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菅原 秀幸 第 4 回アカデミック・コーチング研究会 SugawaraOnline.com 2014 年 11 月 26 日 於:北海学園大学

未来を共に創るアカデミック・コーチング draft v.5

- 21 世紀の教育学習 OS への挑戦 -

菅原 秀幸 (北海学園大学教授、国際経営学者、アカデミック・コーチ)

【Executive Summary】 ティーチング主体型の教育は、時代の変化に適応できず限界に達している。ティーチング(教え込む)一辺倒ではなく、コーチング(引き出す)とティーチングの融合型が、21 世紀の主流になる。そこで、20 世紀の「教育 OS」を 21 世紀の「教育学習 OS」に入れ替える必要がある。その理論的支柱がアカデミック・コーチングだ。しかし現状のコーチングには、理論も体系もない。そこで、理論化、体系化、標準化された「アカデミック・コーチング学」の確立が求められている。これによって、教育の現場でカギを握っている教師の心構え(mindset)に変革を起こし、学生、教師、社会の 3 者がハッピーになれる新しい教育の実現に向けて一歩を踏み出す。 【Content】

1.絶滅寸前の 20 世紀型教室 2.「教育OS」を入れ替え、「教育学習OS」へ 3.コーチングとティーチングの融合 4.コーチング界の現状は胡散臭い 5.コーチング教からコーチング学へ 6.アカデミック・コーチは未来創りの伴走者

【Key Words】

21 世紀の教育学習 OS、アカデミック・コーチング、心構え(mindset)の変革 理論化・体系化・標準化、

1.絶滅寸前の 20世紀型教室

スポーツの世界に目を向けると、好成績を出す選手には必ず優れたコーチがついています。フィギュアスケートの浅田真央選手やテニスの錦織圭選手が、コーチと抱き合い、ガッツポーズをとっている姿を、だれもが目にしているでしょう。アメリカの優れた経営者にも、みなコーチがついています。時に、何千人、何万人もの人生に影響を及ぼすような意思決定のサポートもしています。いかにコーチの役割が大きいかが分かります。 同じように学生に伴走して、素晴らしい未来を切り拓くことを支援するのがアカデミック・コーチです。その支柱が、理論的体系を備えた「アカデミック・コーチング学」です。しかし、まだ「アカデミック・コーチング学」は学問として確立していません。この研究会が、そのための場所です。実践者であるプロコーチと研究者である大学教師が、「若者の未来を創る」というゴールを共有し、共に目指す場です。ぜひ、多くの方々と一緒に、この挑戦を成功させたいと願っています。「未来を共に創る」、私には、これほどやりがいを感じることはありません。学生と抱き合って涙し、共に喜ぶ感動は、何物にも替えられません。 大学教育の変革が叫ばれる中、「主体的学び」がキーワードになっています。これを、文部科学省は「能動的学修姿勢」と表現しています。21 世紀の教育では、主体的に学ぶ学修姿勢をいかにはぐくむかが、カギなのです。しかし、主体的な学習姿勢は、もともと人間が生まれもっている性質です。あとから教えられるものではなく、本来もっているものを引き出すだけです。主体的な学習姿勢は、学校で教えられる(=teaching)ものではなく、引き出す(=coaching)ものなのです。education のもともとの意味も「引き出す」ですから、コーチングと同義といえるでしょう。

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菅原 秀幸 第 4 回アカデミック・コーチング研究会 SugawaraOnline.com 2014 年 11 月 26 日 於:北海学園大学 このように考えると、教育とは、現在多くの人が共通の認識としてもっているような「教えて、育てる」ものではなく、「引き出して、伸ばす」ものです。「教えて、育てる」は 20 世紀の古い教育 OS であり、いまでは機能不全を起こしているようです。事実、こんな声の数々が、学生から寄せられています。

これらの声は、教師の耳に、直接、届くことはないかもしれません。なぜなら、学生たちは割り切ってし

まっているからです。忍耐と引き換えに単位を手に入れるのだと。しかし、自然界の大法則は厳然として

います。「環境変化に適応できない種は絶滅する」のです。経営学では、「顧客の声に耳をかたむけない企

業は滅びる」といわれています。同じことが、大学にも言えるのではないしょうか。「学生の声に耳をか

たむけない大学は滅びる」と。

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10 年後の教室の光景をイメージしてみましょう。いまと変わらず、一人の先生が壇上から、時間いっぱ

いしゃべりまくって、学生はひたすら我慢。時に睡魔と闘いながら耐える。このような光景が、今と変わ

らず続いているのでしょうか?

アクティブ・ラーニングの導入が加速しているものの、大学の教室のおよそ 8 割では、いまもティーチ

ング 100%の授業が行われていると推計されます。能動的学修姿勢をいくら文部科学省が推進しても、現

実には、ひたすら我慢して聞かせることを強いるティーチング 100%授業が、学生の受動的学修姿勢をは

ぐくみ続けています。

2.「教育OS」を入れ替え、「教育学習OS」へ

このような現状に、中央教育審議会は「大学教育の質的転換はまったなし」「具体的な行動を直ちに」と

迫ります。しかし、「具体的な行動」の向かう先を明確に示してはいません。もちろん、どの大学も生き

残りをかけて必死の努力を重ねています。それらの優れた取り組みが、一冊の本となって、まとめられて

もいます。

これらの試みは、いずれも素晴らしく、多くの示唆に富んでいます。しかし、何かが欠けているように感

じられます。なんでしょうか? 一つ一つのプロジェクト、プログラムの完成度は高いものの、汎用性が

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ないために、他大学への横展開がむずかしいのです。やる気のある教職員がいたり、予算がついたりと、

ある特定の条件がそろった時にのみ実現できているのです。またアクティブ・ラーニングは学生の主体

性を引き出すことに主眼を置いていても、教師の心構えがティーチング 100%であったなら、無意識のう

ちにリードしたり、教えたりしてしまっているのです。 20 世紀の古い「教育 OS」の柱は、「teaching=教え込む」です。この 20 世紀の OS 上で動くアプリ開発

(=アクティブラーニングの試み)では限界があります。21 世紀の新しい「教育学習 OS」の中核は、

「coaching=引き出す」です。この新しい教育学習 OS 上で動く、新しいアプリ開発が求められているの

です。

新しい教育学習 OS に入れ替わった世界を想像してみましょう。「画一化、教え込む、答えは一つ」とい

う 20 世紀の教育 OS から、「多様化、引き出す、答えは多様」という 21 世紀の教育学習 OS へのシフト

によって、若者が輝きを放ちます。

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現在の画一的な教育についていけない子供たちは、「おちこぼれ」や「ひきこもり」のレッテルを貼られ

て、おいていかれます。これは、その子たちに問題があるのでなく、その子たちの可能性を引き出すこと

の出来ない教育にこそ、問題があるのではないでしょうか。新しい教育学習 OS は、このような課題に挑

戦し、輝く子供を育みます。画一的な教育からはみ出す子供たちこそ、イノベーションの宝庫です。 では、コーチングを主体とする新しい教育学習 OS とは、どのようなものでしょうか?アカデミック・コ

ーチングの定義をご紹介いたしましょう。「人が本来もっている能力を引き出し、可能性を最大限に開花

させることを目的とする、標準化された理論的なコミュニケーションの体系」です。研究者(大学の教授

陣)と実践者(プロコーチ陣)がタッグを組んで、取り組み中です。狭義には、大学を中心に教育の現場

で活用されるコーチングであり、広義では、特別なトレーニングを必要としない、だれもが日常的に活用

することのできる理論的、体系的、標準的コーチングです。コーチングは、プロ・コーチあるいは認定コ

ーチにしか出来ないものです。 理論化、体系化、標準化されたコーチング。それが21世紀の教育学習OS、アカデミック・コーチング

です。20世紀の古い教育OS(教え込む)から、21世紀の新しい教育学習OS(引き出す)への転換

で、大学教育に変革をおこし、イノベーティブな若者をグローバル世界に送り出します。 では具体的に、大学ではどのようにアカデミック・コーチングが活用されるのでしょうか?3つのシー

ンが想定されます。教師が学生に使う、職員が学生に使う、学生同士がお互いに使う、という 3 つです。

まず教師の活用方法ついて考えてみましょう。教師がアカデミック・コーチングを活用するシーンは2

つです。①授業で使う、②学生との個別のコミュニケーションで使う、です。授業で使うと、多方向のコ

ミュニケーションが生まれ、教室が切磋琢磨の場に変わります。白熱教室で有名になったハーバード大

学の先生も、教室で双方向を実現しているに過ぎず、多方向には至っていないのです。

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アカデミック・コーチングは、個別の対応でも力を発揮します。どの教師も親身になって学生と向き合

っているはずです。しかし、それはきわめて属人的であって、学生対応のノウハウが教師間で共有され

ることもなく、伝承されることもありません。授業の仕方においても、学生への個別対応においても、

教師個人の試行錯誤による経験則の域をでなかったのです。教師個人の資質とセンスに大きく依存し、

教師間でのばらつきは、今も大きいでしょう。 アカデミック・コーチングという共通の教育学習 OS を利用することで、経験則の域を超えて、つまり、

自分流の枠組みを超えて、共有と蓄積が可能になります。学生はもちろんのこと、教師も学ぶことが多く

なります。私自身、アカデミック・コーチングを授業で活用することで、自分の研究への新しい着想をい

くつも得ています。学生も教師も共に成長できるのが、アカデミック・コーチングなのです。 インターネットの普及によって、教師はもはや「壇上の賢人」ではなくなりました。教師のもっている情

報・知識以上を、学生は即座にネットから手に入れられるのです。人工知能の発達によって、あと数年で

東大の入試問題も突破されるそうです。こうなると、これまでとは異なる「脳力」が求められるようにな

ります。デジタル化できるものは、すべて人間の手から離れ、コンピューターに任されるようになるでし

ょう。これは、良い悪いではなく、必然の流れだということです。代表的な例が、MOOC(インターネッ

トを通じた大規模公開オンライン講義)です。ティーチングは、ますますデジタルに取って代わられるの

です。 3.コーチングとティーチングの融合

では、大学教育に求められるものは何か? 教師の役割は何でしょう? デジタル化できることを教え

ることではありません。「答えのある問題を解く能力」を鍛えることではなく、「答えのない問題を解く能

力」を鍛えることでしょう。これが、まさに今、グローバル社会から求められている需要です。大学がこ

れまで提供してきた供給とのミスマッチが生じています。

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いまの小学生が社会に出たとき、現在存在しない職業につく比率は 6 割を超えるとの予測があります。

このような中で、いまある知識(教師がもっている知識)のみを教え続けるという現在の教育を、いつま

でも続けられるのでしょうか? 教育は未来です。このミスマッチが続くと、もともと素晴らしい資質

をもって生まれてきている日本人の若者は、グローバル社会で 10 年後、20 年後どうなっているのでし

ょう?

私は、こんなミスマッチを続ける大学で、自分の子供を学ばせたくはありません。私の愛する学生につい

ても同じです。ご両親が高い授業料を工面して、どれほどの期待をかけて自分の子供を大学に行かせて

いるのか?その思いを知るとき、大学人として申し訳ない思いで一杯です。 ビジネスの世界では、お客様が買った商品に満足がいかなければ、100%返金です。大学も、そうあるべ

きだと私は思います。自分の子供がそういう状況ならば、私は大学に返金を求めたいと思うのです。ビジ

ネスの世界で当然のこと、つまり常識が、大学では非常識なのです。世間の常識が通じる大学にしたいと

思います。 もう少しアカデミック・コーチングを具体的に考えてみましょう。もちろんコーチングは万能ではあり

ません。ティーチングは不可欠です。カギは、コーチングとティーチングの融合にあります。ティーチング一

辺倒には限界があります。コーチングとティーチングの両方が必要なのです。これが21世紀の教育基盤、

すなわち「教育学習 OS」です。

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現実に目を向けると、小学校一年生から大学四年生に至るまで、ティーチング 100%の授業が多くを占め

ています。学年にあわせた、あるいは科目、内容にそった、コーチングとティーチングの比率があるので

す。私自身、今日の授業はコーチング何%、ティーチング何%でいこうと意識して、その日の授業展開を

組み立てています。人は「教えられたことは忘れる。自ら学んだことは覚える」のです。自ら学ばせる(主

体的学び)のが、コーチングです。 就職活動に本格的に入る前の 3 年生との個別面談が、毎年、秋にあります。従来は自分の経験則だけで、

おこなってきました。アカデミック・コーチングの基本体系を意識して面談することで、学生は現実に踏

み出す一歩を具体的に定め、「すっきりしました」といって帰ってくれるようになりました。それ以外に

も、自分探しをしている学生が、一年を通して訪ねてきます。この場合にも、アカデミック・コーチング

の基本体系を頭にいれておくと、とても役立ちます。アカデミック・コーチングでは、教師と学生が、お

互いに学びあい成長することが出来ます。 4.コーチング界の現状は胡散臭い

ここから少し、日本のコーチング界の現状について、お話しましょう。簡潔に表現しますと、「玉石混交、

百家争鳴、群雄割拠」というのが日本のコーチング界です。20 以上のコーチ養成機関があり、それぞれ

が認定コーチを出しています。お互いに競争相手ですから、差別化するために、オリジナリティを競い合

い、切磋琢磨すること自体は良いことです。そこから新しい手法が生み出され、日本のコーチングのレベ

ルも上がっています。一方で、弊害もあります。差別化のために新しい言葉が作り出され、著作権が主張

され、次々と商標登録もされてきました。 その著作権や商標登録を避けるために、また新しい言葉・概念が作り出され、次々と新語が生み出される

のです。こうしてコーチング界の外にいる素人には、簡単には理解できない状況になっています。こんな

現状に対して、素朴な疑問が次々とわきあがります。一般人からみると、コーチングは自己啓発の一種で

あり胡散臭いというイメージをもってしまうのです。

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これらの多くの疑問に対して、答えを見つけ出そうと始めたのが、私の第一歩です。そして、それらの疑

問すべてに応えることのできるコーチングを、「アカデミック・コーチング」として確立しようと考えた

のです。

国際経営学者の私は、2006 年頃に米国企業の経営者を調べていました。すると驚いたことに、ほとんど

の CEO(最高経営責任者)にコーチがついていたのです。もっともコスト・パフォーマンスにシビアな、

これらの人たちが、高額な報酬を支払ってコーチをつけている。この事実は、コーチングの効果を客観的

に示すものでしょう。そこで、それほど効果のあるコーチングなら、当然、すでに大学にも導入されて活

用されているだろうと、私は考えました。ところが、かなり調べても、大学での活用事例を見つけること

は出来なかったのです。 なぜだろう? まだまだ調べたりないから、見つけられないのだと思うのは当然です。ネットで調べて、

かたっぱしからプロコーチに電話をかけました。それでも、大学でのコーチング活用事例を見つけられ

ませんでした。行き着いた理由は、「コーチングは胡散臭い」という大学人の声でした。

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ビジネスの最前線で、これほど浸透しているコーチングが、なぜ大学界では、「胡散臭い」のレッテルを

貼られ、見向きもされないのか。私がたどり着いた結論は、「コーチングは学問ではないから。コーチン

グは科学ではないから」です。どのプロコーチに質問しても、「コーチングに理論はない」との返答。し

かし大学で活用するためには、理論と体系が不可欠であり、効果が実証されていなかればなりません。そ

して、理論化、体系化、標準化が求められるのです。

2 人の巨匠の言葉が想起されます。「理論なき実践は無謀である」(ピーター・ドラッカー)、「理論を知る

ことなしに実践に夢中になる者は、舵もコンパスもないままに航海する船乗りのようなものであり、自

らが向かう場所さえ知らないのである。」(レオナルド・ダ・ヴィンチ) このアナロジーでいくと、「理論なきコーチングは無謀である」、「理論を知ることなしにコーチングに夢

中になる者は、舵もコンパスもないままに航海する船乗りのようなものであり、自らが向かう場所さえ

知らないのである。」ですから、コーチングには理論が必要なのです。 そこで、理論と体系がなければ作ればいい。効果が分からなければ測定すればいい。こうしてアカデミッ

ク・コーチング研究会は、2013 年に原口佳典プロコーチと松島桂樹武蔵大学教授と 3 人で、ほそぼそと

スタートしました。

5.コーチング教からコーチング学へ

「心理学×経営学×システム・デザイン思考×脳科学=アカデミック・コーチング学」として確立できる

との仮説をもつに至りました。第2ステージでは、この仮説を実証します。応用科学としてのアカデミッ

ク・コーチング学が、確固たる学問的地位を得るために、アカデミック・コーチング学会を創設します。

コーチングは、コミットメント、言ったもの勝ち、とプロコーチはいいます。2015 年から、アカデミッ

ク・コーチング学会の創設に向かいます。いまのアカデミック・コーチング研究会が、発展的に解消して

アカデミック・コーチング学会へと進化していくのです。

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さらに第 3 ステージでは、研究の促進と、その研究成果の普及を目的として、アカデミック・コーチング

財団を設立します。これによって研究と普及という両輪がそろいます。

21 世紀の教育学習 OS として求められるものは3つ。理論化、体系化、標準化です。これが出来るのは、

プロコーチの協力を得た大学教師しかいません。アカデミック・コーチング学は、未踏の新地平。「言っ

たもん勝ち、やったもん勝ち」です。コーチングでいう「コミットメント」です。 そこで、私がまず勝手につくってしまった、アカデミック・コーチングの「基本体系3・4・5」を、ご紹介いたし

ましょう。シンプルであることが何よりも大切。伝言ゲームであきらかなように、複雑な表現は、3 人目

には異なって伝わっています。シンプルであること、ポータビリティがあること、つまり「だれにでも正

確に伝わり、どこでも活用してもらえる」ということが不可欠であり、それが教育学習 OS の必須条件で

す。

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現在のコーチングの限界をすべて乗り越えるのが、アカデミック・コーチング。コーチングを分かりにく

くしている大きな一つの理由は、カタカナの多様。それと、もう一つの理由は、同じことを述べているに

もかかわらず、差別化を狙い、コーチによって異なる表現を使っている、ということです。アカデミッ

ク・コーチングでは、カタカナを避け、可能な限り漢字とひらがなを使います。一つの概念には一つの表

現を使います。 コーチングにはざっくりいうと。2大流派があります。その違いを簡潔に言うと、手法(skill)に重きをお

くか、心構え(mindset)に重きをおくか、です。どちらかが優れているということではなく、その時の状

況に適したコーチングがあります。なお、コーチング・マインドは、和製英語であり誤用です。コーチン

グ・マインドセットが正しい表現です。

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短期の目標達成には、手法(skill)重視のコーチング。自分探しをしている学生には、心構え(mindset)重視

のコーチング。コーチにも手法(skill)重視のコーチと、心構え(mindset)重視のコーチがいます。「手法

(skill)に習熟することで、心構え(mindset)はあとからついてくる」という考え方と、「心構え(mindset)が定まれば、手法(skill)はあとからついてくる」という考え方があります。そのどちらかが優れているとい

うことではありません。どちらも目指すところは同じ。「人が本来もっている能力を引き出し、可能性を最大

限に開花させること」です。 アカデミック・コーチングの「基本体系3・4・5」すべてを、今日はご紹介する時間はありません。さ

わりだけをお話させていただきます。手法でもっとも基本となるのは、「聴く」です。コーチング用語で

は「傾聴」と一般的に言われています。もともとは、カウンセリングの用語です。「聴く」と「聞く」は

まったく違います。

大学の教師は、学生の声を「聴いている」でしょうか、「聞いている」でしょうか?はたして皆様は、ど

うでしょう? 以前の自分は、「聞いている」でした。自分が聞きたい声だけを聞き、聞きたくない声は、

はね飛ばしていました。耳と目と心で「聴いて」はいませんでした。なぜか? 一般的に教師の心のあり

方(mindset)には、3つの特徴があるからではないでしょうか? 実際の姿は「実れる賢者」とは正反対

です。しかし、ご本人は自分自身を「実れる賢者」と錯覚してしまっているのです。

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つまり、教師自身が心構え(mindset)を変革しない限り、いくら手法(skill)の開発や習得に努めても、それ

ほど大きな成果は望めないのです。これまでと同じ、ティーチング 100%の心構えを変えることなく、い

くらアクティブ・ラーニングを試みても限界があるのです。しかし、教師ほど心構えを変えることが難し

い人たちはいないはずです。自分がそうですから。しかし、アカデミック・コーチングで変えることは出

来るのです。 6.アカデミック・コーチは未来創りの伴走者

教師がアカデミック・コーチングの心構え(mindset)をもつことで、教師自身も学生も共にハッピーにな

れます。アカデミック・コーチングの心構え(mindset)には、4つあります。ここでは、その一つをご紹

介します。「主役は学生。教師は伴走者」とうことです。教師は、上から目線の指導者では、決してない

のです。

吉田松陰が主宰した松下村塾の教育方針の一つは、塾長の松陰と門下生は共に学びあう仲間であり、松

下村塾は切磋琢磨の場である、ということです。これこそが、アカデミック・コーチングの本質であり、

学びの原点ともいえるものです。日本には、もともとコーチングの源流があったのです。それが、いつ、

どこで、なぜ消滅してしまい、上から目線の教育(教えて、育てる)が主流になったのかは分かりません。 今日の大学教育は、どうでしょう? やはり、学生を「教えて、育てる=教育」という心構えが主流です。

主体性と能動的学修姿勢の大切さが声高に叫ばれてはいるものの、教師の心構えが、「教えて、育てる」

である限り、学生は受動的学修姿勢を持ち続けるのは当然でしょう。教師の心構えが「引き出して、伸ば

す」に変わらない限り、教育の改革は不可能です。

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つまり日本の教育改革のエッセンスは、大学教師の心構え(mindset)の改革です。主体性・能動性のある

学生に変えようとする以前に、教師が心構えを変えて、自ら変わらなければならないでしょう。自分たち

が変わらずに、学生を変えようというのは、理にかなっていません。まずは、自分たちが変わることです。 「教えて、育てる」から「引き出して、伸ばす」への変革。20 世紀の教育 OS(教え込む)を、21 世紀

の新しい教育学習 OS(引き出す、そして自ら学ぶ)に入れ替えると、新しい OS 上で動く新しいアプリ

が活きてきます。OS が古ければ、アプリ開発にどれほど傾注しても、期待するほどの成果は出せません。

患者の体質を変えなければ、同じ症状が続くようなものです。対処療法ではなく、根本療法が必要です。

対症療法であるアプリ開発ではなく、OS を入れ替えるという根本療法を行わなければ、同じ症状はこれ

からも続くでしょう。 教師は、横にならんで一緒に走る伴走者。先導者ではありません。若者の未来創りの伴走者、これがアカ

デミック・コーチングのエッセンス。アカデミック・コーチングは、日本の教育を変革します。学生も、

教師も、社会(親)もハッピーになり、輝かしい未来を拓きます。 【謝 辞】 本稿は、北海学園大学学術研究助成ならびに北海学園大学教育開発運営委員会研修旅費による成果の一端です。また、執

筆にあたって、多くの方々に貴重な時間を割いて頂き、直接、御知見・御助言・御協力をいただきました。ここに記して

感謝申し上げます(敬称略、レディーファースト、順不同)。

西垣悦代(関西医科大学教授)、蘓原利枝(特定非営利活動法人日本スクールコーチ協会理事長)、早坂めぐみ(キリンマ

ーケティング株式会社担当部長)、石川尚子(株式会社ゆめかな代表取締役)、高橋有希子(東京インターハイスクール教

務主任)、七倉廣香(コミュニケーションオフィスアクア代表)、髙野文子(事魂塾・接遇コンサルタント)、秋田稲美(一

般社団法人ドリームマップ普及協会代表理事)、増地あゆみ(北海学園大学教授)

黒川清(東京大学医学部名誉教授)、松島桂樹(一般社団法人クラウドサービス推進機構理事長)、原口佳典(株式会社コ

ーチングバンク代表取締役)、堀正(群馬大学名誉教授)、本間正人(特定非営利活動法人学習学協会代表理事)、岸英光(コ

ミュニケーショントレーニングネットワーク主席講師)、平本あきお(株式会社チームフロー代表)、宮崎順一(日本コー

チ協会北海道チャプター代表)、塚田康祐(一般社団法人日本メンターコーチ協会理事長)、渡辺克彦(東京インターハイ

スクール学院長)、庄野二郎(札幌ヤクルト販売株式会社トレーナー)、花岡隆一(主体的学び研究所研究員)、丸山宏昌(株

式会社アムリプラザ、NECO塾副代表兼事務局長)、山下研一(聖学院大学広報局長)、朝日田雄人(SAPPORO PHP 代表)、佐

藤元治(北海道新聞社編集局報道センター記者)、山谷敬三郎(北翔大学教授)、野呂瀬崇彦(北海道薬科大学准教授)、佐々

木宏(首都大学東京特任准教授)、山崎進(北九州市立大学講師)、佐藤淳(北海学園大学教授)、佐藤大輔(北海学園大学

教授)、山中亮(北海学園大学教授)

菅原秀幸 北海学園大学 経営学部 〒062-8605 札幌市豊平区旭町 4 丁目 1 番 40 号 TEL: 011-841-1161 [email protected] http://www.SugawaraOnline.com https://www.facebook.com/SugawaraGoGlobal

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ーチンングををやっってみた学生生の声声

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