成長する個別企業、 縮小する地場産業 - 東京大学成長する個別企業、...

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成長する個別企業、 縮小する地場産業 -福井県鯖江市の眼鏡産業- 東京大学大学院経済学研究科 現代経済専攻 建井 順子 1

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成長する個別企業、縮小する地場産業

-福井県鯖江市の眼鏡産業-

東京大学大学院経済学研究科 現代経済専攻

建井 順子

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なぜ福井県鯖江市の眼鏡産業か

福井県は眼鏡フレームの9割以上を生産。その中心は鯖江市。

日本の地場産業、産業集積は「縮小」傾向。

鯖江の眼鏡産業も縮小傾向にあるという点では全国の傾向と同じ。

しかし、企業当たりの出荷額を見ると、個別企業は成長している。

なぜ個別企業の成長が、その束である地場産業の拡大へとつながらないのか。

本論の目的:地域産業の振興・再生を考えるうえでは従来の理論は不十分であるとし、個別企業の成長のメカニズムを明らかにして、新たな地域産業論への示唆を得る。

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眼鏡枠の産地別出荷額の推移(単位:百万円、%)

1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2011年全国出荷額 76,492 95,920 79,215 80,403 46,132 30,029 32,075シェア 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 福井 77.4 83.5 91.7 97.8 96.5 93.2 94.1 東京 17.3 12.1 5.7 1.0 2.0 0.8 - 埼玉 2.0 - - - - - - 大阪 0.8 0.4 0.2 - - - - 愛知 - 0.7 - - - - - その他 2.5 3.3 2.5 1.3 1.4 6.0 5.9

図表 眼鏡枠の産地別出荷額の推移(単位:百万円、%)

(出所)『眼鏡白書』および経済産業省『工業統計表』より筆者作成。(注)出荷額が記載されていない産地には出荷額を秘匿している産地も含まれていることに留意。

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縮小する眼鏡関連製品の生産高

(出所)『眼鏡白書1994-1995』、『眼鏡白書2002-2003』、『眼鏡DB2007』、『眼鏡DB2013』より筆者作成。

804億円

1,032億円

327億円

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種別 年次 2001年 2003年 2005年 2007年 2009年 2010年 2001/2010

完成品製造業 0.4 0.4 0.5 0.6 0.5 0.4 -6.0%

 主に金属枠製造 0.6 0.5 0.6 0.7 0.6 0.6 -0.5%

 主にプラ枠製造 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1 0.1 -22.4%

主にサングラス、老眼鏡、他の眼鏡 0.2 0.2 0.1 0.2 0.2 0.2 -32.1%

部品製造業 0.1 0.1 0.2 0.1 0.2 0.1 -15.0%

 丁番・ネジ製造業 0.3 0.3 0.3 0.3 0.2 0.5 32.1%

 その他の部品製造業 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 -3.3%

中間加工業 0.11 0.10 0.08 0.14 0.11 0.11 -2.4%

 ロー付け加工 0.04 0.05 0.05 0.07 0.04 0.04 10.9%

 研磨加工 0.04 0.04 0.04 0.05 0.03 0.03 -35.5%

 メッキ加工 0.53 0.46 0.38 0.73 0.70 0.57 8.5%

 塗装・七宝加工 0.06 0.05 0.05 0.07 0.06 0.06 1.1%

 組立加工 0.03 0.02 0.02 0.06 0.05 0.05 52.6%

 その他の中間加工業 0.07 0.05 0.05 0.07 0.06 0.05 -33.3%

眼鏡機械等製造業 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 -13.3%

レンズ製造業(加工業含む) 0.5 0.5 0.5 0.8 0.8 0.8 69.4%

合計 0.2 0.2 0.2 0.3 0.3 0.3 6.4%

(出所)鯖江市提供資料、鯖江市『商工業・労働・観光交通の概要』各年より筆者作成。

図表 事業所当たりの製造品出荷額等(4人以上の事業所、単位:10億円、%)

事業所当たりの製造品出荷額等(従業者4人以上の事業所、単位:10億円、%)

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先行研究:地場産業論と産業集積論

「地場産業」 を「特定地域に起こった時期が歴史的に古いこと」、「特定地域に同一業種の中小零細企業が地域的企業集団を形成して集中立地」、「生産、販売構造が社会的分業体制」、「地域独自の「特産品」を生産」、「全国や海外の広い市場に製品を販売」の特性を持つ中小企業と定義(山崎、1977年6-9)。

産業集積論の嚆矢はマーシャル。「産業の地域集中化」について初めて経済学的分析を行う。「同じ性格を持つ多数の小企業が特定の地域に集中すること」を「地域化された産業」と呼び、この集中によって地域に外部経済が生じうることを指摘した。(マーシャル、1985年〔=1920年〕)。

日本において産業集積に関して本格的な研究が行われるようになったのは1980年代後半以降(植田、2002年)。

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鯖江の眼鏡産業に関する先行研究鯖江の眼鏡産業集積の新たな発展プロセスの検討(南保、2008年)。

鯖江産地を他の産地(イタリアおよび中国)と比較(尹・加藤、2008年、加藤、2009年、2012年)。

グローバル化の下での産業集積の変化に着目し、イタリアの眼鏡企業との比較や、眼鏡産業の価値連鎖の再編に焦点を当てた研究(遠山、2001年、2007年a、2007年b、2009年、2012年)。

2001年から2006年までの産地内の眼鏡関係企業28社への聞き取りとそれにもとづく類型化(遠山・山本、2007年)

産業集積を発展段階論で捉え、「持続的な地域産業の発展への示唆」を得ようとした(遠山、2010年)。

鯖江の個別企業の事例を、ポーターのダイヤモンド・モデルに当てはめて分析し、「産地」が競争優位を獲得する上で必要な条件を提示(中村編著、2012年)。

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眼鏡産業に関する先行研究の問題点

その多くは、産業集積は再編可能である、もしくは再編すべきという前提で議論されている。また、以下の点が不十分である。

•流通構造の激変の視点。

•個別企業の成長と地域経済の停滞を区分する視点。

•長期の時系列変化を重視する視点。

以上は、近年の産業集積研究全般においても見過ごされている点。

以上の問題を克服することは、他の産地を対象とする産業集積研究への示唆を導き出すことにもなる。 8

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本論文の分析枠組み本論文では、個別企業の成長と産

地の縮小のメカニズムを解明するため、

• 世界の眼鏡貿易の変化とその中での日本の位置づけの変化(a)、

• 日本の眼鏡流通構造の変化とその中での産地の位置づけの変化(b)、

• 産地の個別企業の変化(c)、

の3つの変化を見る視点を設定する。

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(出所)筆者作成。

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本論文の構成

第1章 研究の目的と課題、分析視角、本論の構成

第2章 日本の眼鏡産業

第3章 眼鏡フレーム貿易から見た日本

第4章 日本の眼鏡小売業の変遷

第5章 個別企業の成長と産地の縮小のメカニズム

第6章 鯖江の眼鏡フレームメーカーと

産地卸業者のビジネスモデルの構築

第7章 結論

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主な報告対象

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第5章 個別企業の成長と産地の縮小のメカニズム

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ケース・スタディの対象企業の概要

番号 資本金 創業年 従業員数 売上 主力製品 事業範囲

M-1 6億1,700万円 1968年 2,980人 217億円(2010年) 完成品(自社ブランド、ライセンス) 企画・デザイン、製造、卸

M-2 1,000万円 1984年 20人弱 約8億(2010年) 完成品(自社ブランド) 企画・デザイン、卸、小売

M-3 5,000万円 1958年 196人 10億円弱(2010年) 完成品(自社ブランド) 企画・デザイン、製造、卸、小売

M-4 1,000万円 1964年 50人 4億円(2008年) テンプル、完成品(自社ブランド) 部品製造

M-5 1,500万円 1948年 100人 約8億円 精密ネジ、ヒンジ 部品製造

M-6 1,000万円 1948年 62人 4億円(2010年) 丁番、楽器部品、医療部品 部品製造

M-7 1,000万円 1972年 20人 3億円(2008年) チタン加工品 部品製造

M-8 1,000万円 1942年 40人 2億円(2010年) チタン精密加工品 部品製造

M-9 4,200万円 1945年23人

(海外200人以上)8.5億円(2013年) ノーズパッド、パッドアーム 部品製造

M-10 6億8,000万円 1948年 198人 31億円(2010年) メッキ加工 企画・デザイン、加工、卸

(出所)聞き取り調査にもとづき筆者作成。

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ケース・スタディの結果

全ての企業において、シュンペーターの「革新」の5つのタイプが資本規模に関係なく見られた。

いくつかの革新が同時にかつ複合的に起きている。

革新の組み合わせは、市場の動向に合わせて柔軟に変化。

商業部門(卸、小売)と連携を図るか、それらの機能を自社内に保有する動きが加速。

革新はあくまでも個別企業内で起きている

(「個のイノベーション」)。

イノベーションの方向性は、デザイン性、ブランド育成を重視。

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個別企業の成長・産地の縮小の論理

以前の「仲間」が、シェアを奪いあう「ライバル」同士に。

産地のとりまとめ役であった産地卸、完成品メーカーが倒産し、産地内に持ち込まれた知識が自動的に普及するようなメカニズムは機能不全に。

以上のような個別企業の動きによって、従来型の棲み分け、分業によって産地全体が同じ速度で成長することは困難に。

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「個別企業の成長・産地の縮小の論理」

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第3章 眼鏡フレーム貿易から見た日本

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日本の眼鏡フレームおよび部品の輸出の推移(1988年―2013年、ドル)

3億ドル~3億5000ドル

( 357億円~417億円)

1.3億ドル

2.4億ドル

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世界のサングラス、プラスチック・フレーム、金属フレームの輸出(単位:1,000ドル)

1 イタリア 280,715 1 イタリア 2,345,545

2 香港 180,836 2 中国 1,349,490

3 中国 145,981 3 香港 447,063

4 アメリカ 137,209 4 アメリカ 394,298

5 フランス 102,900 5 フランス 217,396

合計 1,146,332 合計 5,809,610

1 香港 55,411 1 イタリア 677,948

2 イタリア 55,190 2 中国 455,147

3 オーストリア 35,772 3 香港 358,448

4 フランス 31,763 4 フランス 100,994

5 ドイツ 23,168 5 アメリカ 96,995

合計 300,702 合計 2,244,723

1 イタリア 599,424 1 香港 545,128

2 日本 309,970 2 中国 517,135

3 韓国 205,467 3 イタリア 373,460

4 フランス 138,394 4 ドイツ 161,977

5 ドイツ 128,142 5 フランス 157,689

合計 1,802,199 合計 2,571,394

金属フレーム輸出

サングラス輸出

1995年 2013年

プラスチックフレーム輸出

1995年 2013年

1995年 2013年

(出所)UN Comtrade Databaseより筆者作成。

眼鏡フレームは成長産業。

背景には、眼鏡のファッション化、ブランド製品の浸透、途上国の成長、先進国の高齢人口の増加、デジタル機器の発展による安定的大量生産など。

最大輸出国はイタリア、最大輸入国はアメリカ。

イタリアは主要輸出国であるとともに主要輸入国でもある。

世界の眼鏡の成長は「サングラス」と「プラスチックフレーム」で起きている。

日本が得意とする「金属フレーム」の拡大幅は小さい。

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5倍に拡大

7倍に拡大

1.4倍に拡大

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アメリカのサングラス〔900411〕輸入と平均単価の推移(単位:ドル)

18(出所)UN Comtrade Databaseより筆者作成。

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アメリカのプラスチックフレーム〔900311〕の輸入と平均単価の推移(単位:ドル)

19(出所)UN Comtrade Databaseより筆者作成。

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アメリカの金属フレーム〔900319〕の輸入と平均単価の推移(単位:ドル)

20(出所)UN Comtrade Databaseより筆者作成。

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日本の競争力喪失の理由

「ファッション化イノベーション」の結果、サングラスとプラスチック・フレームが成長し、それに相応しい生産体制、流通体制、デザイン力、製品開発力が必要となった。

一方、世界の眼鏡貿易に占める金属フレームの割合は大きく低下。

有名ブランドを抱えるイタリア、フランスがサングラス、プラスチック・フレームで強く、アメリカ市場と新興市場での中国の勢力も急速に拡大。

アメリカ市場での中国からのフレーム輸入額の増加が示すように、ボリューム・ゾーンの価格低下を伴った多様化が進行。

以上のような要因が重なり合い、イタリアが高級ブランド品中心の中高級品、中国(香港)が低価格の普及品で競争力を強化した。その一方で、金属フレーム中心の中高価格製品に主力を置いた日本は競争力を失っていった。

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旧来型と新型ビジネスモデル

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【旧来の産地型ビジネスモデル】 【新しい環境に対応したビジネスモデル】

<環境変化>

・ファッション化(1)(2)(4)

・デジタル化(3)

1.視力矯正器具(製品)

2.社会的分業構造(生産・流通体制)

3.熟練労働者(生産体制)

4.産地レベルのイノベーション(イノベーション)

1.ファッション・アイテム(製品)

2.一貫生産体制統合型ビジネスモデル(生産・流通体制)

3.NC工作機械、CAD/CAMなどデジタル機械多用(生産体制)

4.企業レベルのイノベーション(イノベーション)

(出所)先行研究および本論文にもとづき筆者作成。

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第4章 日本の眼鏡小売業の変遷

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小売各社の順位の推移企業名 1993年 2001年 2012年

1 三城 1位 1位 2位

2 キクチメガネ 4位 6位 10位

3 金鳳堂 10位 17位三城に併合(2009年)

4 愛眼 3位 3位 4位

5 和真 8位 9位 11位

6 メガネスーパー 2位 2位 5位

7 メガネトップ 22位 4位 1位

8 ビジョンメガネ 18位 5位 13位

9 ジェイアイエヌ - - 3位

10 メガネストアー 9位 7位 8位

11 メガネの田中 5位 8位 6位

12 アイメガネグループ 19位 10位 27位

13 メガネドラッグ 7位 11位 15位

14 インターメスティック - 50位 7位

15 ヨネザワ 15位 12位 9位

16 富士メガネ 12位 14位 12位

(注)インターメスティック社のZoffの開店、ジェイアイエヌ社の「JINS」開店はともに2001年である。

(出所)株式会社サクスィード(1994年、2002年)、眼鏡光学出版株式会社(2007年、2013年)より筆者作成。

図表 小売各社の順位の推移

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眼鏡小売市場の規模とトップ100社のシェア

眼鏡小売市場の規模(単位:億円)

売上高 シェア 売上高 シェア 売上高 シェア 売上高 シェア

(百万円) (%) (百万円) (%) (百万円) (%) (百万円) (%)

全国 676,000 100.0 647,842 100.0 628,914 100.0 626,880 100.0

トップ100 377,594 55.0 402,381 62.1 404,723 64.4 415,078 66.2

トップ50 333,588 49.3 358,614 55.4 363,191 57.7 370,531 59.1

トップ30 293,707 43.4 320,122 49.4 324,840 51.7 331,055 52.8

トップ20 254,968 37.7 282,594 43.6 287,784 45.8 294,303 46.9

トップ10 188,291 27.9 209,743 32.4 212,600 33.8 217,001 34.6

トップ5 128,175 19.0 151,454 23.4 153,360 24.4 154,500 24.6

売上高 シェア 売上高 シェア 売上高 シェア 売上高 シェア

(百万円) (%) (百万円) (%) (百万円) (%) (百万円) (%)

全国 628,464 100.0 624,084 100.0 578,564 100.0 557,332 100.0

トップ100 442,502 70.4 452,593 72.5 403,108 69.8 454,961 81.5

トップ50 399,065 63.5 408,983 65.5 364,160 63.0 408,683 73.2

トップ30 355,642 56.6 365,804 58.6 325,265 56.3 360,332 64.6

トップ20 319,345 50.8 328,243 52.6 291,404 50.4 320,946 57.5

トップ10 238,327 37.9 248,673 39.8 221,386 38.3 254,449 44.0

トップ5 169,642 27.0 176,973 28.4 157,948 27.3 181,133 32.5

(注)2004年から2006年の全国値はトップ5社のシェアに基づき計算したもの。

(出所)株式会社サクスィード(1994年、2002年)、眼鏡光学出版株式会社(2007年、2013年)より筆者作成。

2002年 2004年 2006年

1998年

2000年

1993年 1995年 1997年

図表 トップ100社の売上高と全国シェアの推移トップ100社の売上高と全国シェアの推移

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(1980年代後半)

(1990年代)

(2000年代)

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眼鏡の流通構造の変遷

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シャルマンの成長プロセス(M-1)

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ボストンクラブ(M-2)と金子眼鏡(M-3)

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新型ビジネスモデルとの比較

<類似点>生産の社内一貫体制。ブランド戦略。国内市場、海外拠点含めての直販体制。<相違点>技術開発の重視。卸・小売業との関係の違い。

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違いはあるものの、主にサービス部門・商業部門の競争力の強化に力を入れた新型ビジネスモデルに親和性の高いビジネスモデルを構築。

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産業集積論が注目され始めた頃(1980年代後半)には既に実態としての産業集積は縮小傾向にあった。

にもかかわらず、産業集積への期待は高く、産地の縮小要因を除去し、産地が解体され再編されれば、新たな産業集積が形成され、外部性が生み出されるものとして議論されてきた。

本論は、産業集積の再編の可能性は低く、産業集積を前提とした議論を超えて、地域産業、地域経済を見る必要があることを示唆。

結論(1)既存の理論からの脱却

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結論(2)新たな理論構築のための二つの視点地理的領域の区別とその意義の変化の明確化• 産業全体に占める製造業の割合が縮小する中で、地場産業の縮小が直ちに地

域の衰退へとつながることはなくなった。

• 「産業集積」、「地域産業」、「地場産業」の領域が、「地域経済」の領域に占める割合は大きく低下している。前者が縮小する中で、どのように「地域経済」を活性化していくかを考える必要がある。

産地にとっての異端者の重要性• 異端者の成長プロセスの中にこそ、これからの地域企業の成長の秘訣が隠さ

れている。

• 多くの実証を重ねて、こうした異端者のビジネスモデルを比較検討することによって、都市部以外で生まれた企業の成長モデルの理論構築へとつながる。

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