両港合計2,840万bblのオイルハブを建設する計画を進めている。
KNOCが貯蔵ターミナルを、蔚山港湾公社がバースなどの建設を主導している。
・第1期(2016年完成)が北港(面積29.5万m2)で、接岸能力5バース(12万、5万
×2、3万、1万DWT)と石油製品タンク(990万bbl)である。
・第2期(2020年完成)が南港(60.4万m2)で、接岸能力(30万×1ブイ、20万DWT
×3バース)と原油タンク(1,850万bbl)である。
2013 年 Royal Vopak(オランダ、世界最大の液体貨物運送会社)が 38%、国内から
KNOCが51%、S-Oilが11%を出資し、北港ハブ計画を進めるKorea Oil Terminal(KOT)
の設立に基本合意した。2013 年 朴槿恵大統領訪中で、Sinopec(中国石油化工集団公司)
が11%を出資する意向書に調印し、他の韓国企業も参加の意向を示していた。
しかし、2014年後半からの原油価格下落による採算悪化を理由に、2015年4月 Vopak
社が撤退し、計画の遅延が懸念される事態になった。これに対し、同年6月Sinopecが25%
出資で参加することに基本合意した。韓国企業もHanwha Total、大宇 International お
よび蔚山港湾公社が参加を表明したことにより計画は進行している。
2 韓国の石油精製
2-1 石油精製能力と原油処理実績
韓国の石油精製産業は、1960年代に韓国開発銀行とGulf Oil(米国)との合弁で大韓石
油公社(現 SK Innovation蔚山製油所)、極東精油(同 現代Oilbank)、LGグループと
米Caltexとの合弁で湖南精油(同GS Caltex)、韓国火薬とUnion Oil(米国)の合弁で京
仁エナジー(同SK Innovationの仁川製油所)、1970年代にイラン石油公社と双龍洋灰の
合弁として韓国イラン石油(同S-Oil)がそれぞれ設立され製油所を建設した。
1980年代~1990年中頃まで、韓国は高度成長により製油所はフル稼働状況となり、精
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製能力は大幅に拡張され発展を遂げてきた。同国の
製油所は、1ヶ所を除き日本に比べ大規模(6ヶ所、
合計約 297 万BPD、世界第 6 位)である。ちなみ
に日本は29ヶ所、合計395万BPD、世界第5位で
ある(図5参照)。
韓国では、1997年秋からの金融危機により、石油
製品の国内需要は冷え込み、需要の伸びは鈍化した。
このため、同国の石油精製各社は、石油製品の輸出
に活路を見いだす戦略を取った。特に地理的に近接
し、石油需要が急増していた中国を最大のターゲッ
トに、再び精製事業を拡大し発展することになった
(図6参照)。
このような歴史から、韓国の石油産業は、主にアジア太平洋地域向けに石油製品の輸出
(2014年 約44%)を重視していることに特徴がある。また、製油所稼働率は、石油製品
が純輸出に転じた直後の 1999 年~2000 年にかけて 98~99%と高水準であった。しかし
ながら、2004年以降の過剰な石油精製能力増強により需給バランスが崩れ、稼働率は80%
強に低下している(図7参照)。
図6 韓国の石油製品生産、輸出入および需要の推移
図5 韓国の製油所立地と原油処理能
図6 韓国の石油製品生産、輸出入および国内需要量の推移
(輸出量は、マイナス側にプロット)
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2-2 中国向け輸出の減少
中国向け石油製品輸出比率は、2000年代中期までは25%前後で推移していたが、2000
年後期から20%を切っている。特に、ここ2~3年の中国向け輸出は大幅に減少しており、
2014年の中国向けの輸出比率は11.6%にまで減少している(図8参照)。
こうした石油製品の対中輸出減少は、下記のような背景にある。
・中国経済がかつてのような高度成長から安定成長へ転換していることに伴い、中国で
の石油需要の伸びが鈍化していること
・中国において新規の大型製油所が相次いで完成したことで、精製能力が過剰気味にな
っていること
1990年代中期から2000年代にかけて、中国は急激な経済成長にともない大量の原油を
輸入するとともに、石油製品についても輸入を拡大してきた。しかし、2010年頃を境に中
図8 韓国の石油製品全輸出量と中国向け輸出量の推移
図7 韓国の石油精製能力、処理実績および稼働率の推移
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国の石油製品輸入は減少基調に入っており、精製能力過剰を背景に従来とは一転して石油
製品の輸出拡大が目立ち始めている。特に 2014 年に至って、中国の石油製品は輸入が
2,997万トンに対して輸出が2,927万トンで、ほぼ拮抗するまでになっている。今後 中国
は、石油製品については、純輸出国のポジションを執るものと予想される(図9参照)。
2-3 アジア地域への輸出拡大
2013年以降 中国向けに代わって、シンガポールが韓国産石油製品の最大の輸出国とな
った。これは、韓国が新たな輸出市場を開拓するため、世界有数の石油製品中継基地であ
るシンガポール向け輸出を強化した結果とみられる。その他、オーストラリア、フィリピ
ン、台湾へ向けの増加が顕著になっている(図10、表2参照)。
図9 中国の石油製品輸出入推移
図10 石油製品輸出の国別構成比
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2-4 高付加価値化戦略
韓国石油各社は、生き残りをかけて石油製品の高付加価値化へのシフトすることにより、
収益の確保を進めようとしている。下記に石油各社の近年の動向を紹介する。
① S-Oil は、温山工業団地で残油高度化処理/オレフィン誘導品を中核とする第 2 工場
建設を計画している。投資額は、総額4兆5,000億ウォン(約41億米ドル、韓国国
内のプラントとしては過去最高額)に達すると見積もられている。前述したように、
Saudi Aramco が同社の最大株主となったことで全面的な支援を受けることが可能
となったため、このプロジェクト実施が決定されたものである。
【建設設備と導入技術】
・残油流動接触分解装置(RFCCU)からのプロピレンを中心とするオレフィン設備
・下流事業としてポリプロピレン(PP)やプロピレンオキサイド(PO)事業に参入
・常圧残油脱硫技術(Hyvahl)、プロピレン生産を最大化するための高過酷度流動
接触分解技術(HS-FCC)、不飽和 LPG スウィートニング技術(Sulfrex)、ガ
ソリンの脱硫技術(Prime-G+)
・C4セクションで MTBE とコモノマー用のブテン-1 およびアルキレーション用の
イソブタンを生産するための水素化処理技術、MTBE生産技術、超精密分留技術、
ブタン異性化技術など
表2 石油製品の国別輸出量と輸出
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② GS Caltex は、石油精製過程で生じる副産物を活用して高付加価値を創出すること
ができる新事業として、炭素繊維のような先端素材分野で事業多角化を進めている。
2015 年 9 月 全州韓国炭素融合技術院で、ピッチ系炭素繊維パイロットプラントの
設置を完了した。同設備建設には、総額64億ウォンが投入され、2年ほどの試験生
産を経て本格的な量産体制に移行すれば、年産 500 トンに達する製品の供給が可能
になる。
また、同社は、バイオブタノールやバイオポリマー事業に約500億ウォンを投資し、
バイオを活用して高付加価値の化学製品事業を検討している。
③ 2014 年 現代Oilbankは、プロピレン誘導品やカーボンブラックなどの非石油精製
事業育成および海外エネルギー投資を積極的に行うことを発表した。この計画では、
2020 年に売上高で50兆ウォン、営業利益で 2兆ウォンの達成を目指すという中長
期経営ビジョンを策定し、石油精製事業の売上高比率を現在の93%から60%まで引
下げるとしている。
この一環としてカーボンブラックの生産・販売に進出する方針で、同社大山製油所
内に年間16万トン設備を建設する。同社は、コスモ石油とのパラキシレン合弁事業
およびロッテケミカルとの混合キシレン合弁事業を進めている。
しかしながら、他石油精製 3 社と比べれば、石油化学比率は圧倒的に低い。このた
め、精製過程で発生するプロピレンおよび残渣油の有効活用、高付加価値化を図る
ことを考えている。特に、カーボンブラックに関しては、すでに現代グループの現
代製鉄の協力が得られることもあり、いち早く事業化を決定した。
④ 2012年 SK Innovationは、JX日鉱日石エネルギーと協力して同社蔚山工場にて高
品質潤滑油ベースオイル(Group Ⅲ)製造設備(生産能力:約135万kℓ)を操業
開始している。また、2014年 SK Lubricantsは、Repsol(スペイン)と協力して
潤滑油ベースオイル製造設備(生産能力:約77万kℓ)の商業運転を開始した。す
でに稼働しているインドネシアと合わせて生産能力は約410万kℓと、世界有数の潤
滑油ベースオイル製造設備を持つことになる。
2014年 SK Innovationは、JX日鉱日石エネルギーと協力して同社蔚山工場にて世
界最大級のパラキシレン製造設備(生産能力:100万トン)を操業開始している。
また、SK InnovationとJX日鉱日石エネルギー両社は、原油価格の不安定性増大と
中東や中国などの設備増強、世界的な需要鈍化などで北東アジアの石油精製業界は
困難な状況が持続するという認識を共有し、今後も協力を強化することでも合意し
ている。
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3 油種別需給動向
【ガソリン】
韓国のガソリン内需は、1997年まで右肩上がりの上昇を続けていたが、同国の通貨危機
で需要が低迷した。2010年を過ぎてようやく1997年の水準にまで回復した。また、ガソ
リンの輸出は、2008年以降にシンガポール、インドネシアなど東南アジアおよびオセアニ
ア向けに急増している(図11参照)。
【軽油】
韓国の軽油は、輸送用は増加しているものの、その他の分野が減少し全体として需要は
回復していない。これに対して、2011年から輸出が国内需要を上回っており、最も輸出比
率の高い石油製品となっている。輸出先は、ガソリンと同様 東南アジアおよびオセアニア
向けが中心である。(図12参照)。
図12 軽油の生産・輸出入と国内供給量の推移
図11 ガソリンの生産・輸出入と国内供給量の推移
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【灯油】
韓国の灯油は、同国の通貨危機後の需要減少に加えて、1997 年には需要の 52%を占め
ていた民生用と、31%を占めていた商業/公共用が、生活の近代化で激減している。2014
年の国内需要は、ピーク時から 82%もの減少を示し、生産もピーク時から 81%と大きく
減少している(図13参照)。
【重油】
韓国の重油は、軽質石油製品への移行が進み、1990年代中期から需要が横ばいとなって
いたが、通貨危機後は大幅に減少傾向が続いている。特に需要の過半を占めていた産業用
および民生用が激減している。これにより、2014 年 需要はピーク時の 5分の 1、生産は
4分の1にまで減少した。輸出も1999年のピークから2014年は6分の1以下に減少して
いる(図14参照)。
図14 重油の生産・輸出入と国内供給量の推移
図13 灯油の生産・輸出入と国内供給量の推移
図13 灯油の生産・輸出入と国内供給量の推移
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【ナフサ】
韓国石油化学産業の生産能力は内需を大きく上回っているが、通貨危機後もウォン安を
背景に輸出を拡大した。特に、巨大マーケットである中国への製品輸出で操業を維持して
きた。このため同国のナフサ需要は旺盛で、2008年以降は、輸入量が生産量と並ぶまでに
拡大している(図15参照)。しかしながら、中国の石油製品需要も成長が鈍化しているの
に加え、石油製品ほどではないが一部の石化製品は、中国の大型石化プラントの完成で国
産比率が大幅に引き上げられており、輸入量の減少が目立ち始めている。このため、韓国
の石油化学産業も、中国依存からの脱却を勧める必要がある。ただ、ナフサ需要は、生産
量の2倍近くあり、純輸入のポジションが変わることはないとみられる。
【LPG】
韓国の LPG は、1990 年中期までは需要の半量を民生用が占めていたが、LNG(天然
ガス)の普及で民生用は減少している。代わって自動車燃料としての利用が進んでいるほ
か、石油化学原料としても拡大している。今後、同国でのプロパン脱水素プラント(PDH)
の稼動などで、化学原料としての利用が拡大する可能性もある(図16参照)。
図15 重油の生産・輸出入と国内供給量の推移
図15 ナフサの生産・輸出入と国内供給量の推移
図16 LPGの生産・輸出入と国内供給量の推移
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4 まとめ
韓国の石油産業は、石油製品需要の伸びが頭打ちになるなか、中国向け輸出で過剰な精
製設備の操業を維持してきた。しかしながら、中国経済の減速および石油製品の中国国内
生産の拡大で大きな影響を受けてきている。
これに対し韓国は、アジア最大の石油製品中継基地であるシンガポールへの輸出で、中
国向け減少分をカバーしようとしている。また韓国石油各社は、内需の拡大を期待するこ
とは困難なため、製油所の相次ぐ閉鎖により石油製品不足地帯となったオーストラリアを
始め、フィリピンやインドネシアなどアジア諸国への輸出を強化していく方針とみられる。
アジアでは、依然として精製能力が需要を下回っている国が多く、今後も石油製品の輸
出先として有望だが、中国を始め日本やインドなどとの輸出競争が厳しくなる可能性もあ
る。特に、成長著しいベトナムでは、日本企業等の製油所建設の動きが活発である。イン
ドネシアでも石油精製設備拡充の動きが具体化しつつあるなど市場が狭まる可能性もある。
現時点において中国はまだ石油製品の純輸入国であり、韓国にとっては輸出先を失いつ
つあるに過ぎない。しかしながら、数年後に中国が純輸出国に転じれば、Sinopec や
PetroChina など中国石油大手は、巨大な石油精製能力と原油調達能力、政治力をフルに
動員して石油製品の国際市場に参入してくることが考えられる。そうなれば、韓国石油各
社は、激烈な競争に巻き込まれることになる。このため市場開拓とともに、高付加価値分
野への進出が重要になるとみられる。
また、韓国石油各社は、潤滑油やパラキシレンなどで日本企業などと共同事業を進めて
いるが、今後さらに範囲を拡げて協力拡大を検討することも予想される。
このほかに韓国は、余剰精製能力の活用や石油大消費国と輸出国に挟まれた地理的優位
性を活かして北東アジアオイルハブ構想を進めているが、原油価格下落が障害になる可能
性がある。同構想において、欧州企業の撤退を中国企業の参加で乗り切ろうとしているが、
原油価格低迷が長期化すれば、先行きは不透明になる可能性がある。
今後 韓国石油産業の動向は、日本を含むアジア・オセアニア地域の原油および石油製品
の流通・販売・需給にも影響が大きいため、注視が必要である。
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<参考資料>
・BP Statistical Review of World Energy(BP)
・Monthly Energy Statistics(Korea Energy Economics Institute)
・Operation of Stockpiling Facilities:http://www.knoc.co.kr/ENG/sub03/sub03_3_3.jsp
・Storage Tank Terminal Construction Project:
http://www.knoc.co.kr/ENG/sub03/sub03_7_3.jsp
・The North East Asia Oil hub:http://www.knoc.co.kr/ENG/sub03/sub03_7_1.jsp
・東アジアの石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社)
・East & West Report各号(東西貿易通信社)
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
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次回のJPECレポート(2015年度 第21回)は、「中国エネルギー部門の徹底改革」を
予定しています。