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  • 富士時報 Vol.80 No.5 2007

    特集2

    特集⑵

    364(60)

    PLC・PODを適用した「SXかんたん計装システム」

    伊藤 広治(いとう ひろはる) 若井 大資(わかい だいすけ) 比留川 賢二(ひるかわ けんじ)

    伊藤 広治

    プログラマブル操作表示器の商品企画に従事。現在,発紘電機株式会社 HMI事業部担当部長。

    若井 大資

    プログラマブルコントローラの支援ツールの開発設計に従事。現在,富士電機機器制御株式会社生産本部システム機器事業部コントローラ開発生産センター設計部主任。

    比留川 賢二

    プログラマブルコントローラの開発設計に従事。現在,富士電機アドバンストテクノロジー株式会社情報・制御システム部主任。

     まえがき

     近年,プログラマブルコントローラ(PLC)は,制御容量の拡大や高速な演算制御,情報処理機能の追加,オープンネットワークの対応などが進んでおり,高度で複雑な産業用設備への適用だけでなく,環境関連設備機器,生活関連機器などへも用途を拡大させている。一方,水処理,鉄鋼,化学,薬品,食品などの業種における計装制御設備では,DCS(分散制御システム)が使用されている。汎用コンポーネントの使用による,ユーザー指向のエンジニアリング,標準言語による細かな制御プログラミング,制御設備のライフサイクルにわたるコスト削減を狙って,汎用 PLCを適用するケースが多くなってきている

    (1)

    。この背景には,PLCのメモリの大容量化,演算の高速化が進み,従来のシーケンス制御に加え,計装ループ制御も同時に実行できるようになった技術革新があり,DCSへの PLCの適用が拡大しつつあるといえる

    (2)

     ユーザーは,汎用 PLCによるシステム構築によって,

    機器を安価にかつ長期的に安定して部品調達でき,また使用している部品が廃型になるなどの調達リスクが減少するというメリットがある。しかし,PLCの適用が拡大する中,PLCのプログラムや,計装用のヒューマンマシンインタフェース(HMI)画面の開発作業が増大して,これらのエンジニアリングコスト削減が課題となっている。 本稿では,このような PLC計装制御を目指して統合コントローラ「MICREX-SXシリーズ」とプログラマブル操作表示器(POD)により,エンジニアリング効率を高めた「SXかんたん計装システム」用の SX計装パッケージを開発したので紹介する。

     SXかんたん計装システムの構成

     図 1に SXかんたん計装システムの構成を示す。 SXかんたん計装システムは,業界最高水準の演算性能を持つ統合コントローラMICREX-SXシリーズの CPUモジュール「SPH2000シリーズ」と,表示色 32,768色や

    P

    P

    P

    プログラミングツールExpert(D300win)

    計装用 FBライブラリ

    Ethernet*

    MICREX-SXシリーズSPH2000シリーズ

    PODUG30シリーズ

    各種プラントシステム

    *Ethernet:米国Xerox Corp. の登録商標

    プラント監視画面

    作画ツールPOD エディタ Ver. 4

    計装用 FPライブラリ

    ループ監視画面

    図1 SXかんたん計装システムの構成

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    3Dパーツなどで表現力を増した PODの「UG30シリーズ」で構成される。PLCのプログラミングは IEC61131-3規格に準拠した 5言語の使用と構造化プログラミング

    (3)

    が可能な SX-Programmer Expert(D300win) (以下,Expertという),PODの作画は複合パーツや各種ビューにより,画面作成工数を大幅に削減する PODエディタ Ver. 4を使用する。Expertは,計装用に特化したファンクションブロック(以下,計装用 FBという)ライブラリを備えている。また,PODエディタは,計装用の標準的な計器をPODに表示できる計装用のフェースプレート(以下,計装用 FPという)ライブラリを備えている。ユーザーは計装用 FBと計装用 FPを組み合わせるだけで,安価かつ簡易に計装システムを構築できる。

     SXかんたん計装システムのメリット

    (1) 高性能・高信頼性と安価・調達性の両立 SPH2000シリーズはクラス最大のデータメモリ容量(2Mワード)と演算実行性能(シーケンス演算 0.03〜 0.40 µs,32ビット除算 0.28〜 0.67 µs)を持つ。従来,DCSでループ制御を行い,PLCでシーケンス制御を行っていたシステムにおいて,SPH2000シリーズの適用によって,1台の CPUでシーケンス制御とループ制御の両方が実行可能となった。 また,計装用 HMIには従来,汎用パソコンが使用されてきたが,振動やじんあいの多い場所への設置ができないほか,ノイズが多い電源環境では誤動作するおそれがあった。また,計装画面についてはシステムごとに専用のソフトウェアを開発するか,高価な汎用 SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)パッケージを使用しなければならなかった。

     SXかんたん計装システムは,耐環境性に優れている汎用 PODを採用し,高価な SCADAパッケージを不要とし,高信頼性を安価に実現した。 また,各種ネットワークモジュールや計装用モジュールを標準品としてラインアップしており,ユーザーの環境に合ったシステムをフレキシブルかつ安価に構築できる。(2) プログラミング統合による開発効率の向上 Expertでは五つのプログラミング言語をサポートしており,用途に応じて使い分けることができる。 従来,LD(Ladder Diagram)言語記述のシーケンスプログラムと FBD(Function Block Diagram)記述の計装プログラムは,PLCと DCSそれぞれのプログラミングツールでプログラムミングしていたため,おのおののプロ

    グラム間の制御指令やデータの受渡しが非常に繁雑であった。しかし,Expertでは,LDと FBDを混在させてプログラミングできるので,ラダープログラムと計装プログラムの間の制御指令とデータの受渡しも容易にできる。また,計装用 FBライブラリを使用することにより,ユーザーによる計装プログラムの作成は,FBの配置と結線を行うだけでよく,大幅にプログラミング工数を削減できる。

    (3) 計装画面の自動生成による開発効率の向上 従来,PODに計装画面を表示させる場合,画面ライブラリが十分でなくユーザーが画面設計,パーツ配置,アドレス設定など,多くの画面作業が必要であった。SXかんたん計装システムではパーツの配置やアドレス設定を不要とし,新たに画面の設計や作成を行う工程をなくした。特に,従来の計装画面作成では,1画面に多数の計器を配置するケースが多く,すべてのパーツに対して PLC内のアドレスやタグを一つ一つ定義する必要があり,多大な労力が必要であった。SXかんたん計装システムでは,計装用 FBに対応した FPの組合せにより,使用した FBに応じて計器画面を自動生成できるようにした。また,FB内の変数アドレスを FP内のパーツに自動的に割り付けるHMI連携機能を用意し,ユーザーは変数のアドレスを意識せず,FPを使用できるようにした。これにより,ユーザーが膨大なプログラミングや設定作業をせずに計装画面を開発できるようにした。

     SX計装パッケージの概要

     図 2に SXかんたん計装システムで使用するツールの構成を示す。Expertと PODエディタをインストールしたパソコンに,SX計装パッケージをインストールすると,計装用 FBライブラリは Expertに登録され,計装用 FPライブラリは PODエディタに登録される。また,Expertには HMI連携機能がアドインされ,計装用 FBと計装用FPはデータベースにより対応が管理され,登録された計装用 FBを用いたプログラムを作成するだけで,計器画面を生成して使用することができる。 表1に SX計装パッケージに含まれる計装用 FBの一覧を示す。

     計器画面の自動生成手順

     計装用 FBライブラリを使用し,アプリケーションを作成した後,Expertにアドインされた HMI連携ツールで,

    Expert(D300win) PODエディタ Ver. 4

    SX計装パッケージ

    計装用 FBライブラリ 計装用 FPライブラリ

    HMI 連携ツール

    FB/FP連携DB

    アドイン

    図2 SXかんたん計装システムのツール構成

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    PLC/POD連携ファイルの作成機能を実行する。HMI連携ツールは PLCプログラム内で使用されている計装用 FBを解析し,「計装メニュー画面」「グループ監視画面」「調整画面」データを含む画面定義ファイルを自動的に生成する。この画面定義ファイルを PODエディタで読み込み, POD本体へ転送すれば生成した計装画面を使用できる。

     図 3に計装画面の自動生成の流れを示す。(1) 計装用 FB配置によるプログラムの作成 計装用 FBライブラリには,PID制御,比例演算,開平演算などの FBを用意しており,Expertで計装用 FBを配置・結線してプログラムを作成する。(2) HMI連携ツールによる画面定義ファイルの作成 Expertにアドインされている HMI連携ツールを起動し,作成したプログラムを選択すると,プログラム内で使用している計装用 FBを自動検索し一覧表示する。 この画面で,各計装用 FBの「タグ No.」「タグ名称」や,

    「アラーム/イベント」など FBの動作に関するパラメータ設定を行う。また,PODの「計装メニュー画面」「グループ監視画面」に表示するグループに,計装用 FBを割り当てる。最後に「PPR作成」(PLC/POD連携ファイル作成)を実行することで,画面定義ファイルが生成される。(3) PODエディタでの画面定義ファイルの読込み HMI連携ツールで作成した画面定義ファイルを PODエディタで読み込むと,「メインメニュー」「計装メニュー画面」「グループ監視画面」など,すべての計装画面が自動的に生成される。また,必要に応じてプラント画面などのシステム固有の画面を追加することも可能である。(4) POD本体への画面データの転送 生成した画面データを POD本体へ転送する。

     アドレス割付け作業の省力化

     従来は,FB内の変数を PODの画面へひも付けする場合,その対象となる FB内の変数の値をグローバル変数に出力し,グローバル変数を PODの画面パーツとひも付けする必要があった。このため PLCプログラムごとにグローバル変数のアドレス情報は異なり,FPのライブラリ化が困難であった。SXかんたん計装システムでは,図 4に示すとおり,従来からのグローバル変数名連携機能に加え,

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    表1 計装用FBの一覧

    計装用FB 入力処理用FB

    _siPID

    _siPIDV

    _siALRM

    _siRF

    _siPGCS

    _siESUMA

    _siESUMP

    _siONOFF

    _siMAN

    _siMPO

    _siPGCM

    _siPGSS

    _siPGSM

    PID制御位置形出力

    PID制御速度形出力

    指示警報

    比率演算

    アナログ積算

    パルス積算

    2位置オンオフ制御

    位置形手動操作器

    速度形手動操作器

    プログラム設定(連続,秒)

    プログラム設定(連続,分)

    プログラム設定(断続,秒)

    プログラム設定(断続,分)

    _siMAV

    _siHSLCT

    _siLSLCT

    _siLIMT

    _siAVRG

    _siLNR1

    _siLNR2

    _siROOT

    _siDET1

    _siDET2

    _siDET3

    _siDET4

    _siTPCM1

    _siTPCM2

    _siPRSL

    _siPRS

    _siTHS

    _siTWS

    _siLAG

    _siRAMP1

    _siRAMP2

    _siMUL

    _siDIV

    移動平均

    ハイセレクタ

    ローセレクタ

    リミッタ

    アナログ平均

    リニアライズ1

    リニアライズ2

    開平

    むだ時間発生1

    むだ時間発生2

    むだ時間発生3

    むだ時間発生4

    温圧補正1(乾き)

    温圧補正2(湿り)

    プリセット1

    プリセット2

    三者択一

    二者択一

    一次遅れ,進み

    ランプ関数1

    ランプ関数2

    %乗算

    %除算

    (1)計装用 FBを配置しプログラム作成 (2)画面定義ファイルの作成

    Expert HMI 連携ツール

    自動生成画面

    POD

    POD エディタ

    起動

    画面定義ファイル

    読込み

    (4)転送

    生成

    (3)定義ファイルを読込み

    図3 計装画面自動生成の流れ

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    FB内のローカル変数ともひも付けを可能とした。これにより FB内の変数を直接監視することが可能となり,PLCプログラムに依存せず PODの画面パーツの作成が可能となり,アドレスを意識せず計装用 FBと計装用 FPを使えるようになった。

     連携ダウンロード機能

     PLCプログラムに変数の追加や削除を行うと,変数のデータメモリへの割付けが変わり,変数のアドレスが変更される場合がある。このため,従来は PODの画面に変数が登録されている場合,PLCのプログラムをダウンロードするとともに,PLCの変数の再登録,画面データの POD本体への再転送をすべて個別に手動で行う必要があった。SXかんたん計装システムでは,煩雑な一連のダウンロード操作を自動化する連携ダウンロード機能を備えた。図 5に連携ダウンロード機能の構成を示す。 PLCプログラムを変更し,PLCへプログラムのダウン

    ロードを完了すると,Expertは PODエディタへ画面データのダウンロード要求を行う。PODエディタは変更された変数のアドレスを自動的に再登録し,画面データを生成し,POD本体へ自動的にダウンロードを行う。

     生成画面例

     図 6に自動的に生成した画面の例を示す。(1) メインメニュー画面 すべての画面のトップメニューである。計装メニュー,I/Oモニタへ移動するためのボタンに加え,ユーザー作成画面へ移動するボタンなどカスタマイズが可能である。(2) 計装メニュー画面 すべてのグループとグループに登録されている計装用FBを識別するためのタグ No.,およびステータスを表示する。

    (3) グループ監視画面 指定グループに登録されている計装用 FBの FPをすべ

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    PV MV

    R_SV

    PV_INS MV_INS

    計装用 FB

    計装用 FB内部処理

    CPUMICREX-SXシリーズSPH2000シリーズ

    PODUG30シリーズ

    計装用 FBで使用する変数を,計器画面生成時に自動割付け

    変数PV_INS

    変数PV_INS

    変数名で通信

    図4 計器画面のアドレス割付け省力化

    プログラミングツールExpert(D300win)

    アドレス登録ダウンロード要求

    生成

    PLCプログラムダウンロード

    MICREX-SXシリーズSPH2000シリーズ

    PODUG30シリーズ

    画面データダウンロード

    作画ツールPOD エディタ Ver. 4

    画面データ

    ダウンロード要求

    図5 連携ダウンロード

    メインメニュー 計装メニュー

    信号履歴

    発生中警報

    グループ監視

    I/Oモニタ 調整画面

    図6 生成画面

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    て表示する。 FPをタッチすると,機器詳細設定画面を表示し,設定値入力やトレンドグラフを参照できる。(4) 発生中警報画面 発生中の全アラーム情報を一覧で表示する。発生中警報は,計装用 FBが検出する異常内容,または PLCが検出する異常内容を表示する画面であり,最大 1,024件までアラーム情報を表示できる。 計装用 FBが検出する異常内容を表示させる場合,HMI連携ツールに一覧表示されている計装用 FBの各種アラーム/イベントのメッセージを任意に登録すると,アラーム/ イベント発生時に登録したメッセージを表示することができる。また,PLCのシステムメモリに割り当てられている各種異常が発生した場合,その異常内容を画面に表示する。

    (5) 信号履歴画面 アラーム/イベントの発生と復旧を時系列で表示する。最大 100件まで履歴を表示できる。(6) I/Oモニタ画面 PLCの I/Oの現在値を表形式でモニタ可能な画面である。 PLCのシステム構成に合わせ,実装している I/Oモジュールの局番やアドレスとモジュール形式を表示し,I/Oのデータを 2進,10進,16進でモニタ表示する。

     あとがき

     「SXかんたん計装システム」の概要と特徴を紹介してきた。今後,PLCは高性能化・大容量化により,情報処理の能力が向上し,DCS機能レベルへの適用が進むと考えられる。また,PODは大画面化,フルカラー化,表示分解能の向上により,さらに表現力が向上し適用範囲が拡大するものと考えられる。 富士電機ではこの状況を踏まえ,さらに使い勝手や効率の向上を目指し,計装用 FBおよび計装用 FPの品ぞろえ強化を図っていく。また,情報処理能力の向上に伴い情報システムとの連携強化やモジュールのさらなる充実を強化していく所存である。

    参考文献

    (1)  黒田昌吾ほか.中小規模監視制御システム「EGFMAC-SIRIUS」.富士時報.vol.77, no.6, 2004, p.427-431.

    (2)  上田淳.サーボ・PLC技術講演会[4].電機.2005-7. p.54-63.

    (3)  中間倫之ほか.コントローラ支援ツールの進化.富士時報.vol.78, no.5, 2005, p.333-336.

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  • * 本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。


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