大腸 ct 検査における 微小ポリープの陽性的中率, …人間ドック vol.33 no.1...

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ਓυοΫɹVol.33 No. 1 2018 43 ( 43 ) ݪɹஶ 人間ドック 3343-492018 ݪɹஶ CT ݕʹΔ ඍখϙϦʔϓͷཅతதɼಡӨʹͷ ౼ݕ馬嶋健一郎 1島本武嗣 2田島太一 3村木洋介 1ཁɹ తɿ大腸 CT 読影法の標準化における課題に 5mm 以下の微小ポリープをどう扱うかという問題が ある.本研究は,読影標準化への一助とするため,微小ポリープの診断精度,読影に参考となる因子, 読影方針について検討した. ๏ɿ人間ドックの大腸 CT 検査で指摘された微小ポリープ 50 病変について,全大腸内視鏡検査を ゴールドスタンダードとして陽性的中率を算出し,6mm 以上のポリープと比較した.また,微小 ポリープの診断に有用な因子を調査した.加えて,微小な所見をすべて詳細に読影した場合と,確 信度の高そうな所見だけ詳細な読影を行う方針での読影時間を比較した. Ռɿポリープ別の陽性的中率は,10mm 以上 100% 7/7),6mm 以上 62.5% 15/24),5mm 28.0% 14/50)であり,5mm 以下で有意に低かった.微小ポリープ同定の因子は,高さが有意 な因子であった(カットオフ値 1.5mm).読影時間中央値は微小所見をすべて詳細読影した場合 18 分,確信度の高そうな所見だけに詳細な読影をした場合 14 分であり有意差を認めた. ɿ微小ポリープの陽性的中率は低かった.微小ポリープ診断にはポリープの高さが参考になる ことが示唆された.微小所見について確信度の高いものだけを拾うことで読影者の負担は減少する と考えられた.今後,本邦において,大腸 CT 検査における微小ポリープ読影の取扱についてコン センサスが形成されることが望まれる. Ωʔϫʔυ 大腸 CT 検査,微小ポリープ,陽性的中率,読影時間 1)亀田メディカルセンター 健康管理科 2)亀田メディカルセンター幕張 3)亀田メディカルセンター 画像診断室 連絡先:〒 296-8602 千葉県鴨川市東町 929 番地 Tel04-7092-2211 ॹɹ ݴ大腸 3 D-CT 検査(以下,大腸 CT 検査)は本邦 において着実に発展し広がってきており,任意型 検診での役割も大いに期待されているが 1,2,さ らなる普及のためには,読影法の標準化が重要で ある.読影法標準化の課題の一つに,5mm 以下 の微小ポリープをどう取り扱うかという問題があ る.海外においては読影法の標準化がすすんでお り,そのなかで,5mm 以下の微小ポリープは報 告しないというのが放射線科医における主なコン センサスとなっているが 3-6,本法では指針がな いのが現状である.大腸 CT 検査の読影に際して 微小ポリープの可能性がある隆起所見は頻繁に認 められるので,読影法を習得する面からみてもこ の取扱は非常に重要である. 本研究は,大腸 CT 検査の読影標準化への一助 とするため,微小ポリープの診断精度(陽性的中 率)を検討し,診断の際に参考となる因子につい て調査した.加えて,微小隆起所見に対する読影 方針を変えた場合の読影時間について比較した. ରɾ๏ 微小ポリープは一般的に 5mm 以下とされ, 6mm 以上から中等度サイズと定義される 3.本 研究では 6mm に満たない病変を 5mm 以下の微 小ポリープと設定した.微小ポリープの陽性的中 率の検討および診断の参考となる因子の検討は, 2013 6 月~2015 12 月,亀田クリニック健診 センターの人間ドックで大腸 CT 検査を行い,そ の後 2 年未満に全大腸内視鏡検査(以下,大腸内 視鏡)を施行した症例を対象にした.また比較の ために行う 6mm 以上,10mm 以上病変の陽性的

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Page 1: 大腸 CT 検査における 微小ポリープの陽性的中率, …人間ドック Vol.33 No.1 2018 年 43 ( 43 ) 原 著 人間ドック33:43-49,2018 大腸CT 検査における

人間ドック Vol.33 No.1 2018年 43 ( 43 )

原 著 人間ドック 33:43-49,2018原 著

大腸 CT検査における 微小ポリープの陽性的中率,読影についての検討

馬嶋健一郎 1) 島本武嗣 2) 田島太一 3) 村木洋介 1)

要 約目的:大腸CT読影法の標準化における課題に5mm以下の微小ポリープをどう扱うかという問題がある.本研究は,読影標準化への一助とするため,微小ポリープの診断精度,読影に参考となる因子,読影方針について検討した.方法:人間ドックの大腸CT検査で指摘された微小ポリープ50病変について,全大腸内視鏡検査をゴールドスタンダードとして陽性的中率を算出し,6mm以上のポリープと比較した.また,微小ポリープの診断に有用な因子を調査した.加えて,微小な所見をすべて詳細に読影した場合と,確信度の高そうな所見だけ詳細な読影を行う方針での読影時間を比較した.結果:ポリープ別の陽性的中率は,10mm以上100%(7/7),6mm以上62.5%(15/24),5mm以下28.0%(14/50)であり,5mm以下で有意に低かった.微小ポリープ同定の因子は,高さが有意な因子であった(カットオフ値1.5mm).読影時間中央値は微小所見をすべて詳細読影した場合18分,確信度の高そうな所見だけに詳細な読影をした場合14分であり有意差を認めた.結論:微小ポリープの陽性的中率は低かった.微小ポリープ診断にはポリープの高さが参考になることが示唆された.微小所見について確信度の高いものだけを拾うことで読影者の負担は減少すると考えられた.今後,本邦において,大腸CT検査における微小ポリープ読影の取扱についてコンセンサスが形成されることが望まれる.

キーワード 大腸 CT検査,微小ポリープ,陽性的中率,読影時間

1)亀田メディカルセンター 健康管理科 2)亀田メディカルセンター幕張 3)亀田メディカルセンター 画像診断室

連絡先:〒 296-8602千葉県鴨川市東町 929番地Tel:04-7092-2211

緒 言大腸3D-CT検査(以下,大腸CT検査)は本邦において着実に発展し広がってきており,任意型検診での役割も大いに期待されているが 1,2),さらなる普及のためには,読影法の標準化が重要である.読影法標準化の課題の一つに,5mm以下の微小ポリープをどう取り扱うかという問題がある.海外においては読影法の標準化がすすんでおり,そのなかで,5mm以下の微小ポリープは報告しないというのが放射線科医における主なコンセンサスとなっているが 3-6),本法では指針がないのが現状である.大腸CT検査の読影に際して微小ポリープの可能性がある隆起所見は頻繁に認められるので,読影法を習得する面からみてもこの取扱は非常に重要である.本研究は,大腸CT検査の読影標準化への一助

とするため,微小ポリープの診断精度(陽性的中率)を検討し,診断の際に参考となる因子について調査した.加えて,微小隆起所見に対する読影方針を変えた場合の読影時間について比較した.

対象・方法微小ポリープは一般的に5mm以下とされ,

6mm以上から中等度サイズと定義される 3).本研究では6mmに満たない病変を5mm以下の微小ポリープと設定した.微小ポリープの陽性的中率の検討および診断の参考となる因子の検討は,2013年6月~2015年12月,亀田クリニック健診センターの人間ドックで大腸CT検査を行い,その後2年未満に全大腸内視鏡検査(以下,大腸内視鏡)を施行した症例を対象にした.また比較のために行う6mm以上,10mm以上病変の陽性的

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中率の検討も,同期間の人間ドック大腸CT検査を対象にした.本研究は亀田総合病院臨床研究審査委員会の承認を得,個人情報保護を尊重して行った.撮影および読影方法大腸CT検査の前処置は,マグコロールP

100gにガストログラフイン90mLと水を加え1,800mLにした通常容量の前処置 7),もしくは低用量前処置 8)として前日に低残渣食を用い,前日の朝食後~15時までの間に等張マグコロールP溶液450mL+ガストログラフイン25mLを30分程度で飲用し,夕食後に高張マグコロールP溶液180mL+ガストログラフイン25mLを飲用する方法を用いた.通常量前処置の場合は午前中に洗腸剤を飲用し,飲用後は少なくとも1時間はあけ,排便回数や透明度を参考に撮影タイミングをはかり午後に撮影とした.低用量前処置は午前中に撮影とした.撮影法は64列マルチスライスCT Aquilion 64(キヤノンメディカルシステムズ,栃木)にて2体位を撮影した.体位は基本的に仰臥位と腹臥位とした.管電圧は120kV,管電流auto exposure control SD=30(スライス厚5.0mm),ガントリ回転速度0.5rot/sec,コリーメーション1.0mm,ピッチファクタ0.844(ヘリカルピッチ27.0)で撮像した.再構成はスライス厚1.0mm,間隔1.0mmとした.読影はワークステーションにAZE Virtual Place雷神(AZE,東京)を用い,最初に内視鏡類似像を順行性・逆行性に2体位観察し,次に,MPR(multi planar reconstruction),主にアキシャル像を用い大腸全体について2体位とも読影を行った.MPR像は基本的にウィンドウ幅600HU,ウィンドウレベル10HUに設定した.5mm以下の微小なポリープも両体位比較読影も含めて詳細に読影を行った.読影者は,本研究開始時に約1,000例の大腸内視鏡経験がある健診医1名で,実症例の大腸CT読影経験は50例程度の初級者であるが,この研究期間の初期において100例の大腸CTトレーニング症例を終えていた.アウトカムの算出大腸CT検査所見と大腸内視鏡所見のマッチン

グは,大きさ50%の誤差範囲で,基本的に領域が同じか隣接領域にあれば同一病変と判断したが,隣接領域であっても明らかに違う部位のものは非同一と判断した.大腸内視鏡をゴールドスタンダードとして,ポリープごとに対する大腸CT検査の陽性的中率を10mm以上,6mm以上,5mm以下に分けて算出した.また,5mm以下の微小ポリープについて,診断に参考とした因子における真陽性・偽陽性となった率や値の中央値を算出した.診断に参考とした因子には読影医が主観的に感じたポリープ存在の確信度(高い・中程度・低い),および確信度の細かい要素となると考えられるポリープの幅,高さ,両体位再現性の有無,立ち上がりが急峻かなだらかか,CT値濃度の印象(軟部陰影,低め,高め),CT値の均一性の印象(均一か不均一か)を用いた.診断に有用な因子を調べるため,単変量解析でこれらの因子を検定した.次に,これらの因子のどれが一番重要な要素であるかを調査するため,多変量解析で解析を行い,有意な因子についてROC曲線を用いてカットオフ値を検討した.読影時間の比較

2015年1月~12月の期間は,ポリープの可能性がある微小な隆起所見を確信度が低めのものも含めすべて詳細に読影した.2016年1月~12月の期間は,微小隆起所見についてはポリープ確信度の高い所見だけを拾い,確信度が低いものには詳細な読影はしない方針とした.この2つの期間について読影時間を比較した.なお,2016年2月後半からは通常容量の前処置はニフレックⓇ

にガストログラフインⓇ60mLと水を加えて全量2,000mLとした方法 9)への変更があり,3月からはブスコパン20mg筋注を追加する変更があった.比較する2期間の条件をできるだけあわせるため,前処置は通常容量の症例だけとし,描出不良の症例は除外した.統計解析連続変数に関しては正規分布でないものは中央

値で表記した.単変量解析には,Fisherの正確確率検定,Mann-Whitney U検定,χ 2検定を適宜使用し,3群以上の比較となる場合はBonferroni

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補正を用いた.多変量解析は,症例数が少なく通常のロジスティック解析では検討できなかったため,因子をすべて標準化数値に変換し,Firth法を使用したロジスティック回帰分析を使用して検討した.カットオフ値の検討にはROC曲線を用いた.統計解析はEZR ver1.27(自治医科大学附属埼玉医療センター,埼玉)もしくは JMPⓇ 11(SAS Institute Inc., USA)を使用して行った.

結 果対象期間の検査数は総計243件であり,微小ポリープのない192症例と2年未満の内視鏡未施行19症例を除外し,合計32症例50病変の微小ポリープが検討対象となった.内視鏡検査を行った時期は中央値2ヵ月後,四分位点1,10ヵ月後で

あった.大腸CT検査におけるポリープごとの陽性的中率は5mm以下で28.0%(14/50),6mm以上で62.5%(15/24),10mm以上で100%(7/7)であり,有意に5mm以下で低かった(図1).微小ポリープの診断に参考となる因子の検討(表1)では,まず,読影医の確信度は有意な因子であり,特に確信度が低い場合は95.0%(19/20)が偽陽性であった.また,各因子のなかでは,高さ(p=0.01),CT値均一性の印象(p=0.047)が有意な因子であった.どの因子が重要かを検討するためのFirth法を使用したロジスティック回帰分析結果は,高さが一番重要かつ唯一の有意な因子として抽出された(表2).ROC曲線からもとめた高さのカットオフ値は1.5mmであった(感度64.3%,特異75.0%,AUC0.73)(図2).

表1 診断確信度および参考とした因子における真陽性・偽陽性真陽性 偽陽性

確信度  高 35.3%( 6/17) 64.7%(11/17) p=0.0048(Fisherの正確確率検定)中 53.8%( 7/13) 46.2%( 6/13)低 5.0%( 1/20) 95.0%(19/20)

真陽性 偽陽性幅 (mm)中央値 4.2 3.8 p=0.14(Mann-Whitney U検定)高さ(mm)中央値 1.6 1.1 p=0.011(Mann-Whitney U検定)両体位での再現性確認  両体位あり 36.4%( 8/22) 63.6%(14/22) p=0.24(χ 2検定)            片体位のみ 21.4%( 6/28) 78.6%(22/28)立ち上がり       急峻 28.1%( 9/32) 71.9%(23/32) p=0.98(χ 2検定)            なだらか 27.8%( 5/18) 72.2%(13/18)CT値濃度の印象     軟部陰影 38.7%(12/31) 61.3%(19/31) p=0.064 (Fisherの正確確率検定)

低め 11.1%( 2/18) 88.9%(16/18)高め 0%( 0/ 1) 100%( 1/ 1)

CT値均一性の印象 均一 34.1%(14/41) 65.9%(27/41) p=0.047(Fisherの正確確率検定)不均一 0%( 0/ 9) 100%( 9/ 9)

図1 陽性的中率:ポリープごとにおけるサイズ別有意差検定はFisherの正確確率検定,Bonferroni補正による.

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読影時間の比較では,確信度が低めのものも含めすべて詳細に読影した場合は中央値18分(n=55例,四分位点13,22.5,最小値9,最大値50分),確信度の高い所見だけを拾った場合は中央値14分(n=49例,四分位点12, 18,最小値8,最大値30分)であり,有意に確信度を高いものだけを拾った読影法の方が短かった(p=0.02,Mann-Whitney U検定).

考 察大腸CT検査で指摘した微小ポリープの陽性的中率は28.0%であり,6mmおよび10mm以上の病変とくらべ有意に低く,微小ポリープの同定は難しかった.また,ポリープの可能性が否定出来ない程度の確信度が低い所見の場合は,ほとんどが偽陽性であった.診断の手掛かりとなる因子については,多変量解析において高さが唯一重要で有意な因子と考えられた.算出した高さのカットオフ値は中等度の診断精度であるが1.5mmとなり,ある程度の高さがある病変を拾うことで陽性的中率を高めることができると考えられた.大腸CT検査の診断精度の検討は6mm以上の病変をターゲットにしていることが多いため,微

小病変の診断精度の報告は少ない.また,陽性的中率は有病率で大きく変わるため,既存の研究と単純に比較するのは難しいと考えられる.感度特異度については,2005年に行われた大腸CT検査診断精度のメタアナリシスにおいて患者ごとの微小病変の感度は48%,特異度91%と報告されており 10),近年の手法を用いた報告では,ポリープごとの微小腺腫における感度は59.2%と報告されている 11).微小病変のポリープごとの陽性的中率については,近年の本邦における検診対象の検討があり54.7%と報告されている 12).本研究の値はこれより低かったが,その要因としては既報の読影者は経験が豊富なためと考える 13).本研究では,読影者は初級者で確信度の低めのものまで広めに拾っており,読影がさらに成熟すると徐々に拾わなくなり陽性的中率が高まることが推測される.今回の検討から,高さを目安にしながら確信度の高いものを拾いあげ,陽性適中率を高めることが読影レベルアップの近道のように思われる.今回,一つの目安として算出された1.5mmという高さが数値として利用できるかという点であるが,微小ポリープの陽性的中率の検討とは視点は異なるが,2006年に表面型腫瘍の検討において1mm以

図2 ROC曲線による高さのカットオフ値の検討カットオフ値:高さ1.5mm(感度64.3%,特異度75.0%,AUC0.73)

表2 ロジスティック回帰分析結果(Firth法による)標準化

偏回帰係数 標準誤差 p値

幅 0.049 0.400 1.000高さ 0.751 0.494 0.043体位(再現性あり) 0.089 0.365 1.000立ち上がり(急峻) -0.241 0.380 0.523CT値濃度(高い) -0.251 0.350 0.217CT値濃度(低い) -0.265 0.428 0.610CT値均一性(不均一) -0.700 0.569 0.073

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下では同定困難で2mm以上だと同定率が高まることが報告されている 14).その後の大腸CT検査技術の発展によりさらに同定能力は高まっているとされており,2mm以下の病変でもある程度描出ができることも報告されている 15,16).これらのことからも,この1.5mmという値は利用できると考えられ,我々の読影中の実感としても高さが1.5mmある所見は,ある程度の高さがあることを感じる微小隆起所見である.大腸CT検査の読影だけでなく大腸内視鏡にお

いても微小ポリープをどう取り扱うかは議論がある.腺腫は微小ポリープも含め,サイズにかかわらず全切除することにより大腸がん死亡が減少することがエビデンスベースで示されており 17),欧米ではこれをもとに大腸内視鏡でポリープが発見された際は,基本的にサイズにかかわらず全切除が行われるのが通常である 18).本邦においても全切除を推奨する意見があり,近年普及してきたコールドポリペクトミーもこの考えを後押ししている 19).一方,本邦の大腸ポリープ診療ガイドラインでは,悪性のリスクや効率性を加味して経過観察が許容,提案されている 20).大腸CT検査の読影方法については,本邦においてコンセンサスやガイドラインは整備されておらず,微小ポリープについて一定の方針もないのが現状である.米国では内視鏡においては前述のごとく微小ポリープ全切除が通常であるが,大腸CT読影においては微小ポリープは報告しない方が良いというのが放射線科医において主流の考えであり,その理由として微小病変には重要な病変が極めて少なく,その後の経過観察においてもリスクは少ないこと,微小病変の診断精度が低く不適切な内視鏡施行につながりうること,また,大腸内視鏡においても診断精度が低いこと,コストの増大や内視鏡に回された際の合併症リスクがあることがあげられている 3-6).このように,海外においては微小ポリープの読影について消極的な方針であり,この方針の妥当性を確認した追跡調査研究も報告されている 21,22).なお,この方針は,結果negativeのものは定期的な検診を受けることが前提となっていることを明記しておく.微小病変の担がん率

についての既報では,切除され病理検査を確認した微小ポリープのなかでhigh grade dysplasiaとcancerはともに0.03%と報告されており,内視鏡を施行された人数全体における割合にするとそれぞれ0.007%となり,極めて少ないものと考えられる 23).本邦のハイリスク者対象の報告においても,切除された微小ポリープのうち深達度Mのがんは0.46%に認められたが,SM以深のがんは0%であった 24).また,微小ポリープは急速には成長しないことが海外・本邦から報告されている 25-27).一方で,稀ではあるが微小な病変において悪性症例があることも認知されており,その特徴も検討されている 28).このような背景があるなか,本邦において大腸CT検査における微小病変の取扱についてコンセンサスを形成しておくことは重要と考えられる.読影の時間は,確信度の高いものだけにしぼっ

て微小隆起所見の詳細読影を行うことで時間の短縮がみられ,大腸CT読影の効率化に寄与すると考えられる.また,実際の感想としても全微小所見を詳細に読影することはかなりストレスであり,確信度の高いものだけを拾えばよい方針や,微小ポリープは報告しなくてよいという方針であれば大きく読影者の負担を減らすであろう.大腸CT検査の病変発見能は高く,受診者増加の可能性を秘めており 29),本邦の大腸がん死亡減少の一翼を担うことが期待される.検診として広く流布するために,高精度かつ効率的な大腸CT検査の読影法におけるコンセンサスが形成されることが望まれる.今研究の限界としては,一般的にレビューされ

ているように微小ポリープに対して大腸内視鏡検査の診断精度がそれほど高くないことがあるが 30),昨今の大腸ポリープへの診療方針は大腸内視鏡からのエビデンスによって主に構成されているという意味で大腸内視鏡を標準として検討する意義はあると考える.第二に,この検討は微小ポリープの精査目的で行った内視鏡を標準としたのではなく,他に大きな病変があるものやその後の経過観察などの理由で受けた内視鏡を標準としており,バイアスが生じる可能性がある.第三に,読影者

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が初級レベルであるという点であるが,本研究読影者の読影トレーニング成績は患者ごと6mm以上病変の感度96.0%,特異度100%であり,一定レベルに達していたと考えられる.また,初級読影者であるがゆえに迷いやすい,どこまで微小病変を拾うのかの判断の一助を提供できたと考えている.その他の限界として,確信度の高いものだけに詳細な読影をした場合の微小ポリープへの陽性的中率が検討できなかったことがあり,その理由は,微小ポリープ症例でのその後の内視鏡施行例がほとんどないため検討できなかったことによる.このように限界はあるが,本邦における大腸CT検査の標準化は大きな課題の一つであり,微小ポリープ読影についての詳細を調査できた本検討は貴重と考えここに報告した.今後,大腸CT読影法のコンセンサスが形成され,標準化が進むことが期待される.

結 語大腸CT検査において,微小ポリープの可能性

がある微小所見を詳細に読影したが陽性的中率は低かった.微小ポリープ診断には高さが参考になることが示唆された.微小所見を読影する際は,確信度の高いものだけを拾うことで読影者の負担は減少すると考えられた.今後,本邦において,大腸CT検査における微小ポリープ読影の取扱についてコンセンサスが形成されることが望まれる.

利益相反本研究に関する利益相反なし.

文 献1) 永田浩一,高林 健,安田貴明ほか:大腸がん検診におけ

る大腸CTの位置づけ.総合健診 2016;43:464-470.2) 飯沼 元:ここまで変わった 実地診療の食道がん・胃がん・大腸がん 各論 もう注腸はいらない?CTコロノグラフィーは大腸検査の切り礼か-大腸画像診断におけるCTコロノグラフィーのインパクト.診断と治療 2015;103:235-239.

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21) Kim DH, Pooler BD, Weiss JM, et al: Five year colorectal cancer outcomes in a large negative CT colonography

Page 7: 大腸 CT 検査における 微小ポリープの陽性的中率, …人間ドック Vol.33 No.1 2018 年 43 ( 43 ) 原 著 人間ドック33:43-49,2018 大腸CT 検査における

人間ドック Vol.33 No.1 2018年 49 ( 49 )

Diminutive Polyps on Computed Tomographic Colonography - An Investigation of Positive Predictive Value and Interpretation Method

Kenichiro Majima1), Takeshi Shimamoto2), Taichi Tajima3), Yosuke Muraki1)

1) Department of health management, Kameda Medical Center2) Kameda Medical Center Makuhari3) Diagnostic imaging room, Kameda Medical Center

AbstractObjective: �e optimal method of interpreting diminutive polyps ( ≤ 5 mm) on standard-ized computed tomographic (CT) colonography in Japan has not been determined. To help standardize interpretation, for diminutive polyps, we investigated the diagnostic accuracy of CT colonography as well as factors aiding diagnosis and policies for interpreting �nd-ings.Methods: We used total colonoscopy as a reference standard, and calculated positive predictive values (PPVs) for 50 diminutive polyps ≤ 5 mm detected by CT colonography. Additionally, we compared these PPVs with those of polyps ≥ 6 mm. We used multivariate analysis to investigate factors aiding the diagnosis of diminutive polyps. We also compared the time required to meticulously interpret all diminutive �ndings with the time taken to meticulously interpret high-con�dence �ndings only.Results: �e per-polyp PPV was 100% (7/7) for polyps ≥ 10 mm, 62.5% (15/24) for polyps ≥ 6 mm, and 28% (14/50) for polyps ≤ 5 mm. �e PPV was signi�cantly lower for dimin-utive polyps. Height was a signi�cant factor aiding diagnosis for diminutive polyps (cuto�: 1.5 mm). �e median interpretation time when all diminutive �ndings were meticulously interpreted was 18 minutes and 14 minutes when only �ndings considered to be high-con-�dence were meticulously interpreted (p=0.02). Conclusions: �e PPV for diminutive polyps was low. We determined that height helps in diagnosing diminutive polyps. Meticulously interpreting only high-con�dence diminutive �ndings may decrease the burden on CT readers. In Japan, a consensus for the interpreta-tion of diminutive polyps on CT colonography will hopefully be reached.

Keywords: computed tomographic colonography, diminutive polyp, positive predictive value, interpretation time

screening cohort. Eur Radiol 2012; 22: 1488-1494.22) Pickhardt PJ, Pooler BD, Mbah I, et al: Colorectal

Findings at Repeat CT Colonography Screening after Initial CT Colonography Screening Negative for Polyps Larger than 5 mm. Radiology 2017; 282: 139-148.

23) Lieberman D, Moravec M, Holub J, et al: Polyp size and advanced histolog y in pat ients undergoing colonoscopy screening: implications for CT colonography. Gastroenterology 2008; 135: 1100-1105.

24) S a k a m o t o T, M a t s u d a T, N a k a j i m a T, e t a l : Clinicopathological features of colorectal polyps: evaluation of the 'predict, resect and discard' strategies. Colorectal Dis 2013; 15: e295-300.

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26) 樋渡信夫:大腸がん集検で発見されたポリープの取り扱

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28) 斉藤裕輔,岩下明徳,工藤進英ほか:大腸癌研究会「微小大腸病変の取り扱い」プロジェクト研究班結果報告 5mm以下の大腸微小病変の内視鏡治療指針.胃と腸 2009;44:1047-1051.

29) Stoop EM, de Haan MC, de Wijkerslooth TR, et al: Participation and yield of colonoscopy versus non-cathartic CT colonography in population-based screening for colorectal cancer: a randomised controlled trial. Lancet Oncol 2012; 13: 55-64.

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(論文受付日:2017.12.28 論文採択日:2018.3.15)