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伊東 秀記 先生 立川皮膚科クリニック 院長/東京慈恵会医科大学 皮膚科 非常勤講師

VZV初感染メカニズムの新知見

 従来のVZVの初感染論では、飛沫中の感染性VZV粒子が上気道粘膜や眼球粘膜を介して感染し、T細胞または樹状細胞に感染した後、リンパ節で4~6日間かけて増殖し、一次ウイルス血症によって全身に広がる。その後、VZVは脾臓や肝臓で増殖し、二次ウイルス血症となり、皮膚に移行して感染後14日程で水痘病変を形成すると考えられていた。しかし、我々が行った研究では1)、飛沫中の感染性VZV粒子が上気道粘膜を介して感染した後、リンパ節のT細胞または樹状細胞に感染して増殖し、一次ウイルス血症を起こして、24時間以内には皮膚に到達することが示唆された。そして、VZVが皮膚へ移行してから水痘病変の形成に約14日間を要すると考えられた(図1)。 我々は、ヒト胎児皮膚を移植した重症複合型免疫不全マウス(SCID-huマウス)にVZVを感染させたT細胞を接種し、VZVの感染が成立したところで移植した胎児皮膚を摘出して、ウイルス学的および免疫学的検討を行った。その結果、免疫組織学的染色の皮膚病理組織像をみると、病巣周辺ではインターフェロンα(IFN-α)の発現量が増加していたが、病巣の中心部では発現量が減少していた。IFN-αの産生にはシグナル伝達性転写因子1(signal transducer and

activator of transcription 1:Stat1)が関与しており、リン酸化されたStat1(pStat1)が核内に移行して転写因子として働くことで、IFN-αが産生される。IFN-αの発現亢進が認められた病巣周辺の細胞の核内からはpStat1が検出されたが、IFN-αの発現抑制を認めた病巣中心部の細胞の核内からはpStat1は検出されなかった。したがって、水痘固有の皮膚病変の形成にはIFN-αのバリアが深く関与しており、IFN-αがVZVの感染に抑制的に働いているのではないかと考えられた。そこで、上述の試験系でヒト胎児皮膚を移植したSCID-huマウスにVZVを接種し、抗IFN-α、β受容体抗体(抗IFN-α、βR抗体)を投与したところ、抗体を投与しなかったコントロールに比べて病変は顕著に拡大した。また、コントロールでは病変にpStat1が検出されたが、抗体を投与した場合には病変からpStat1は検出されず、病変周囲に強く発現していた(図2)。さらに、抗体を投与した際の皮膚組織のVZV力価が、コントロールの約10倍であったことからも、IFN-αはVZV感染に抑制的に働くと考えられた。 以上をまとめると、VZVは感染後、二次ウイルス血症を介さずに24時間以内に皮膚に到達して増殖する。また、病変部位ではIFN-αやpStat1の発現抑制が起こり、その周囲ではIFN-αやpStat1の発現が増強して、サイトカインによるバリアが働き、水痘の皮膚病変を形成すると考えられた。

水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):初感染、潜伏感染、再活性化

VZV・HSV感染症の病態Session 2

図1 ヒトにおける水痘・帯状疱疹ウイルスのライフサイクル

Spinal cordAnterogradetransport Retrograde

transport

Inoculation

Waldeyer’sRing Primary infection

Latency

T cell viremia

Reactivation

Neuronal axonsNeuronal axonsCapillaries

Ann M Arvin 原図から改変

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1) Ku CC et al. J Exp Med. 200(7)917(2004)2) Cohen JI et al. Fields Virology 5th ed. 2. 2773(2007)3) Cohen JI et al. J Virol. 79(11)6969(2005)4) Xia D et al. J Virol. 77(2)1211(2003)5) Cohen JI et al. J Virol. 81(4)1586(2007)6) Cohen JI et al. J Virol. 79(8)5069(2005)7) Hoover SE et al. J Virol. 80(7)3459(2006)8) Sato H et al. J Virol. 77(20)11180(2003)9) Ouwendijk WJ et al. J Virol. 86(18)10203(2012)10) Ashrafi GH et al. Virus Genes. 41(2)192(2010)

VZV潜伏感染

 これまで、VZVは主に神経節サテライト細胞に潜伏感染すると考えられてきたが、近年の報告では、感覚神経節の神経細胞に潜伏感染するという説が有力となっている2)。VZVが感染し増殖するときは、VZV前初期遺伝子(immediate early genes:IE)が活性化され、次いで初期遺伝子(early genes)、後期遺伝子(late genes)が活性化される(図3)。 ラットのVZV潜伏感染モデルを用いた検討では、ORF(open reading frame)4欠損ウイルスでは潜伏感染の頻度が低下することや3)、VZVの潜伏感染には初期遺伝子であるORF21は必須ではないことが報告されている4)。別の動物実験ではORF29欠損株では、感染率に変化はなかったが、後根神経節での潜伏感染率が有意に低下した(p<0.00001)。一方、ORF29の過剰発現でも潜伏感染率が低下することから、ORF29の発現量が潜伏感染を制御することが示唆されている5)。さらに、ORF63は培養細胞でのVZV増殖には必須ではないが、ラットでは潜伏感染に必須であることが報告されている6)。なお、ORF63はORF62の転写レベルをコントロールし、潜伏感染とウイルスの増殖を調整する役割を持つとされている7)。ORF66は潜伏感染の成立には必須ではないが、glycoprotein E (gE)、ORF32、ORF62、ORF63などのウイルス蛋白のリン酸化を介して潜伏感染の維持に関与していると報告されている8)。

 ヒトにおいては、死後3.7~24時間の三叉神経節(n=43)におけるVZV-DNAをMultiplex real-time PCR法で検討した報告がある9)。死後9時間まではVZVの転写産物は検出されず、9時間以降にORF63やORF62、ORF4、ORF29などが検出された。しかし、より感度の高いreal-time quantitative PCR法では、死後9時間以内でもORF63の転写産物が検出された。このように、検出感度や死亡後の経過時間によって結果が異なることを考慮する必要はあるが、現状ではVZVの潜伏感染にはORF4、ORF62、ORF63やORF21、ORF29、ORF66などが主に関与していると考えられる。

VZVの再活性化

 VZVの再活性化にはVZV特異的T細胞による細胞性免疫が大きく関与しており、加齢などによりVZV特異的細胞性免疫が低下するとVZVが再活性化して帯状疱疹を発症する。

〈帯状疱疹の診療における注意点〉 帯状疱疹には帯状疱疹後神経痛(PHN)をはじめとして様々な合併症がある。最も頻度が高く治療に難渋することが多いPHNに関しては、発症に関与するVZV遺伝子は解明されておらず、発症機序もいまだ明らかにはなっていない10)。その他の合併症としては、顔面神経麻痺、結膜・角膜炎、眼球運動障害、Horner症候群、自律神経障害による偽性腹壁ヘルニア、血管・脊髄障害、脳炎や脊髄炎などの中枢性合併症など多岐にわたる。 我々は、治療に難渋するPHN患者は、脊髄などに何らかの症状があるのではないかと考え、三環系抗うつ薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が無効なPHN患者22名の脊髄の器質的変化についてMRIを用いて検討した。その結果、約半数の患者で椎体・椎間板変形、黄色靱帯肥厚、椎間板膨隆等が認められた。このような患者を含む帯状疱疹・PHNの治療にあたっては、患者をよく観察し、症状に応じて他科と連携をとることが重要なこともある。図3 VZVの遺伝子発現の順

図2 マウスの水痘病変(免疫染色)

pStat1 pStat1

病変部位

病変部位

62

10

46

3 47

Cascade concept

Lytic phaseTranscriptional regulatory genes

Early genes

Thymidine KinaseDNA polymeraseRibonucleotide   ReductaseProtein Kinases

→ 5 (gK)→ 14 (gC)→ 31 (gB)→ 37 (gH)→ 60 (gL)→ 67 (gI)→ 68 (gE)

Immediate early genes Late genes

62 63  4  29  21

コントロール 抗IFN-α、βR抗体投与

Ku CC et al. J Exp Med. 200(7)917(2004)

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