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【提案】琵琶湖南部 環境居住都市構想 2030

これは、琵琶湖南部エリアの現状(2010 年時点)に対しての都市計画に関するアイデアをまとめたものです。3/11 の大震災以来、国家規模でのエネルギー政策の転換の可能性を探る気運が高まるなか、嘉田由紀子滋賀県知事が行政のトップとして正式に関西電力に対し、段階的な「卒原発」・「自然エネルギーの可能性についての共同研究」を要望されたことに際し、建築家として、滋賀のことを考える市民の一人としてお力になれると思い、この提案書を提出させていただきます。

本提案は 2010 年に作成したもので、現在のニーズ、実現可能性に不一致なところもあると思いますが、自然エネルギーの可能性の 1 つを具体的に示すものであると思いますので、お目を通していただければ幸いです。

拝啓 滋賀県知事 嘉田由紀子 さま

PLAY 代表 青木 健

これは、2030 年まで人口が増え続ける滋賀南部のエリアにおいて、住宅供給のために投下される資本を原動力に、良好な自然環境、歴史的街並み、現代的な都市インフラを備えた都市を 2030 年までに整備するための都市計画に関する提案です。

琵琶湖南部 環境居住都市構想 2030    1その

2000 2015 2030202020102005 2025

288,240

302,556

338,066

346.511

351,702

355.680

358,020

滋賀県では南部の大津市、草津市を中心に、国内でも高水準の人口増加が続いてきた。そして、この人口増加は、日本全体の人口が減少に転じた 2010 年以降、2020 年までは沖縄県、東京都とともに人口増加が続き、2020 年から2030 年にかけては滋賀県のみが人口増加すると推計されている。(* 1)京阪神のベッドタウンとしての郊外がスプロールした延長に位置し、鉄道や高速道路によるアクセスが便利で、さらに、琵琶湖を中心とした豊かな自然環境、子育て環境(自然環境・教育施設・文化施設)が整っていることが要因である。

琵琶湖南部エリアの現状

過去十年間の急激な人口増加(5.2%)により、郊外丘陵地(森・山間部)・田畑が宅地造成され、古くから残る市街地(町屋街)においては高層マンションの建設が相次いだ。生物がたくさん住む森が切り開かれ、夏には水を張り秋には米を供給する田んぼが次々と破壊され住宅地へと姿を変え、琵琶湖周辺部には大きな壁のような高層マンショ ンが次々と建設された。高度成長期のような超大規模な開発ではないが、無数の中・小規模な開発が繰り替えされることで過去 10 年間に大津市だけでも東京ドーム 50 個分の山や森、田畑、町屋などの既存の環境が破壊された(*2)

さらに、湖南エリアでは、山と琵琶湖に挟まれた地理的な条件により交通インフラを陸上に拡充することが困難である現状と、公共施設・商業施設・企業の工場が無計画に分散している現状、人口増加による交通総量の増加とが組み合わさることによる慢性的な渋滞が大きな問題となっている。この先2030年までの人口増加に合わせ現在のような開発を続けていくと、自然環境は破壊され、交通渋滞はさらに悪化し、居住環境が著しく損なわれることは間違いない。

人口増加に伴う緑地・田畑の宅地造成1

自動車の普及による郊外化・中心市街地の衰退3

自動車依存の都市構造による慢性的な交通渋滞4

富栄養化による南湖の水質悪化5

人口増加に伴う高層マンション開発2

琵琶湖への眺望

壁のように建つ高層マンション

大規模小売店舗の立地 平成 19 年7月 19 日現在中心市街地内の商店街の店舗数・従業者数、年間販売額の推移グラフ

H12~H22 の開発登記簿(大津市)より作成

大規模小売店舗の立地 平成 19 年7月 19 日現在 交通渋滞多発箇所 平成 21 年 滋賀県による調査結果

琵琶湖水質の平面分布(2009 年度)- 滋賀の環境 2010 より -

人口増加に対して無計画に都市を開発することで、「人口が増えれば増えるほど既存の環境が悪化していく現状」から人口増加を原動力に、「良好な自然環境、歴史的街並み、現代的な都市インフラを備えた都市」への転換を試みる

水上複合施設建設による居住都市環境の最適化

2030 年まで続く人口増加を機に滋賀南部の都市環境を再整備する。居住施設 /LIVING-STATION、水上交通ターミナル /WATER-STATION、バイオマス発電所 /BIOMASS-STATION の三層構成を同時に計画することで、都市環境の最適化を図る。メガフロートに集合住宅を建設することで、陸上の古くから残る街並み、自然環境を保全し、島と陸を連絡する水上交通網の整備し、水上・陸上両方からアクセスできる公共施設・商業施設群を湖岸に集積させることで、陸上交通インフラの渋滞を解消、都市機能を向上させ、衰退した商店街を再活性化し、琵琶湖で培養される藻と県内の農林畜産業からの廃棄物をバイオマスとして利用し発電することで、滋賀南部 27 万世帯、65 万人分のカーボンニュートラルな電力と島の集合住宅の熱源を供給し、琵琶湖から流れ出る水を浄化し、県内の農林畜産業を育成する。

居住施設

バイオマス発電所

水上交通ステーション

5 自然豊かな里山・丘陵地

4 スムースな陸上交通

町屋の残る古い街並み6

3 湖岸公園と一体になった商業・公共施設群

1 水上の集合住宅・水上ターミナル・バイオマス発電所

遊泳可能な水質7

2 水上交通網の整備

バイオマス水上発電所

有機物であるバイオマスを燃焼させることで電気・熱エネルギーを取り出し、排出される CO2 をバイオマスの成長過程で再吸収させることでトータルの排出 CO2がゼロであるカーボンニュートラルであるバイオマス発電所をメガフロート上に建設する。琵琶湖で自然培養される藻類(大量発生するとアオコ、赤潮となる)と、県内の農林畜産業から廃棄されるバイオマスを有効に利用することで、今までは害として見られ、その処理が負担となっていたものからエネルギーを取り出し、逆に地域の産業を育成することになる。

1 2 11109876543 12

食品廃棄物

家畜排せつ物

稲わら・もみ殻

間伐材

藻のバイオマス利用・水質浄化84 年以降上昇していた有機汚濁の指標である COD は高止まりではあるが、全窒素、全りんは環境基準を満たしておらず、琵琶湖は富栄養湖であり、植物プランクトン、藻類が生育しやすい環境となっている。そこで 670㎞2 ある湖全域を開放培養槽として藻類を自然培養させ、唯一の流出河川である南部の瀬田川一河川に集中する水の流れを利用して、培養された藻類を効率的に収集し、バイオマスとして発電に利用する。藻類が成長し、収集する過程で、水質を浄化する作用があり、瀬田川河口付近の人口密集エリアの水質を改善し、遊泳可能な水辺を整備する。

各バイオマスの水上輸送と廃棄物の有効利用による県内産業の育成滋賀県内の林業・畜産業・農業から廃棄される間伐材・家畜排泄物・稲わら・もみ殻を産地から湖岸までの短距離は個別にトラックで輸送し、大型のバイオマス収集船によって一括長距離輸送することで低コストでのバイオマスの供給を実現する。間伐材の処理が負担となり近年衰退の一途を辿っていた林業であるが、間伐材を有効利用することで再生が可能になる。

多種類バイオマスによる安定供給藻類・農業廃棄物の発生量は季節・気候条件によって変動するので、ストック可能な間伐材を貯蔵庫にストックし供給量を調整することで年間を通してバイオマスを安定供給することが可能になる。

水上交通インフラの整備と陸上既存インフラとの連携

水上交通ネットワークを整備し、3 島を乗り換えのターミナルとする。既存の市街地の公共施設、商業施設、JR・私鉄との関係を考慮してポンツーン(船着き場)を適正な場所に配置する。現在湖岸に沿って総延長 5㎞の細長い公園が整備され周辺にはいくつかの公共施設・商業施設があるが、近年の郊外化により閑散とした現状である。そこで、今後人口増加や既存施設の老朽化に伴って新たに必要となる施設を、水上からのアクセス可能な湖岸公園周辺に計画的に集積させることで、陸上の道路の混雑を緩和し、快適でにぎわいのある親水空間と一体となった都市空間を湖岸につくりだす。また、JR・私鉄を利用して京阪神に通勤、出掛ける人が湖岸のポンツーンから内陸部の駅へと移動することで、衰退した駅前商店街の再活性化をすることが可能となる。

水上ハブステーションと水上交通ネットワーク 湖岸への公共・商業施設の集積 陸上の既存交通インフラとの連携

郊外の山林・田畑の宅地造成、市街地の高層マンションの建設を規制し、琵琶湖に浮かぶメガフロート上に集合住宅を供給することで、既存の自然環境・街並みを保全する。

2030 年までに約 20000 万人の人口増加を見込むとの推計を基に既に建設済みで未入居の住居を考慮して、6000 人(2500 戸)/ 島で計画し、3 島で約 18,000 人が居住可能な水上都市を計画する。推計と実際の人口の増加の誤差を想定され、1 島ごとに 3 期に分けて計画する。

2025

203020201

3

2

住区計画

近隣住区

近隣分区

住戸

② ③④

島内交通

エスカレーター + エレベーター

階段 + 斜路

島ひとつを 2500 戸、6000 人が暮らす近隣住区として計画する。島の低層部船着き場周辺に消防・警察派出所、郵便局・スーパーマーケットを配置し、島の最上部に小学校を設ける。船着き場一帯が島の中心としてにぎわうエリアとなる。

日常消費生活に必要な共同施設をもつまとまりとして 500 戸 ~1000 戸程度の近隣分区を 4 つ設け、各分区ごとに保育園・幼稚園、集会所、公園、日用品店、スーパーマーケットを配置。円形の平面をもつ各層がランダムにずれ広場になったところに配置される共同施設を中心に地域のコミュニティが形成される。

上層部と下層部の二つのゾーンに分けて、老人、身障者、幼児連れ、大きな荷物の運搬、短時間での移動を目的とする人のためのエスカレーター・エレベーターを設置する。これら二つが主要な島内交通インフラとなり、その周辺部に近隣分区の共同施設が配置される。

階段、斜路をランダムに配置することで、単調になりがちな都市空間に複雑性と移動ルートの多様性を与え、多様で活発な移動を可能とする。島の最上部から船着き場のある最下層部まで斜路で各レベルが接続されており、自転車、公共小型電気バスでの移動が可能。

居住環境

住戸バリエーション

島の外周部に住戸が配置されており、すべての住戸で眺望、日当たりがよく、緑に囲まれ現代的で健康的な生活を営むことができる。

構造壁の間(スパンは約 15 m)を横手に三等分、奥手に等分したものを二層で立体的に組み合わせることで多

様な住戸プランが設定可能で、現代人の多様な集合形式、生活スタイル、経済状況に対応する

近隣都市機能を備えた水上の集合住宅

elementary school

public water bus stations

ground / elementary school

private ship

A

B

C

D

E

F

wood/top roof

biomass-power station

EV

EV

SHOP

police office

local library

clinic

super market

boarding ticket office

escalator

escalator

escalator

community park C

community park B

community park D

community park A

housing

housing

cafe

cafe

convienience store

bicycle parking

electric bus garage

indoor sports

BASE FLOOR PLAN 1/2000

MID FLOOR PLAN 1/2000

ROOF PLAN 1/2000100m

バイオマス発電所(藻類・食品廃棄物を乾燥させるバイオマス化施設、バイオマス貯蔵庫、循環流動層ボイラ、発電タービン、ガス濾過フィルター)に加え、発電タービンからの廃熱を住戸で利用できるようにするための設備、飲料水を住戸、施設に供給するための浄水設備(災害発生時にも稼働可能)を島の中心部に併設する。大型客船で使われる技術を転用し、騒音・振動が発生する部分はシェルターで囲うことで島外周部の居住性を確保する。

発電タービン

循環流動層ボイラ

災害ステーション

EMERGENCY-STATION

廃熱施設

メガフロート

防音・制振シェルター

藻バイオマス化設備

浄水設備

バイオマス貯蔵設備

バイオマス搬入口

ガス浄化フィルター設備

食品廃棄物バイオマス化設備

湖底パイプライン

藻のゾーニング CO2の固定化

CO2高効率溶解装置

水上輸送されたバイオマスの搬入

バイオマス発電所で排出されるCO2を湖底のパイプラインを経由して藻養殖池としてゾーニングされたエリアに送る。琵琶湖全域で自然培養したものを流出口付近でCO2高効率溶解装置を利用して高濃度のCO2を吸収させることで効率的に養殖する。ゾーニングし藻類を沖合で群島状に養殖することで回収を容易にし、さらに湖岸の環境向上につなげる。

藻類高効率養殖

環境への負担が比較的少なく、低コスト、短期間で建設可能なメガフロートを土台として採用する。メガフロートは地震による揺れの影響を受けず、メガフロート上に発電所を設置することで大規模な地震災害が発生した場合においても貯蔵バイオマス + 藻バイオマスによる部分的な電力の供給 + 飲料水の供給が可能で、滋賀南部の広域災害拠点として機能する。病院を併設することも可能。

自然環境の一部としての循環システムを備えた現代的都市施設

循環流動層ボイラ

廃熱施設

メガフロート

藻類のバイオマス化

浄水設備

バイオマス貯蔵

湖底パイプライン

藻類高効率養殖CO2の固定化

CO2高効率溶解装置

居住施設

琵琶湖全域での藻類の自然培養

水浄化

小型電気バス

給湯

給水

肥料・園芸用土

燃焼灰

レストラン電気

発電タービン

ケーキ(乾燥汚泥)

廃熱

DeNOx

CO2

生態系クリーンガス

食品廃棄物

光合成

琵琶湖・県内から集めたバイオマスを貯蔵し、燃焼させることで水を蒸気に変え、蒸気によってタービンを回転させてとりだした電気エネルギーと廃熱を住居、施設に供給する。CO2 の藻類への吸収に加え、燃焼によって生じた灰と、水を浄化する際に生じる乾燥汚泥ケーキを農業の肥料・園芸用土として循環させる

しかし、

実現を前提とした場合、人口増加の鈍化・コスト・実現確実性・景観・不可逆性などの問題により再考の必要がある、と考えます。

古くから漁場・水運の場として人々の生活に深く結びついてきた琵琶湖を地理的、精神的中心に有する滋賀において、自然エネルギーの可能性を考えるときに、琵琶湖の地理的特性、沿岸部の都市的現状、現代的なニーズ・持続可能性を考慮し、地域に暮らす人々の快適な生活を支えるインフラとして、都市計画的な包括的な視点からの計画が必要であると考えます。

?琵琶湖南部 環境居住都市構想 2030    2その


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