dynamical model of stirling engine systems using...
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兵庫教育大学 研究紀要 第53巻 2018年 9 月 pp 91 96
ビ ー玉 ス タ ー リ ン グエ ン ジ ンの動力 学 モ デル
Dynamical Model of Stirling Engine Systems Using Marble-displacers
猪 本 修*INOMOT0 Osamu
ス タ ーリ ングエ ンジンは, 気体の膨張 ・ 収縮によ っ て熱エネルギーを仕事に変換す る外燃機関であ る。 気体の熱交換は
デ イ ス プ レ ーサ ・ ピ ス ト ンに よ っ て制御 さ れるが , こ れを ガラ ス球に置 き換え て教材化 し た も のが ビ一玉 ス タ ーリ ン グエ
ンジンである。 本研究ではその動作 を端的に表す動力学モデルを構築 し , 力学特性を詳 し く 調べた。 その結果, 系の挙動
が気体の体積と ガラ ス球の変位を状態変数とす る常微分方程式で記述でき るこ と , ガラ ス球の変位によ り負性微分抵抗が
生 じ るこ と で系の体積振動が発現するこ と , さ らにその振動数が系のサイ ズに依存するこ と な どが示 さ れた。
キーワ ー ド : ス タ ーリ ングエ ンジ ン, 体積振動子, 負性微分抵抗, 数理モデリ ング
Key words : Stirling engines, volumina1 osci11ators, negative di fferential resistivity, mathematical modeling
1 . はじ めに
高校物理の教育課程では熱機関と その循環過程が取り
扱われるが, こ れに関する実験教材と し て ビ一玉ス タ ー
リ ングエ ンジ ンが挙げら れる こ と があ る。 こ こ で ス タ ー
リ ン グエ ン ジ ン (SE) と は , 外部から 供給 さ れる熱エ
ネルギーを気体の膨張 ・ 収縮を通し て力学的仕事に変換
する熱機関であり , 高い熱効率と 静音性を特徴と する外
燃機関のひと つで あ る ' ) 5)。 SE の熱サイ ク ルは理想的
には定積加熱 ・ 等温膨張 ・ 定積冷却 ・ 等温収縮の 4 過程
から成り , その熱効率はカ ルノ ー サイ ク ルの熱効率に等
しい。 典型的な SE は 2 つの熱交換器 (高温熱源と低温
熱源) , デイ ス プ レ ーサ ・ ピス ト ン (DP) , パワ ー ・ ピ
ス ト ン (PP) , 熱再生器, およ び作動気体から 構成 さ れ
る。 作動気体が封入 さ れたチ ャ ンバーは 2 つの熱源に接
し てい る。 気体と熱源のあいだの熱移動は気体の膨張 ・
収縮を も たら し , PP によ っ て力学的仕事に変換 さ れる。
DP はチ ャ ンバー内の位置に応 じ て気体 と熱源のあい だ
の熱移動 を制御 し , 吸熱と排熱の 2 状態を切り 替え る役
割 を果たす。 こ のと き , DP は PP に対 し て位相差π/2 で連動す るよ う にな っ てい る ため, 気体の体積変化がその
熱収支に DP を通 し て フ イ ー ドバ ツク す る。 その結果と
し て気体の体積が自励的に振動し , 持続的な運動が実現
する。
SE の構成と 構造 を簡素化 し , さ ら に DP を複数個の
ビ一玉” ( ガラ ス球) に置き換え て, 工業 ・ 技術教育
用途に教材化 し たも のが土田 ら によ っ て考案 さ れた 6) 9)。
こ の装置は ビ一玉 エ ン ジ ンあ る い は ビ一玉 ス タ ー リ ン グ
エ ン ジ ン (SE using marble-displacers, SEM) な どと称
さ れ, 高校の物理教育 に も 取 り 入 れら れてい る '°) '2)。
SEM ではエ ン ジ ンのはた ら き が ピス ト ンに加え て ガラ
* 兵庫教育大学大学院教科教育実践開発専攻理数系教育コ ース 准教授
91
ス球の往復運動によ っ て可視化 さ れるが, ガラ ス球の熱
容量や熱交換の問題な どによ っ て振動が長時間持続せず, ま た熱効率 な どの熱的特性は理想条件のそ れよ り 外 れる 13) 0
SEM の装置の概要を図 1 に示す。 装置はシリ コ ンチュー
ブで連結 さ れた試験管およ びシリ ン ジから構成 さ れ, 試
験管内には複数個のガラ ス球が封入 さ れてい る。 試験管
と シリ ンジ内部の空気が 2 つの熱源と のあいだで熱交換
をす る こ と によ っ て膨張およ び収縮 し , こ れによ っ て試
験管が傾斜 し て ガラ ス球が運動す る。
一一- ID P
-一一一・
,f\
-
図 1 SEM の装置と構成
いま , ガラ ス球が高温熱源 ( アルコ ールラ ン プ) から
離れた状態で試験管の一端を加熱すると (図 2 a, Q,n> 0 ) , 気体が膨張 し て シリ ンジ内の体積が増大 し , 同時
に試験管が回転運動する。 すると ガラス球が試験管に沿っ
て移動 し て アルコ ールラ ン プに近づ く と と も に, 熱供給
平成30年 4 月24 日受理
猪 本 修
が遮断 さ れ, 排熱 さ れる (図 2 b, Q。u,< 0 ) 。 その結果, 気体が収縮し て シリ ンジ内の体積が減少 し , 試験管が回
転 し て ガラ ス球がアルコ ールラ ン プから 遠 ざかり , 熱供
給が回復する。 こ う して図 2 の2 状態 (a) , (b) が繰り
返 さ れるこ と にな る。
(b)
図 2 SEM 動作の 2 状態。 (a) 収縮, (b) 膨張状態
SEM の一連の動作が SE の理想的な熱的過程に従う と
す る と , 系は図 3 のよ う な熱サイ ク ル, すなわち 2 つの
等温過程と 2 つの定積過程によ っ て表 さ れる。 こ こ で気
体の体積変化は等温過程において生 じ る一方で , ガラ ス
球の運動は主と し て定積過程で生 じ る。 こ のこ と から気
体の体積 と ガラ ス球の変位のあい だにはπ/2 rad の位相
差ができ る。
VI V2 V 図 3 SEM の熱サイ クル
さ て , 教材化 さ れたこ の熱機関はエ ン ジ ンと し ての機
能 と と も に自励振動子 と し ての側面 を も つ。 す な わち
SEM におい ては, 2 つの熱源によ っ て定常的な熱の流
れが系 に与え ら れる と と も に, DP のはた ら き によ っ て , 気体の体積変化 と 気体の熱収支のあい だに負のフ イ ー ド
バ ツク回路が形成 さ れ, その結果と し て持続的な体積振
動が発現す る。 こ の持続的な運動は非平衡散逸系のリ ズ
ム現象と見做すこ と ができ る。 非平衡散逸系では定常的
な (非振動性の) エネルギーの流れが存在するが, こ れ
を駆動力と し てしばしば自励振動が生じ る。 自励振動は
鹿威し (弛張発振) や弦楽器の擦弦 (摩擦振動) など, 自発的 ・ 自律的な振動のメ カ ニズムと し て身のまわり の
さま ざまな局面に発現する。 自励振動を記述する代表的
なモ デルと し ては van der Pol 方程式 がよ く 知 ら れてい
92
るが , こ のモ デルは例え ばエ サキ ダイ オー ドのよ う な負
性微分抵抗特性を示す非線形素子を含む回路方程式から
導かれた も ので あ る '4) , '5)。 SEM が示す気体の体積振動
におい ては, フ イ ー ドバ ツク作用 を も つ DP が重要な役
割 を果たすと 考え ら れるが, それが如何な る非線形特性
を有す るのかはま だ明 ら かに さ れてい ない。 そこ で本研
究では, こ の系の力学的挙動の時間的特性を理解するた
め , 系の ダイ ナ ミ ク ス を端的に再現す る数理モ デルを構
築す ると と も に, 現象の動力学的側面 を詳 し く 調べる。
すなわち , SEM の力学的振動の性質や安定性を明らか
にするために, 本研究では現象 を支配する状態変数を適
切に選んで常微分方程式モデルをつく り , 解の性質や特
性を数理的にア プロ ーチする。
数理モ デルの構築にあた っ ては, 周期的運動の発現に
対 し て本質的な非線形特性を顕在化するこ と で, 簡潔で
見通 し のよ い モ デル を構築す る。 こ の現象 におい ては
DP の機能が本質的に重要であ るが, DP のはた ら き が
どのよ う に表現 さ れるか, と り わけ関心があ る。 現象の
記述にあた っ ては最小限の状態変数 と パラ メ ー タ を選び
だすこ と を試みる。 こ れによ っ て力学的運動の周期や振
幅な どが熱力学パラ メ ー タ に どのよ う に依存す るのかを
明 ら かにす るこ と と す る。
本研究では SEM に関す る実験結果を示すと と も に, 作動気体の体積およ びガラ ス球の重心の変位を状態変数
とす る 2 次元常微分方程式モデルを提案す る。 さ ら にこ
のモデルにおけ る粘性項の非線形特性を議論 し , 振動解
の存在と 初期値依存性な どを数値計算に基づいて検討す
る。
2 . 実験SEM の装置は図 1 に示す と おり , シリ ンジ (硬質耐
熱ガラ ス製, 容量 2 mL) , 試験管 ( ガラ ス製, 内径13mm, 長さ150mm) , ガラス球 5 個 (直径12mm) , およ びアルコー
ルラ ン プ ( メ タ ノ ールを燃料 と す る) から構成 さ れる。
シリ ン ジと 試験管は シリ コ ンチ ュ ーブと ゴム栓で連結 さ
れてお り , そ れら に封入 さ れた常温常圧の空気が系の作
動気体と な る。 気体の体積は実験開始時 (加熱前) にお
い て約14mL で あ っ た。 シリ ン ジの プ ラ ン ジ ヤ (可動 ピ
ス ト ン) 頭部は底面に固定 さ れ, シリ ン ジ外筒が自由に
動 く よ う に配置さ れた。 試験管はその中央部分が支点 と
し て支持 さ れ, そのまわり を自由に回転するよ う に し た。
低温熱源は環境 (室温26°C) によ る自然冷却と し た。 気
体の体積振動は シリ ン ジ内の気体の体積によ っ て計測 し
た。 すなわち実験開始時の気体の体積を基準と し て, 動
作時の体積変化 を シリ ンジの目盛り によ り 精度 0.01mL, フ レームレート 30 fps で撮像し , 時系列データ を得た。
気体の体積の測定結果を図 4 に示す。 気体の膨張 ・ 収
縮に伴 っ て , 試験管の角度は水平状態から lθ1.<_2.9° の
ビー 玉 ス タ ーリ ングエ ン ジ ンの動力学モ デル
範囲で傾斜する と と も に, ガラ ス球が試験管の両端間 を
往復運動 した。 体積の時間的変化はほぼ周期的であり , その周期は約1.6 s であ っ た。 ま た中央の ガラ ス球の変
位は, 体積に対 し て約0.43 s の時間遅れがあっ た。 振動
は永続せず, 数分間の振動ののちに振動が停止し た。 こ
の振動停止は高温熱源を絶つこ と で回復す る場合があ る
が, こ れは熱 を蓄積 し たガラ ス球や試験管が代替熱源に
な っ た も のと 考え ら れる。 なお ガラ ス球 を試験管 に入 れ
ずに加熱す る と , 気体は膨張 し たまま体積一定と なり 振
動 し なかっ た。
1.2
1.1
1
9
8
70
0
0
(IE
)a ,En
一o>
0.6 5 6
図4
7 8 9 10 l l time (s)
作動気体の体積変化
3 . 数理モデル
SEM におい ては, DP と し てのガラ ス球の運動によ っ
て熱の流れが制御 さ れ, 作動気体の体積が変化す ると と
もに, ガラ ス球の動き に フ イ ー ドバ ツクする。 こ れによ っ
て気体の体積と ガラ ス球の重心が一定の位相差 を保ちつ
つ振動する。 こ のこ と から , 気体の体積 v と ガラ ス球の
重心の変位 x およ び速度 x を系の状態変数と し てモデル
を立式するこ と ができ る。
まず気体の状態変化のう ち , 2 つの等温過程について
考え る。 作動気体 (空気) は理想気体と見做すこ と がで
き る も のと す る。 また単位時間あたり に系 に供給 さ れる
熱量は ガラ ス球の重心の変位に依存 し て , w= w(.x) と
す る。 ただ し ガラ ス球は DP と し て機能す るので , x> 0 のと き w(x) < 0 であり , x< 0 のと き w(x) > 0 であ
る。 また x> 0 が十分に大きいと き w(x) = w,< 0 であり , x< 0 が十分に小 さいと き w(x;) = w2> 0 である と する。
等温過程においては気体が外部にす る仕事と気体が得 る
熱量のあいだにエネルギー保存則が成り 立つこ と から ,
fpdv = fwd, (1)
と なる。 理想気体の状態方程式 を用いて左辺の積分 を実
行し , さ らに両辺を時間に対 し て微分すると
WV = V (2)
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が得ら れる。 ただし i, は v の時間変化率 dv/dt を表し , n, R はそ れぞれ気体の物質量およ び気体定数であ る。 ま た
T は気体の温度であり , 等温収縮過程で T= T,, 等温膨
張過程で T= T2 とする。
式 (2) の係数 w/nRT は ;x; に依存するので, こ れを f (x) と お く 。 こ の関数は凡そ図 5 のよ う な連続関数にな っ て
い る も のと 考え ら れるが, こ こ では、;,cl が十分に小 さい
も のと し て , f :;,c) = coo と 表す こ と にす る ( ただ し αは
正の定数)。 すると式 (2) は,
v = - axv
と な る。
f (χ)
WI nR T1
(3)
l/V2
nR T2
X
図 5 関数 f (x) の概形
なお定積過程につい ては, 系がその過程に滞在す るあ
い だに熱量の移動のみが起こ り , そ れによ っ て温度 T,, T2 が決ま る過程で あ る。 た だ し こ こ では 2 つの温度が
予め決定 さ れてい る ものと し , かつ等温過程 を系の律速
段階と見做すこ と で , 定積過程を系のダイ ナ ミ ク スに陽
に含めない こ と と す る。
次に , ガラ ス球の重心の運動 を記述す る。 いま全 ての
ガラ ス球が互いに接 し たまま並進運動 をす る も の し , そ
の重心の運動 を考え る。 また ガラ ス球の転がり によ る回
転のエネ ルギーは考え ない も のと す る。
気体の体積は収縮状態 v, と 膨張状態 v2 のあい だ を振
動す る も のと し , 気体の体積が平均値 v。= (v,十v2) /2 のと き試験管が水平な状態にあるものと する。 また試験管
に沿っ て固定 し た座標を 軸と し , 試験管の中央の位置
(支点の位置) を :,c= 0 と す る。 気体の体積 v が v。よ り
大き く な ると , 試験管が支点のまわり に角度θだけ回転
す る ものとす る。 角度θは気体の体積 v の関数と し て表
すこ と ができ て, シリ ン ジの断面積 s と 試験管の長 さ 1 に対 し て sinθ= 2(v-v。) /SI と でき る (図 6 ) 。 すると ガ
ラ ス球の重心の運動は, 質量m, 重力加速度 g, 粘性係
数 y に対 し て
猪 本 修
v 、 、 、 、 、
、 、 - - θ
、、
X'
図 6 ガラ ス球の運動と 座標
mx = (v - vo) - γx (4)
と表すこ と ができ る。 ただし粘性力の大き さは重心の速
度に比例する ものと す る。
以上から , 気体の体積と ガラ ス球の重心の運動に関す
る連立常微分方程式 (3) , (4) が得ら れた。 変数 t, :x:, v を スケ ー リ ン グによ っ て無次元化す る と , 8=c= 2v。/SI に対 して
v = - (v 十1)χ(5)
εX = CV- Xと な る ( ただ し v は正 ま たは負 で あ るが v> 1 を満 た
す) 。 式 (5) はさ らに 3 階常微分方程式と して
εx + (1 + εx)x + xx + ex = 0 (6)
と な る ( た だ し -t > c) 。 こ こ で ガラ ス球の運動 に関 し
て慣性項が無視でき る と する と (8→ 0 )
χ十χχ十cχ= 0 (7)
と なり , 系のダイ ナ ミ ク スに関する 2 次元モデルが得 ら
れる。 以下では, こ の 2 次元モデル (7) につい て解析
およ び考察を行う 。
4 . 数値解析
モ デル方程式の解の特性 を調べ る ために, 式 (7) を
0.1
> 0
- 0.1
0.1
x 0
- 0.1
0 10 15 20
0 5 10 15 20t
図7 v, x の時系列 (初期値 v(0)= 0 , x(0)= 0.1)
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ル ンゲ ー ク ッ タ法によ っ て数値的 に解析 し た。
まず, パラ メ ータ と初期値をc= 1 , v(0)= 0 , x(0)= 0.1 と し た と き の v, x そ れぞれの時系列 を図 7 に示す。 こ
の初期値が小 さい条件では単振動に近い振動解が得ら れ, 体積に対 し て π/2 rad の位相遅れを と も な っ て ガラ ス球
の重心が振動す るこ と が分かる。
次に, 初期値が大きな場合の振動の時系列を図 8 に示
す (c= 1 , v(0)= 0 , :,c(0)= 2 ) 。 このと き , v について
4
2
0
2一
>
2
0
2
一
X
0 5 10 15 20
0 5 10 15 20t
図8 v, x の時系列 (初期値 v(0)= 0 , x(0)= 2 )は収縮状態の滞在時間が伸長し , 急峻な増大と 減少が続
いて生 じ るが, 膨張状態の滞在時間はごく 短い。 一方で
)c については往復運動の速さ が対称的で な く , ガラ ス球
が低熱源側 (. < 0 ) から高熱源側 (. > 0 ) へ移動す
ると きの速さは, 逆の場合に比べて大きい。
さ らに, 振動の初期値依存性を調べた。 c= 1 , v(0)= 0 と し て, )c(0) を0.1から0.9まで0.1間隔で大き く し たと
きの (v, x) 相平面上の解軌道を図 9 に示す。 こ の図か
ら , 初期値が小 さい と きの解の挙動はほぼ円軌道である
が, 初期値と と もに軌道が次第に大き く なり , また v 軸
に沿っ て非対称にな るこ と が分かる。 こ れは v に下限値
(v= - 1 ) があ る一方で , 上限値が存在 し ないこ と によ
る。
5
1
5
0
5
1
5
ll 0
0
一 1
一
一
X
-1 OV
図 9 初期値に対する解軌道の変化 (初期条件は本文を
参照)
ビー 玉 ス タ ーリ ングエ ン ジ ンの動力学モ デル
5 . 考察SE の特徴は, 密閉 さ れた作動気体が 2 つの熱源と の
熱交換によ って膨張 ・ 収縮する際に, DP によ る負のフ イー
ドバ ツク作用によ っ て自励振動が発現す る点にあ る。 本
研究におい ては SEM を構成す る球状 DP の重心の運動
と気体の熱的過程に着目し て数理モデルを導出し , 実験
と数値解析によ ってこの系の動力学を検討 し た。 実験的
には, 気体の体積変化の時系列特性は正弦的であり (図4 ) , こ れと ガラ ス球の運動が一定の位相差 を伴 っ て振
動す るこ と がわかっ た。 すなわち試験管の回転運動に遅
れて ガラ ス球の往復運動がみら れたが, その位相差はπ/2 rad であっ た。 一方で, 数値的には定常的な振動解が得
ら れ, 初期値が小 さい と きの振動は正弦的である と と も
に, 2 変数 v, x の位相差はπ/2 rad であ っ た (図 7 ) 。 数
値解の挙動は初期値に応 じ てその軌道が定まり , 初期値
と と もに系の力学的エネルギーが大き く なったが (図 9 ) , 初期値が大きい場合の実験データは得ら れていない。 モ
デル方程式からは, 振幅が小 さい と きの体積振動の振動
数は係数 c によ っ て決ま り , 1/ す な わち シス テ ムサ
イ ズに依存する と考え ら れるが, 本研究では測定 さ れて
いない。 ま た, 数値解析と は異なり , 実験的には時間と
と も に体積振動の振幅が減少 しつつ停止す るが, こ れは
( i) 系と外部との熱移動が 2 つの熱源において均衡を保つ
てい ない こ と , ( ii) 装置が動作す るあい だに ガラ ス球
が加熱 さ れて高温熱源 と し ては た ら く こ と , そ し て
( iii) ガラ ス球が互いに密着 し て転がり 運動 を し ない た
めに気体が熱源間で “漏れた” 状態にな るこ と , が主な
原因 と考え ら れる。 し たがっ て 2 つの熱源におけ る熱量
移動 を適切に調整す る こ と , およ び DP の形状 と 断熱性
能を高めるこ と が, 振動の減衰を抑え る為に必要である。
一般に, 2 つの状態変数で記述さ れる力学系は, それ
がリ エ ナー ル方程式 :x:十f (x) ;x十g(x) x= 0 の形であ れば
振動解を も つこ と が知 ら れており , 係数 f (x) , g(x) の
非線形性が系の特性を決める'6)。 モ デル方程式 (7) は
振動解をも つが, リ ミ ッ ト サイ クルは存在 し ないこ と が
リ エナー ルの定理から明ら かである。 ま た粘性項の符号
はガラ ス球の変位に応 じ て正と負のあいだで周期的に交
替 し , x> 0 のと き ( ガラ ス球が高温熱源に近い と き) は正の粘性抵抗, x< 0 のと きは負の粘性抵抗 (負性微
分抵抗) と なる。 こ れらは系に対す るエネルギーの供給
と散逸を表し ている。 このと きエネルギー積分の時間平
均は 0 であり , し たがっ て原点 (平衡点) はア ト ラ ク タ
ではない。 こ のよ う にモデル方程式の非線形項は DP の
特性を端的に表 し てい るが, こ れはモデルの導出過程で
系の運動が微小振幅である と し て, 気体と 熱源のあいだ
の熱の移動や試験管の運動において線形化近似 を行 っ た
こ と によ る。 こ れら の点で方程式 (7) は粗いモ デルと
な っ てい るが , む し ろ こ れら の近似によ っ て系の本質的
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な非線形性を顕在化す るこ と が可能と な っ た。
6 . 結論本研究では, 高校物理教育におけ る熱力学単元の実験
教材 と し て し ばし ば取り 上げら れる SEM につい て , そ
の動力学的特性を実験と数理モデルおよ びその数値解析
により検討 し た。 この系が示す気体の体積の周期的変化
は, 気体と 2 つの熱源とのあいだの定常的な熱エネルギー
の流れによ っ て生 じ る自励振動であり , DP がも つ負性
微分抵抗特性によ っ て生 じ る負 のフ イ ー ドバ ツク作用が
重要な役割 を果たすこ と が理解さ れた。 こ の系のダイ ナ
ミ ク スは作動気体の体積と ガラ ス球の重心の変位を状態
変数とする 2 階常微分方程式で記述さ れた。 SEM は DP と し てのガラ ス球によ っ て気体の体積振動 を発現す る も
のであるから , こ れは往還球体によ る体積振動子 (shut-
tling spheres-mediated volumina1 osci1lators, SV0) と 見
做すこ と ができ る。 今後は体積振動子の物理的側面につ
いて詳 し く 調べると と も に, 同等のモデル方程式で記述
さ れるほかの系 と の関連性 を明 ら かにす る必要があ る。
以上のよ う に, SE は熱機関 と し ての応用面のみな ら
ず, 自励振動を呈する物理系 と し ても面白い。 高校の物
理教育におい ては, SEM を熱機関の教材 と し て扱われ
るこ と が多 いが, SEM は熱力学ばかり でな く , 力学や
振動論と も深 く 関わる実験系であるから , 幅広い科学的
視点から現象にア プロ ーチでき る点で も SEM は良い教
材であると言え る。
引用文献
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猪 本 修
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